読切小説
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年明けですね
はい!ということで始まりますよ!

“ライン年始福男・福女レース”!

ルールは簡単!
スタート地点であるここ、ヤバザ通り外周付近から真っ直ぐ走り、中央左右の道どちらかを抜けてハラバ通り外周付近まで行き、そこから外周を走って西、ツイア通りへ。さらにそこから真っ直ぐ進み、ゴール、アダマ通り外周付近まで、そのコースを参加者全員で走って競い、真っ先にゴールした方が優勝です!
優勝した方にはなんと!ライン領主テベルナイト家から、ある程度のお願いなら一つだけ叶えてもらえる権利が贈与されます!!
微妙な感じに聞こえますが、叶えてくださるのは異世界貿易街の領主!かなり期待出来ますね!
ちなみに、コースの一部には障害があり、簡単にはゴールできないようになっています!
参加者は全員この街の住民です!
いったい誰が優勝するのでしょうか!!
あ、申し遅れました。わたくし、今回司会を務めさせていただきます、烏天狗の凍丸 文々でございます!
そして解説には喫茶店“アーネンエルベ”の従業員、星村 空理さんを及びいたしました!

「どうも、星村です。みなさんよろしくお願いします。」

さてさて星村さん、今回のレースには街の住民の大半が参加されているらしいですが、有力なところはどなたでしょうか?

「そうですね、やはり、自警団のデューナ・ダランさんでしょうか?レースと言えば、体力勝負ですからね。
しかも今回は妨害あり……やはり、実力者が有利でしょう。」

なるほど!
実力者というと、魔術学担当のアーシェ・ミラー先生も有力ですね。

「ですね。個人的にはナイトフィア家の方も参加してくださったら面白いと思いましたが、どうやら却下されたようですね。」

ほうほう、それは残念ですね……っと、そろそろスタート時間になりますね。
スターターの方丈さーん!どうですか〜?

『……ほらほら、呼ばれたからおとなしくしてて……はい!こちらスタート地点!やっぱり優勝商品がいいためか、すごい熱気に包まれています!というかなんかみんな暴れ馬みたいで怖いです!!』

それはご愁傷様です。
というか、最初の方の会話は何だったんでしょうか?

「たぶん、嫁さんたちと話してたんだろうね。あの子達もたしか結婚式をあげるために参加するらしいよ」

なるほど羨ましいですね!
爆ぜろと言わせてください!!
なんですか嫁さん五人って!
ハーレムですかこの野郎!

「はいはい。私情はそこらへんにして、進行してください」

……失礼しました。
ちなみに今回は私がパーソナリティーを勤めさせてもらっているフミフミ☆ラジオなどの協力を得て、特設の解説室を設けさせていただいてます。
レースの状況もカメラで送ってもらってますので、放送はすべてここから行わせてもらいますよ〜!
……さて、レース開始1分前となりました!みなさん、準備は出来ましたか〜?

「レース開始合図は方丈君の空砲によって行います。じゃあ方丈君、頼んだよ」

『わかりました!それではいきますよ〜!

位置について〜

よーい……


スタート!!』

パァン!!

『いぃぃぃやっっっほぉぉぉぉぉお!!』

さぁ始まりました!!
って早速自警団のデューナ・ダランさんが飛ばしました!
しかもなんですかあの速度!?
あの人大人げないですね!?

「あー、あれでも制限はしてるんですよねー。たしか二割に抑えてもらってるんですよ」

あれで、二割……?
いやいや、それはないでしょう?
約束破ってるんじゃないですか?

「いや、それはないよ」

なぜですか?

「三割以上出したら弟君の親権なくなっちゃうから」

………………
あー、はい。
あれは二割であるとしか言えません。
ちなみに姉弟なのに親権うんぬんはスルーの方向で。
……さて、続いて現在デューナさんを追う二位は……ん?
あれはなんでしょう……?
狐?
星村さん、あれはいったいなんでしょうか?

「あれは……ああ、美核ですね」

なんと!二位はアーネンエルベ店員、稲荷の美核さん!

「たぶん、変化系統の魔術で走りやすくて自分と相性のいい狐の形になったんでしょうね」

なるほどなるほど。
たしかに早いし疲れにくそうですね〜。
というか、彼女は優勝したらどんな願いをするんでしょうね?

「さぁ……まぁ、大方珍しい人形とかそういうのじゃないですか?」

いや、意外に好きな人とデートしたいとかじゃないですか?

