連載小説
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第二章
「・・・すまねぇな、カッコよくキメたつもりが、追い出されるハメになるとは・・・」
宿の一室で、マルギットがニコラに言った。
教会前の一件が、すぐ近く、この宿の主人にも見られていたらしい。
当たり前といえば当たり前だったが。
それで、くすぶる火種を囲っておくわけにはいかないと、宿代免除と引き換えに追い出されることになってしまった。
「ちっとばかし歩くことになるが、大丈夫か?」
ベッドに座っていたニコラに声をかける。
鼻血は既に止まり、簡単だが腫れた頬には湿布を充てておいた。
その不格好な顔を、小さく縦に振り、言った。
「だ、だいじょう、ぶ。えと、あの・・・」
「・・・あぁ、そういや言ってなかったか。アタシはマルギットだ」
「う、うん。えっと・・・マルちゃん?」
ずっこけた。
たぶん体格差で下の年齢に見られたのだろう。
「その呼び方はやめろ!アタシはこれでもにじゅ・・・
 いや、お前より遥かに年上なんだよ!」
三十路突破カウントダウンの事実を伝えるのは避けておいた。
「あ、ご、ごめん、えっと・・・マル、姉ちゃん」
「・・・もういいよ、それで」
大きなため息をつき、ニコラに訊いた。
「今更だが・・・良かったのか?アタシに付いてきて」
「うん、その・・・まもって、くれたから」
もじもじとしながら、言うニコラ。
「・・・何があったんだ?」
「うん、お母さんが、魔物になっちゃって・・・お父さんも・・・
 毎日、その、あの、して・・・そしたら、教団の人が・・・」
たどたどしく、細切れの糸のような言葉。
要領を得ないが、しばらく彼が、人間不信になっていたのだけは判った。
長い間、誰かと話さないと言葉を忘れると言う。
これもそうなのか、だとしたら、誰にも心を開かず、ずっと過していたのか。
それを考えただけでも、怒りが再燃しそうだった。
「教会のお祓いは、縛り付けられて、ね、ずっと・・・」
「いや、もう、いい」
荷物整理をしていた手を止め、ベッドによじ上る。
やっと目線の高さになったニコラの頭を、少し背伸びしながら撫でてやる。
「もう大丈夫だ。アタシらの集落には、お前をいじめるヤツはいないよ」
「・・・う」
ニコラの眼の端に、水滴が溜まる。
流れ落ちるまで、時間はかからなかった。
ニコラの大きな頭を、小さな腕で抱え込み。
マルギットは、溢れ出る雫を胸で受け止めてやった。

ニコラのための生活用品をいくつか買いそろえ、昼食を取り、夜用の保存食やランプを買ったところで、街を出た。
宿が使えなくなった今、どうしても野宿は避けられないと悟っての準備だった。
「いきなり野宿旅になっちまったな・・・ほんと、すまない」
「ううん、大丈夫」
買ったばかりの着替えなどを詰めたリュックを背負い、ニコラが言った。
「ね、行こう」
「あ、あぁ」
積極的な態度を初めて見せ、ニコラが笑った、気がした。

街道を半分ほど過ぎた辺りで、辺りはすっかり暗くなり、月明かりだけがうすぼんやりと、道を照らしていた。
「あの木の陰でいいか。もう休もう」
「・・・うん」
青息吐息といった感じで、消え入りそうな返事を聞いた。
ドワーフの体力ならば夜通し歩き続けても平気なのだが、やはり普通の人間にはきついものだったらしい。
無茶させすぎたな、と反省する反面。
それでも、一言も音を上げなかったのは、なかなか見上げた根性ではないか。
それには、感心していた。
ランプに火を入れ、周囲から乾いた枝を集める。
それを組み、火を点ける。
ぱちぱちと小さく爆ぜる音を聞きながら、干し肉や干しぶどうとお茶の、簡素な夕食を摂った。
毛布は持ち歩きに不便だったので、先ほど買った着替え数枚を重ね着することで、毛布代わりとした。
「マル姉ちゃん・・・だぼだぼだね」
