読切小説
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押しかけ女房してきた初恋の相手である白蛇のお姉ちゃんに色本を拝んでる現場が見つかったお話
サツキはジパング出身の祖父を持つ、クォーターの少年である。

年は十六を数えたばかり。性格には年齢相応の幼さが残っているものの人が好く評判は上々。顔立ちは中性的な細面。
弓の腕前は名人であった祖父譲りの百発百中であり、その祖父が故郷に帰った今、猟師として立派に独り立ちができている。
トレードマークはジパングの血を継ぐ真っ黒な髪と、白を基調としたお気に入りの狩衣装。
まだ小さな子供の頃にはジパングに滞在していた時期もあったため、好物は味噌汁という大の親日家だ。

そんなサツキに、最近になって妻ができた。

お相手は七つ年上の白蛇さんで、名前はミシロという。
器量よし、性格よし。才色兼備でオマケに料理も上手く、特に味噌汁が絶品。
つまるところ、サツキにとってこの上ない良妻である。ついでに言えばサツキの初恋の相手でもある。

でもちょっと、サツキは困っていたりする。

そもそもの話。二人の縁の始まりはジパングにいた幼少期から始まる。
ミシロはサツキの遠縁の親戚であり、異国の地で分からない事の多いサツキを非常に可愛がってくれた相手なのだ。
いつでも自分の面倒を見てくれる、とっても綺麗で優しいお姉ちゃん──もう幼心はメロメロキュ〜、であった。
だからジパングから帰る時には泣いた。大泣きをした。
一方でミシロの方も、サツキのことを大層気に入ってくれていたらしい。
別れ際にミシロは、元々赤い目を涙で更に赤くして、サツキにこう言った。

『大きくなったら、今度はお姉ちゃんがサツキくんの所に会いに行くから──』

そう涙ながらに約束して別れ、二人が立派に大きくなる程度の年月が経った後のこと。
ミシロはサツキに会いに来た。
突如ジパングからはるばる海を越え山を越えて、本当にサツキに会いに来てくれたのだ。

当然、サツキは喜んだ。
幼い頃の約束を守って、大好きだったお姉ちゃんが自分に会いに来てくれたのだから。
満面の笑みで自宅に迎えるサツキに、ミシロは目に浮かべた涙を指で拭いながらも、幸せそうな表情を浮かべて言った。

『嬉しいです……これで今日からミシロはサツキさんの妻なんですね』

……妻? と、満面の笑みがそのまま固まった。
てっきり遊びに来たと思っていた相手が、なぜだか恭しい口調で自分の妻を名乗っている。
しかも祖父から許可を貰ってきている。直筆の手紙を持参している。あの何が書いてあるのか良く分からない、ジパング語の達筆で。

サツキは驚いた。
相手は初恋の人ではある。
しかし、超唐突に相手が妻。結婚どころか恋人ですらまだ考えたこともなかったのに。

いくらなんでも結婚は早いんじゃないかと慌てるサツキに、自分が妻ではお嫌でしょうかと涙を滲ませるミシロ。全然嫌っていうわけじゃないんだけど、と、またも泡を食うサツキ。
そんなこんな、すったもんだ。ミシロがそのまま家に居ついてしまったのが大体一月ほど前。

確かに、サツキには最近になって妻ができた。
器量よし、性格よし。才色兼備で料理も上手く、特に味噌汁が絶品。
ところがこの理想の姉さん女房……言ってしまえば“押しかけ女房”なのであった。







時は夕刻、西の空の茜色が段々と薄暗くなっていく頃合。
今日も上々の調子であったサツキは、捕らえた獲物を手早く捌くと村でお金に換えて、自宅への帰路に就いていた。
サツキの家は村から歩いて半刻ほど、森の入り口からそう遠くない所にあるジパング式の家屋だ。海を渡って修行してきた職人に祖父が建ててもらった、小さくとも自慢の一軒家である。
しかしサツキは、愛しの我が家にたどり着いてもすぐに戸を開けることはしない。その場で立ち止まり、ふぅと息を吐く。
これが近頃のサツキの習慣だった。我が家に入るのに、いくらか心の準備が必要なのだ。

すぅ、はぁ。すぅ、はぁ。
よし、準備オッケー。

意を決し、ガラガラと引き戸を開けて中に入る。

「ただいまー」

少し大きめの声で帰宅を知らせると、するすると廊下の奥から、一人の女性が現れた。

肩口や腕部が露出した白い小袖と、藤色をした丈の短い袴に、細い腰に結わえられた大きな帯。
ほっそりとした上半身に対照的な、太く長い蛇の下半身。
儚げな印象を与える、流れるような純白の長髪。白くキメ細やかな肌。
その整った顔立ちの中に輝く赤い瞳が、サツキを迎え入れるように優しく細められている。

「おかえりなさいませ、サツキさん……!」

透き通るような声に喜びの色を含ませて、その女性──ミシロはサツキに近寄ると、彼の背中に両腕を回した。

「あぅ……た、ただいま、ミシロさん……」
「はい、今日も一日お疲れ様でした……!」

身を硬くして直立しているサツキにお構いなく、ミシロはぎゅっと彼のことを抱きしめている。
胸に押し付けられる豊かで柔らかい双球の感触。髪からふわりと漂う、花のような甘く上品な香り。
慣れない。もはや日課になっているのに未だにこのお出迎えには慣れそうにもない。
サツキも健全な十六歳の男の子だ。異性と密着していては中々平静ではいられないお年頃でもあり、身体は緊張で強張ってしまう。
でも、幸せ。
相手はサツキをしこたま可愛がってくれたお姉ちゃん。幼少のみぎりには既に『おねえちゃんにだきしめられるのはしあわせ』と身にも心にも刷り込まれてしまっている。
そういう訳で、このシャイな少年は動けない。緊張と幸せの狭間であうあうしながら成すがままに抱きしめられているのである。

「……他の女のニオイはついてないですね……ふふっ」

……なんだかちょっぴり怖い発言も聞こえるけど、それは気にしないようにしよう。

「あっ……すみません、サツキさん。まだサツキさんがお荷物を持ったままでしたのに」
「いや、俺は全然良い……けど……」

たっぷりと夫との抱擁を楽しんだところでミシロは身体を離し、彼の荷物と弓矢を受け取ると、それを丁寧に玄関の脇へと置いた。
そしてサツキに向き合うと、その細くしなやかな腕を彼に差し出すように広げ、ニッコリ。

「さぁ。サツキさん、どうぞ」
「え゛? あ、いや、え、その」

少年がほっとしたのもつかの間。今度は慌てふためきながら、自由になった両腕を奇妙に動かしている。その様、まるで糸で釣られた操り人形というのが一番良い表現だろうか。
別に女性に対して聡いわけでないサツキだが、ミシロの取っている行動の意味は即座に理解できた。小さい頃に何度も見た仕草、『お姉ちゃんのお胸においで(はぁと)』の意味である。

「ミシロさん、その、それは確かに嬉しいんだけど、俺もう大きくなったし、そういうのは……!」

幼少期のしあわせの記憶は喜んでお姉ちゃんのお胸(おっきくてやわらかい)に身体を飛び込ませようとするものの、成長した理性は必死になってブレーキをかけている。
腕をワタワタ、脚をバタバタ。しばらくその場で踊る人形をしていると、背後に白い尾がスルスルと伸びてきて、背中がポンと押された。

「えいっ」
「うぁっ!?」

そのまま前に倒れ込んでしまい、相手に抱きつく形になるサツキ。むぎゅ、と愛する夫の頭を抱え、ミシロはご満悦の表情だ。

「うふふ……つかまえました」
「あうぅ……」

捕まってしまっては抵抗できない。サツキは大人しく彼女と密着しながら、よしよしと頭を撫でられ始めた。
なでなで、むにゅむにゅ。頭部全体にしあわせな感触。だけど、その感触をなんとか頭の隅に追いやらないと、変なところが硬くなりそうで困る。

「もう、サツキさんったら恥ずかしがり屋さんなんですから。昔は喜んでミシロに抱きついてくれましたのに」
「だってそれは小さな頃の話だし……もう俺もそんなに甘えてられる程の子供じゃないわけで……」

サツキは頬を赤くしながらも、ミシロの言葉にほんの少しだけ口を尖らせた。
ミシロからのスキンシップが嫌なんてわけは全くない。ないのだけれど、どうにも自分に対する行動がいささか幼児に対するそれに近しい気がしてならない。ていうか、昔にしてもらってたこととあんまり変わってないのは、男としてどうなんだろう。
しかし、そんな男の子のちょっとしたプライドもミシロには通じない。愛おしげに少年の頭を撫でながら、実にさらりとした返答が返ってくる。

「でしたら、尚更ミシロに甘えてくださいな。ミシロとサツキさんは今はもう──」

そこでミシロは一瞬だけ言葉を区切ると、心底から幸福に満ち満ちた微笑をサツキに向けた。

「──夫婦、なんですから。ね、サツキさん?」
「あうぅ……ふ、ふーふ……」

愛情がたっぷり込められたその単語に、サツキの顔にカアッと熱が集中してしまう。
夫婦。ふうふ。ふーふ。
……その響きが一番慣れないんです、とは思いつつも、口に出してしまえばミシロがシュンとしてしまうのが分かっているので溜め息でごまかすしかない。『おねえちゃんをかなしませるのはわるいこと』なのだ。

「ふふっ……そうですよ、ふーふなんですよ。ふーふ、ふーふ」
「ふーふ、ふーふ……」

ふーふ、ふーふと、二人で幼げな発音。もう嬉しくて仕方ないといった様子で尻尾を巻きつけ、赤子をあやすように夫の身体を上下に揺する妻。
人が目にすれば間違いなくバカップルかそういうプレイかと判断しそうな状況だが、どちらにせよ、意図せず新婚ホヤホヤ状態になってしまった少年にとって、それは恥ずかしい行為以外の何物でもなかった。

