読切小説
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クロッシング
 極東海域、大嵐の中、一艘の密航船が座礁していた。
「船長! 船底が岩にぶつかりました! 恐らく浸水しています!」
「急いでかき出せ!」
 俺と副船長は船底を見に行った。

 既に船員が必死で水をバケツでかき出しているが、明らかに浸水の方が早いこのままではいずれ転覆だろう。

「どうだ!? 状況は!?」
「必死にかき出していますが、とてももちません!」
「どれぐらい持つ?」
「あと3時間もすれば転覆です!」
「3時間か・・・くそっ! 緊急事態だ! 乗客を全員甲板に集めろ! ボートも用意しろ!」
「ここからボートで陸まで!? この大嵐の中で無茶です!」
「やるんだ! それしか手はない!」

 俺の名はキム。アジアのとある反魔物共産主義の独裁国家の人間だ。国から逃げ出したい人を、隣国の親魔物国家へ密航させている。
 もう、密航者を300人は送り出した。

 俺の国では自由が禁じられている。ちょっとでも政府を批判すれば殺されるし、集会も演説も禁止だ。そればかりか、外国のアニメやDVDを見ただけでも殺される。他にも、魔物との魔姦でも罪になる。学校では国にとって都合のいいことしか教えない。
 国の計画経済は失敗し、食糧難に悩まされている。逃げ出さない方がおかしい。

「船長! 救難信号を撃ちましょう!」
「馬鹿野郎! そんなことをしたら向こうの国の巡視船に発見され、逮捕されて強制送還され、待っているのは脱国罪で死刑だぞ! みんな自由を欲しがっている! みすみす捕まってたまるか!」

「皆に告ぐ! この船は転覆する! よって、ここからはボートで陸へ送り出す! 陸へ着いてからは、あとは自力で自由を掴んでくれ!」
「おおー!」
 こうして、数人の船員が、乗客を数人ずつボートに乗せ、陸と船を往復することになった。

「なんとか、ボートは転覆しないでちゃんと陸へつけているようだな。」
「ええ。ただ、嵐は夜明けまでに収まりますかね?」
「多分、収まるだろう。それまで、乗客が頑張れるかどうかだが・・・。」
「船長! もうもちません! 救難信号を!」
「駄目だ! どうせ救助されたって、密航者は強制送還されることぐらい分かっているだろう! 国家警察が俺を捕まえて銃殺刑にするまで、俺は1万人は送り出してみせるぞ!」
「それまでに、あんな国はきっと転覆しますって。」
「・・・だといいがな。」
 今のところ、順調に乗客を送り出している。そんなとき、副船長の姿が見えなくなった。
「おい。副船長はどこへ行った?」
「あれ、さっきまでここに居たのに・・・」
「探してくる! あとを頼むぞ!」
「はい船長!」
 俺は副船長を探しに船内に戻った。

 副船長は通信室に居た。
「SOS・・・我が船はもうすぐ転覆する・・・救援求む・・・」
「副船長! 何をしているんだ!」
「船長! このままでは全員死亡です! それに、たとえ陸へ辿り着いたってあの崖を上がるんだ! 俺達のような命知らずはともかく、子供も死ぬんですよ!?」
「・・・なら、乗客に聞こう。」

「皆に聞く。たった今、副船長が救援を呼んでしまった。ボートと国へ送り返されるの、どっちがいい?」
「もちろん! ボートだ! あんな国に戻るぐらいならここで死んだっていい!」
「そうだ! どうせ死ぬならあの国で死ぬのはごめんだ!」
「わかっただろう? 副船長。」
「・・・分かりました。協力します。」

「さ、乗客は全員送り出しました。あとは我々だけです。船長。乗りましょう。」
「俺か? 俺には、船長として最後の仕事が残っているんだ。さ、早く行きな。無事に辿り着けることを祈っているぜ。じゃあな。」
 その言葉で、船員は皆、理解したようだった。

