連載小説
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旅48 ルージュ街の幼き王女
「へぇ〜……まだ会った事の無い姉妹に会う為の旅か〜……」
「うんそうだよ!レミィナお姉ちゃんはなんで旅してるの?」
「わたしはね……楽しいから、かな。アメリは旅していて楽しい?」
「うん!」

現在9時ちょっと過ぎ。
大怪我をしているセレンちゃんを病院で治療してもらう為『ルージュ・シティ』に向け出発しようとしたところで、突然上空に飛行機なるユウロがいた世界の乗り物が現れたと思ったら、そこから一人のリリム……レミィナさんが降りてきた。

「ところでレミィナお姉ちゃん。あのひこうきっていうお空とんでるの何?お姉ちゃんあそこからとんできたよね?」
「ああ……あれはね、ヴェルナー……わたしの親衛隊兼御者兼伴侶の人が操縦してる、空を飛ぶ馬車みたいなものよ」
「へぇ〜……レミィナお姉ちゃんのだんなさんか〜…………」

どうやらあの飛行機という物はレミィナさんの旦那さんが操縦しているらしい。
異世界の物を良く操縦なんか出来るな……って思ったけど、もしかしたらレミィナさんの旦那さんのヴェルナーさんもユウロと同じ世界の人間かもしれない。

「あれ……というか飛行機は知ってるの?」
「今ユウロお兄ちゃんから聞いた」
「ユウロ……って、たしか君だよね?」
「はい」
「ユウロ君……なんで知ってるの?」

そんなレミィナさんは、何故アメリちゃんが飛行機という物の名称を知っているのか気になったらしく、ユウロの方を向いて質問を始めた。
ちなみに自己紹介は先程簡単に済ませておいた……まあセレンちゃんだけはやはりリリムが相手だからと自己紹介をしようとしなかったので私が代わりに言ったけど。

「あーまあ……俺は異世界から来た人間で、あの形と似た飛行機を写真……資料として見た事あるからです」
「へぇ。なるほど……君『も』異世界から来た人なんだ」
「『も』って事は……」
「まあ、それは本人に言ってもらいましょ」

ユウロが自分は異世界出身の人間だと言った時の反応から、おそらくそういう事なのかもしれない。
まあどちらにせよ、こちらに向かってゆっくりと降下している飛行機の操縦者であるヴェルナーさんに聞けばいいだろう。

「異世界……そんなもの、本当にあるのですか?」
「ん?ああそっか。セレンは知らないんだっけ。俺はこの世界じゃないところ出身で、他にも旅してる間に何人か見掛けたぞ」
「そうですか……それは、魔物のいない平和な世界の事?」
「そうだな……半分正解ってとこだな」
「?」

ヴェルナーさんが降りてくるのをジッと見ていたら、私の背中で相変わらず暴れていたセレンちゃんがユウロにこう質問をした。
そういえばセレンちゃんにはユウロが異世界人だと説明してなかったな……
たしかに、ユウロは魔物のいない世界から来た人間だ。
それはユウロと、そしてユウキさんからも証言を得たので本当だろう。

でも……きっと平和ではないだろう……



『吉崎君の事……しっかりと支えてやって下さい。詳しくは僕の口から軽々しく言っていい事ではない為言えませんが、彼は相当辛い経験を僕達がいた世界でしているので、きっといつか不安や責任に押し潰されてしまうかもしれない……だからサマリさん、吉崎君の近くに居てやって、あいつが何かをした時は、しっかりと受け止めてやって下さいね』



ルヘキサから出発する時、私一人ユウキさんに呼びだされてこう言われていた。
その経験が何かは聞き出せなかったが……相当辛いと言う程だ、そんな経験をする世界は決して平和な世界だとは言えないだろう。


「まったく……姫、急に飛び出さないで下さいよ……」
「ゴメンね。ビックリした?」
「飛べるとわかっていても急に飛び降りたら驚きもしますよ。何があったのです?」

とまあこんな感じで考え事をしているうちに、飛行機は私達の近くに着陸した。
飛行機からレミィナさんに向けて言葉を発しながら……金髪で、服は黒い服を着た男性……おそらくヴェルナーさんだろう人物が降りてきた。

「偶然わたしと同じリリムの魔力を感じたから確かめにね。結果はこの通り」
「わわっ!」
「なるほど……たしかに姫にそっくりだ……はじめまして、私はヴェルナーです」
「アメリだよ!よろしくねヴェルナーお兄ちゃん!」
「わたしのように会った事の無い姉上に会う為に旅してるんだってさ」

やはりヴェルナーさんだったらしい。
さっと身体の向きを変えさせられたので少しよろめくアメリちゃんだったが、すぐに体勢を整えて元気に自己紹介を始めた。

「それでこっちがそんなアメリと一緒に旅してる御一行さん」
「どうも、ワーシープのサマリです」
「……」
「後ろのエンジェルはセレンちゃん。ちょっとまだ魔物やインキュバス相手にはこんな感じですのでご了承ください」
「ウチは花梨!よろしゅうな!!」
「よろしく」

私達も順番にヴェルナーさんに自己紹介をする。
しかしセレンちゃんはヴェルナーさんの方を黙って睨みつけているだけなので、仕方ないから私が紹介しておいた。

「どうも、俺はユウロと言います。日本人です」
「そうか……え?日本……という事は……」
「まったく同じ世界かは微妙ですが、俺もヴェルナーさんと同じ異世界からここに来た人間です」
「そうなのか……ユウロは日本人なのか。私はドイツ人さ」
「やっぱりですか。じゃあこれはシュトルヒですね」
「ほぉ、知っているのか」
「ちょっと昔授業の一環で戦争での調べ物をしたので。詳しくは覚えてませんけどね」

ユウロも、自分が異世界の人間だと明かしながら自己紹介した。
日本やらドイツやら聞いた事の無い地名だが、お互いは良くわかってるみたいだからやはりヴェルナーさんも異世界の人のようだ。

「まあ……そうは言っても、同じ世界だとしても俺はヴェルナーさんがいた時代より50年は後の時代の人間ですけどね」
「な……そうなのか?」
「はい。俺は世界規模の戦争は既に終わっている時代に生まれた人間です」
「そうか……戦争の結果は?」
「枢軸国側の負けです。と言っても俺が生まれた頃にはもうドイツも日本もどこかの植民地とか支配下ではないのでそんな心配だったらする必要は無いですよ。まああくまでも俺とヴェルナーさんが同じ世界から来ていたらという場合ですけどね」
「なるほど……そんなにこちらに居た覚えは無いから違う可能性もあるから鵜呑みにはしないでおこう……」

真剣な面持ちで会話を続ける二人……
……しかし、ユウロ達が何を言っているのかよくわからない為話についていけない。
とりあえず戦争が起こっていたという事と、ヴェルナーさんはその戦争が起こっていた時代でユウロはもうその戦争が終わった後の時代に生きていたと言う事だけはわかったけど……

「ちぇいっ!二人だけの世界に入らないでよ〜寂しいじゃない!」
「うわっ!?」
「何をするのですか姫!?」
「だってつまらないんだもの。そりゃあ重い話をしてるのはわかるけどさ、アメリを見てよ。凄く退屈そうにしてるわよ?」
「ふぁ〜……ん?なあに?」
「……」

そんな感じで周りを置いてけぼりな話をする二人に痺れを切らしたレミィナさんが、ユウロの持つ木刀を素早く奪い去って二人の間を一刀両断した。
二人は驚き、ヴェルナーさんはレミィナさんに文句を言ったが、大きな欠伸をしているアメリちゃんを見て何も言えなくなったようだ。

