読切小説
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一途気侭
あるところに、一匹の野良猫がいました。

その猫に名前はありませんが、どうやら雌のようです。
茶と白の混じった毛色が特徴で、身体はそれほど大きくありません。
彼女は、草がぼうぼうと生えた空き地で、のんびりと寛いでいました。

そこは彼女の生まれた場所でもあります。
彼女の両親は、この場所で5匹の子供を儲けました。
2番目に生まれたのが彼女です。唯一の女の子でした。
そのせいか、父親は彼女を大層大事に育て上げました。

彼女が生を受けて、約1年後。
兄弟達は各々、どこか知らない場所へと旅立っていきました。
巣立ちの時です。猫は大人になれば、自分のテリトリーを探すのです。
親にとって、子供たちとの別れは悲しいものでしたが、笑顔で見送りました。

しかし、彼女だけは、生まれ故郷を離れませんでした。
なんてことはない話です。彼女は面倒臭がりだったからです。
そんな彼女を、両親は、仕方がない子だとは思いながらも、甘やかしました。
理由は何にせよ、愛しい娘が一緒に居てくれるのが、嬉しかったのです。

ですが、それでも別れの瞬間は訪れます。
寿命です。彼女の大好きな父と母にも、その時が迫っていました。
両親は己が死期を悟り、彼女には告げず、そっと巣を離れました。

彼女は、どうして両親がいなくなってしまったのか、今でも分かりません。
ただ、自分にこの巣を譲ってくれたことだけは、薄々理解していました。
両親の好意に、存分に甘えようと…また、大切にしようと、彼女は誓いました。

そういった道のりを歩んで…いえ、寝っ転がって、彼女は今、ここに居るのです。

…ぴゅうっ…と、一陣の風が通り抜けました。
心地良さそうに目を細める彼女。気楽なものです。

日がな一日、彼女のすることといえば決まっています。
寝て、起きて、散歩に出て、餌を探して、食べて、帰って、また寝る…。
これだけです。苦労らしい苦労はありません。自由気侭です。
彼女はある意味、もっとも猫らしい生活を満喫していました。

そして、今日もそろそろ散歩に行こうと、彼女が立ち上がった…その時。
ふと、鋭敏な鼻が、近くに嗅ぎ慣れた匂いがあることを感じ取りました。

人間の匂いです。知った人間の匂い。
彼女は屈んで、草むらに身を隠しました。彼が来たからです。

彼女の視線の先には…少年がいました。
恐らく、この町に住む子供です。年端もいかない男の子です。
彼は、誰かの名前を呼びながら、草茂る空き地に入ってきました。

彼が呼ぶ名前…タマというのは、彼女のことです。
もちろん、彼が勝手に付けた名前であって、彼女に名前はありません。
彼女から見れば、何を勝手に名付けているんだと、迷惑千万なものでした。

そんなことを知る由もない彼は、やっと彼女を見つけました。
ニコニコと笑顔を浮かべて、近くへと駆け寄っていきます。
彼女はいつでも逃げられるよう、筋肉を緊張させていましたが、
彼は彼女から少し離れた位置で止まり、腰を下ろしました。
前に、近付き過ぎて逃げられてしまったことを、覚えていたのです。

睨む彼女を見つめながら、彼はその場に何かを置きました。
パン屑です。少年の片手に持てるほどのパン屑。

彼はこの行為を、3日ほど前から続けています。
空き地に佇む彼女を見つけたのも3日前で、それ以降、ずっとです。
いきつけのパン屋さんに頼んで、パン屑を貰っては、彼女の下へ持ってきました。

何故かといえば、彼は彼女に一目惚れしたからです。
可愛い猫に懐かれたいという思いから、毎日餌を運んでいるのです。
それは非常に子供らしい、無邪気な想いでありました。

当然、彼女にとって、それは彼の勝手な想いに過ぎません。
彼が帰った後も、そのパン屑に手を付けようとはしませんでした。
いつしか野鳥が群がり、綺麗に食べてしまうのを、横目で見ているだけです。

が、野鳥の食事は、彼女にとって厄介なことでもありました。
パン屑が無くなったのを見て、彼が勘違いしたからです。
そのせいで、彼は今日まで、諦めるどころか…先程見た通り、
ウキウキと胸を弾ませてパン屑を運んでくるのです。

