連載小説
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発芽
「姫様。朝食のお時間です」

 朝。
 天気は快晴、青々とした空が地平線の彼方へと伸びきっており地と空の境界がはっきりとわかるほどに清清しい天気だ。
 私は小鳥のけたたましい囀りと執事の呼び声によって目を覚ます。
 扉の向こう側では執事が朝食を用意して待機しているのだろう。
 清清しい青空のように、私自身もとても気分よくベッドから飛び起き……られればよかったのだが、どうやら今の状態ではそれは到底適わぬ問題らしい。
 というのも――

 体が鉛のように重い。
 身体が溶鉱炉のように熱い。

 ベッドから立ち上がり扉に歩み寄ろうとしても、体の自由が利かない。まるで脳と体が別々になってしまったのだろうかと錯覚してしまうほどだ。
 そのくせ全身は真っ赤に燃え滾る鉄のように凄まじいほどの熱を発しており、表皮からは私自身が干乾びてしまうのではないかと思えるほどの量の発汗を迸っていた。いや、汗というには粘り気が強すぎる"汗のようななにか"が身体から染み出ていた。
 甘く、若干の桃色を呈した粘性のもの。具体的に例えるとこうだ。

 ともかく私は気だるい体をどうにかして起き上がらせ、扉に手をかける。
 私は足を動かしていないのになぜか扉の前に立つと、そのぬめり気のある手でドアノブをひねり執事と見合わせた。

「おはようございますお姫さ……」

 目の前にはいつも通り黒スーツを着こなしている執事の姿があった。
 ……のだが、どうにもその様子はいつもとは少しばかり違っているように私には見えた。
 何かに動揺し目線が右往左往しているように見える。執事の視線は私の背後にあるナニカを捉えているようで、その瞳は不思議そうというよりかは不気味なものを目の当たりにした恐怖の色に染まっているような様子だった。
 つい執事の視線が恐ろしくなり、私も自分の背後を見回してみる……が、そこには当然ただ私の部屋の空間が広がっているだけであり特に注視すべきモノは存在していない。

「ん?……あれっ……?」

 私の眼前で執事が目を丸くし、ごしごしと自らの目を擦り、もう一度私の背後を見据える。何もあるはずがないのに何をそんなに物珍しく見ているのかが私には到底理解できなかったが、この時執事が目の当たりにしていたモノは幻なんてモノではなく、実在するおぞましきモノであったというのは後になって判ることだ。

「すみません姫様、なんでもありませんでした」
「あ〜……そうらの?はゃくご飯食べたいんだけどぉ」
「姫……さま?何だか呂律が」
「気にしない気にしなぁい。さぁ、早く一緒にご飯たべよーか」
「え、あの自分はこれから他の業務が……ってうわ!」

 私は半ば強引に執事を室内に引っ張り入れると、扉のカギを閉め執事に朝食の準備をさせた。
 ぶつくさと文句をたれながらも、しっかりと私の言うことには付き従ってくれる。それがこの執事のいいところであり好いているところでもある。
 もっとも何よりも格別に良いところはもっと別の場所にあるのだけど……ふふふふふ……
 まぁ後で美味しく堪能するからここで言わずともいずれわかることなのだが。

「しかし姫様、その服装だと風邪をひきますよ。バスローブ一枚だけだなんて。朝食の準備をしている間に着替えてきてください」
「へ?あ〜……いーの。執事だからいーの」
「……そういうことを恥かしげもなく言われるとこちらも困ります。いつもの罵詈雑言はどうしたのですか」

 そういえば。
 いつもは執事に対してひどい罵声を浴びせてきた私であったが、ここ最近は言葉に出していないような気がする。
 執事に対する罵声が私なりのジョークでありコミュニケーションであったのだが、それをしなくなったのは一体どういう風の吹き回しだ?
 コミュニケーションを取る必要がなくなった?
 いや違う。
 もっと……そうだ、別のコミュニケーションの方法があるから、私は――

「それじゃ着替えてくるからぁー覗いちゃダメだぞ。んふふ……」













(おかしい……)


 その時、執事の脳裏にある疑問がよぎった。
 違う。
 違いすぎる、と。
 いま自分が会話していた人物は本当に自分が仕える姫なのだろうか、と。
 生クリームに角砂糖をぶちこんでハチミツを塗ったくったほど胸焼けする甘いセリフを過去今まで仕えてきてて、あの姫様が発したことがあっただろうか。
 あの姫様は何か失敗することがあったら「失敗のしの字は死刑のしの字よ。次はないことね」と言い、褒めることがあったら「これぐらいできて当たり前」と言う人だ。
 そんな傲慢で高飛車で暴君気質も猛々しい姫様が「覗いちゃダメだぞ」と言った。これはどう考えてもおかしい。おかしいと思わないほうがおかしいのだ。
 部屋の奥、カーテンの向こう側で着替える姫様が本当に姫様なのか疑心と不安に思い悩まされる。

 思えば……今に始まったことではなかった。
 あの日、「寓胎の衣」を渡したあの日から何かが少しずつ変化していたような気配を執事は感じていたのだ。しかし、それはささいな思い違いかもしれないというほどごく僅かな変化。今まで付き従っていた執事ですら明確な変化を感じ取れぬほどの異変であった。
 なれど確かに。1が2になるように。99が100になるように。徐々に徐々に変異していく雰囲気はやがて疑惑から確信へと移り行くのである。
 今朝、扉を開けた姫様の背後に映った異形なモノ。もしかするとあれはやはり幻覚なのではなく、しかとこの肉眼で捉えた異変の根源なのではないか。そう思うと疑いの念は勢いを増すばかりで執事の脳裏には激しい後悔と恐怖のみが残されるのであった。
 あんな得体の知れぬものを姫様に渡してしまったという後悔と、カーテンの向こうにいる姫様の形をした別の存在に対する恐怖とを同時に感じていたのだ。


(確信は持てないが……念のため)

 そう思い、執事は常日頃から懐に隠し持っている銀製のナイフをいつでも取り出せるような形にしてしまい込んだ。
 得体の知れぬ緊張感を漂わせながら執事は黙々と朝食の準備を進める。
 皿を並べながらも神経を研ぎ澄ませ、パンをスライスしながらカーテンの向こう側の存在を常に意識しつつ。
 仮にこれが執事の思い過ごしであったとしたならば、これは姫に対する凄まじいまでの侮辱であることには違いない。しかし、長年の付き従った関係であるので注意されることはあれど、解雇までにいたることはないと確信している部分はあった。
 しかし、その確信が致命的な油断になるとは思いもせず……