「ふぁ〜……あ!」
「ん?どうかしたんかアメリちゃん?」
「そうだ!アメリレミィナお姉ちゃんのこと知ってた!!」
「えっそうなの?」

ただ、そんなアメリちゃんは大きな欠伸をしていたと思ったら、何か思い出したようで突然大きな声をあげた。
どうやら以前からレミィナさんの事を知っていたらしい……

「他のお姉ちゃんからうわさで聞いたことあったんだけど、たしかレミィナお姉ちゃんのことだったはず!」
「何?どんな噂が流れてたの?」

それは直接会ったとかではなく、噂として聞いていたらしい……
その噂とは……

「えっと……ケンカしてお父さんを水ぶろにつき落とした風来坊のお姉ちゃんがいるっていううわさだよ!これってレミィナお姉ちゃんのこと?」
「……」
「正解です。それはまさに姫の事です」
「ちょっとヴェルナー!?」

なんとも言えない、というか凄まじいものだった。
そもそも魔王様の旦那様を水風呂に突き落とすって……娘でなければとてもじゃないが出来ないだろう。


ゴホンッ!ところでアメリ、あなた達これからどこに行く気だったの?」
「ルージュシティってところ。けがしてるセレンお姉ちゃんを病院につれて行こうと思ったんだ」
「そうなの!?」

話も変わり……というかレミィナさんが無理矢理変えたが……私達がどこに向かっているのかを聞いてきたレミィナさん。
アメリちゃんがルージュシティに行くと言った途端驚いて……

「じゃあ丁度良かった!わたし達も今向かってたところなの!」
「えっそうなの!?」

目的地が同じだと言う事を私達に告げてきた。

「ここからだと複雑だった気がするけど…行ける?」
「どうでしょう……地図だとわかり辛いんですよね……どうすれば辿り着くかわかります?」
「完璧よ!案内してあげようか?」
「はい!ぜひお願いします!!」

しかも道もわかると言われたので、私はレミィナさんに案内を頼む事にした。

「ヴェルナーは空から……あ、そうだ」
「ん?どうしましたか?」
「ヴェルナー……セレンちゃんを乗せて先に病院まで連れて行ってあげて」
「んなっ!?い、嫌ですよインキュバスとだなんて……しかも得体のしれない乗り物でだなんて……」

そして、怪我人であるセレンちゃんをヴェルナーさんが飛行機で先に運ぶという案を出してくれた。
しかしまあ当然ながらセレンちゃんはかなり嫌がっている……ヴェルナーさんがインキュバスである事もさながら、どうやら飛行機が少し怖いらしい。
まあ、私達にとっては飛行機は未知の物だから怖く感じるのもわかる。
ただまあ、飛ぶというのはとても面白い体験だから私だったら絶対に乗っているだろうけど。

「いいからお言葉に甘えろよ。自分の翼を使わずに飛ぶとか滅多に出来ない体験だぜ?」
「いやでも……」
「それにお前怪我人だろ?サマリにおぶられた状態で陸路を行くよりは安全かつ素早く行けるんだぜ?」
「そ、それはそうだけど……」
「わたしに遠慮する必要は無いよ。自分で提案したからね」
「別に遠慮はしてませんが……」
「じゃあいいじゃねえか。ヴェルナーさんもそれでいいですよね?」
「姫もそう言いますしいいですよ?」
「いやだから……」

しかし、周りの人間……特に飛行機という物をよく知っているユウロとレミィナさんが強く勧めるので……

「わかりましたよ!お言葉に甘えさせていただきます!!」
「それでいいんだよ。サマリにおぶってもらうの恥ずかしいんだろ?」
「うんまあ……」

とうとうセレンちゃんが折れた。
やはり私におぶられているというのが恥ずかしかったらしい……気にする事無いのに……

「という事でヴェルナー、先に病院まで行っててね」
「姫も後から他の人達と来てくださいよ?」
「もちろん!」

飛行機の後ろの席にセレンちゃんを乗せた後、ヴェルナーさんはルージュシティの病院に向かって飛んで行った。

「じゃあわたし達も行くよ!」
「はい。案内よろしくお願いしますね!」
「しゅっぱ〜ふみゅ!?」
「でもその前にちょっとアメリ弄らせてね!」

そして私達もルージュシティに向けて出発しようとしたところで……レミィナさんが突如アメリちゃんのほっぺをつまんだ。

「あ〜やっぱり子供のほっぺたってプニプニで柔らかいな〜」
「むにゅ〜!!」
「ははは……」

そのままむにむにと触り始めたレミィナさん……アメリちゃんも突然の事で驚いているものの嫌ではなさそうだ。
私も触った事あるけど、アメリちゃんのほっぺは本当に柔らかいからな……アメリちゃん自身の反応も面白いしね。



====================



「……ほら、見えてきた」
「おーここが……結構大きい街なんですね」
「まあね。さっきも言ったけれど、この街の領主はわたしの友達でね…とても面白い街。病院に寄った後で色々と案内してあげるね」
「ありがとうございます」

現在11時。
レミィナさんとお話をしながら歩き続けて1時間半、ようやく街の入口に着いた。
セレンちゃんはヴェルナーさんと飛行機で向かった……あんなに大きいけれどかなり速く、あっという間にこの街付近まで行っていた。
なのでまず私達は中央区にあると言う病院を目指す事になった。

「……って素通りで問題無いのですか?」
「大丈夫。あのワンちゃんは知り合いだから♪わたしと一緒にいるのだからサマリちゃん達も素通りで大丈夫!」
「はぁ……」

街の入り口ではアヌビスの憲兵さんが怪しい者がいないか確認していたようだが……レミィナさんを見た途端「わふぅ……」とか呟きながら怯えて縮こまり震え始めていた。
なんだか何時ぞやの私を見るスズみたいになっているので、なんとなくあのアヌビスさんがレミィナさんに何されたのかは予想がつく。
まあそんなレミィナさんと一緒に居るから私達もそのまま通って構わなそうだ……というか、なるべく近付きたく無さそうにしているので通ってもいいのだろう。

「それにしてもまあ……人もだけど魔物も多いな……」
「それがリライア……この街の領主の理想だからね。色々と紹介したいところもあるけど、まずは病院に向かうね」
「お願いします。街の方はセレンちゃんも一緒がいいのでぜひ」

街は一目見ただけでも凄く活気がついている。
レミィナさんに聞いた話だが、この街は『人間と魔物の完全な共存』を掲げているだけあって本当に様々な魔物やそれに負けないぐらい人も住んでいる。
例えば、右を見ればオーガさんが男を連れ回しながら歩いている姿が見えるし、左を向けばドッペルゲンガーらしき女性と包丁らしきものが包まれている袋……おそらく近くにある店に研ぎに出しに来たのだろう…を持っている男性が仲睦まじく歩いていた。
そしてここは東地区で繁華街らしく、とにかく店が多く、レミィナさん曰く職人が沢山集っているらしい。
たしかに……靴屋に理髪店や服の仕立て屋、それに質素ながらもいい匂いが漂ってくる料理店なんかが並んでいる。
あとでセレンちゃんとも一緒に見て回りたいものだ……

「じゃあついてきてね。病院は中央区にあるから、少し歩く事になるけど疲れてない?」
「大丈夫です」
「アメリも大丈夫!!」
「俺はそんなヤワではないので」
「ウチも歩く商人やからな。こんなもんじゃなかなか疲れへんよ」
「そう。問題なさそうだし、早速行くわよ!」

面白そうな繁華街とは一旦お別れして、私達はまずセレンちゃんとヴェルナーさんがいる病院に向かったのだった……




…………



………



……







「どうセレンちゃん?身体大丈夫?」
「ええまあ……とりあえず治療及び手当はしてもらったから大丈夫……かな?」
「完治……はしてないようだな」
「まあそれは……でも傷はほとんど塞がったし、普通にしている分には痛みも無くなったから大分マシにはなったけどね」

