連載小説
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スマホが示した答え〜後編〜
俺は今、バフォメットさん夫婦の部屋に居る。
何をしていたかと言うと、
昨日爺さんに襲われた時の事や、俺がこの世界で召喚された時にメンセマトで体験した事を村長夫妻やハリーさん夫妻とアオイさんに話していた。

だが、今朝になって傭兵さん達と話し合った事がきっかけで見出だせた「仮説」も皆に話しておこうと考えたのだ。
そして、その為に発した言葉がコレだ。

「結論から申しますと、
メンセマトには普通じゃない力を持ったヤツが何処かに居ます。
その力とは、俺が予測するに『命令をする事により、相手を思うがまま操れる力』です。
領主の近くに力を持った誰かが居るのか、
領主本人がそうなのかは分かりませんが、恐らくその辺りでしょう」

「え、ええと、マモル様……?」

「それは本気で言っておるのか、マモル殿」

俺の仮説聞いて、皆がポカンとした表情を浮かべてしまった。
皆は、全く俺の考えを理解出来ないといった感じなのだろう。

「今の所は仮説でしか無いですが、今此処で話しておく価値は有ると思います」

まあ、話の内容的に当然の反応だけども。

「では、順を追って説明しますね」

俺は、仮説についての説明を始める。

「間違いだらけの理由で、佐羽都街へ戦いを挑もうとしているメンセマト。
3年前の戦いに関して、佐羽都街とメンセマトが把握している情報が全く違う事。
……俺は最初、これらの『異常』が起こっている原因が、
主神教の教団による大規模な情報統制だと思っていたんです」 

「教団か……。
彼等の上層部のタチが悪いのは、今も昔も変わらないね」

俺の言葉に、英次さんが応える。

この世界の宗教についてはまだ詳しくは分かっていないが、
俺の世界にもタチの悪い宗教団体は沢山居るし、
俺がこの世界で聞いた情報からも教団の上層部はロクな連中では無さそうだ。
だから、メンセマトに戦いを強要していた「主神教の教団」が権力や財力を以て、
人々に間違った情報を教えているのではないかと考えたのだ。

「……ですが。
それだけでは説明出来ないような状況が連続して起こってしまいました」

コクリ、と。
少しだけ暗い表情でアオイさんが頷く。
爺さんが死んだあの事件だって「そう」なのだ。

「まずは1つ目。
さっきも言った3年前の戦いについてです。
メンセマトの騎士であるティアさん、マーカスさん。
それと、3年前より此方の味方となったハリーさん。
どちらもその現場を見ておきながら、証言が食い違うという事は可怪しいですよね。
まあ、これはマーカスさん達が嘘をついていないという前提があっての話ですけど」

3年前の戦いを見ていたハリーさんは大きく頷いた。

『化け物だと思って敵対していた勢力が実はこれっぽっちも悪い連中じゃなかった』という光景を見たであろうメンセマト騎士団は、
その時の記憶をそうそう簡単に「勘違い」するなど出来ないだろう。

「俺はこの時点で『何かが可怪しい』と思うようになりました。
なぜなら、メンセマトの騎士さん達は基本的に『いい人達』なんです。
俺自身……メンセマトで彼等と接したからこそ言える事ですけども。
例え佐羽都街と敵対していたとしても、
魔物が人間を愛していると知りながら……彼女達を敵として恐れたり、
何の罪も無い人や魔物に対して戦争を仕掛けるような『狂信者集団』じゃあ無い筈なんです」

俺は領主と口論になった際に、魔物の事を「憎くも無い連中」と言った。
にも関わらず、魔物と敵対している筈の彼等は俺に対して酷い扱いを決してしなかった。
それどころか、この世界やメンセマトの事情について色々と説明をしてくれたのだ。

彼等が善人であるという事は、元・メンセマトの勇者であるハリーさんを良く知る佐羽都街の皆には説明するまでも無い筈だ。

「そんな『いい人達』である筈の騎士さん達が所属するメンセマトは、
色々と変な行動を繰り返した挙句、
爺さんの命を使って戦争の口実を作るような『暴挙』を犯してまで佐羽都街へ戦争を仕掛けようとしています。
騎士さん達が正常なら、今頃……メンセマトでは内乱でも起きていたでしょう。
しかし、今はそういった事は起きていないんです」