「ちょっと執事ぃ〜そこにあるネックレス取ってくれない?」
「え、ああこれですか。今持って行きます」
 
 テーブルの上に無造作に置かれた金色のネックレス。これにどれほどの値打ちがあるのかは一端の執事には到底わかるものではないが、素人目に見ても驚くような値段が付きそうなネックレスという印象だけは確固たるものである。
 執事はネックレスを手に取り、いつもどおり姫様の命に従うがままに彼女の元へと歩み寄る。
 そしてカーテン越しにネックレスを握った手を差し出し、姫様がそれを受け取るのを待っている間に執事は

「しまった」

 と心の中で思った。
 これが使用人という者の悲しき性である。
 先ほどまであれほど警戒していたというのに、いざ主人に命令されるとその警戒は一瞬の間消失し普段の自分へと戻ってしまうのである。
 常日頃から主人に付き従う生活をしているが故に、命令されることが当たり前という仕事が故に。警戒は瞬時に油断へと切り替わり、あたかも初めから警戒なぞなかったかのように振舞ってしまったのだ。
 そしてその油断はあっという間に後悔へと変わる。

「ひめさ……うわっ!?」

 カーテンの向こう側に差し出した腕は、一人の女性が発揮するにはあまりにも強大すぎる力によって引きずり込まれていた。
 ぬめり気がよりいっそう恐怖を掻き立てて。

「ふふふ……つーかまえた」




―――――




 寝室で着替える私は考えた。

 欲しい。
 執事が欲しい。
 執事の全てを私のものにしたい。私色に染め上げてしまいたい。私の所有物にしたい。
 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい 欲しい!!
 執事のことを考えると熱かった身体がさらに熱を増して湯気すら発してしまう勢いである。体中の血液が熱く燃え盛る。血流が目まぐるしく体中を駆け巡り、血管がはじけ飛んでしまいかねないほどだ。
 熱い。熱い厚板ウイ経つ威圧威圧威圧威圧胃厚いあついあうちうあついあついあつい熱い熱い熱いあちちついちちついあ熱い膣い膣い暑いぃ!!
 熱い!!!
 あまりの熱さに全身から異常な量の汗が吹き出る。それもひどく粘ついた、老廃物の塊のような粘液性の液体は私の肌に纏わりつき、まるで意思があるかのように私の足元へと集まっている。甘ったるい匂いでありながら、さほど嫌な気もしない不思議な汗だ。
 胸と股間の邪悪な紋様は気が付けば私の肌を侵食し始め、今にも飛び出そうとするように胎動していた。
 どくん、どくんと脈打つ度に私の身体に渇きが襲ってくる。今すぐにアレをよこせと。精の凝縮されたあの液体をよこせと。今一度あの味を堪能させてくれと。
 執事の顔を思い描く度に胸の高まりが強くなる。
 執事の身体を思い描く度に子宮の奥が熱くなる。
 ああ、あの顔を快楽漬けにしてあげたらどのような素敵な表情を彩るのだろうか。あの精液を一杯に満たすまで注ぎ込まれたらどれほど気持ちいいのだろうか、と。
 私には見える。手に取るようにわかる。カーテンの向こう側で執事が私を警戒していることに。私が私ではないのではないかと疑心暗鬼になっているのがわかる。
 もはや思考も感覚も魔物のそれに塗り潰されてしまった私にとって、人の良心などすでにこの世からなくなっていたに違いない。
 なぜなら今私がしたいこと、それはただひたすらに交わり、増やし、そして何より彼を所有物として欲していたのだから。

 私はいつものように執事を呼びかける。
 テーブルに置き忘れたネックレスを餌に獲物をおびき寄せる。甘い香りを発し、粘性の罠を携えながら。
 芳しい精液を放つ獲物を今か今かとおびき寄せる。
 

「ひめさ……うわっ!?」
「ふふふ……つーかまえた」

 そうらかかった。
 甘い罠に寄せられて、かわいい私の獲物がかかった。
 いや、獲物というのはあまりにも忍びない。私を犯してくれる獲物様。私の夫となる素晴らしき獲物様だ。
 私が直接手を捕まえなくても、第二第三の腕が彼を支え捉えてくれる。無意識のうちに、私の思考と直結しているのかしていないのかはわからないけれど、今は確かに私の目的とこの腕の目的とは一致しているかのように思えた。
 あまりの嬉しさに身体が弾けそうになる。

「ひ、ひめさ……いや、姫様の姿をした化物!姫様を返せ!」
「はぁん♪わたしはわたしのままだよ執事ぃ」
「くそっ……姫様」

 執事の四肢を多数の腕で拘束し身動きが取れないようにすると、私特性のベッドに寝かしつける。
私一人で使うにはあまりにも巨大なベッドはまるで、始めから私と執事が二人で愛を育むのを想定されていたのかと思うほどだ。
 ああ執事。
 ベッドに押さえつけられているその無防備な姿を見ると、私の中で燃えていた想いは更に油を注がれたように激しく盛った。
 もうめちゃくちゃにしたい。されたい。
 コレクターという私の趣味はモノの範疇を越え、ついにはヒトにまで昇華してしまったのだ。
 その第一号が私の最も愛してやまない、将来のつがいとなるべく存在の執事だと思うと胸の高鳴りが実際に鼓膜を通して聞こえるまでになった。
 部屋中に私の鼓動が木霊する。
 その人知を超えた音は執事の耳にも聞こえていたようだった。

 どくんっ
 ドクンッ
 ドグンッ
 ドクッドクッ
 ドッドッドッドッドッ
 ドドドドドドドドドドド!!

