連載小説
[TOP][目次]
旅47 堕ちた天使の決意とこれから
「あーめあーめふーれふーれ♪」
「アメリちゃん楽しそうやな〜ウチ雨嫌いやわ〜……」
「私も……ワーシープになってからは湿気で毛皮がゴワゴワしちゃうからあまり……」
「えー、雨は雨で楽しいじゃん!」

現在14時。
無事に人体実験されていた人達も皆魔物になったし、スズとのお別れも済ませたので、ルヘキサを出発し、カリンの荷物の届け先である『ヘクターン』を目指して旅をしていた。
それから一週間……いろいろあったけど、私達は順調に旅を続けていた。
ただ、今日は生憎の雨だ……傘を差しているので直接雨は当たっていないが、じめじめとして鬱陶しい。
でもアメリちゃんはそんな雨でも元気に明るくはしゃいでいる……流石は子供だなって思う。

「今日は早めに切り上げたほうが良いかな?」
「これ以上酷なるようならそのほうがええやろな……」
「逆に止みそうならいつも通り進めばいいだろ」
「るんるんっ♪」

今までも雨の中の旅が無かったわけじゃないけど、ほとんど晴れていたから新鮮と言えば新鮮だ。
でもだからといって楽しい物では無い。地面もぬかるんで歩きにくいし、服や毛皮が雨で濡れて重くなるから疲れも溜まる。

「そういえばカリン、届け先にいるリリムの名前ってわからないの?」
「リリムの名前はわからん。それに客の情報はたとえサマリ達でもそう漏らしてええもんやないからな」
「カリンってそういうところは意外としっかりしてるよな」
「意外とはなんや!商人としてお客様の情報を厳守するのは当たり前やろ!!」

そういえば私達は届け先にいるリリムに会いに行っているのだが…そのリリムの名前を聞いていなかった。
カリンなら知っているかなと思い聞いてみたのだが、そうでもないらしい。
なのでもしかしたら会った事あるお姉さんかもしれないけど……まあ行った事の無い街に居るリリムだし、会わないとわからないか。

「じゃあここからヘクターンって何日ぐらいかかる?」
「せやなぁ……まだ1週間以上は掛かるやろうな。ここまでもそうやったけど、いくつか間に町とかもあるしな」
「へぇ……まあ途中で町があるなら食料の問題はなさそうか……」

それであと何日ぐらい掛かるのかと聞いてみたけど……どうやら1週間以上は掛かるとの事。
ひとつ前の街で買わなかったので一瞬食料もつかなと思ったけど、辿り着くまでにいくつか町があるなら問題は無いだろう。



とまあ、こんな感じにのんびりと歩いていた、その時だった……



「らんらんっ♪……あれ?」
「ん?どうかしたのアメリちゃん?」

先を行くアメリちゃんが道の先で何かを発見したようだ。

「……ねえあれって……」
「ん?どれの事だ?」

動きを止めて、アメリちゃんが指をさしたその先には……


「……なあ、あれヤバいんとちゃうか?」
「アメリちゃん!早く『テント』を出して!!」
「うんわかった!!」




雨が降っているのにもかかわらず、全身が真っ赤に……おそらく血で染まっていたエンジェルが倒れていた。
しかもその血はそのエンジェル自身から流れているようだ……だれがどう見たって尋常じゃない状況だ。
この近くには町なんかないので、助かるかはわからないけど私達で応急手当てしなければならない。
だから私はアメリちゃんに急いで『テント』を用意するように言って、そのエンジェルの下に駆け寄った。



「なあおい……このエンジェル……」
「ん……あれ?もしかして……」
「なんや?もしかして知り合いか?」



とにかくこのままでは危ないので、『テント』の中に運ぶためにそっとそのエンジェルを持ちあげたのだが……エンジェルには見覚えがあった。



「セレンちゃん?」
「だよな……」


この場に何故か居ない勇者セニックと共に何度か私達の前に立ち憚った、エンジェルのセレンちゃんだった……




…………



………



……








「……これで大丈夫かな?」
「とりあえず流血は止まったし、呼吸もしてるから大丈夫だとは思うが……早めに病院で見せたほうがいいとは思う」
「せやな……でも大怪我やで無暗に動かせんしな……」

