読切小説
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はださむいひ
1

 冬はすきだけどきらいです。あさ目がさめると、体のしんがぶるっとふるえる感じがして、とてもさびしい気もちになります。雪もただつめたくて、なぜか、かなしくてしずかになるのできらいです。
 雪がっせんも、かまくら作りも大してすきじゃないので、ほんとうに冬にはいいことなんてちょっぴりしかありません。
 そのちょっぴりは、ルーちゃんがとってもあったかくて気もちいいことです。ルーちゃんはぼくよりもちょっとだけ小さい、けむくじゃらの女の子です。小さいころからずっといっしょで、同じおふとんでねています。
 冬はさむくて、いつもより早い時間に目がさめます。お父さんもお母さんもおしごとが大へんで、つかれてぐーぐーいびきをかいているので、わざわざおこすわけにはいきません。

 そんなときのルーちゃんです!

 ぼくのとなりですやすやとねいきをたてているルーちゃんに、ぎゅっとだきつくとそれはそれはあったかいのです。
 もこもこしたルーちゃんのもふもふを顔をうめると、むねのおくがきゅっとしめつけられたような感じになって、すごく幸せになります。ルーちゃんはこのていどではおきないですが、いい夢をみているのか、ときどきぼくをぎゅっとだきしめてくれます。
 すやすやと、気もちよさそうなねいきを耳にしながら、もこもこのあたたかさを楽しんでいると、ぼくはまたしぜんとねむくなってきます。
 そして気がつけば、いつの間にかルーちゃんに耳をあまがみされておこされるのです。ほぼ毎日あると言っていいようなこれが、ぼくのすきな冬です。
 でもときどき、あまがみでもちょっぴり痛いときがあるのはどうにかしてほしいです。

2

 冬のおさんぽはやっぱり苦手で、地べたがつるつるしていてよくぼくはころんでしまいます。ルーちゃんはなぜかころばないのけれど、ぼくはいつもすってんころりんとしりもちをついてしまします。

 もうりっぱな大人なのでないたりはしません。痛くてもがまんです!

 ぎゅっと口をへの字にして、冬のさむさにひいひい言いながらルーちゃんと元気よくおさんぽです。でもやっぱり外はおふとんの世界とはちがいます。ルーちゃんとふれているのも手くらいのもので、せいぜいぴったりとくっついても、もこもこはちょっとひんやりしています。
 でもルーちゃんはおさんぽがとっても楽しいみたいで、目をキラキラさせてうれしそうです。まっ白な雪に作る足あとを見てよろこんだり、雪をつかんでぼくになげてきたりしてくるので、ぼくはそのたびにむぎゃーとひめいをあげます。むぎゃー。

 やっぱりおさんぽはあまりすきじゃありません。けれどうれしそうなルーちゃんを見るのはすきです。

 おとなりのおば……、ユニコーンのおねえさんから、あらあらと笑われたりするのははずかしいけど、でもそれでもぼくは笑っています。ルーちゃんも笑っています。これでいいんだと思います。
 けど、時々ふとなぜか思うことがあります。
 冬になるといつもルーちゃんが、ふだんよりも近くに感じると同時にどこかとても遠いところへいるような気がして、ぼくはふらふらとまよってしまいます。一人ぼっちとはちがうさびしさを、感じてしまいます。
 だれともちがうやくそくを一人でしているような、そんなさびしさがむねの中からあふれてくる気が、します。
 きっと冬のせいです。
 だって、ルーちゃんの顔を見て、ルーちゃんにふれるとすぐにどこかへとんでいってしまう気もちだから。

3

 そういえば冬のすきなところがあと一つだけ。一つだけありました。お父さんとお母さんがねた後に、こっそりと家をぬけ出してルーちゃんと二人で家の近くにあるおかへのぼることです。
 さむいしつめたいし、たどりつくまでになんども家に帰りたいと思うけど、それでものぼりきって、空を見上げるとそこにはお星さまがちらばっています。
 どこまでもどこまでも。
 それをルーちゃんと二人で見るのがすきです。雲がたくさんあってお星さまを見れない日もあるけれど、そんな日は雲にあっかんべーをしながら家に帰るだけです。
 手をぎゅっとつないで、もこもこに肩をよせてお星さまを見ていると、まるでこの世界にぼくとルーちゃん二人だけになったような気がします。
 ルーちゃんの手も、もちろんもこもこであったかくて、おたがいにさむさで口から雲をだしながら、ずっと星を見ます。

 そのうち、おたがいにあったかいのがまざりあって、なんだか僕らは一つになってしまったような気さえして、でも、それも悪くないしむしろとっても幸せなことなんだなとさえ思えてしまって。

 僕はきまって星を見ているルーちゃんのほっぺにちゅーをします。お星さまももちろんきれいだけど、ぼくがおかにのぼるのは、お星さまに見とれて目までお星さまになっているルーちゃんの方がきれいだからです。
 その時のルーちゃんの顔は、ぼくだけしか知りません。
 ただ、ぼくは確かにルーちゃんの顔を見るとあったかくなります。体だけじゃなく、むねのおくも、心も。
 ルーちゃんはすぐにぷくーっとふくれてぼくのほっぺにちゅーをしかえしてきます。そのうちほっぺとほっぺをくっつけあって、ぼくら二人はずっとずっと近くによりそって、またお星さまを見ます。ときどき、ちらちらとおたがいの顔をかくにんしながら。
 くしゃみが出ると、それが家へと帰る合図です。
 ぼくとルーちゃんは手をつないで、てくてくともと来た道をもどります。家のおふとんにもぐりこむと、外でひえきった体をあっためるためにぎゅっとだきあいます。

 そうしてすごしていくうちに、いつの間にか冬はきえているのです。春が来て夏が来て秋が来て、そしてまた冬が来て。
 ぼくとルーちゃんは、どこまでもいっしょです。
 このぬくもりをずっといっしょにわけあって、いっしょになるのです。
15/11/11 21:50更新 /

■作者メッセージ
そんなおはなしでした。たのしんでいただければさいわいです。

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