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素直になれない単眼娘
「はぁ…」

ため息が一つ。
有名な詩に似せるならば、ため息を着いても一人。
いや、独り。

行動の主、凶螺は憂鬱だった。

「あたしばっかり…なんでよ。」

自信がなかった。
と、いうのも。

同僚が結婚するというのだ。
あの時の嬉しそうな顔ときたら。

「あたしだって嬉しいわよ!でも!」

自分の心配もあるし、素直に喜べない!

別にスタイルが悪いわけではない。
声や性格が悪いわけでもない。
何か難のある癖があるわけでもない。

「でも…これじゃあ、ねぇ。」

寂しく笑い自分の顔を少し触れば目を閉じるしかない。


大きな大きな一つ目。


彼女、美東 凶螺(みとう きょうら)の顔には眼が一つしかなかった。
大きく、綺麗な瞳だが彼女はコンプレックスに感じている。

「こんなの、誰が受け入れてくれるって言うのよ…」

凶螺はゲイザーという魔物娘。
種族全体の特徴として強大な魔力を持ち、それを駆使して強力な暗示をかけ男を拐す。

しかし、凶螺はそれが不思議でならなかった。

「私自身を好きになって欲しいの…」

暗示などで捕まえた相手などと育むのは本当の愛なのだろうか。
もちろん、ゲイザーという種族はそれを成し遂げてきたため繁栄したのだ。

確かに、最後にはホンモノになるかもしれない。しかしてそれは逆に言えば最初は嘘っぱちの愛であるということ。
クサい事を言っている自覚はある。それ故に誰にもいえず、また自信もなかった。

「もう…なんなのよ…」

アタシが悪いの!?

誰に対する問いかけでもない。だからすれ違う人々が答えるわけでもない。
魔物娘が現代に定着したこんにち、一々振り返られることもないのだが。

「はぁ…」

こうして凶螺はいつもため息をつくのだ。


…ドロリ


そんな雰囲気の男とすれ違った。

「なによ、アレ…」

数秒動かず待ってから後ろを振り返る。

あいつ、何かとんでもないことしでかそうとしてる。

ゲイザーという種族は非常魔力が強い。だからこそ、他人の不可視なエネルギーが視えるのである。
先の人間は確実に人を、モノを傷つけるエネルギーを帯びていた。

何が目的なのか、エモノは何なのか、自分一人で大丈夫なのか。

考えより先に体が動いていた。
まだ人混みの中だ。下手に動かせば一般人を傷つける事にしかならない。

しばらく尾行すれば薄暗い路地へと入っていった。
そこまでで分かったことは男の目的がはっきりとしていること。

迷わずに人の合間を抜け当たり前のように人のいない路地へと向かうところから想像できた。

「だから…ぶさけ…ぜったいころ…」

ブツブツと何かを言っているのも聞こえている。
これは何か仕出かすことは確実だろう。

凶螺は強い。

しかしそれは制圧の強さであって個の強さではない。

非常に強い力を持っていることを自覚しているため中々踏み出せなかった。
が突然それはやってくる。

パキッ

何を踏んだのかも分からないがとにかく自分の存在を周りの者に伝えてしまう、そんなミス。

「誰だ!!」

気づかれた。マズい。

「こ、ここどこですか〜?酔っちゃって〜」

精一杯誤魔化そうとするがそんな事が聞くような相手ならここまで慎重に動いていない。

「ぶっ殺してやる!!」

トンファーを取り出した。なんとも珍しい武器だが全く問題はない。

「はぁ、もう!何でこうなるのよ!」



“動くな!!”



「!?」

急に男は動かなくなった。
立ったまま、構えをしている。いつでも凶螺に左フックが飛んでくるようなポーズ。

「…バカじゃないの。」

極力使わないだけ。
とにかく最強クラスの魔物娘だ。

「おい!このアバズレ!離しやがれクソビッチ!」

「…はぁ」


“黙りなさい”