基本、興味の無いことには無関心な彼女ですが、
ここまでしつこいと、さすがに彼のことを考えざるをえませんでした。
一度引っ掻いてやろうかとも思いましたが、彼女は面倒臭がりです。
彼が襲い掛かってでもこない限り、面倒事を起こす気力が湧きません。
それに、彼が巣に置いていくのは、毒ではなく、ご飯です。
野鳥の様子を見て、害のある食べ物ではないと理解していました。
もしかしたら、プレゼントのつもりかもしれない…と、彼女は思いました。

しかし、彼女はやはり、どんな場面でも猫です。
次第に考えるのが面倒になって、うとうとと眠りについてしまいました。
優しいそよ風が、彼女に揺り籠と子守唄を運びました。

…4日後。

今日も彼はパン屑を置いて、帰りました。
彼女は、その背中をじっと見送りました。姿が見えなくなるまで。

そして…一歩。
一歩、また一歩と、彼女はパン屑の方へ歩み寄りました。
今日も餌にありつけると期待して、屋根の上で待っていた鳥達は、
いつもとは違う猫の様子を、首を傾げて見つめていました。

パン屑から香る、微かな良い匂い。
なんだか、とても美味しそうです。彼女はごくりと咽を鳴らしました。
しかし、慎重に…匂いを嗅いだり、手で転がしてみたり、舐めてみたり…。
あらゆるチェックを行いましたが、やはり毒というワケではなさそうです。

彼女は意を決して、パン屑のひとつを食べました。

……………。

…もうひとつ。飲み込む前に、更にひとつ。
いつの間にか、彼女は夢中になってパン屑を食べていました。
鳥達は、せっかくの御馳走が無くなってしまい、肩を落としましたが、
彼女もまた、こんな美味しいものを放っておいたことを、後悔しました。

ぺろりと食べ終えたところで、それを見届けた野鳥は、屋根から去っていきました。
彼女はといえば、もう、御機嫌そのものです。ご自慢の肉球をペロペロと舐めています。

彼女は思いました。
彼はなんて良い人間なんだろう。
こんなに美味しいご飯をプレゼントしてくれるなんて。

猫はすっかり、パン屑の味に魅了されてしまいました。

…次の日。

彼が空き地へやってきた時、彼女はなんと、
自ら少年に駆け寄っていったのです。尻尾を立てて。

目的は、言わずもがな、彼の持つパン屑です。
猫なで声で足に擦り寄る様は、まさに手のひら返し。
一刻も早くパン屑が欲しいがための、食欲に塗れた行為です。

とはいえ、彼にとって、それは待望の反応でした。
とうとう自分に心を開いてくれた猫に、彼は更なる好意を抱きました。
嬉しくなって、もう、笑顔が弾けんばかりです。ニッコニコです。
そう、猫も単純ならば、少年も単純だったのです。

少年は、猫の背中を撫でながら、パン屑を差し出しました。
手皿の上に乗った、香ばしい匂いを放つ食べ物。涎が止まりません。
彼女は無我夢中になって、パン屑に食い付きました。
彼女があまりにもがっつくので、パン屑はどんどん無くなり…
ものの1分と掛からぬ内に、全て平らげられてしまいました。

しかし、それでも満足しないのが彼女です。
何度も少年の手を舐めては、足りないことをアピールしました。
そのおねだりに、少年も彼女の想いを察して、耳をくすぐりながら、
明日はもっとたくさんのパン屑を持ってくることを約束しました。
彼女は、彼の言葉こそ分かりませんでしたが、納得したようです。
ニャアと一声鳴いて、彼の温かい手に、身を預けました。

…また、次の日。

ソワソワと落ち着きのない彼女。
目的もなく、空き地の中をぐるぐると歩き回っています。

そこへ、両手いっぱいにパン屑を持った彼が現れました。

その時の少年の姿が、彼女にはどう映ったことでしょう。
白馬の王子様も裸足で逃げ出す、神様のような姿でしょうか。
何にせよ、それを見た瞬間、彼女は彼に恋をしました。
自身の想いをここまで叶えてくれるのは、大好きな両親でさえありえなかったからです。