「さ、お風呂も沸いてますので入ってくださいね。お着替えも中に用意してあります」
「う、うん!」

ようやく身を離してもらえたところで、羞恥で若干涙目になりつつあったサツキの表情がパァっと明るくなる。

「ありがと、ミシロさんっ! それじゃあ、ひとっ風呂浴びて来ま──」
「──サツキさん?」

脱兎のごとく、しかし小走りで風呂場に逃げ込もうとするサツキをミシロが呼び止めると、ギクリとその背が跳ねた。

「はい、何でしょうか……?」
「ごゆっくり、入っていてくださいね? すぐにミシロがお背中を流しに行きますので」

少年が若干ぎこちない動作で振り向けば、彼女は尚もにこやかな顔で、まさしく献身的な妻らしいことを言ってくれる。
美女に背中を流してもらうなんて是非にとお願いしたいシチュエーションではありそうなのだが。

「あー、いやー、だけどサッとだけ浸かって、すぐにでもミシロさんのお味噌汁を飲みたいなー、なんて……」

歯切れの悪い返事に加え、サツキの視線は廊下の端を交互に行ったり来たり。見事に目が泳いでいる。

「いけません、サツキさん。一日の汗と汚れはしっかり流さないと」
「あうぅ……でも……」

キッパリとした口調で窘められるも、まだ言い淀むサツキ。しかしそこはミシロの方が一枚も二枚も上手であり。

「そんなことをおっしゃる旦那様は、ミシロと一緒に百数え終わるまでお風呂から出してさしあげませんよ?」
「ごゆっくり、お待ちしてます……あうぅ……」

諦めて頭を垂らし、サツキは脱衣所の戸を開けた。
二人で入浴なんて事態になっては敵わない。子供の頃ならいざ知らず、今お姉ちゃんのすっぽんぽんの姿を見たら間違いなく鼻血を出して浴槽に浮かんでしまうだろう。
いや。だろうでなくて、実際に彼女がやって来た初日にそうなった。急に浴室に入ってきたミシロの裸を見た途端に上せて茹でタコと化し、真っ赤に染まった湯船にプカプカ浮かんでしまった。
それ以来、一緒のお風呂は夫の命に危険が及ぶ可能性から禁止。
ミシロは残念そうにシュンとしていたけれど、ならばと翌日から切り替わったのがこの背中流しであった。

──このままじゃいけないよなぁ……。

衣服を洗濯カゴの中に置きながら、サツキは心の中で深い溜め息を吐いた。

ミシロが家にやって来てからずっとこの調子だ。
家にいればどんな時でも、彼女から愛情たっぷりのお世話とスキンシップ(主にハグ)。おかげで毎日心臓がドキドキしっぱなしで休まる暇がない。多分三倍速ぐらいで寿命を消費してるんじゃなかろうか。それはダメだ。折角お姉ちゃんがお嫁さんになってくれたのに、一緒に暮らす時間が減る。もったいない。

……お嫁さん。お姉ちゃんが、お嫁さん、かぁ。

その言葉が頭に思い浮かんだところで、サツキの心臓がまたトクンとときめいた。

お姉ちゃんがお嫁さん。大好きなお姉ちゃんが自分のお嫁さん。
しあわせ。きっと世界一のしあわせ。いやっほう、しあわせ。えへへぇ、しあわせぇ。

ときめきと共に、にへらへら。
そうなのである。
やっぱりサツキはミシロのことが好きで好きで仕方がないのである。
だってお姉ちゃんは昔にマシマシしてとっても綺麗で優しくお胸もマシマシしておっきい。おかげで思春期のピュアハートはもーっとメロメロキュ〜になってしまった。
これでお姉ちゃんが実家に帰るなんてことになったら、大泣きを通り越してギャン泣きするだろう。そのぐらいのゾッコンっぷりである。
だというのにサツキときたら、そのお姉ちゃんとイチャつく度胸をまるで持ち合わせていないのだ。
いつだってスキンシップは彼女からされる側のされるがまま。シャイなのは昔からそうなはずだったのに、今では自分からミシロと手を繋ぐことすらできず。彼女と密着するだけであうあう言って何もできなくなると来ている。夫婦と言ってもまるでこれではおままごとだ。

だから、いけない。このままじゃぜーったいにいけない。サツキはグッと拳を握った。
ミシロはずっと前から、本気の本気で自分のことを想い、妻として自分を愛してくれている。
ある夜に見せてくれた、大事に手入れされたカンザシ。二人で行った縁日の射的で、サツキのためにと手に入れてプレゼントした思い出の品。

『これをいただいたあの日から、ずっとずっと……ミシロはサツキさんに嫁ぐ日を待ってたんです』

涙を零して微笑んだミシロを見たその時、サツキは心に固く誓ったのだ。
この初恋の、最愛の女性を、自分の生涯をかけて幸せにしてみせると。
……その決意をその場で語った直後に、感極まったミシロに唇を奪われて気絶してしまったのが情けないわけだが。

とにかく、ミシロを何が何でも幸せにする。
そのためには彼女を堂々と抱きとめられる甲斐性と不動の精神。理想とするは質実剛健、泰然自若のジパング男児。
驚天動地、艱難辛苦。七転八倒三寒四温に五里霧中。実は意味はよく知らないジパング言葉も沢山含まれてるが、とりあえずそんな言葉の似合う男らしさが必要だ。
おはようのキスも自分からしてあげて、出かける前の家事は自分も手伝ってあげて。
いってらっしゃいのキスも欠かさず、帰宅後は妻をちゃんと抱きしめて労り。
お風呂でイチャイチャした後は、美味しい料理に感謝の念を込めていただきます。
それから……その、えっと。
ふーふ。ふーふだ。
もう二人とも男と女の関係なのだから。
その……いわゆる『ふーふのいとなみ』ってものを、しないといけない。
二人の愛を深めるべく、結晶させるべく。
一番大事な……その、子作りっていうのを──

「──サツキさん、お待たせいたしました」
「ひゃいっ!?」

風呂の湯気に混じって広がり始めていたピンク色の妄想が、浴室の戸を開ける音と妻の呼び声にかき消される。
まだ年若い夫は素っ頓狂な声を上げながら、ちょっと大きくなってきていた股間の息子をタオルで隠すのであった。





さて、夜も更けて皆が寝静まる頃になっても、サツキは寝付けずにいた。

寝室には布団が二つ。部屋の隅っこには普通サイズのサツキのものと、少し離れたところにラミア種もすっぽり収まる特大サイズのものが敷かれている。
二人とも夫婦なのだから一緒の布団に入っても良さそうなものである。いや、現にミシロがやって来た日の夜にはもう、布団は一つの枕は二つという夫婦の寝床になるはずだった。
しかし悲しいかな夫は純情初心な思春期ボーイ。お姉ちゃんとの新婚初夜を前にサツキは頭を沸騰させてしまい、なんとお熱を出して寝込んでしまった。
そういうわけで、一緒のお布団もこれまた夫の命に危険が及ぶ可能性から禁止となり、ミシロは毎晩シュンとした顔をしながら自分の布団に入っているというわけである。
……距離を置いて敷いていたはずのミシロのお布団が日に日にサツキの方に近づいてきているのだが。このままいけば、いつか布団がピッタリくっついてミシロのお布団に引きずり込まれるのも時間の問題かと思われる。

とまあ、そんなタイムリミットの迫る一人寝の布団に包まって、今日もサツキは悶々と考え込んでいるというわけなのだ。どうやったら自分からミシロと一緒に寝れるかな、と。
それは押しかけ女房までしてきたミシロのことだ。頼みでもすれば嬉々として自分をお布団に迎え入れてくれるだろうし……本命のえっちなことなんて、嬉々としてどころか感激のハグまでして受け入れてくれそうなものである。
結局のところ問題は、度胸も度量も無くてミシロと愛を交わすタイミングを逸した自分の方。如何にしてミシロを男らしく、夫らしく、床に誘うか。

が、しかし。ここから先に困ってしまうのがサツキである。
当然ながら女性に甘い言葉をかけた経験は一切ナシ。だけどお姉ちゃんに甘える言葉だけは数えきれないぐらい口に出した覚えがある。
そんな経歴からして思いつく手段は、せいぜいが過去に身に着けた『お姉ちゃんの布団に近づいて枕を抱えながら上目遣いで一緒に寝て良いか尋ねる作戦』だ。何故だか失敗する光景が全く浮かばないのが一層情けなかった。
祖父からは沢山の知識や技術を教えてもらったものの、流石に女性の口説き方なんてものは聞いていない。ジパングを飛び出して異国の地で祖母と大恋愛をして結婚したという人だ。きっと何か上手い言葉や方法を知っていただろうに……。

──あ。そうだ、じーちゃんが置いてったアレはどうだろ。

ここでふと、あーでもないこーでもないと悩んでいたサツキの脳裏に、とあるモノの存在が思い浮かんだ。
ジパングには持っていけないからと、祖父が残していってくれた数々の代物。
その中の一つに、確か色本があったはずだ。

色本。春本。艶本。男女の情交が描かれた本。
要するにジパング特産のエロ本である。
しかしただのエロ本と侮ることはなかれ。そこは遥か昔から芸術性と文学性と魔物萌えを誇るジパングのHENTAI精神が生み出した匠の技……だとか何だとか。
とにもかくにも、その中にならミシロへの大きな愛とそれなりの劣情を上手く言動にできる方法が書いてあるかもしれない。しかもジパング式である。文句無しだ。

思い至ったが花。思い立ったが吉日。愛しのお姉ちゃんのためにも早速行動に移さねば……こっそりだけど。

布団の隙間からそっとミシロの様子を伺ってみれば、こちらの方を向きながらも目を瞑り規則正しい寝息を立てている。
イケる、と判断したサツキはそっと布団から抜け出して、枕元の魔力灯(行燈デザイン)を手に取った。
抜き足差し足忍び足。目指すは物置になっている祖父の部屋。

期待と興奮、後ろめたさの入り交ざった感情に胸を高鳴らせて、サツキは寝室を後にするのであった。





──えっと、こいつらかな……っと。

首尾よく寝室を脱出できたサツキは、薄明りを頼りに祖父の部屋の押し入れを物色していた。

探してみれば目当てのモノはあっさりと発見できた。
それもあるわあるわ。大事なコレクションだったとはチラと聞いていたが、本の束が幾つも出てくる。
ひょっとしたら百冊以上はあるんじゃないかという分量を前に、サツキの頭の片隅に『エロじじい』という単語が掠めたが、祖父がエロじじいなら孫はムッツリ助平なので何も言えない。
それどころか、今からそのコレクションにお世話になるのだ。むしろ頭を下げるべきだろう。感謝の念を込めてサツキは手を合わせると、本の束の上から一冊を手に取った。
表面にうっすらと積もった埃を息をかけて飛ばすと、表紙には『蛸女と漁師』と書いてあるらしい。多分登場するのはスキュラさんなのだろう。本当ならラミア種の誰かが出てくるのが一番参考になるのだけど、それはそれで何だかミシロに対して申し訳ないのでコレで良しとする。

できる限り物音を立てないよう、押し入れからコソコソモゾモゾ。這い出してきたら入り口の襖に目線をジーッ。ミシロの姿がそこに無さそうなことを確認すると、サツキは緊張を抑えるべく、何度か息を吸って、吐いてを繰り返した。
目を閉じ、精神を集中させる。決して股間に血流が集中してムラムラ困ることのないように、だ。
これは決していやらしい本を楽しむのが目的でない。あくまでも妻との夜の生活を円満に過ごせるようになるためのお勉強なのだ。
だからごめんなさい、お姉ちゃん。ごめんなさいごめんなさいほんっとーにごめんなさい。
心の中では飽き足らず、その場にいない奥さんに向かってヘコヘコと頭を下げてから、いよいよサツキはページの端に手をかけた。

──いざ、御開帳。

……。
…………。
……………………。
…………………………………………。
……………………………………………………………………………………?

