読切小説
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桃源郷の悦楽
 川の両岸に桃の花が咲き乱れていた。ゆるやかに流れる川面に、薄赤い花が映っている。その川面を、一隻の小舟がゆっくりと遡っている。
 小舟には、二人の者が乗っていた。一人は若い男だ。何の変哲もない青い服を着て、のんきな表情で桃の花を眺めている。ただ、その顔にはどこか険しさがある。もう一人は異形の女だ。手足は黒と黄の縞の毛皮で覆われ、尻には同色の毛で覆われた尾が付いている。茶色の髪がたなびく頭には、獣毛の生えた耳がついている。彫の深い美貌は、若さと精悍さに溢れている。彼女は、辺りに油断なく目を配りながら櫂を漕いでいる。
「まるで桃源郷だな。このまま下らない世を離れる事が出来そうだ」
 男は楽しげに笑う。
「本当に桃源郷に行くかも知れぬな」
 虎の特徴を持つ女が無表情に言う。怪訝そうに女を見る男に、女は川上を指さす。川上からは、白い霧が漂ってくる。
 男は険しい顔で笑い、女は刺すように霧を見る。霧は桃を映し出す川面を覆い、そして二人を飲み込んだ。

「俺達は、あの世へ来たのか?」
 男は、目の前の光景を見てつぶやく。女は答えずに、目の前の光景を刺すように見つめ続けている。
 彼らの態度は、当然のものかもしれない。霧から抜けた所には、一面の桃の花が見えた。何百、あるいは何千と言う桃の木が辺りに広がっているのだ。見渡す限り、薄赤い花が広がっている。その花の中を、川が流れている。
「お前の言う通りだとすると、あそこは死者の住みかという事になるな」
 人虎である女は、緊張感を隠さずに言い放つ。男は、女の視線の先を見る。桃源の最中に、人家の集まりが見えた。近づくにつれて、その人家は数百に上ることが分かる。朱色の柱と白壁、そして瑠璃色の屋根瓦の目立つ建物が並んでいる。
「どうする?」
 男は、声を低めて尋ねる。
「行くしかあるまい。もしかしたら目的の地だ」
 女のそっけない言い方に、男は軽く笑う。
 集落には船着き場があり、虎の特徴を持つ女は船をつける。二人は岸に降り、集落とそれを取り囲む桃の木を見つめた。

 二人は、里長の家へと連れていかれた。里長の家は、他の家より少し大きい程度の物だ。だが、他の家同様に朱塗りの柱と白壁、瑠璃色の屋根瓦が美しい。桃源郷にふさわしい瀟洒な家だ。
 二人は、長の待つ一室へ案内された。その一室も、朱塗りの柱と白壁が映えている。その一室には、二つの調度が置いてある。一つは、狐と人が戯れている姿を描いた絵だ。もう一つは、虎に人が跨っている姿を描いた青磁の置物だ。調度品に詳しくない男と人虎の女にも、良い品だと分かる。部屋の中に過剰な装飾品が無い所が、品の良さを感じさせる。
 里長を見た瞬間に、二人に緊張が走った。里長は若い女だ。だが、人ではない。妖艶な顔は人の物だが、獣毛に覆われた尖った耳が頭に付いている。柔らかそうな獣毛の生えた五本の尾が、女の背後で蠢いている。里長は、妖狐と言う魔物だ。妖狐は、尾の数で格が決まる。五本の尾を持つという事は、かなりの実力者だ。
 里長は、愛想良く挨拶をした。だが、対する男と人虎は固さの取れない挨拶をする。妖狐は、実力者ともなると国を覆す事すら出来る。緊張するなと言う方が無理だ。一通り挨拶と自己紹介が終わると、里長は切り出す。
「どうぞこの里でおくつろぎ下さい。私達は、あなた方を歓迎します。あなた方が望む時まで、この里にご滞在ください」
 里長は、朱を塗った唇の端を吊り上げる。
「私どもは来る者は拒まず、去る者はどこまでも追いかけますので」
 男と人虎は、素早く視線を交わして身構える。
「冗談でございますよ。この里に閉じ込めたりしませんのでご安心下さい」
 里長は、艶麗な顔に笑みを浮かべる。男と人虎も笑みを浮かべるが、緊張は解けていなかった。

