読切小説
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小さな絆、小さな愛
突然だけど………今日の僕。花上 純一(カガミ ジュンイチ)は眠い。
ここは普通の一軒家。かと言っても広さと言えば7人ぐらいが寝泊りできるだろうこの家に、僕は一人で住んでいる。
眠い理由は他でもない………昨日はアイディアを考えるのに集中しすぎて深夜まで起きちゃったからね。おかげで深夜アニメとかも見られたけど。
アイディアを考えるで僕がどんな仕事をしているかは分かる人もいるかと思うけど……僕は大学に通いながら大手玩具、食品(お菓子)メーカーの発案役を担っている。
本当は社長である叔父が経営していた小さい会社だったんだけど経営難で潰れかけて、もう駄目じゃあ!と泣き叫んでいる叔父に、たまたま自分が思いついた作品を作らせて売ってみたところ、製造が間に合わなくなり一時期発売中止になってしまうほどの大ヒット。それによってノッてきた会社は急成長して様々なヒット商品が売られるようになった。
もちろん………その商品の大半のアイディアは僕が考えたんだけど。
それにより、お前にこの会社の全てを預けるとか言い出して、表面上には叔父が経営しているけど全権は僕が握る形になっていた。
まあ僕はただアイディアを考えているだけだから叔父の手伝いをしている大学生としか周囲の目に映ってないため、日常生活に支障は出ないのは救いだ。
これで社長!社長!ともてはやされてたら目立つのが嫌いな僕は病んでしまうだろう。
現在、朝の9時…もう少し寝たかったんだけど生活リズムを狂わせるわけにはいかない。いくら大学が冬休みだとは言えキッチリしておかないとな。
PPPPP!
「はい、もしもし花上ですけど」
「お〜純一ぃ〜〜。元気かぁ〜?」
突然電話が鳴り、でてみると僕の兄…哲弥(テツヤ)だった。
「なんだ、兄貴か」
兄貴と分かったら言葉遣いで遠慮する必要は無い。いきなり結婚宣言をしてどこかに行ってしまった兄。近くにいることは分かったが会う気にはならない。
「で?……何のようだよ…」
精一杯の敵意を込めて相手に聞く。
「なんだなんだぁ?久しぶりの兄の電話だってのに泣いてくれないのかよぉ。あ〜あ、折角電話してやったのに…俺はそんな薄情な弟を持ってしまったのか」
「うるさい…兄貴が僕に電話する時は必ず面倒事やら嫌な事が起こるからね」
こういう兄なのだ……冗談好きで噂をさらに捻じ曲げ広げるタイプの人間だ。
嫌いではないが自分の秘密を知られたくない奴NO,1と彼を知ってる人達は皆が断言すると思う。
「察しが本当に良いなオマエ。さすがは俺の弟と言ったところか。実はお前にプレゼントがあるんだ。そろそろ宅配便で届くはずだがな」
プレゼント?………ウサンクサ!!今日は祭日でもなければ誰の誕生日と言うわけでもない。それなのにプレゼントなんて……考えただけでもおぞましい。寒気がする。
『宅急便で〜す!!』
何でこんなにちょうどよく来るんだよ!どんだけ計算高いんだ!?
「お?ちょうど来たみたいだな。まあ、仲良くヤれよな」
ブツン…ツー、ツー、ツー。
なんで「ヤ」を強調するんだ。しかも仲良くって…動物でも送ってきたのか?
玄関を出ると営業スマイルで固めた従業員が結構デカイ段ボール箱を持っていた。ドアを開けた瞬間、肌を刺す様な寒さに襲われる。今は冬……キッチリと服を着ているがパジャマは寒いな。
従業員は帽子と…インフルエンザ対策のためかマスクをしている。
「では、こちらに判子を押してください」
この声…どっかで聞いたことがあるような……オォ寒い!雪もかなり降ってるしさっさと判子押してドア閉めよ…。
判子を押して段ボール箱を受け取ると、さっさとドアを閉めた。
……一瞬しか見えなかったけど…あの人、目が笑ってなかった?
まあいいや。受け取ったダンボールはかなり大きい、そして重い。動物でも入ってるのかと思ったけど暴れてないし……何が入ってるんだ?
暖かい居間に着いてからダンボールを床に置いて中身を開ける。
…何が入ってるのか………目を疑った
夢だと思った。
「スゥー、スゥー、スゥー……」
中に入っていたのは一人の少女。十歳ぐらいだろうか…小さくて少し抱きしめたら折れるんじゃないかと思ってしまう程に可憐で細くて……光が散りばめられていると錯覚させる程の魅力があった。
だけど僕の一般人としての常識がその存在を許してくれない。
すぐさま兄貴に電話をかける。
「兄貴!どういうわけだよ!?僕にダッチワイフをプレゼントだなんて何考えてんのさ!!」
「ハッハッハッハッハ!!お前その娘がダッチワイフに見えるのか?どんなDQNの発想だよ。なんなら触ればいいじゃねぇか」
だからって…もし本当だったら僕の人生に終止符が打たれるぞ。というか兄貴の含み笑いまで聞こえる……僕がこんな風に電話をする事を予想してたんだな。
「ん……う〜ん………スゥー…」
一瞬起きたのかとびっくりしたが箱の中で器用に寝返りをうっただけのようだ。その動きが彼女は人間だと認識させる。
なんだ…ダッチワイフじゃなくてただの少女かぁ〜。へぇ〜、それだったら何も問題が……………大アリだよ!!
「百歩譲ってこの娘が僕のトコにいるのはおいて置こう…兄貴……人権てモンを考えろよ!!宅急便で送るとかなに考えてんだよ!!しかもこのダンボール…ナマモノ注意って書いてあるし!」
「大丈夫大丈夫。この娘は強い子だ。どの法律も彼女を侵すことはできないさ」
「カッコイイ事言ってるけどそれってこの子を送った自分の事を棚に上げてるよね?だいたい兄貴h」
「冗談はここまでだ。理由を話すぞ」
僕の言葉を遮っていきなり声音を低くして語りかける。理由……この状況において僕が最も知りたい事だ。
「お前は、うちらの家系がとにかく親族との結び付きが強いのは知ってるな?」
親族の結び付き…僕の家系はとにかく親族と仲が良い。それは江戸時代から続いていることで今全ての祖父、祖母の家を訪ねようとしたら日本全国に散らばっている20件以上の家を訪ねなくてはいけない。少しでも血縁関係があるのならこの家系の仲間入りなんだ。
「俺達の親族の一世帯にな、不慮の事故で両親が死んじまった家族がいるのさ…まあ、俺とお前の代だったらハトコよりもずっと遠い血縁だけどな。それでもウチの家系じゃあ他人事じゃないわけだ。だから一人になっちまったその子をお前に引き取らせる事にしたんだ」
確かにウチならそんな事が起こったならば誰もが率先して引き取ろうとするだろう。でもなんで僕なんだ?
「どうして僕なんだよ?」
「お前は一人暮らしで広い家に住んでいる。しかも大手玩具、食品メーカーの全権を握っているお前は売り上げの一部を貰っていて経済的にかなり余裕があるから俺の独断で決めさせてもらった」
「って結局兄貴の独断か!」
いつもそうだ……兄貴はやる事成すこと全てが人と相談した事ではなく独断だ。それで間違ったことは一度も無いため、兄貴の勘は誰もが信用してる。でも僕が引き取るって……。
「お前にとってもプラスになるぜ。お前の会社は子供が対象なんだから意見も聞けるし…つーかお前一人なんだから金の使い道なんてねぇだろ?コレを機に少しは一家を助けろ」
確かに子供の意見を身近で聞けるようになるのは僕にとってプラスになるだろうけど幼い子を育てるとは話が別だ。
「テツくぅ〜ん早くヤろうよぉ〜」
電話越しに女性の間延びした声が聞こえる。会った事無いけど…兄貴の妻か?
「ま、そういうわけで俺はマイハニーと朝の営みをするから切るぞ?大丈夫、その娘は悪い子じゃないから。仲良くヤれよ」
「朝からってちょっと待て兄貴!」
ブツン………
だから…なんで「ヤ」を強調する…。