「〜〜〜!!」

いきなり黙る男。つまり暗示は絶対なのだ。人間ごときでは自力で説くことがほぼ不可能である。

警察へ届け出るためスマホを取り出した。

なんで、私の出会いはこんなのばかりなのよ。
私の事を好きになってくれる男の人。それだけでいいのに…。

はぁ、と本日何回目かのため息でどうしようも無くなってくる。

だいたい誰がクソビッチよ。まだ処女だっての。

イライラが募る。
スマホのメッセージアプリに新着が来ており、既に目の前の男など興味のない。

『帰ったら料理を作ってくれてた…』

旦那が♪


「なんなよぉぉ!」

もう!あったまにくる!
わざとなのかしら?なんてタイミングが悪いの…。


その一瞬


一瞬の気の緩みが招いたもの。
暗示が弱まったのだ。

「うぉらぁぁあ!!!」

振り返れば男動き始めており、驚いた凶螺はしりもちをついた。

「しまっ…」

男が怒声を上げながら殴りかかってくる。それは認識できているが。

混乱している凶螺はなんという暗示を掛ければいいかも思い浮かばずに固まってしまった。

殺される…!

しかし、それは間違いだった。

「やめろぉぉぉぉ!!!」

凶螺の後ろから男が飛び出し、トンファーを避けながらタックルをかました。

これたま突然のことで一切反応できていない凶螺がハッと我に返る頃には数人の男が追加で取り押さえに入っていた。

「抵抗するな!」

「やめろ!」

飛び交う怒号が数言。
やがてトンファーの男は観念したように動かなくなった。

今、死んでいたかもしれない。

それを思い出すと途端に具合が悪くなる。
そんな凶螺に言葉が投げかけられた。

「大丈夫ですか!?」

顔を上げればそこには、一番始めに飛びかかった男が立っていた。

「お怪我はあり…ますか?」

肩で息をしつつ手を差し伸べてくれた。
最大限の優しいトーンで話しかけてくれていることが分かる。

今一瞬の間があったことを凶螺は気づかない。

「は、はい」

質問になんとか答えつつ、その手を取って立ち上がる。だが男は手を離してくれない。

「ありがとうございます…どうかされましたか?」

「はっ!すみません!」

呆けていた所から一変、ハキハキと話し始めた。

「このような伺い方も可笑しいのですがここで何があったのでしょうか?」

丁寧な言葉遣いで尋ねてきた男に軽く経緯を説明する。

何かまずそうなことが起きそうで何も考えずにここまで来てしまったことを。

「申し訳ありませんでした!!!!」

急に謝られた。
何がなんだが分からない凶螺は素直に反応する

「な、何がですか?」

男の話を要約すれば、警察機関に所属しておりトンファーの男を危険人物として監視していたそうだ。
しかし、今日の尾行が巻かれてしまい捜索網を張って情報を掴んだ頃には凶螺が接触してしまっていた。