「……いや、ないわ〜」

『あんたたち!なに勝手にいろいろ言ってるのよ!?』

おお、怖い怖い。
あ、ちなみに今は一月一日。
クッキーの前の時系列なんで、二人は“まだ”ですよ〜!

「ん?わけがわからないんですけど……?」

あ、気にしないでください。
メタ発言が許されるのは、舞台裏と私だけ☆

「\うぜぇ丸/」

おいばかやめろ。
いや本当にやめてくださいよ。
たしかに高校の時には新聞部でしたけど、某東方キャラと違いますから!

「新聞部ってことは、カメラは?」

持ってますけど?

「富竹フラァァッシュ!!」

くらえおんみょうだん!!

「うおっ!まぶしっ!?」

……ふざけてないで仕事仕事……
おっと、デューナさんさっそく中央の分岐点にたどり着きましたね。
話では左右で違う障害があるそうですが……
おや、どうやら看板があるようですね。
左は魔術師、右は戦士向け。と書いてありますが……

『なら、私は右よっ!!』

デューナさん、指示に従って右の道を選びます。

「あ、ちなみにその看板書いて設置したのは僕です」

え?なんでそんなこt……

『ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ!?』

っと、デューナさんに何かあったようですね。
えーっと……これは……
なんて言えばいいんでしょうね?
とりあえず事実だけ言うなら……
なにか大きな魔術陣の上でデューナさんが地に伏せってる、と言った感じでしょうか?
これはいったいなんなんですか、星村さん?

「右の道の障害は“重力の魔術陣”。力だけじゃ通り抜けられない“魔術師有利の”障害です」

……え?ちょっと待ってください?たしか看板には……

「看板を書いて設置した、としか言ってませんよ?あ、あとこの放送はデューナさんの悲鳴のあたりから選手たちに聞こえないように細工しました〜」

うわぁ……
最初の障害が看板だって、誰が分かるでしょうね……?
さてさて、他の選手たちは……?

『あー!!なにこれもうっ!!』
『へべゃっ!?』
『魔術が使えないだとっ!?』

あー、やはり重力の魔術陣にかかった人たちはみんな動けなくなってますね……
そして左の道の障害は……?
なんか、みなさん移動が遅くなってますね……?

「左の道の障害は、“減速と魔封じの魔術陣”。魔力を操れなくし、さらに移動速度を遅くさせる戦士有利の障害です。足が速く、体力のある戦士なら少し遅くなる程度で済むでしょうが、魔術強化に頼ってる魔術師だと……ああなります」

……ああー、なるほど、みなさん体力なくなって倒れちゃってますね……
これはまた初っ端からかなりキツイ障害ですね……
ゴールできる人っているんですか?

「まぁ、看板を信じちゃったことが問題だから、看板を疑う人がいればなんとかなると思います。あ、ちなみにこの障害に使った魔術陣は、ミラーサバトの協力で作製・設置しました」

ミラーサバトのみなさん、ありがとうございました!

「っと、文々さん文々さん、どうやら障害を突破する人がでそうですよ」

なんですと!?
どれどれ〜?

『空理が書いたって時点で、引っ掛けだってのはわかってるのよぉぉぉ!!』

おおっとぉ!
障害をものともせずに進むのは美核さんだぁ!!
選んだのは右の道、つまり重力の陣ですね。自分の足元になにか魔術陣を浮かべながら重力の中を走り抜けます!!

「あー、あれは平面系魔術陣の弱点を突いた攻略法ですね。立体ものと違ってあのタイプは、陣の上しか効果がないので、他の魔術陣の上に乗って移動すればああやって効果を受けないわけです」

ほうほうなるほど、それであれは魔術師向けの障害なんですね。
そしてそんな会話をしているうちに美核さん、第一障害突破です!
狐の姿のまま、北、ハラバ通りを走ります!

「第二障害までトップで走るのは美核で確定のようですね。とりあえず、第二障害もかなり時間がかかるようになってるんで、今は第一障害の方を見ましょう」

なんだかよくわかりませんが、了解しました!

『こんなもの、わしが木っ端微塵に吹き飛ばしてくれるわぁっ!!』

カッシャァァァァァァン!!

な、なんですか今の音!?
どうやら右の道で鳴ったみたいですけど……
ってあぁ!?
魔術陣が綺麗さっぱりなくなってます!!

『ふはははは!見たかわしの力!!』
『はいはい、いいからさっさと先行くわよ!』

どうやらアーシェさんが壊したようですね……
現在勝ち誇ってるところを同居人のフィスさんに引っ張られて先に進んでいます。
ちなみにあれっていいんですか?

