読切小説
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堕落の報酬
夕暮れの赤い日差しが降り注ぐ森の中、道とも言えないようなあぜ道をその一団は進んでいた。
一両の馬車を囲うように騎兵が10騎、いずれもこれから戦争に向かうかのような重装備をしており、頭全体を覆う兜で誰一人として表情は伺えない、馬車にしても商隊などが使うような簡素な物ではなく、戦争用の戦車だった。
そして騎兵の鎧にも馬車にも教団の紋章が誇示するように大きく刻まれている。
物々しい雰囲気を醸すその一団は誰も一言も声を発する事無く、蹄の音と鎧の金属音のみを響かせて黙々と森のあぜ道を行軍していた。
馬車の中には一人の大柄な男が座っていた、背もたれにもたれずに背筋を伸ばし、鞘に収まった幅広で長大な剣を杖のように足の間に立て、柄頭を両手で包むように握っている、
その男も武装をしていたが、フルプレートで全身を覆っている他の騎士に比べてかなり軽装だった、頭部には何もつけておらず、その表情が伺える。
短く刈られた髪には白い物が混じり、顔には深い皺が刻まれ、髪と同じく白い物が混じった顎髭をたくわえている、歳は壮年から老年に移りゆく頃に見える、薄く開いた目は宙の一点を凝視するように固定され、灰色の瞳は鈍く光っている、気の弱い者なら数秒とその視線を受けていられないだろう。
全身は装備の上からでも鍛え抜かれているのがわかる、今は見えないがその全身には無数の古い傷が刻まれている。
「古強者」という言葉を全身で体現したような男だった。
「トエント候、そろそろです」馬の手綱を握る騎士が馬車の中に声を掛けた。
「うむ」
トエントは低い声で短く答えた。


近年教団は大きな問題を抱えていた、新魔物派への「粛清」が滞り、新魔物派の勢力が拡大しつつあるという問題だ。
原因は一人のサキュバスにあった、ある時期を境に出現するようになったそのサキュバスは多くの魔物を従えて「粛清」の現場に現れ、教団を退けると同時に多くの騎士達を攫ってしまうのだ。
強大な魔力と武力を備えているだけでなく、そのサキュバスの出現と同時に魔物達の動きも組織だったものになってきた事から強固なリーダーシップも兼ね備えていると推測される。
いつも黒づくめの姿で現れるそのサキュバスはいつしか教団の騎士達の間で「漆黒の勇者」の通り名で呼ばれ、恐れられるようになった。
事態を重く見た教団は討伐隊を結成し、そのサキュバスの捜索に乗り出したが、捜索や討伐に向かった騎士達も次々に行方知れずになり、とうとう「暴風の騎士」の名で知られるトエント・オルエンド候に声がかかったのだ。

トエントは馬車を降りた。
森の中でもまだ木の密集していないちょっとした広場くらいの空間のある場所だった。
まだ日は沈み切っていないが背の高い木が日差しを遮り、すでに周囲はかなり暗い、そしてその周囲の暗がりからひしひしと魔物の発する魔力が伝わってくる。
この森を抜けた先には大きな街がある、その街には教団の教えは普及しておらず、魔物達が堂々と街中を闊歩しているような場所だ。
その街に限らず、こう言った魔物達に懇意にしている大きな街には教団に対しての防衛線が張られている、この森はその街の防衛ラインに当たる場所だ。
そこをこのように教団の紋章を掲げ、物々しい装備で移動すれば必ず魔物達の襲撃を受ける。
今も姿は見えないが既に魔物達に包囲されていると考えるべきだろう。
しかし、その危険地帯のただ中でその教団の騎士達は意外な行動を取った。
トエントが馬車を降りるのを確認した騎手は方向転換すると元来た道を引き返し始めたのだ、他の騎兵達も馬車に従い周囲を警戒しながら引き返して行った。
森の中にトエントただ一人が残った。
普通ならばこの時点で襲われる、予想したように周辺にはアルラウネ等の魔物達が潜み、騎士達の様子を伺っていたのだ、一人になった時点でもはや隙を伺う必要もない。
それでも魔物達は動けなかった。
トエントはただじっとそこに立っているだけだ、剣を鞘から抜いてもいない、しかし解る、どこから近付いても斬られる、背後からでも頭上からでも複数で同時に行っても斬られる。