 俺は一人船に残った。もうボートは見えなくなった。
「まぁ、あいつらなら崖を登り切れるだろう。・・・乗客も、一人でも登れるといいな。自由を掴め。生き延びろよ・・・! さて、巡視船が来る前に済ませないとな。」
 俺は倉庫からC4爆弾を取り出し、適切な箇所に設置し、C4爆弾を起動した。
「さてと・・・次の人生では、自由な親魔物国家で、魔物娘と仲良くできたらいいなぁ・・・ 自由! マンセー!」
 俺は、C4爆弾の爆破スイッチを押した。

 船は沈没した。これで何も証拠は残らない。

 俺の体は爆発の衝撃で重傷を負い、海に沈んでいった。

 これが、死ぬという感覚なのか。不思議と、痛みも、恐さも感じない。やれるだけはやった。いずれ、他の脱国ブローカーが現れるだろう。・・・できれば、あんな国の政府が転覆してくれたらいいんだけどな・・・。
 最後に見た光景は、俺に近づいて来る、サメのような影だった・・・。

「おーい・・・おーい・・・!」
(しきりに俺を呼ぶ声が聞こえる・・・俺は死んだんじゃないのか・・・?)
「おーい! ・・・う〜ん・・・もう手遅れだったかなぁ・・・?」
「う〜ん・・・ここは・・・?」
「あっ! 気がついた! よかった! もう手遅れだと思ったけど、放っておけなくて・・・意識が戻ってよかったよ!」
 目の前には、サメような女の子・・・だろうか?
「あの、ここはどこだ? もしかして天国か?」
「天国? 縁起でもないこと言うなよ。ここは海の底だよ。この近くに海底都市があって、そこから出る魔力で、この辺りの海底は人間でも生きられるようになってるんだよ。」
「海底都市? なんだそれは・・・それに、あんた、魔物なのかい?」
「ああ。見ての通り、マーシャークさ。マーシャークのトリトンさ。ハハッ ちょっと男っぽい名前だけど、あたしはれっきとした魔物娘だからな!」
「そ、そうか・・・。俺はキムだ。この近くの反魔物国家で、船員(ある意味本当)をやってた。それが、船が爆発しちまってな。このザマさ。」
「へぇ〜あんた反魔物国家出身なのか? にしては、魔物慣れしてないか? 前に一度、反魔物国の漁師が俺を見たら、怯えて逃げちまったよ。せっかく、船底に小さな穴が空いてることを親切に教えてやろうと思ったのにな。」
「俺は、何度か魔物に会っているんだよ。マーメイドに、偶然な。少し話をしたが、悪い奴じゃなかった。そのとき思ったんだ。ひょっとしたら魔物ってのは、決して悪い奴ばかりじゃないのかもしれないってな。」
「そうか。まぁ、マーメイドは基本的に悪い奴はいないさ。」
「ああ。トリトン・・・だったか?お前を見れば分かるよ。」
「俺はマーシャーク! 厳密には別の種族だ!」
「そうなのか・・・魔物もいろいろ居るんだな。」
「そうだ! おまえ、このあとアテはあるのか? 無いなら、あたしの洞窟に来いよ! 必要な物は一通り揃ってるから心配ないぜ?」
「いいのか? じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
 俺はトリトンの背中に捕まり、トリトンは洞窟へ向けて泳ぎだした。

「さ! ここがあたしの洞窟。あたしの家さ! 中は意外と広いぜ!」
 俺はトリトンから降りて洞窟の中に入った。中は確かに広々として、家みたいだった。ベッドや机、本棚、台所などがちゃんとある。シャワーとトイレがないのは、恐らく海底だからだろうか?
「思ったよりも広いんだな。いい家だと思う。」
「そっか。そう言われると嬉しいぜ。」
「あ、痛てて・・・」
「おい、大丈夫か? やっぱり、あの傷じゃあすぐには治らないよな・・・」
「でも、トリトンが手当てをしてくれたんだろ?」
「ああ・・・でも、俺、マーシャークだから、魔力高くないから・・・治療とか苦手なんだよな。」
「でも、トリトンが治療してくれなかったら死んでたよ。助けてくれて、ありがとう。」
「と、とにかく今日はもう寝ようぜ! 怪我の治療には寝ちまうのが一番いいんだ!」
 ベッドは大きめだから余裕で2人で寝ることができた。ただ、枕まで2つあったのは気になったが・・・。
 なかなか寝つけない。他の者達が気になってしょうがない。無事に、陸へ辿り着けただろうか? そして、崖の上へ上がれるのは何人居るのだろうか・・・。