皆が俺の話に理解を示すように「うんうん」といった感じで頷いているのを確認した俺は、話を続ける。

「爺さんが佐羽都街で息を引き取って、
その事を理由にメンセマトからこの街への宣戦布告が届いた時、
俺は『メンセマトの騎士団に何らかの異常が起こっている事』と、
『大きな間違いを引き起こす理由となる、普通では無い何かがメンセマトに有る』事を確信しました。
人の命が無くなっている以上……教団の上層部が誰かを騙しただとか脅しただとかいう次元の話を既に超えています。
そして、貴方の元同僚が正常ならそういった嘘や脅しには屈しない筈だ。
そうですよね、ハリーさん?」

彼等に対しての信頼を見せるかのように、俺の言葉を聞いて、即刻頷くハリーさん。
しかし、彼の表情は辛そうだ。
元同僚や妹さんが心配なのか、
それともメンセマトの勇者だった時に『騙された』時のトラウマが残っているのか。

彼の事が心配した白蛇さんが「コレ以上この話はするな」と言わんばかりの目で俺を睨む。
……かなり、強い目力だ。
彼女をハリーさんの事で怒らせると後が怖そうだし、喋りたい事は喋れた。
次の話に移ろうか。

「次は2つ目、爺さんの事についてです。
彼は、俺やアオイさんを殺しに佐羽都街へ傭兵と共にやって来ました」

「お主をこの世界へ召喚した老魔術師じゃな?」

この街で唯一「異世界人をこの世界に召喚する魔術」について良く知るバフォメットさんが、
怒りとも、呆れとも、悲しみとも取れるような表情で俺に問いかけた。

爺さんと同じように「魔法」に関しての高い知識と技術を持っている彼女は、
彼の末路にある程度の同情を示しつつも、
魔術師として、人として……道を外れ過ぎた行動が許せない、といった感じか。

「ええ、そうです。
俺はその時……アオイさんが来るまでの時間稼ぎも兼ねて、
彼がこの街に来た理由を見極める為に問い掛けました。
彼が、領主の意思でやって来たのかどうかを。
そしたら、彼はこう答えたんです。
『フン! 領主の命令ではこんな細かな事は出来んわい!
これは他の誰でも無い、儂の意思じゃ!!』……ってね」

この時の問答で、
アオイさんが俺を助ける為に、メンセマトでわざわざ爺さんに化けてくれたのだと理解出来たのだが。

爺さんは同時に、俺が間違いを解き明かす為の大きなヒントをくれたのだ。

「領主の命令では細かい事は出来ない……?
どういう事だ? そもそも、老魔術師はそんな事を喋ったのか?」

「はい。
微かではありますが、私の耳にも聞こえておりました」

英次さんが発した疑問に対して、アオイさんが直ぐに答えてくれた。
あの時、爺さんが喋っていた声は決して小さくはなかった。
俺が助けを求めた時の叫びを聴けた彼女なら、爺さんの声を聞いていても可怪しくは無い。

「その後……結局あの爺さんは、
俺達と戦っている最中に奥歯の毒でそのまま……!
彼は、戦いに敗れるまでも無く、自ら毒を飲んでしまった。
にも関わらず、彼は自分が毒らしき物を飲んだ事にすら気がついていない様子だった。
これは、明らかに不自然でした。
ですがこの時の俺は、何が起こっているのかを全然理解出来ていませんでした」

この時の俺は、
爺さんの死によって混乱に陥ったアオイさんをフォローするので精一杯だったのだ。
それ故に、その事を考察する時間が無かったのだ。

だが、考える余裕が出来た今は別である。

「そして後から『爺さんの死』について改めて考え直した結果、
なんとなく、ぼんやりとですが『メンセマトの領主は人に対して暗示のようなものを使って誰かを操る力があるんじゃないか』って思ったんです。
爺さんが変な死に方をしたのも、
彼が『領主の力』により操られていたのなら一応の説明が付きます。
……まあ、ここまで考える事が出来たのは、メンセマトが佐羽都街への宣戦布告を済ませた後ですけどね」

明らかな異常である『爺さんの命を利用した宣戦布告』が行われた時に、
俺は、メンセマトに何らかの異常がある事を仮定した上で……、
領主の命令では「こんな」細かな事は出来んわい!
という爺さんの言葉が意味する事を改めて考え直したのだ。