そこに立っているだけでそれがわかる。
「我が名はトエント・オルエンド!」
トエントは森に向かって声を張り上げた、低く、よく通り、如何なる戦場の喧騒にも負けずに兵士たちの耳に届き、味方に力を、敵に恐怖を与えた声だ。
「立ち合いが望みだ!居るのならば応えよ黒き騎士!!」
腹を打つような声でトエントは呼び掛けた。
暫くの間森を痛いくらいの沈黙が覆った、木のざわめきも鳥の声も聞こえない異様な沈黙だった。
「・・・!」
トエントは森の中の一か所の闇を凝視した、常人には気付かないほどの変化だが、そこに周囲の魔物達と異質の気配が現れたのだ。
やがて、その闇から生まれ落ちたように黒い人影が出現した、全く足音を立てないので現実感がない。
黒いマントで覆われているので尻尾も羽根も確認できないが、顔の上半分を覆い隠す兜から露出している角は本物のようだった。
大きな魔力は感じない、しかしそれはこの魔物が外に魔力が発露しないように抑えているからだという事がトエントには分かった、そしてこの魔物の強さも。
「漆黒の勇者」は程良い距離で足を止め、トエントと対峙した。
美しい。
殆ど顔も見えない相手に何故だかトエントは感じた。
「・・・ソランなのか・・・」
トエントは相手を睨み据えながら呟くように言った。
その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、唯一見えている口元にも兜の奥に光る蒼い瞳にも変化はなかった。


トエントが第一線を退いたのは力に衰えを感じたからではなく、自分の体が五体満足な内に若い世代に自分の技術を伝えたいと思ったからだった。
騎士学校に教官として就任し多くの才能と向きあい、数多の優秀な戦士を輩出したが、師匠超えという最高の恩返しをしてくれそうな逸材は中々見つからなかった、無理もない話である、彼も伊達に不世出の天才と呼ばれた訳ではない。
そんな中で出会ったのがソラン・ストーサーだった、彼女は・・・不世出の天才だった。
だからこそソランの悲報を受けた時には無念極まる思いだった、そして、彼女のその後の顛末を聞いても信じがたい思いだった。
発端は一人の男子生徒がリリムに捕えられた事件だった、事件が起こったその日の夜、あろうことかソランは独断で単身その男子生徒を助けに行き、そのまま行方知れずになってしまったのだ。
将来必ずや勇者となるであろうと目されていた彼女の失踪は大きな事件になり、再三に渡って捜索が行われたが見つける事は出来なかった。
「漆黒の勇者」が出現し始めたのは丁度その時期からだった、それから巷では一つの噂が流れるようになった。
「漆黒の勇者」はかつて勇者と目されたソラン・ストーサーが堕落した姿であると。
そして実際に彼女と遭遇した兵士達からもそういった証言が相次いだ。
トエントは確かめなければならなかった、彼女に技と心得を授けたのは自分だ、もしもその噂が本当ならば師である自分の手で始末をつけなければならない。
この単身で一騎打ちに臨むという一見無謀に見える・・・いや、無謀なやり方も漆黒の勇者と間近に遭遇するために考えた方法だった。
もしも本当にソランならば必ず受ける、そういう女だ。
相手が一騎討ちに応じたならばこの手で討ち取り、その後にやってくる手はずの部隊に合流する、もし応じずに集団で襲われたとしても部隊が到着するまで単身耐え抜く自信はある。
無謀という言葉でも足りないやり方に無論周囲は反対したが、トエントは押し通した。
そういう男だった、そして結局その無謀をやり遂げてしまうような男がトエントだった。


「ソランなのか!」
今度ははっきりと、相手に聞こえるように言った。
黒い女騎士は答えなかった、答える代わりに歩み寄ってきた。
剣の届く範囲に侵入された瞬間トエントは半ば反射的に剣を鞘から抜き放ち、横薙ぎに斬りつけていた、常人ならば持つのもやっとという彼専用の剣がまるで小枝のように振るわれる。
黒い騎士の頭がゆるりと沈み、剣をわざと兜に掠めさせるかのような小さな動きで斬撃をくぐる。