「なぁ、お前、船員だって言ってたよな? 何で船が爆発したんだ?」
「・・・全部話すよ。」
 俺はトリトンに全てを話した。俺の国のこと。俺が密航者を乗せていたこと。船が座礁して、証拠隠滅のために船を爆破したこと。

「なるほどな・・・それで、船と一緒に心中するつもりだったんだな。馬鹿野郎! 命を粗末にするものじゃないぜ! おまえが死んだら、おまえが死んだら! おまえの部下もおまえの家族も・・」
「家族は居ない。母親は俺が学生のとき、病気で亡くなった。父親は若い愛人とどっかへ消えた。それ以来、俺は一人で、気づいたら漁師になっていたんだ。で、密航のブローカーを始めた。」
「・・・ごめん。」
「気にするな。もう何十年も前の話さ。」
 全てを話すと、何故か安心感に包まれて眠ることができた。

 洞窟に朝の光が差し込んできた。どうして海底深くの洞窟に光が届くのは謎だが。俺は目を覚ました。
「ああ、起きたか。おはよう。キム。」
「おはよう。なぁ、トリトン。ここって海底なんだよな? 何で太陽の光が差してるんだ?」
「ああ。あれは太陽の光じゃあない。この近くの海底都市の、灯台の光だよ。朝のこの時間になると、たまたま光がこの洞窟を照らす。それだけさ。」
「なるほどな。」
「腹、減ってるだろ? メシ作るから、待っててくれ。」
「いいのか?」
「ああ。こう見えても、料理は得意なんだぜ?」

 トリトンは豪華な海の幸を使った料理を出してくれた。
「魚介類、嫌いじゃない・・・よな?」
「いや、食べたことない。俺の国じゃあ、特にマグロなんて一部の特権階級の人間しか食べれないし、俺が食べていたのはジャガイモ米と、トウモロコシ米と、味噌汁ぐらいだよ。」
「ジャガイモ米?」
「ジャガイモで作った米。俺の国、米不足だから、ジャガイモで米を作ろうとしたんだよ。」
「なんか美味そうだな!」
「いや、マズイぞ。じゃあ、いただきます・・・」
 俺はマグロを口に運んだ。
「うん! 美味しい! こんな美味しい物を食べたのは初めてだよ!」
「そ、そうか? ありがとう。」
 他のイカやエビなど、様々な海の幸の料理が並んでいたが、どれも美味しく、俺はあっという間に平らげてしまった。思えばこんなに食べることができたのはいつぶりだろうか?
「なぁ、このあと散歩に出かけないか? この辺の海底は綺麗だぞ」
「おお! それは見てみたいな。俺、自分の国のことしか知らなくて、外の世界のことなんて何も知らないからな。」
「じゃあ、いろいろ案内してやるよ! あ、でも俺の体から手を離すと、魔力が効かなくなって溺れちまう。絶対俺の体から手を離さないでくれよ?」
「わかった。」
「じゃあ、行くか!」
 俺はトリトンのお腹に手を回し、トリトンは泳ぎだした。

 海底は真っ暗で何もない。そう言われていたが、実際には魔物娘達の開拓により、光が灯っており、以前ほど真っ暗というわけでもない。ただ、地上からではそれが確認できないこと、そして反魔物国家はそれを知る術はない。
 