「あ……ああぁ……ああああぁぁ執事ぃぃ!!」

 執事のことをいとおしく思い、目の前にその存在がいると思うと私の内側に宿るナニカが牙を向き始める。
 私の表皮を血管が激しくのた打ち回っている。
 いや、血管のように見える別のナニカが私の皮膚の内側で蠢いている。
 殻を突き破る孵化のような、発芽のような、私の身体の中に住まう諸悪の根源が皮膚の表面下で隆起しぼこぼこと全身を這いずり回る。
 その姿を見た執事はあまりの恐ろしさに吐き気を催したのか、嗚咽の声を発していた。
 当の私にいたっては、そのナニカが皮膚を突くたびに新たな生命の喜びのような慈愛に近い感情を抱いていた。卵から育てたひよこが立派な親鳥になり卵を産むような、種から育てた植物から作物を収穫するかのような。そういった類の感覚に近いものだ。
 たしかに体中がぼこぼこに蠕動しヒトならざる存在が生まれ出でようとする光景は恐ろしく気味の悪いものであろう。しかしその感覚は、既にヒトの感性を失った私にとって至極どうでもいいことであった。

「うぅぅううぅ……し、しつじぃ……ちょうだい……」

 身体を這いずり回るナニカを出すには徹底的な何かが足りない。
 本能的に悟った私は、ベッドの上に仰向けに縛られている執事の上に跨る。
 そうだ、事を始める前にまずコレが欲しかったんだ。
 精を味わうのはそれからでも遅くはない。
 人も魔物も平等に愛する契りの証が……男女が愛すべき始まりの証が欲しい。

「執事……ねぇ、私はわたしだよ……だから……」
「ぐっ、ひめ、さま……もうしわけ……ござい」
「どうして謝るの」
「例の服ですが……やはりその姿から察するに…………呪われていたかと」
「そんなこと。もういいの、もういいんだよ……こうして彼方を手に入れられたんだから」
「しかしそれは姫様の――」

 もういい。

 私は執事の言葉を最後まで聞かずに契りを交わす。
 ベッドの上。男と女がもつれ合い、軋む音を弾ませながら、全ての始まりの合図を告げた。

 んちゅ……
 ……はぁむ

 唇と唇が触れ渡ると、最初のうちは軽いキスを数回繰り返し、始めての行為に胸を震わせる。まるで窓の外から聞こえる小鳥の囀りを真似していると思わしきキスだ。唇を合わせ互いの目を見据え心と心が一つになったかのような、言いようのない安心感を感じる。
 ああ、これがキスなのか。なんて――素晴らしいものなのだろう。
 そう思うと私は、軽いキスでは我慢できなくなり執事の唇に勢いよくむしゃぶりついた。非常に生々しくも初めての恥じらいを残しながら一心不乱に舐め回す私は、他人が見れば些か急ぎ過ぎているように見えるのだろう。それでも私は構わなかった。
 目の前に執事がいる。愛すべき存在がいる。それだけで十分だったのだ。
 執事は始めのうちは抵抗していたようだったが、いずれ半ば諦めのようなものを感じ脱力していくのを感じた。四肢の拘束の力を抜いても逃げ出そうとしない執事に私はさらに愛おしさを感じ、甘い唾液のようなものをキスの合間に飲ませると、やがて執事からは逃げるという選択肢はなくなったようだった。
 執事も私と同様に霞がかった瞳で私の唇を貪っていたのだから。

「ふふふ……はは……はぁん、んっ、あっ、あっぁぁ」

 たくさんの唾液を飲ませ、私も少量の精を貰うと、ついに私の身体に変化が訪れる。
 表皮の蠢きは最大限の活発をあらわし、今か今かといつ出てもおかしくない状況だ。
 血管よりもはるかに太く長いモノは皮膚を盛り上げ再び縮みの繰り返しをし、さながらカウントダウンデモしているかのようであった。
 
「あンっ……ねぇ、さわっ、て……おねがい」
「はい……おおせの、ままに」

 姫の命令というよりも単なるお願い程度のことなのだが、今の執事にとっては命令もお願いも曖昧のようなものなのだろう。言われるがままに彼は私の隆起する肌を撫でると――


 一気にソレらは爆ぜた。



「あはぁ、クる、くる、クルっ、来るッ、くる!クル!!来るっ!」




「んはあああああああぁぁぁぁぁ!!!」




ずるるるるるるるるる!!!
びゅるるるるる!!
ぶびゅ、びゅくっ、びゅくっ……
ぶじゅるっ……ぐじゅ……





 それらは、勢いよく私の身体から一斉に飛び出した。

 触手。
 
 人間が本来生物学的に発生するはずのない器官。
 昆虫や一部の原生生物などが有する感覚器官を私は自らの身体を持ってして発生させた。それは即ち、私が真に人間という生物を辞め、魔物になったと証明する証でもある。
 薄桃色の色を呈し、ぬめりと甘い匂いを放つ細長きモノは私の腿や背、腰や腕から生え縦横無尽に宙を舞う。既に身体から生えていた触手と数を合わせると十程になるだろうか。
 それぞれが意志を持ち、生きているかのように蠢き回るその光景を私はやはり我が子を見守る母の気持ちで見つめていた。
 皮膚を擦るたびに生じる感覚は体の内側から蹂躙されるというわけのわからぬ快感であり、不可思議でありながらもどこか受け入れられている自分がいる。心臓が拍動する度にびきびきと青筋を立てて剛直したり弛緩したりする触手は、紛れもなく私の体の一部であり、私の体から生えているのだ。
 体の内側を喰い漁り、皮膚を突き破りながら突出するその光景は、第三者が見れば思わず目を疑うような光景であり、思わず激痛と生命の危機を感じざるを得ない光景であろう。
 だがしかし、痛みはない。
 そこにあるのはただひたすらに性を追求したいと思う探究心が生み出した神秘そのものであった。性交するためだけに特化したその器官は魔物の叡智たる進化の結晶であって、私自身これを誇りに思わなければならない。恐れることはなく、むしろ祝福すべきものなのだ。
 精を搾り、種を繁栄させるための素晴らしき器官なのだから。

「その姿は……」
「そう。執事も知っているあの魔物」

 ローパーであることは考えるまでもなかった。
 人間の女性に寄生し、発芽すると全身から触手を生やす正体不明の魔物。
 他の女性に卵を産みつけることにより種の繁栄を計る恐るべき魔物である。

「や、やはり『寓胎の衣は』……」
「そういうことだねぇ。まったく執事は……とんでもないものを私に着せるんだから♪」

「まぁでも、そのおかげで執事と一つになれるんだし……コレばかりは感謝かなぁ」
 
 にやりと舌なめずりするその表情は誰がなんと言おうと魔物の表情の他ならなかった。
 今執事の眼前の跨っているこの女性は、かつて一国の姫であり気高く傲慢な気質でありながらも人民から慕われていた存在である。いや、存在だった。
 しかし、それも今となっては夢幻泡影の如く見る影もなき姿に変異してしまった。
 男の精を搾取するという極めて原始的な本能に支配される、それでいて生物的には高度に発達した身体を持つ魔物へと。