ダンボール少女はいまだ目覚めず、僕はただ静かに彼女が起きるのを待っていた。かなりの寝ぼすけなのか…兄貴の事だから薬を使って眠らせたのかもしれない。改めて少女を見る。長い黒髪は飾り気の無いロングヘアー。目を閉じているあどけない顔はとても愛らしい……笑えば太陽みたいに輝かしい笑顔になるだろう。
少女の愛らしさに頭がどうにかなってしまったんだろうか………僕は彼女の小さな手をそっと触ってみた。
冷たい……。いや、温かいのだがなぜか一瞬だけ冷たく感じた。
一度触ってしまった事で僕のタカが外れてしまった。僕は彼女をそっと抱きかかえる。なんとも言えない、甘い香りが鼻を突き刺す。心臓がバクバクして張り裂けそうになる。
でも……なんだろ?なんでこんなに悲しい気持ちになるんだろうか…
少しでも力を加えてしまえば折れてしまう様なか細い腕…安らかに眠っていたはずの閉じた瞼には…雫が付いていた。
これ以上は耐え切れないと思い、出来るだけ優しくソファーに寝かせてあげた。……温かいはずの彼女の手を、何で僕は冷たいって思ったんだろうか…それだけが心に残った。
「う、ん……」
考えている間に少女が起きた。
ヤバイ…さっきから考え事ばかりで全然話す言葉を考えてない……どうしよ。
寝起きで目を擦りながら辺りをキョロキョロと見回している。そうか、まずこの娘がどんな状況に置かれているかを説明しないと。
「えっと…そ、その………起きたね…」
異性に、ましては子供と話した事も無いために緊張してしまう。
「………誰?」
その声音、僕を見る目で彼女がどんな子なのか分かってしまった。
可愛らしい声は悲しいぐらい、感情を押し殺されている。
その目は濡れながらも冷めた瞳で僕を見ている。
両親が死んだ…と兄貴が言ってた。それが天真爛漫で生きるはずの幼い少女をここまで豹変させるのか。でもそれを咎める事はしない。…いや、できないと言った方が良いのかもしれない。
「僕は純一……いきなりこんなトコにいたら驚くよね」
自分の名前を言って、僕は自分の話を聞いているのかいないのかわからないままの少女に何故こうなったかを話した。両親の事は触れずに。
少女はソファーの上で体育座りをしながら、ただただ…冷めた瞳で僕を見つめていた。
「ところで……君の名前は?」
話のキリがいいところで彼女の名前を聞く。彼女が僕の事をどう思っていようとそれだけは聞かないといけない。兄貴の独断により成り行きでこうなってしまったがこうなった以上、とことんやらなければ。
「………りん…」
「え?」
「狐鈴(コリン)………」
最初は良く聞こえなかったがそれを察してくれたようで言い直してくれた。
「狐鈴か……可愛い名前だね」
最近は変わった名前が多いって言うけど確かにそのとおりだなと思う。
そして何より安心したのは彼女が自分の名前を言ってくれた事。これは完全に心を閉ざしてないと言える。
まあ、いきなり仲良くなるのは無理だけど……ってなんで兄貴に任されたとはいえこの子を引き取る気になっているんだろうか…。
多分、ほっとけないんだろうな。自分じゃあよく分からないけどそんな感じだ。
気が付けばもう十二時…昼だ。
「何か食べる?一応それなりに料理はできるけど」
でも、それに彼女は応えない。応えようとしないって言った方が正解だけど。
狐鈴は無言で微動だにしない………仕方が無いから普通の料理は諦める。こういう子には甘い物に限るよね。
「待ってて。確か冷蔵庫にプリンの元が…あったあった」
冷蔵庫に入ってたのは自社製品のプリンの元。かなりの量があるからバケツプリンができるな。仕事上こういう物の処理をするためにお菓子作り用のバケツがちゃんとある。
慣れた手つきでプリンを作っている僕をその冷めた瞳でずっと見続けている狐鈴。何を考えているのか分からない……少なくとも嫌がっているわけではないと思う。
プリンが入ったバケツを大きい皿で被せて一気に裏返せば……。
ボコン!
空気が入る音がしてバケツから少しずつプリンが出てきた。そして最後まで出してカラメルソースを大量にかけて…出来上がり。
「……………」
狐鈴は口を少し開けながらプルプルと震える巨大なプリンに見とれていた。そりゃあこんなものを作る人なんてあまりいないんだろうから珍しいのはわかるけど………もしかして、人一倍甘い物が大好きなのかな?
スプーンを持たせてあげるとプリンをスプーンで叩いて揺れるのを楽しんでいた。相変わらず目に明るさが感じられないけどプリンで遊んでいる彼女は…年相応に可愛いくて………駄目だ純一。この子をそんな風に見ちゃいけない。少なくとも僕はロリコンじゃないはずだ…!
狐鈴がスプーンで掬って食べると口元が綻んだ気がする。
「美味しいかい?」
僕は彼女に聞いてみる。
コクリ……
頷いてくれた………正直に言うと頭を撫でてやりたかったがまだ知り合って一日も経ってない。…というかまだお互いの名前しか知らないぐらいの仲でそれはやり過ぎかな?
だから僕は微笑み返すだけにした。
いつか…狐鈴の本当の笑顔がみたい。そう願いながら…。