懐に入られたがトエントは慌てることもなく、黒い騎士の膝頭に足底を打ち付けて動きを止めようとする。
ガツッ
予想と違う感触が足裏から伝わる、黒い騎士は剣の鞘でトエントの蹴りを受けていた、黒塗りの鞘には奇妙な文様のような装飾が彫られており、そのへこみの部分に足の裏が引っ掛かっている。
トエントは反射的に上半身を仰け反らせた。
反応は正しかった、黒い騎士はトエントの蹴り足に鞘を引っ掛けて剣を抜き、入り込んできた速度をそのままにトエントの頭部に斬撃を見舞ったのだ、トエントの間合いに入った時から蹴りまで予測していたように淀みのない動きだった。
切っ先が目の前を掠め、次にどん、と黒い騎士の肩が胸に当たった、互いに初撃をかわした二人の間合いは無くなり、密着した状態になる、トエントは今までにない至近距離で彼女の顔を見た、ふわ、と、ほんの僅かに甘い匂いを感じた。
兜越しに蒼い瞳と目が合う、 ああ、やはり、間違いない、このサキュバスは・・・
トエントの心情に構う事無く、肉体は動く。
剣を持っていない方の手でソランの剣を持っている右手首を掴み、強引に捩じり上げようとした瞬間、腹の中に爆発が起こった。
ぐむぅ!?
いきなり肺の中の空気が押し出され、トエントは怯んだ、見るとソランの剣を持っていない左手の拳が鳩尾にめり込んでいる。
魔物化して力が強くなったとは言え、こうも密着した状態で強打できるものか?
緩んだ手を振りほどいたソランは剣を軽く放り上げて順手から逆手に持ち替え、地面に突き刺すように振り下ろした、剣を振って攻撃するにはまだ間合いが近すぎる、そこでソランが狙ったのが「足の甲」だった、普段あまり意識されないがここにダメージを受けると片足が死に、ほぼ勝負が決してしまう。
しかしトエントは瞬時に反応した、素早く足を引くとそのつま先すれすれに剣が突き立てられる。
引いた足を振りかぶると、先程の打撃で空気を抜かれた肺から更に空気を絞り出し、渾身の力で膝を繰り出した。
ソランは咄嗟に両手で防ぐが、爆風を受けたように軽々と吹き飛ばされる、ダメージを受けた直後と思えない反応速度と力だった。
距離が開いた瞬間トエントは口を大きく開けると空になった肺に一気に空気を送り込んだ、唯でさえ大柄な体が一瞬膨らんだように見えた。
まだ十分に距離が開いているように思えたが、ソランは体制を整える前に頭を下げた、それでもぎりぎりのタイミングだった。
地面が抉れるほどの踏み込から信じ難い遠間からの斬撃が飛んできた。
兜の頭頂部に刃先が掠め、火花が散った、ソランは動きを止めない、そのまま地を蹴って大きく後ろに下がる、さらに深く踏み込んで放たれた一撃が鎧の前面を掠め、黒い肩のプレートがバターのように切り裂かれる、連撃は止まない、踏み込んだ足を軸足にし、体勢を立て直す暇も与えず間合いを詰めながら次々に斬撃を放つ、振り抜いた勢いがそのまま次の斬撃への予備動作に繋がる独特のフォームと無尽蔵の心肺機能が可能にする連撃は防御も許さず、竜巻のように全てを巻き込んでいく、トエントが「暴風の騎士」と呼ばれる所以の姿である。
暴風の騎士は驚いていた、最初の二撃に微かに手応えがあって以後ことごとく回避されている、黒い姿がひらひらと舞い、まるで実体の無い影を相手に打ちかかっているようだ、ここまでこの連撃に耐えた相手はいなかった。
と、ソランの姿が突然咲いた巨大な黒い薔薇に隠れた、いや、ソランが姿を覆い隠すようにその漆黒のマントを広げたのだ、そのマントがまるで黒い薔薇の花弁のように見えたのだ。
トエントは真一文字に切り裂いた、薔薇は真っ二つに切れた。
手応えがない、消えた、違う、下だ。
視界に収める事も無く、殆ど勘だけでソランの位置を察したトエントは次の一撃を地面すれすれに放った。
しかし、強引に軌道を変えた分攻撃が一拍子遅れた、その一拍子でソランは体勢を整え、下段の一撃を跳躍して回避した、高い、回避しただけではなくそのままトエントの頭上を飛び越えてしまった、素晴らしい跳躍力だった、大きく宙返りをするように飛んだので着地をすればトエントの背中を正面に捕える事になる。