『──あれおほきな一貝が私の合わせ貝をずいずいえぐつているやう──』



『──もうもうどふかしてしまうよこれはなんて心憎い一貝だろうね──』

???

『──あはあああ熱ひ子種が亀の先からどつぷりとあふれてきたあはああああ──』

??????????????

……読めない。

──あぅ……ジパング言葉ばっかりのせいで、何書いてあるのか良く分かんない……。

残念ながら、サツキには本の内容があまり理解ができなかった。
サツキが理解できるのは、あくまでもジパング『語』の範囲内なのだ。平仮名に漢字といったジパング特有の文字はある程度読めることは読める。しかし、混じりっけ無しのちゃきちゃきジパング表現で書かれてしまっていると、いくらジパング暮らしをしたことがあるサツキでも読解するにはハードルが高かった。

(絵もまあエッチはエッチなんだろうけど……)

なんていうか、全体的にのっぺりとデフォルメされたイラストである。交合している部分は特徴を良く掴んでいるようだけど、男女共に表情も読み取り辛いし色使いも鮮やかながらベタっぽく……もっと写実的で官能的なエロスが好みの少年にとっては表現に困る表現だ。そう言えばジパングの絵ってこんなのだったなぁと、今更になって昔お姉ちゃんに読んでもらった絵本の挿絵のことを思い出し、少しばかり現実逃避気味の懐かしさに浸れてしまうのが虚しい。

(あぅ……ダメだ、参考になんない……)

他の春本まで手あたり次第に手を付けてみるも、どれもこれも中は似たようなもの。こうなってくると辞書でも引っ張ってこないと解読は難しそうだが、仮にそうしたところで一体どれ程の時間を必要とすることになるやら。

「とほほ、だめかぁ……」

さっきまで強張っていた身体からは一気に力が抜けてしまい、サツキは本を手にしたままガックリと項垂れた。せっかく妙案だと思ったのに、と期待が大きかった分だけに落胆も大きく、その場で手足を投げ出して倒れ込みたい衝動に駆られてしまう。
が、お姉ちゃんとのお布団インが遠のいたからと言って、女々しくシクシクしてもいられなかった。気は乗らないが、この散らかした本の束を元通りにしまわないといけないのだ。
何せ今やっていることと言えば深夜のエロ本漁り。
もしもこんな所をミシロに見られでもしたら、いったい自分はどうなってしまうか──



「──サツキさん……?」
「っっっっっっ!!」



──心臓が口から飛び出そうになった。

背後からか細く自分を呼ぶ声に、脱力していたサツキの身体が一瞬の内に硬直する。
全身からどっと引き出す冷や汗。固まったまま動けない身体に、残響のように耳に何度も響き渡る声は、愛する妻のそれ。ミシロが……お姉ちゃんが、呼んでる。

「サツキさぁん……?」

また呼んでる。どうしよう、早く返事しないと。

「は、い……」

ギギ、と鈍い音が立ちそうな程のぎこちなさで、サツキは首を巡らせる。
そして。



「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」



少年の絶叫が静寂に響き渡った。

ミシロはそこに居た。
障子戸からちょうど左の半身だけを覗かせて、微動だにせず、無表情のままジッとサツキを見つめて。
薄明りの中で浮かび上がる顔は、かつて祖父の家で目にした凄く怖いお面……そう、アレは『能面』というのだったか。正にソレだった。『おねえちゃんがのーめんのおかおをしてる』。幼心の恋の象徴と恐怖の象徴がオーバーラップし、サツキは怯えてすくみ上ってしまう。

「サツキさん、夜更かしはお身体に悪いですよ……? どうされたんですか……?」
「あ、い、うぇっ!?」

抑揚の無いミシロからの問いかけに、サツキも幾らかの正気を取り戻した。
そうだ、怖がっている場合でない。すぐにお姉ちゃんに真っ黒くろすけ一歩手前なこの身の潔白を証明しないと。

「ゴメンなさい、ちょっと眠れなくって、本を読みたくなって……! すぐに片付けるから、ミシロさんも布団に戻ってて──」

嘘ではない。嘘は言ってない。が、肝心なことは全く言ってない。
潔白の証明というには全く言い逃れという他ないことを口走り、少年は大慌てで散らかった本をかき抱いて背を向ける。

「サツキさん……?」
「は、はひ……?」

しかし、そんな怪しさ満点な仕草と狼狽ぶりを見逃してもらえるはずもなく。

「随分御熱心に本を読まれていましたね……? ミシロにも少し読ませて頂けますか……?」
「ふへっ!?」

逃げ道が塞がれた。
間違いない、とサツキは確信した。ミシロは勘付いている。夫が夜中にコソコソとエロ本を拝んでいたことに気付いている。

「いや、で、でも、ミシロさんが読んでも、きっと面白くないかなーって……」
「サツキさぁん……?」
「はい……どうぞ……」

最後の抵抗もプレッシャーの乗った微笑に鎮圧される。観念したサツキは首を垂らして、襖から出てきたミシロに色本を差し出した。

「…………」

無言無表情でページを繰るミシロ。そんなミシロを見たサツキは、正座をした膝に目を落とす。頭の中はすっかりパニックに陥っていた。
愛妻兼大好きなお姉ちゃんに不貞(?)が露顕してしまったのである。これはお姉ちゃんに嫌われちゃうんじゃないか。怒って実家に帰るとか。もう離婚かも。ネガティブな単語と共に、自分が両手足をジタバタさせて『お姉ちゃん行っちゃヤダヤダ』と泣きわめく未来が脳内に浮かぶ。目に涙が滲んできた。やばい、もう泣きそう。泣く。

夫婦生活の終わりすら幻視してしまい、何度かお鼻をすすったところで、少年は遂に覚悟を決めた。
こうなったら洗いざらい白状してしまおう。
そもそも夜中に色本を物色していたのは妻とお布団を共にするためだったのだ。
やらしい目的であってもやましいことでは決してない。
嘘を吐くのは止めよう。情けなかろうが、正直に自分と床を共にしてほしいとお願いしよう。
きっとミシロなら大喜びで自分に尻尾を巻き付けつつお胸に抱き止めながらお布団に受け入れてくれるはず。サツキは思い切って口を開いた。

「あのっ、ミシロさ──」
「ふふ……うふふふふっ……」
「へ……?」

サツキの呼び声を遮る、か細い笑い声。
パタンと本を閉じて、ミシロは肩を震わせ始めた。
俯いたその表情は伺い知れず、しかしダラリと力の抜けたような首と両腕が、魔力灯に照らされてゆらゆらと揺れている。
端的に言って極めて不気味な姿に、思わずサツキは正座を崩して後ずさりをしてしまう。

「──そう、そうだったんですね。夫婦になったのにサツキさんはちっともミシロのことを求めてくれないと思っていたら、夜分遅くにこんな色本を読んでご自身を慰めていらっしゃったんですね。うふふ……サツキさんったら大丈夫ですよ。ミシロは分かっておりますとも、サツキさんは恥ずかしがり屋さんですものね。ムラムラしたってミシロには言い出せずにこうして一人で隠れてこっそり発散するしかなかったんですよね。ゴメンなさいサツキさん、ミシロはサツキさんの妻なのに旦那様の欲求不満すら解決できないだなんて……でもね大丈夫だよサツキくん全部お姉ちゃんに任せてくれればお姉ちゃんがこれからサツキくんの全部を受け止めてあげるからサツキくんに触れられもしない紙の上に存在するだけの薄っぺらい女たちなんかじゃ二度と興奮なんてさせないお姉ちゃんのことしか見えなくなるぐらいお姉ちゃんに夢中にさせてあげる安心してねサツキくんお姉ちゃんサツキくんの大好きなおっぱいだって昔よりももっと大きくなったしそれ以外にもお姉ちゃんサツキくんのお嫁さんになるために沢山練習してきたからねきっとサツキくんも自分一人でするよりもいっぱいいっぱい気持ちよくなってくれると思うからでもそのためにはまずお姉ちゃんの大好きをサツキくんの胸の中に届けてあげないといけないねこの苦しくて狂ってしまいそうなぐらいの大好きをサツキくんにも感じてもらわないとねだって二人はもう夫婦だもん同じものを見て感じて生涯を寄り添い添い遂げるのが夫婦なんだからこの大好きだって分かち合わないとそうだよねサツキくん?──」

途轍もない早口で剣呑な内容を呟くと、ゆらりとミシロが顔を上げた。

「────ッ!!」

ミシロは笑っていた。
ニタァ、と恐ろしく愉しそうな笑み。
けれど眸には暗い昏い、底知れない闇を秘めた赤。
最早悲鳴すら上げられない。
サツキは完全にすくみ上っていた。

「ひゃぁっ!?」

怯えるサツキの胴体に恐ろしい速さで蛇身の尻尾が巻き付けられる。
すぐに振り解こうとするものの尻尾はビクともしない。なすすべなくサツキはミシロの下へと引きずられてしまった。

「み……ミシロさ……」
「サツキくぅん……? お姉ちゃんの大好き、受け取ってくれるよねぇ……?」

持ち上げられる身体。眼前にはミシロの人差し指。
その指先から小さな青い火がポッと灯ると、その火は瞬く間に青白い炎となって燃え上がった。

青い炎──聞いたことがある。
炎のように見える、白蛇が作る魔力の塊。
もしもそれに焼かれてしまえば、男性は彼女たちと交わっていない限りどこまでも身と心を苛むという恐ろしい代物だ。
男性は彼女たちから離れられるはずもなく、殆ど例外なく一生を伴侶の庇護のもと、住居に籠りきりになり、愛欲と退廃の日々を送り続けると聞いている。

そして白蛇がその炎を伴侶に向ける理由は──怒りと嫉妬。

お姉ちゃん怒ってる……!