現場に一番近かった自分がどうにか駆けつけ今に至ると。

「怖い思いをさせてしまいました…」

非常に、この上なく申し訳わけ無さそうに頭を下げてくる。

「い、いえ。大事に至らなくて良かったです。」

「既に大事です…一般の方に危害が加わってしまったのですから。それにしてもゲイザーさんの種族はお強いんですね。」

あいつ、いくつもの格闘技をマスターしていて精神修行も行ってるため催眠や尋問も利かない要注意人物でして。

迫力だけでも一般の方には恐ろしいものかと思います。

男から向けられる羨望の眼差し。
素直な賞賛の言葉にむず痒くなる凶螺。もちろん謙遜を述べておく。

「そんな事は…」

俯く彼女の襟。
よく見れば小さなバッチが光っていた。

「あっ!MMPの方でしたか!」


【MMP】


株式会社魔物娘protect。
凶螺の所属する警備会社の名前だが単なる警備ではない。

所属するエージェントすべてが魔物娘であり大小の企業からはもちろん、公的にも信頼される企業だ。

そこのエージェントは何かしらのスペシャリストで凶螺も制圧のそれだった。

「ま、まぁ、本当に所属しているだけですから。」

「ご謙遜を!とんだ失礼をしてしまいました!MMPの方であれば私などの力が無くとも…」

男がなぜか嬉しそうに話していれば、後から別の若い男が声をかけていた。

「赤咲さん!署へ連行します!そちらの方にもご同行を!」

「せきざ」と呼ばれた男はハキハキと話す。

「この方はMMPに所属されている。ここまでの経緯も説明頂いたし、“今日は”このままお返ししろ!」

「承知しました!」

了解の旨を伝え若い男は奥へと駆けていった。

「それでは!ご協力ありがとうございました!」

「待って下さい。」

立ち去ろうとする赤咲を呼び止めどこからともなく出したハンカチを頬へと当てる。

「血が…」

何とはないかすり傷だが、応急処置的に当て布をした。

「あっ、りがとうございます…」

何故か赤くなり、目をそらす赤咲。

凶螺は内心、気持ち悪がられたかと思うが今は関係のないことだ。

「もしだったら使ってください。」

ハンカチを半ば強引に押しつけ回れ右をしてそのまま行ってしまった。

「MMPのゲイザーさん…」

名前もしらない彼女だが、何気ない優しさに触れ赤咲は何かを感じていた。


ーーーーー☆ーーーーー


今日は午後出勤。

というもの、依頼量は凄いが所属が魔物娘ということで伴侶との時間を裂くことは絶対にできない。

その為ゆとりのあるスケジュールで仕事をこなすことが可能で、特に案件がない場合はその先の案件の計画を立て、見直すことが業務となる。

案件毎にチームが編成され、現在の案件で同じチームメンバーが午前は夫との時間を取りたいとして今日は午後出勤。

「はぁ…」

いつもなら出勤時に、嫉妬からため息を吐くのがお約束になってしまっていたが今回ばかりは違った。

昨日の件。

自分は腕力には自信がない。
案件の中でも武装系の目標や暴徒化した団体を暗示によって鎮圧するのが主な役割となる凶螺は昨日のことでそれすら自信を喪失していた。



このまま仲間と仕事をしていいのだろうか?
 


スペックが高い連中と組んでいるためいつも忘れがちだが死ぬときは死ぬ仕事。
そこで人為的な穴を作るのは最悪の行為だ。

今度は仕事中に暗示がうまく使えなかったら…。

「はぁ…どうしよ。」

そう考えるだけでため息が止まらなかった。

今度社長に話してみようかな…。

などと考えている間に会社のあるビル、その階に着いてしまっていた。

「お疲れ様でーす。」

「おっす凶螺、聞いたぞ!」

「凄いじゃない!」

軽く挨拶をしつつ、大きめのミーティングルームに入れば人だかりが、正確には魔物娘、出来ていた。
そして第一声でよく分からない言葉をかけられる。

「いきなり何よ。」

「何って、お客さんが来てるぞ」

魔物娘が集っていたモノが散ればそこには見た顔が。

「美東さん!昨日はありがとうございました!」

「…赤咲さん。どうしたんですか?」

何事かとは思ったが、そこまで驚かない。
正確には驚いているが、ここにいる意味への引っかかりが強かった。

「あっ、いえ。ご迷惑なのは承知で参りました!」

鞄から大きめの封筒が出てくる。中身を取り出し言葉とともに凶螺へと差し出した。

「改めて私は赤咲睦飛、公安の者です!昨日は凶悪犯捕獲のお力添え、本当に助かりました。ここにお礼を申し上げます!」

赤咲、いや睦飛(もくと)は爛々と輝く目を凶螺へと向けている。

「…どうも」

冷たい対応ではあるが凶螺は人見知りをするため仕様のないこと。
そして睦飛はそんな事を気にしない。

「それでよぉ。」

ニヤニヤしながらヘルハウンドが口火を切る。それと同時に他の連中も口を出し始めた。

「ねぇ、凶螺。キミ、今日は休みで良いと思うよ。」

続くダンピールが意味の分からないことを唱える。

「はっ?何言ってんのよ」

「アタシだったら素直に言うこと聞くなぁ☆」

「そうだネー♪」

ファミリアがいたずらに笑い、レンシュンマオが同意を促す。

「皆、何言って…」

「美東さん、これ。」

また男の方へ向き直り手元を見れば、そこにはうっすらと赤い斑点のあるハンカチ。

「懸命に洗ったんですが…落ちなくて。」

“もしよかったら、昨日のお礼も含めて今夜にでも食事に行きませんか?”

「おいおい!今からで良いって言ってんだろ!」

「そうよ!」

何かと思えば。
凶螺より一足早く会社に出向いていた睦飛はアプローチの仕方を他の者を伝えていたみたいだ。

「ちなみに、うちが社長からのボイスメッセージを受けてるわ」

グレムリンがスマホを翳せば豪快な声が聞こえてくる。

『マジか!!?遂に凶螺にも春が来たか!!そりゃ良かった良かった。行ってこい行ってこい!有給はいくらでも取れ!!』

「と、言うわけや。」

言うわけや、じゃない。
凶螺の本心は突っ込んでいた。

第一お礼なんて、そんな何時でも良いこと何で皆押してくるわけ。意味分かんない。

「美東さん!」

「…はい?」

今度は何だと怠そうに見れば。
睦飛の目は真剣そのもの。何が始まるのかと少し憂鬱を感じ始めていた凶螺。


それは突然だった。




「美東さん、いえ、凶螺さん!!僕とつき合って下さい!!!」




「…そう」



えっ?