素晴らしい、見事だ、だがまだだ。
トエントは下段の勢いを殺さずそのまま体を回転させ、背後に振り向きざまの一撃を放った。
完璧に着地を捕えたタイミングだった、どう足掻いても直撃せざるを得ないはずだった。
手応えはない、トエントは驚愕に顔を歪めた、ソランはまだ空中にいた。
何故だ、自分の頭に思い描いた軌道ではもう着地しているはずだ。
マントを外したソランは体の要所を守るプレート以外は分厚い布地で覆われている服装だった、サキュバスの証である尻尾や羽根も見えている。
羽根  羽根  羽根だ、 そうだ、羽根だ。
刹那、トエントは自分のミスを悟った。
ソランは空中で一瞬だけ羽ばたき、着地のタイミングを僅かに遅らせたのだ、彼女にはそれが出来るという事を、彼女がサキュバスである事を完全に失念していた。
ふわり、と、音も無くソランはトエントの正面に着地した、最初に発生したのと同じ密着した間合いだ。
しかしあの時とは状況が違う、トエントは渾身の一撃を外された直後だ、精神的にも完全に虚を突かれている。
反射的にトエントは歯を食い縛った、次の瞬間に襲い来る痛みに耐えるためだ。
しかしソランは剣を使わなかった、ただ右手を伸ばし、どん、とトエントの胸を突き飛ばした。
いくらも力を込めたようには見えなかったが、トエントはたたらを踏んで尻もちを着いた。
おのれ、愚弄するか!
激昂したトエントはすぐさま跳ね起きようとする。
しかし体が動かない、突き飛ばされた胸に鈍く、重い痛みが走った、呼吸が出来ない。
まるで巨大な鉄球を腹に落とされたようだ。
「かぁぁ!」
トエントは自分の膝を殴りつけ、震える膝で立ち上がった。
初めてソランの表情が動いた、あれを受けてまだ立つのか、という表情だ。
しかしそれが限界だった、トエントは激しく咳き込むと再び膝を着いた。
負けた、か。
トエントはソランを見上げた、マントを外した事で内に封じていた色香がこぼれ出るように感じられる・・・胸を揺れないようにするためか、胸部をきつく締め付けるようにしている様が余計そう感じさせるのかもしれない。
・・・そういえば装備品も特注でないと着れないとか愚痴っとったな。
妙に呑気な記憶が思い出される。
「ぐふっ・・・ごほっ・・・今の、技は・・・?」
最後の技もそうだが先程見せた強力な短打といい、どうやら自分の知らない技を彼女は知っているようだ
「魔王の軍で出会ったジパングの戦士に教わった技です・・・まだあまり普及していない技術ですね」
出会ってから初めてソランが口を開いた、声色も口調も雰囲気も記憶にあるソランと寸分違わない。
「勉強熱心は相変わらずか・・・」
「性分です」
トエントは大きく息をついた、奇妙に緊張が途切れている、ソランは警戒を解いてはいないが止めを刺そうとはしない。
言いたい事や聞きたい事は山のようにある、しかし特に一つ気になっている事がある。
「一つ答えてくれるか」
ソランは無言だ、しかし了承したような空気を感じた。
「コンラッドは無事か?」
ソランは驚いた表情を浮かべた。
コンラッド・エバンス、事件の発端にリリムに連れ去られた男子生徒が彼だ。
彼にも稽古をつけてやった事がある。
トエントは数多くの生徒に接してきたが、彼ほど武の才に恵まれない男は初めてだった、努力家であるにも関わらず、練習量に見合った成果がまるで得られないのだ、根本的に戦う事に向かない男だった。
しかしトエントにとって不思議と印象に残る男だった、練習が報われない事に対して愚痴もこぼさず、捻くれる事無く自分に向き合える男だった、戦う強さとは違った強さを持った男だった。
ソランに比べると彼は知名度が低い、知られていてもソラン失踪の原因を作った男としてよくない印象を持たれている事が多い。
しかし、トエントは彼の失踪にもソランの時と同じくらいに心を痛め、身を案じたのだ。
ソランは微かに笑みを浮かべた、兜で殆ど顔は見えないがそれでも堅物のトエントがどきりとさせられるほど魅力的な表情だった。
・・・こんな笑顔を見せる少女だったろうか?
