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7章 東雲
 今の騎士団一同の人数
 団長:1人 副団長:1人 兵士:7人 魔術師:0人

 思わぬ災害で仲間を大多数失うも、一同はようやく触手の森をぬけることが出来た。普通は登山など危険な道のりを乗り越えると達成感とも言えるものを味わうが、今は誰一人として達成感を感じていなくをしている者はいなく、皆から感じるものは痛々しいほどの悲愴感と葬儀時のような顔つきのみである。
 今までの疲れもピークに達していて、これから地上に帰れるというのに喜びの顔をしている者すらいなかった。

「うっ・・・ぐっ・・・ミラぁ・・・」

 スノウは最後尾で四つんばいになり、涙を流し続けていた。時々嗚咽が混じったような泣き方になったかと思うと、よりいっそう涙は激しさを増す。兵士達は誰もスノウを慰めたりはしなかった。今の彼には慰めは無意味であり、最愛の人をなくすという悲しみの深さに誰も立ち入ることは出来なかったのである。
 一同の前にグレイ、その隣にソフィアが出ると、兵士達は話を聞けるように整列する。

「皆!今まで本当に・・・本当によく頑張った。これから俺達はようやく地上に帰るが、色々と心に思うことはたくさんあると思う。突然の触手の森への突入、魔物の大軍勢、謎の敵の遭遇、魔界の植物の襲来・・・
とても辛くまた多くの仲間たちを失ってしまった。だが、これらはお前達を十分に成長させているだろう」

 確かに兵士達は皆、魔界に来た時よりは見た目こそ変わりないが、心や精神といったものはこれらの経験によりとてつもなく成長していた。兵士達は気づいていないらしいがグレイにはそれがはっきりと確認できた。

「経験は人を成長させるとはよく言ったものだ。お前達はこれからも騎士団員として誇り高く生き、弱き者を守る存在となってくれ。
そして・・・これは俺の願いだが、必ず守って欲しいことがある。それは、犠牲になった仲間達を決していつまでも忘れるなということだ。
俺は人が死ぬということは『命がなくなる』からではなく、『存在を忘れられる』ことだと思っている。故に俺達があいつらのことを忘れなければ、あいつらはいつまでも俺達の心の中に生きていることになるんだ。
だからどうか決して忘れないでくれ、俺の切なる願いだ」

 兵士達は大きく首を縦に振る。グレイはそれを見て心底安心しふぅ・・・と息を漏らした。お前達ならそう言ってくれると思ってたぞとでも言いたげな感じであった。

 
 




 
「これから俺達は地上へ帰るが、さっき逆算してみた所このまま正規のルートで行くとまだ一週間は軽くかかるだろう。それでは時間が掛かりすぎるし、俺達人間がこの魔界に居過ぎると良くないことが起こってしまう。
そこで少々荒っぽいが、特殊な方法で帰りたいと思う。なに、荒っぽくはあるが死ぬ範囲では全然ないから大丈夫だ。
少し準備に時間が掛かるからな・・・皆は休んでてくれ。では解散。」

 兵士達は散り散りになり、その場にはグレイとソフィアだけが残された。グレイが口を開く。

「なぁソフィア。大事な相談があるんだが・・・」

「・・・なぁに?何でも言って?」

「地上への帰り方についてなんだがな――――――――








 グレイが集合!と言い兵士達一同はまたさっき集まったところへ集合した。ここにきてやっと兵士達の顔が柔らんできて、地上へ帰れる嬉しさが表情ににじみ出てきたようだ。スノウもやっと泣き止み、目を真っ赤にさせながら整列の中に入る。他兵士達から元気をもらい彼の顔にも笑みが戻ってきたようだった。

「よし!皆集まったようだな。俺達はこれから地上へ帰る。来たときのようにちゃんとしたゲートを通らないから不安だと思うが、意外としっかりしてるんで安心してくれ。
これからソフィアが詳しく説明をするからちゃんと聞くように。じゃ頼むぞ」