「──お姉ちゃん、待ってぇ! 誤解だからお願い待ってぇっ!!」

理解した途端、サツキは涙ながらに首を横に振って、ミシロを止めようとする。
もう結婚したのだから、大人になったのだからと封印したはずの”お姉ちゃん”という呼び方が出てくる辺りが、いかに少年がなりふり構っていられなくなったかの証左でもあり。

「……サツキくぅん? 誤解ってどういうことかなぁ……?」

ミシロの方も、夫のあまりに必死な様子と誤解という言葉に、流石に手が止まった。
これが絶好の好機にて最後のチャンスとばかり、サツキはまくし立てる。

「さっきの色本は別にエッチな目的じゃ──いや、エッチな目的なんだけど、別に俺はあれで一人でするつもりじゃなくて……お、お姉ちゃんとエッチなことしたかったから、それで引っ張り出して来たの!」
「……お姉ちゃん、と?」
「そう、そうなの! お姉ちゃんがお嫁さんになってくれたのに俺がヘタレなせいでエッチなことできなくて、ずっとどうしようかなって思ってて! お姉ちゃんが言ったみたいに恥ずかしくて言い出せなかったから! だけどもしかして色本なら、ジパングらしくお姉ちゃんをエッチに誘う方法とか何言えば良いかとか書いてないかなって! だから自分で使うつもりじゃなかったんだよ! そもそも何書いてあるか全然分かんなかったし! とにかく俺はお姉ちゃんをお布団に誘う方法が知りたかっただけだったんだ!」

もはや恥も外聞も一切無し。自分の魂胆を正直にぶちまける。

「……色本の女に浮気じゃないの?」
「違います違います魔王様に誓って浮気じゃありません」

ミシロからの念押しの一言にも全力の否定を返し、そして頬を赤くしながら顔を逸らし。

「だって俺はお姉ちゃ──ミシロさんの夫だし……」

再びお姉ちゃんのことを”ミシロさん”と呼び直す。
ミシロが妻になったからこそ……お互いがお互いを尊重する、夫婦になったからこそ使うようになった言葉。
その呼び方に、とうとうミシロの誤解も解けたようで。

「サツキさん……」

ミシロの人差し指でメラメラ燃えていた青い炎が消えた。

「ミシロさん……」

サツキは心底から安堵の息を吐いた。
ミシロに分かってもらえたのは勿論、ここのところ自分が抱えていたモヤモヤまで口に出来たのだ。恥ずかしい内容ではあるが、それはもうこの際置いておこう。今は自分がお外に出られない生活を送る危機は脱出できたのだから。
いまだ両腕は蛇身に巻き付かれた状態のため、心の中で何度も胸を撫で下ろしてから、少年は妻の顔を見やる。

「良かっ──」

深淵のように暗い色をたたえていたミシロの瞳に、スゥっと光が宿り始め。

「──たぁ?」

そのままキューッと、瞳孔に浮かび上がるピンク色のハートマーク。

「サツキさぁん!」
「ほわっ!?」

アレと思う間も無くサツキはミシロの胸に抱き寄せられてしまった。
しかも顔面から遠慮なく、おまけに身体を拘束されたままの熱烈なハグ。
当然お顔はお姉ちゃんのおっきなお胸に埋められる。

「もうサツキさんってば可愛過ぎますミシロのことをこんなに想ってくださってるのに自分からどう言えば良いのか分からなくて色本に習おうだなんてもうもう遠慮することなんて全くありませんよミシロはサツキさんの妻なんですものサツキさんの望むことなら浮気以外どんなことだってしてあげますさせてあげますもうもうもうミシロはサツキさんの幸せが一番の幸せなんですから私に溺れちゃうくらい思い切り甘えて下さいなもうもうもうもう!」

抱きかかえたサツキの頭に何度も頬ずり、ミシロは夫が愛おしくて仕方ないとばかりに尻尾の先をブンブンと揺らしている音が聞こえる。
サツキでも中々見ていない、ミシロの最上級ご機嫌表現だ。
お顔が完全にお姉ちゃんの柔らかお胸に沈んでいる今、それを目にすることはサツキにはできないのだが。

「サーツーキーさーん。あーいーしーてーまーすー。ふふっ、うふふふふっ……」
「むむぅー! むむむぅー!」
「さ、それじゃあ今から床に向かいましょうね?」
「ぷはっ! えっ、今からぁ!?」
「勿論です。サツキさんだってミシロと床を共にされたかったんですよね?」
「そうだけど、ちょっと急過ぎじゃない!?」
「とんでもありません。サツキさんをひと月もお待たせしてしまったんですもの、今日こそは妻としてしっかり夜伽のお相手を務めさせていただきます」

急転直下、お姉ちゃんとのエッチが決まって動転するサツキ。
しかし今なお拘束されたままの身では、すっかりその気になっているミシロを止めることは叶わない。

「さぁさぁ、サツキさん。”据え膳は急げ”とジパングのことわざにもあります。たっぷり楽しみましょうねぇ」
「あううううぅぅぅぅ──」

サツキは有無を言わさず、夫婦の寝室に連行されてしまうのであった。





そんなわけでお楽しみの時間である。

「きゃふっ!」

寝室に到着すると、サツキはポイっとミシロの巨大な布団の上に投げ出された。
若干の抗議の意味も込めて振り返るや否や、妻の白い細腕が強引に寝間着を剥ぎ取りにかかる。

「ミシロさん! 自分で脱げるから! やぁっ、やめてぇ!」
「恥ずかしがることなんてありませんよ、サツキさんっ。夫婦なんですから裸ぐらい見られても平気なんですっ」

ミシロの方も余程気が急いているらしい。普段なら脱いだ衣服はキチンと畳むだろうところを、脱がしたまま布団の端に放り出している。瞳の中にもピンク色のハートマークが映ったままだ。

「あ、あぅ……」

上から下まであっという間に丸裸にされてしまった。
全然平気なんかじゃないやい。裸を見られるのはやっぱり恥ずかしいやい。
この期に及んでまだ初心な少年は内心で呟きながら、布団で股間を隠して無駄な抵抗を図る。しかし、夫も裸になるなら妻も裸になるもので。

「いぃっ!?」

サツキは素っ頓狂な声を上げた。
目の前でミシロの方も寝間着を脱ぎ捨てたのだ。
ばるん、と揺れるお姉ちゃんのおっきな生おっぱい。
目が生おっぱいにくぎ付けになりながらも、見る見るうちにサツキのお顔は真っ赤に染まっていく。

「あっ、サツキさんいけません! 今日はガマンしてください!」
「うみっ、うみみみみみみみみみみみみみみみみみみっ!?」

このままでは風呂の時と同じく鼻血を噴いてしまうだろうところを、咄嗟にミシロが夫の鼻を強く摘まんだ。
えらく物理的な手段を取られてしまい、サツキはたまらず両手足をバタつかせている。
しばしの間、お布団でジタバタ悶える夫とそのお鼻をぎゅ〜っとする妻の攻防が繰り広げられた。

「うみみっ、うみー! うみー! うみみーっ!」
「あ、すみません、サツキさん。どうにか鼻血を止めないとと思って、つい……」

なんとか解放してもらい、涙目になってお鼻を押さえながら、少年はみーみーと小動物染みた鳴き声を上げる。
少しばつが悪そうなミシロではあったが、それでも夫の鼻血噴出の阻止が確認できたことで、拳は小さなガッツポーズを取っていた。

「あぅ……俺が鼻血出すのが悪いんだけど、もう少し優しくしてくれてぇっ!?」
「うふふっ……優しくしてだなんて、本当ならミシロの方が言う台詞ですよ?」

ジンジンするお鼻をさすりさすりしていたサツキのことを、ミシロが真正面から自分の元に抱き寄せた。
密着するミシロの白い柔肌。生おっぱいの暴力的なまでの柔らかさに、否が応でもサツキの目線は胸元に行ってしまう。

「もう、サツキさん。さっきからおっぱいばっかり気にし過ぎです。おっぱいなら後でいくらでも好きにして良いんですから、今はちゃんとミシロの顔を見てくださいな」
「あ、ご、ごめんなさい。注意しますうむぅぅっ!?」

ちょっとふくれっ面で咎められてしまい、視線を上げた途端に唇を奪われる。
不意打ちでのセカンドキスに反射的に頭を後ろに退こうとするが、ミシロはサツキの両頬に手を添えており逃げられない。オマケに後頭部をいつの間にやら回されていた尻尾の先がグイグイと押し付けているため、図らずも深い口づけをする形となっていた。

「ん、ちゅぅ……ん、んむ、ぅ……」

容赦なくミシロの舌は口内に差し込まれ、長い舌はくすぐるようにサツキの舌をつついたり絡んできたりとやりたい放題だ。ファーストキスの時のように即オチ気絶オチとはいかないものの、シャイな少年にはやはり刺激が強い。

まだキスするのだって2回目なのに。少しぐらい手加減してくれたって。心の中で少年は独り言ちる。
でも気持ち良い。お姉ちゃんとの大人のキス。頭がクラクラする。あぁ、だんだん視界がボンヤリして──

「──もう、サツキさんったら。今日という今日はぜーったいに寝かせませんからねっ」

唇が離れてしまったかと思えば、何だか遠くから聞こえる気がするミシロの声。
ミシロは凄い勢いで寝室を出て行き、帰りも凄い勢いで寝室に戻ってきた。
手にはサツキ愛用の水筒が握られており、ちゃぷちゃぷという音がすることから中身が入っているらしいことが分かった。ミシロはそれをグイっと口に含み──