「さて、どうする瑞麗?」
 二人にあてがわれた家に入ると、男は人虎に尋ねた。
「ここが桃源郷ならば、居るのも良いだろう。そろそろ一つの所に落ち着きたいところだった」
 瑞麗と呼ばれた人虎は、部屋の中を見回しながら答える。あてがわれた家は、良い造りで清潔だ。
「桃源郷に見せかけた地獄で無ければ良いのだがな」
 瑞麗は皮肉な笑いを浮かべる。
「桃源郷に見せかけているだけマシさ。地獄である事をむき出しにしている所が多いからな」
 男は吐き捨てる。
「では、ここに居るつもりか、鉄林?」
 尋ねる瑞麗に、鉄林と呼ばれた男は軽く笑いながら答える。
「居るつもりさ。糞みたいな所を歩くのには飽きた。それに桃の実を食いたい」
 鉄林の答えに、瑞麗は呆れたように、そして面白がるように笑った。

 鉄林と瑞麗は、里で暮らし始めた。家だけでは無く、畑も貰う事が出来た。里は、新たな人手を必要としているからだ。鉄林は以前農民であり、畑を耕す事は慣れている。瑞麗は武闘家であり、里の警護の仕事に就いた。警護の仕事が空いている時は、鉄林の手伝いをしている。
 里は、人と魔物が共に暮らしており、両者の関係は友好的だ。人と魔物が夫婦になっている場合が多い。里は農業が主であり、他の土地に比べて豊かな実りが得られる。権力者による収奪は行われておらず、住民は豊かだ。
 里は、他の土地から隠れている場所にあるため、国や権力者の手は及ばない。里の者が外へ出て商売をする事はあるが、外の者は滅多に中へ入り込まない。里の者が許可した場合だけ入る事が出来る。つまり鉄林と瑞麗は、里の者の意思で入る事が出来たのだ。ただ、里の者が二人を受け入れた理由は、二人には分からない。
 二人は、次第に里の者と親しくなっていった。この里の者は外の者を排除しているが、いったん受け入れた者には愛想が良い。鉄林と瑞麗にも好意的な態度を取った。鉄林と瑞麗も、里の者に関わっていった。
 二人が特に興味を持った者は、里の者に「五柳先生」と呼ばれる男だ。見たところ普通の中年男だが、どこか若々しさと老成が混ざり合っている者だ。すでに何百年と生きているそうだ。魔物と交じり合った人間は、魔物並みの長命を得る事が出来る。彼は、西の大陸から来たドッペルゲンガーと言う魔物を伴侶としていた。
 五柳先生は、里では畑を耕して暮らしていた。無類の酒好きで、仕事が終わると毎日のように酒を飲む。彼は、時折詩を作るために「先生」と呼ばれている。彼の作る詩は、幻想的なものが多い。彼の伴侶であるドッペルゲンガーは、形と影と神の三者が討論する詩を好んでいる。
「この詩を読むと、僕の事が書かれているような気がするんです」
 ブリュームヒェンと言う名のドッペルゲンガーは言った。
「僕の体はこの通りちっぽけです。でも僕は、影を使って人の望む姿になれるんです」
 ブリュームヒェンは小柄な少女だ。それが見る見るうちに、背が高く均整の取れた身体つきの大人の女となる。華やかな顔立ちとなり、黒髪は豪奢な金髪と変わった。
「本当の僕は立派ではありません。欲望にも弱いんです。そのダメな僕を、立派な影が責め立てるんです」
 華やかな美女は、元の小柄な少女へと戻る。
「でも神は、形の言う事も影の言う事も違うのだと諭します。ダメな自分を押し通しても仕方ないし、無理に立派な事をしても無駄だと言います。ただ、自然に生きる事が良いのだとたしなめます」
 ブリュームフェンは、可愛らしい笑みを浮かべる。
「自然に生きろと言っても、かえって難しいかもしれません。でも、この里でなら出来そうな気がするんです」
 そう言って、ブリュームフェンは里を見渡す。桃の花が咲き誇る中、静かな風が吹いている。
 五柳先生は、何も口を挟まずに聞いている。ただ、照れくさそうに頬を掻いていた。