彼女…間北 狐鈴(マキタ コリン)が成り行きで家に住むようになってから五日経った。狐鈴と接して五日も経てば僕も緊張せずに彼女に話しかける事が出来た。
…相変わらず彼女はただ頷くだけで自分から僕に話しかける事は無いし…まだ冷たい視線を送ってくる。それでも、僕の料理はちゃんと食べてくれるし、言った事は守ってくれる。
大学は冬休み。つまりずっと暇で僕は一日中彼女と触れ合う事になる。
「狐鈴、ちょっとこっち来て」
窓から外をずっと眺めていた狐鈴を呼ぶ。僕が呼んだ事に気づくとブカブカの温かそうな冬服を揺らしながら歩いて来る。
「これ、何だと思う?」
僕は風呂場から持ってきた洗面器を彼女に見せる。
不思議そうに狐鈴は洗面器の中を覗く。洗面器には白い液体が入っていた。
見た目はサラサラな水だけど……
「触ってみて」
僕は彼女の手を取る……その手は前に感じた冷たさが少し和らいでいた。もちろん僕の錯覚かもしれない…だけど錯覚とは思えない。
そのまま手を白い液体に触れさせる。
プニッ
「ぁ………!?」
短い驚きの声を上げる。サラサラだった液体が彼女の手に触れた途端、スライムの様に固まった。
さらに強く押し当てるとスライムだった物がさらに硬くなる。
水に片栗粉をたくさん混ぜるとこんな性質を持つ液体になるんだ。力を入れれば入れるほどその液体は硬くなって、緩めればその分軟らかくなって最終的に元の液体に戻る。そんな説明をしたらどうして?と訊かれかねないのでしない。
「………♪」
今度は自分から手を突っ込んで泳がせたり、押したりして硬くなったり軟らかくなる感覚を楽しんでいる。…無言だなぁ〜……。
でも…少しでも彼女が元気になるなら、たくさんの遊びを教えてあげよう。