「姫様……」

 執事の心境は複雑にかき回されていた。
 姫を魔物にしてしまった後悔。
 目の前の魔物に対する恐怖。
 しかし同時に感じる愛らしさ。
 そして、これから身を襲うだろう人ならざる快楽への期待。
 彼は一体どの感情を信じればいいのかわからなくなっていた。
 一度魔物となった人間を元に戻す方法はない。それならば反魔物思想の大臣に見つかる前に自分が止めを指せばいい。
 執事は気力を持って銀のナイフを取り出すと、姫の前へと掲げる。
 いくら魔物といえど首を切られればただではいかない事を知っているのだ。デュラハンや一部アンデッドを除き外傷は人間と同様に効果があることを。

「くっ……姫様」
「執事……いいのよ私は」

 しかし、相手は今まで自分がつき従ってきた主人である姫なのだ。
 魔物である以前に主人であることには変わりないのだ。
 生涯かけて付き従うと決めた者をこの手で殺めることなど……

「…………こんなものっ!!」

 生涯かけて付き従うと決めた者をこの手で殺めることなど……執事には不可能であった。
 彼は銀のナイフを投げ捨てると再びベッドの上に仰向けになり冷や汗を流す。
 自分のとった行動は正しかったのだろうか。本当は姫をこの手で殺めたほうが良かったのではないだろうか。
 そう苦悩するが眼前の姫の艶やかな肢体を目の当たりにするとそんな悩みは圧倒的な美しさにいとも容易く押しつぶされてしまった。
 今更になって落ち着いて姫の姿を見ると、彼女はバスローブを脱ぎ捨て一糸纏わぬ生まれたての姿になり執事の上に跨っていたのだ。その姿の艶かしさといったら、彼が生まれてこの方目の当たりにしたありとあらゆる女性よりも色っぽく、瑞々しさを湛え、淫靡な雰囲気を漂わせていた。

「ふふ……ありがとう執事。やっぱり貴方は私の従者ね」
「自分は姫様専属の執事。全ては姫様の為に……」

 今まで付き従ってきた主人が自分の体に跨り、色っぽい熱情の瞳で刺激してくる。その光景は決して人間であった頃では叶えられぬ幻想であったが、今こうして人ならざる存在となった姫とならば幻想も現実へと変わるのだ。
 "あの姫様が、自分と男女の仲になる"
 その恐ろしくも退廃的で魅力的なワードは執事の人間としての理性を塗り潰すには十分すぎるほどであった。
 宙を舞う触手が執事の方を向くと、その十本全てが執事の方へと迫ってゆく。
 こうして禁忌の営みがこれから始まろうとしていたのだ。魔物化した姫と人間の執事という決して許されざる交わりが今ここで行なわれようとしている。





―――――





「執事ぃ……これはいったい何ですかぁ?♪」

 私が執事の腰の上で愛液を垂らしながら跨っていると、目の前に盛り上がるテント上のものが見えてきた。丁度執事の股間から発生しているらしきソレを見るとあまりの怒張のし具合を確認しごくりと唾を飲み干してしまう。

「これは……あれですよ。姫様が悪いのです」 

 真顔を取り繕いながらも、やや恥かしげも感じられる執事の表情と声色を伺うとぞくぞくっ、と身震いを覚える。今からこの黒服の下に隠された素晴しいモノが私の体を貫くと思うと体中の穴という穴から汁が垂れ流しになるほどの興奮だ。いや、実際にもう既に汁が流れているのだろう。
 
「じっ……としててね……脱がすからぁ」

 言うが速いかするが速いか、私がしようと思った矢先にはすでに触手たちが執事の服を脱がせ始めていた。
 ぷち、ぷち、ぷちとボタンを一つずつ外す。
 カチャカチャカチャとベルトの金具を外す。
 黒い漆黒のスーツを脱がすと今まで黒服が特徴的だった執事の外見は、真逆の白さを呈していた。
 これはただのインナーの白地なのだけれど、黒服のイメージが強すぎるせいで執事の見たこともない印象の姿に私は執事の知らない一面を知ったような気がして、またもごくりと唾を飲み込む。
 スーツの上下を脱がされたことにより、執事の怒張は更に天高く伸びるように盛り上がる。
 布一枚隔てたこの向こう側に私が望んでやまない珠玉の一品が聳え立っている。その事実が私の股を濡らし、営みへの期待に拍車をかける。

「うわぁ……すごい」
「流石にそうまじまじと見られると……少々恥ずかしいです」

 顔をやや赤らめ横を向く執事の顔がこの上なく可愛らしいと感じられる。まるで男女の関係が逆なんじゃないかとも一瞬考えたが、どうせセックスなんてお互いが気持ちよければどちらでも構わないのだからと面倒なことを考えるのはやめにした。
 執事とて同じ気持ちなのだろう。
 彼の頬の赤さは恥ずかしさからゆえのものでもあるが、私が飲ませた唾液によるものだということも魔物になった私は理解していた。

「じゃ、脱がすよ……♪」

 彼の上着を脱がすと、スーツからの見た目からでは想像も付かないような綺麗な腹筋が姿を現した。日々私に仕えるために人知れず訓練していたのだろう、そうでもしなければこの雄雄しき立派な腹筋の説明がつかないというものだ。
 私は触手で執事の腹を撫でる。どぼりと半固形状の液体を垂らしながら執事の腹筋のくぼみを撫でるとくすぐったいのか気持ちいいのか、その両方が合わさったような呻き声を挙げた。液体をお腹に擦り込み執事の中へと馴染ませる様に念を唱えると、本当に液体は染み込んでいったようだ。
 そのせいか執事の顔の赤らみが尚更赤く熱を持ち、また、股間の怒張も大きくなっていく。

「姫様、あまり……焦らさないでください……」
「んふふ♪わぁかってる」

 視線を下ろし、残った触手で彼の下着を脱がそうとする。あまりのいきり立ち具合に少し脱がすときに突っかかったが、難なく服を脱がすとボロンッと凶悪なまでの執事のペニスが目の前に立ちふさがった。
 赤黒くそそり立ち、青い血管を浮かび上がらせ、蒸れる湯気さえも見えるような立派過ぎるモノがついにご対面というわけだ。
 いや、以前にも私は一度これを見たことがあるが、その時よりも更に大きくなっていると確信した。

「んふ♪立派立派、褒めて遣わすぞ」
「それは光栄です」
「あんっ……もう、不意打ちはズルイっ」

 私が彼のペニスを眺めていると、ふと乳首をピンと弾かれた。されるがままの執事のちょっとした抵抗心なのだろう。彼の得意げな顔が尚更私の欲情心を煽ることになる。
 私は粘ついた手でペニスを握るとそのあまりの素晴らしさに眩暈を起こしそうになった。蒸れた芳香臭が嗅覚神経を辿り瞬時に脳裏までたどり着く、その神経の往復経路を自分自身が自覚できるほど私の精神は研ぎ澄まされていており、目の前の肉棒が今から私を快楽の坩堝へと誘ってくれると想起するだけで体中から液が垂れる。
 