マルギットの着たニコラの上着は、袖に手が完全に隠れ、ロングスカートさながらの長さが余っていた。
「・・・ちっ、明日も早いからさっさと寝るぞ!」
なんとか腕まくりをして、順に燃えて長持ちするよう、火のそばに枝を組んだ。
ニコラは既に横になり、たき火を挟む形でマルギットと向かい合った。
「マル姉ちゃん・・・ありがとう。連れて来て、くれて」
「へっ、今更か」
横になりながら、マルギットが言う。
「えっ、あ、ごめん」
「いいさ。次からは、その場で言うこと。ドワーフはそんな気長じゃないのさ」
「うん、わかった」
「ん。じゃあ、明日も早いからさっさと寝よう」
「うん。おやすみ」
「おう、おやすみ」
たき火に背を向けるニコラを確認し、自身も星空を見上げるマルギット。
これでよかったのだろうか。
その考えが過る。
その場の勢いであんな事をしてしまったが、本当は、ニコラの人生を決めてしまったのは、自分ではないのか。
選択肢を与えるつもりで、強引に連れ出したのは自分ではないのか。
それは彼にとっての幸運となり得たのか。
それは彼にドワーフの価値感を押し付けただけになったのではないか。
そんな小さなもやもやが、いつまでも残っていた。
ふと、ニコラを見る。
小さく震えてるように見えた。
「・・・どうした、ニコラ」
不安になり声をかけると、びくりと反応した。
「な、なんでもない!なんでもないから!」
「なんでもないわけあるか、どうした、寒いか?」
近づき、顔を見る。
真っ赤になっていた。
やはり風邪かなにかか、と、思ったが。
次に視線に映ったもの。
それは、自身の一物を握った手。
「・・・・・」
「・・・・・」
時が、止まった。
「・・・えと、これは、その、あの」
考えてみれば、当たり前だった。
両親共々魔力に溺れ、その間で生活してきたのだ。
場合によっては、母親に襲われていてもおかしくはない。
シスターが言っていた、魔を宿しているというのも、嘘ではない。
抑えきれない欲を、人知れず発散させようとしていただけなのだ。
「はぁ。脅かすなよ・・・」
気が抜けた。
と同時に。
冷静になった思考は、哀れみを滲ませた。
年端もいかないような少年が、劣情を抱えて生きているのだ。
劣情自体が悪いものだとは、既に魔力を大量に抱えてしまったドワーフの自分が言えたことではないが。
心が未熟なままで、ただ欲だけが深くなるその歪さが。
歪んでしまったその存在が。
哀れに思えてしまった。
「しょーがない。ちょっと、座れ」
恐らく、痴態を見られて真っ白になっているだろうニコラを、そう促す。
驚きで感情の消えたような表情のまま、脚を伸ばし座るニコラ。
「大丈夫だ。これからは、アタシがいろいろ面倒見てやるからな」
「・・・えっ」
歪な心かもしれないが。
連れ出したことにお礼を言ってくれた。
見間違いかもしれないが、笑顔を見せてくれた。
こんな子供みたいな女を、頼ってきてくれた。
それを思うと、ことり、と、胸に温かいものが落ちた気がした。
「こんなナリでもな、『こっち』は得意なんだぜ?」
ニコラが伸ばした脚の上に座り、その顔を覗き込みながら言い。
あどけない顔と違い、醜悪なまでに大きいそれを掴んだ。
「ひゃっ!・・・えっ、えっ?」
自分が何をされているか、まだ判っていない様子のニコラ。
既に熱く張ったそれを、小さな指がしごき上げる。
「やっ、あの、ちょっ、あっ」
その動きに合わせ、ニコラが声を上げる。
根元から、裏筋を、親指の腹で優しく刺激しながら。
「やっ、そこ、コリコリしちゃ、ダメ、やめ、て、マル姉、ちゃん・・・」
じわり、と、先端から汁が滲み出す。
ニコラの顔を見るマルギット。
股間から伝わる刺激に耐えるように、仰け反り、己の痴態を見ないようにか、強く眼を瞑っていた。
その様子を見て、胸にさらに温かな感情が広がる。
まさか、こんなちんちくりんに恋愛感情を?