そして…とうとう本能のひとつに、火が点きました。
雌である彼女は、彼との子供を作りたいと思ったのです。

彼女は猫であるが故に、目の前の人間が、雄かどうかは分かりません。
しかし、それはさておき、少しでも想いを伝えたいと考えました。
そうすることで、自分が少年を好いていることを知らせられるし、
もし彼が雄ならば、めでたく子供を作ることができると思ったからです。

それからというもの、彼女は大胆になりました。
彼からのプレゼントを食べ終えた後は、決まって身体を擦り付けました。
彼の手に、足に、頬に…。触れるところ、全てに自身の匂いを付けました。

これは、少年が自分のものであるという証明です。
他の雌猫に彼を盗られては大変と、まずは予防策をとったのです。

それが済んだら、次はアピールです。
彼女は少年の前で、身体を転がしたり、お尻を振ったりしました。
思いつく限りのセクシーなポーズで、彼を誘惑しようと頑張りました。
彼に興味が無かった頃のことを考えると、驚くべき変貌ぶりです。

しかし、悲しいかな、彼は無知で清楚な少年です。
発情期を迎え、フェロモンを発する彼女を前にしても、少年は動じません。
可愛いなあと思うばかりで、一向にその気にはなりませんでした。
当然といえば、当然です。彼は人間で、彼女は猫なのですから。

彼の鈍感さに、顔を洗うフリをして恥ずかしさを誤魔化す彼女ですが、
さすがにヤキモキしていました。繰り返しますが、彼女は根っから面倒臭がりなのです。
なので、苦労してまでやっていることが報われないと、嫌な気分になるのです。
彼女は次第に、彼に対する怒りの気持ちが湧いてきました。

…出会ってから、1ヶ月後。

彼女は、気だるい暑さに目を覚ましました。
気分が優れません。彼に対するフラストレーションのせいでしょう。
晴れない気持ちを紛らわせようと、彼女は毛繕いしようとしました。

しかし…何かが変です。
彼女は、尻尾の向こうにある世界が、縮んでいるように見えました。
世界だけじゃありません。自身の身体も、どこか違和感があります。
いつもの様な格好で寝転がることができませんし、よくよく見れば、
毛が…肩やお腹、太腿に生えていた毛が、さっぱり無くなっています。
それはまるで…そう、あの少年の、毛の薄い肌にそっくりです。

普通ならば、ひっくり返るほど驚く出来事なのですが…
そうです、彼女は面倒臭がり。おかしいなあ、程度の考えで終わりました。
彼女は、魔物になってしまった己が身を、どうでもいいと切り捨てたのです。

それに、そんなことよりも、今日はよっぽど重大なことがありました。
今日からは、彼が来ても、絶対に甘えてあげたりしないという決心が。

彼女は、怒りから思い切った行動に出ることにしました。
パン屑だけは捨て難いので食べる予定ですが、食べ終えた瞬間、
そっぽを向いて、彼の呼び掛けには絶対に答えないと決めたのです。
身体だって、触らせてあげないと決めています。最初の頃のように。

もしそんなことをして、彼に嫌われたら…なんてことを、彼女は考えていません。
いつの間にか、彼女の中では、少年の方が自分を愛していることになっていました。
あながち間違いではありませんが、想いがだいぶ歪曲してしまったようです。

決意を新たにしていると…ふと、あの匂いが。
彼女は尻尾をピンと立たせて、そちらへ振り返しました。

彼です。パン屑をいっぱい持って。
いつもの彼ですが…しかし、彼もまた、何か違います。
縮んでいるように見えるとか、そんな些細なことではありません。
もっと、こう…あぁ、なんでしょう、アレから香る、胸を焦がす匂いは。

彼は今日、パン屑以外の物を持っていました。
アンチョビサンドです。それも、生の切り身を挟んだだけの、彼女専用の。
これはパン屋のおじさんが、彼にいつもパン屑を持っていく理由を訊いて、
甚く感銘し、特別に拵えてくれたものです。それはそれは、豪華な御馳走です。

夢のようなランチを前にして、彼女の決意はぐらりと揺らぎました。
あんなに美味しそうなご飯を持ってきてくれた彼に、言い表せない愛情を感じたのです。

しかし、彼女は必死で耐えました。
ここで折れては、我が名折れ、ついては猫の名折れ。
なんてことはないという表情で、彼に歩み寄ります。
その心は、今にもアレに食い付きたくて堪らないのに。