「あはぁ♪こういうのどぉ?」
「はっ、ぁぐぅっ……これ、は……」

 自らの手の平から液体を染み出させると、天然のローションの如く粘り気を持ったそれは執事のペニスを包み込むのに最適の素材となる。
 じゅぷっ
 ぬぷっ
 じゅるっ
 どろ……
 フェラチオをしているわけでもないのにのも関わらず、まるで手の平が口腔であるかのようにぬらぬらとてかり彼のペニスを刺激する光景は、見ていて心の奥底からゾクゾク寒気がしてくる。指の一本一本までもが触手であるかのように動き回り彼を攻め立てるこの充実感、達成感、征服感。たまらない。

「あっ♪もう♪ダメだったら……やっ、んぅ……ああっ!」
「ひめ、さ…………これ、やば……」

 ヨコセ、ヨコセ、と言わんばかりに触手たちはペニス目がけて愛撫を始める。一つしかない肉棒を多数の触手が取り合うものだから当然触手同士はもみくちゃに絡まり合い、蠕動する肉の塊となる。その中心で彼のペニスは絡め取られ多数の触手の擦りあいを一遍に受けるのだから、その快感と言ったら……例え私が執事本人だとしても例えようがないくらいだ。
 目を見開き、明らかに我慢しているその様子はとても愛おしく感じる。
 数本取り残された触手たちは行き場をなくしたのかすることがなくなったのか、私の体を弄び始めた。触手が動くたびに接合部からは言葉に出来ぬほどの快感が襲ってくるというのに、それが私の体を愛撫してくるものだから自分自身で気がおかしくなりそうだ。
 

「こぉら取り合っちゃダメ♪後でみんなにあげるから……ね」

 ぐじゅぐじゅと塊になる触手たちにそう言うと、ピタリと動きを止め、一本ずつ綺麗に絡まりが解けていく。
 私の言うことを聞くこともあれば、聞かないこともあるこの触手たちを相手にする度に、私の中で母性というべきものが芽生え始めているのは確かであった。言うことの聞かぬ子供をあやす母親のような感情。
 まだ子を産んでいないのにもかかわらず、我が子をあやすという不可解な状況に囚われながらも私は確かに母性を感じていた。

「うぐ…………はぁっ、はぁ……はぁ……」

 目の前では触手たちによる執拗な攻めを耐えしのぎ生きも絶え絶えになっている執事がいる。無理もない、あの人外の刺激を受けて感じないということの方がおかしいのだから執事はごくごく正常といえるだろう。よかった、私の執事がもしも不感症だとしたら私は絶望の淵に苛まれることになっていただろうから。
 それと、私はやはり性格的に攻めるのが好きなのかもしれない。傲慢で高飛車で暴君気質のある私が防戦一方になるのは私自身考えることも出来ないし、攻め立てているときの胸の高鳴る高揚感が何よりもそれを証明していた。
 だけど……

「ねぇ執事……そろそろ、欲しいな……」
「はぁ……良かった、あのまま触手に嬲られ続けてたら間違いなく暴発ものでした、よ……ふぅ……」
「私は触手でペニスを縛って射精管理だとかはしないよ。だってホラ♪」
「お、おぉ……これは……」

 だけど……執事になら、責められてもいいのかもしれない。全てを圧倒し侵略する私であっても、一つくらい弱点があってもいいじゃないか、そう思った。
 私は跨っている執事から降り、ベッドに仰向けの形で倒れこむ。
 そうして私は、自らの触手で両足を開脚させ、右手を股間の割れ目、おマンコにあてがうと人差し指と中指で見せびらかしながら開いたのであった。
 ねちゃぁ、と排水溝の詰まったような水音を立てながら開かれる秘部はグロテスクでありながらも、そのほとばしる淫気は他の追随を許すことはない。見るだけで対象を幻惑させてしまうほどのを魔力が込めていると思しきそれは、執事の目の前で蛞蝓のようにヒクつき、どろどろの液体を常に放出し続けている。
 ごくり、と今度は執事の喉が鳴った。

「くくっ、どうせ暴発するなら、ココで……ね♪」
「〜〜〜〜っっ!!」

 執事の目は血眼になっており、流石の私も驚くほどに変貌していた。
 と、言うより……むしろ執事の目は白目の部分が黒に染まり、元々黒目だった部分が赤くなっていた。黒地がベースで赤い瞳が中心にある、そういった感じである。
 部屋に置いてあるドレッサーの鏡を見てみると、どうやら私も執事と同じような目に変わっているらしく執事とおそろいの瞳の色だと思うと何だか嬉しさがこみ上げてくる。
 黒地に赤の瞳だなんて一見すると邪悪そうなイメージであるが、私は執事と同じ目になっていると思うとそんなイメージは一気に愛くるしいイメージへと変貌してしまうのが愛情の素晴らしきところであり恐ろしきところでもある。
 恋は盲目とはよく言ったものだ。

「あ……姫様、足が……」
「んぅ〜?あら、やっぱこうなっちゃうわけねぇ」

 足先の感覚が鈍くなっているような気がしていたが特に気にすることはない。そう思ってはいたが、執事に指差されたのでどれどれと思い見てみると、なんと足のつま先部分から徐々に溶け始めていたではないか。
 爪から、皮膚から、更には骨までもがぐにゃぐにゃのどろどろになりゼリーのような半固形状の液体となり崩れ落ちていく。
 これには流石の私と執事も恐怖のあまり声を上げる…………ことはなかった。
 まるでそうなるのが当たり前であるかのように、ごく自然に受け入れ、むしろやっと始まったかと思えるくらいの心構えであったのだ。
 溶けた足先は私の粘り気ある汗と混ざり合い、新たな私の体の一部として形成されているようである。スライムのようでどこかスライムではない不思議な足は甘ったるい香りを撒き散らしている。

「怖がらなくいいんだよ、しつじぃ♪」
「いえ、あまりの美しさに……見とれていました」
「んふふふ♪ありがと♪」
「ッッ!!ひ、ひめさ、ま……その顔は……もう我慢が……」