現在12時。
病院に着いた私達は、入口で待っていたヴェルナーさんに案内されて診療中のセレンちゃんと合流した。
少し駄々をこねて人間の医者に診てもらったようだが、大丈夫そうならば問題無い。

「でも数日は薬と包帯生活、それと自分で治癒魔法を使う破目になりそう……」
「はは……まあそれで治るんであれば仕方ないんじゃない?」
「そうだけど……治癒魔法って結構疲れるから大変……」

げっそりとしながらそう言うセレンちゃん。
でもたしかに治療の効果はあったようで、心なしか顔色は良くなった気がする。


「それでこれからどうしますか?」
「そうね……もうお昼か……」

とりあえずセレンちゃんをちゃんと診てもらったし、ここからはルージュシティの観光をしようと思う。
幸いにもレミィナさんとヴェルナーさんが案内してくれるようなので、かなり大きな街ではあるが迷子になる事は無さそうだ。
そんなレミィナさんは服の内ポケットから黒い懐中時計を取り出し、現在の時間を確認した。
その時にちらっと中が見えたけど……見間違いでなければ、針の動きが逆回転だった気がする……

「とりあえずお昼にしようか」
「そうですね。丁度良い時間ですもんね」
「アメリおなか空いたー!」
「ワタシもお腹は空いてますね……」

とにかく、私達はお昼ご飯を食べる事になった。

「どこのお店にしようかな……」
「あ、さっきここに来るまでにあった質素な感じの料理店とか行ってみたいです」
「えっと……ああ〜ビストロ・ミンスか……あそこは夜にしようかなって思ってたけど今行く?」
「あ、夜に行くなら夜で良いです」
「おっけー。じゃあどうしようかな……まあ適当に歩いて皆が気になったお店があったらそこに入るって事でいい?」
「お任せします」

ちょっと気になっていた先程見掛けたお店にはまた夜に行くと言われたので、とりあえずそこ以外でよさげなお店でお昼ごはんを食べるという事になった。

「さーて、どうしようかなっと」

という事で、病院を出発した私達は、料理店が多いのは東地区だからという理由で再び東地区に向かって歩いていた。

「あれ……レミィナさん、あの建物はなんですか?」

そんな中で、私はこの親魔物領……レミィナさん曰くほとんど緑明魔界っていう明るい魔界に近いこの街にはありそうにもないステンドグラスがはめられている質素な建物が目に入ったので、もしかしたら違うのかなと思ってレミィナさんに尋ねてみた。

「あれは教会よ。と言っても誰か特定の神を崇めているわけじゃないし、冠婚葬祭に使われたり集会に使われたりしているそうよ」
「なんだ…やっぱり主神様を崇めているわけではないのですね……」
「あら?がっかりした?」
「そういうわけではないですが……魔物の中でも主神様を崇める者も居るのかと思っただけですよ」
「まあ……まったく居ないとは言わないけど……魔物の中にはまず居ないとは思う。でも街の人達は反魔物領出身の人も居るし、中にはいるんじゃないかな?」
「へぇ……」

やはり教会らしいが、別にどこかの神を崇めているのではなく、集会場みたいなものらしい。


「パンや絵本はいかがですかー!!」
「他にも色々あるよー!!」
「安くしますよー!!」

「……ん?」


そんな教会の方から、なんとも可愛らしい声が複数聞こえてきた。

「子供達の声かな?」
「何か売ってるみたいですが……見に行きます?」
「そうだね。行ってみようか」

声からして何かを売っているみたいだが……とにかく気になったので声のする方に向かってみる事にした。

「そこのお兄さんやお姉さんがた、お一つずつパンいかがですかー!」
「おおなんや?商売の練習か?」
「はい!」

そこでは、人間や魔物の子供達がおいしそうなパンや小物を売っていた。
ワーウルフの少女やサキュバス……かな?の少女など皆張り切って売り込みをしているが、一番張り切っているのは刑部狸の少女だ。

「お姉さん人に化けてるけど刑部狸だよね?」
「えっ、お、おおそうやけど……」

そんな刑部狸の少女はカリンに話しかけている。
子供と言えど、同じ刑部狸だからか簡単にカリンを魔物だと見抜いたようだ…カリンも「やっぱ同族にはバレてまうかぁ……」なんて呟いている。

「売り方おしえてほしいです!」
「せやな……まずは元気な声を絶やさない事やな。疲れてもそれを表に出しただけで売り上げは落ちると思いな!」
「元気ですね!」
「せや。それが一番やで!他にもなぁ……」
「ふむふむ……」

同じ種族だからか、あっという間に打ち解けた二人……
一時的だろうけどカリンが人化の術を解いたので、なんだか師弟に見えてきた。

「あらあら、仲良くなったようね」
「うわっ!?」
「ん?どうかしましたか?」
「あ、いえ……」

この教会のシスターさんらしき人物がこの二人の様子を見ていたが、突然そんなシスターさんの下半身からピンクの触手が出てきたので驚いた。
よく見たら下半身はスライム状になっているので、どうやら何かの魔物らしい……なんていう魔物だろうか?

「そうだ!お昼ご飯はこのパンにしよう!」
「さんせー!!おいしそうだもん!!」
「ですね。じゃあパンを……色々あるから皆で好きなだけ買おうか」
「そうだな。じゃあ俺は……そこの丸いパン下さい」
「はいよー!にく入ってるからおいしいよ!」

そんな触手の魔物を見ていたら、ジッと子供達の様子を見ていたレミィナさんがお昼はパンにしようと提案した。
確かにパンはとてもおいしそうだし、子供達も頑張って売っているので買ってあげる事には賛成だった。
皆もその気のようで、カリンに至っては既に刑部狸の少女からいろいろと買い込んだり逆に何かを売り込んでいるようだった。

「おーい、焼きたてのパンの追加だ!」
「……」
「シュリー、危ないからちょっと移動して」
「あ、ごめんヅギ」

と、私もパンを買おうとした時に、教会のほうからパンを持った男性2人と、シスターをしてるだろうラミアの女性が出てきた。
どうやら丁度パンが出来たようだ。焼きたての香ばしい匂いがこちらまで漂ってくる。

「おや?お客様?」
「はい。旅のお方らしくて、今子供達からフィルマンさんのパンを買っているところです。あ、焼きたての物と交換します?」
「いいの?じゃあお願いね」
「それと、礼拝堂の中で食べません?立って食べるというのもお行儀悪いし……」
「それは助かります」

丁度良いタイミングでパンが出来上がったので、私達は焼きたてのパンを貰う事にした。
赤髪の男性の方からシュリーと呼ばれた触手のシスターさんが出来たてと交換してもいいと言ってくれたので、既に買っていたユウロやレミィナさんは交換してもらった。

「じゃあ早速……」
「いただきまーす!!」

皆買ったようなので、焼きたてだという事で早速礼拝堂の中に入って食べる事にした。

「むぐむぐ……おいしー!!」
「これは侮れませんね……とても背信者が作ったものとは思えない美味しさです……」
「それ関係ないだろ?まあいいけどさ……誰が作ろうが美味いもんは美味いんだよ」
「たしかに美味い……前居た時は食べなかったな……」
「というかわたし達がトーラガルドに行く時には無かったと思う。きっとわたし達が街を出発してからあのフィルマンって人は来たのね……」