「──んむむぅっ!?」

──ポケーっと眺めていたところに口移しされる。
流し込まれた飲み物はただの水じゃなかった。いやに甘ったるい味に薬らしき独特の風味がある。受け止めきれずに唇の端からその液体を零しながらも、お互いに喉を鳴らして飲み干していく。

「……ぷはぁっ! み、ミシロさん、今の何!?」
「サツキさんのお目々がパッチリギラギラするためのお薬です」
「お薬って……材料は?」
「えっと、ミシロの抜け殻を乾燥させて粉末にしたものが主成分で」
「うん、分かった。ありがとう、目が覚めた」

聞かなければ良かった。サツキは口元を拭いながら心中で独り言ちた。
とはいえども、確かに気つけにはなったようだ。
心臓の鼓動は早いものの、頭に血が上って意識が飛びそうな感覚は無い。心地よい興奮とでも言えば良いだろうか、そういった昂ぶりが感じられる。

「あ……ミシロさん……」

初めてじっくりと、ミシロの裸体を見つめる。
ぬけるような白いという紋切り型の表現が、しかし偽りなく似合う美しい肌。
サツキをどこまでも魅了するとびきり大きな乳房。
艶めかしくくびれた腰と、その周囲には艶やかな光沢を放つ蛇の鱗。
そして、サツキを受け入れるための、ツルリとした無毛の恥丘。

……綺麗だ。掛け値なしにそう思った。

「ミシロさん……あ、その……」
「ふふっ、もうお熱は出しませんか?」
「だ、大丈夫だよ! そうじゃなくて、えっと……」

こんな時に自分の素直な気持ちを口にできなくては見っともない。
大きな照れや恥ずかしさが混じりながらも、サツキは何とか言葉を紡ごうとする。

「……ミシロさんが……凄く綺麗だったから、見惚れちゃって……」

軽くからかうように笑っていたミシロも、サツキの感想には数度目を瞬かせてから、目元の滴をぬぐった。

「ありがとうございます、サツキさん……」

そしてミシロはサツキに近づくと、そっとサツキの手に自分の手を重ね合わせる。

「ミシロを、抱いてくださいますか……?」
「うん……」

見つめ合い、唇同士を重ね合わせる。3回目のキスも、2回目に負けず劣らずの激しいキスだった。

「んくっ……ちゅ、ん……」

最初はおずおずといった舌の動きも、ミシロに求められるまま、徐々に積極的な動きに変わっていく。
ミシロの舌使いは巧みにサツキの快感を高めていく。特にラミア属の長い舌でこちらの舌を巻かれて扱かれると、それだけで腰砕けになってしまいそうに気持ち良い。
次第にミシロの舌の動きについていけなくなり、少し息苦しくなって唇を離すと、口の端は互いの唾液でベタベタになっていた。

「サツキさん、すっかりトロけたお顔になってますね? ミシロの舌は気持ち良かったですか?」
「うん……すごかった」
「さ、今度は約束の通り……ミシロのおっぱい、サツキさんのお好きにしてくださいな」
「う、うん……!」

ミシロがサツキの手を引きながら布団に横たわった。
彼女の上体に覆いかぶさる形で、間近にある巨大な二つの膨らみに目を落とす。

ゴクリと唾を飲んだ。

重力に従って少し広がった膨らみは、けれども重みで潰れることなく立派な巨峰としてサツキの眼前に存在している。

白い巨峰の先端には、朱色の突起がピンと自己主張を強めていた。ミシロも相当に興奮しているのだ。その事実が更に少年の情欲を煽り立てる。

本当に好きにして良いのかな?
もう許可は出ているのにミシロの顔を伺うと、期待に潤んだ紅い瞳が応えた。

「それじゃあ……触るね、ミシロさん……」
「はい、どうぞ……んぅっ」

ほんの少し触れただけで、ミシロの乳房は吸い付くような感触をサツキの手に与える。
軽く力を入れて揉んでみる。ふにゃりと柔らかい。少年の手では全然収まりきらない大きさに、ずっしりとまで形容できる重量感。

「んっ……サツキさん、ミシロのおっぱいはいかがですか……?」
「すごい……やわらかいし、おっきい……」

感動と興奮で頭がどうにかなりそうだった。荒い鼻息のまま夢中で乳房を揉みしだくと、手の柔球は思うがままに形を変えてサツキを楽しませる。
暫くそうして乳肉の感触を楽しんでから、サツキは固く尖った乳首の先に手を触れた。

「きゃっ!? あぁん……っ! サツキさん、そこは、やぁんっ……!」

ピクン、とミシロの上体が跳ねる。もしかして痛かったのだろうか、慌ててサツキはミシロの顔を伺う。

「ぁぅ……ごめんなさい、痛かったりした?」
「いえっ……むしろ、ん……気持ち良くて……もっと、触って欲しいです……ぁんっ」

ミシロの言葉は全く嘘でないようで、眉根を寄せるミシロの表情には苦痛の色は一切見受けられない。
それどころか官能に濡れた瞳も、口から漏れ出る微かな喘ぎ声も、サツキのことを後押ししする。

このまま触っていても問題はなさそうだと、サツキは先ほどよりも力を込めて乳首をこねくり回し始めた。

「ぁあっ! ちくび、びりびりしちゃいます……あっ、ひゃぁんっ!」

ミシロの甲高い喘ぎ声がするが、今度はひるまない。
両の手で一対の突起を摘まんでは引っ張り、時折ソフトタッチで撫でてみたりと、自分なりの方法でミシロへの責め手を工夫する。

「あんっ……! あっ、ぅん……っ! ひぃ、あぁっ……! おっぱい、さわるの……ぁん、お上手です……!」

自分の手で面白いように身を捩る憧れのお姉ちゃん。それがサツキの中でほんのりとした自信になっていく。
たっぷりとしたミシロの乳房を揉みながら、サツキは唇を先端の蕾に触れ、そして口に含んだ。

「ちゅぷっ……じゅる、ちゅぅっ……!」
「ひぅぅっ!? ひゃ、ああっ……! あっ、サツキさ、ぁんっ! 吸うのは、やぁぁっ!」

鋭い悲鳴にも似たミシロの嬌声が上がる。しかしそれも今のサツキには劣情を一層煽る追い風にしかならない。

「じゅる……ちゅっ、ちゅっ……!」
「あっあっ、はぁん……! サツキさん、もっと……! 吸って、吸ってください……! ミシロのおっぱい、もっと……! ゃっ、ぁっ……!」

乳飲み子のように必死になってミシロの乳首を吸う。母乳は出ないものの、ミシロから薫る甘い香りと舌先で弾く汗ばんだ肌の塩気が、サツキにとってはそれだけで催淫剤にも等しかった。

「あっ、ひぃん……おっぱい、きもちいいっ……やぁ、きちゃうっ……!」

唇でしゃぶるだけで飽き足らず、舌で何度も転がすように乳首を弾いてみる。押して、転がして、吸い付いて。ミシロはサツキの頭をかき抱きながら悦びの啼き声を聞かせてくれる。

──ミシロさん、そろそろイキそうなんだ……!

自分の拙い愛撫でミシロが絶頂の寸前にまで至っている──告げられた言葉はサツキの理性を真っ白に塗りたくった。
サツキは力いっぱいに乳肉を鷲掴みにし、そして乳首に噛みついた。

「──ぃっ、くゅうぅぅぅぅぅぅっ!!」

一際大きな声でミシロは啼いた。
蛇の尾をサツキの胴部に締め付け、頭部と共に力強く抱きしめながら、全身を数度に渡って戦慄かせる。

「ぁっ、はぁ……はっ、はっ、はぁっ……」

思う存分にミシロのたわわな果実を堪能して、サツキは顔を離した。
ここまで舐っていた乳首は唾液でテラテラと薄明りに光っている。
乳房の表面には汗が玉のような雫となっていくつも浮かび、そして丸い綺麗な曲線を伝って布団の上に落ちていた。

顔を上げると、ミシロと目が合う。
快感に昇った紅い眸は幾らかブレていたものの、サツキを捉えるとすぅっと優しく細められた。
二人で目を見合わせて笑いながら、どちらからということもなく、唇を軽く触れさせる。

「もう……おっぱいを好きにして良いって言いましたけど、こんなに気持ち良くされちゃうなんて思いませんでしたよ、サツキさん?」
「あぅ……で、でも、ミシロさんが気持ち良くなってくれたなら良いじゃない」
「そうですね、とっても素敵でした……やっぱりサツキさん、おっぱいが大好きだから弄るのもお上手なんですね、きっと」
「いや、別に俺はミシロさんのことが大好きな訳で、別におっぱいだから好きって訳でも……」
「でもミシロのおっぱい、大好きですよね?」
「はい……とっても大好きでふ……」
「うふふっ……正直な旦那様はミシロも大好きです」

ミシロの胸に顔を預けながら、サツキはいい子いい子と頭を撫でられて頬を赤くする。

だってだって、大好きなお姉ちゃんのおっぱいだもん。大好きに決まってるもん。
これからもいっぱい触らせてもらうもん舐めさせてもらうもん吸わせてもらうもん。良いんだもん、自分はお姉ちゃんの旦那さんなんだもん。

おっぱいを吸った後遺症だろうか、かなり精神年齢の下がったことを考えていた。

「正直なサツキさんには……こちらにご奉仕をして差し上げないとですね?」
「ひぁっ! ぅあ、ミシロさん……っ!」

と、睦まじいやり取りから再び二人の間に生まれる淫靡な空気。ミシロのしなやかな指がサツキの肉棒に伸ばされた。
既に硬く勃起した肉棒は、鈴口から我慢汁をダラダラと零している。
軽く触れられただけでビクンと跳ねてしまう肉棒を、ミシロは手の内で数度撫でまわす。
そして喘ぎ声を漏らすサツキの耳元に口を寄せ、脳が溶けてしまいそうな甘い声で囁いた。

「このまま手でご奉仕いたしますか? お口でご奉仕いたしますか? それとも……サツキさんの大好きな、おっぱいで?」
「〜〜〜〜っ!? あっ、うぅ……えっと、それは……」
「おっぱい、ですね?」

お姉ちゃんがおっぱいでシテくれる。
願っても無い……いや、本当のことを白状すれば、是が非でもお願いしたかった行為だ。
上手く言葉にもならず、サツキはカクカクと高速で首を縦に振る。