睦飛以外満場一致の反応だ。

「ちょ、えっ?なんて?」

「僕と」

「聞こえたわよ!」

何?えっ?どうゆうこと?
菟弥(うや)も茜華(せんか)も多誉(たよ)も、他の皆聞いてたんじゃないの?

グレムリンもヘルハウンドもレンシュンマオも皆等しくポカンとしていた。

「だ、駄目でしょうか!?」

眉だけは困った風になっている男が再度答えを求めた。

「突然言われても…」

「一目惚れだったんです!」

「いや、にしても…」

凶螺は願ったり叶ったりなのは間違いない。
しかし、相手のことが分からなすぎるし自分のこともわかって貰ってない。

考えるのに疲れてきた。

「分かった、分かったわ。」

とりあえず外に出て、冷静にお話ししましょう。


ーーーーー☆ーーーーー

ヒューヒュー!!
やっとネ!凶螺良かったネ!!!
フフッ…良いことだ、うん、本当に。
なんや、これ茜華に続いて凶螺もかぁー?ズルい!うちも彼氏ほしい!

「み、美東さん怒ってますか?」

「そういう訳ではないんですけど…」

友人でもある同僚、先輩、後輩の声を耳から消そうと懸命になっていると話しかけられた。

さて、どこから話したものか。正直凶螺には分からなかった。

一目惚れする余裕なんて本当にあったのか?
どこに惚れたのか。
つき合うって何をすればいいのか。



私はこの人を好きになれるのか。

 
いや、その前にまずわたしはこの人のこと何も知らないわ。

「赤咲さん…」

「あっ、敬語は結構ですよ。僕の方が年下ですし、経験も美東さんには及びませんから。」

「そ、そう。」

うーん…どうしよう。
何を話せば。

「僕、可笑しいですよね。」

「…?」

「こんな事一回も無いんですよ。」

こんな事、つまり告白だ。
自分より背の高い、年下の男は存外小さく見えた。

「私も…されたの初めてよ。」

「そ、そうなんですか!?」

「何よ、なんか驚くことある?」

「そんなにお綺麗なら当然だと思いました。正直今日もおつき合いしていて断られるかと。」

男を見れば素直に嬉しそうだ。

「そんなの私でもお世辞って分かるわ。」

逆に素直になれないゲイザー。

「滅相もないです。」

いたって真面目な顔をしている隣の男。
凶螺も仕方なしと別の手段をとる。あまり使いたくはないのだが。

だって、悪い男に騙されたくないもの…。

その顔に映える一つの大きな目に魔力を込めると睦飛を一瞥する。
エネルギーはこれといった法則に則っているわけではないが長年見ていればその時の感情を読み取ることくらいは可能である。

「…えっ?」

何か下心がある者のエネルギーは背景の色に関係なく黒い斑点が見える。

睦飛のエネルギーに一切のそれが見えない。それどころか。

「どうかしましたか?」

「う、ううん。何でもない。」

なにこれ?初めて見た…。


まっさら。


単なる白ではない。
全くの汚れがない。
これから何を、いくらでも受け入れることができる。

そんな様に読み取れた。

「凶螺さん?」

「あっ、ごめん。聞いてなかった。えーと、何んだっけ?」

よく分からない。
この人、赤咲睦飛は少なくとも成人して数年は立っているはずだ。
そうでなくとも赤ん坊やそれに近い年齢の者以外でこんな風に見えるエネルギーの持ち主は初めてだった。

「これからハンカチのお詫びに新しいのを買いに行きませんか?」

全く気にしていなかったところからの提案だった。
乗ればそこから色々な事に発展すると分かっているが

「いいわよ、別に。大した物じゃなかったし。」

「そ、そうですか。」

なんでこの人、こんなに沈んでるの?