一瞬そう思ったが。
否定する。
先端の粘る汁を手のにらに取り、くちゃくちゃと肉棒にすり込んでやる。
潤滑液を得てさらに早まる刺激に、ニコラの吐息がさらに荒くなる。
「ダメ、ね、え、ちゃ、我慢、でき、な」
その様子を、見ながら。
「かわいい」と思いながら。
「我慢しなくていいぞ。ほら、スッキリしちまえ」
これはきっと、母性なんだと。
世話してやりたいんだと。
そう考えていた。
「や、ね、ねえ、ちゃん」
びくりびくりと、小さな手の中で、大きくなったそれが脈動する。
表面に張り巡らされた血管から、ニコラの鼓動の高鳴りが伝わる。
「ほら、こういうのも好きだろ?」
空いていた手で、粘液を滴らせる鈴口の先を刺激する。
「うっ、ん、はぁ!」
恩人の前で果てるわけにはいかないと思っているのか、もはや責め苦であるかのような表情のニコラ。
くちゅり、くちゅり。
男のそれとは思えないほどに、濡れに濡れた棒に、さらに刺激を加えいく。
マルギット本人すら、なぜそれを知っているのか、判らないほど的確に。
「我慢しなくていいってば。ほれ、ほれ」
棒と先端の境目、カリの下を、小さな指が這う。
同時に、棒伝いに下へと降りた手が、陰嚢の中身を転がし始める。
「あ、はっ、はっ、やめ、ねえちゃ、もう、げんかい・・・」
びくんびくんびくん。
下半身からも、限界の通知が届く。
「それ、イっちまえ」
トドメとばかりに、きゅう、と、陰嚢が握られる。
そこから絞り出されるように。
「ん、あ、は、あああぁあああ!!」
ビクビクビク。
一際大きく男根が跳ね。
熱い白濁が吐き出される。
それはニコラの脚を汚し。
そこに座っているマルギットの顔を汚していく。
ビクビクビク。
辺りに栗の花の香りが満ちる。
「んっ、はぁ・・・」
それを嗅いだマルギットが、恍惚の表情を浮かべる。
「あぁ、雄の匂い・・・たまらないな」
小さくつぶやいたところで、大きくかぶりを振る。
違う、自分はニコラの世話をしただけだ。そういう対象にしたわけではない。
そう自分に言い聞かせ、流されそうになる自我をつなぎ止める。
「どうだ、スッキリしたか?」
平静を装い、いや、自身が平静を保つために、ニコラに声をかける。
「あ、は、マル、ねえちゃん・・・」
放心状態からやっと目が覚めたか、ニコラが応える。
ふらりと上体を倒すニコラ。
うつろな視線のまま。
マルギットを抱きしめた。
「あ、え、へ?」
力はあっても身体自体は見た目通り軽いドワーフ。小柄な少年にもひょいと抱き上げられる。
抱いていた手が、次第に背中から、下へ。
臀部をさすり、さらに股の間に伸びる。
「お、おい!ちょっと!」
その指が。
きゅっと、マルギットの花園を押し込む。
「ひゃぅ!」
突然のことに、小さな悲鳴が上がる。
秘部をさぐる指は、止まるどころかさらに強く、早くなる。
それを求めるように。
「おい、こ、こら、やめっ、ひゃん、やめ、ろ」
今なお満ちる精の香りと、敏感な部分を求められる刺激に、マルギットの意識が跳びそうになる。
かろうじて残る部分が静止の言葉を絞り出すが、止まる気配はない。
「ねえちゃん・・・ねえちゃん・・・」
うわごとのように繰り返される言葉を聞きながら。
あ、ダメだこいつプッツンしてやがる。
そう分析した。
「おい!しっかりしろ!やめろっての!」
「ね、え、ちゃん・・・」
マルギットの股間に、太いものの先端が当たる。
「ひっ!?」
まだ服がそのままなので布越しではあったが、はっきりとわかるそれに声を上げる。
犯される。
冷静な部分が、そう答えを出す。
それでもいいか。
このまま流されても。
いいか。
いい。
・・・いいや。
いいわけない。
面倒を見てやると決めたのだ。
ならば、止めねばなるまい。
矯正してやらなねばなるまい。
その心を。
「・・・ん、の、やめろっての」
ニコラの冷静な部分に問いかけようとする。
なおもグリグリと当てられる先端が、それを否定する。
次第に、マルギットの短気さが、快感を押しのけて暴発する。
「やめろっつってんだよこのプッツン野郎が!!」
ゴン。
手が出た。
持ち上げられ、程よい場所にあったニコラの頭頂部に、マルギットの拳が炸裂した。