オルガンなどが置かれている一方で、祭壇などが置かれていない礼拝堂。
そこで私はホカホカしたタマゴ入りのパンを一口齧る……外はサクッと、そして中はタマゴのぷりっとした食感とモチっとした噛み応えが私の口に伝わってきた。
咀嚼する度にパンの甘味と香ばしさが広まって……なんだか幸せな気分になる。
皆もそれぞれが買ったパンを絶賛しているようだ。「魔物が売っているパンなんか……」と結構見当違いな気がする文句を垂れていたセレンちゃんも悔しそうにはしているがおいしそうに食べている。

「あいつは将来大物になるで!ちょっとコツを教えただけやのにもうモノにしおった」
「へぇ……カリンもあんな感じに教わったの?」
「まあな。ウチの場合はオカンや知り合いの刑部狸に教わったんやけどな」
「ふーん。伝統の技術みたいなものか〜……」

カリンも自分で買ったパン(皆大体2から3個なのに6個ぐらい持ってる)を持ちながら、にこやかな笑顔を浮かべながらそう言って私の隣に座った。
自分と同族の子供が、自分が教えた事をすぐ呑み込んで成長した様を見て嬉しいのだろう。

「食べたら……どこ行くのですか?」
「そうね……そういえば何日ぐらいこの街に滞在するつもりなの?」
「そうですね……カリンが今荷物を預かっている状態ですので、明後日か明々後日のお昼には出発しようかと……」
「そっかあ……じゃあ今日は北地区と中央区を回って、最後に東地区で夜ご飯って感じで良いかな?」
「お願いします!」

このパンを食べ終えた後は、歓楽街エリアらしい北地区と、レミィナさんの友人である領主が住む家など重要な施設がある中央区を回るようだ。

「はむはむ……ん〜どのパンもおいし〜!」
「ちょっとアメリ、食べカスがワタシのところまで飛んできてるんだけど」
「え?あ、ゴメンなさいセレンお姉ちゃん」
「もう……美味しいのはわかるけど、もう少しゆっくりと食べなさい。パンは逃げないんだからさ……」
「はーい!はむっ!」

でもまずは、このおいしいパンをしっかり食べようと思う。
アメリちゃんなんか口いっぱいに頬張りこんで食べてるぐらいだしね。

「いい食べっぷりですね」
「あ、さっきのローパーのお姉ちゃん」
「私はシュリーよ。よろしくね」
「どうも」

そんな感じに食べ続けていたら、先程の触手シスターもとい『ローパー』のシュリーさんが礼拝堂に入ってきた。

「そういえばあなた……ローパーという事は元人間なのですよね?」
「ええそうよ。あなたもエンジェルなのに魔物と一緒だなんて珍しいわね」
「好きで一緒に居るわけじゃないですけどね。それよりも一つ聞きたい事があるのですが……」
「何?」

そのシュリーさん……魔物に珍しく自分から話し掛けたセレンちゃん。
どうやらローパーという魔物はかならず元人間らしく、シュリーさんもそうらしい。
そんなシュリーさんに何かを聞き出そうとするセレンちゃん……その顔は真剣な物だ。

「あなた……魔物になって後悔したり、戸惑ったりはしなかったのですか?」
「う〜ん……最初はちょっと……でも、結局は魔物でも人間でも、私を大事にしなきゃって思ったらね。別に魔物だって皆優しいのよ?」
「そう……ですか…………ありがとうございます」

何か納得したような、それでもやっぱり納得できなさそうな複雑な表情をしながら、質問はそこまでにして再びパンを食べ始めたセレンちゃんだった……



…………



………



……








「ここら辺が中央区よ。ほら、あの大きな建物がスタジアム」
「ふぉお〜大きい!!」

現在15時。
お昼ご飯を食べ終えた後、私達は歓楽街にもなっている北地区を見た後、中央区に案内されていた。
北地区はまあ……歓楽街という程だし、夜のお店っぽいものが多かった。だからか知らないがサキュバス系の魔物が多かった印象がある。
夜に来るとまた印象も違っているのだろうけど……おそらくセレンちゃんやユウロが嫌がるので行く事は無いだろう。

「レミィナさん、ちょっとええか?」
「ん?何?」

そして中央区に差しかかり、街に住むジャイアントアントが造ったという大きな闘技場を見ている時、ふいにカリンがレミィナさんに質問をした。

「さっき病院や教会であんたが見とった懐中時計なんやけど……」
「この時計の事?」
「せや。さっきチラッと見たんやけど、文字盤、それと針の回転逆やなかったか?」
「そうね。その通りよ。はい」
「あ、ホントだー!」

どうやらカリンも気になっていたようで、先程レミィナさんが見ていた時計について触れた。
カリンも中の逆向きに動く針が見えていたらしい……見間違いではなかったようで、今ちゃんと見せてくれたがたしかに左右逆になっていた。

「ん〜……この時計って何?なんで逆なの?」
「これはね……わたしが小さい時……アメリぐらいの時かな……その時にある大切な人から貰った大切な時計……逆回りなのは……アメリもわたしと似ているところがあるし、きっとアメリもそのうちわかるようになるかもね」
「ふ〜ん……」

詳しくは教えてくれなかったが、時計を見つめるレミィナさんはどこか悲しさと懐かしさを合わせたような表情をしている。
きっとその大切な人はもう……ヴェルナーさんもそんなレミィナさんを優しい顔で見つめている。

「アメリ……わたし達だって有限の時間の中で生きている……だからこそ、毎日を悔いの無いように生きないとね」
「ん〜……そうだね〜……」
「……わたしの話わかってる?」
「えっと……あんまりわかってないかも……」
「はは……ちょっと難しかったかな?」

こんな感じに少し湿っぽくなりながらも、姉妹仲良くお話しているのを和やかに見ていた時だった。


「おや、姫じゃないか!」
「ん?あ、リライア!」

闘技場の向こう側から、灰色の瞳に赤い髪をもつヴァンパイアらしき魔物と、そのヴァンパイアに日傘を携えた執事らしき男性がこちらに向けて駆け足で来ていた。
レミィナさんの反応からして、おそらく何度か話に出ていた領主のリライアさんだろう。

「ベンも久しぶりね」
「お久しぶりです、レミィナ殿下」
「どうしたのこんなところで……ってまあ大体の予想はついてるけどね」
「何、ただの視察さ。何か面白そうな事が起こるかもと思ってたら案の定だ。いつからこの街に居たんだい?」
「ついさっき、丁度お昼前よ」

本当に二人とも仲良しなのだろう……そこに居るのはリリムとこの街の領主ではなく、二人の仲良しな女性だ。

「丁度わたしと同じように……って言っても理由は全く違うけど、旅をしている妹御一行に遇ったから案内してあげてたの」
「妹……ああ、この子かい?」
「ええ。あの町に居た頃のわたしに似てるでしょ?」
「まあ……姉妹なら似ていても不思議ではないだろう。名前はなんというんだい?」
「アメリだよ!えっと……」
「リライアだ。アメリの姉であるレミィナ姫とは仲良くやらせてもらっている。こっちは執事のベンだ」
「どうも、私はベンです」
「わかった。リライアお姉ちゃんとベンお兄ちゃんだね。よろしくね!」

そしてレミィナさんの紹介で私達の事に気付いたようだ。
優しい笑顔でアメリちゃんや私達に自己紹介をするリライアさんは、とてもプライドの高いヴァンパイアには見えない。

「たしかに小さい頃の姫にそっくりだが……」
「ん……うみゃ!?」

……うん、アメリちゃんのほっぺを唐突につまんでむにむにと動かす様は貴族なヴァンパイアというよりレミィナさんの親友といえるだろう。

「こんな感じにほっぺをプニプニ出来る分姫よりは近付きやすいな。小さな頃は本当に魅力的で簡単には慣れなかったからな」
「それはきっとリライアが成長してるからじゃない?」
「むみゅぅ〜……」
「それにしても面白いな。ベン、お前も触ってみるか?」
「滅相もございません。流石にレミィナ殿下の御姉妹の方を無暗に触るなんて出来ませんよ」

