読切小説
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山の中で二人
霧が立ち込める山林の中を歩く二人の影があった。
一人はまだ少年といえるような子で体つきは細く、外見年齢からすると小柄といえる。
薄汚れた着物を着て、背には小さな竹かごを背負っている。

もう一人は長身の女性で隣を歩く子と比べるとより大柄に見えた。
彼女もまた竹かごを背負っていたが、少年の物より二回り以上大きい。
露出が多い格好をしており、体は引き締まり筋骨隆々といえるほどである。
だが、何より目を引くのはその女性の手足が獣のそれとなっていることである。
彼女は人ではなく人虎という魔物娘である。
尾を垂らし、少年に歩く速度に合わせゆっくりと歩いている。
険しい道に差し掛かると注意するよう少年に声をかける。



二人はやがて木々がまばらで開けた場所に着いた。
付近には自生するキノコや山菜が見られる。
人虎は辺りを見回すとうなずいた。

「ふむ、ここらへんにしようか」

人虎は竹かごを下ろし近くに生えている山菜や木の実を採取し、かごに入れだした。
少年はしばらく人虎の側できょろきょろとしていたが、やがて何かを見つけたのか一人で駆けだした。

「あまり遠くへは行くなよ」

人虎は少年の背に声をかけ、彼の走る先をちらりと見る。
採取をしながらも常に彼を視界の中に入れている。
少年は目当てのものにたどり着くと息を切らしながらしゃがみ込み、地面からそれを両手で包むように抜き取った。
弾む息から興奮と嬉しさが伝わってくる。
少年を見守っていた人虎は手を止め、足早に彼の方へ近づいて行った。

少年が手に持つそれは真っ白で丸みを帯びたキノコだった。
彼は目を輝かせ、すぐに人虎へ見せようと後ろを振り返ると、すでに真後ろに彼女の姿があった。

「何か見つけたか?」

人虎がすぐ近くにいたことに少年は驚いたが、うなずき手に持ったキノコを掲げてみせた。
人虎は立膝をつく形で姿勢を低くして、キノコを間近で観察する。

「ほう、きれいなキノコだな。少し貸してくれ」

人虎はキノコを手に取りまじまじと見つめていたが、

「これは毒キノコだな」

と静かに口にした。

「え....ど、ど、どく?」

少年が目を大きく見開いた。

「そうだ、毒だ。これを食べたら死んでしまう」

「そ、そ、そんな」

少年はがっくりとうなだれた。

「ご、ご、ごめんなさい」

「なに、気に病むことはない。これで一つ賢くなったじゃないか」

人虎は微笑み、少年の頭にポンと手をやった。

「さあ、気を取り直して食料を探すぞ」

人虎の声に少年も顔を上げ、採取を再開した。





「…..ふむ、こんな所か」

懸命な採取により二人の竹かごは半分以上が収穫物で埋まっていた。
日はまだ明るいがやや西に傾きつつある。
少年は息を切らし、手ぬぐいで汗をぬぐう。
疲労から切り株にドサッと座り込む。

「なんだ、そんなに疲れたのか。ここに長居は無用だぞ」

「う、うん」

少年は答えるが座り込んだままである。

「全くしょうがないな。ほら、ここにつかまれ」

人虎は少年に背を向けしゃがみ込むと、彼は嬉しそうに彼女の背中にしがみついた。
人虎は少年をおんぶしたまま立ち上がり、彼の竹かごを自分のものの中に入れ右手で持ち上げ、左手を背に回し少年の腰を支えて歩き始めた。
少年は人虎の肩に手を回し甘えるように顔をうなじにうずめた。
人虎は気にする様子もなく、黙々と歩き続ける。



いくらか歩いたところで少年の顔がやや赤らみをみせ始めた。
息が荒くなり、切なげな表情を見せる。
平坦ではない山道を歩く中、少年の股間が人虎の露出した背中にこすれる度に彼のモノが硬くなっていく。
人虎の盛り上がった背筋の割れ目に少年は腰を密着させ、少しずつ自らも腰を動かす。
人虎はそれを知ってか知らずか何も言わずに歩き続ける。