「ん?障害を壊していいのかってことですか?」

はい。

「うん、大丈夫だよ。そもそも今回の障害は、順位を分からなくするためのものだからね。壊してもなんのペナルティもないよ。最初のうちに壊されれば後半の人たちの消耗を抑えられるし、後半破壊されても、それまで前半の人たちは消耗を強いられる……ね?問題はないでしょう?」

なるほど、そういうことでしたか。
さて、もう全員が第一障害地点にやってきたようですね。
もう選手たちにも聞こえるようにしてのいいんじゃないですか?

「あ、うんそうだね。はいはいちょっと待っててね……よし、おっけーだよ」

はいありがとうございます!
さてさて、全員が第一障害地点に到着し、四苦八苦しながら……えー、先ほどハプニングも起こしながら……進んでるわけですが、なんとか先に進めている人も出ています!
左の道は……ああ、やはり看板に騙されて潰されちゃった人たちがたくさんいますね……
まぁそれは右の道でも同じでしたが……
ここで目立つ人は……

『オラオラオラオラ〜!!』
『はぁ、あまりペースを上げすぎて息切れにならんようにしろよ……』
『うるせぇっ!オレ一番になるんだっ!』

ふむ、あれは方丈さんのお嫁さんの木嶋さんと江村さんですね。
他のお嫁さんがたはどこにいったんでしょうか?
それに、なにやら口論しているようにも見えますが……

「どうやら、彼女たち内で式の順番を争ってるみたいだね……あと、一応言っておくと口論とはちょっと違うと思う」

そうですか。
……しかし、なんて意味のないことを……
誰が最初になったっていいじゃないですか……

「いやいや、彼女たちにとっては結構重要なことなんだよ、きっと」

それは恋してる人たちの贅沢ってもんですよ〜。
まったく、羨ましい限りです。
あ、そういえば他のお三方は……
ああ、いましたいました。右の道を通ってますね。

「おそらく、看板の細工に気づいて、体力のあるあっちの二人が左に、ない三人が右にと別れたんでしょう」

なるほど。
さてさて、そうこうしてるうちに大半が第一障害地点を突破しましたね!
トップは美核さんだからいいとして……
その後方には……
おおっと!彼らがいたか!
真っ先に第一障害を突破した美核さんを追っているのは、ライン唯一の“飛べる魔術師”!
後始末のジークこと、ジル・クードさん!

『……あまりその二つ名は好かないのだが……』

ギルド内では知らない人はいない彼ですが、今日も絶好調で飛行しています!
まぁ低空飛行なんですが。
そしてそんな彼の背中には、恐怖劇薬剤店の“薬の魔女”、リース・グランギニョルさんが乗ってます!

「最近はあの二人が組んでよく薬を作ってるらしいですね。さっきの方丈君の嫁の中月さんがバイトに入って、収入もよくなったそうですよ」

やはり開店している日が少ないという問題をなんとかすれば、人気なお店なんですねあそこは。
ちなみにルールに協力禁止なんて書いてないし飛んじゃダメなんて言ってないんで、別にあれはルール違反じゃないです。
さてさて〜、そんな二人に続く三番目の……あれ?四番目かな……?まぁいいや。続いては〜?
ああ、やはり先ほど魔術陣を破ったアーシェs……

『てぇぇえりゃぁぁぁぁあ!!“電・光・石・火”ぁぁあ!!』

……さんたちかと思いきや、第一障害地点で潰されていたデューナさんが復活して一気に追い抜いていきました!
本当に大人げないですねあの人!?

「ちなみにさっき使った技は低級スキルの“電光石火”。移動力に特化した技なんだけど、やっぱりそこは攻撃技。触れたら弾かれちゃいます」

……それを考えると、ぶつからなかったアーシェさんたちは幸運ですね。
さてさて現在の全力でハラバ通りを疾走するデューナさん!
そんな彼女に追われるという惨事に見舞われている前三人はというと……?
おっと、現在は外周を走って西のツイア通りに向かってますね。
ってあれ?走ってるのが三人だけじゃない……?

「第二障害は追いかけっこ!外周に入った人は、孤児院の子供たちと強制的に追いかけっこをしなくてはなりません!」

どういうことでしょう?

「彼らを全員捕まえないと、ツイア通りに行けないんですよ。手前の道がループしてて」

え……?
いやいや、たしかライン孤児院の子供たちって、かなーり足速いですよね?