「うふふ、それじゃあサツキのおっぱいでたっぷり気持ち良くなってもらっちゃいますね?」

ミシロはクスリと笑うと、サツキを巻いていた尾を離した。そのまま尻尾で手近に放ってあった枕を巻き取ると、後頭部が乗せられる場所に置く。

「それではサツキさん、ミシロのお腹に跨ってくださいな」
「え? ミシロさん、重くない? 大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。ミシロだって魔物娘ですから、サツキさんの体重ぐらいヘッチャラです」

言われてみればそれもそうかと、サツキは首肯する。ミシロは尻尾だけでサツキの体重を難なく持ち上げられるパワーの持ち主なのだ。お腹の上に乗っても負担がかかるということはないだろう。

「それじゃあ……その、失礼します」

安心してサツキは、横たわるミシロのおへそ付近に腰を下ろす。
直接目にするまで気付いていなかったが、自分のモノはかつて見たことのない程に張り詰めた凶悪な様相を呈していた。薬の影響もあるのだろうが、グロテスクなまでの肉棒は、ミシロの傷一つない柔肌の上に酷く対照的に映る。
しかし、ミシロの方はそれを恋する乙女のような瞳で見つめていた。

「凄いです……サツキさんのおちんちん、こんなに立派になって……」
「そ、そんな感慨深げに言わないでよぅ……」
「ふふっ、ごめんなさい。さ、もっと前に寄っていただけますか?」
「ぅ……うん……」

ほんの少しの躊躇をしてから、サツキは膝歩きで腰を進めていく。
下腹部から前に進むということは、当然だが胸部の方に近寄っていくわけで……つまり、ミシロが胸を寄せて作った乳山にサツキの肉棒が当たってしまうということでもある。
先ほどお姉ちゃんのおっぱいを好き放題したばかりの少年でも『本当に良いのかな?』と、返事に勢いは無い。
だがミシロの方はサツキの腰に尻尾を回して急かすように引き寄せてくる。
お姉ちゃんの望みのままよ、とサツキも腰を胸元にまで近づけた。

「ぅぁ……!」
「あぁんっ……! おちんちん熱い……!」

亀頭の先がミシロの乳房に当たる。
手で揉んでいた時にはとろけるような柔らかさを感じられた乳肉は、肉棒を押し込めようとすると意外な程の弾力を持って押し返そうとしてくる。
受ける印象の違いに驚きながらも、どちらも甲乙つけがたい快感だ。暴発にだけ注意をしながら、サツキはミシロの柔乳にグリグリと肉棒を押し付け始めた。

「おちんちんのお汁、美味しそうな匂いがします……」
「ぁくっ……!」
「おちんちん、入れてください……ミシロのおっぱい、サツキさんのおちんちんでぐちゅぐちゅって犯してください……っ」

先走りを乳房になすりつけられながらも、そこから香るらしい精の匂いにミシロが鼻を鳴らす。
普段の清楚な振る舞いが嘘のように淫靡な笑み。夫の劣情をかき立てるための卑猥な言葉。
頭が沸騰しそうになりながら、サツキは誘われるままに肉棒を双球の谷間に侵入させる。

「ぅぁっ……ぅ、ゎぁっ……!」
「ああっ……」

熱く硬い肉棒を、柔らかく温かな乳肉が包み込む。
生乳に包まれて再びとろけるような快感が肉棒を襲う。入れただけで性感が高まり、股間からせり上がるものを感じてしまう。
長く耐えられるものでないと判断したサツキはカクカクと腰を振って、ミシロの谷間で肉棒を擦り始めた。

「ふっ……くっ、ふっ、くっぁ……!」
「ふふっ……おっぱいがお汁でどんどん汚れちゃいますね? いっぱい、汚して、気持ちよくなってくださいね……っ」

肉棒を挟み込むために乳房を寄せ、互い違いに揺すってみたり揉み込んだりと、ミシロの方も積極的なパイズリ奉仕を仕掛ける。

「きゅぅっ……! いいです……! おっぱいも、乳首も、犯されてっ、感じちゃいます……!」

時々しこり立った乳首が竿に触れて擦れる。
ミシロはその度に堪えきれない喘ぎ声を口から漏らし、乳圧を強めて自身ももっと快感を得ようとする。
母性の象徴を自分の男の象徴が汚していく暴挙。
サツキは眼下の光景に目を奪われながら、遮二無二になって肉棒を生乳に突き込んだ。

「んふっ……サツキさん、こっちだって空いてますからね……?」
「ひぁあっ! ミシロさん、な、舐めちゃダメぇ……!」

胸の間に突き込まれる肉棒に、ミシロがまさしく蛇のようにチロチロと長い舌を伸ばした。
敏感な亀頭に粘膜質の肉が触れ、サツキは情けない声を上げて腰の動きを止めてしまう。
その隙を見計らったミシロはするりと抜けるように上体を持ち上げると、尾でサツキを軽く後ろ倒しにしてから、両手を突っ張って身体を支える夫の股座の間に頭を突っ込む。
そして首を伸ばし、亀頭までを口内に咥えて舐めしゃぶりながら、再び谷間に挟んだ肉棒を揉みくちゃにし始めた。

「じゅっぷ……じゅぷ、くちゅ……んっんっんっ! んちゅ、くちゅぅ、んむぅ……!」

じゅぷじゅぷと下品な音を立てながら、口いっぱいにため込まれた唾を竿に摺りこまれるように舐られる。
ただでさえパイズリによって責め立てられていところに、そのうえフェラチオまでも加わり始めたのだ。
いよいよもってサツキも耐え切れず、射精の時が近いことを告げる。

「み、ミシロさ……! だめ、だめっ、でちゃ、それすぐ出ちゃうぅ……っ!」

ミシロはニィっと飛び切りいやらしい笑みを浮かべ、亀頭を頬ばり、そして思い切り吸い上げた。

「じゅぷっ! じゅぷっ、ずずずずずっ、ぢゅぅぅっ! ずちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「ぁ、うぁああぁぁぁぁぁぁぅっ!!」

ビュクビュクとミシロの口内に精が勢い良く吐き出される。
溜め込まれた精液が出され、尿道には痛いほどの快感が走る。全身はガクガクと震え、口の端からは涎すら零れてしまった。

「んぐっ……! んちゅっ、んくっ、んくっ……! ぅん、んく、んく、ぅぅん……」

射精に長く脈打つ肉棒を、ミシロは執拗な程に咥えこんでしゃぶり続けた。
目を細めて喉を鳴らし、ひたすら口内に出される精液を飲み込んでいく。

「んちゅぅ……んぅ……もっひょ……おいひい、こひゃへ……んちゅっ……」
「ぁ、ぁ……ひゃ、ぁぁぁぁっ……」

遂にはもう出ないのかとばかりに、竿を乳房でしごき上げながら鈴口に舌先まで差し込み、子種を最後まで掬ってから、ようやく唇を肉棒から離した。

「はぁぁん……ご馳走様でした。サツキさんの子種、ドロドロで熱くて……どんな食べ物より美味しかったです。ほら、こんなに舌に絡みついてますよ……」

存分に夫の精を味わった舌を見せつけて目尻を下げるミシロ。

そんな妻にされるがままのサツキだったのだが、今しがたの人生初体験パイズリフェラ。信じられないぐらいえっちなお姉ちゃんの仕草。
強烈すぎた快感と刺激に、そのまま横にパッタリと倒れ込んでしまった。

「あぅぅぅぅ……」
「……サツキさん?」

ミシロの目が白黒、数度パチクリ。そしてしまったとばかりに身を起こして、夫の身体をゆすり始める。

「あっ、サツキさん、おっぱいに出したかったんですよね? ごめんなさい! ミシロったらすっかりサツキさんのおちんちんに夢中になってしまって、勝手にお口に出させてしまって……!」
「そういうわけじゃ……ちょっと、気持ち良すぎて……ぅぁぅぁぅー……」

息も絶え絶えになりかけて横たわっている夫だが、しかしミシロはまだまだイケると判断したらしい。クスリと笑みを浮かべると、瞳は再び肉欲に濡れた輝きを放ち始める。
そして部屋の隅に置いてあったサツキ愛用の水筒を手に取り、それをグイっと口に含み──あ、今日2回目だコレ──

「──んむむぅっ!?」

──ぽけーっと眺めていたところに口移しされた。
いやに甘ったるい味に薬らしき独特の風味……と、さっきお姉ちゃんのお口にいっぱい出したせーえきのえぐみがちょっと。
両手足をジタバタパタパタさせるのを抑え込むようにして、ミシロに媚薬を流し込まれる。

「もう、サツキさん? 大人になったんですから、今日はミシロと一緒に夜更かししましょうねぇ?」

サツキのは赤い顔のまま首をコクコクする。
お目々はギンギン。ついでに言えばあんなに吸い取られたはずの逸物もギンギン。
そろそろ何度目か数え切れなくなったお姉ちゃんからのキスを受け、少年の息子はすっかり臨戦態勢を取り戻す。

「良かった……サツキさんのおちんちんも、まだまだ元気いっぱいですね?」

ミシロは大きな布団を引っ張り折り畳み、結構なサイズの背もたれを作ると、そこにゆったりと上体を預けた。

「さ、こっちに来てくださいねぇ……?」
「う、うん……」

蛇の尾に腕を巻き取られ、たわむ布団に寄りかかる裸体へと引き寄せられる。
蛇腹の上に乗せられ、目の前に存在するのはミシロの女性の部分だ。

「ミシロのここが、サツキさんのおちんちんが欲しくて泣いてますから……」
「ぁ、う、うわぁ……」

ミシロの指によって、ぴっちりと閉じていた彼女の花弁がそっと開かれる。
にちゃぁ、と濡れそぼったそこは糸を引いて綺麗なピンク色の肉の洞をさらけ出した。
小さな穴はミシロの呼吸に合わせてパクパクと開いたり閉じたりを繰り返す。
むわりとした性臭が嗅覚からサツキの官能を刺激し、強い香水を嗅がされた時のように脳が揺らされる。

「んっ……ミシロのおまんこ、中まで見えますか……? もう疼いて仕方なくて、我慢するの大変だったんですよ……?」

お姉ちゃんの口から出るとは思えなかった卑猥な単語。
淫水を溢れさせる生の女性器を目と鼻の先で見せつけられては興奮が抑えきれない。ミシロにお伺いをすることも忘れ、サツキは彼女の陰部へと指を伸ばす。