 俺はトリトンに様々な物を見せてもらった。虹色のサンゴ礁、海底の遊園地、海底公園、そして海底都市へやって来た。
「この街では街全体に魔力が行き渡っている。体を放しても大丈夫だぞ。」
「わかった。」
 そういって、俺はトリトンから離れたが、何故か手を繋がれてしまった。別に嫌ではないから構わないのだが・・・。
 海底都市は多くの魔物娘で賑わっていた。だがそれ以上に驚きなのは、人間の姿も思ったよりも多いということだ。トリトンにそのことを聞くと、シー・ビショップというマーメイドの神官が、人間を海で暮らせるようにする儀式を行って海の住人になるのだそうだ。最近ではそんなに珍しいことでもないらしい。
 街には娯楽施設から住宅地、公園、教会など、地上の街とそれほど大差ない設備が整っていた。ただ、電車や車は一切走っていなかった。
「なぁ。海底都市って、電車や車は走って居ないんだな。人間は不便じゃないか?」
「え、ああ。説明が足らなかったな。人間も、海の住人になると、マーメイドみたいに自由に泳げるようになるから、電車とかは要らないんだよ。どの道、そんなに大きな街じゃないしな。」
「そうなのか。」
 俺はまだ海の住人ではないから自由に泳ぐことはできない。

 その後、街中のイタリア料理店でシーフードパスタを食べた。そういえばイタリア料理を食べたのは初めてだったかな。
 昼食を食べ終わったあとは公園のベンチに腰をかけた。公園では人間とマーメイドの子持ちの夫婦や、カップルがデートしていた。

「なぁ、思ったんだけど、この海底都市って、国なのか?」
「それは・・・結構曖昧なんだよな。確かに、この街には、議会があって、議長がこの街の代表なんだけど、かと言ってどこからも国家承認されてるわけでもないし、議長もこの街を国だとは言ったこと無いんだよ。でも、一応魔王様の国の傘下ってことにはなっているぜ。」
「魔王様?」
「魔物娘達の王、まぁ、簡単に言っちまえば魔物の中で一番偉い人ってとこか?」
「へぇ・・・。魔物の王か・・・。どんな人なんだ?」
「俺は詳しくは知らない。知っている人も、実際に見たことある奴も、魔物ですら少ないんだ。ただ、魔王は魔物娘を統べるけど、人間の政治には干渉せず、魔物娘にも、人間の政治には関わるなって言っているぜ。これは、俺の母さんも言ってたな。人と魔物が仲良く暮らすには、魔物が人の政治に関わることがあってはならない・・・ってな。」
「トリトンの親は、どんな人なんだ? やっぱりマーシャークなのか?」
「あたしの母親はマーシャークだけど、父親は人間だぜ。今は2人ともハワイの近くの洞窟で暮らしてるよ。」
「なんで、両親がちゃんと居るのに、トリトンは一緒に住まないんだ? まさか、捨てられたり・・・とか?」
「なわけないだろ! 人間も魔物娘も、一人前になったら家を出る。そこは人間と一緒だろ!」
「え? 人間もなのか?」
「・・・ごめん。あんたの国は、事情が違ったよな。まぁ、一人前になった魔物娘は基本的に独り立ちするのさ。」
「なるほどな・・・。」
 俺の場合、父親に捨てられたわけだけど、それも独り立ちって言うのかな?
 
 ふと、目の前に、人間とマーメイドの夫婦と、マーメイドの子供の、幸せそうな家族が映る。
「幸せそうな夫婦だな・・・。人間と、マーメイド・・・。」
「そうだな。でも珍しいことじゃないぜ? マーメイドは人間と結婚する割合が高いって、知り合いに聞いたことあるよ。」
「人間と魔物って、外の世界では共存しているんだな。」
「そうだな。特にこの海底都市と、俺の両親の国と、あとこの近くの列島。特にこの近くの列島は、ジパング地方って言うところから来た民族や文化を受け継いだ人間が移住して作った国らしい。だから魔物との共存はいつからは始まったのか・・・それすら古代からとか、中世からとか、いろいろ言われているよ。」
「そうか。なぁ、人間と人間なら、酷い家庭や、崩壊する家庭もたくさん見て来たんだが、人間と魔物なら、そういうこともなくなるのか?」
「そ、それは・・・家庭によるだろ? あんた結構シリアスなこと聞くんだな。」
「ご、ごめん・・・。」
「いや、別にいいけどさ。まぁ、でも両親の愛情を受けて生まれて、愛情を受けて育てられれば、その子は人間であれ魔物であれ、素晴らしい存在なんじゃないかな。さ、そろそろ日が暮れる。帰ろうぜ。」
「ああ。」
 俺はトリトンに捕まり、トリトンは泳ぎだした。