「うぅ」

時折少年は息を漏らし、より強く人虎の背に抱き着く。
少年の腰の動きが早くなる。

「あ….」

突如、少年が声を出し体を震わせる。
つかの間の硬直のあと、脱力しぐったりと人虎にもたれかかる。
人虎が立ち止まり、横目に少年を見る。

「気をやったのか?」

人虎の静かな問いかけに少年がこくりとうなずく。

「そうか。ちょうど湧水が近い、寄っていこう」

人虎は進路を変え、歩き始めた。




幾ばくも無く湧水が広がる場所に着いた。
ここは川の源流にもなっている。

「ここで洗っていこう」

人虎が少年を水辺におろした。

「脱がすぞ」

人虎が少年の着物を脱がしていく。
少年は黙って従う。
人虎は下着をそっと外し、少年を裸にした。
中から透明な粘着液の糸を引いた彼の陰部が露になる。
まだ亀頭の大半が皮をかぶった状態である。

「痛みを感じたら言うんだぞ」

人虎が自分の手と少年の男根に唾液を垂らし、男根の皮をゆっくりと慎重に剥いていく。
決して焦らず、少年の様子に注意を払いながら丁寧に皮を剥く。
彼の亀頭がほぼ顔を出すと、人虎は彼を腰まで水の中に浸からせた。
人虎が指をこすり合わせて、亀頭と皮の内側を清める。
人虎の手の大きさに対し、少年のそれは小さく指でつまめるほどの大きさしかない。

「うぅ」

少年は正面に立つ人虎の体に寄りかかり、刺激に耐えようと彼女の体にしがみついた。
彼女の隆々とした腹筋に少年の顔が当たる。
人虎は少年を抱き寄せた。
人虎の念入りな洗浄に少年の男根に再び硬さが戻り始める。
湧水の透明度の高さにより水中の様子は上からも見える。
人虎は少年の肉棒の硬化を見て取ると、睾丸をさすり感触を確かめる。

「まだ少し出そうだな。まずは出し切ってもらうか」

人虎は少年を水辺に出し岩に座らせ、自分はその前に跪き亀頭を親指で撫でまわす。
彼の鈴口から粘液が流れ出し、亀頭と人虎の指をぬめらせ滑りをよくする。

「暖かい方が気持ちがいいだろう」

そう言うと人虎は少年のそれの先端をちろっとなめた。

「あっ」

少年は天を仰ぎ、ぐっと目を閉じる。
彼の反応を見つつ、人虎は彼の肉棒を口にくわえなめしゃぶった。
舌を亀頭の周りに滑り込ませ器用に皮をむいていく。
彼女の獣のような湿り気を帯びた生暖かい息と唾液により彼の肉棒はてらてらと光る。

「あ、あ」

少年が思わず人虎の頭を乱暴につかみ、ふとももで挟んだ。
だが、人虎は一切動じることなく彼の肉棒をしゃぶり続けた。
舌は亀頭の根本の溝に達し、周囲の汚れをなめとる。
加えて睾丸も指先で軽く揉みしだき刺激を与える。

「で、で、出ちゃうぅ」

口と手による的確な快楽の打撃により、少年はまたたく間に絶頂に追い込まれた。
口をぱかっと開けて体をのけぞらせ両足をピンと伸ばし射精する。
射精中も人虎は行為をやめずに射精のひと時を持続させる。
やがて人虎の頭をつかんでいた少年の手がだらりと垂れ肉棒の脈動が収まった。
人虎は動きを緩めて口をすぼめ、肉棒の根本から絞るように先端に向けて顔を引いた。
尿道の精液も残らず搾り取り、ゆっくりと口を離し彼を解放する。
ふにゃりと少年の肉棒が垂れ下がる。
放出された精液は全て人虎の口中に収められた。

「んぅ…んぐ….ふぅ、気は落ち着いたか」

人虎が迎え入れた精液を全て飲み干す。
少年は息を切らしうなずいた。

「よし、ではやり直すぞ」

先ほどと同じように人虎は少年の男根を水の中で清める。
硬さを失った肉棒は素直に彼女の手の中で粘液を洗い落とされていく。
少年は行為になおも興奮を覚えていたが、男根が勃起することはもうなかった。

男根を洗うと人虎は大きな手で水をすくい取り少年の体にかけ、手のひらで撫で彼の全身を清める。
清め終わると手ぬぐいで彼の体を拭き、水辺の岩に座らせ休ませた。

少年が見守る中、人虎は彼の下着を洗い、次に自身の体を清め始めた。
わずかばかりに身に着けていたものを外し、一糸まとわぬ姿となる。
古代帝国の彫像でみるような完成された肉体が露になり、少年はその美しさに息を吞んだ。
立ち姿からだけでも感じる人虎の心身の強靭さは、そのまま彼女の美しさとなっていた。
所々にある傷も人虎の美しさを損なうものではなく、むしろ彼女の肉体をより印象付ける装飾であるように少年には思えた。