 私の微笑みを目の当たりにした執事は黒と赤の目をらんらんと濁らせ苦しそうに胸を押さえ始めた。
 私の所有物である執事の今の気持ちなんて手に取るようにわかる。
 執事は今、こう考えているだろう。
 "主人と従者、そんな関係はもうどうでもいい。目の前のメスを、姫様を思うままに犯したい。種を植え付けたい。姫の所有物でありながら、姫を所有物にしたい"と。
 私にはわかる。彼の脳に植えつけたミクロの触手が脳の電気信号を読み取り私に伝えてくれるのだから。

「…………いいよ、辛いもの全部ちょうだい。吐き出しちゃいなさい♪」
「も、もうしわけ、あり……ませ……!!」

 歯をがちがちと鳴らしおぼつかない焦点で仰向けの私を捉えると、さらに大きくなったペニスを脈打たせながら私に覆いかぶさる。
 どぐんどぐんと胎動するペニス。もやはその大きさはヒトの領域を遥かに超え、魔物専用のサイズにへと変異してしまっていた。
 私が先ほど、執事のペニスを握った時に粘液と同時に触手を尿道へ侵入させたことを彼は知らない。彼のペニス内へと寄生した触手は海綿体へと移行しヒトならざる組織へと変異させているのだから、急激に増大したとしても納得できる話と言うものだ。
 彼自身は自分のサイズが変わったことなど今は考えられないようだけど。

「あはぁぁ……はやく、早くぅ♪♪またあの味を……」
「あの姫様、また、とは一体どう、いうこと、なのでしょ、うか」
「あぁそうか、言ってなかったねぇ」

 コレは私自身もつい先ほど思い出したことなのだが。
 実は私、執事とセックスを行なうのはこれが初めてのことではない。
 というのも、私が『寓胎の衣』を譲り受けた初日のことだ。あの日の夜明け、私は下着が驚くほど水浸しになっているのに酷く驚いたということがあっただろう。
 だが、それはただの寝汗ではなく、私の愛液と汗と執事の精液とが交じり合ったものだとしたら……?もとよりそのような行為の元で生じたごく自然の液体だとしたら?話は変わってくる。
 私はあの日の晩、場内が寝静まった頃、人目を掻い潜り執事の自室へと単身潜り込んだ。目的は明確、夜這いだ。
 腕力や体力では到底執事に適いそうもなかったので、私は得意の魔法で執事の四肢の自由を奪うと営みに励んだわけだ。当然抵抗されたがやはり人間というものは快楽に弱い。始めのうちは我慢していたようだが、一度吐き出してしまうと次からは我慢することを忘れていたようだ。
 あの日はなかなか激しかったな。それはもう獣のように貪りつくしたといっても過言ではない。
 そうしてコトが終わると、執事に夜這いの出来事を覚えていられるのは少々面倒なことになると思った私はこれまたお得意の魔法で執事の記憶を消去したのだ。私は当然覚えていたのだが、どうやら人間としての私も記憶を少々受け継いでしまったらしく時おり思い出しては困惑していたのもこれに所以するのだろう。
 完全に魔物となった私は記憶も完全に思い出し、こうして二度目のセックスをこれから堪能しようとしているわけだ……
 ということを簡単に執事に説明してあげると、彼は始めのうちは困惑な顔つきをしていたのだが、やがて全てを悟り半ば諦めたような顔つきで私を押し倒してきた。
 "初めてならば少しは加減してあげようとも思っていたが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。ならば自分も獣のように貪ろうではないか"と執事は頭の中でそう言っていた。

「姫様……入れ、ますよ」
「いいよ♪ほら……ココに……」

 人間だった頃の倍ほどのサイズになった執事のペニスは、膣口の前で我慢汁を垂れ流しながら私の秘部にあてがう。
 黒光りする巨大な亀頭、これが私の膣壁を引っかき回すのだろうと想像しただけで体が熱くなり、足もよりいっそう崩れていく。崩れた足はやがて大きなゼリー状の塊となって私と執事を包み込むような形となっていった。
 もはや私の足は膝の下からは完全に姿を失っている。


 つぷ……

「あぅぅ、ふぁ、ああ、あぁぁぁぁ……」

 ぬぷぷ……

 亀頭が、ペニスが入ってくるこの感覚。
 飲み込まれていくこの感覚。
 以前体験した感覚よりも遥かに熱くて大きい肉棒は私の意識を削り取ろうと掘削してくる。
 正直言うと、もう既に気絶してしまいそうなほど満たされている。がしかし、ここで気絶するにはあまりにももったいないと思った私は触手たちに引っ掻いてもらったり、抓ったりしてもらい別の刺激を受け取ることにより意識を保っていた。
 執事が腰を前に突き出すと、私の膣はそれを歓迎し奥へ奥へと飲み込んでいく。そして執事の陰毛と私の陰毛とが触れ合うと、あの巨大な肉棒が全て私の内部へと収まってしまった。

「ああぅぅぁぁぁはぁぁ……なんだこれ、なんだ、これぇ!♪?♪」
「そ、それはこっちの、セリ、フ……で、す」

 わかっているのにわからないと言ってしまいたくなるほど、その快感は凄まじいものであった。
 宙に浮く触手の先端がどろどろと粘液を滴らせる。精液の味を思い出したのか、まるでご飯の目の前にして待たされている忠犬のように唾液を流しているようだ。
 早く出せ。
 次はこっちだ。
 そう言わんとしているようでもある。
 執事が私のくびれを掴むと、ゆっくりとしたピストンが始まる。

「ひめさ、ま……これ、すごい、です……」
「あんっ、はぁ、えへ♪そう、でしょ、んっ……あっ!♪!♪」

 触手が急かしているのか、私自身が早く欲しいのかはわからないけれども、明らかに自分自身で膣の締りが強いと思えるほど彼のペニスと私のナカは密着していた。もしかしたら彼のペニスが大きくなり過ぎてしまったのかもしれない。
 でも、そんなことはもうどうでもいい。彼と、執事と一つになれた、その結果さえあればそれまでの過程など全て些細な出来事で済ませられる。
 
 じゅぼっ、じゅぼっ
 ずる……ずるるる……

 あぁ……キモチイイ。
 気が付けば一本、また一本と触手の数が増えている。
 どろどろな秘部に、どろどろな足に、どろどろな思考で執事とまぐわうことがどれだか心地よいものか、今改めて実感している。
 魔物とは、こんなにも気持ちの良い感覚を当たり前のように堪能していたのか。そう思うと羨ましく思い、また、今の今まで知っていながらも深く探求しなかった自分を愚かに思った。
 
