連載小説
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前編
プロト教会 院長室


「本日の配達ですが、予定を午後三時から夜中の十時に変更してもらえないのでしょうか?」
私は配達員に配達変更の連絡をしている。
「急な用事で教会を離れることになりましたので、はい、宜しくお願いします」
通話を終えた私はちっ、舌打ちをする。
あの配達員め、夜中の配達は怖いとか文句言いやがって、これだから未婚の童貞は。
後は日帰りで用事を済ませれば住むだけの話だ。
教会の留守を旦那様に任せ私は教会を出て少ししたところで立ち止まる。
ゆっくり、正確に描いてと。
目の前で転移魔方陣を描き、中へ飛び込む。


魔王城


「三十年ぶりの我が家ね」
分厚い眼鏡越しからでもその城の巨大さと偉大さが伝わる。
その光景は魔物娘にとっては美しくかつ魔力が濃い。
魔力が髪の毛に伝わり、髪が自分の意志とは関係なく動く。
三十年ぶりの魔王城に喜ぶように髪が動きながら、その色をピンクから白へと変える。
そうだ、私はマリアとしてここへ来たのではない。

魔王の娘、第十九皇女アンジェラとして魔王城にやってきた。

わざわざ美貌を隠す必要はない。
私は分厚い眼鏡を外す。
何も言わず正面から堂々と入る。
「あれはリリム様!?」
「あの白い髪、美しい顔、間違いないわ」
門番達の台詞をスルーして、私は城へと入る。
三十年ぶりの我が家は、特に変わった所は無いようだ。
私は廊下を歩きながら思う。

「アアン アンアン」
「ハアッハアッ」
パンパンパン パンッ!パン!

特にどこからか喘ぎ声や水音が聞こえてくる所が。
きっと魔物娘と元勇者の連中が本能に目覚めてやっているのだろう。
突き当たりに差し掛かったので、私は右に曲がろうとして、
「この気配は」
反射的にバック走で距離をとる。

「わーいわーい」
「待ってお姉ちゃん」

幼いリリムの姉妹が右から左へと通り過ぎた。
……私がここを離れている間にまた妹が生まれたのだと思う。
あの両親の事だ、今日も激しくやっているのだろう。
私も両親のように旦那様と激しくやれば子沢山になれるのだろうか?
でもそれで教会や町の仕事を疎かにするわけにはいかない。
「まあ、いつか出来ると信じてる。旦那様との愛の結晶を」

「あら、アンジェちゃんじゃない?」

!!!!!!
声にならない声で驚いた。
恐る恐る振り向くと……
「お久しぶり」
首に真珠のネックレスをかけたバイコーンが立っていた。
「……パール様」
「あら、別に様なんて着けなくていいわよ?」
「い、いえ、パール様に、そんな失礼な態度は、とれません、そういえば部屋から出てくるなんて珍しいですわね、ハーレムに何かありましたかしら?」
「丁度分身薬が切れたから100本分補充しにね♪」
「流石パール様、愛する夫と、百を越える妻の為、自ら補充しに行くとは、随分と献身的ですわね」
「ええ、妻として当然のことよ、ところであの子とは上手くやってる?」
「もちろん、ですよ」
「教会のほうは?」
「資金面の方も、問題ありません」
「でも、もしお金で困ったら、私の方からーー」
「いえ、それは結構です。同情や慈悲でお金を受け取らないと決めていますから」
私は冷静に言う。
「例え、それがお義母様であっても」
「わかったわ。貴女がそういうなら、でも今のは同情でも慈悲でもなく、貴女を娘と思っての愛情だからね♪」
「……バイコーンハーレム、頑張ってください」
「ええ、じゃあね♪」
パール様は、笑顔でスキップしながら歩いていった。

「バイコーンハーレム頑張ってください〜やんね」

背後から声が聞こえてきた。
「いつから、聞いてた?」
「最初からやんね」
声の主は顔が隠れるほどつばの広いストローハットを被った魔女が立っていた。私を呼びだした張本人

「好きなものは魔宝石とお兄ちゃん♪魔法幼女クリア参上やんね」

「自己紹介はいいから、とっとと案内しろ」
「ちぇーアンジェはホントノリが悪いやんね、さっきと態度も違うしー」


サバト・魔宝石発掘隊会議室


「わーこれ可愛い」
「お兄ちゃん喜んでくれるかな?」
魔女が二人、裾の短い和服のようなものを着ていた。確か『浴衣』というものだったはず。
「喜んでくれたのなら光栄です」
ジョロウグモの女性が少し嬉しそうにしていた。
「連れてきたやんね」
クリアに気付いたジョロウグモが挨拶をする。
「糸子と申します。ジョロウグモです」
「アンジェラと申します。クリアから聞いていると思いますが、リリムです」
「はい、本日はお忙しいところ、誠に有難うございます」
私と糸子は握手を交わす。
「みんな〜これからお姉ちゃんたちが大事な話があるから、ここを出ていくやんね〜」
「はーい」
「はいっ」
クリアは魔女二人と共に会議室を出る。
二人きりになった所でいよいよ本題に入る。





相談内容はこうだ。
ジョロウグモーー糸子は大陸生まれでサキュバスの城下町にて服屋を開いている。今回糸子の相談は自分の店の服、ジパング製の服をスターシャンにて委託販売をしたいとのこと。
デッサンを見せてほしいと私が言う。
大陸生まれと聞いていたが、和を感じさせるデザインは素人の私が見ても凄い。
ん、緑色の着物か。これなら沙羅にも似合いそうだな?
スターシャンにはジパング出身も多いから、需要はありそうだ。
もし問題があるとすればただ一つ。


この依頼、私に頼まなくても良かったんじゃね?


スターシャンでの受託販売の交渉ならリリムである私よりも、服屋のアラクネ店長に直接交渉すればいい。
仮にリリムのコネでもアラクネ店長も同席する必要もあるし、アラクネ店長は他人を見る目がある方だ。このデザインなら交渉成立間違いないと言える。 

では何故クリアはわざわざ、私だけを呼んだのか?
私にしかできないことがあるという可能性。
あるいはーー久しぶりの帰郷。三十年ぶりというキリのいい数字。
先ずは前者から調べてみよう。
このデザインですけどと言いながら私は彼女の注意をひき、

髪の毛を一本だけを彼女の頭に触れさせる。

成る程、そういうことか。
彼女の『悩み』はこれか。
そして私は彼女に言う。

「他にもデザインはございますか?」
「……はい……ありますが」
「もしよろしければ見せてくれませんか?」
「……でしたら、部屋に戻って取りに」
よし、問題は次だ。

「でしたら、私も着いて行きます。糸子さんの仕事場を見学させてください」

交渉は成立。
さて、部屋に着いたら見せてもらおう。

例のデザインを。


中編へ続く
13/11/11 23:35更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
長くなりそうなので分けます。
キャラクター紹介は後編で。

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