今日はこんな調子が続くかもしれない。
まあアメリちゃん本人も喜んでるみたいだしいいかな。

「ヴァンパイアなのに昼間から外に出歩いてても良いのですか?」
「おや、エンジェルとは珍しい……ちなみに昼間でも問題無いよ。なぜならベンが護衛として就いてくれているからね」
「そうですか……」

セレンちゃんは露骨に嫌な物を見る目でリライアさんを睨んでいる。
まあ上位の魔物なうえにこの親魔物領のボスだし、少し前まで教団に居て未だに割りきれていないセレンちゃんじゃリライアさんに良い感情を持ってなくても仕方はいだろう。
いい加減魔物に慣れたらいいんだけど……やっぱり簡単にはいかないようだ。

「アメリ、それと他の方達も、この街は気にいってくれたかい?」
「うん!」
「はい!まだ全部は回ってませんが、魔物も人も入り混じって、活気のある良い街ですね!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」

それにしても、本当にこの街は面白い。
まだまだ全体の4分の1すら見てはいないが、それでも活気のある人魔共栄された街だとわかる程だ。
それを目標としている為か、そう伝えたらリライアさんは嬉しそうに笑っていた。

「……」
「あれ?どうかしたのセレンちゃん、ぼーっとして……」
「えっ、あ、いやなんでも……」

そんなリライアさんの顔をぼーっと見ていたセレンちゃん…何か思った事でもあったのだろうか?

「まあそっちも仕事あるようだし、わたし達もサバトとか私設軍とかリライアの家とか見に行くから、また今度お話しよう!」
「ああ……って私の家に行っても仕方ないだろ?」
「立派な家の外見を見に行くだけ。そこでリライアの事紹介しようとしたんだけど、ここで遇ったしね」
「そういう事か……泊まるところとか決まってないのであれば、今夜はアメリ達も家に来るといい。この後用意しておこう」
「あらそれは大助かりだわ!夜にあのホルスタウロスのミルクを使ったシチューを売っているお店で夜を食べた後に向かうわ。ふかふかのベッドお願いね!」
「私達も良いのですか!?」
「ああ。これも何かの縁だろうし構わない。どうせ姫は夜はフィッケル(ヴェルナー)に伽をしてもらうのだろうし、他の者もそれぐらいしても良いぞ」
「いやそんな関係には誰もなってないのでやりませんが……ではお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ。その代わりと言ってはなんだが、君達の旅の話を聞かせてほしい」
「わかりました!」

そして別れ際に、リライアさん自身からのお誘いで領主邸に泊めさせてもらう事になった。
どうやら私達の旅の話を聞きたいらしい……やはりレミィナさんの友人であるから、好奇心なども強いのだろう。

「じゃあねリライア。また夜に!わたし達が来るのを忘れて夢中で腰振ってないでね〜」
「ああ……ってなんでそうなる!?」

そのまま私達はリライアさんと別れ……

「ちょっと皆……そこの草の陰に静かに隠れて……」
「え?」
「いいからいいから。たまにはプライベートモードの二人も見たいからお願い」
「はぁ……」

二人から見えなくなったところで、何故かレミィナさんが隠れろと言い出した。
プライベートの二人って……この場所から様子が見えるのはリライアさんと執事のベンさんだけなのだが……いったい何の事なのだろうか?

「まったく……姫も変わってないな……」
「左様でございますな、領主様」
「お前もそう思うか……ところでベン、今は二人っきりだと思うのだが……」
「えっ…………」

一見二人っきりになったリライアさんとベンさんの二人……

「しかし領主様……」
「なんだ、二人っきりの時の呼び方を忘れてしまったのか?」
「……いや、わかったよリーア」

その途端、ベンさんのリライアさんに対する呼び方や態度が変わった。
リーアというのはおそらくリライアさんのあだ名だろう……

「なんだ?何か気になる事でもあるのか?」
「いや……たとえ周りに人がいなくても一応外だからな。しっかりした態度の方がいいと思ってな」
「そうか。でも寂しいじゃないか。折角今は二人っきりだというのに……」
「わかったわかった。悪かったよ」

その様子は執事と主ではなく、まさに……

「えっと……あれって……」
「サマリちゃん、小さい頃に出会った二人が結ばれるのって素敵だと思わない?」
「まあ……って事はつまりあの二人はそういう事ですか?」
「その通り、立派な夫婦よ」

やはり思った通り、あの二人は夫婦の間柄だったらしい。
プライベートな二人というのはそういう事だったのかと思いながら、もう少し二人の様子を覗き見し続ける。

「しかし、本当にあのアメリとかいう妹は可愛かったし素直そうな子だったな……小さい頃のリーアとは大違いだ」
「おいそれはどういう意味だ?」
「一言目に「一緒に遊んであげても良いぞ」だなんて言い放ったのはどこのどいつだよ?」
「う……よく覚えてたなそんな事……」
「その後にリーアと呼ぶって言った時も文句垂れてたし……うみゃああああんとか言って涙目になってさ」
「やめろ!覚えていたのは嬉しい気もするが恥ずかしさが込み上げてくる!」


「……失礼かもしれませんが、なんか面白いですね……」
「でしょ?」

先程まではしっかりとしていたリライアさんが、同じくひっそりとしていたベンさんにたじたじにされているのを見ているのはなんだか面白かった。

ゴホンッ!いやあしかし懐かしいな……お前と私の出会いはそんな感じだった」
「話を変えようとしたな……まあいいか……そうだな。アメリがあの頃の姫とそっくりだったから色々と昔を思い出したよ……」
「だな……」


「……あれ?」
「ん?どうかしたのカリンちゃん?」
「いやな……なんかベンさん、ちょくちょくこっち見とるような気がしてな……」
「いや、気のせいでは無い。姫、確実に執事の方は私達に気付いています」
「ん〜……そのようね……」

だがしかし、リライアさんはともかくベンさんは私達が覗いている事に気がついているようだった。

「まあ、俺があの頃のリーアに惚れていたのも事実だがな」
「な……馬鹿、そういう事を不意に言うな……照れるじゃないか……」
「はは……」


「仕方ない……そろそろ出てこいみたいな視線も送られてるし、リライアにバラすか……」
「どうするんですか?このまま出ていくのですか?」
「いやあ……それじゃあつまらないし、ここは……」

しきりにこちらに視線を送ってくるベンさんに、レミィナさんは隠れる事を止めるようだ。
リライアさんにぶつけて気付かせるつもりなのか、地面に転がっていた小石を拾い……

「行け、ファイナルインフェニットストームサンダー七号!
「……はい?」
「また石ころにそんな名前を付けて……」

なんだかよくわからない長々とした名前を付けたその小石を、リライアさんに向け投げた。

「今日は姫達が来るが、話をした後は……あいたっ!?」
「どうかしたのか?」
「いや、今何かが後ろから頭に……って姫!?」

見事頭に的中し、リライアさんはこちらに気付いたようだ。

「な、なんでまだそこに……」
「ゴメンね。素のあなた達面白かったわよ」
「ずっと居たぞ。やっぱり気付いていなかったんだな」
「なっ……ベン、気付いていたならそう言わないか!」

私達が覗き見していた事がわかった瞬間、顔が髪と同じように真っ赤に染まっていた。
やはり恥ずかしかったらしい……涙目でレミィナさんを睨みつけている。

「いやぁ……わたしもたまにはあなたをあひぃって言わせてみようかと……」
「ひ〜め〜!!」

あひぃって……悲鳴だろうか?
まあおそらくさっきまでの話の流れからして幼い頃のリライアさんの口癖か何かだろう。

「ホントにお姉ちゃんたちって仲がいいんだね……」
「ま、まあ……どうかしたのか?」
「アメリにもヴァンパイアのしんゆうがいるからちょっと思い出しちゃった。今ごろ何してるのかなって……」
「なるほどね……」