「あふっ……ねぇ、こういう、のはどぉ?あはぁっ♪」

 触手一つ一つが生きているように、私の襞の一つ一つもまた生命を宿しているかのように私の内側で蠢き始める。四方八方張り巡らされた襞の壁は縦横無尽、変則的に動き回り、彼のペニスをなぞり舐め回し執拗に攻め立てる。
 裏筋、カリ首、竿、ペニスのありとあらゆる部分をその小さな舌で刺激すると、私の胎でびくびくと震える執事の姿が感じ取れた。
 執事を見ると、呼吸をするペースが徐々に速くなり、その体からは薄っすらと汗のしずくが流れ始めるのが確認できる。私の汗とはまるで違う、さらさらで塩気のある汗をべろり、と触手で味わうと尚更彼の呼吸が荒くなる。

「そういう、のはっ、ずるいで、すっ……はぁっぅ!!」
「んぅ、ふ、はっ、いいでしょ……あんっ、彼方は私の……モノ♪」

 ずじゅ、ぐじゅ、ぶびゅ
 ぶぢゅ、ずぞっ、ぐじゃ、

 汗と、液と、汁と、粘液と、唾液と、愛液と、我慢汁と。
 それら全てが混ざり合わさった私の下半身は醜悪な臭いと、見るものによっては邪悪や深淵さをも感じる色彩を彩りながら潤い、濁り、淀んでいた。
 手で触れようものなら指先が性感帯になってしまうほどの強烈な魔力を孕む私の下半身はあろうことか、私と執事のほぼ全身を覆い尽くしてしまっている。
 肌が擦れあうたびに快感の信号が脳まで響き、腰を打ち付けられる振動で全身が微弱な快感を覚える。毛穴という毛穴すべてが膣口になってしまったのかと錯覚するほど全身で感じる快楽に身をまかせ、喘ぎ声かも呻き声かもわからぬ音を発するのだ。
 その姿にかつてのヴァルレン王国第一王女の姿を重ねることは天文学的数字を並べても不可能であるだろう。
 ベッドの上でまぐわう私たちは、果たしてそれがベッドと言って正しいものなのかどうかわからぬ「液体まみれの台」の上で激しく前後に揺れる。

「んやぁぁぁ♪んやぁぅ♪んっはぁぁ♪」

 執事の打ち付けが更に速くなる。
 粘り気のあるくぐもった水音を弾かせながら、その剛直するものを私の内に差し込む。そこにあるのは純粋な快楽を求める獣の本能と、愛するものに種を付ける雄としての本能のみであった。
 より深く、より正確に、より多く、より優秀な子孫を残すために。雄は雌の奥へ奥へと挿れるのだ。白く粘ついた子種を注ぐために。
 幾度となく意識が途切れそうになるのを堪えてきたが、もうそろそろ限界が近いのを感じる。触手たちは狂い踊ったように目的もなく宙を舞っているところをみると触手たち自身も限界が近いのだろう。
 ――あるいは私の意識が途切れるのを虎視眈々と狙っているのかもしれない。

「ひぁ、あぁ、あぐっぅ……姫様……止まらなっ……」
「あぁ!いぃ!!んぅっ、んぁぁ♪ぁぁう♪」

 執事は私のくびれの押さえつけている手を、私の背に回し体と体が密着する体勢を取った。荒々しい吐息が私の耳にダイレクトに降りかかると、執事の限界もそろそろ近いものだということを感じさせる。目一杯押し広げられた膣口がミチミチと音を立て始め、搾精する準備へと取り掛かり愛くるしい彼を抱きしめる。
 快楽に押しつぶされそうになりながらも残り僅かな意識を触手に伝えると、彼らは動きを止め私の思うままに動き始めたようだ。
 触手は一本一本それぞれが別々の場所へと移動すると、私の上から覆いかぶさる執事の上に更に覆いかぶさり、そして私と執事とをより密着させるように縛り付けて始めた。太腿と太腿を、腹と腹を、胸と胸を、腕と腕を決して離れないように厳重に縛りつけ身動き一つ取れぬ状態にしてしまったのだ。
 ぬるぬると滑る感触であるのにもかかわらず決して解くことの出来ない拘束が、私と執事の興奮をよりヒートアップさせる。
 唯一動く部分は、一心不乱に打ち付けているお互いの腰のみである。それが即ち何を意味するかはもはや考えなくとも理解できることであった。

「ひめ、さま……これは……」
「くふふ♪これは、あはっ♪もうココに出すしか、ない……よねぇ♪」

 お互いは快楽と欲望の為にひたすら腰を振り続ける。しかしそれもいつかは限界を迎えることになる。
 私自身の独占欲を触手自身が上手く体現してくれたかのような拘束は、執事の欲望を吐き出す場所を強制的に指定するにはもってこいのものであった。稼動域の限られた腰の場所で精液を吐き出せる場所などもう私の胎内ただ一つしかありえないのだ。
 彼の巨大なペニスはただ腰を後ろに引くだけでは私の内からは抜くことは出来ない。手やら足やらを使って私との体の距離を置かなければ抜くことは適わないのだ。そして、それらの方法を触手の拘束により禁止させた今、執事は私からペニスを抜く手立ては完全になくなった。
 なれど止まらぬ腰のピストン。
 私の胎内から抜くことが出来ないペニスを快楽の為に振り続ける行為の果てに何が待っているかは、集約されたある一つの結果にしかたどり着くことはないのだ。

「あ……お……おぉぉ……おぉふぅ……」
「もっと……奥ぅ、ごんごん、あぁっ、あんっ……」

 それは、私の胎内に精液を放出させるという、魔物としては至極当然の行為の他ならない。
 こんな拘束などしなくとも、もとより執事は私のナカに出すつもりでいたらしいのだが、こればかりは私の趣味丸出しである。強制的に胎内に出さざるを得ない状況がこの上なく支配欲を描き立てられ、有無を言わさぬ私の抑圧に無理やり従わせているような感覚が脳髄を痺れさせる。
 あぁ、私はつくづく傍若無人で暴君なのだろうと身をもって実感していた。

「あははへぇぇ♪……すごいよぉ!おちんぽすごいぃ!」
「はっ、ぐぎぃ、おおおぉぉ、ひめ、さ……はぁっ!」

 もうお互いまともな言葉すら発することはできない。
 お互い黒と赤の目を見合わせると、言葉も交わさずに唇に喰らいつく。唾液を飲ませ飲まされ、執事の口腔に無理やり触手をねじ込み、私が舌を吸われ深い深いキスをする。
 幾度となく上下が逆になりそれでも止まぬ腰の前後運動に、私も執事も殆ど意識を失いかけていた。
 互いの瞳に互いの姿が映る。変わり果てたその瞳の先に愛する者の姿が映ると私と執事は言葉もなく頷き、ラストスパートへと取り掛かる。