 夕食、トリトンはサケのステーキを作った。
「おっ! これはサケだな! サケのステーキは初めて食べるけど、美味しそうだ。」
「あ、知ってるのか! サケはいいぞ〜 いろいろな調理法があるからな。」
「それじゃあ、いただきます。」
 俺はナイフとフォークを使って、サケのステーキを食べた。美味しい。味付けも俺好みだった。
 
 夜、ベッドの中で寝ついていたとき、トリトンは俺の腕をつかみ、そして俺の首筋を甘噛みして来た。勿論眠っているから、寝ぐせなのだが・・・。ただ、俺が離れることを嫌っている。そんな気がした。

 トリトンとの生活はその後も続いていた。朝食を一緒に食べ、一緒に近海を散歩したり、海底都市へ行って公園で休んだり、たまには外食したりする。夜は夕食を食べたらあとは寝るだけだが(魔力の満ちた海で暮らしているせいか、体は汚れない)、寝るとき、トリトンは俺に抱き着き、そして首を甘噛みする。トリトンの肌は鮫肌で、人の肌とは違う独特の感触だったが、俺にはそれがとても心地よかった。また、甘噛みされると体全身がうずいてしまう。

(思えば、俺は自由が欲しかった。俺が乗せた乗客達も自由を欲しがっていた。自由で、幸せな生活・・・それって、こんな生活なのかな?)

 俺も、自由にこの大海原を泳いでみたい。・・・トリトンと一緒に。

「なぁ、トリトン。海の住人になるには、どうしたらいいんだ?」
「なんだ? 海の住人になりたいのか?」
「ああ。俺も、自由に海を泳ぎ回ってみたいんだ。海って、いいよな。体が軽くなったような感じがするんだ。」
「そりゃあ、海だからな。地上と違って、重力が弱いからな。魔術も効いてるし。だけど、海の住人になるのは、海の魔物娘と結婚しなければならないんだ。じゃないと、シー・ビショップの儀式を受けられない。」
「そうなのか・・・。なぁ、トリトン。」
 俺はトリトンの肩を掴む。」

「トリトン。俺と・・・一緒になってくれないか?」
「え、ええ!? おいおい・・・突然何言い出すんだよ!」
「俺、この海で、トリトンと一緒なら、幸せになれると思うんだ。」
「あのな、見せかけの愛や、形だけの結婚じゃあ儀式は行っても無駄だぞ?」
「そんなんじゃない! 俺は本当にトリトンが好きなんだ!」
「あのなぁ! 俺はマーシャークだぞ!? 人間から恐れられている魔物だぞ!? 顔だって恐いし、牙や爪は人間を傷つけるし・・・」
「俺はトリトンの顔、好きだよ。それに、トリトンは優しくて、料理も上手で、物知りで。俺はそんなトリトンが大好きだ! でも、そうか。トリトンの気持ちは・・・」
「あ、あたしは好きだぞ! キムのこと! たくましそうだし、よ、夜も強そうだしな・・・」
 少し変なことを言われたが、確かに長年船員をやって来たからガッチリしている。
「トリトン。俺は、学校へはほとんど通えていなかった。それに、俺の国はまさに鎖国と言ってもいいような状態だった。だから、俺は無知だ。そんな俺でも、愛してくれるか?」
「あ、当たり前だろ! き、キム以外の男と結婚するなんて・・・考えらねーよ! それより、キムも俺のこと本気で好きなんだな!?」
「ああ。本気さ!」
「じゃあもう言葉はいらねーな!」
 そういうと、マーシャークは俺に飛び掛かり、俺はベッドに押し倒された。