「ええ。一度しか言いませんので聞き逃さないでください。まずゲートですが、ゲートは私とグレイの二人の魔力を合わせて即席のゲートを作ります。後はただ出口へとまっすぐと進むだけですが、ここで注意しておきたいのが、たかが即席ですので皆が皆、同じ場所に出れるとは限りません。一応出口には王国と設定しておきますが、空間のズレで王国周辺のどこかに出てしまうでしょう。そこは皆さんの力で王国へと戻ってきてください。
なお補足ですが、このゲートは一方通行で一度足を踏み入れたら出口に向かって全身しか出来ませんので。
説明は以上です。これからゲートを作りますが、出現時間が3分しかありませんので行動は迅速にお願いします。・・・と言ってもこの人数ならすぐに終わりそうですね」

「説明ありがとな。俺とソフィアもそれなりに魔力はあるんだが、ゲートを作るとなると大量の魔力が必要だからな。二人がかりでもこれが精一杯なわけだ。まぁ魔術師がいればもっとちゃんとしたゲートが作れたんだが・・・彼女達のおかげで俺らは今ここにいるんだから文句は言わない。
それじゃソフィア・・・いくぞ!!」




・・・・・・・・・・ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ



 グレイとソフィアが呪文を唱え始める。完全に詠唱が合っているので、二人ともまるで打ち合わせをしてきたかのような詠唱である。恋人同士息がぴったりとでも言いたいのだろうか。
 しばらくすると、二人の目の前に一本の糸のような亀裂が入り、そこから徐々に空間が避けていく。やがてそれは人ほどの大きなの円になった。円の中は何色ともいえないごちゃごちゃな色でグルグル回っているので、長い間見てると目が回りそうだ。

「よーし!皆入れ!」

 グレイの指示で兵士達は次々とゲートへ入っていく。人数が少ないせいかあっという間に兵士達は全員入り、グレイ、ソフィア、スノウだけが残された。
 スノウが先にゲートに足を踏み入れると、何を思ったか入り口で立ち止まる。グレイとソフィアが不思議に思うと彼は体だけこちらを振り向き片手を差し出す。

「ささ、二人とも俺の手に捕まってください。折角だから3人でいきましょうよ!」

「ハハッ・・・まったくお前らしいな。そうは思わないかソフィア?」

「本当にね・・・でもあなたは今回の任務で一番の成長と功績をしたわ」

「ソフィアさんに褒めてもらうとなんだか照れますね////
あっそろそろ時間が危なそうですよー!」

 ゲートが段々と小さくなり始めていた。二人はスノウの差し出す手を掴む。彼の腕は魔界に来たときよりも遥かにたくましくなっていた。
 スノウの手を掴みながら、グレイは重々しく言う・・・







「・・・スノウ・・・すまない・・・俺達とはここでお別れだ」


 二人はスノウから手を離した。
 

 



 スノウはグレイの言っていることが理解できなかった。もともとたいして頭の良くない彼はやっとのことで答えにたどり着く。

「またお得意の冗談ですか?冗談と言ってくれますよね・・・?」

「・・・・・・本当だ。単刀直入に言う。俺とソフィアはこの魔界に残る」
 
 スノウは動揺を隠せないでいる。いや、この状況で平然を保てる人など誰もいないだろう。グレイのところへ走るが既にゲートの中に入ってしまってるので、戻ることは出来なかった。
 ゲートは次第に小さくなっていく。

「う・・・そだ・・・そんな・・・・・・なぜ?なぜですか!?なぜなんですか!!??」

「スノウ・・・よく聞いてくれ。今お前が入っているゲートは当然未完成なんだが、ゲートが未完成だとあるペナルティが発生してしまうんだ。それが『出現させたゲートが未完成な場合、術者はゲートへの侵入不可』なんだ・・・」