驚き戸惑っているのは、彼女ばかりではありません。少年もです。
いつものように、可愛い猫のために餌を持ってきたはずが…
目の前にいるのは、フェロモンをムンムン発したおねえさん。
しかも、自分の方へと近付いてくるではありませんか。

硬直する彼をよそに、彼女の頭は、御馳走を食べることでいっぱいでした。
普段通りに、普段通りにと思いながら、ゆっくり彼の手へ口を近付けます。
いつもは彼に屈んでもらわなければ届かないのに、今日は自分が屈んでいます。
変ですが、そんなことは後です。まずは何より、アンチョビサンドなのです。

そして、一口。

…瞬間、彼女は、極上の幸せに包まれまた。
こんなに美味しいものが、この世にあるなんて。
野良猫である彼女にとっては、天にも昇るような味でした。

それからはもう大変です。
彼女は少年の手を、自らの手で支えて、がっつき始めました。
決意という歯止めが壊れた以上、彼女を抑えるものはありません。
最後の一欠片さえ残さず食べて、指の隙間まで、丁寧に舌で舐め上げました。

少年は、その光景を呆然と見つめていました。
そして…ふと、彼女の行動に、ある姿が重なりました。
そう、彼がタマと呼ぶ、彼女です。あの愛らしい猫です。

おねえさんの食べ方は、タマにそっくりでした。
手皿に付いた欠片まで綺麗に舐め取る様が、食いしん坊な彼女に。
よく見れば、おねえさんの耳や手足、尻尾は猫のそれですし、
茶と白の混じった毛並も、タマと同じです。瓜二つです。

…今だ手を舐める彼女に、少年は、そっと呼び掛けました。

―タマ…?

ぴくん、と、頭に付いた耳が、少年の方を向きました。
耳以外は相変わらずで、手に残る味に夢中でしたが、猫らしい行動です。
少年は、もしかしたら、タマが魔物になってしまったのかもしれないと考えました。

彼がそう考えたのも、実は先日、この町の近くで
ダークマターが発生したとの噂を耳にしていたからです。
少年は、魔物についての知識に長けているワケではありませんが、
ダークマターが現れるところ、人も動物も皆魔物へと変わってしまう…
という話を、神父さんから聞いていました。ともすれば、彼女も…。

彼の考えが纏まる前に、彼女はふと、あることに気が付きました。
脳が、目の前に居る少年を、雄だとハッキリ理解していることです。
いつの間にそう思うようになったのか、定かではありませんが、
彼が雄だということに気付いた彼女の本能は、再び燃え上がりました。

ここでもうひとつ、彼女は理解します。
人間の男性は、猫と同じアピールの仕方では興奮しない…。
なら、どうすればよいのか。その方法は、次々と思い浮かびました。
どうしてなどと、考えるのは面倒です。面倒臭がりな彼女です。
些細なことは抜きにして、彼女は少年のことを押し倒しました。

草生い茂る空き地の中。
魔物となった猫は、その豊満な身体を少年に擦り付けます。
猫の姿の頃にやっていた匂い付けと、似ているようで別物です。
今の彼女の身体は、少年のいたいけな心を惑わすのに充分なものでした。

むっちりとした胸や太ももで、身を撫でられる心地良さ。
しかし少年は、それを満喫できるほどの歳ありません。
心は慌てて、しかし、身体は硬直し、何が何だかサッパリです。
ただただ、エッチな雰囲気と感触に押し潰されるがままでした。

とはいえ、彼は間違いなく興奮していました。
少年も男ですから、女性の身体には否が応にも反応してしまいます。
息は荒くなり、顔は紅く染まり、ペニスはガチガチに勃起して…。
彼は今まさに、大人の階段を上ろうとしているのです。

それはまた、彼女も同じです。
違う点といえば、彼女の方が性に関して無頓着なところです。
エッチな出来事を前にして、少年はささやかな恐怖も感じていますが、
彼女には悦びしかありません。愛する人と子供を作ることが、幸せでしょうがないのです。

盛る彼女は、まず少年の唇を舐めました。
一見、キスのようにも思えますが、彼女にとっては感謝の印です。
美味しい御馳走に対するお礼なのでしょう。その後すぐに、唇を重ねようとしました。