「狐鈴ィーン!そろそろお風呂に入る時間だぞ」
夜、買い物から帰った僕は料理を一緒に食べて彼女をお風呂に入らせる。
「…………」
彼女は小走りでお風呂に向かう。そして僕がいるのにも関わらず一気に服を脱いでいく。僕がいるのに。
即座に服を脱ぐもんだから洗面所から逃げるように出る。
僕の事なんて眼中に無いのか、わざとやってるのか…後者はあまり考えたくない……かといって前者の考えも微妙だ。
とりあえず、彼女が風呂から上がるまでに寝室のベッドを直しとかないと。
狐鈴が来てからは僕のベッドに寝かせている。僕はその隣の部屋で布団を敷いて寝ている。心配だから一緒の部屋で寝てあげたいけど両親が死んでしまって一人になってしまった子供の気持ちなんて分からない。寂しいとは思う……だけどそれを他人の僕が癒して良い……癒せるものなのかと思ってしまう。
「あれ?ベッドが暖かい…」
どうやら買い物に言ってる間は寝てたらしい。羽毛布団の内側に温かさが残っている。布団を直して枕も定位置に戻す。
「あっ…!?」
枕だけは冬の空気に触れていたせいか冷たかった。……濡れてる?
冷えているにしても枕は冷たすぎた。注意深く触ってみる…。
枕は濡れていた……。
「そう………だよね…」
癒して良いのかとか癒せるものなのかじゃない。何で気づかないんだろう。
ここには僕しかいない。できるできないなんて問題じゃない。
狐鈴が風呂から上がる音がした。次は僕の番だから洗面所に向かうと、彼女はバスタオルをワンピースのように着こなしていた。水に濡れた髪に風呂で温まり上気した顔はとても扇情的で少女らしい可愛さと水の精のような妖しさを持ち合わせていた。
「駄目だよ。ちゃんとドライヤーで乾かさないと」
僕の注目してた部位は彼女の髪の毛…明らかに乾かしてない。
手を引っ張って洗面所に連れ戻す。どうやらドライヤーが嫌いで自分からやろうとしないんだ。少し眉を動かすのは彼女なりの「嫌」を表している。
小さな椅子に座らせてドライヤーの温風を髪に当てる。
「………!」
耳元に当てるとビクンっと跳ね上がる。この五日で分かった事といえば耳の辺りが弱い事と甘い物が人一倍好きだと言う事ぐらいだ。手櫛で梳きながら彼女の髪を乾かす。シャンプーの心地よい香りが鼻孔をくすぐる……その匂いは僕の思考能力をどんどん奪っていくような感じにさせる。
「…ハイ、よく我慢したね」
どんどん考えられなくなる中、何とかドライヤーが終わって彼女の頭を撫でてあげる。ドライヤーが嫌だったのか、撫でられるのが気持ちいのか目を細めている。
「じゃあ、僕が風呂に入ってる間にパジャマに着替えて寝るんだぞ」
狐鈴が頷いて居間に行ったのを確認してから風呂に入る。
……ドライヤーの時のシャンプーの匂いって………あんなにクラクラするものなのかな?