「まぁ、大人より速いくらいですけどね」

十分速いです!
なんていうか、また厄介な障害が来ましたね……

「まぁ最後に比べたらまだましだけどね」

最後、というと三番目ですね。
なんというか、怖くなってきました……
それはともかく、そんな第二障害地点の様子はどうなっているでしょう!?
到着したのは、美核さんにジルさんとリースさんの三人だけ。
対して孤児院側は10人とまだ余裕がありますね。

「まだ誰も捕まってないということですね。ちなみに捕まえるといってもタッチで十分だということを追記しておきますよ」

まぁ、あの子たち相手に完全捕縛って難しいですからね。

『おーにさーんこーちら、てーのなーるほーおへ!』
『待ち……なさいこらー!』
『……っ!!』
『キャ〜!捕まっちゃうぅ!』

……はい、こんな感じです。
子供たち、無邪気に逃げ回ってますね……
そして大人である三人は子どもたちを全く捕まえられないと。

「仕方が無いですよ。あそこの孤児院の教育方針はやりたいことを精一杯伸ばす。それでたくさんの優秀な人材を生み出してますから。そして今回の子供たちはみんな走るのが好きだから……難しそうですね。まぁ、ジルさんも孤児院の一人ではあるんですけど」

まぁともかく、選手の皆さん、頑張ってくださいね〜。

『そぉおりゃぁぁぁあ!!』
『うきゃー!?』
『っしゃ一人捕獲!』

おっと、なんと到着したデューナさんが奇襲によって一人捕獲!
いやはやこれはすごいと賞賛すべきか汚いと罵るべきか迷いますね。

「そうですね〜」

『ちょっと待ちなさい!なんであなたたち私に対しては言葉がキツイの!?』

えー、なんといいますか……

「大人げなく映るから、かな?」

そうですね。

『大人げなっ……!?まぁ、確かに否定しないけど……』

それはともかく、レースはいいんですかデューナさん?

『あ、マズいわね……!!』

はい、ということでデューナさんお話は終了にして作業再開です!
といっても、さっきのは奇襲が成功しただけで、今後もまた難しそうではありますが。
星村さん、なにかヒントかなにかはないですか?

「ないです!正直僕だったらここで諦めます!」

いやそれ駄目じゃないですか……

「それでも、待ってれば障害排除の参加者が増えるわけですから、最終的にはクリアできるでしょう?」

まぁたしかにそりゃそうなんですけど……

『ああもう焦れったいわね!ジル、あれいくわよ!!』
『……了解した』

おっと、どうやらジルさんペアがなにかするようですね……
リースさんがなにやら小瓶を取り出しましたが……

『拡散っ!“ドンムブエリア”展開!!』
『ふにゃっ!?』
『うわわっ!』
『きゃっ!?』

おおっと、いったいなにが起きたんでしょうか!?
リースさんがなにかを蒔いて言うと、突然孤児院の子供たちが何人か転んだりその場から動けなくなったりしています!

「あー、これは移動封印魔術を薬品にして蒔いたんですね。リースさん、魔術を薬品化することができますから」

なんか恐ろしい技術ですねそれ。
ようは作っておけば魔力を消費せずに魔術が使えるわけですから。
そして、現在の状態ですが……
参加者はだんだんと追いついてきて20人、対して孤児院側は残り2人……
結構追い詰めてこれてますね。

『おい、取り囲め!』
『おうよ!』
『わっ!わっ!?わぁっ!!』
『……“風舞・跳”!』
『ふわぁあっ!?』

そしてついに残りの2人も捕まってしまったぁ!
一人は正攻法の複数の人と協力して。
もう一人は、ジルさんが器用に風魔術で打ち上げて捕まえられてしまいましたね。
そんなわけで、孤児院側が全員いなくなってしまいましたので、ループが解除されて道が開かれます!!

『じゃ、悪いけど……邪魔させてもらうわっ!“ドンムブエリヤ”拡散!!二本追加よっ!』
『おわっ!?』
『動けねぇ!』
『もう、やだぁっ!!』

おおっと!みなさんが走り出そうとしたのを、リースさん、先ほどたくさんの孤児院の子供たちを捕まえたあの薬品を三本ばら撒いて足止めをします!

『よしっ!ジル、いくわよ!』
『……わかった』
『そんな足止め、くぅらぁうぅかぁぁぁあ!!』
『私も、負けられないわっ!』
『こんなもの、効くわけがないわぁっ!』
『あこらアーシェ!先がなんだかわからないんだら暴走し過ぎないで!!』

しかし、デューナさんに美核さん、アーシェ先生の三人は妨害を掻い潜って二人を追います!

『一位は譲らない……“パワースラッシュ”!!』
『……っ!!』

そしてデューナさん、足止めのために斬撃を飛ばします!
相変わらず無茶苦茶な人ですね!