そんな二人のやりとりを見ていたアメリちゃんは少し寂しそうだった。
リリムとヴァンパイア、それはアメリちゃんとフランちゃんも同じだ。
だからきっと、魔王城に居るフランちゃんの事を思い出したのだろう……元気にしているかな……

「まあ、そろそろ本当に行くね。視察頑張ってね」
「もう絶対どこかで覗いていたりしないでくれよ?」
「それはどうだろう……ウソウソ、冗談だから睨まない」
「まったく……」

そのまま私達は今度こそ本当にその場から立ち去ったのだった……



====================



「いやぁ……サバトって色々やってるんですね」
「ええ。仕切ってるバフォメットによって色々違うのよね」

現在18時。
中央区を観光した私達は、レミィナさんが言っていたあの料理店に向かっていた。
時間も丁度良く、日も暮れて来て、程良くお腹が空いてきた頃だった。

「魔力を使って動く機械か〜……なんだか俺の妄想が実現した感じだったな……」
「私のシュトルヒもそこで魔力で飛べるように改造してもらった。おかげでガソリンの無いこの世界でも空を飛べる」
「そうか〜しまったなぁ……この世界じゃ使えないからって持ってた携帯電話捨てちまったからな……取っておけばもしかしたら使えたかもしれないのか……」
「電話か……一台しかなければ意味が無いのでは?」
「あーまあ電話としてはどのみち使えはしなかったでしょうけど、カメラやビデオ機能も付いていますし……」
「それ本当に電話なのか?信じられん……」

あの後私達はサバトを見学させてもらったが、とにかく凄かった。
なんでも魔力で動かす機械の研究をしているらしく、資料や機械が沢山あった。
ユウロなんかずっと目を輝かせていた程だ……ヴェルナーさんもだが、男の人って皆ああいった機械が好きなのだろうか?
そんなヴェルナーさんの飛行機もその技術で改造したものらしい……実際きちんと飛べている辺り、相当技術力はあるのだろう。

「ほら着いたよ。人はいっぱい居そうだけどわたし達が入っても問題なさそうだし行くわよ!」

なんだかんだと会話をしているうちに、目的地に辿り着いた。
この街に来てからずっと気になっていたお店『ビストロ・ミンス』。中からミルク系のいい匂いが扉の外まで漂ってきている。

「いらっしゃいませ!ってレミィナ姫!!お久しぶりです!!」
「久しぶりねシャルル君。元気?」
「はい、元気です」

お店の中に入ると、私と同じ位の歳だと思うウェイターさんが対応してくれた。
どうやら……というか、やはりレミィナさんの知り合いらしい……この街でレミィナさんの事を知らない人は居ないんじゃないかという程今日会った人はレミィナさんの事を知っていた。

「っと、お連れの方が多いようですね……」
「ええ。旅をしているわたしの妹御一行様よ。偶然遇ったからこのお店を紹介したくて連れて来ちゃった」
「それは嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」
「店長さんも久しぶり。いつもの人気メニュー、人数分お願いね」
「はいよー!」

そして奥からシェフだと思う男の人……曰く店長さんが嬉しそうに出てきた。
人気メニューと言って注文したので何かはわからないが、店の中を見渡すと……

「シチュー……かな?」
「その通り。ここのシチューは格別よ!」

いろんな魔物と人間が沢山いたが、かなりの人達がシチューを食べているのが見えた。


「お久しぶりですレミィナ殿下!!」
「そんな固くならないでカナン。ヒューイーさんも久しぶりね」
「お久しぶりです。相変わらず高貴な匂いをしてますね」
「お前……いくら匂いフェチでもいきなりそれは無いんじゃないか?」
「まあええやないのオーギュはん。それにしても旅人か〜」
「げっ、稲荷がおる……」
「えっどうかしたん?ウチなんかした?」
「気にしないでください。カリンはちょっと稲荷にトラウマ持ってるだけですので」
「はぁ……まあええわ。それにしても、この子が妹さん?」
「妹……という事は、この子は、リリム、ですか?」
「アメリはリリムだよ!!」
「はは、元気な子だ」

席に案内された後、周りにいた他のお客さん達も私達の周りに集まってきた。
それは本当に多種多様というのか……稲荷にリザードマン、デュラハンにセイレーン、それに昼間に見掛けたドッペルゲンガーにマンティス、あとはケンタウロス……の亜種だろう黒い毛並みの人にそれぞれの旦那さんらしき人がいた。
旅をしている事やレミィナさんの妹であるアメリちゃんに興味が湧いたらしい……ぞろぞろと集まってきた。

「ま、魔物がわらわらと集まってきて……ん?何か森のような……とにかくいい香りが……」
「ああ……それは私が付けているヒューイーお手製の香水の匂いだ」
「あ、ヒューイーというのは俺の事です。この街で調香師をしています」

たしかにセレンちゃんの言う通り、お店の食べ物の匂いに混じって森の匂いというか……とにかく樹木系の爽やかな香りがした。
どうやらカナンと呼ばれたリザードマンさんが付けているらしい……さっきも一緒の席にいたのでおそらく夫婦の間柄なのだろう。

「調香師?ほなあんたは香水でも売っとるんか」
「その通りです。どうやらあなたは商人のようですね」
「おう!ウチは雑貨を扱っとる商人や。もしかして他にも職人や商人がおったりするん?」
「居るというか……ここに居るほとんどが何かしらの職人よね、ペトナちゃん?」
「そう、ですね」
「へぇ〜!」

ペトナと呼ばれたどこか呂律の回らないマンティスさん曰く、この場にいるほとんどの人が職人らしい。
リライアさんがそういった人達を集めてるとは聞いていたが、こうも集まっているとは思わなかった。

「ウチは東方医学を伝える仕事しとる紺や。そんでこのウチの旦那さんでオーギュはんは仕立屋、つまり服屋をやっとる。そこの楽器持っとるエーリッヒはんとセイレーンのリウレナはんは音楽家。クルトはんとライジェはんの兄弟とドッペルゲンガーのウルリケはんとペトナはんは屠殺人……まあ肉屋さんやな。んでレヴォンはんは理髪師でナイトメアのイリシャはんはその恋人。カナンはんとデュラハンのレイチェルはんは私設軍の軍人……レイチェルはんは正確には魔王軍の人やな。ちなみにここで働いとるシャルル君の恋人や」
「そ、そうですか……」

カリンと同じような喋り方の稲荷の紺さんが一気に紹介してくれたけど……早口で思考が追いつくまで時間が掛かった。
とにかくいろんな職人さんや私設軍の人が集まっているという事らしい……なんという偶然……いや、普段からこのお店はこうなのかもしれない。

「しかしなんというか……本当に多種多様な人がいますね」
「でも皆明るいなぁ……」
「まあね。でもこの街はいろんな『ワケ有り』の人が集まっているから、大変だった事もある。俺も見てわかると思うが、この顔の火傷と包帯のせいで故郷では気味悪がられたりしていた。リウレナだって教団の連中に喉をやられセイレーン特有の声を失ってしまったしな…」
「そう…ですか……教団が……」
「まあでもリウレナだって他の道を切り開けたし、他の者もそれぞれ道を切り開いている」
「この店の店主であるコルバもそうだが、結構反魔物領出身の奴も多いんだ。それでも皆この街で楽しくやっているよ」

明るい人ばかりだと思っていたが、そんな皆さんも過去にはいろんな苦労があったらしい。
その苦労は詳しくは聞かなかったが、それでもこの街で店を構え、伴侶を見つけ頑張っている……
一言で言ってしまえば、とてもカッコいい。