「あ、ちょっと待って!」
「なんだよ、怖気ついたのか!?」
「違うんだ。俺はトリトンと結婚したいと思ってる。だけど、実は俺のこのキムって名前は、俺の元居た国の性なんだ。俺の元居た国の第一書記も、同じキムっていう性だった。俺は、それがずっと嫌だったんだ。俺はずっと新しい名前が欲しかった。でも、自分では決められなくて・・・。だから、トリトン。愛するお前から、俺に新しい名前をくれないか?」
「そうか。じゃあ、そうだな・・・この近くの列島の言語で、海星(カイセイ)なんてどうだ?」
「カイセイ・・・海の星か・・・。いい名前だ! ありがとう! 今日から俺はカイセイだ!」
「ああ、これからもよろしくな! カイセイ! じゃあ、始めるぞ!」
 そう言うと、トリトンは尾ひれを俺の体に絡め、俺のペニスを挿入し、俺の体を抱きしめた。

 トリトンの鮫肌はザラザラしており、こすれるたびに俺の肌に快感と疼きが走る。
「どうだ? あたしの鮫肌は?」
「ザラザラしてるけど・・・気持ちいよ。」
「そうか! 嬉しいぜ。言っておくが、俺は激しいぜ? 途中で気絶なんてするなよ?」
「お、おう・・・」

 トリトンは尾ひれを使って俺の体を密着させ、ペニスを膣内に挿入させた。その瞬間、トリトンは激しく腰を振った。そしてトリトンの子宮は俺のペニスに食らいつくかのように、俺の亀頭から精子を絞り出そうと吸い付く。
 俺はたまらず声をあげてしまった。

「お! カイセイって男らしい体してるけど、エッチのときは可愛い声で喘ぐんだな! もっと喘ぎな!」
「あっ! それ以上激しくしたら・・・!!」
「いいぜ! 出しちまいな! 奥でたっぷりとな!」
「うっ! 出る!!」
 俺はたまらずトリトンの膣に射精してしまった。

「ハハッ! イッたな! 量も多くて濃くて・・・いいモノ持ってるじゃねーか!」
「あ、ありがとう・・・トリトンの中も、凄かったよ・・・」
「だがまだまだ夜は長いぜ! あ、あと今の射精、よかったけど、なるべく子宮の奥で出すようにしてくれよな!」
「あ、ああ・・・」
 そう言うと、トリトンは再び激しく腰を動かした。

「ヘヘッ! もっと気持ちよくしてやるぜ!」
 トリトンは俺の乳首を甘い噛みした。
「ふわぁあ!!」
「ハハッ! 今可愛い声が出たな! 胸板も立派だけど、乳首だけは弱いんだな!」
 トリトンは甘い噛みしながら、舌でコロコロ転がしたり、吸ったりした。そのたびに俺は女のような喘ぎ声を出してしまう。
 俺は二度目の射精をトリトンの中のさらに奥にある子宮の中に吐き出す。

「ああっ! さっきよりも量が多いな! やっぱり乳首がよかったんだな! だがまだまだ終わらないぜ!」
 萎えさせる休憩も与えられないまま、トリトンは再び腰を動かす。

 その後、何十回射精したのかは分からない。頭が真っ白になって、トリトンも体力が限界に来て、気づいたらベッドで抱き合って寝ていた。俺のキンタマは既に空っぽで、ペニスも萎えてしまったが、トリトンの中に入ったままだ。
 トリトンもさすがに腰を動かす体力は残っていないようだ。しかし、俺の首筋や胸を甘噛みしている。
「トリトン。トリトンに噛まれるの、気持ちいけど、もうこれ以上は出な・・」
 トリトンの表情は、今まで見たことのない、怯えているような、寂しがっているような、切なげな表情だった。
 そうか。それなら・・・。
「トリトン。今日は、このまま寝ようか。」
「・・・あ、ああ・・・」
 トリトンは安心した表情で甘噛みをやめ、俺はトリトンの胸に顔をうずめて眠りについた。
「・・・トリトン。おっぱい柔らかい。」
「おいおい、何言ってやがんだよ・・・」
「今度はトリトンのおっぱいもたくさん触ったりいじったりしてみたいな。」
「・・・カイセイは変態だな。でも、カイセイならいいぜ。こんなおっぱいでよければ。」
「確かに大きくはないけど、揉むにはちょうど良いい大きさで、それに、柔らかいよ。あと、こうしてると・・・トリトンのいい匂いがする。」
「・・・もう寝るぞ!」