実を言うと、俺は今朝の……スマホの件があるまで、爺さんの言葉の中でも「細かな事は出来ない」という部分にばかり注目していた。
しかし「『こんな』細かな事は出来ない」という言葉に直してから改めて考察すると、
以外に答えは近くにあった。

「爺さんの言葉の意味を推測すると、こういう事ではないでしょうか?」

俺は、佐羽都街の皆へ向けて……俺なりに解釈した「爺さんの言葉の意味」を、改めて説明し始めた。



爺さんは佐羽都街で生活していた俺を確実に仕留める為に罠を仕組んでいた。
彼が俺を特定の場所までおびき寄せて、なおかつ、そこへ魔物を近付けないように仕組んだ「人避け」と「魔除け」の術に、俺はまんまと引っ掛かってしまった。

それ故に、魔法に関して全くの素人である俺でさえ、
それらの術が簡単な物では無いだろうと推測出来る。

これらの事を考慮して、
2つの術を爺さんの言う『こんな細かな事』だと仮定すると……。
「フン!
領主の命令では
(領主の命令により操られてしまったのでは)
こんな細かな事
(このような『人避け、魔除けの術』等の魔術師にしか分からないような難しい事)
は出来んわい!
これは他の誰でも無い、儂の意思じゃ!!」
……と、いった事を言いたかったのでは無いだろうか?



「――以上が、俺の爺さんの言葉に対する推測です」

俺は、爺さんの言葉の意味を……俺なりに考察した上で掻い摘んで話した。
爺さんに襲われた時の状況を体験していない者にその時の状況を理解して貰うのは無理なので、必要な事以外は省略したのである。

「爺さんの死が『領主の命令』により引き起こされた物であれば、
メンセマトの上層部が現在進行形で異常とも言える行動をくり返しているのにも説明が付きます。
本来それを止める筈のティアさん達も、既にヤツの毒牙に掛かっていると考えれば……!」

「マモル様。
今までの話……否定は出来ませんが、肯定は出来かねます」

俺の話を聞いて、アオイさんがあえて苦言を呈してくれた。
皆も、アオイさんに賛同するように頷いたり、彼女の方を見たりしている。

「ありがとうございます、アオイさん。
今迄の時点で『否定は出来ない』というお言葉を頂ければ十分です」

アオイさんは、俺が彼女自身の言葉をあっさり返したのを聞いて、笑顔で頷いてくれた。
俺の意見を『皆に否定させない』為にあえて……か。

ならば、彼女の言葉を役立たせて貰おう。

「アオイさんの仰る通り、
俺の話は破綻してはいないと思いますが、ブッ飛んでいます。
なぜなら、証拠となるような物が無いからです」

「ほう?
では、今は証拠となるような何かが見つかったのかの?」

俺の話が核心に近づいて来たのが分かったのか、
バフォメットさんが獰猛な笑顔になっている。

「はい。
私がそれを今朝になって見つけられたんです」

「今朝に……!?
マモル君、朝に何かあったのか?」

英次さんが、寝耳に水といった感じの表情で驚いている。
そうか。彼は今朝に俺が傭兵さん達と会った事を知らないんだもんな。

「昨日爺さんと一緒にやって来た傭兵さん達と和解したついでに色々話したんですよ。
その時に、今まで気がついていなかった事に気がついたんです。
……俺が『コレ』を持っているという事の異常さに」

そう言って俺が皆の前に出した物は勿論、スマホ。
もう壊れてしまって使えないが、証拠品としては十分だ。

「それは、マモル様が持っていた異世界の道具ですね?」

俺からコレについての情報を既に聞いていたアオイさんが、確認した。

「ええ、そうです。
コレが、どういう物かというと……!」

皆に大まかなスマホの機能と、コレがこの世界では使えない事を説明した。
そして……メンセマトで身体検査等を行われなかったが故に、
スマホを没収されなかった事の説明もつけ加えた。

「牢屋に入れる人間の持ち物を調べるなんて基本中の基本なのに、そうしなかったのか?
ティア達の隊は、メンセマトの騎士達の中でも精鋭の筈だぞ!?」

予想通り……その話に一番喰らい付いたのは、ハリーさんだった。
彼は、何が何だか分からず混乱している。

「メンセマトに潜入した私から見ても、召喚の儀の警備は隙が有りませんでした。
あの場に居た騎士達は間違い無く優秀な筈なのに、素人のような失敗をするとは思えませんね……!」