「リウレナお姉ちゃんはどんな道を見つけたの?」
「それは……そうだな、実際観てもらった方が早いか……コルバ、ここで演奏しても良いかい?」
「もちろんいいぞ!」

そんな苦労した人の一人、リウレナさんが見つけた道というものが気になったので、ケーリッヒさんが何か演奏してくれるそうだ。
店長のコルバさんに許可を貰い、脇に置いてあったギターを手にして……

「では1曲目、アルフェン島民謡波風まつり」

指先でギターを弾き、演奏が始まったと同時に、横で立っていたリウレナさんは……


「……おおっ!」
「凄い……」
「綺麗……」


青い翼を大きく開き、曲に合わせて舞い始めた。
エーリッヒさんの奏でる曲に合うように、軽やかにステップを踏み、自由自在に宙を舞う……その姿は優雅であり、美しく、音楽にさして興味の無い私も強く惹き込まれる。

そして、曲が終わるにつれて動きは緩やかとなり……終わると同時に静かに締めくくられた。

「すっごーい!!」
「やべえ!なんて舞だ!」
「曲も良かったけど、踊りとはたまげたわ〜」
「……凄すぎて感想が出てきません……」

まさに曲の一部、そう言える程リウレナさんの踊りはエーリッヒさんの奏でる曲に溶け込んでいた。
曲が終わると同時に湧き起こる拍手喝采……私も皆も自然と拍手しながら、凄いなどと感想を口走っていた。


「ほい、特製ホル乳シチュー、お待ちどうさま!」
「待ってました!」
「わーいいにおいだー!!」
「おいしそうだな」
「ホル乳……いやまさか……でもそうなのでしょうか……」

1曲終わったところで、注文した料理が出来たようだ。
先程ちょろっと出て来ていた店長のコルバさんと先程のウェイターのシャルル君、そしてホルスタウロスの女性が人数分のシチューとオムレツを運んできた。
ホル乳だなんて言ってるから、きっとこのホルスタウロスさん…おそらくコルバさんの奥さんだろう…の母乳を使っているのだろう……ホルスタウロスは胸が皆大きいから本当に羨ましい。
よくみるとホルスタウロスさんは赤ん坊を背負っている……最近産まれたばかりなのだろう、可愛らしい寝顔ですやすやと寝ている。

「あれ?オムレツ?」
「旅人さんへのサービスだ。こいつが作ったんだが、結構美味いぜ?」
「へへ……お口に合えばいいのですけどね」

オムレツの方は注文した記憶が無かったのだが、どうやらサービスらしい。
しかもウェイターのシャルル君が作った自信作のようだ……艶やかな卵が眩しい。

「じゃあ早速……」
「いただきまー……」

人数分揃ったので、早速食べようとしたのだが……




バアァァァァン!!




「いよっと!お店やってるかー!!」
「教官……勢い良く扉開けたら壊れてしまいますよ……」

丁度シチューを口に運ぼうとしたタイミングで、お店の扉が勢いよく開いて、オーガの女性と若い兵士さんが入店してきた。

「やってるが……きちんとお金は持って来たんだろうなおい?」
「ああ、もちろん持ってきたさ!たとえあたしが忘れてもきちんとソラが持ってくれてる!」
「払い切れるかはわからないですけどね……もうあんな思いはしたくないので……」
「ならよし。足りなかったら強制労働だ。今度食い逃げなんぞしたら殺す
「わ、わかってるって……」

どうやら以前このお店でお金を忘れた挙句食い逃げした事があるようだ。その時の事を思い出しているのかヒューイーさんが噛み殺しながら笑っている。

「おや?見慣れない団体がいるじゃねえか」
「ん?アメリたちのこと?」
「そうそう……ん?アメリもリリムか!」
「そうだよ!えっと……」
「あたしはセシリア。ここの正規兵をしている」

そのオーガさんはセシリアさんというらしい……背も態度も喋り方も大柄である。
正規兵という事は、後ろに居るソラと呼ばれた兵士さんは部下だろう……なんとも苦労人そうな感じだ。

「見慣れないと言えば……魔物の中にエンジェル?」
「な、なんですかいきなり……下品な魔物が近寄らないでください」
「なっ!?なんだいきなり……」
「あーこの子はちょっと訳ありで……一応今は私達と旅してますがほんの少し前までは教団に所属していたので……」

そんなセシリアさんは、初めてエンジェルであるセレンちゃんがいる事に突っ込んできた。
皆無反応だったので普通かと思ったが、やはり見慣れないものではあるらしい。

「何故天使さm……エンジェルが魔物と共に?」
「……魔物化したと告げられ、死刑されそうになって必死に逃げて、追手に殺され掛けて助けられたから……」
「な……結構大変な目に遭ってるんだな……」
「それは辛かったのでは?」
「そ、そうなのですか〜。それはた、大変だったのですね……」
「元気出せよ!」
「な……ま、魔物の同情なんか要りません!!」

事情を簡単に説明すると、やはり皆さんはセレンちゃんを心配した。
だがセレンちゃんは同情なんかいらないとそっぽを向いてしまった……顔を真っ赤にしながらなので、おそらく本当は嬉しくてただの照れ隠しだとは思うけど。

「エンジェルさん」
「セレンです」
「ではセレンさん……先程魔物になったと言いましたよね?」
「ええ……」

そんなセレンちゃんに、ソラさんは真剣な面持ちで語りかけた。

「それはもう自分の中で受け入れています?」
「……それは……」
「では……今日1日、この街を見てどう思いました?」
「……」

そう聞かれたセレンちゃんは、考えるように俯いて……

「……人も、魔物も、皆が楽しそうに笑い、語ってましたね……」

下を向いたまま、静かに今日一日このルージュ・シティを回った感想を語り始めた。

「人間の子供達と一緒に居た魔物の子供達は、皆可愛かったです。元人間のローパーにも会いましたが、魔物になった自分も大切だと言ってました。領主であるヴァンパイアにも会いましたが、レミィナさんと話している姿はワタシ達と何も変わりませんでした。今このお店には沢山の魔物がいますが……皆明るく……魔物も人や神族達と何も変わらない……」

時折悩ましげにしている事があったけれど、今日一日でいろんな魔物に出会って、色々と思った事はあったようだ。

「それに……」

顔をあげ、食べ損なっていたシチューをスプーンで掬い、口に運んだセレンちゃん。

「このシチューも、魔物の体液が入っていようが、魔に堕ちた者が作っていようが……美味しいものは美味しいです……お昼に食べたパンも同様でした……」

一口食べ、スプーンを置いてからまたそう呟き始めたセレンちゃん……
心なしか……鼻声になってる気がする……

「セレンさんと同じように、僕達も、魔物達も生きている。人も魔物も平和に笑い合っている……そう感じましたか?」
「はい……ワタシ達と何一つ違う事無く……温かかった……」

そして……セレンちゃんは……


「ワタシは……今まで魔物は絶対的な悪と決め付けて……この笑顔を奪っていたんだって……その魔物と人間の平和を奪っていたんだと後悔すると同時に……魔物になったワタシの……何が嫌がる必要があるのかと……そう、思えてきました……」


涙を流しながら、今まで多くの魔物を倒してきた事への後悔と、自分が魔物になっている事を受け入れられてきたと語った。

「でも……これでいいのかわからなくて……本当に魔物を受け入れていいのかと疑問が出て……何が正しいのか見当がつかない自分も居て……」

でも、それが正しいのかはまだ悩んでいるらしい……

「それでいいのですよ。何が正しくて、何が間違っているのかなんて、そう簡単に答えは出ません。セレンさんには悩む時間がある。だからこそ自分の納得する答えが出るまで悩めばいいのです」
「そうですか……そう、ですね……」