「おおっぉ、うぐ、……あああぁぁぁひめ゛ざ、ま……もう、がま……」
「う゛ぅぅ゛あぁ゛♪えんっ、あうぅっ♪いいよっ……♪」

 そういうと執事のペニスが今までで一番の太さに肥大する。私の興奮と執事に巣食う触手とが呼応し来るべき射精の瞬間を察知したのだろう。魔物である私の膣すらも避けてしまいそうなほどの巨悪な太さになると彼の腰の運動は最終局面へと向かう。
 私を気持ちよくさせるための動きではなく、自らが最大最高の瞬間に射精できるように最大限まで精液を溜め留めるようなそういった腰の動きに変化している。私を確実に孕ませるための、無理やりにでも着生させるかのような雄の本能が今の彼を支配していた。
 私もすでに、考えられることは彼の精を受け入れて全てを貪ることしか考えられないでいた。
 もう何も考えられない。
 見えるのは目の前の執事だけ。

「はあ゛っ!!ひめさ、ま゛っ!もう、駄目……でッ……!!」
「だし、てぇ♪!しつじのっ……種、ちょうだ、いっ……♪あああぁっ♪」

 



 そしてついに、望んでいた瞬間が訪れる。
 執事のペニスが一度大きく膨らむと、その膨らみは根元から前方へと押し出される形となって。
 そして先端まで行き――全てを吐き出した。




「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!♪♪♪」
「はっ、うっ、ぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」




ぼぐんっ!
びゅるるるるるるるる!!
びゅぐっ、びゅくっ、どくっ
ドクッ、ドクッ、ドクッ…………

 私と執事は体液に塗れながら同時に果てる。
 執事の先端からは恐るべき量の精液が放出され、私の内部へと注ぎ込まれていた。私はそれをこぼしたくないと思うと、体が自然にそうなるように働いて、子宮口や膣口がぎゅっと強く閉じられたのを感じた。
 私の体液よりも更に粘り気のある精液は、約1分ほど私の中に放出され続け、全てが出尽くしたと思われるのはそこから更に2,3分後のことであった。その間私と執事は言葉を発することもなく、ただただひたすらに人知を超越した快楽に没頭していた。いや、言葉を発する余裕もないほど快楽に圧倒されていたというほうが正しいのだろう。

「はっ゛ー、はーっ゛……うぐっ……はぁっ、はぁ……」
「あああああうあうあうあははは……うへへへぇ♪」

 お互い全力を出し合い、気の抜けた呆け声を出すしか出来ない。
 触手は未だ互いの体を離すことなくしっかりと捕縛していたが、私が脳内で命令すると彼らは私の言うとおりに拘束を解き放った。
 まるできかん坊のわがまま小僧から、忠実な僕へと変化したかのような、そんな雰囲気の変わりようを感じる。これからは彼らは私の意志で動く忠実な手足なのだ、純粋に腕が十数本増えただけではないか。なんのことはない。
 膣から執事のペニスを抜くと、あれほど大量に放出された精液の一滴すらも零れ落ちることはなく私の体液がごぼごぼと泡を立てているだけであった。そのおかげで私の腹は妊婦と見まごう事なきほどに膨らみ、今にもはち切れそうなほどである。

「んうふふふ♪執事ぃ、たくさん出しすぎ……♪」
「姫様が……魅力的すぎるから、悪いんです……はぁっ……」

 もう私の口調は以前の暴言やジョーク交じりのものではなくなり、素直に本音を発するただの女となってしまった。だがこれは、執事の前でのみ見せる本当の私の姿なのだろう。一国の姫という殻を捨て去った一人の女としての私が彼の前で見せるありのままの姿。

「♪♪♪あぁ美味しい……執事の精液はやっぱり格別っ」
「姫様に言っていただければ……光栄です」
「あ、その姫様って言うの禁止♪これからはちゃんとメリアって呼んでね。命令だから♪」
「はぁ……仰せのままに」
「うん決定♪私はこのまま彼方のことは執事って呼ぶからね♪だってそっちのほうが呼びやすいしぃ」
「なんという、不平等」
 
 などという他愛もないピロートークを済ませる私たち。
 すでに瞳が人間のそれではなくなってしまった執事と、外見全てが魔物と化してしまった私は城の一角で深く愛し合う。奈落の深淵よりも更に深い、どろどろとした濁りの中で一寸の光すらも射すことのない黒い欲望を抱きながら。



 私はこれから、この国の国王、女王として君臨しなければならない。
 他国から甘く見られることのない、真の征服侵略国家としてヴァルレンをより発展させる義務が私にはあるのだ。
 人と魔物が平等に愛し合うことの出来る、差別のない栄光の国家を築くために私は指導者として立たなければならない。
 そのためにはしっかりとした礎を作る必要がある。いらないものを省き、必要なものを抽出する選別を行なわなければならない……ふふふ。今から考えるととても楽しみだ。
 しかし今はそんなことを考えているよりも――

「ふふっ……ねぇ、まだカタいよ?」
「あれだけ出したのにまだこんなに……魔力とは恐ろしいもの、です」
「いいよ……また挿れても♪私もまだまだ、足りないの……」

 さすさす、と執事の股間を擦ると少ししぼんでいた肉棒は再び先ほどの大きさを取り戻し、まるで射精などなかったかのように赤黒く聳え立つ。
 何度も何度も何度も精を出され、幾度となく絶頂を迎えるその果てに待っているものはきっと輝かしい国家の繁栄があるに違いない。そう信じて止まない私は触手を絡ませ執事を手繰り寄せると、先ほどと同じような体勢を取り性交の準備を始める。
 飽くなき渇望と欲望の果てに私と執事は今このときだけは時間を忘れ、互いの存在を認め合い深く愛していくのであった。

 この触手があれば全てを手に入れられる。
 叡智、名声、国家、種族、財宝、土地。そして生命さえも。
 期待と希望に高まる胸を落ち着かせ、私は自由に動く触手で執事を撫でる。
 
 ごぼっ、

 という音を立てて彼のペニスがもう一度私の中に入ってくると、私たちは再び獣のように猛り互いを喰らい尽くす。

 ごぼっ、

 という音を立ててヴァルレンは崩れ――
 そして新たなる国家が始まりを告げる。
14/05/19 02:17更新 / ゆず胡椒
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