メンセマトに行っていたアオイさんが、その時の事を不思議そうに話す。
アオイさんですら中々近付けない程の警備であれば、余程優秀だったのだろう。

「俺はメンセマト側に何らかの狙いがあって、
あえて俺の持ち物を調べていないのかと思ったんです。
例えば、向こうが此方の持ち物を調べなかったにも関わらず、
スマホを隠し持っていた、って事にされて俺が切られるとか……ね」

アオイさんが、僅かに顔を顰めた。
彼女は、俺が「そうなった時」の事を思い浮かべてしまったのだろうか?
そして、彼女にそこまで想われている俺はどれだけの果報者なのだろうか?

そんな感情を今は表情に出さぬようにして、淡々と説明を続ける。

「でも向こうは何時まで経ってもそういう行動を起こさないし、
そもそも彼等は俺がスマホを持っているという事にすら気がついていないようでした。
昨日メンセマトにやって来た爺さんも、その事については一切触れなかったですし。
そして、今朝になって。
昨日の『爺さんが遺した言葉』と『メンセマトの騎士達が通常ではあり得ないミスを起こした結果、俺がスマホを持っている』という事の2つが結びついたんですよ。
……此処までは宜しいですか?」

俺の言葉に対して、此処に居る俺以外の全員が……先程よりも首を大きく振って頷く。
皆が、早く続きを言ってくれと言わんばかりの顔をしてくれるのがとても嬉しい。
最初は興味が無さそうだった白蛇さんもノッて来てくれたようだ。

「ティアさん達が、
アオイさんの言う『素人のような失敗』をするとは俺も思っていません。
ですが……仮にそんな事が起こり得る状況が有るとしたら、
それは一体どんな状況が有るのだろう、と考えた時。
爺さんの言っていた『領主の命令では細かな事が出来ない』という言葉を含めて、
スマホの件をもう一度考え直したら、
『領主が何かしらの催眠術的な力を持っていて、なおかつ、あの時のティアさん達は領主によって操られていたんじゃないか?』という考えが浮かんだんです」

「ふむふむ、それはどういう……あっ!?」

バフォメットさんは、俺が何を言いたいのかどうかに気が付いたようだ。
だが、バフォメットさん以外はまだ分からないといった表情なので、俺は説明を続けた。

「もしメンセマトの騎士達が『領主の言う事を聞いていた』のなら、
俺を牢屋に入れる前に持ち物を調べる位の事をする筈。
ですがもし、彼等が『操られていた』のなら。
『命令された事しか出来なかったが故に、俺の持ち物を調べられなかった』んじゃないかって思ったんですよ」

「そう思えるだけの何かが、有ったのか……?」

ハリーさんが、心配と疲れを隠せぬような声色で、俺に尋ねて来た。

ハリーさんにメンセマトの話をわざとして彼を苦しめるのはアウトだろうが、
彼がこの事を自分から尋ねて来たのなら白蛇さんは怒らない……か?

彼女の顔色を見て……、よし。
セーフっぽいな。

んじゃ、話を再開しよう。

「ええ、その通りです。
これも皆に言っときたかったんですが。
俺を連行する時の騎士団の様子が変だったんですよ。
これはあくまで、俺の目から見ただけなので……正しいかどうか分かりません」

「構わん、話を続けるが良い。
元々、誰もが絶対に正しいとは証明出来ぬような話じゃろ」

バフォメットさんが、俺に話を続けるよう指示する。
……やはり、彼女は俺が何を言いたいのか気が付いているな。

「分かりました。
此処から話す内容は、先程よりもさらに主観的な内容ですが――!」

俺は皆に対して、その時の様子についての説明を行いながら、
自分がメンセマトで牢屋へ入れられた時の前後の記憶を改めて思い出す。



【「我は、あのような売女共とは、違う!
この役立たずを牢屋へ放り込め!!」

「ちょっと待って下さい、領主様!
この人は、ただの一般人で」

「は、ハヤク、早くしろおっ……!
『私は、命令したぞ!!』」

「……はい」】

……俺の記憶が正しければ、
あの時メンセマトの領主はティアさん達に対して確かに『命令』を行っていた。

ティアさん達は俺を牢屋に入れる事に反対してくれたものの、
領主が『命令』の言葉を出した途端に、あっさり静かになってしまった。

【「抵抗しないんで、お手柔らかにお願いしまーす」

「…………」

「あの……?」

「…………」】

そして、俺を牢屋へ連行する途中のティアさん達は気持ち悪い位に無口で無表情だった。
メンセマトの騎士団は「俺を牢屋に入れるまで」は静かだったにも関わらず、
それが終わってから、それまでの態度が嘘のように……ティアさんが俺に対しての謝罪を急に始めたんだよな。