「ええ、元気です」
短い返答だったが、何か深い感情の籠った一言だった。
トエントは大きく息を吐いた。
「なあ、ソランよ」
ソランの視界に入らない背後の左手にゆっくりと地面の土を握り込む。
「この言葉を覚えているか」
何気ない動きで剣の位置を調整する。
「勝利を確定するまで」
その言葉を言い終わるか終らないかのうちにトエントの左手が走り、ソランの顔めがけて石の混じった土が投げ付けられた、同時に膝を着いていた姿勢から爆発的な速度でソランに躍りかかり、右手一本で豪剣をソランに叩きつけようとする。
ソランは慌てなかった、顔に降りかかる土にも瞬き一つせず、剣の柄頭で迫り来る刃をコン、と跳ね上げる、トエントの怪力であっても奇襲のための無理な体勢からの一撃ならばそれだけで軌道を変えるに十分だった。
剣の切っ先がソランの頭上に逸れ、トエントの体勢が崩れる。
ああ、全く。
ソランの左足が跳ね上がり、トエントのこめかみをしたたかに打ちすえる、意識が暗転する寸前、ソランの声が耳に届いた。
「勝利を確信するな」
そう、その通り、満点だ、全く大した女だ。


トエントが意識を取り戻すと馬車の中だった、この森に乗りつけた馬車だ。
騎手の話によると後詰めの部隊が到着すると木にもたれかかるようにして意識を失っているトエントが見つかったという事だ、周囲に魔物の気配はなく、トエントも命に関わるような怪我はしておらず、ただ気絶していただけだったという。
部隊の騎士達は一様に重い沈黙を保っている、状況から見てトエントが「漆黒の勇者」に敗れたのは間違いない、敵の勇者があのトエント候ですら太刀打ちできない程の強さを誇っているという事実が重くのしかかっているのだ。
加えてトエント候の心情も気掛かりだった、敵に情けを掛けられ、生かして帰されるというのは騎士として最大級の屈辱と言える、誇り高いトエント候のプライドがどれほど深く傷ついたかは想像に難くない、騎士達はトエントに掛ける言葉も見つからず、ただ沈黙を守る以外なかった。
しかし、当のトエントは馬車の中で一人不思議な心地を味わっていた。
無論、悔しさはある、屈辱も感じる、しかしそれ以上に妙に気が晴れたような感じもするのだ。
トエントは思った、それは恐らくソランが余りに以前と変わっていなかったからだ。
ソランの訃報を受けた時、何が一番悔しかったかと言うと、あれ程の才能と精神が堕落によって台無しにされるのが悔しかったのだ。
手塩にかけて磨いた才能が錆びつき、腐り落ちる様を想像すると憤懣やるかたない思いだった。
しかし手を合わせて分かった、ソランは魔物となった後も一切鍛錬を怠らなかったのだ。
むしろ、飛躍的に腕を上げ、師である自分を超えてしまったのだ。
そして、その心も腐り落ちてはいなかった。
ソランが魔物となる道を選んだのにどういった経緯があったのかは分からない。
しかし彼女はそこで教団に所属する以上の大義を見つけたのだ、その大義のために尽くし、力を捧げる事を決めたのだ、例え今までの全てを敵に回しても。
何とも彼女らしいではないか。
・・・何だかんだでやはり、自分も歳なのかも知れない。
こみ上げる奇妙な笑いを噛み殺しながらトエントは思った。



「トエント候に会いました・・・はぁ」
にゅぷぅ・・・ぬちゅぅ・・・にゅるぅ・・・
「トっ・・・はっ・・・トエント候に!?」
ぐにゅぅ・・・むにゅぅ・・・
「ええ、一騎打ちを申し込まれました・・・んっ」
むちぃ・・・みちぃ・・・
「いっ・・・一騎討ち・・・受けたん・・ぁぁ・・・ですか!?」
じゅぬ・・・ぬちゅ・・・
「はい・・・ぅんっ・・・」
ぐちぃ・・・
「はぁっあっ・・・ちょ、待ってください!待って下さいってば!?」