現在15時。
私達は大怪我していたセレンちゃんへの一通りの手当てを終え、一息吐いていた。
治癒魔法なんて豪勢なものは使えないが、とにかく止血や消毒は済ませたので一安心していいと信じたい。
テキパキと出来たのはルヘキサでの経験が役に立ったと言えるだろう。

「しかし……なんでこんな事に……」
「セニックお兄ちゃんはどこに行ったんだろうね?」
「さあな……よっぽどの事が起きているのは間違いないとは思うが……」

とりあえず応急手当をしたので一安心……だから私達に、どうしてセレンちゃんがこんな事態になっているのかという疑問が生じた。
脇腹には斬り傷、お腹には刺し傷が付いていたのでおそらく何者かと交戦中に怪我でも負ったものだと思うけど……魔物相手でここまでやられるとは思えなかった。
そもそもユウロ曰くこの斬り傷は剣で斬られたものだろうとの事だ……ルヘキサにいたリザードマンさんが魔物の持つ剣は魔界銀という人を傷付けないものを使ってるものが多いって言っていたのでおそらく魔物と戦ってできたものではないと思う。
かといって人間の賊かといえば……あの二人が苦戦するような賊がそう居るとは思えないし、そもそもセレンちゃんがただの賊程度にこんな状態になるとは思えなかった。
それと……一番大きな疑問として、何故セニックが近くに居なかったのかが気になった。
パートナーなのだから一番近くに居ないとおかしい……そもそも大怪我したセレンちゃんを放ってどこに行っているのだろうか?
近くに居れない何か大きな理由……例えば、セニックも捕らわれているとかあるのだろうか?

「セレンが目を覚ましてくれたらまだ状況もつかめるんだけどな……」
「この大怪我じゃあね……人間だったら死んでたかもしれないし……」
「せやな……専門家やないでわからんけど、結構危ない状態やろうしな……」

どうしてセレンちゃんが大怪我をして倒れていたのか……あれこれ考えてもわからない。
本人が起きてくれたらいいんだけど……なかなか難しいだろう。

「まあとりあえず安静にしとこう。まずは近くにどんな街があるかを探すんや」
「そうだね……」

重症で気絶しているセレンちゃんに負担を掛けないよう、私達は机に移動して地図を広げた。
もちろん、それはセレンちゃんを病院に連れていく為に近くにある街を調べる為だった。

「一番近いのは……どれや?」
「ここからならこの3つは全部同じような距離だけど……」
「まよいそ〜」

実際に広げて確認してみたが……今居る場所からは3か所ほぼ同じ距離に街があった。
しかし……ここいらの地理は複雑そうだ……あまりそんな事言っている余裕は無いが、迷子になりそうだ。

「つーかこれ大丈夫かな……」
「ん?何が?」
「セレンはエンジェル……反魔物側だ」
「あー……ここらへんって全部親魔物領やな……」
「でもまあ…それどころじゃないと思うけど……」

それと、私達は親魔物領を選んで旅をしている。
つまり……この付近にある街は全部親魔物領である。
それはエンジェルであるセレンちゃんには厳しいかもしれないけど……そう悠長な事を言っている事態では無い。

「じゃあどうすっかな……今から急いで向かうにしても到着は夜だろうし、雨の中怪我人を安静にしながら迅速に運ぶのは厳しいぞ……」
「そうだよね……」
「アメリがちゆ魔法使えたらよかったのにな……」
「んな事言ったらウチら誰も使えへんし、気に病む事は無いでアメリちゃん」