互いにとって、初めての口付けです。
少年は緊張から、僅かに逃げましたが、彼女はそれを許しません。
追い掛け、甘い甘いキスを交わしました。息が詰まるほどの…。

ファーストキスは、すぐにディープキスになりました。
彼女は、ざらざらとした舌で、彼の舌を執拗に舐め回します。
ピチャピチャと音立つそれは、猫がミルクを飲む音に似ています。
唾液を啜る音です。彼女が、彼の唾液を飲んでいるのです。
咽が乾いたのでしょうか。いいえ、これは彼の味を覚えているのです。
獲物の血の味を覚える様に、彼女は、愛する人の味を確認しているのです。

その行為は、少々時間が掛かりました。
彼女が、彼の味を気に入ったためです。何度も啜り上げました。
終いには、舐めるだけでは飽き足らず、彼の舌を直接吸ったりもしました。

そんな彼女の愛撫を、彼は受け切れずにいるようでした。
途中からは、彼もキスの虜となり、積極的に彼女と口付けを交わしましたが、
彼女のタフさにはとても並び立たず、早々と身を任せる形となってしまいました。
更に、彼はもう、一度目の射精を終えています。キスだけで達してしまったのです。
彼女のキスは、彼を毎晩慰める右手よりも、強い快感をもたらしたのです。

彼は、早々と達してしまった自分を、恥ずかしく思いました。
しかし、このまま身を任せていては、二度目の射精が訪れます。
情けないとは思いながらも、彼は彼女に、なんとかそれを伝えようとしました。

ですが、どのようにして彼女に伝えればよいのでしょう。
口は封じられていますし、そもそも、言葉が通じるかも分かりません。
苦肉の策として、彼は濡れた股間を、彼女に擦り付けることにしました。
これも非常に恥ずかしいことではありましたが、他に策は思い付きませんし、
何より、ちょっと気持ちよかったので、少年はそうすることにしたのです。
彼だって、人並みにエッチが好きな男の子です。気持ちいいことは好きなのです。

その少年の策は、見事的中し、彼女はそれに気が付きました。
ですが、彼女が彼の行動から汲み取った意図は、まったく別のことでした。

彼女は、少年の行為を、匂い付けだと思ったのです。
確かにソコは、非常に臭うところであり、猫の世界においても、
雄は自分のペニスを匂い付けとして用いる場合もあります。
運悪くも、この勘違いが、後ほど少年に更なる辱めを与えることになりました。

ひとまず現状として、少年の方からのアピールに、彼女はひどく感動しました。
やっと想いが報われたのですから、その喜びは計り知れません。
そして、もっと自分に匂いが付くようにと、彼女からも身を擦り寄せました。

ただ、それは普通の擦り寄り方ではありません。
彼女は彼の股間に、持ち前の美乳を、ぎゅうっと押し付けたのです。
そうして擦り寄るのですから、これはつまり、パイズリです。
彼は二度目の射精を抑えるどころか、更に加速させる結果を招いてしまいました。

少年は慌てて止めようとしましたが、もう遅かりしです。
臭い立つペニスをうっとりと見つめながら、彼女は身体を揺らします。
彼の達したばかりのペニスは、その柔らかくも弾力ある刺激に、
再び天高くそびえ立ち、愛液をダラダラと流し始めました。
滲みはますます大きく広がっていき、臭いは際立っていきます。

当然、彼女は魔物ですので、また、彼に恋しているので、
彼の汚れたペニスを、臭いだの、汚いだのなんて思いません。
むしろ、彼の出す雄の匂いに、彼女はひどく興奮しました。
そして、やはり彼の味を覚えようと、汁に吸い付きました。
布地越しではありますが、彼の粘ついた汁は十二分に溢れてきます。
彼女は咽を鳴らして、存分にその味を愉しみました。

一方、裏腹の展開に陥った彼はというと。
彼女の胸が織り成す、蜂蜜のように蕩けた快感に、心を折られていました。
もう彼の頭に、我慢などという考えはありません。射精することだけです。
タマ…、タマと、彼女の名前をうわ言のように呟きながら、泣いていました。
何を意味する涙なのかは分かりませんが、彼が彼女の名前を呼ぶのは、
彼女のことが大好きで…魔物となった今、愛が芽生えたからこそでした。