人虎が体に水をかけ、汗と汚れを流す姿から少年は視線を逸らすことができずにいた。
体を清めこちらに歩いてくる人虎に少年はすっかり見惚れていた。

「なにを惚けている。暗くなる前に帰るぞ。もう歩けるだろ?」

人虎が少年の分の竹かごを差し出すと歩いていく。
少年は我に返り、先を歩く人虎の後を急いで付いて行った。





太陽が沈み、月が煌々と輝いている。
山の山頂付近に二人の住まいとなる小屋があった。
その中の粗末な寝床で横たわる人虎の上に少年がまたがっていた。
たわわに実る2つの胸の間に自身の肉棒を突き刺し、手を人虎の顔の横に付き少年は無我夢中で腰を振っている。
年齢にそぐわない淫乱な行為にふける少年の姿を人虎はただ黙って見つめていた。
両手を胸に当てて寄せ上げて、時折彼が体勢を崩しそうになると倒れないように脇を支え位置を調節する。
少年の肉棒は胸の先まで出ずにその中に収まっている。

「はぁ、はぁ、はぁ」

激しく呼吸を乱しながら、少年は下にいる人虎を見る。
彼女がこちらを見る目と自身の目が合うと、それだけで少年の鼓動が高鳴った。
人虎は表情一つ崩さずに少年の好きなようにさせている

人虎の体にはすでに何か所か白濁液が付着していた。
太もも、腹筋、片側の胸に行為の形跡が生々しく残っている。
彼女は全身を惜しげもなく少年に晒していたが、秘所だけは隠されていた。

少年の肉棒は幾度もの射精により猛りを失っていたが、少年の欲望はまだ収まっていなかった。
自身の粘液によりなめらかに動くようになった胸の間で、もう一度欲望を放出しようと必死になっていた。

気持ちに反し中々達せないもどかしさを少年が感じ出した頃、人虎が指先を舐め唾液を十分につけ、その指を彼の肛門にあてがった。
穴の入り口を円を描くように撫で、丹念に濡らし、少しずつ指を押し当てる力を強めていく。
だんだんと少年の肛門にゆるみが生じ人虎の指を迎え入れていく。
やがてつぷっと音を立て人虎の指先が肛門に入った。

「あああっ!?」

急激に押し寄せる強烈な刺激にビクンと少年の体が天井にむかって飛び上がる。
それと同時に彼の肉棒から絞り出された精液が放出された。
勢いのない精液はほぼ人虎の胸の中に留まり、わずかばかりが胸から漏れ出た。
精が尽き果てた少年は人虎の上に倒れこむ。
人虎の顔に少年の胸が当たる。



少年はなおも人虎を求め動こうとするが、体に力が入らず思うように動けない。
すると人虎は少年を抱え上げ体を入れ替え、彼を自分の下に仰向けにさせた。
少年に負担がかからないように体重をかけ過ぎず、しかし自分の体をしっかり感じてもらえるぐらいの塩梅で彼に覆いかぶさる。
物欲しげな少年の口元にまだ汚れていない方の乳房を近づける。
少年は乳房に吸い付くと母乳を求める赤子のように夢中で吸った。

「んちゅ..んぷぅ..んぅー」

乳房を吸いつくすと舌で乳輪を舐めまわし、さらにその周囲に口をつけ吸い、顔もこすりつける。
張りと弾力のある人虎の豊かな胸が少年の行為によって形を歪められる。

少年が一度胸から口を離し人虎の顔を見上げた。
人虎は少年をじっと見据えている。
少年が口を開け舌を出した。
それを見た人虎は口の中で舌を蠢かし唾液を集め、口からゆっくりと少年の舌先に向けて唾液を垂らす。
唾液はねっとりと人虎の舌先から垂れ下がっていたが、重力に引かれ少年の舌にきれいに着地した。
唾液の糸が人虎の舌先と少年の舌の間を結ぶ。
少年は実にうまそうに唾液を飲み込み喉を潤すと、再び胸にしゃぶりついた。
人虎の大きな胸の隅々まで少年は何度も舌と顔をこすりつけ、それに満足すると舌を胸の横の方へ這わしていった。