風呂から上がった僕は寝巻きに着替えて……今日は自分の寝る部屋ではなく………狐鈴の寝る部屋に行く。
「狐鈴………?」
声が聞こえる。すすり泣く……悲しい声が…
「ひっく……パパ………グス…ママ」
ベッドの羽毛布団の中で…彼女は枕を抱いて泣いていた。両親の夢?……それとも起きてるのか…?
でもそんな事は関係無い………今はただ…この子を泣かせたくなかった。そう思うと……自然に僕の手は動く。
「大丈夫……」
泣いている彼女の頭にそっと手を置いて…優しく撫でる。
「もう…一人じゃないから、僕がいるから……僕じゃあお父さんやお母さんの変わりになんてなれるものじゃないけど………それでも、絶対に一人にさせないから……」
恥ずかしい台詞だけど自然に浮かび上がってくる言葉なんだから仕方が無い。
「大丈夫……」
もう一度同じ言葉を言う。…ずっと……震える少女を守る様に…撫で続けた。



夢を見た。……思い出したくないけど、パパとママが…どこか遠くに行っちゃう夢。あの日から本当に毎日見る。
………でも、今日の夢は違った。
私にはお兄ちゃんがいて、パパとママがいなくなってずっと泣いてる私を…
「大丈夫…大丈夫だよ…」
そんな風に何度も慰めてくれて、私が笑うと、一緒に笑ってくれるお兄ちゃんがいる夢。
それは夢の中だけの優しいお兄ちゃん。
……朝に目が覚めたら、いつも私の世話をしてくれる人がまるで椅子に座りながら机にうつ伏せで寝る様にベッドで寝てた。
『お兄ちゃん』は…………私のすぐ傍にいた……。



まさか……狐鈴に起こされる事になるなんてなぁ〜。
いつの間にか寝ていた僕はそのまま彼女の部屋で朝を迎えた。
僕を起こしてくれた彼女はまたいつも通り、ソファーで体育座りをしていた。
僕が隣に座ると、狐鈴は僕を見つめる。それはこの前の冷めた視線ではなかった。
「どうしたの?」
やはり、昨日彼女の部屋にいたのはマズかったのか…?やっぱり女の子だし形はどうあれ、他人と一緒寝るのはイヤだったのかな…。
「…がと……」
すごく恥ずかしそうに呟く……
「今まで……あ、ありがと…」
驚いた…。狐鈴が、あの狐鈴がお礼を言ってくれた。
「お礼なんていいよ……それに今までじゃない…ここは、これからも宜しく。だよ」
彼女の手を握る。……温かかった…この前握った時の冷たさなんて何一つ無い。
「うん…」
初めて……笑ってくれた。
「ねぇ………お兄ちゃんって呼んでも…イイ?」
「うん、いいよ」
窓を見ると、外の雪は……太陽の光を反射して輝いていた。