 こうして、トリトンとの初体験の夜を終えた。それはとても激しい物だった。恐らく、人間相手ではこんな快感は得られないだろう(俺は人間の女としたことはないから実際にはわからないけど)。
 その後、トリトンの知り合いのシー・ビショップがやっている海の教会で、盛大な結婚式を挙げた。

 俺は自由に呼吸でき、海を泳げるようになった。わずかに重力は感じるが、無重力の中を泳ぐというのはこんな感じだろうか? これなら肩こりや腰の痛みもなくなりそうだ。

 晴れて正式に結婚した俺とトリトンは幸せな夫婦生活を送ることになった。この洞窟の住み心地も決して悪くなく、街でごみごみしたところよりもいいかもしれない。それに街までは簡単に行ける。
 トリトンは主に魚介類を使った美味しい料理を作ってくれる。だけど、ハンバーグやステーキなんかも美味しい。トリトンも肉類は好きなようで、「毎日食べたい」と言っている(海底や海底都市では肉類は取れないので、貴重な食材として値段は地上よりも高い)。
 俺はモリと網(投げてボタンを押すと閉じる魔法道具)を買って漁をしようと思ったが、トリトンが当初猛反対した。俺を一人で行かせることに不安だったらしい。「それなら一緒に行こう」と言ったらあっさりOKした。

 トリトンと結婚して気づいたことは、トリトンは普段は活発で明るい性格だが、内面は臆病で心配性な面があることだ。特に俺のこととなると、心配でたまらないらしい。この前、クラゲに刺されたのだが、クラゲの毒で俺が死んでしまわないかと大騒ぎした。この近海には毒を持ったクラゲはいない。だから心配はないのだが・・・。そんなときは、俺がトリトンを抱きしめて安心させる。
 トリトンはとても献身的だ。そして夜はとても性欲旺盛で、数十発程度の射精じゃあ終わらない。トリトンは俺の乳首を弄ることを気に入っており、俺は乳首を弄られてしまうと、未だに女みたいな声を出して喘いでしまう。
 だが、トリトンもおっぱいが感じやすいことが最近わかった。

 その後、海を泳ぎ回っているうちに、かつての船員や乗客は、少数が何とか崖を登り切り、あるいは波の高さに合わせて崖で嵐をしのぎ、嵐が収まったあと海岸から陸へ上がれた者も居たということがわかった。
 崖を登れなかった者達も、マーメイドやネレイスに助けられており、今ではそれらの魔物娘と一緒に幸せに生活しているらしい。

 だが、残念ながら助からなかった命もあったようだ。運悪く崖から落ちたあと、波にさらわれて漂流してしまった者の痛いが複数体見つかったようだ。列島の国の政府は「隣国からの密入国者の遺体」「嵐の中、大きな爆発音が聞こえたが、周辺には船の部品らしきものが浮いていただけだった」という見解を出している。

 列島の国の国民はこのニュースを聞いたとき「死んでまでも、この国へ来たいのかな?」と思ったそうだ。
 だが、俺達の国の国民からしてみては、「国で餓死して死ぬか」「国を脱出して生き延びるか」の瀬戸際なのだ。

 現在、俺はトリトンとの間に同じマーシャークの娘を授かり、幸せに暮らしている。だが、俺の元居たあの国は、今なお存在している。俺は大事な家族を危険にさらすことはしたくない。だからもう脱国ビジネスからは手を引いた。
 だが、あの国がなくならない限り、またいずれ俺と同じ脱国を指揮する者や、ブローカーが現れるだけだ。
18/01/27 02:48更新 / 風間愁

■作者メッセージ
今回のSSの元ネタはブラック・ジャックのある話がモデルになっています。元ネタでは救いはありませんでしたが、魔物娘図鑑のこの世界では救いがあってよかったと思います。
今後もマーシャークのSSを書いて行きたいですね。

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