意味が分からないがとりあえず会話が終了してしまった。

「…帽子でも良い?」

「はい?」

「帽子でも良いなら欲しいなあ、なんて。」

自分でも結構烏滸がましいことを言ってるかと思っているが睦飛の顔がみるみる明るくなるのを見て間違いではなかったと胸をなで下ろす。

「勿論です!」

二つ返事で決定した。
お礼と言うこともあり場所は凶螺がリクエストした店へと向かう二人だった。


ーーーーー☆ーーーーー

ソフトハット。
無難だが、ワンポイントとしては存在感を放つ。

「良いですねぇ」

カンカン帽。
これからの季節にピッタリとくる。

「似合ってます!」

マリンキャップ。
少しボーイッシュだが、斜めに被れば女の子っぽさを際だたせる。

「最高ですよ…」


凶螺は感じる。
この男は何を被っても同じに見えているのか?

そんな疑問を持ってしまうがそれでも悪い気はしない。
一人ファッションショーで、しかも全てを肯定してくれる異性の観客がいるのだから。

「それで!その三つで良いですか!?」

「何で三つ買う気なのよ。」

素直に疑問だったが睦飛もはてなマークを浮かべている。

「そんなに似合うんですから良いじゃないですか!」

そう言うことではない。
突っ込む暇もなくレジへ向かう男に呆れ半分、予想外にリターンが来たので嬉しさが半分といったところだ。

そして何より。

意味わかんない。
なんであんなに嬉しそうにしてるのよ。

「〜♪」

支払いも滞りなく進み手を振って走らんばかりの勢いでこちらへと来る睦飛。

「もう…」

よく分からない感情を抑えつつ冷静に対処することにした。

「お待たせしました!」

「そんなに急がなくて良いわよ。」

フンとそっぽを向くような言い方だが睦飛は気にしない。

「すみません。それで凶螺さん、お願いがあるのですが…」

「何よ」

嫌そうにするが、別な叶えても良いと即決だった。
相手としてはお礼だそうだが自分としては単純に、なんか悪いなぁくらいには感じていたため願い事の一つでもして貰えれば対等になると、そう考えていた。

「靴も買わせて頂きたいのですが」


凶螺は…絶句。


ーーーーー☆ーーーーー


「そうですよね、流石にダメですよね。」

「ダメとかじゃなくて…」

結局のところ靴、服、アクセサリー、化粧品全て却下した。

なんで、残念そうにしているのこの男。

そろそろ問わなければならないだろう。


「てかさ、何で?」

「はい?」

わざと言葉足らずに問いかける。

「なんであたしなのよ。」

「?」

「いや、だから…本当は何があったのよ」

一目惚れなんて有り得ない。
何か、何か裏があるはず。
凶螺にはそれしか頭になかった。

「あー…いえ、えーと」

「何よ、何かあるなら言いなさいよ」

もどかしい。
結局またガッカリするくらいなら早く答え合わせをしてほしい。

「き、聞いてもらえますか?」

「早く言いなさいよ」

「実は…僕」

“弱視のような症状で最近まで殆ど視力が無かったんです”

「…えっ?」

何ソレ。
結構重大なことじゃない。それに、今なんの関係があるのよ。

「元々ではなく、ある捜査で神経ガスを浴びてしまって」

それが二年前。
でも自分は止められない。
自分で受けたその後遺症が民間の方に残るかと思ったら仕事を休んでいられなかった。

裏方気味の仕事を任せられることが多くなったが天性の感も効いてあの日までやってこれた。

「凶螺さんに…触れた瞬間」

前のように、視力が元に戻りました。

「そして、目の前に…その…天使がいました」

「…はぁ?」

静かに聞いていた凶螺も思わず間の抜けた声を出してしまった。

「す、すみません!すみません!至って真面目に言ってるのですが」

この男はなんなのか。
まさか、それを一目惚れと?
であるならば、だ。

これは吊り橋効果ににたような、つまり一時の感情の揺らぎではないか?

「あの日、凶螺さんと別れてからずっとモヤモヤしていて。もう気がついたら部長に表彰状を届けに行くと進言していました。」

「あたし…何もしてないわよ?」

これだけ一途に思われているのが申し訳なくなるがとりあえず真実を告げる。
しかし、帰ってく言葉のは断固たる意思のもと発せられていた。

「確かに、約二年ぶりに女性を見たかもしれめませんがそれは関係ありません。だって、視力が戻ったのことを喜ぶ暇もなく心に電撃が走りました…」

そんなことを言われても。

「もちろん、僕は凶螺さんのことをなにを分かりません。それでも!!!」

あのハンカチを差し伸べて下さった時の優しさは僕以外感じてません

「…」

意味わかんない。
自信満々なのはなんでよ。
私のことなにも知らないくせに。

「…」

どうしよう。
これを受け入れたとして私になにができる?