この世界へ来たばかりで何が何だか分からなかった俺でさえ、
あの時のティアさん達の態度を「不自然」だと思った。

――この時の記憶を、
爺さんの言っていた『領主の言葉では細かな事は出来ない』という言葉を考慮した上で、
改めて思い返して……気が付いた。

あの時メンセマトの領主がティアさん達に下した命令に、
「黒田衛を牢屋に入れろ」という命令が含まれていても、
「その前に身体検査等をしっかり行え」等の命令が含まれていなくて、
なおかつその命令が相手を操ってしまうようなものであれば。
ティアさん達が俺に対して身体検査等を『行えない』状況が出来上がってしまうのだ。

命令された事しか出来なかったが故に、
俺がティアさん達に話し掛けても反応してくれなかった。

俺や傭兵さん達と普通に会話していた爺さんは、
予め「そうなるような命令」を受けていたんだろうけども、
俺の言葉に対して激昂した領主がティアさん達に思わず発した命令ではそうならなかった。

だからこそ。
あの時のティアさん達は無言、無表情で。
なおかつ『俺に対して身体検査をせずに牢屋へ入れるという事しか出来なかった』のでは無いかと考えたのだ。

「……その結果、俺は今こうして『スマホ』を持っているという訳です」

先程よりも皆が俺の言葉に付いて来ているのを感じる。
ティアさん達が実際に喋っていた言葉のような実例を出した上での説明は効果的だったようだ。

「だんだん分かってきたよ、君の言いたい事が……!
でも、それだけじゃあ『領主が命令により相手を思うがまま操れる』って事にはならないんじゃない?
スマホとやらの件だって、何かの間違いかも知れないし?」

英次さんが俺に疑問を投げかける。
彼の様子からして、俺の考えを否定したいのでは無く……自分の疑問をさっさと潰して俺の仮説を理解したいという態度が見て取れた。
……本当に、有り難い。

彼の言いたい事は単純である。
要は、俺の仮説が正しいという確固たる証拠が無いのだ。
スマホだけでは、100%とは言えない。

「ええ。それだけなら何かの間違いかもしれません。
ですが……3年前の戦いに関わった多くの人間の記憶が食い違っていたり、
絶対に自分から毒を飲まないような老人の奥歯に毒が仕込まれていたり、
といった『普通では起こり得ない事』が連続して起こっているんです。
これはもう、
そうなっている理由自体が『普通じゃない』と考えざるを得ないと思います」

俺が「メンセマトの領主が人を操っている」などというブッ飛んだ考えに辿り着いたのは、
それ以外の考えがそもそも答えとして成立しないからである。

「うむむ、しかし……!」

ハリーさんは、まだ納得出来ないといった感じの表情だ。
彼の表情が何処か「俺の考えを理解したくない」といった感じに見えるのは俺だけだろうか?

「3年前の戦いに関する記憶の食い違いは、唯の勘違いかもしれない。
スマホの件は、もしかしたらメンセマトの騎士団のミスかもしれない。
爺さんの言葉は、単に領主の命令がいつも大雑把というだけかもしれない。
爺さんの死は、彼が痴呆を起こして奥歯に毒物を間違って入れただけかもしれない。
……ですが、これだけ起こり得る確率の低い偶然が連続して起こり得る状況など、
そもそも、可能性として考えられるのでしょうか?」

普通に可能性を考えたのでは、偶然が連続したとしか考えられなかった。
だが俺は、それで思考停止するのは……あまりにも早計だと考えた。
なぜなら「そうなる」可能性は限りなくゼロに近いからだ。

だから、俺はそもそも「答え」と「そこに辿り着くまでの可能性」の両方が普通では無いと考えた。
俺はスマホが示してくれた、ブッ飛んだ答えに辿り着いたのである。

そして、今現在の情報を元に考えられるだけ考えて、それ以外の答えを見出だせていない。
それ故に、俺は答えとして皆に「コレ」を提示した。

ただ偶然が重なっただけであれば、佐羽都街の皆へ害が及ぶ事は無いのだから、
起こり得る可能性の1つを皆に提示出来ればそれで良い。

「確かに、無理が有るんだけどな……!
でも……ううん……!?」

ハリーさんが、苦しげな表情で悩んでいる。
さっきよりも若干、彼の様子が可怪しい。
何があったのだろうか?