「・・・そんな・・・もうどうすることも出来ないんですか・・・?」

「はっきり言って無理ね・・・でも私達はこれでいいと思っているわ。というよりもこれしか方法がなかったのよ・・・」

「そういうことだ、スノウ。
俺達は一生魔界で暮らす運命だ・・・だがこれは俺達二人で決めたことだから何も悔いはない。まぁ唯一の悔いはお前達の成長が見られないってとこだがな。」

「ミラがいなくなって・・・グレイさんやソフィアさんまでいなくなって・・・俺はこれからどうやって生きていけばいいんですかっ!?二人とも・・・ずるいですよ・・・」

 スノウはうつむきふるふると震える。二人はなんて言葉をかけていいかわからなくなった。
 ゲートは人の顔一つ分の大きさになる。

「スノウごめん・・・ごめんな・・・お前が一番辛いのは誰もがわかっていたことじゃないか・・・ごめん・・・
罪滅ぼしをしたいと思っているわけじゃないが、お前の手の中を見てくれ」

 スノウの手の中からは、小さな紙切れと香水が出てきた。先ほど手を握ったときに二人が忍ばせたのだ。

「その紙は地上に戻ったら開いてくれ。きっとお前のためになってくれるはずだ」

「香水はわたしからよ。それは暗闇の中に置くと、今自分が一番探しているものを照らしてくれる。そしてさらに自分に振り掛けると探しているものが自分によって来る魔法の香水よ。あえてあなたに渡したという意味・・・わかるわね?」

「っ・・・・・・・・・・・」

 スノウは寂しい気持ちや感謝の気持ちなどさまざまな気持ちが混ざり、言葉にならなくなっていた。
 ゲートはもはや拳一つ分の大きさでしかない。





「・・・もう時間のようね。スノウ、わたしから最後の言葉よ。『人間の最大の弱点は諦めてしまうことである。成功するためのもっとも確実な方法―――それはもう一度試みることである。』ある有名な発明家の言葉だけど、まるで諦めの悪いあなたのためにあるような言葉ね。
それじゃ・・・頑張って・・・」
 
 スノウはもう返事も出来ないくらいになり、涙やら鼻水やらで顔はくしゃくしゃになっていた。

「・・・・・・・・・・」

「・・・グレイ?どうしたの?」

「・・・俺としたことが・・・言いたいことがたくさんあったんだがよ・・・今まで・・・色々あったよなぁとか・・・思い出してると・・・もう頭真っ白になっちまってよ・・・」

 グレイにとってもスノウは一番の後輩であり、一番の親友でもあるので気持ちはスノウと変わりないのだろう。普段静かな彼も今は瞳に涙を浮かべていた。
 グレイとソフィアは二人で顔を見合わせスノウの方を向く。そして二人は同時に叫んだ。

「「スノウ!!」」

 スノウはぐしゃぐしゃにうつむいていた顔を上げて、わずかに開いたゲートの隙間から二人を見ると、剣を地面に刺しスノウの方を見て立ち膝をついていた。この格好は騎士団の下位の者が上位の者に行なう最敬礼の格好であり、団長、副団長という最高位のグレイとソフィアが一般兵士というスノウに向けてするということは、役職の階級抜きに敬礼しているということである。まさしく、グレイとスノウの友人関係のように。
 
「・・・グレイさん・・・ソフィアさん・・・」

 スノウは少し時間が経ち、敬礼の意味がわかった途端にダムが決壊したかのように大泣きし大声で泣いた。ゲートの小さい隙間からも自分の声が聞こえるようにと・・・


「う・・・うあああああああああぁぁぁぁぁぁ――――――



ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴンン・・・・・・
10/09/16 00:49更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
やっとここまで来ました・・・
前回はミラージュの別れ。そして今回はスノウの別れであります。
話の都合上、今回は短くなってます。

今後、スノウとミラージュはどうなるのでしょうか?
それはまたおいおい考えるとして・・・

シリアルな話は多分今回で終わりでしょう!
次回からどう書くか考え中・・・

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