「今のは低級スキル斬撃、強化型の“パワースラッシュですね。威力強化をし、遠距離攻撃が出来る技です。流石に威力は調整されていますけど、当たりたくはないですね」

まったくです!

『それじゃ、お先にっ!』
『私も負けられないわね……』
『わしが優勝するのじゃあっ!』

っとと、ジルさんがパワースラッシュによって態勢を崩したところを、デューナさんたち三人が追い抜きました!
そろそろ第三障害地点となる左右の分かれ道に再び到着しますが……

「今度も看板を設置しました。ちなみに取り付けは第二障害で時間を稼いでる間にやってもらいました」

協力してくださった方、ありがとうございました。
で、件の看板の内容はというと……
右には……修羅。
左には……チート、と書いてありますね。
……なんですか、これは?

「なにって、第三障害のことを指してるんですよ?」

いやいや、おかしいですよ。
なんでチートと修羅なんですか……?

「まぁ、たぶんすぐわかるかと」

『チートに修羅……?とりあえず、修羅に行ってみますか……』
『なんか嫌な予感がするわね……』

早速分岐点に到着したデューナさんと美核さん!
デューナさんは右に、美核さんは左に行きます。
いったい第三障害はなんなんでしょうか……!?

「どっちから見ます?」

おすすめは?

「うーん、どっちも怖いけど、どっちかっていうとチートの方がそんなに怖くない……と、思います」

じゃあそっちで。
カメラさん、おねがいしま〜す。
……はい、映像来ましたね。
えーっと、左の第三障害はと……
げっ!?
……あの、星村さん、これ、優勝者でないんじゃないですか……?

「そうですねぇ……まぁ、それは右の障害も見てから言え、という突っ込みは、右も同じかそれ以上の難度だからしないとしましょう」

『……あっ……あれって……』
『あっ!美核ちゃんだぁ!狐だ!可愛い♪』
『……もしかして、第三障害って……』
『うん!私だよ!』
『……勘弁してくださいよ……神奈さん』

……はい、第三障害左は、テベルナイト夫人、鶴城・T・神奈さんです。

『神奈さんには悪いけど、通らせてもらうわよ……!』
『そんなことより美核ちゃん』
『はい?』
『その毛並み気持ち良さそうね。撫でさせて!』
『え?』
『はい捕獲!』
『わっ!?神奈さん?』
『わぁ、サラサラしてるぅ!』
『うひゃっ!?神奈さんやめっ!』

ああー、なんというか、これって動物がノイローゼになりそうな可愛がり方ですね……

「神奈さん、ライカさんの次に可愛いもの……とか女の子が好きなんですよね」

そうなんですか……

「しかも、神奈さん、魔法の代償で欲望が我慢しにくくなってるんですよね……」

要するに?

「神奈さんの心ゆくまで可愛がられます」

……南無三。

「南無三。まぁ、命の心配はないんで、大丈夫でしょう」

……さて、第三障害左は確認しましたので、美核さんには悪いですが、そして気乗りしませんが、右も確認してみましょう……

「ま、神奈さんが単独行動してる時点で予想は簡単ですけどね」

あ、映像来ましたね〜。
映ってるのは……やっぱり、ライカさんですね。
でも、なんで彼なんですか?
どうせだったらデューナさんとかに協力してもらった方が難しくなったのでは?

「いや、そのデューナさん、こっちに来てるでしょ?」

そういえば……
って、デューナさん、どこにいるんですか?
デューナさ〜ん?

『ああ、彼女ならそこで寝てもらってるよ』

……え?

『…………』

うわっ!?うわわっ!!
な、なにがあったんですかいったい!?
デューナさんが無茶しやがった人みたいに倒れています!

「ヤムチャしやがって……!!」

『流石に今回は神奈に負けられないからね。本気を出させてもらったよ……』

??神奈さんに負けられない?
どういうことでしょう?

「あー、ライカね、神奈さんとある賭けをしてるんだ」

賭け、ですか?

「うん。どっちが先に障害を突破させちゃうかをね」

賭けているから負けられない、と?
そうすると、あんな本気になるほどのものって一体……

「うーん、簡単にいうと、旅行するか家にいるかだね。そろそろ一週間の長い休みを取るらしいんだけど、その間屋敷にいるか旅行に行くかを勝った方が決められるんだって。もちろんライカは旅行の方ね」

いや、そんなことであんな本気になるなんて……

「ヒント1、神奈さんは欲望に逆らいずらいです。ヒント2、神奈さんはライカのことが一番好きです。ヒント3、あの人はいろいろと魔物並かそれ以上です」

……あ、もういいです。わかりましたから。
そうですね、流石に一週間連続はキツイですね。
しかも神奈さんライカさんを逃がすとは思えませんし……
これはどう反応すればいいんでしょう?
同情すればいいんですか?
それともてめぇこの幸せ者め!と逆上すべきですか?