私のことを知ったら嫌いになるかもしれないじゃない。

でもそれで突き放してたら一生独り?

分からない、わからない、ワカラナイ。

…そうよ。

こうすれば良いじゃない。

少しの間黙っていたかと思えばゲイザーはニヤリとして口を開く。

“単眼を嫌悪しなさい”

凶螺は怖かった。
ずっと欲しいと思っていたものがいざ目の前に来たら嬉しいものだ。

しかし、それはすぐに壊れてしまうかもしれない。
そう思ったらこうせずにはいられなかった。
奇しくもそれは、通常のゲイザーと真逆であり根本は同じ行為。

本当に、嘘偽りがなく、私のことを好きになったのなら耐えられるはずよね?

「凶螺さん、付き合って下さい!!」

「ほらね、だから言ったじゃな…い…」

付き合って?

頭を下げている男の顔が見えない。
しかし、必死さが伺える後頭部だ。


今、確かに暗示はかけた。単眼を、私を嫌いになるように。

「ダ、ダメですか?」

「待ちなさいよ。あんた、私を見てなにも思わないの?」

憤りはどこへのものか。
語気が強くなるがそれに淡々と答える睦飛。

「例え、例えですよ?単眼を嫌いになったとしますが、それが何故凶螺さんに繋がるのですか?」

「私の、この目があなたには見えてないの!?」

私の種族の代名詞。
この顔の真ん中にある大きな、大きな瞳。

これを嫌悪して、私を好きでいるなど完全な矛盾ではないか。



「僕は凶螺さん自身に惚れたんであって、ゲイザーさんだから好きになったわけでは無いです。単眼もひっくるめての凶螺さんです」

もう!もう!もう!
なんでこいつ磁波が真っ白なのよ!

可笑しいじゃない。暗示はかかってるはずよ。
私の事を好きになるなんてあり得ない!!!


“私を嫌いになりなさいっ!!!”


「くっ…」

瞬間、睦飛は少し苦しそうな表情となる。

…ほら、ほら!
やっぱり!結局揺らぐのよ!

「わ、分かったかしら…?あなたは私のこと。好きでも何でもないの。早くどっかに行って…」

「あぁ…良かった。」

…。
良かった?


男は何か満足げだ。どういうことだろうか、凶螺には全く理解できない。

「今、間違いなく暗示をかけましたよね?」

そう、術として完璧なまでの精神状態でかけた。
かけてしまった。

「暗示をかけて、僕に変化があって、今少し揺らぎがありました。でも、これは証明です」

「なんのよ!!」

とにかく、もううんざりだった。
早く止めたい、こんな事。好意を寄せてくれた男性に自分を嫌いになれだなんて。
自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだった。

「暗示で嫌いになるって、それ。僕が凶螺さんのことを本気で好きだったから。だから、変化が起きたんですよね?」

「そ、それは…」

元が違うから変化が起きる。
嫌いなものは嫌いであり、それは変化に繋がらない。

もし、仮に何か面白がって凶螺をからかっていたとして今の暗示はどう効くのだろう。
恐らく、効かないだろう。
少なくとも本気の好意が無ければ、変化もまた無く、奇妙にもそれは凶螺への好意を本当に証明するものだった。

だとすれば。

「私のこと…き、嫌いになった?」

「…」

最悪じゃない。
本当に好きになってくれてたのに?
私は…私は…。

「凶螺さん」

「うっ…うっ…」

もう!私が悪いわよ!