彼女は、自分の名前を呼ぶ彼の声に耳を傾けながら、愛撫を続けます。
今の彼女の行為は、味見の一種ではありますが、そうすることで
彼が気持ちよくなることも、子種を出してくれることも理解しています。
また、射精が彼にとって、何よりも強い快感であるということも。
なので彼女も、ただ啜るだけでなく、舌先でチロチロと舐めてみたり、
甘く噛んでみたりと、刺激の仕方を変えながら、彼の反応を探りました。

そしてとうとう、彼女はひとつの結論に辿り着きました。
彼が一番可愛く鳴くのは、ペニスの先端を啜る時…という結論に。

さあ、様子見は終わりです。
彼女は彼のズボンと下着を、まとめて一気にずり下ろしました。
彼は、それに抵抗しません。先にも述べましたが、彼はもう、堕落しているのです。
とはいえ、恥ずかしさだけは少なからず残っていたので、顔を赤らめました。

解放されたペニスは、勢い良く飛び出てきました。
彼女に向けて、さあどうぞ、と言わんばかりに直立しています。
それを見て、彼も待ち侘びていたんだにゃあ、なんて、彼女は思いました。
まさにその通りです。彼ももう、啜ってほしくて辛抱堪らないのです。

彼女はペロリと舌舐めずりをして…彼の先端に吸い付きました。
チュッ、という小気味良い音が響きます。同時に、彼の嬌声も。

そこからは、卑猥な音と声の協奏曲です。
彼女が亀頭をクニクニと唇で啄みながら、尿道に流れる愛液を啜ると、
たちまち彼は反応して、空き地中に響くエッチな声を漏らしました。
雑草を握り締め、襲い来る快感に耐える彼ですが、焼け石に水。
彼女は顔を動かし、雁首を撫でる様なストロークまで加えてきて、
彼はもう、溢れる愛液が射精のようにさえ錯覚するほどでした。

フェラチオが始まって、わずか27秒。
彼は二度目の精液を、彼女の口の中に流し込みました。
とっさに彼女の頭を押さえ込み、喉奥での射精です。
二度目だというのに、一度目とは比べ物にならない量に、
彼女はえずきながらも、最後の一滴まで飲み干しました。

あっさりと…と思うかもしれませんが、いいえ、違います。
彼女の淫技は、むしろここからが本気です。

二度の射精に、さすがにペニスも活力を失くしました。
が、口の中で萎み始めてきたそれに気付き、彼女は舌を這わせます。
裏筋に舌を押し付けて、そのまま先端から根元までの、深いストローク。
更に、睾丸の裏にご自慢の肉球を当て、プニプニと刺激してきたのです。

襲い来る刺激に、彼の疲労困憊したペニスは、混乱しました。
まだ、勃起するほどの体力を取り戻せていないためです。
とはいえ、快感が送られてくる以上、愛液は吐き出されます。
結果、ペニスは萎んだまま、トロトロと汁を垂れ流しました。

それだけならまだ良いのですが、彼女の送る刺激に…
特に、睾丸を愛撫する肉球の凶悪な感触に、三度目の射精は目前でした。
なんとかペニスは勃起しようとしますが、やはり力が入りません。
どうにもできず…彼は二度目の余韻を残したまま、新たな射精を迎えました。

彼女は口を離し、射精するペニスを愛おしげに見つめました。
小さく萎んだペニスから漏れる精液は、まるで火山から流れ出るマグマです。
ドロドロと溢れては、亀頭を伝い…産毛が生え揃った股間へと溜まりました。

少年の感じっぷりに、妖しい笑みを浮かべて悦ぶ彼女。
いよいよ最後の行為に向け、先端を撫でながら、彼が勃起するのを待ちます。
彼はもう息も絶え絶えでしたが、彼女の魔力の影響を受け始めていたので、
わずかな休憩で、なんとかペニスだけは元気を取り戻すことができました。

彼の準備ができたところで、彼女はくるりと背を向けます。
そして、四つん這いになり…愛する彼に、自分の恥部を見せつけました。
猫の時のアピールと同じ。しかし、それは人間にも通ずる…。

燃えカスと思われた彼の心は、その姿に、再び火を灯します。
彼女の誘うような鳴き声に、火は、燃え上がる炎と変わり。
トロリと愛液を流す秘部を見て、炎は、とうとう焔にまで燃え盛りました。