「とりあえず個人的には腎虚の恐れもあるんで同情に一票を」

ああ、神奈さん魔物じゃないからインキュバスにもなれませんしね。

『とりあえず、今は放って置いて欲しいかな……?』

了解しました。
本人の希望でほっておくとして、神奈さんの方の様子でも見に行きましょう〜。

『あ〜、アーシェちゃんモフモフしてて気持ちいい〜』
『あ……うぁ……』

ああ……また犠牲者が……
アーシェさん、美核さんと同じように神奈さんに可愛がられています……
美核さんはと言いますと……

『もう、無理……』

あー、グロッキー状態ですね……
復活できるといいのですが……

『っとぉ、ようやくここまでこれたよ……』

おや、誰か新しく到着……
いやいやいやいや、なんですかあのバネ男!?

「あ、ラキだ」

あれが雑貨屋の店主ですか!?
なんであんな奇妙なものを……!

「あー、たぶん売れ残ったんだね、あれ」

ちなみに解説出来ます?

「うん、可能だよ。あれは簡単に言えば強化装甲だね。いやもう強化外装って言ってもいいかも」

どんな違いがあるんですか?

「なんか装甲っていうと防御強化みたいに聞こえない?」

まぁ、そうですね。

「でもあれは移動力……特に跳躍力強化のやつだからね。ともかく、あれはラキの店に売ってた強化外装だよ」

『あのさ星村、これ普通に通っちゃっていいのかな?』

「可能ならば」

あー、まぁ、テベルナイト夫妻の賭けもありますし、神奈さんの不注意ということで、通れるなら通っていいんじゃないですか?

『あ、うん。なんか引っかかるけど、じゃあ行こうかな……』
『……………………』
『肉球ぷにぷに〜!』
『ふぁひゃぁっ!?』
『……美核ちゃんにアーシェちゃん……南無三……!!』
『あ、駄目よ。ここは通行禁止なの』

ポイッ

コロコロ……

『えっ!?』

チュドーン!!

『ぎゃっ!?』

………………
あの、星村さん、流石に通してはくれないと思ってましたけど、これは……

「うん、流石神奈さん。通常運転だね。小型爆弾で撃退なんて」

というかラキさん生きてますか!?

「ええっと……大丈夫そうだね。ピクピク反応してるし、命に別条はなさそう」

と、とりあえず救護班の方、回収お願いします!

『あー、結構派手にやられた割には大丈夫そうね』
『とりあえず、コースから離れたとこに行きましょう。このままだと、僕たちも危ないです』
『……そうね』

……はい、これで大丈夫ですね。
さてでは星村さん、アーシェさんが生贄になってる間、神奈さんの説明、お願いできますか?

「了解です。みなさんご存知の通り神奈さんは魔法使いです。で、彼女の魔法は“ロキ”。この街を支えてると言っても過言ではないほど重要なものです。その能力は、“望んだものを召喚する”というもの。神奈さんがなにかが欲しいと望んで魔法を使えば、それが召喚される、と言った感じです。流石に概念……簡単に言えば能力のようなものは召喚できませんが、さっきみたいな爆弾だったり、魔術陣だったりは際限なく召喚できます」

使い方によりますが、万能な能力ですね……

「しかし、さっきも行ったとおり、“なんでも手に入るがゆえに、自らの欲望にあがらい難くなる”という代償が発生します。まぁそれはライカで発散してるんですけどね」

……なるほど。
ライン名物“追いかけっこをしている領主”の謎が今解けました。
そういう事情があったんですね。
さらに追記するなら、その能力によって異世界の物品を召喚し、貿易に使っている、と。

「そういうことです」

とりあえず、説明はこれくらいにしておいて……
なかなかみなさん第三障害地点に来ませんね……

「やっぱり、さっきの放送を聞いて行きづらくなったんですかね?」

あー、かもしれないですね。
本当に左はチート、右は修羅ですからね。

『そんなことはねーぜ!』
『おれっちが最初に突破してやる!』

おっと、挑戦者が出てきたようです!
場所は左側の道ですね!
やはり今のライカさんの相手はしたくないんでしょうね……

「うん、本気で修羅だからね……」

さてさて、挑戦する人はというと……
おやおや、バカップルの片割れと鍛冶屋さんの旦那さんじゃないですか。

「マークさんとヴァンさんですね。二人とも、死なない程度に頑張ってくださいね〜」

『あんましそんな洒落にならなそうなことは言わないで欲しいんだけどな!?』
『ま、しょーじき勝てる気がしねぇしな』
『おい馬鹿やめろそんなこと言うなヴァン!』
『ま、とりあえず行ってみようぜ?』
『おうよ!』