それに運ぶとしてもどう運ぶかが問題だった。
この『テント』は人がいる状態じゃ畳めないからベッドに寝かせたままというのは無理だし、かといっておぶって行くとなるとそう早く移動は出来ない。
しかも今は雨が降っているのでなおさら慎重に行かないといけない……どうすれば……



「ん…………んん…………」



と、どうするかをあれこれ考えている時だった。


「んっ…………ぁ、あれ……ワタシ……いたっ…………」


なんと、気絶していたはずのセレンちゃんの意識が戻ってきたようで、呟くような小さな声ながらも喋れる状態になっているようだった。

「……ってここ…………どこ……?」
「大丈夫セレンちゃん?」
「はいまあ……ってあなた達は!?」

私達は急いで駆け寄って安否を確認した。
起き上がろうとしたところで再び倒れ、傷口を抑えて凄く痛そうにしているのでそんなに大丈夫では無いだろうけど……かといって看病はさせてもらえなそうだ。

「な、何故あなた達が……ワタシをどうするつもりですか!?」

セレンちゃんは私達を認識した後、かなり警戒してこちらを睨んできたからだ。

「どうするって……倒れてたのを助けてやった奴に言う台詞かそれ?」
「え……」
「凄い怪我してたけど……大丈夫なの?」
「あ……この傷の手当ては……」
「アメリたちが手当てしたんだよ!」
「そう……ですか……」

ただ、ユウロが注意したら少し警戒を緩めてくれた。

「いきなり道端に血だらけで倒れていたからビックリしたよ……いったい何があったの?」
「……魔物に話す事なんかありません……」

だから、いったいどうしてこんな状況になっていたのかを聞いてみたのだけど……そうしたらゆっくりと起き上がり、また私達の方を強く睨みつけて、魔物に話す事は無いと言って黙ってしまった。

「あのなあ……ウチらが助けてやったんやで?それぐらい言えy」

そんな態度に怒ったカリンだったけど……




「あなた達のせいでもあるのですよ!!」




最後まで言う前に、セレンちゃんは突然大きな声で叫び、握り拳をベッドに叩きつけた。

「っ!!」
「あーもう大きな声出すと傷口に響くぞ!」

そして傷口を抑え悶え始めた……大きな声を出したので大きな痛みが走ったのだろう……

「私達のせいって……どういう事?」
「だからあなた達魔物に……」
「じゃあ俺に話せ。俺は魔物……インキュバスじゃなくて正真正銘人間だ。魔物じゃなければいいんだろ?」
「……わかりましたよ……助けてくれた事ですし、あなたには話しますよ……」

しかし……セレンちゃんがこうなっているのは私達のせいでもあるというのはいったいどういう事なのだろうか?
気になるので聞こうとしたけど、やっぱり魔物なんかとは話をしたくないと言い張るので聞けない……と思ったら、ユウロが機転を利かせたので話が聞ける事になった。

「……今は居ないようですが……前に会った時、あのウシオニをワタシは斬り、返り血を浴びていたのは覚えてますか?」
「ああ……そういやそんな事もあったな……」

そういえばジパングから戻って来たばかりの時、私とユウロとアメリちゃんとスズの4人の時にセレンちゃん達に襲われた。
その時に見事な連携でスズは怪我を負わされていたけど……その時にたしかに返り血を浴びていた気がする……

「あの時、ワタシは大量の血を浴びた……つまり、高濃度の魔力を一度に沢山浴びてしまいました……」
「あ〜……まさかセレン、お前……」
「ええ……」

でもそれは……ウシオニの体内にある魔力を一度に沢山その身に受けた事になるわけで……

「ワタシは……もう魔物になっていると、ペンタティア……ワタシ達の本拠地にて診断されました……」
「なるほどな……それで極刑か何かでこんな状態という事か……」
「そんな……」
「ヒドい……」