「リン!もうご飯だぞ〜」
リンと住むようになってから2週間。あれから一気に仲が良くなった僕達は普通に会話が出来るようになっていた。
リンというのは彼女の愛称である。
「お兄ちゃん。今日は何?」
大体予想はしてたけどリンは物静かな子だ。だから会話が弾むなんて事は無いけど…話をする度に温かい気持ちになる。
リンも僕の事を兄と呼んでくれた。本当に家族の様に僕達は暮らしている。
…でも気になる事がある。
彼女はとてもは鼻が良いんだ。それは人間の「良い」の比では無く、ソースが服に付着して洗濯した後でもその臭いがしたとリンが言ってた。
しかも爪の伸びが早い。まあ個人差はあると思うけど、三日に一回切らないとすぐに伸びてしまう…こんなに早く伸びるものなのかな?
それと……コレは僕の問題だと思うんだけど彼女と話したり遊んだりしていると頻繁に頭がボーッとする。そうなると…リンの声や振る舞いが全部艶やかに思えてくるんだ。単に疲れているのか……にしても変だと思うし…。
「どうしたの?」
僕は作った晩御飯を皿に盛り付けている最中に考え事をしていたから、手が止まっていたんだろう。
「えっ!?ううん、なんでもないよ」
でもなんで鼻が良いの?とか爪が伸びるの?って訊いても返答に困るだろうし……やっぱりそういう子もいるって思った方が良いのかな。先入観があったら気づく物も気づかないって言うしな。
「お兄ちゃん…最近ボーッとしてる時が多いよ…心配…」
「大丈夫だよ。それよりもご飯が冷めちゃうから早く食べよ」
心配されるのは嫌だ……早く解決しないと。
(もう少しかな?………でももう少しキツめでも…ゴニョゴニョ)
「リン?今何か言った?」
「何にも言ってないけど…ホントに大丈夫?」
おっかしいなぁ…確かに聞こえたと思うんだけど…。