あ、これは……

「種類は言いませんが、なんかフラグっぽいですね……」

『いくぜっ、“ヘイスガ”、“スクンダ”、“スロウ”!』
『“ファイア”、“ブリザド”、“エアロ”!おまけで“バインド”だっ!』

おっと、これは考えましたね。
補助系統魔術で相手の行動を制限し、攻撃系統魔術二つで足止め、そしてエアロを片方にぶつけて一気にブーストして一気に駆け抜ける、と。

「たしかに、いい手ですね。エアロでブーストさせてるので、普通の人なら認識が遅れるほどの速さで走り抜けるでしょう。でも……」

『だぁかぁらぁ、通行止めなんだってば。“スタンボム・レギオン”!』

カッ!カランカランカラン……

バチッ!!

ビビビビビ……

『っ!?』
『マーク!?』
『“デスペル”っと。で、あなたはこっちのぉ……“スタンガン”!』

バチンッ

『っ!?』
『はい、おわり〜。さぁて、またアーシェちゃん抱っこしてよっと♪』

……なんというか、背筋が凍りますね……
無邪気なんですけど、戦い方がエグいというか……

「まぁ、命の危険はないんですけどね。スタンボムもスタンガンも、強すぎない電流で意識を昏倒させるだけなんで」

それでも怖いもんは怖いですよ。
まぁとりあえずは医療班の方、またお願いしますね〜。
そしてあの二人以降はまた来なくなってしまいましたね……

「でも、分岐点にいる人は減ってますよ?」

どういうことでしょうか?

「ま、大方神奈さんは実力的に無理そうだからって、ライカの方へ流れて行ったんだろうね」

その結果はどうなのか、見てみましょうか。

『なんていうかさ、僕のところに異様な数の挑戦者が来てるんだけど、神奈の方には行ってないのかな……?』

先ほど二人挑戦しましたが、撃沈しました。

『こっちはさ、もう20人くらい来てるんだけどね……』

あー、本当ですね。
ライカさんの言うとおり、20人くらいの人が気絶して倒れてますね……

「しかも気絶程度だとまだ続行可能なんで、回収もされないから邪魔そうですねぇ……」

というわけで、こちらもかなり難しい、と……
これ、本当に優勝者出ないんじゃないですか……?
いい加減状況が膠着してるんで、変化が欲しいところなんですけれども……
まぁともかく、分岐点に戻ってみましょうか。

『……やはり、正攻法ではまず無理そうだな……』

おや、この声は……ジルさん、ですね。
なにか策でもあるんですか?

『あるにはあるんだけど、ズルい気がするからあまり使いたくないのよね……』

正直そろそろみなさんダレてくると思うんで、さっさと終わらせるためにどうぞ使っちゃってください。

『……そうね。それ以外に方法もなさそうだし……ジル、やりましょう』
『……そうだな』

お、どうやら行くみたいですね……
選んだのは……おや、神奈さんのいる左の道ですね。

『あ、リースちゃんだ!撫で撫でしてもい〜い?』
『それはアーシェで我慢して頂戴、神奈』
『ええ〜?でも、ここは通行止めだから通さないからね?』

さて、リースさんたちはいったいどんな方法でここを突破するんでしょうか……?

『そんなことより神奈』
『なぁに?』
『旦那さん、放っておいていいのかしら?確か向こうに結構可愛い女の子が数人行ってたのを見た気がしたんだけど……?』
『……っ!?それ、本当?』
『……そうね。女の子が行ったのは本当よ。女の子の相手なんて、ライカ、大丈夫かしらねぇ?』
『……あ、あなた〜!ライカライカライカ〜!!』

あー、これは確かにズルい……
神奈さんの大好きなライカさんを餌にして移動させるとは……

『さ、行きましょうジル』
『……了解』

とりあえずは、そんなこんなでジルさんたちが第三障害初突破です!
さてさて、神奈さん、ライカさんの下へ向かいましたがいったい……

『ライカ〜!!』
『うぇっ、神奈!?なんでここに!?』
『他の子の相手なんかしちゃだめぇ!私の相手するのぉ!』
『ちょ、ちょっと待って!まだレース終わってな……』

あ、ライカさん攫われましたね。
なんていうか、本当に神奈さんに恋されてますね、彼は。
女性ながらに嫉妬しそうです。

「まぁ、このあとのこと考えるとなんかもげろ!と言いたくなりますがね。……それはともかく、右の障害も取り除かれて、左右共に道が開けましたね」

ええ。みなさんもそれを察知して一斉に走り出しています。
現在一位はジルさんとリースさん。
風に乗って駆け抜ける彼らを追い越す人はいるんでしょうか!?

『ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!』

おおっと!誰かが雄叫びをあげながらジルさんたちを追いかけています!
って、またこの人ですよ!
あなたどんだけ回復早いんですかデューナさん!

「ですが、デューナさん速いので勝負はわからなくなりましたね」

『はぁぁぁ!み・成、年!結・婚!きょ……かしょぉぉぉぉぉ!!』

「あー、なんて言うか、彼女の狙い、どうやら方丈君の嫁さんたちと同じみたいだね。対象は弟君だけど」

どんだけブラコンなんですか……
たしか弟さん現在16ですよね?
あと二年の辛抱じゃないですか……

「まぁ、それだけ弟君が好きなんだってことでしょう。……なんか、弟君恥ずかしくて顔真っ赤になってる気がするよ」

同じくそう思います。

『ローランに、姉さんじゃなくて、デューナって、呼ばれたいのよぉぉぉぉぉお!!』
『っ!!……このままだと、追いつかれるな……!』
『ジル、どうするの!?』
『……仕方が無い。リース、ここからはお前だけで行ってくれ。俺は足止めする』
『……わかったわ!』

どうやらリースさん、ジルさんが足止めしている間にゴールしにいくようです!
目測で約50m!間に合うのでしょうか!?

『……来たな。“マハガルーラ”!』
『っ!?もう!なんで邪魔するのよ!』
『……依頼、なんでな。これに優勝して必要な材料の一部を手に入れる……“ガルダイン”!』

ジルさん、なんとかデューナさんの足止めに成功しています!
いったいどこまで持つでしょうか!?

「どうやらジルさんたちはリースさんの薬の材料を集めるためにこれに参加したみたいですね」

『邪魔、しないでっ!“電光……”』
『……させるか。“風舞・壁”!』
『っ!“キルラッシュ”!』

リースさんのゴールまでに距離、残り30!

『通しなさいっ!シングルショット”!』
『……“マハガル”!』
『ああっもうっ!!“二連牙”!』
『“風舞”!』

残り10!

『“疾風斬”!』
『がっ!?』

ああっと!ジルさん怯んでデューナさんを通してしまう!
しかし残り7!逃げ切れるか!?

『いくわよ……“電光……』

6、5!

『……石火”ぁ!!』

4、3!

『行かせるかぁぁぁぁぁあ!!』

2、1……!!

ゴォォォォォォオル!!

遂に、優勝者が決まりました!
一位は……今年の福男・福女は……!!

“恐怖劇薬剤店”店主
リース・グランギニョルさんです!!

「いやはや、危なかったですね。もうちょっとでデューナさんに追いつかれてたところでしたよ。ともかく、優勝おめでとうございます」

優勝したリースさんには、ライン領主、ライカさんからある程度の願いを叶える権利を与えられます!
あ、あと副賞でなにかもらえるらしいですね。
で、早速その授与、と行きたいところなんですが……

「ライカ、連れ去られちゃったんだよね……」

あー、これしばらく戻ってきませんよね?
どうしましょうか?

「……とりあえず、片付けだけ先に始めちゃいますか?」

……そうですね。
それでは、参加者のみなさま、および観客のみなさま、お疲れ様でした!
これにて“ライン年始福男・福女レース”は終了となります!
司会は私凍丸 文々が。
解説は星村 空理さんでお送りしました!
それでは、今放送もこれにて終了でございます。
お付き合いいただき、ありがとうございました!
それでは!
12/01/01 00:02更新 / 星村 空理

■作者メッセージ
新年開けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
星村空理です。
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
……流石に去年はほっとんど中身がなくてつまらないと自分でも感じたので、今回は頑張ってみました。
今回はレース!
自分のやりたいことをかけて、いろんな人たちに頑張ってもらいました。
途中でグダグダになったりもしましたが、まぁそこは星村ということでお許しください。
さて、今年はこの作品から始め、頑張って行きたいと思います!
これからもよろしくお願いします!
では、今回はここで。
姫始めの話じゃなくてすみません。
星村でした。

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