それによりセレンちゃんは魔物になってしまったようだ……
反魔物領で魔物になれば退治されてしまう……それ故にこんな目に遭ってしまったようだ……と思ったのだが……

「いえ……ワタシはまだ死にたくなかったから……逃げました……」
「え?じゃあなんでそんなボロボロに……」
「それは……それ……は…………」
「お、おい!」

どうやらそれはあまり関係ないらしい……
だが、その続きを言おうとしたセレンちゃんは……涙をボロボロと流し、俯いてしまった。

「ひっく……わ、ワタシは……ひく……」
「無理に言わなくていい!とにかく逃げてる時に追手だか誰かに襲われたんだな!!」
「ヒック……は、はい……ぐすっ……」

泣きながらも頷いたセレンちゃん……魔物化したと判断され、死刑の判決を受け、それが嫌で必死に逃げたのに追手にやられ、こんな状態になってしまったらしい。
それなら近くにセニックがいないのも頷ける……相当大変だったのだろう。

「でもさ……それ自業自得じゃねえか。お前がスズを傷付けなければよかっただけdイテッ!?」
「そういう事言わないの!」

たしかにユウロが言う通り、セレンちゃんがスズを攻撃して自ら血を被ったわけだから自業自得……だけど、今そんな事は言うものじゃないからとりあえずユウロを引っ叩いた。

「た、たしかにそうですが……ですが……」
「も、もういいからね。私達と一緒というのは嫌かもしれないけど、とりあえず安静にしてて。落ち着いてからまたいろいろと聞くからね」
「……わかりました……」

これ以上確認させるのはセレンちゃんが辛いだろう……
だから一先ず安静にしておこう、そう思ったのだが……






ぐうぅぅぅぅ……





「「「……」」」
「あ、アメリじゃないよ!!アメリじゃないからね!!」

突然、『テント』の中に鳴り響くほどのお腹の音が聞こえてきた。
咄嗟にアメリちゃんの方を見たけど、アメリちゃん本人は全力で否定している。
それで私とユウロとカリンがアメリちゃんの方を向いたって事は……


「わ……ワタシです……」


どうやら今のお腹の音はセレンちゃんだったらしい……顔を真っ赤にしながら、自分だと宣言した。

「ね?」
「うん……ゴメンねアメリちゃん……何か食べるセレンちゃん?」
「ま、魔物が作った物なんか……」





ぐうぅぅぅぅ……





「……」
「……まあ普通の食材しか使ってねえしいいだろ」
「サマリお姉ちゃんのごはんおいしいんだよ!」
「そうそう。怪我で大変だろうし、お粥でいいかな?」
「はい……」

恥ずかしそうに俯くセレンちゃん……
こうしてみるとなんか可愛いなと思いながら、私はお粥を作る為にキッチンに立ったのであった……



====================



「……どうだった?」
「……悔しいですが美味しいです……」
「サマリお姉ちゃんのごはんはおいしいからね!」

現在16時。
作ったお粥をセレンちゃんに食べさせたが……なかなか高評価のようだ。

「で、だ。お前体調は大丈夫なのか?さっき治癒魔法みたいなの使ってたけどさ……」
「大丈夫でしたらこんな魔物の巣窟、さっさと出ていきますよ……そこの一見人間女性に見える人も魔物でしょ?」
「お?ウチの事見破れるんか……ウチもまだまだやなぁ……」
「……刑部狸でしたか……何故人に化けていたのですか?」
「修行や修行。あんたみたいな魔物を嫌っとる相手にも商売する為のな」
「そうですか……これだから魔物は……」
「なんやと?あんたも魔物やろうが!」
「ちが…………わないんですよね……ワタシは……もう魔物……」

どうやらセレンちゃんは治癒魔法を使えるようで、私がお粥を作っている間に自分で自分を治癒していたが……一応喋れたりは出来ても動く事は難しいようだ。
それでも多少は良くなったようで、起き上がっても痛がったりする様子は無くなっていた。

「まあとにかく病院で診てもらうぞ。ここら辺は親魔物領ばかりだが、お前自身の身体の問題なんだから文句は言わせねえぞ?」
「わかりましたよ……どこでもいいので連れて行けばいいですよ」
「お前……」

とりあえずこれから……いや、もう時間も時間だし、とりあえず大丈夫そうなので明日になったらセレンちゃんを病院に連れていく事にした。
親魔物領だから嫌がるかと思ったが、自分の状態はよくわかっているようで、渋々ながらも了承してくれた。


「はぁ……なんでこんな事に……」
「そういや……お前これからどうするつもりだ?」
「……」

しかし……病院に行ってきちんとした治療を受けた後……セレンちゃんはどうするつもりなのだろうか?