彼は震える身体に鞭打って、誘う雌の下へ近付こうとしました。
しかし、よろよろと足はふらつき、数歩先の場所にさえ向かえません。
今にも転びそうな彼の足取りを、彼女は尻尾を使って支えました。
恋人に助けられながら、彼はどうにか、彼女の背へ覆い被さりました。

待望の、子作りの瞬間です。
少年も犬の交尾なら見たことはあるので、それを頼りに、入口を探しました。
しかし、どうにも見えない位置取りなため、挿入するのも一苦労です。
お尻に挿れそうになること3回、探している間に達しそうになること2回。
そんな苦難と、素股やお尻の誘惑を乗り越えて、彼は入口に辿り着きました。

初めての挿入に、ごくりと、二人は息を呑みました。
ほんの少し、腰を前に出せば、それはあっさりと破られます。
彼女は耳を伏せ、尻尾を彼の首に絡めながら、その時を待ち構えています。
少年は、どことなく怯えているようにも見える彼女の姿に、
できるだけ怖がらせないよう、ゆっくり挿れてあげようと考えました。

…くちゅり、と。

響く、小さな水音。
彼の先端が、彼女の膣内に迎えられた音です。
恋人のモノが入ってくる感触に、彼女は深く息を吐きながら、感銘しました。
まだ膜にさえ届いていませんが、彼のものになれたという喜びが先に来て、
瞳を潤ませながら、彼はもちろん、ここまで育ててくれた両親に感謝しました。
猫は恩知らずといいますが、彼女はその点、変わり者なのでしょう。

ここで、ふと、彼女は違和感に気がつきました。
彼が、先端を少し入れたところで、動きを止めてしまったのです。
不思議に思って、振り返ってみると…俯き伏せて、震える彼の姿が目に入りました。
さすがの彼女も、これにはびっくり驚きました。彼の身に、何が起こったのでしょう。

やはり疲れが響いているのでしょうか。
いいえ、実は彼、彼女の膣内の気持ちよさに、腰を抜かしたのです。
屈強な大人の戦士でも耐えきれない魔物の膣内ですから、
年端もいかない彼が耐えるなど、無理といえば無理な話です。

ですが、彼は今、必死に頑張っています。
何をといえば、彼は気絶してしまいそうな快感を前にして、
射精だけはするまいと、不屈の意思で耐えていました。
彼は三度の射精を経て、自分だけが気持ちよくなっていることに気が付いたのです。
だから、最後の交尾だけでも、彼女に気持ちよくなってほしいと、
恐らくもう次は無いであろう精液を、出さないように堪えていました。

しかし、彼女は彼の意図が読めずにいます。
腰が抜けていることだけは分かったので、少し考えた後、
彼をおんぶしたまま、隣の家の柵が立つ位置まで移動しました。
彼女の背で揺られている間も、彼は依然、快感に歯を食い縛っています。

さて、彼女はいったい何をする気でしょう。
答えは非常にシンプルです。柵に彼のお尻を押し付けて、
擬似的にセックスができるようにしようと考えたのです。
なんとも面倒な方法ですが、彼女が知る交尾の体位は後背位だけなので、
仕方がないことなのです。魔物の力も、体位の知識までは授けなかったようです。

とはいえ、一概に悪い手ではありません。
これならば、彼はまったく動かずとも済むのです。
ペースを自身で調整することができないとはいえ、
耐えることに集中できるのは、今の彼にはありがたいことでした。

紆余曲折しましたが、やっとの想いで、二人の初めてが破られる時です。
彼女が柵にお尻を押し付けると、思いの外の速さで、彼のモノは彼女の奥を突きました。
その途中で膜は破れ、破瓜の血が流れましたが、彼女は辛くありませんでした。
わずかな痛みはあったものの、彼を想い流れた愛液が、傷を和らげてくれたためです。

辛さでいえば、少年の方が圧倒的に上でした。
ペニスを包む彼女の優しさは、反面、情け容赦無い刺激です。
もちろん、その刺激は心地良いもので、彼が先程まで味わった
口や肉球の快感とは比べ物にならないものなのですが、いきすぎです。
意識しないまま彼が挿入していたら、間違いなく、それだけで達していました。
元が筋肉のある獣である彼女は、膣内の締まりが尋常ではないのです。