「あの……。
頭がこんがらがって来たから、少し整理する時間を貰えないかしら?」

ハリーさんに対して助け舟を出すように、これまで黙っていた白蛇さんが提案する。
俺自身、面倒な話をしていると思っていた所だ。
ここらで、一旦情報を整理出来るのは有り難い。

現在進行形で話をしている俺はともかく、
話を聞いているだけの皆に、頭の中だけで物事を整理してもらうのは大変だろうし。
さっきまで話した事を纏めて、紙にでも書いて皆に見て貰おう。

「分かりました。
かなり複雑な話になってきましたし、要点を纏めて紙に書いときますね」

バフォメットさん夫妻の部屋にあった筆記用具を借りて、
今日皆とした話の要点や、俺なりに立てた仮説の概要を書き記す。

筆と墨なんて使ったのは小学校での習字以来だ。
結構書き辛いが、ギリギリ……人が読める字を書けている……。

うし、出来た……と。

=====================================================
一、 奇妙な行動を繰り返すメンセマト
3年前の戦いで『魔物は人を愛している』という事を知っている筈の騎士団が、
未だに……本気で魔物を敵として恐れていたり、
爺さんの命が無くなったにも関わらず、
それを利用して佐羽都街へ宣戦布告を仕掛けるなどのキチガイじみた行動を繰り返している。
→本来「いい人達」である筈のティアさん達がメンセマトの非道な行為に賛成する筈が無い。もし彼等が正常なら、あの国では今更内乱が起こっている筈だ。
→→ティアさん達を始めとする多くの人間に『間違い』を引き起こさせるだけの、
『普通では無い何か』がメンセマトにあるのではないか?

二、爺さんの死
佐羽都街へ、俺やアオイさんを殺しに来た爺さんが奥歯の毒物により死亡した。
→魔法に関して絶対の自信が有りそうだった爺さんが、
奥歯に予め毒を仕込むなどの、自分から死を選ぶような行動を取るとは思えない。
→→彼はメンセマトが佐羽都街へ宣戦布告をする口実を作る為に、
操られ、奥歯に毒を仕込まれた挙句、この街へ送られた?
『そんな事』を可能にする、人を操る暗示のような何かが有る?

三、スマホ
牢屋に入れられた時に身体検査を受けなかったお陰でスマホを持っていた。
そもそも、俺を牢屋へ連行する時のティアさん達は様子が不自然だった。
→ティアさん達が「領主の言う事を聞いていた」なら俺が怪しい物を持っていないかどうか調べたりした筈。ハリーさん曰くメンセマトの精鋭である彼等が、そんな簡単なミスをするとは考え難い。
→→身体検査等が無かったのは、何らかの手段により彼等が「操られていた」が故に、
「命令された事しか出来なかった」のでは?

四、まとめ
→一、二、三のような普通には起こり得ない事が連続して起こった以上、その理由も異常であるとしか考えられない。
→→スマホの件や爺さんの言葉より、領主が「命令をする事により、相手を思うがまま操れる力」を持っていると仮定すると、一、二、三の全てが実行可能となる。
=====================================================

「まあ、こんな感じですかね」

俺は皆に、たった今紙に記した情報を見せた。

「成程、これがマモルさんの考えなのね」

「見終わったら、他の人に回して下さいね」

「はーい」

頭がこんがらがって来た……と言っていた白蛇さんにも、
俺の考えを理解して貰えたようだ。

皆の様子を見る限り、
先程までは俺が何を言っているのかピンと来ていない感じだったが、
情報を整理した上で書き記したのは大きかった。

俺の仮説を皆が信じたどうかは別として。
「俺が何を言いたいのか」という事はちゃんと理解して貰えたようだ。

「……最後に、1つだけ聞かせてくれ、マモル君。
君の仮説が正しいとして、黒幕がメンセマトの領主であると仮定して……だ。
どうして、領主はそんな事をしているんだ?
魔物は人を傷つけないのは君も良く知っているだろう?
だったらなおさら、領主がそんな力を持ってまで佐羽都街へ害を為す理由が無いんだよ」