「・・・ぃっ、たーーーーい!!」
マルギットの身体が、その手から解放される。
「え、あ、な、僕は、なに、を」
涙目になりながら、自分が何をしていたのかを確認するニコラ。
その視線の先には、鼻息を荒くするマルギット。
「あの、もしかして、その」
「さっさと寝ろ!」
「ご、ごめんなさい!」

翌朝、当然ながら気まずい雰囲気での朝食となった。
朝のおはようと、出発前の行くぞ、以外に、お互いに言葉が出なかった。
街道をひた進む。
強く当たりすぎたと思うマルギットと。
自身の痴態に言葉が出ないニコラ。
思わず手を出してしまった自分への怒りで、八つ当たりのように地面を踏みしめながら歩くマルギット。
それを、強姦じみた真似への怒りだと思ってしまうニコラ。
静寂が、やりすぎだ、と責めているように感じるマルギット。
言葉で通じ合えない二人は、ただ歩き続けた。
そして半日ほど過ぎたころ、やっと集落へと戻ってきた。
「あれ、ずいぶん早い帰りじゃないか?」
カウンターにいたドワーフ、デボラが言った。
「あぁ、ちょっとな」
「なんだい、もう男引っ掛けてきた、の・・・」
からかいの言葉のつもりだったのだろうが、後ろから付いてきたニコラの姿を見て、それが途切れる。
「・・・いやいやいやいや!ちょっと!
 仕事一辺倒のアンタが男連れてきたのも驚きだけど、
 アレはちょっと若過ぎじゃないか!?」
「うるせぇ!こっちにも事情があるんだよ!
 おいニコラ!」
急に呼ばれ、ビクッと身体を縮こまらせるニコラ。
「ちょっとそこにいろ!」
言うが早いか、マルギットは自分の荷物を放り出し、近くの素材の入った箱から銀のチェーンと銀の小さな板、小さな宝石を一つ取り出し、作業台へと向かい、おもむろに作業を始めた。
呆気にとられるデボラとニコラ。
互いに顔を合わせ、あ、どうも、とだけ挨拶し、なお作業を続けるマルギットを見る。
かんかんかんかんかん。
さも、今だ覚めやらぬ怒りをぶつけるように、猛烈な早さでハンマーが振られる。
それが二十分ほど続いただろうか。
「・・・うし、完璧」
作業終了の言葉を発し、マルギットが戻ってきた。
「ほれ、腕出せ」
マルギットが持っていたそれは、アクセサリーだった。
ゆるやかなカーブのついた銀のプレートの両端に穴が開けられ、その下をチェーンが通る形になっていた。
プレート中央には小さな宝石がはめられ、その周囲には恐らく東国のものだろう、よくわからない文字が掘られていた。
ニコラが腕を出すと、それにチェーンが巻かれ、あっという間に閉じられ、継ぎ目のない輪になった。
「サイズも丁度いいな。きつかったりしたら言え。二分とかからず直してやるよ」
「あの、これは・・・」
突然のことに戸惑うニコラが訊く。
「東の国のまじないの文字で、退魔の効果があるらしい。詳しくは知らん」
ニコラが手首を持ち上げ、しげしげと眺める。
ちゃらりと音が鳴り、邪魔にならない程度に下がる。
「いつまでも、あ、あんなんだと、困るだろ?
 アタシらも少なからず魔力を出してるからな」
顔を赤くしながら、マルギットが言った。
「あ、ありが、とう・・・」
「これから一緒に暮らすんだから、あ、あんなことになられたら困るからな」
それは、ニコラに対するものだったのか。
それとも、一時でも、欲への抑えが効かなかった自分への枷だったのか。
当のマルギットすら、よく判っていなかった。
ただきょとんとしていたデボラを尻目に、二人はマルギットの家へと向かった。
15/10/17 17:27更新 / cover-d
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■作者メッセージ
文章書きさんはWord使用の人も結構いらっしゃるようですが、私はメモ帳派です。
軽いやん?
Wordさんみたいに余計な仕事しないからまるコピでもOSとかフォントから不満言われないやん?
今まで章分けしなかった理由って、文字カウント機能がないから区切りどころが判らないってのが一番の理由。

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