「何を待つんですか?んっ・・・んっ・・・んっ・・・」
パチュッ、パチュッ、パチュッ
「だっ・・・ぁぁぁああそのっ胸を・・・胸を・・・!」
「むね、じゃ分かりません、ふぅっっ・・・んん・・・正式な名称で言って下さい」
たぷん、たぷん、たぷん
「ぱ、パイ・・・」
「パイ?」
「パ、パイズリするのやめて・・・!」
「やめません♪」
にゅむん、にゅむん、にゅむん
「〜〜〜〜〜っっ」

コンラッドはいつものように警備に出たソランの無事を祈りながら待っていた、森に怪しい騎士の一団が現れたとの報告を受けての出動だった。
いつものことだが、自分自身がソランと共に戦いに出向けない事を歯痒く思う、一緒に行っても自分では足手まといになるのは目に見えている事だ、だから自分に出来る事は状況を見て役に立つか立たないか分からないような助言をして、装備などの準備を万端に整えて送り出すぐらいのものだ。
ソランは無事に帰って来た、しかしいつもと様子が違った、帰るや否や上気した顔で自分を軽々と抱き上げると着替えもせずに寝室に直行したのだ、どういう事?と他の魔物娘達に目で問うても「ごゆっくり〜♪」と笑って返されるだけで説明してもらえない、結局されるがままに寝室に引っ張り込まれた。
部屋に着くとソランは兜を脱ぎ捨てて金の髪と美貌を露わにすると、コンラッドをベッドに座らせた。
そうして戦闘服の胸の部分・・・丁度下乳の谷間が見えるようにボタンを外した。
全身黒づくめの中でその下乳の谷間部分だけが白く見え、まるで胸部に女性器が出現したようだった。
そうしてソランはコンラッドの前に跪くとその「女性器」でコンラッドをにゅむり、と咥えこんだのだ。
その戦闘服は胸が揺れないように固定するため、胸部がきつめに作られているので、中の乳圧は強烈だった、ぴっちりと閉じた谷間に無理やり肉棒が侵入し、乳房の柔らかさと弾力でむっちりと締め上げられる。
ソランは激しく動いた後のため、服の中の乳房はしっとりと汗ばんでいる、しかし潤滑油にするには粘度も量も足りない、それでもソランは自分の乳房を苛めるように服の上から掴んで強引にピストンし始めたのだ、凄まじい摩擦で喘がされながら理由を問うたコンラッドだったが、いまいち要領を得ない。
「いっ・・・一騎打ちに勝ったんですか?」
「はっはっ・・・勿論です、はン、でなければここでこうしてはあん、貴方に奉仕してません」
ソランは胸が性器に劣らない程に敏感なのでこうして乳肌を激しく擦られるだけで性感が高まってしまう。
「そっ・・・それは凄い・・・んあっ・・・です、だけどそれでどうしてこんなぁ・・・っ!」
「ご褒美です」
「ご・・・!?」
ぬろろろお
疑問に思う間もなく、快感に思考が遮られる。
ソランが乳房をいっぱいに持ち上げて乳肌で陰茎をズリ上げたからだ、大量に溢れる先走りで大分滑りも良くなってきた頃だ。
「ごほう・・・び・・・って何で俺に・・・」
「ふぅーっふぅーっ・・・コンラッドに・・・じゃありません、ご褒美を貰っているのは私です」
「ええ・・・?」
客観的にはどこからどう見ても奉仕されているコンラッドの方がご褒美状態なのだが、ソランは自分が褒美を受けているのだと主張する。
「ジュカに教えてもらったんです・・・この乳房で奉仕する方法を・・・」
ソランは言いながら乳房を持ち上げた状態でゆるゆると揺する。
下乳の割れ目に先端部分だけを咥えられた状態でにゅるにゅると亀頭を責められる。
その咥える下乳部分以外はしっかりと着込んだ状態だというのがまた異様にコンラッドの興奮を煽り立てる。

ジュカ、と言うのはコンラッドを拉致したリリムの事である、彼を一目見て気に入り、自らの婿にしようとしての暴挙だった、ソランは単身彼を助けに向かうがあえなくジュカに敗れ、彼女もまた囚われの身になってしまう。