「帰る……わけにはいかないんだろ?」
「ええ……そうですよ……」

魔物になったと言われて実際に死刑されそうになってるのだから、ペンタティアに帰る事は出来ないセレンちゃん。

「それもこれもワタシが魔物なんかになったから……いえ、まだワタシは魔物なんかに……」

それどころか自分が魔物になったという事も信じたくないようだ……
たしかに、見た目は何度も私達の前に立ち憚ったセレンちゃんと変わらないもんな……

「そういえばさ、魔物化したエンジェルってダークエンジェルじゃないの?」
「ううん。魔物のエンジェルもいるよ。リテルお姉ちゃんがそうだよ」
「ああ、そっか……」

ダークエンジェルじゃないし魔物になってないんじゃとも思ったけど、どうやらそんな事はないらしい。
つまり……セレンちゃん自身は認めたくないだろうけど、本当に魔物化しているのだろう。

「魔物なんか……」
「ねえ……そんなに魔物になるのが嫌なの?」
「はあ?当たり前ですよ!!」

魔物になった者はもう元には戻れない……それはエンジェルも同じだろう……

「なんで?」
「なんでって……魔物のあなたにはわからないと思いますが……自分が自分で無くなるんですよ!?淫乱になるとか嫌悪を通り越してただの恐怖ですよ!」

だから私は……

「そんな事無いよ。だって私は魔物になっても私だったもん」
「……へ?」
「あーセレンちゃんは知らなかったっけ……私は元々人間だよ……しかも反魔物領のね」
「え……」

少しでもセレンちゃんを落ち着かせる為……魔物になった自分を受け入れられるようにする為、自分の事を話し始めた。

「私はね、ちょっとした事故で足が動かなくなって……魔物になったら動かす事が出来るかもと言われて、魔物になった」
「そんな……抵抗は無かったのですか?」
「あったよ。それこそ怖くて、どうしてこうなってしまったのだろうって思ったほどだった」

私だって元人間……元からそんなに魔物の事を悪だなんて思っていなかったから微妙に違うけど、この中だったら一番私が立場が近い。

「なのに……どうして魔物に……」
「魔物になってでもやりたい事……旅を続けたかったから」
「やりたい事……あなたはそれで後悔しなかったのですか?」
「全くしてないかと言ったら嘘になるよ。私の両親はアメリちゃんにすら怯える程魔物は怖いものと考えているし、私もそんな魔物になった事を受け入れてもらえるかわからないもん。でも……足が動かずに人間続けてたら、ただ後悔しか残らないから私は魔物になった」
「……」

だからこそ、私はセレンちゃんに言っておきたかった……

「それで……あなたは変わらなかったのですか?」
「うん。私は私。人間でもワーシープでも変わらなかったよ」



たとえ魔物になっても、自分は自分で変わらないんだって伝えておきたかった。



「まあ多少はエロくなったと自覚はしてるよ……でもそれだけだよ」
「それはそれでちょっと……」
「まあさほど支障はないよ。そんなものだって割りきっちゃえばいいし」
「いやだからそれがなかなか……」

まあ……たしかにセレンちゃんの言う通り淫乱になるところは完全に否定できないけどね。

「まあとにかく、自分をしっかり持てば魔物になろうが自分は自分で居られるんだよ」
「そうですか……」

それでも、少しは不安を取り除けたようだ。

「ほっ……」

ずっと暗い顔をしていたセレンちゃんが、安心した顔になっていた。

「まあ良いでしょう……サマリ……でしたっけ?」
「そうだよ」
「お粥や応急手当ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」

