連載小説
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その7 『昼休みから〜』
 何かとても卑猥な夢を見た気がする。
 だが、毎度のことではあるが、中々夢の内容を鮮明に覚えていることは難しく、今回もソレであった。
 だが、とても卑猥な夢であったのは違いない。
 現に、僕の股間のソレは夢から覚めても尚、固く漲っている。
 一体どんな夢であったのかと、僕の頭は必死に忘却の彼方に消え去ってしまったろう記憶を引き上げようとしてみたが、その決死の作業は、突然鳴り響いたチャイムの音によって中断されてしまった。

 結局4限目をほとんど居眠りで潰してしまった。
 3時限目の終わった疲れのせいで、一体なんの教科であったのかすら、ろくに覚えていない。
 その為、ノートの表面はあまりに白く、その色は僕の脳内に浮かんでいる記憶と、とてもよく似ていた。
 「参ったな...」
 僕は頭を掻きながら、黒板を見直してみたが、既に真面目な当番が、綺麗さっぱり、黒板に書かれていたであろう授業内容を消した後だった。
 僕はさりげなく、駄目元で、隣の彼女を見てみたが、最初から彼女がノートを取っているとは思えない。
 彼女にとって赤点や補習などはなんの驚異でもない。
 もしかすると退学ですら、彼女には些細な問題なのかもしれなかった。
 「ノート...取ってないですか?」
 しかし、溺れる者は藁をも掴むと言ったところか、僕は淡い希望を持ちつつ、隣の席の彼女へ聞いてみた。
 返事は拳骨であった。

 4時限目を終えた教室内は、昼休みに入って、休み時間と同じように騒がしくなっていた。
 昼食の弁当を広げている生徒に、下の階にある購買へ何か買いに出かけた生徒、それと別の意味での昼食を取ろうと男子生徒の体を広げている生徒。
 後者に至っては羨ましいものだが、流石にその光景を眺めながら食事をとるのは如何なものか。
 とは言っても、そんな生活3日もすれば慣れるもので、僕はノートを取れなかったことを後悔しながらも、普通にカバンから弁当を取り出して、机の上に広げ始めた。
 一方、隣の席の彼女は、先程僕に拳骨を食らわせると、またふらりと教室を出て行ってしまった。つい、僕は追いかけたい衝動に駆られたが、それは彼女の舎弟である北里に阻まれてしまった。
 「姉御っ!」
 4時限目の始まりに確か、北里も僕と同じように彼女から拳骨を喰らっていたのだが、それでも姉御と慕う彼女のことが好きらしい。
 そんな健気な北里を見ると、僕はつい、彼女を追うことを諦めてしまった。
 
 何故、諦めたのか。
 北里は確かに彼女と特別な関係でないわけではないのだが、そんな複雑なものでは断じてないはずだし、同性だ。
 そして、僕は異性だ。
 入れ込むというと下衆な響きがあるが、僕が別にあの二人に着いて行ったって、あの二人は別に僕を咎めはしないだろう。
 精精、北里が調子のいいことを言うか、彼女が再び僕に拳骨を喰らわせるものの、さして咎めずに一緒に過ごしてくれるだろう。
 それはわかっているというのに、このもどかしさと言えばいいのか、何処か罪悪感とも言えるような感情はなんだろうか?
 どうも4時限で寝入ってしまって起きてから、どうも妙な気分であった。
 そんな気分を僕は振り払おうと、箸に手をつけた。
 「あっ...んぁ...」
 教室の隅から嬌声が聞こえてくるが、僕は性欲よりも食欲を優先することにした。
 仮にここで性欲を優先させたとしても、『混ぜてくれ!』と叫んで、すぐに3P・4Pに発展することは、中々このクラスでは無いことだった。
 どうもこのクラスの女子生徒は彼氏に対する執着が強いらしく、他の生徒が混ざろうとするとすぐに引っぱたかれる。
 一度だけ、春頃に陽気に当てられてか、フラフラとアルラウネの鈴木さんに近寄いていったことがあったが、それはすぐに彼女の拳骨にて阻まれた。
 いや、阻まれたどころではなく、彼女はヒステリックな叫びを上げて、僕からマウントをとって、顔面を激しく殴りつけた。
 そんな痛い過去を思い出すと、自然と性欲はどこかに消え去ってしまっていた。

 嬌声と喧騒に苛まれる教室の中においても、食事を終えることができた僕は、ふと黒板の上に掛かっている時計の時刻を見た。
 少々急いで食べたせいか、清掃時間まで大分余裕があった。
 今のうちに誰かノートを写させて貰おうかとも思ったが、愛しい彼女と甘いひと時を享受している連中に脇から『ノート写させてくれない?』などと言えるわけもない。それはあまりにもシュールな光景かつ、侮辱的な物である。
 「はぁ」
 僕は弁当箱を畳んで、またカバンへ戻すと、どうしたものかと溜息をついた。思い切って、彼女を探しに、また校内を探し回ってみようかとも思ったが、それは流石に時間が足りないと思い、無駄だとは思ったが、4時限目に見た夢の内容を思い出そうとしてみた。
 頬杖をついて、瞼を閉じて意識を集中してみる。
 「あぁっ///そこ...そこ...もっと...もっとして...♪」
 「いいよぉ...松田のぉ...奥まで突いて...」
 駄目だ。嬌声に意識が行ってしまう。
 今更ではあるが、きっとこの学校で精神統一を行うということは、既に悟りを開いた賢者でもない限り、到底無理であることがよくわかった。



 「米山君...」
 そんな桃色の声音に悶々しつつあった僕の背後から、小さい声で誰かが僕の名前を呼んだ。
 振り向いてみると、そこには僕が席に座っているせいもあるのだが、とても背が高い女子生徒が立っていた。
 長く伸ばした黒髪と、それと同じように漆黒の馬体が美しい牧田さんだった。
 牧田さんと僕は滅多に話したことはない筈だが、一体どうしたのだろう?
 「?...どうしたの?」
 「...これ」
 そう言って、彼女は一冊のノートを差し出した。
 どうやら4限目の科目のノートらしい。
 僕が居眠りしていたのを後ろから見ていて、心配してくれたらしい。
 「いいの?」
 「...うん......ごめんね」
 僕の問いに牧田さんは弱々しく頷くと、ノートを僕に渡して、すぐ恥ずかしそうに教室の外へ走り去ってしまった。
 何もあんな勢いで走っていかなくたっていいだろう。
 急ぎすぎたせいで、一人の男子生徒が牧田さんに跳ねられ、掃除ロッカーへ頭から突っ込んでしまうのが見えた。
 凄い音がしたのだが、周りの生徒は誰もその男子生徒の不幸に気付かないらしい。
 そんな様子を眺めながら、これが現代社会の冷たさなのかと、僕は思いながら、同時に何故、牧田さんは最後に謝ったのかと考えていた。
 
 
 
14/06/29 12:00更新 / mo56
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