連載小説
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ドライヤー
 
〜濡れたまま出歩かないでください〜

今日も結構な予約数だった。予約があるのはとても良い事なんだが・・・たまには飼い主自ら洗ってやらないと愛情が無くなってしまうぞ。ペットには愛情と苦労が必要だというのに可愛がるだけなら子供にでも出来る。とは言え、俺みたいなトリマーはそういう客が居ないと成り立たないってのが言ってる事と矛盾してるよなぁ。まぁでも、犬や猫の毛をもっふもふもっさもさにした瞬間が好きだからトリマーやってんだけど。あのふわふわ感を一番先に触れるのが俺の特権!今日も頑張って8回ももっふもふにしてやったぞ。

「今日の手触り感はなかなか良かったな・・・」

最近は手応え感ばっちりだ。やはり先日、ネコマタの子をふわふわにしたのがいい経験になったんだろう。また誰か来ないかな・・・ワーウルフの子とかワーラビットの子もふわふわ感が出そうでいいな。でもなんだ・・、なんで普通の美容院に行かずにこっちに来るんだろ?どう考えても向こうのほうがその手に関してはプロだろ。ま、それは俺が考える事じゃないな。んじゃ今日は早めに仕事終わったし、久しぶりに銭湯行くか。



やっぱり久しぶりだからボディシャンプーもリンスもほとんど空のままだったか。家の風呂に置いてあるやつの中身を少しだけ抜いて詰めていって・・。っととと、ちょっと零れてしまった。勿体無い・・。

「こんなもんか。よっと・・行くか」

あの銭湯に行くのもどれぐらい久しぶりかな。トリマーの学校行きだしてから一度も行ってないし、職に就いた後も全く行ってなかった。何年振りに行くんかな?あれからもう何年も経ってるから色々と変わってるんだろうなぁ。


「・・・・・・・」

あれ・・・?こんなにでかかったっけ?前に来た時はもっとこう・・落ち着きのあるこじんまりとした銭湯だった・・と思うけど。ん?なんか張り紙してあるな。


『改築・増設いたしました♪』


そっか、とうとう改築したんだ。そうすると・・新しい浴場もあるって事か。ちょっと期待しよう。

「こんばんは」

「いらっしゃ〜い♪・・・・あら?どこかで見た気がするんだけど・・?どこだったかしら?」

「う〜〜ん・・・俺もなんだか見覚えがあるんだけど・・どこだっけ?」

「「・・・さぁ?」」

(最近見たはずなんだけどねぇ・・・?)
(最近見たような気がするんだが・・・?)

ま、いいか。御互い覚えてないって事は印象薄かったって事だろうし。さて、久しぶりの金玉の湯、どう改築したのか見物だな。・・んんっ!?確か前は此処に籠が置いてあってそこに服を入れて・・・・あれぇ?脱衣所こんなに広かったか?あ、そうか・・改築したんだから当たり前か。奥のほうに籠を移動させたみたいだな。

「ここの風呂に入るのは本当に久しぶりだ。・・・、んんんっ!?ガラス越しに砂場が見えるぞ!・・・まさか、銭湯に砂風呂を・・・とりあえず、さっさと入ってみるか」


-カララララララララ……-


マジだった・・・、本当に砂風呂がある。確か此処には・・サウナ室があったような記憶が・・。6畳ほどだがしっかりとした作りじゃないか。これなら一度に4〜5人は寝れそうだ。今日は時間的に無理だから今度時間に余裕がある時に砂風呂に入ろう。次来る時が楽しみだ。

「結構色々と増えたんだ・・。うぉっ!?外風呂に五右衛門風呂設置だと!?」

こ、これは・・入らなければ・・。だが今日は早く帰りたい気分だし。くそっ、今回は下見だけして我慢するしか無いのか。仕方ないか・・・


「こら、待ちなさいっ!!」
「うっせ、アタシに指図すんなよ」
「いい加減にしないと本気で怒るわよ!」
「へっ・・、やれるもんならやってみな!」


女湯が五月蝿いな。はぁ、・・新しい風呂は諦めて帰ろう。ま、どうせ時間はまた取れるし、来ようと思えばいつでも来れる。


-カララララララ……-


今日は久しぶりに銭湯に来たが、いい収穫になった。今度は砂風呂もいいなあ。いや、外風呂もなかなか魅力があって。って、憩い場が五月蝿いな。おお?ドライヤー自由に使っていいんだ。ラッキー♪


「とうとう追い詰めたわよ・・・」
「この程度でアタシを追い詰めたと思ってんのかい?そらよっ!」
「アッ!?・・このぉ・・」


本当にうるせえなぁ・・・、一体何やってんだか。おっし、髪も乾かしたし帰ろ。


・・・ん?うわっ!?床一面びしゃびしゃじゃないか!?ぅぁ〜・・・靴下が・・。・・・原因は女将さんと・・あのずぶ濡れ犬っころかああああああ!!ゆ・る・さ・・・・んん?あの犬っころ・・良く見ればなかなか良い毛並みをお持ちで・・・。こ、これは俺の腕が疼く!!脱衣所から急いでドライヤー持ってきて!!そして・・・おもむろに犬っころの首を掴み!!