そして……少しだけだろうけど、私に心を開いてくれた……




…………



………



……








『ごちそうさまでした!』
「セレンちゃん、夜ご飯どうだった?」
「……美味しかったです……」
「今度はアメリもいっしょに作ったんだよ!!」

現在20時。
あれから少しセレンちゃんとお話して、これからの事を決めて、夜ご飯を食べた。

「それじゃ確認するけど……次に向かうのはこのルージュ・シティってとこで良いんだな?」
「はい……」
「まあ3つの中じゃ一番大きいし、ヘクターンに向かう途中にあるしで丁度ええな」

まずはセレンちゃんの怪我を診てもらうために、セレンちゃんの意見も参考にしながら近くにあった3つの街の中でも一番大きな『ルージュ・シティ』を目指す事にした。
ちょっとそこまでの道がここからだと複雑なので迷子にならないかは微妙だけど、目的地であるヘクターンはルージュシティの更に向こうだし、もしかしたら私達の目的であるアメリちゃんのお姉さんが居る可能性もあるから丁度良いだろう。

「それで、その後はヘクターンを目指して……」
「そのまま……行くって事でいいんだよね?」
「……はい……」

もちろんその後はヘクターンを目指すのだが……結局セレンちゃんも一緒に行く事になった。
たとえ敵対していた相手でも、親魔物領という自分が見知らぬ地に一人きりになるよりは知っている人と一緒にいたほうが心強いからとの事だ。
どうやらセレンちゃん自身は無我夢中で逃げていたようで、自分が親魔物領のど真ん中にいるだなんて思っていなかったらしい。
だから、ここで私達と別れて一人になるよりは一緒にいたほうがマシだという事でとりあえずは私達と一緒に旅するらしい。
『マシ』と言うのにカリンとユウロがムッとしていたが、まあそう言いたくなるのもわからなくもない。

「どうなるかはわかりませんが……ワタシはもう一度戻って、セニックに会いに行きたいです」

そして……私達はそこからペンタティアを目指す。
巨大な反魔物国家だから私達魔物は近付くのすら大変かもしれない……けれど、どうしてもセレンちゃんは行きたいようだ。
はいそうですかではさようならなんか出来るわけも無く……私達も一緒に最低でも近くまでは一緒に行く事にした。
セレンちゃんは少し嫌そうな事を言っていたが、かなりホッとした表情をしていたのでなんだかんだ言って心強く思ってくれているのだろう……その後からは特に一緒は嫌とか言ってないからね。

「セレンお姉ちゃんはセニックお兄ちゃんの事が好きなの?」
「うん……」

どうしてそんなにペンタティアへ行きたいのかと言うと……もう一度セニックに会う為だった。
それは、セレンちゃんがセニックの事が好きで、もう一度想いを伝えたかったからだという……

「でもさセレン……さっきのお前の話だと……」
「ええ……ワタシをこのようにしたのは…………セニックです……」
「……それでも……あいつの事好きなのか?」
「当たり前です!!セニックは国の命令で仕方なくワタシを殺そうとしただけですからね……それにたとえセニックがワタシの事をどうとも思っていなくても、ワタシがセニックの事が好きなのは変わりません!」

だが……夕飯の時にセレンちゃんが腹を割って話してくれたのだが……どうやらセレンちゃんをここまで傷付けた追っ手は他でもないセニックらしい……でもそれは国が出した命令だからと、セレンちゃんの中では一応割りきれてはいるらしい。
だからもう一度会ってきちんと想いを伝え、なんとかして二人で生きる道を見つけたいそうだ。


「おうえんしてるねセレンお姉ちゃん!」
「リリムの応援なんて要りません」
「ぶぅ……そういうこと言わないでよ……アメリおこるよ?」
「どうぞ。あなたが怒っても怖くないですから」
「ぶー!!アメリおこった!!セレンお姉ちゃんかくご!!」
「なんですkうわっ!?」