そうとは知らず、彼女は腰を動かし始めました。
柵がギシギシと唸る度に、おびただしい愛と悦楽が二人を包みます。
彼女は、ニャッ、ニャッと鳴きながら、涎を垂らして悦びました。
彼のペニスは、小さいながらも、しっかりと硬く、熱く、形も良く、
ちょうど彼女の弱い部分を突くので、満足な快感を与えることができました。
相性が良かったと言えます。タマにとっては幸せ続きです。

少年はそれを見て、果てそうになる心を、際で繋ぎ止めました。
ペニスは怒張し、いつ暴発してもおかしくありませんでしたが、
愛する野良猫の幸せそうな姿を見ては、そんな愚行は犯せません。
彼女の膣内は、滾るペニスにムニムニと絡み付いては、
残り少ない精液を絞り出そうと、激しく扱いてきます。
彼女の本能が最後に望むモノを蹴ってまで、彼は今を保ち続けました。

しかし、いつか限界は訪れます。
彼女の絶頂が近付き、膣内がきゅうっと締まったのをきっかけに。
ここまで耐えていた彼の意思は…ぷつんと、途切れてしまいました。

そして、代わりに現れたのが…本能です。
どこに力が残っていたのか、急に彼は、彼女の身体を抱き締め、自ら腰を打ち付けました。
張りの良い音が辺りに響きます。母親が、悪さをした子供の尻を叩く音と同じ。
少年は獣となって、まさに猫の交尾といわんばかりに、乱暴に腰を振りました。

驚くべき少年の変貌。しかし、彼女は悦びました。
彼がとうとう子種を流し込むのだと、察知したからです。

一転して、彼女は借りてきた猫のように大人しくなり、彼に身を任せました。
尻を上げて、彼がペニスを奥まで挿入しやすいようにして、それきりです。
ガリガリと地面を引っ掻いて、快感を一心不乱に味わうだけとなりました。
面倒臭がりだから…ではありません。強い雄に、自分を服従させてほしいからです。

一際、大きく艶やかな嬌声が上がりました。

少年は身をぶるぶると震わせて、彼女の中に精を注ぎ込みました。
非常に熱く、多くの、ドロドロと濁った、特濃の精子です。

彼女は、お腹を押さえ、自分の中に流れ込んでくる子種を噛み締めました。
子宮口が、チュゥチュゥと彼の先端に吸い付いているのが分かります。
彼のペニスも、それに応えるように、ドクドクと精液を吐き出してくれました。

…ですが、すぐに。
足りない…という想いが、彼女の心に湧いてきました。

しかし、さすがに彼も限界です。
最後の一滴を出したところで、彼は気絶してしまいました。
彼女は、名残惜しくもペニスを抜いて、綺麗に舌でお掃除した後、
彼の体力が回復するまで、一眠りでもしようと考えました。
もちろん、彼の膝の中で。少々手狭ではありますが。

幸せ者な野良猫は、うとうとと眠りにつきました…。

……………

………



…それから、1ヶ月後。

二人は今日も、人目はばからず、空き地でエッチをしていました。
しかし、誰も彼らを咎める者はいません。むしろ、微笑ましく見ています。

町はダークマターに呑まれ、その姿を変えていました。
男も女も動物も、全て変貌を遂げ、魔物が闊歩する町となりました。

その中で、少年と猫は、記念すべき第一号のカップルです。
二人が愛し合う姿は、この町を象徴する姿だと、皆が思っていました。
少年が普段より頑張って彼女を悦ばせていると、町の男達も奮起し、
猫が彼の子種を身に受けていると、町の女達も疼きを覚えました。

そんな町の人達の目に、彼らは興味を示しません。
彼が見ているのは彼女だけで、彼女が見ているのは彼だけです。
まるで猫のように、興味がないものは眼中にない彼らを、
町の人達も、愛猫を慈しむのと同じように接しました。

興味のないものは無視してまで、好きなものに熱中する。
それが猫という生き物です。とても一途な生き物なのです。

きっと私達は、猫のそんな生き様に、惚れてしまうのでしょう。

全てを愛に注げる、彼女の生き様に。
12/07/03 18:12更新 / コジコジ

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