「確かに嫌いになりました」

肩に手をおいてくる。顔を上げられない凶螺の目を伝うは塩水。

「離して!!」

もう良い。分かってる。
試すようなことをしたのが悪い。
好意に甘えて、何と乱雑な対応をとってしまったのだろう。
私はダメ、ダメダメ…。




「また、好きになりました」



「えっ?」

「僕、睦飛は美東凶螺さんが好きです」

先ほどと変わらない照れた笑顔。その持ち主が何を言っているのか理解が追いつかない。

「お付き合いして下さい、なんて早まったアプローチをしてしまった僕が悪いです」


お友達として、これからお願いします。でもこれは諦めた訳ではありません。告白の答えはいつでも、待ってます。その時が来るまで遠くの存在として凶螺を見ているなんて我慢も出来ません。お友達としてで良いです。お側にいさせて下さい。


「もちろん、僕を好きになってもらうために色々頑張ります!」

年下にも関わらずこんなに包み込んでくれるような。

私が悪いのに…。

「僕が悪かったですね。すみません」

申し訳無さそうに頭を下げてくる。

「私が!」

突然の抱擁で、その先はかき消される。

凶螺も、当然睦飛も。

「なんで…」

「分かりません、ただ、好きになってしまったから」

温かい…もう…何でもいっか。
良いわよね?待ってくれるって言ってるし。

「私、こんなにめんどくさい女よ?」

「奥ゆかしいです」

「束縛…するわ」

「嫉妬してくれるなら本望です」

「…単眼だし」

自分の肩に乗っていた睦飛の頭が離れ、自分を真っ直ぐに見る。

「なんて、綺麗な瞳ですか…一日中見てられます」

「…バカじゃないの」

「すみません…」

「…ふふっ」

「あははっ…」

静かに笑いあう。
何かが、二人にしか分からない何かが通じ合った瞬間である。


ーーーーー☆ーーーーー


「社長、その、明日の午後お休みが欲しいんですけど」

「おうおう、どうした?」

「い、いえ特に…」

平日、MMPにて。
社長の口調はよく言えばフランク。悪く言えば下品だ。

「まっさかとは思うが、赤咲と合うためか?ん?」

有給の使い道など、聞かないのが普通。今の社会に欠けているものだ。

しかしてこの社長、ベルゼブブは今、凶螺の友人として話していた。それは凶螺も十分に理解している。

「べ、別に良いじゃないですか!そんな大きな声で言われると」

「おォ!凶螺いいネ!行って来くるとイイ!」

「ククッ…春麗らだな。夏真っ盛りだが」

「違いない、あ〜暑い暑い」
 
「イイじゃん!夏!ヤリ盛りの時期だよっっ!」

レンシュンマオ、ダンピール、ヘルハウンド、マーチヘア。
それぞれがそれぞれ遠まわしに弄ってくる。

「うるさいわよ!で?頂けるんですか!?ダメなんですか!?」

「そりゃ、良いに決まってる。存分に甘えて来いよ。」

大笑いしている眼前に御はす蠅の王。
負かしたいと思うが、それまた無駄なこと。いや、いつものこと。

「じゃ、仕事に戻ります!!」

プンプンと自分のデスクへ戻る凶螺と笑う仲間たちであった。


……………
………



「って、言うのよ?あのアホ社長」

「祝福されてありがたいことです。」

「ふん!」

今、凶螺の隣には男がいる。
赤咲睦飛、同姓同名の別人などではない。

「それで、凶螺さん。今日はどこへ?」

「そんなの、どこだって行いわよ」

面倒くさそうに答えるゲイザー。
行きたいところは沢山あるのだが自分から食いつくのはシャクだった。

「これどうですか?」

男の差し出す情報端末を覗けば大きなパフェが載っていた。

「ラブラブ恋人パフェ〜伝説ダブル盛り〜?」

「美味しそうじゃないですか?」

「そ、そうね」

「じゃあ、行きましょう!」

男が手を差し出せば、一旦躊躇い人差し指だけを握る。

「ま、全く。何がそんなに嬉しいんだか」

顔を背けていると動く気配がない。
人差し指の持ち主を見ればニコニコと凶螺を眺めていた。

「な、何よ!私の顔に何かついてる?」
 
「い、いえ、嬉しいんです。二人で出かけるのが」

「…うるさいわよ。ほら、早く行くの」

“睦飛”

「はい!凶螺さん!」

元気そうな男を見て、ため息をはく凶螺であった。


18/07/28 17:05更新 / J DER

■作者メッセージ
なーんか面倒くさいキャラになりましたかね?

ちなみに、ツンデレではないです
“素直になれない”というのはツンデレを含有する立場です

まぁ、そんな細かい話は投げましょう。
今、何ヶ月も前にリクエストしていただいたダークメイジさんを書いています。お待ちを!
それでは。

宜しければ、以前の物もお読み頂けると幸いです。

では最後に皆様の余暇のお供になれることを願いましてー。

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