二人の互いへの想いに気付いたジュカは甘言を囁いてソランを魔道に引きずり込み、二人を魔物の夫婦へと仕立てたのだ、そして、ちゃっかり自分もコンラッドの妻となり、結果、コンラッドは高位の淫魔二人を妻に持つ事になったのだ。
性的知識に疎いソランはよくジュカに教えを請うた、その中で最も彼女が惹かれたのがパイズリという性技だった。
コンラッドに愛されるために発育した肉体(ソランはそう主張している)の中でも最も顕著にそれが現れたのが豊かすぎる乳房だった、その乳房の大きさを用いた性技とはまさしく自分のために開発されたような技術ではないか。
聞いた瞬間思わずジュカに握手を求めていた。
結果、満面の笑みで握手をする美しいサキュバスと、半笑いのような苦笑いのような表情で力強いシェイクハンズに応じる美しいリリム、という絵になるようなならないようなシュールな光景が展開されたのは別の話である。

「してみたかったんです・・・このはしたないおっぱいでたっぷりコンラッドに奉仕してみたかったんです・・・!」
彼女の言っている事がいまいち理解できないコンラッドは軽く混乱するが、その混乱も次の瞬間強烈な快感で霧散する。
ソランが持ち上げていた乳房をコンラッドの腰にぶつけるように一気に降ろしたからだ。
む゛ちぃっ ぶつんっ
ただでさえぱつぱつに負荷のかかっていた服の胸部が一気に膨らみ、胸の中央のボタンが弾け飛ぶ、凄まじい乳圧だった。
その乳圧で先端から根元まで一気に圧迫されたコンラッドはひとたまりもなかった。
「あっっがっっ・・・ぐうううう・・・!!」
「はぁぁああああ♪出てる♪おっぱいに♪おっぱいの中に♪」
コンラッドの熱い迸りを胸の谷間で感じたソランは軽い絶頂を迎える。
腰を震わせながらも両手で力一杯胸を寄せ、コンラッドの脈動を感じる。
お陰で陰茎は終始圧迫され続け、長々と射精は長引いた。
「あはぁ・・・♪ありがとうございます」
「くふぅ・・・あ、あの、ええと・・・どういたしまして」
「もっと下さい」
「えっ」
ようやく谷間から解放されたと思った瞬間、先程弾け飛んだボタンの部分にまたもや挿入される、いわゆる縦パイズリの状態である。
「あああああ!?」
たっぷりの精液で服の中の乳房はどろどろになっている、それが潤滑油の役割を果たし、先程よりもさらに激しい快楽を与える。
ソランはしなやかに上半身を弾ませ、騎乗位で責め立てるように胸の谷間にリズミカルに陰茎を突き込ませる。
精液と汗の混じった粘液が突き入れるたびに谷間からぶじゅぶじゅと溢れる。
もはや声もないコンラッドにソランは語りかける。
「はっ、はっ、はっ、コンラッドに対するご褒美も・・・んんああん、兼ねているんです・・・コンラッドのお陰で勝てたようなものですし」
「お・・・っっ俺は・・・っ・・・何も・・・!」
コンラッドの顔が快楽と同時に別の感情で歪む、ソランはそんなコンラッドに優しい笑みを見せながら奉仕する。
「事実です・・・貴方が居るから負けないんです、貴方が居るから強くあろうとするんです、貴方がいなければ・・・」
言いながら両手で乳房を擦り合わせるように捏ね回す、肉棒により変化に富んだ快楽が与えられる。
「トエント候はとてつもなく強い御方です、だけど私とあの方では力を使う動機に決定的に差があるんです」
「・・・?」
快楽の嵐に翻弄されながらコンラッドはソランの話を聞く。
「トエント候に限らず、教団の騎士達は皆そう・・・彼らの戦いの目的は魔物を殲滅し、人類を救う事・・・だけどその目指す目的は遠く、霞んでいて明確でないのです、疑問を持っている騎士の方も少なくありません、魔物に対する嫌悪だけで戦っている方さえいます・・・私達魔物は違います、ただ、愛する人を守りたい、一緒にいたい、そういう強い動機、目標があります、守る物が明確に見えているかどうかは大きな差になるのです、ましてや負の感情のみで戦う相手に負ける道理はありません、それに・・・」