夜…もう寝る時間だ。
「お兄ちゃん…今日は一緒で……イイよね?」
僕のベッドは二人で寝られる広さじゃないけど、体の小さいリンなら問題は無い。一応別の部屋で寝るようにはしていたのだけど両親の夢を度々見るみたいで一緒に寝ることをせがんで来る。男としては喜ぶ?…べき事なんだと思うけどリンは僕にとって妹だ。彼女を悲しませたくないという気持ちが強いから喜んだ事は無い。
僕は手を繋いで頷く、そうするとリンも微笑んでくれた。
ベッドに入るとリンは僕に抱かれる形になって一緒に寝る。
「お兄ちゃんの匂い…ん……好き…」
僕の胸に顔をうずめて匂いを嗅いでいるようだ。そりゃあ風呂に入ったんだからいい匂いであって欲しいけど…鼻の良いこの子は石鹸に匂いの奥にある僕の匂いを嗅いでいるのだろう。
グラン……
まただ…。また頭が……ダメだ。リンの甘い匂いがどんどんキツくなって
「ゴメンね………本当はお兄ちゃんがソノ気になるまで我慢するつもりだったけど…もう、ダメ」
…何を言ってるんだ…?
その途端、まるで僕の中に何かが一気に流れ込んでくる…!
今までの意識が朦朧となる感覚がどんどん強まっていく。
「ああ……何コレ…?」
「お兄ちゃんに魔力を流し込んでるの……。今までは少しだけだったけど、私………我慢できないから」
「リン…さっきから何を…」
だけど彼女はそれに応えず…
「ん…ムゥゥゥゥ…」
目を閉じて何かを念じるように力んでる…
ピョコン!
そんな音が聞こえる気がするほど勢い良く…耳が飛び出す。
獣の耳だ…しかもリンの体に変化が起きている。黒かった髪は美しい金髪に変わり、お尻の少し上の部分から可愛らしい尻尾が伸びた。
「えっ…エェ!?」
「驚いた?……私、狐なんだ。ママは稲荷って呼んでたけど」
意識が薄れるのが止まった…慣れたのかリンが止めてくれたのはわからないけど……でも、今の彼女はとても愛らしい。
「………お兄ちゃん。私の事…嫌いになっちゃった?」
そんなわけ…
「なるわけ無いよ…すごく可愛いし…綺麗だし」
僕の顔を覗き込んでたリンの顔は月明かりに照らされながら明るくなって…
「ホントに…?ずっと…嫌われたらどうしよって思ってたのに……バカみたいだね。たった二週間しか経ってないけどお兄ちゃんは本当に分かりやすかったもん……本当に………好きになっちゃったもん」
一緒に寝ているリンは僕に抱きつきながら顔をさらに近づける。
「はむ……んん………ちゅぷ…」
キスだった……初めてのキス。
「んむ…ちゅぷ、くちゅ……お兄ちゃぁん」
まともに異性と関わった事も無い僕は、自分よりも小さいリンにされるがままだった。
「リン……まだ、そんな事する年じゃ…ムゥッ!?」
なんども荒い呼吸をしながら唇を密着させて舌を出し入れする彼女に抗議してみるけど、力が抜けている僕はまた口を塞がれる…。
「フフ♪…ココにおっきなテント張っちゃってるのに……説得力無いよ…」
気がつけば、僕の股間がズボンでテントを張っていた。こんな小さな子に興奮して、見られている自分が情けない…。
「大きい…♪これが私の中に入っちゃうんだ……」
寝巻きの柔らかい布越しに小さな手で僕のを擦っている。
笑っている彼女は、今までの温かい微笑みではなく…これからする事への期待に満ちた悪戯好きな少女の微笑みだった。
「リン……うあ!」
「ピクピク震えてる……私の手で感じてくれてるの?……嬉しい…」
今度は寝巻きの中に手を入れて直接擦ってくる…それは少女とは思えない卓越した技術だった。
「実は…私、こんなことするの始めてなんだ。ママが言ってたんだけどね、魔物は何も知らなくても本能的に男の人とのやり方が判るんだよって言ってたの。本能的とか難しいのは分かんないけど…男の人って、ココが気持ちいんだよね?」
「ああ!!ちょ、リン…ソコは、うわぁ!?」
裏筋と亀頭を同時に責められ、僕のモノはさらに震える。
そして…
びゅく!どびゅ…!
「あっ!?…出しちゃったね…」
「うあぁぁ…ぁぁ………」
それでも手を動かす事はやめてくれない…ズボンが精液で滲み始める。
「ああ!滲んじゃった……もったいないよぉ…」
僕に抱きついていた形で擦っていたリンはすぐに体勢を変えて僕が仰向けに寝転がっている状態で跨り、お尻を僕の顔の方に向け、精液の滲んだズボンに…
「うわぁ…これが……お兄ちゃんの臭い…はむ、じゅ、ジュルルルルル!」
滲んでしまった精液を吸いだしてる…!?しかもその振動が股間に伝わって……
「リン!…僕、もう……」
尻尾が顔をくすぐったり、可愛らしく動いているけどそれを押し退けて…
「ひあん!!?お、おにいちゃぁぁん!」
彼女のパジャマを脱がし、股間に口を付け、その花弁を舐め回す……。
「だ、ダメ…」
彼女の蜜壷は濡れに濡れて、涎を垂らしていた。
「らめぇ……もう、ホントに…おにい…ちゃん…。んむ、ちゅぷ、ちゅぱ…ンン……ジュルルル」
リンも我慢できなくなったのか、僕の寝巻きをずらして僕の剛直を露出させる。亀頭に口を付け、そのまま頬張ってきた。
シックスナインの体勢になった僕等はお互いの性器を嘗め回し、頬張り、自分の唾液を塗り込んでいく。
「おにいちゃん……早く…シよ…」
リンは馬乗りになって自分の蜜壷を僕の剛直の先端につけて…
ズリュ!ニュルルルッ!
「うわぁぁぁぁぁ!!?リンの中…キツイ…!」
「ふああああぁぁ!!おにいちゃんの…熱くて……太くて…気持ち良いよぉ!」
ズッチュ、ニッチュ、ジュプ、……パチュン!チュプン!クチュ!ズチュ!
最初はゆっくり動いていたけど、次第に音はどんどん激しくなり…
「アアン!!おにいちゃん!!おにいちゃん!!!」
「リン!…リン!!」
跨ったまま倒れて、僕に抱きついて腰を振る。僕も彼女を強く抱きしめ、一心不乱に腰を振る。
「リン…もう………」
彼女の蜜壷に締めつけられ、擦られ、揉まれ。どんどん股間から湧き上がってくる射精感…!
「だしてぇ!…わらひの中に、おにい…ァン…ちゃんの、ひぁん、白い……のぉ!!」
リンの言葉が引き金になった…
どぷ!!びゅっ!びゅるるるるる!……どぴゅ!!
「〜〜〜〜〜〜〜!!?」
「アアアァァァァン!!!おにいちゃぁぁぁぁぁん!!!……」
言葉に出来ない僕の叫びと歓喜に満ちたリンの声が重なる………。
「ハァ…はぁ……大好きだよ……お兄ちゃん…。ん……」
「リン…僕も、好きだよ」
また、二人の唇が…重なった。
抱いた彼女の体は熱い……とは違う。…暖かかった。