「腋だな」

少年の欲するものを察した人虎は体の位置を変え、手を上げ脇を彼の口元へ寄せていく。
毛が一本も生えていない艶艶とした肌が汗ばみ、しっとりと湿っている。
少年は脇の溝に舌を這わせ、人虎の汗を味わい尽くす。
そして、自分の口臭が感じられるほどに脇に鼻を密着させ、肺が満たされるまで匂いを吸い込む。
腋から発せられる刺激的な匂いも汗の塩味も、どんなご馳走よりも少年には格別なものだった。
人虎の存在を存分に感じ、少年は幸福感に包まれる。



人虎の脇の汗はすっかり少年に舐めとられる代わりに彼の唾液にまみれ、あやしく光を放った。
堪能し終えると少年は脇から顔を離し、上目がちに人虎の顔を見つめた。
やや恥ずかし気な表情で口をかすかにすぼめるのを見て

「接吻か?」

人虎が問いかけると少年は頬を赤らめてうなずいた。

「ふっ、そうか」

思わず人虎に笑みがこぼれる。
これほどの行為におよぶ少年でも口付けは素直に要望できない行為だった。
人虎にはそれが滑稽に思えたが、おそらく口付けという行為が、恋人同士が行うものであるという強い観念が、彼にこうさせているのだろうと人虎は考えた。

(年端も行かない子が、もっと踏み入ったことを先に知ってしまったがために、おかしなことになったのか)

人虎は自身と彼のことを振り返り、心中で苦笑しつつ少年の望みに応える。
人虎の凛々しく整った顔が近づき、少年の心臓は早鐘を打った。

「んちゅ」

唇が重なりあい音が鳴る。
人虎は何度か唇を合わせ、彼の上唇をついばむように吸い付いた。
下唇にも吸い付き、舌で全体を舐め回し、自身の唾液ごと少年の唇を味わう。

少年の口が人虎の唾液にまみれると人虎がそっと口を離した。
人虎が少年を見るとうるんだ瞳で彼女を見つめ返した。

(まだ足りぬのだな)

彼の頭を手で包み人虎が再び唇を合わせる。
少年の半開きになった口に舌を差し入れ、歯の周りを肉厚の下で汚れをこそぎとるように舐めまわす。
そして、少年の唇にぴったりと自分の唇を重ねると、人虎が唾液を彼に送った。
一度口を離すと少年は喉をならして唾液を飲み込み、ひな鳥のごとく口を開ける。
人虎は唇を合わせ、彼のちいさな舌に吸い付き、口淫をするように顔を前後に動かす。
彼の舌から唾液を吸い出し、それを味わう。

「んぐ….うむ、悪くない。私の舌も吸ってくれないか」

人虎が舌を突き出してみせると、少年は彼女の舌をぱくっとくわえて人虎のまねをした。
小さな舌で懸命に人虎の舌に吸い付き、唾液を嚥下する。
一度離れた彼の口に追いすがるように人虎が彼の唇に執拗に口付けをした。
何度も何度も唇を合わせ、唇の周りにも口付けをする。
少年の唇はふやけ、赤みを増した。

人虎が唇をそっと引くと、少年は夢見ごこちで視線を天井に注いでいた。

(満足したようだな)

少年はそれ以上人虎を求めず、だんだんと瞼を下ろし眠りについた。
その様子を人虎は静かに見守った。





終始冷静であり続けていた人虎であったが、彼女の中にも行為の最中に昂りのようなものが感じられていた。
だが、彼女は少年に対して抱いているのは、あくまで母性のようなものなのだろうと自分を納得させていた。
少年と淫らな行為に耽るのも、彼の求めに応じるためであり、彼にまぐわいを許していないのがその証拠であると考えていた。
しかし、彼女が考える母性と情欲との境目は実際にはあいまいになりつつあり、彼女も行為の後の体に感じる火照りを無視できないようになっていた。

(少しばかり動いたから体が火照ってしまった)

人虎は自分の体を水で濡らした手ぬぐいで拭き、水を飲む。
そして、少年の体の汚れをそっと拭い、彼の体を見た。
少年の体には火傷の痕が広がっていた。
人虎が机から軟膏を取り出し、赤く変色した箇所に塗る。
少年のために人虎が調合した軟膏である。