ハリーさんの、俺の仮説に対するは疑問もっともだ。
黒幕の動機については、俺も考えた。

しかし俺がヤツの立場に立って物事を考えたら、その疑問は簡単に氷解した。

「俺が思うに『だからこそ』では無いでしょうか?
この世界の魔物達は、人を傷つけない。
戦闘になったとしても、極力相手を殺さない。
彼女達のそういう優しさにわざと付け込むような形で戦争を仕掛けるならば、
下手な人間相手に戦うよりもよっぽど危険性が低いと思います。
幸い、メンセマトには教団に戦争を強要されているっていう『口実』も有りますし。
勝ったら勝ったで、向こうは大儲けでしょうし。
……勿論、そういう事が人として正しい行動かどうかは別ですけどね」

皆は「その発想は無かった」といった表情を浮かべながら若干引いている。

「マモル様、流石にそれは……!」

「いや、あくまでも例え話ですからね?
やる、やらんは全く別の話ですよ?」

「でしたら、良いのですが……!」

アオイさんが俺を窘める。

彼女の行動は正しい。
なぜなら、俺が口にした考えはあまりにも非道なものだから。

しかし、良心が完全にブッ壊れている人間であれば「それ」を躊躇しないだろう。

戦争を仕掛けた相手が、自分達を極力殺さない。
勝ったら勝ったで、多くの金と名誉が手に入る。
負けたとしても、兵士が攫われはするものの「戦死者」が出る確率は限りなく低い。
その時点で、メンセマトの側からすればローリスク・ハイリターンどころの話では無い。

3年もの間魔物について調べていた領主も『そう思って』佐羽都街へ戦争を仕掛けようとしているのでは無いだろうか?

そして、そういう考えに至っていなかった所からして、
佐羽都街の人間や魔物達は本当に優しい者ばかりなのだと改めて分かった。

……同時に、俺が『そうでは無い』という事も分かってしまったのだが。

「済まない……マモル君……!」

「……?」

ハリーさんが、何故か俺に謝った
彼は、先程の様子が可怪しい感じよりは若干落ち着いて貰えたような気がするけども。
何故、俺は彼に謝られたのだろうか?
彼が俺の仮説に疑問を呈した事に対する謝罪という訳では無さそうだが……?

「まあ、メンセマトの領主がとんでもない力を持っているというのが本当に正しいかどうかは置いとくのじゃ……が。
マモル殿のおかげで分かった。
メンセマトには、普通では無い何かが有る可能性が極めて高い。
これは、確定じゃの?」

バフォメットさんの言葉に、
俺以外の皆が当然といったような感じで頷いてくれた。

「えっ……!?」

皆は、俺が今した話を信じてくれたのか……!
俺ですら100%信じられぬ程のメチャクチャな仮説を……!!

俺の仮説はまだ情報が足りないが為に、あくまでも仮説でしかない。
だからこそ、俺の仮説は間違っている可能性も高い。
それ故に、皆が仮説を「もしかしたら、こんな可能性も有るかもしれない」程度に信じて貰えるのが一番助かる。
今の状況はある意味、俺が一番望んだ状況となっていた。

質量保存の法則は何処へ行ったと言わんばかりの仮説を、
ほんの少しでも皆が信じてくれるとは思っていなかったのだ。
俺は、目頭が熱くなっていた。

だけども。
今の俺が活躍出来たのは、ここまでだったのだ。

俺がスマホを通じて辿り着いた答えが正解だったとしても、
佐羽都街とメンセマトの戦いは……関係無く始まってしまうのだから。
14/06/30 22:19更新 / じゃむぱん
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■作者メッセージ
お待たせしました。

作った文章を読み返して、
「書いてる側しか分かんねぇような文章ばっかじゃねぇか!?」
……という事で、大幅な修正を加えて投稿が遅れてしまいました。

今回は説明が中心の回という事で、多めに文章を追加しました。

自分なりの仮説に辿り着いたマモル君や
それを聞いた佐羽都街の皆が、
これからどうするかは……次回。

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