まあそれはそれとして……セレンちゃんももう少しだけ私達……特にカリンとアメリちゃんに心を開いてくれるといいんだけどな……
一応目を覚ました時と違って私やユウロとはきちんと話をしてくれるけど……元から魔物であるアメリちゃんやカリン相手には強く当たっている。
全く聞こうとしなかったり話をしようとしてないからまだいいけど……これから一緒に旅するとなるとちょっと不安だ。

「えいえいえいえいえ〜い!!」
「ちょっ!?ポコポコ叩くのやめっ!いたっ!そこダメ!!」
「こらアメリちゃん!怪我人相手に攻撃しない!!」
「むぅ……だってセレンお姉ちゃんが……」
「セレンもセレンだ。応援してくれたんだから素直に受け取っておけ」
「……わかりましたよ。そのあ、ありがとアメリ……」
「……どういたしまして……」


不安だけど……思ったよりなんとかなりそうである。


「せや!皆でお風呂入って仲良うなろ!」
「……は?」
「裸の付き合いがあれば誰だって仲良うなれる!」
「いやまったカリン。今のセレンちゃんがお風呂入ったら確実に沁みて大変な事になるから駄目だよ」
「なんですか嫌がらせですかさすが狸やる事が汚い」
「な、なんやてえええ!!……と怒りたいとこやけど今回はウチが悪いな。すまんなセレン」
「え……あ、う、うん……こちらこそすいません……」
「あと……その敬語なんとかならん?一緒におるんやからタメ口の方が気が楽でええわ」
「……善処はしま……するよ……」


……うん。これは良い傾向だと思う。
きっと私達はすぐに打ち解けられるだろう……


「……ふふっ……」
「なんです……何?いきなり笑いだして……」
「いや、まさかセレンちゃんとこうしてお話できる日が来るなんて思わなかったなって思っただけだよ」
「まあ……それはワタシもだけど……」


前にあった時に私達に見せていたセレンちゃんの作り笑いはとても恐かったけど、今私達に見せている笑顔は可愛いのだから……



====================



「いや〜いい天気だ!」
「だね〜。これなら歩きやすいよ!」

現在9時。
私達は目を覚ました後皆で朝ご飯を食べ終わり、ルージュ・シティーに向けて出発しようとしているところだ。

「お、降ろして!自分で歩けるから!!」
「駄目だよ、セレンちゃんは怪我人なんだからさ。あ、寝てても良いからね」
「ね、寝ないから!!心地良い眠気が早速襲ってきてるけどワタシは寝ません!!」

なおセレンちゃんは私がおぶっている。
回復力も高く、自分で治癒魔法を使っているので一応歩けるまでは回復しているものの、傷は完全に治ったわけじゃない。
ここからはまだ距離もあるうえに道もハッキリしていないので長時間歩く事になるかもしれない。
それは大変だと思うので私がセレンちゃんをおぶって歩く事にしたのだが……魔物におぶられるのが嫌なのか単純に恥ずかしいのかはわからないが、このようにずっと自分で歩くと言って私の背中で暴れている。

「じゃあしゅっぱーつ!」
「出発はええけど……さて、どう向かおうか……」
「そうだね……とりあえずの方角はわかるけど、それらしきものは見えないもんね」

そんなセレンちゃんを無理矢理おぶったまま私達は歩き始めたが……道らしきものは無いので方角以外であてに出来るものが無い。
でもジッとしているわけにもいかないので、とりあえずその方角に向けて足を動かし始めたのだが……