「いってーーーーっ!?いきなり出てきてアタシに何しやがんだーー!」

「えっ?え・・?これって何なの!?」

「コンセントおっけー!!スイッチオーーン!!」

-フォォォォーーーーン・・・・-

「まずは首周辺から入りまーす」

「アアアアアアアアアアアアアアアア♪」

「・・・・アーーーーーッ!思い出したわ!貴方は確かトリマーコンテストで優勝した・・。それにこないだ私の尻尾を・・」

「・・・あぁ、そうでした。言われて思い出した。そうそう、先日は御予約ありがとうございました」

礼を言いながらでも手は止めない。次はこのぼさぼさになった髪!!根元からしっかり乾かし・・・・櫛・・は無いので、得意の手梳きでカバー!

「ワフゥゥァァァッァァァ・・・・♥」

跳ねた癖毛も柔らか仕上げ!はい、腕に入りまーす。

「アヘェェァァェァ〜〜〜♪・・・しょ、しょんにゃに腕揉むなぁ〜〜〜♪」

「へぇ〜〜〜、間近で見るとやっぱり凄い腕前ねー。あの暴れん坊がこんなに大人しくなるなんて不思議ね」

「は〜〜い、腕終わりましたから此処に座ってー」

「・・・わふぅ・・」

はい、ワンちゃんが大人しく座ったところで足のマッサージから。

「アッ♪アッ・・アフン♪ワフッ♪ワゥゥゥゥ・・・♥」

ワンちゃんがリラックスしたらしっかりと太腿から乾かしていきましょう。ここで下手につま先に触れて蹴られたり咬まれないように気を付けましょう。

「は〜い、大人しくして綺麗に乾かしましょうねー」

「・・・・・・・・・」

「はい、これで御終い。・・・ふぅ、久々に良い仕事をした・・」

すっきりしたし帰ろうか。

「・・・・ちょっと待て」

「何だ?」

「アタシを犬っころみたいに扱いやがって!!アタシを誰だと思ってんだ!?」

「知らん」

元気な跳ねっ返りの子だな。俺の仕事は済んだ、さっさと帰る。

「・・・ふんっ!オマエ気に入ったぞ。アタシに楯突くヤツなんて面白い。オマエ、今日からアタシ専用のドライヤーだ、いいな?」

「知らん」

どうしようもない我儘娘だ、関わってると時間がどんどん惜しくなってくる。あまり深入りしない内に去ろう。

「待て!逃げる気か!」

「他人様に迷惑掛けるような子に興味は無い!」

「・・・・ぐっ・・」

流石にこれを言えば黙るだろ。ところで、女将さん何で俺の頭ナデナデしてるんですか。

「あの子を黙らせるなんて凄いわねぇ〜♪お姉さん関心しちゃった♪」

あ、あの・・・いつまで頭撫でてるんですか。これ以上は恥ずかしいんですけど。

「それじゃ、俺はこれで」

「あら残念。あ、そうそう。今度また予約するわね♪」

「ありがとうございます」

「・・・・ッ!・・・待て!」

あー、もう・・また絡んできた。俺に一体何をしたいんだ。

「・・・アタシの・・」

はいはい、毎日ドライヤーになれって事ね。

「何度でも言う。断わる

「・・・」

さっきまで元気だったのに尻尾がダランダランになってる。よほど堪えたみたいだな。・・・しょうがないなぁ。

「他人様に二度と迷惑掛けないって約束するんなら、偶には乾かしてやるぞ」

「・・・ウゥゥゥ〜〜・・・・」

「返事は?」

「ガ・・・ガゥッ!!」

はい、よくできました。全く・・こんな事ぐらいで拗ねてちゃ子供に笑われるぞ。よーしよし、イイ子だ・・・・。御褒美に頭ナデナデだ。


「ガウッ!!」



-ガブッ!!!-







             『あっ・・・・』

15/03/16 21:45更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
今回のテーマ 『ヘルハウンド』『ドライヤー』『トリマー』でした

目指せ50話!!・・・・・いけるといいな。

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