それでも、ソラさんが言う通り結論を急がず、大いに悩んでから答えを見つければ良いと思う。
セニックに会うまでか、その先まで悩み続けるのか……どちらにせよ、私はそんなセレンちゃんを見守ろうと思う。

「ってそれを私設軍であるあなたが言ってもねぇ……」
「そうそう。かの強大な元反魔物国家出身の俺達が言うならともかく、私設軍の人間が言ってもなぁ……」
「ええっ!?い、いいじゃないですか!!」

なんだかしんみりとした空気をぶち壊すかのようにレミィナさんがそう発言した事によって、元の明るい雰囲気が戻ってきた。

「まあ……でもスッキリしました。まだ魔物には少し拒絶反応が出ますが、それでも慣れていく事が出来そうです。ありがとうございました」
「え、あーまあ……どういたしまして」
「おっしゃ!なら今日は裸の付き合いと行くか?」
「いやなんでそうなるのですか!?これだから狸は……」
「なんや?別に狸は関係ないやろ?」
「狸……って事は花梨はんは刑部狸なん?」
「あ……ああそうやで。人化の術の強化特訓中やでこの姿しとるんや」
「へぇ〜す、凄いですね〜」

そのまま店内はまた明るい雰囲気が包みだしていた。

「……まったく、ソラったら……おし、店長!酒だ!!パーっとやろうぜ!!」
「あいよ!金は絶対に払えよ!!」
「だからわかってるって!!」

どこか優しく見守っているような雰囲気を出していたセシリアさんも、一緒になってはしゃぎ出した。

「おっと!折角の料理が冷めちまう。その前に食べようぜ皆!」
「そうだね。じゃああらためて……」
「うん!いっただっきまーす!!」

私達も、未だ食べていなかったシチューとオムレツを食べる事にした。

「あむっ!ん〜とろける〜!!」
「オムレツも味がきっちりと付いてて美味い!」
「そう言ってもらえると嬉しいぜ!」
「ありがとうございます!」

シチューを一口食べる……じゃがいもが程良い柔らかさでクリーミーな味わいで、ハーブも数種類入っているのか香りが広がる。
ホルスタウロスミルクのコクの深さが野菜とマッチしていて、野菜の旨味が舌に溶け込んでくる。
鶏肉も柔らかくて、噛めば噛むほど味が染み出してくる……
オムレツの方も一切れ口の中に運ぶ……これまた柔らかで、ソースに卵がマッチしていておいしい……
作り方とか教えてほしいけど……流石にこのプロの味は再現できなさそうだ。


「なるほどな〜花梨はん稲荷にそんな事されたんかいな」
「せやねん。同じ稲荷としてあんたはどう思う?」
「う〜ん…男連れてバックレたってのは気に食わんなぁ……独占欲はわからんでもないけど、花梨はんの事わかっとってやったんならドアホと言いたいわ……」
「お〜わかってくれるんかいな!あんた稲荷だけどいい奴やわ〜!!よーしあんな奴の事は忘れる為に今日は飲むでー!!」
「店主はん!」
「あいよっ!」


そして私は、食べながら店の様子を見渡してみた……
カリンは喋り方が似ている為か、それとも同じジパング出身だからか稲荷であるにも関わらず紺さんとすっかり意気投合して仲良く飲んでいる。


「ふみゅ……んむぅ……」
「あ、お、起きちゃった〜?」
「ほわあ〜赤ちゃんかわいい〜!!」
「あ、ありがとうございます〜!コルバさんとの愛の結晶です〜!」


アメリちゃんはミンスさんが抱いていた赤ちゃんを見ていた。
珍しくご飯に執着してないなと思ったら、既に半分以上食べ終えていた……早いなぁ……


「では次の曲、お聴き下さい」
「……いい曲ですね……」
「ですよね……」
「ぷはーっ!やっぱこの店は酒も食い物も最高だぜ!!店長もう一杯!!」
「もう……折角のいい曲なのにうるさいです……」
「ですね……」
「はは……すみません……」


セレンちゃんはセシリアさん、ソラさん、イリシャさんやその他の人達とエーリッヒさんの演奏を聴いていた。
もちろんリウレナさんの華麗な舞もある……セシリアさんは食べるのに夢中になっているようだが。


「そうですね……メール機能もあれば赤外線通信だって出来ましたよ」
「それは本当に電話なのか?誰とでも通話可能な携帯式の電話という時点で眉唾ものなのに聞けば聞く程謎の道具に聞こえてくるのだが……」
「ま、それだけ技術の向上があったというわけですよ。あ、そうそう。俺が持ってたやつは好きな音楽を沢山入れて再生したり出来ましたよ」
「な……何を言っているのか……君と私は似たような世界から来ているはずなのにカルチャーショックを感じるのだが……」
「まあ仕方ないですね。それを言ったらヴェルナーさんが生きていた時代から50年前の人は人が乗れる飛行機だって信じられないと思いますし」
「たしかにそうだが……実物を見てみたかった……」


ユウロはヴェルナーさんと訳のわからない会話をしている。
おそらくあちらの世界に関する話題だろうけど……話に割り込む事は出来無さそうだ。


「もう……あれじゃあ絶対に会話に混ざれないね」
「ですね……」

だから私は、同じくヴェルナーさん達の会話に入れないレミィナさんと二人お喋りしながら、皆の動きを背景にご飯を食べる。

「明日は……どこに行こうかな?」
「どこを見てもこの街は面白いのでどこでも……あ、でも港の方に行ってみたいです」
「じゃあ決まり!明日はリライアの家を出たらそっちに行くわよ!」


明日の観光を楽しみにしながら、私はおいしいシチューとオムレツを頬張るのであった。
13/01/20 00:56更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
という事で今回は空き缶号さんの作品の舞台となっているルージュ・シティに訪れました!
ちなみに参考にした作品は『ルージュ街の、唄えない鳥』『ルージュ街の、ある料理人』『ルージュ街の、ある鬼教官』『ルージュ街と傭兵(悪食の場合)』『ちびっ子リリム レミィナ』『ルージュ街の屠殺人(弟と影及び兄とカマキリ)』『ちびっ子ヴァンパイア リライア』『ルージュ街の見習い料理人と首無し少女』『ルージュ街の稲荷と、不器用な仕立屋』『ルージュ街の調香師とリザードマン』『風来リリムと異界の鳥人』『ルージュ街のパン屋とラミア』『ルージュ街のナイトメアと、夢見る理髪師』となります。
かなりの数になってますがもっとルージュ街シリーズはありますし、どの作品もそれぞれのキャラが自分の思いや悩み、信念などを見る事が出来ますので、未読な方は是非この機会に読んでみて下さい。
空き缶号さん、今回の話で違和感を感じた事やおかしな点があったら遠慮なくいかなる手段を使ってでも言って下さい。指摘が入り次第訂正します。
特に今回は風来のリリムことレミィナ姫が掴み辛く何度も書き直したので……ぜひお願いします。

次回は久々のお風呂シーンと、あのシリーズの武器の所有者が登場!……の予定。

それと、前回言った通り、コラボは今日この時を持って締め切らさせてもらいます。
感想やメールで何通か貰い、まだ返信していない方もいますが、もう少しお待ち下さい。
こちらもむやみやたらに無計画ではコラボ出来ないので、出来そうか検討中ですので……まだ返事が来てないという方は済みませんが数日以内には必ずメールを送りますのでもう少しお待ち下さい。
なおコラボは締め切りましたが、逆にアメリ達を使いたいという場合は引き続き……どころか、この連載が終わった後でも連絡さえしていただければ貸し出します。

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