「……ん?」
「なんや?急に影が……」


突然私達の足元に大きな影が出来た。
雲が太陽を覆ったのかと思ったが……少し向こうには影なんか出来ていなかったので、ふと上空を見上げたのだが……

「……んな!?」
「な、何あれ……?」
「鳥さん……じゃない……よね?」
「生き物……ではなさそうだけど……」



そこには……鳥の様な物……まるで翼の生えた馬車の様なものが飛んでいたのだ。
翼の部分にはハートマーク、鳥で言えば尾羽の部分には時計に白い翼みたいな模様が描かれているようにも見えるが……それがいったい何を示しているのかはサッパリわからない。
セレンちゃんが言う通り明らかに生き物では無いし、私の数倍は大きい……でも、あんな大きな物が空を飛ぶだなんてとても信じられなかった。



だが……


「飛行機……なんでそんなものがこの世界に……」
「えっ?ユウロあれが何かわかるの?」
「ああ……俺がいた世界で似たようなものを見た事はある……簡単にいえば、空を飛ぶ乗り物だ」
「へぇ……」

ユウロはあの鳥みたいなものについて知っているようだった。
どうやら飛行機というものらしい……しかもユウロの話から、この世界には無くユウロがいた世界の物らしい。

「……ん?あそこから誰か下りてくるで!」
「あれは……サキュバス?いや……」

そんな謎の物体、飛行機を眺めていたら……そこから翼の生えた影がゆっくりとこちらに向かってきた。
翼の形状や、尻尾の様なものが見えるのでサキュバス属の魔物だと思うけど……いったいなんだろうか?


なんて思っているうちに……



「やっぱり……わたしの思った通り、妹だったのね」
「お姉ちゃん……だれ?」


私達の目の前にその人影は下りてきた。
その女性はサキュバス……いや、白い翼に白い髪、白い尻尾を持って赤い瞳をした……リリムだった。


「はじめまして……かな?わたしはレミィナ。なんか面白そうだったから来ちゃった」
「はじめまして、アメリだよ!レミィナお姉ちゃん、あの鳥さんみたいなのって何?」


そのリリム…レミィナさんとの出会いが、私達『全員』が今日という日を最高の日に出来たのであった……
13/01/05 23:58更新 / マイクロミー
戻る 次へ

■作者メッセージ
※おしらせ1※
シャークドンさんがこのきままな旅とのコラボ作品「幼き王女と海賊王女のきままな一日」を投稿されています。
これ投稿するときに気付いたので僕もまだ読んでいませんがこの後ですぐに読みに行きます。
なお時間軸はルヘキサを旅立ってからこの話の冒頭までの1週間での話です。

※お知らせ2※
次回もそうですが、ここまで幾人もの人とコラボを行ってきました。
しかし、今回でコラボの募集は打ち切らせてもらおうと思います。
とりあえず今のところテラーさん、バーソロミュさんとのコラボは予定内に入っています(他の方は良いですか?と聞いた後OKと言われてないのでカウントに入れていません)。
そのほかの人でこの作品内に自分のキャラを出してやってもいいという方がいましたら、旅48を更新するまでに感想でもメールでもツイッターでもいいので連絡下さい。それ以降は断らせていただきます。
ただ、今タイミングが悪いんだよという方はもう少しお待ち下さい。ちょっと考えている事があり、最終話付近でその事について言いますので。

という事でセレン編開始!今回はセレンが旅に加入しました。これからしばらくはセレンが一緒に居ます!
これでシリアスはしばらくサヨナラです……まあ今回も平均したらほのぼのですがw
そして、途中で出ていた次の目的地『ルージュ・シティ』……わかる人も多いと思いますが、この作品での街の名前の法則にあってません。
もちろんこの町は空き缶号さんの作品の舞台となっているあの街です!そう、次回は空き缶号さんとのコラボです!!
最後のほうは次回のコラボの先駈けです。レミィナ姫に一人先行登場してもらいました!

という事で次回は、レミィナとヴェルナーの案内でルージュシティを観光、そしてセレンの心情にハッキリとした変化が……の予定。


Q.お前いつ空き缶号さんとコラボの話した?
A.クロビネガ談話室、SS書き手で雑談しましょ2で、偉そうにコラボについて書きこんだ後他の人に便乗して空き缶号さんにコラボを頼みこんだ705は私です。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33