「兄貴……リン…狐鈴の事なんだけど…」
「お、ついにヤッたんだなぁ♪兄貴として鼻が高いぞ」
次の日、重い腰を上げて僕は兄貴に電話した。予想通り、兄貴は何度も含み笑いをしながら僕に話しかけている……恐らく昨日の…いや、この2週間の出来事は兄貴にとって予定調和なんだ。
「兄貴…知ってたんだろ……あの子が稲荷って……魔物…だって事…」
「ああ、だからこそお前に預けたんだよ」
…?だからこそ……
「お前って…昔から何一つ差別しないし……何より人の気持ちが良く分かる奴だからさぁ」
「どういう意味だよ…?」
「そのまんまの意味さ。多分、お前の事だからあの子の触ったときに温かいはずなのに冷たい…とか思ったんじゃねェの?」
なんでそれを知ってるんだ?兄貴は少なくとも家にいなかったし…この2週間の間は電話なんてしてないし…。
「お前は意識してないと思うんだけどさぁ。前に俺が結婚するかしないかって悩んでる時にさ、誰も気づかなかったのにお前だけ俺の肩に手を置いてさ、何悩んでんの?とか聞いてきたじゃねぇか」
そんな事もあった。兄貴は誰にも自分の本心を伝えようとしないけど…なんとなくそれが分かって肩に手を置いてみたんだ…。
「あの時な、俺は思ったんだ。…お前には人の体温とは違う……心の温度みたいなそんな物を感じる事が出来るんじゃないかってな」
心の温度…?じゃあ、リンの手に触れた時のあの冷たさは……そういう事?
「だからお前なら狐鈴を元気付けられるって思ったんだよ…」
そんな意図があったのか…。
「で、でも魔物って…兄貴は怖くなかったのか?」
「なんだよ?あんな子のどこを怖がればいいのさ?それとも…お前、怖かったのか…?」
「怖くなかったさ。だけど世間的にはどうなの?」
「世間的にはバレるとヤバイかもな……でも、人化の魔法とかいうのを使って、大抵の魔物は人間に化けてるらしいぞ………。そうそう、お前、花姉さん知ってるだろ?」
花姉さん…確か…
「ウチの曾婆ちゃんの従兄弟のその夫婦のお子さんのハトコの兄の方の嫁さんの息子さんの三男の方の夫婦の娘さんだよね?」
「え?ちょ、もう一回言って!?なにその『ジュゲム』!!?」
「だからウチの曾婆ちゃんの(ry………の花姉さんがどうかしたの?」
「おま、よく覚えてんなぁ…その花姉さんだけどな、実はアルラウネっていう植物の魔物なんだってよ」
僕達よりも2つぐらい上の花姉さん…家庭菜園が趣味で田舎に住んでいる人だ。巷でもかなり綺麗って噂の立つほどの美人さんなんだけど……まさか魔物だなんて。
「ってちょっとまて兄貴…なんで兄貴がそんな事知ってるんだ…?そういえば兄貴って結婚するまでその女の人の事なんも言わなかったよな……まさか」
「まあそこはお察しくださいっつうやつだ」
お察しください……か。
「お兄ちゃん…雪、綺麗だよ…」
いつの間にか僕の隣に座って窓から雪を見ているリンがいた。
「おっと、大事な触れ合いの時間に話し続けるってモンも野暮だな…じゃ、電話切るぞ」
「ああ………同じ秘密持っちゃったんだし、いつかウチに遊びに来てよ」
兄の苦笑混じりの返事に満足して電話を切った。
「外、いっぱい積もってる…」
「そうだね……じゃあ、外で雪だるまでも作ろっか」
リンは準備万端で既に手袋も耳当ても付けていた…その表情はとても幸せそうだった…。
「……うん!」
物静かなリンの力いっぱいの返事を聞いて僕も外に出る準備をする。

外に出ると一面の銀世界…雪が積もりに積もり、靴が埋まってしまうぐらいだった。
「外……寒いね。ダッコしたら暖かいかな?」
リンの冗談とも本気とも言える提案に苦笑するしかない。
しばらくこの雪の世界を手を繋いで歩く……
雪は積もる…小さな雪はどんどん積もってやがてこんな銀世界を作る……
絆とか愛も……こんな感じだと僕は思っている。
「お兄ちゃん」
「…何?」
僕と手を繋いでるリンは満面の笑みで……
「大好きだよ…」
そう言ってくれる。
「うん………僕も好きだよ」

繋いだ手は手袋越しで、雪や気温で冷たいはずなのに……

その手は



暖かかった……。



〜fin〜



09/12/27 02:37更新 / zeno

■作者メッセージ
今回は自分なりにハートフルな物語を書いてみました。
だけど難しい!ああもう人の心なんてわかんない!!
しかも初めて書いたエロがロリッ子なんて…大丈夫なんだろうか……。
クッ……頭が…エロを書くってPSIが必要なんですね……皆さんはこのPSIを使いこなしていると言うのか……。
あれ……?なんか………眠く……………
ドサッ                     Zzz……

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