「(少しは薄れたようだな)」

赤い痕を観察し軟膏を机に戻す。
少年の体に布団をかけると、人虎は家に蓄えられた食料を確認した。

「(肉がもうないな….狩りに行かねば)」

人虎が道具を用意し、戸を開ける。
小屋を出る前に眠る少年を見て静かにつぶやいた。

「すぐに戻るからな」



人虎は小屋を出て夜空を見上げた。
満月の月明りが夜の森を照らす。

「(あの子と出会ったのも満月だったな)」

人虎は彼との出会いを思い出す。





 月夜に人の匂いを感じ、人虎が森を探索するとぼろぼろの着物をまとい、生気のない眼で茫然と歩いている少年を見つけた。
はだけた着物の間から生々しい火傷の痕が見える。
体はやせ細り骨が浮き出ていた。

『おい、お前。一体ここで何をしている?親はどこだ?』

人虎の存在に気づいていなかった少年は彼女の声に体をびくつかせ、人虎を見ると震えあがった。

『ひ、ひ、ひ….』

『おびえているのか?取って食ったりはしない』

『ひと…ひとくいとら』

『なんだって?』

『た、た、た…食べないで』

少年は震える手を前に出し人虎を見ないようにした。

『食べたりしない。食べるものか』

少年をなだめるように人虎は静かに答えた。

『腹が減っているんじゃないか?これを食べてみないか?』

人虎は携帯していた猪の干し肉を取り出し、少年に差し出した。
少年はおびえていたが、極度の空腹状態であり恐怖よりも食欲が勝った。
干し肉を手に取り口にする。
懸命に噛むが噛み切ることが出来ず、飲み込みには大きすぎた。

『んん,,,,か、かたい』

『すまない、子供には固すぎたな。口から出してくれ』

人虎が少年の口元へ手を差し出す。
少年は人虎の手と彼女の顔を交互に見つめていたが、口から干し肉を出した。

『柔らかくするからな』

人虎が干し肉を口に入れ噛んだ。
じっくりと咀嚼すると不意に少年の後頭部に手を伸ばす。
少年は驚き声を上げようとするが、その前に人虎の口が彼の口をふさいだ。

『んん、ちゅぷ…ふぅ。さあ食べてみるんだ』

人虎が口移しで柔らかく噛み切った干し肉を少年に与えた。
少年は起きたことに理解が追い付いていなかったが、反射的に口に含まれたものを飲み込んだ。

『ん、んん、んぐ』

『どうだ、うまいか?』

『う、うん』

少年はおずおずと答えた。

『まだそれだけでは足りないだろう。一緒に行こう、もっと食わしてやれるぞ』

人虎が少し歩き、少年の方を振り返る。
少年は何か考えているようだったが、黙ってついてきた。

『(いきさつはわからないが、見過ごすわけにはいかないな)』

2人は月夜に照らされた山道を歩いて行った。





 二人の住む山のふもとに小さな集落があった。
遠く離れた都市との交流もないその集落は、古くからの因習に縛られていた。
集落の者は皆、山を畏れ深く立ち入ろうとはしなかった。

“山には人喰い虎が住んでいる”

その言い伝えが彼らの中で脈々と言い継がれてきた。
人々は人喰い虎を忌み嫌っていた。
だが、この伝承が人知れず二人の住処を何者にも侵されない聖域にしていた。
山は人が立ち入らない未開の地であり続けたのである。

そして、そこに住む二人の存在を知る者もまた誰一人いなかった。





人虎が獲物を求めて手掛かりを探す。
人虎は武道の達人であり優秀な狩人でもある。
だが、少年を保護してからは彼女の狩りは大きな制約を受けることになった。
少年の身に危険が迫っていないか、人虎は常に神経を小屋の方へ集中させなければならなかった。
そのため、小屋からは大きく離れることが出来ず、思い通りの狩りが出来ずにいた。
人虎の生活の中心は少年になっていた。

(今夜は何か取らなければ….木の実や山菜だけではあの子の腹は満たしてやれない。
それに肉も食わせないとあの子を強くできない)

人虎の頭の中には常に少年のことがあった。
人虎は少年への想いを抱き、夜の森に消えていった。


22/06/19 15:01更新 / 犬派

■作者メッセージ
読んでいただきありがとうございます。
クールだけど優しい人虎さんが好きです!

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