「あん……っ! もう、悪戯さんな旦那様なんですからぁ……」

くちゅりと滑りを帯びた分泌物が指先を湿らせる。濡れた人差し指を親指とで擦り合わせると、間では愛液がつつと糸を引いていた。

「やぁ……ごめんなさい、もう、待てません……サツキさんのおちんちん、入れてください……!」
「そ、それってつまり……」
「はい……! ミシロのおまんこの中に、おちんちん入れて、びゅーびゅーって子種を出して欲しいんです……!」
「あ、う、うんっ……! 分かった、ミシロさん……!」

うわずったミシロの声を肉欲で浮かされた頭でなんとか飲み込む。
今すぐにでも妻の中に自分のものを突き込みたいと、薬の効果で膨れた肉棒が更に硬度を増して、腹部にまで付きそうなほどそそり立っていた。

「もう少し、そう……入れやすいように、上ってきて……」

言われるがままに身体を這い上がり、胸板でひしゃげた巨乳の柔らかな感触を受け止めつつ、ミシロと目を合わせる。

「力を抜いて……腰を上げてもらえると……」

巻き付けたられた尻尾で腰を軽く持ち上げられ、ミシロのしなやか指がサツキの分身へと伸ばされた。

「んっ……どうぞ……入れて、ください……サツキさん……」

ミシロに導かれて亀頭が媚肉の花弁に当てられる。
くちゅ、くちゅ、と何度か慣らすように二人の性器の先を擦り合わせると、遂にミシロがサツキのその先端を迎え入れた。

「ゃあっ……入って、おっきなおちんちん……おまんこに、入ってきる……」
「ぁ……ぅぅ……ミシロさんの中……これが、ミシロさんの……」

──熱い。うねるミシロの膣内はトロトロに煮込まれたような熱をもって、サツキのモノをもっと奥に奥にへと招くようにきゅうきゅうと引き込んでいく。
狭い膣内を割り開き、根元までが蛇淫に飲み込まれたところで、二人の口から感極まった溜息が揃って漏れ出した。

「嬉しいです……ミシロはようやく、サツキさんと……本当に一つに、なれて……」

生まれて初めて味わう、憧れのお姉ちゃんの一番えっちな場所。さっきのパイズリフェラで先に出していた分が無かったら、すぐさま子種を中にぶちまけていただろう。それほどの快感と感動がサツキにはあった。

「駄目……幸せなのに、気持ち良いのに……胸が、いっぱいで……あんっ、涙が、出てきて……」

ミシロの方も愛する夫と思いを同じくしているらしい。愛欲で濡れていた瞳からは、その感情とはまた別種の涙がほろほろと零れている。

「ミシロさん……うぅっ……」
「サツキさん、このままじゃ生殺しですからぁ……ね、動いてください……! ミシロのおまんこ、サツキさんのおちんちんで犯してください……!」
「ぁ、うん! 動く、ね……!」

思わずもらい泣きしそうになりながら、だけどミシロの中のモノはやっぱり男の子。媚肉に舐られる肉棒は最高硬度でミシロを貫いたまま。
なんだかしんみりしかけた空気もすぐにピンク色に逆戻りし、サツキはミシロの上でゆっくりと腰を動かし始めた。

「んっ……は、ぁん……! サツキさ……ぁ、ぁぁん……!」

ずちゅ、ずちゅと、繋がった箇所から粘っこい音が部屋に響く。
サツキは不慣れで緩慢な腰使いであるものの、お相手は流石の魔物娘といったところか。腰に絡められた尻尾がサツキの動作をきちんと補助し、エラの張ったカリ首が秘裂のギリギリ抜けないところで押しとどめ、今度は蜜壺の奥へと押し込める。
竿の全体が包まれると、肉襞が貪欲に肉棒を締め付けて離そうとしない。肉棒が抜かれる時には名残惜しそうに肉壁が吸い付いてくる。
背筋に走る震えに一種の恐怖が混じる程に、ミシロから与えられるのはまさに魔性の快楽だった。

「ミシロさん……! ど、どうかな……? き、気持ち良い……?」
「い、イイですぅ……! おちんちんが擦れて……おまんこ、痺れちゃう、あぁん……!」

ゆったりとしながら、それでいて力強く突きこまれる肉棒に、ミシロは可愛らしい喘ぎ声と淫語をまき散らして感じ入っている。
ぱちゅん、と肉と肉がぶつかる度に巨大な乳房を揺らし、眼下の愛妻は甘く乱れてくれる。

「サツキさん、もっとぉ……! あぁんっ、あぁっ……! おまんこぐちゃぐちゃにしてっ……! ミシロのおまんこ、をぉっ……! もっと、もっとぉっ……!」

あの優しかったお姉ちゃんが。いつもお美人で淑やかだったお姉ちゃんが、こんなにも卑猥な言葉を吐いて髪を振り乱している。汗だくになり、赤くなった頬に白い長髪を張り付かせて、あさましく自分を求めている。
その痴態に獣欲は酷く刺激され、スローペースだった抽送が次第に速さを増していく。サツキはますます滾る剛直でミシロの肉洞を掘り返していった。

「あっ、んっ、あんっ、あぁんっ! ゃぁ、やぁぁっ! おっぱい、またっ! いっしょにいじられたらあっ! いっ、あぁぁぁっ! やぁぁぁぁっ!」

ミシロのリードのおかげもあって負担の少ない両腕が、目の前で前後左右に踊る双球に伸びた。
どれだけ触れても飽きることのないだろう至上の柔らかさを持つ膨らみ揉みしだくと、肉棒を抱きしめるトロトロの膣内も一層悦ぶようにうねる。
おびただしく膣奥から生み出される愛液はとどまることを知らず、二人の接合部からグッショリと溢れて布団をベトベトに濡らしていた。

「サツキさっ、こっちもっ……! んむぅ、んちゅう……ず、じゅるっ……じゅっぷ……!」

嬌声を響かせるだけでは勿体ないとばかり、ミシロはサツキの唇に吸い付くと、その長い舌で口内を存分に舐め回して啜る。

キスをしたまま腰を大きく揺すっていたその時、サツキのモノがミシロの最奥のコリっとした感触を叩いた。

「ん”むぅぅぅぅっ! ぷはっ、はっ、はっ、ひぅっ! ぁっ、ぁっ……!」

唇を離して一際に大きい悲鳴を上げるミシロ。軽くイッてしまったのか、ビクビクと小刻みな痙攣は中に埋まった肉棒をぎゅむぎゅむと締め付けている。

「み、ミシロさん……!? い、今の、当たったの……!」
「し、しきゅうが……サツキさんの、はっ……こだねが、はぁっ、はぁっ……ほしくて、おりてきてますっ……!」

子宮……ここに精を吐き出すことで、二人の赤ちゃんを作る。分かってはいたことだが、どうしてだろう。今はその行為が愛を結晶させる大事なことであるのに、酷くいやらしくて淫猥なものだとサツキには思えた。

──お姉ちゃんを孕ませたい。

それが愛する相手を自分のものだと心身に刻み込むことだと、本能的な欲求がそう理解させていた。

「ぃぃぃぃぁぁああああっ! はげしっ、あぁ、サツキさんっ、あぁぁぁぁっ!」
「ここ……! ここに、出せば……! 赤ちゃん、できる……!」
「あぁっ、はっ、はいっ! あかちゃん、くださっ! いっ、あぁんっ! ミシロを、はらませてぇっ!」

途端にサツキはガムシャラにミシロの中へと肉棒を突きこみ始めた。おとがいを上げてよがるミシロを逃がさないようにと手指を絡め、歯を食いしばって腰を前後に振りたくる。

乱暴になっていやしないかという気遣いはもうサツキにはできなかった。

憧れだった女性が上げる淫らな女の声に背中を押され、蕩けた柔肉を剛直で滅茶苦茶に犯し、愛する男性の子を孕みたいと降りてきた子宮口をひたすらに突き上げる。

「あっ! いあっ! あぁっ! さつ、サツキさんっ! んあっ、あっ! んぁっ! み、ミシロのっ! おまんこ、だめぇっ、だめになっちゃうぅっ!」

激しく恥部を打ち付け合い、お互いに絶頂への階段を急速に駆け上っていく。
激しくも大きなストロークはお腹側に擦り付けるような小刻みな動きへと変わり、ミシロは全身を小さく震わせ続けながら両手をしがみつくようにサツキの背に回した。
蛇の尾はサツキの全身を巻き込み、ラミア種らしい夫の種付けを今か今かと受け入れる体勢だ。

「もう出る……っ! 出すっ、出すよ、ミシロさんっ!」
「だして、だしてくださいぃっ! おまんこはらませてぇっ! サツキさんのこだねぇっ! ぜんぶ、ぜんぶだひてええぇぇっ!」

サツキの下腹部にドロドロとした熱がマグマのように溜まっていく。
もう耐えきれないと察したサツキは、暴れるミシロの巨乳に顔を埋めて最後のスパートをかけた。

「ひゃぅぅぅぅっ! いくっ、いぐっ、ううううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

性器の先から溶けて一つになってしまったのではと錯覚する感覚。
耳を貫くミシロの獣じみた忘我の声。
最高の快楽を貪るために乳首を食み、力いっぱいに吸い付き。
膨れた肉棒で一番奥を突いた時、いよいよ決壊した欲望は甘い痛みを伴ってミシロの中に解き放たれた。

「──ぃあ”あ”あ”あ”ああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっ!!」

真っ白になった頭にミシロの絶頂と絶叫が響く。

「ぃぐぅっう”う”う”う” ううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

サツキの視界に火花が散った。脳が焼き切れてしまいそうな程の快感が背筋から突き抜ける。

「ぁぁっ、まだでてるっ、ぁぁっ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ビュクビュクと吐き出され続ける精液はミシロの子宮口をビチャビチャと叩き、蛇身は種付けの幸福におののいてサツキのことを固く締め付ける。
一滴も子種を漏らすまいと、鈴口を擦り付ける肉竿を媚肉は根元から搾り取るように蠢いていた。