ぬっちゅっ ぬっちゅっ ぬっちゅん
「頑張れば、ふぅううん、こうしてご褒美がもらえるという事も、大きいんです、くふぅ、
そ、そのご褒美を、私に与えられるのは、はぁっ、こ、コンラッドだけ・・・コンラッド、の、ご褒美、は、おいし、美味しくて、美味しくて、最高っですっ、だから、もっとご褒美、ごほうびぃ♪」
語っているうちに興奮が募り、段々話が支離滅裂になり始める、コンラッドも快楽に耐えながら何とか話を聞いていたのだが終盤奉仕が激しくなり始めるともはや何も考えられなくなってくる。
「ひぃあ、中に、中に下さぃ・・・!」
もはや耐える事も叶わず、二度目の白濁をまた乳房に捧げる。
「あぉぉぉぉ♪」
ソランはまるで膣に出されたかのように絶頂を迎え、腰をがくがくと痙攣させる。
ただでさえ隙間の無い服の中に大量の白濁液が収まる訳もなく、二か所の服の隙間からぼたぼたとこぼれ落ちる。
ソランはもったいない、と言うようにそのこぼれるミルクを手の平で受け、手からじゅるじゅると啜り上げた。

無論、火のついた二人がそれだけで済む訳は無く、ソランははあはあと息を荒げながらするすると下半身の装備を解き、下着を降ろす。
「あの・・・何で上そのままなんですか?」
「脱いだら胸にもらったのが落ちちゃうじゃないですか」
何を当たり前な、というように即答するソラン。
上半身は戦闘服で下半身は裸という倒錯的な姿になったソランをコンラッドは優しくベッドに横たえる。
「ふふっ・・・」
「どうしたんですか?」
「トエント候がこんな所を見たらどう思うでしょうね?」
「・・・」
自分を倒した元生徒の女が帰るや否や元生徒の男にむしゃぶりついているなどとは夢にも思わないだろう、しかも自分と戦った時の姿のままで。
「さあ、私を打ち負かして下さい、その剣より逞しい剣で、暴風の騎士より激しく・・・♪」
ソランは悪戯っぽい表情で言う。
「や、やめて下さい、何だか罪悪感が・・・」
言いながら下半身を合わせ、ゆっくりと腰を降ろす。
「くぅぅぅううう・・・」
「ふうううぅぅぅ・・・」
何度交わってもお互いにこの感覚に慣れる事はない、むしろ回数を重ねれば重ねるほど天井知らずに快楽の度合いは上がって行くようだった。
「んっんっんっ♪あはぁっやっぱり、どんなに、強くなっても、これには、勝てません♪」
突き上げるたびにソランは嬉しそうに鳴き声を上げ、精液まみれの乳房を封じた胸元からは揺さぶる度ににちゅにちゅと粘液音が発される。
ああ、すみません、トエント候。
コンラッドは何故だかわからないが心の中でトエント候に謝りながら腰を打ち付け、漆黒の勇者の自分専用の性器を存分に堪能する。
「あぁっあぁっあぁああ♪こんらっどぉ♪こんらっどぉ♪流石です、凄いです、敵いません♪」
コンラッドはやっぱり何故かわからないが頭の中でトエント候に必死に謝り続けた。
ああ、なんかもうほんとにすいません、ごめんなさい。
師を超えた高揚感に浮かれる漆黒の勇者はそんなコンラッドの気は知らず、いつまでも極上の褒美に酔いしれ続けた。
13/04/05 00:24更新 / 雑兵

■作者メッセージ
バトルが書きたかったのです、むずい、連撃のシーンで「無双乱舞のように」って表現が使えたら楽なのに、とか思いました。
そして、パイズリベンジ、読んでいただき、ありがとうございます。

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