「くっ、うぅ……はぁ、あっ……ぁ……ぅ……」
「あぁ……うっ、はっ……! あぅあぁっ……ゃっ……ぁぁ……はっ、はっ、ぁぁぁぁっ……!」

長い長い射精が終わり、ミシロの膣内で跳ねていた肉棒がようやく脈動を止めたところで、サツキはぐったりと身体を弛緩させた。

「ゃあっ、とまらなっ、ひゃっ、あっ、あぁぁぁ……っ! ゃぁ、ゃああああ……っ!」

どうやらミシロは思い切りイッたのに合わせて潮を吹いてしまったらしい。いまだ膣内に収まって萎えることのない肉棒に圧迫されながら、ミシロの荒い呼吸と痙攣に合わせて秘所の僅かな隙間からピュッピュと終わることなく温かい液体を腰に吹き付けている。

「で、でたぁ……う、もうげんかい……」

他方、サツキも自分で呆れるぐらいの量を出したようだ。尿道には鈍痛にも似た快感が余韻となって残っている。
巨乳に顔を預けて息を整える視界の隅には、ビクンビクンと跳ねているミシロの尻尾の先が見えた。最後はかなり強い力で抱きしめられたから、きっと身体には鱗のアザがびっしり付くことだろう。

「はぁ、はぁっ……はぁっ、サツキ、さん……っ!」

吐精後の鈍くも心地よい疲労感を覚えながら惚けていると、快楽の絶頂から少しずつ降りてきたらしいミシロの瞳の照準がぼんやりとサツキのことを映し始める。
ふぅ、ふぅ、と上下する乳房。それをありがたく枕にしている夫の姿にミシロは微かな笑みを浮かべると、そっと目を閉じて唇を突き出してきた。

「ん……ちゅ、ん……」
「ちゅぷっ……んむっ、ん……」

自分でも驚くぐらいにサツキは自然に口付けを交わして、舌を絡めてから笑い合う。

「とっても素敵でした、サツキさん……ミシロの中にいっぱい、出してくださいましたね……」
「うん……死んじゃうかと思うぐらい気持ち良かったから……」
「ミシロも気をやってしまって……まだ、お部屋がゆれてるみたいです」
「ミシロさん、ありがとう……」
「ふふっ、何をおっしゃるんですか。ミシロの方がこんなにも気持ち良くしてもらっちゃったんですから……ね?」

始めての夫婦の営みに二人でトロンとした顔のまま感想を述べる。

「でもですね、サツキさぁん……?」
「え……?」

と、ミシロがちょっとだけ不服そうにジトっとした視線を向けてきた。何かいけなかったかなとサツキは小首をかしげる。

「本当にサツキさんってば、おっぱいが大好きなんですね……初めてだったのに、ミシロの唇でなくておっぱいを吸いながら出しちゃうんですから」
「うぐっ……!」

非常に痛い所を突かれてしまった。
確かに、大事な初体験だったのに。相手の顔を見ずにおっぱいを吸いながら出すというのは如何なものだったんだろう……。
詰められてしまえばぐうの音も出ない。ごめんなさいお姉ちゃん。夫がどうしようもないぐらいおっぱい星人で。サツキはさっきまで違って腰でなく、頭をヘコへコと下げ始めた。

「ご、ごめんなさい……つい、欲求に身を任せたら……顔がおっぱいに吸い寄せられて……」
「もぉ、おっぱいとミシロのどっちが好きなんですか?」
「それはおねえちゃ──じゃなくて、ミシロさんの方に決まってるよ! ……ミシロさんのおっぱいも好きだけど」
「うふふ、安心しました。次はミシロのことを見ながら出してくださいね?」
「へ──ぅあっ!?」

くるん、と蛇のとぐろに巻かれたままの身体が反転する。
つり下がるお姉ちゃんのおっぱいに目が行きそうになるのを全力で堪えると、こちらを見下ろすお姉ちゃんはまだまだ元気でギラギラなお目々をしていた。

狩りをしていて記憶にある、肉食獣が獲物を捕らえる時のギラギラ。捕食者の目の輝き。
悪寒と興奮が同時に襲い掛かり、身が震えて股間がいきり立つ。

「み、ミシロさん……?」
「魔物娘は子を宿し辛いですから……もっともっと沢山子種を出して、早くミシロを孕ませてくださいなぁ……」

──あ、これは駄目だ。明日の狩りは絶対に行けない。

魔物娘の底無しの性欲の一端を垣間見てしまった少年は遠い目になりながら、明日の我が身が家から一歩も出られないぐらいだろう搾り取られている未来を垣間見てしまった。

どうしよう。せめてこのぐっちょぐちょのお布団のお洗濯に寝室のお掃除ぐらいはお手伝いすべきかも。でもそこまでの体力が残ってるかな。それも無理かもしれない。お布団から出られる気がしないもん。

「サツキさんのお世話は全部ミシロがして差し上げますからぁ……遠慮せずに、動けなくなるまで、ミシロに出していただいて大丈夫ですよぉ……?」

うわぁい、お姉ちゃんありがとぉ。それじゃあ何の心配もいらないやぁ。

「明日はお寝坊さんしちゃいましょうねぇ……?」

あうぅ……。





嬉し4割、恥ずかし6割。
ちょっぴり恥ずかしさの方が勝る、サツキのドキドキ初体験な夜から一月ほどが経った。

「それじゃあミシロさん、行ってきます」
「はい、サツキさん。今日は早く帰ってきてくださいな」
「今日もでしょ? もう、いつも急いで帰ってるってば」

まだ顔を出してから間もないお日様の光に、場所は夫婦の家の玄関先。
身支度を整えたサツキは靴の爪先をトントンと鳴らしながら、荷物を渡してくれたミシロに苦笑を漏らした。

「ミシロさんったら毎回同じこと言うんだもん。このままじゃ俺、散歩に行くぐらいの時間しか出歩けなくなっちゃうよ?」
「亭主元気でお留守にされてしまうと妻は寂しいんです。せめてお天道様が登り切った頃にはお帰りくださいな」

ぷく、と可愛らしく頬を膨らませる妻とそれを見て笑う夫の姿がここにあり。
見よ、この初々しくもこなれた感じのする夫婦の会話を。もう自分とミシロはおままごと夫婦ではない。徹頭徹尾完全無欠、ピヨピヨ連理の仲睦まじい夫婦なのだ。
……あれ、ピヨピヨ連理で合ってたっけ? ミシロさんからは確か、とっても仲の良い男女のことって教えてもらったんだけど。とにかくどーだい、ふーふっぽいだろう。えっへん。

ふふん、と誰にでもなく得意気な顔を晒すサツキ。
考えてることから振る舞いまでまるでコボルドちゃん並みの幼さなのだが、当人は気付いていない。

「はーい、なる早で帰りまーす。それじゃ今度こそ行ってきま──」
「サツキさん?」

ちょっと駆け足気味で玄関を発とうとした少年の足が、妻からの呼びかけによりピタリと止まった。困ったような照れているような半笑いを顔に貼り付け、くるぅりゆっくりと首を巡らせれば、ミシロはニコニコとした笑顔のまま手招きをしている。

「忘れ物ですよ、サツキさん?」
「あ、あはは……」

やはりごまかすことはできないようだ。
観念したサツキがミシロに近づくと、ミシロはすぅっと目を閉じてみずみずしい唇を突き出す。キス待ち顔である。行ってきますのキス待ちである。当然だ。二人は仲良しこよしの新婚夫婦なのだから。

しかしサツキは、愛しの姉さん女房がキスをねだってもすぐに口付けることはしない。その場で立ち止まり、ふぅと息を吐く。
これが近頃のサツキの習慣だった。行ってきますのキスをするのに、ものすごーく心の準備が必要なのだ。

すぅ、はぁ。すぅ、はぁ。すぅはぁすぅはぁすぅはぁすぅはぁすぅはぁすぅはぁすぅはぁ。
よし、準備オッケ──やっぱりダメ、もうちょっとだけ深呼吸させて。

首をフリフリ、腕をブンブン。しばらくその場で踊る人形パート2をしていると、背後に白い尾がスルスルと伸びてきて、背中がポンと押された。

「えいっ」
「んむぅっ!?」

そのまま前に倒れ込んでしまい、相手に口づける形になるサツキ。むちゅぅぅぅぅっと、行ってきますの前にはいささか濃厚な気がしなくもない口付けを受ける。

「ん……ん、ちゅぅ……」

容赦なくミシロの舌は口内に差し込まれ、長い舌はくすぐるようにサツキの舌をつついたり絡んできたりと、今日も今日とてやりたい放題。
毎晩これと同じ行為どころかもっと凄いことだって繰り返しているというのに、シャイな少年にはいまだに刺激が強いようであり、身体の方はすっかりガッチガチ。

確かに自分からのキスが遅い自分が悪いんだけど、少しぐらい手加減してくれたって。心の中で少年は独り言ちる。
でも気持ち良い。お姉ちゃんとの大人のキス。頭がクラクラする。あぁ、だんだん視界がボンヤリして──って、ちょっと待った。

待ってよミシロさん。俺、これから狩りに行くんだって。お仕事に出かけるんだって。これじゃお仕事に行けない。別の意味でイキそう。ちょっ、まっ、おねっ、お姉ちゃん!?

心中でパニックになるサツキだがミシロは唇を奪ったまま吸い付いて全く離さない。
ズリズリ、と玄関先から引き戸の内側へとサツキのことを引き寄せて、戸をピシャリ。
器用にも尻尾の先はサツキの大事な弓を壁に立てかけ、お荷物は脇へとポイ。

「──うむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

物理的に有無を言わさず、うむぅというくぐもった悲鳴だけを残し、サツキは夫婦の寝室に連行されてしまった。



器量よし、性格よし。才色兼備で料理も上手く、特に味噌汁が絶品。
それでいて魔物娘らしく非常にエッチ。
初恋の相手にして理想の、押しかけ姉さん白蛇さん女房。

サツキのとっても幸せで、ちょっぴり困っている新婚生活は、今日も平和に続いているのであったとさ。






おしまい♪
21/08/14 22:01更新 / まわりちゃん

■作者メッセージ
そういうわけで超が付くほど難産な(確認できる限りでも4年かけた)SSでした。

ご賞味いただいた皆様につきましては、お味のほどはいかがだったでしょうか?

ご感想いただけると書きかけの『デーモンママが息子くんにおっぱいミルクを飲ませてガチイキ噴乳セックスするSS』をガンバる活力が貰えますのでどうぞ宜しくお願い致します(露骨な要求)。

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