 この桃源郷では、自然に生きる事が良いとされる。下手な人為は、ろくな結果を生まない。その意味では脱俗的な里だ。
 ただ、性に対しては積極的だ。性欲は自然なものであり、それを満たす事は良いのだそうだ。この辺りは、いかにも魔物の里らしい。
「いくら性が自然なものでも、あれでは変態だ」
 瑞麗は、呆れながら畑を見る。畑では、男とその妻であるカク猿が堂々と交わりあっている。畑仕事の最中に交わりたくなったらしい。男は、猿の魔物娘であるカク猿を四つん這いにしている。そしてその赤い尻を手で揉みほぐしながら、後ろから貫いている。カク猿は、甲高い喘ぎ声を上げている。この里では普通の光景だ。
「いいじゃないか。楽しそうだ」
 鉄林は、本当に楽しそうな顔で交わりを見ている。
「人のいない所でやれば良いだろ。そして普通の交わりをすればよい」
 瑞麗は顔をしかめる。この里の者は、長生きの者が多い。魔物の女は何百年も若い体であり、その夫となった人間も同様の体となる。つまり性欲がみなぎる体で何百年も生きている訳だ。その為に、彼らは性技の探求に熱心だ。変態呼ばわりされても仕方のない事を平気でやる。
 先ほど通ってきた桃園では、大熊猫の魔物娘であるレンシュンマオが、木に逆さ吊りになった状態で夫と交わっていた。二人は互いに体を縄で縛り、木から吊るされた状態となっていた。その状態で盛んに腰を動かして交わっていたのだ。
 二日前には、里長である妖狐が白昼の路上で夫と交わりあっていた。里長は、足から腰まで深い切れ込みのある赤い服を着て、服をまくり上げて下半身を露出していた。その状態で四つん這いになり、後ろから夫に責め立てられていた。夫は、里長の尻の穴に男根を深々と埋めていた。二人はつながり合ったまま、路上を走り回っていたのだ。
「自然である事と変態である事は別だろ」
 瑞麗は渋い顔で吐き捨てる。鉄林は、瑞麗を抱き寄せる。
「そうだとしても楽しい事には変わらないさ。俺もそろそろ楽しみたい」
 鉄林の言葉に、瑞麗はため息をつく。
「お前は元から変態だったが、この里に来てからますますひどくなった」
 瑞麗の悪罵に、鉄林は何も答えない。ただ、瑞麗の首筋を舐める。
「待て、やらせてやるから誰もいない所へ行こう」
 瑞麗は鉄林を引き離し、ため息混じりに言った。

 二人は、桃園の奥へと入り込んだ。そこには他の魔物はいない。だが桃園は、魔物が交わるために好んで入り込む場所だ。瑞麗は、落ち着かない態度で辺りを見回す。
 鉄林は、瑞麗の耳を舐めながら髪の匂いを嗅ぐ。豊かな長い髪に顔をうずめ、深呼吸するようにその匂いを嗅ぐ。瑞麗は見回りの後、日課の鍛錬を行った。鉄林は、体を洗う間を与えずに瑞麗をこの桃園へ引き込んだ。瑞麗の汗で濡れた体は、甘い匂いがする。
 瑞麗は、胸と下腹部を鉄と布の服で覆い、虎の形をした鉄の肩当てを付けているだけの姿だ。体の大半をむき出しにした状態であり、筋肉の発達した体をさらけ出している。鉄林は、瑞麗の体を愛撫する。獣毛の上から腕の筋肉を、むきだしの腹筋や太ももの筋肉を愛撫する。硬く弾力のある瑞麗の体は、鉄林に確かな感触を与える。
 瑞麗は、鉄林が自分の体の匂いを嗅ぐのを見て、呆れたような顔をしていた。だが、体を愛撫されるにつれて、瑞麗の顔は赤みがかってくる。瑞麗の息も次第に荒くなる。
 鉄林は、瑞麗の右腋に顔をうずめた。音を立てて匂いを嗅いだ後、汗で濡れたくぼみに舌を這わせ始める。舌をゆっくりと、そして執拗に這わせる。腋の匂いと味を十分に堪能すると、鉄林はやっと顔を離した。
 鉄林は服を脱ぎ捨て、股間を露わにする。その男根は、すでに怒張して先端から透明な液を漏らしていた。鉄林は、瑞麗にしゃがんで右腕を上げろと言う。瑞麗はやれやれと言いたげに頭を振り、言われたとおりにする。鉄林は、唾液と汗で濡れた腋に男根を擦り付けた。
「まったく、ここへ来るまでは腋で男根を扱く事など想像もしなかった。お前も、せいぜい腋を舐めるくらいだった。この里は、すっかりお前を変態にしてしまった」
 顔を赤くして必死に腋に男根を擦り付ける鉄林に、瑞麗は咎めるような顔をする。だが鉄林は、構わずに腋の感触を堪能する。鉄林は、この里で研究されている性技を貪欲に学び、瑞麗相手に実践していた。鉄林は、腋を締めて男根を挟めと瑞麗に言う。瑞麗は、苦笑しながら腋で締めてやる。
 鉄林は、先ほどまで農作業をしていた。その後、体を洗わずに瑞麗の体を貪っている。鉄林の股間は蒸れており、強い臭いを放っている。
「男根の臭いと腋の匂いが混ざり合っている。下品な臭いだ」
 瑞麗はそうぼやくが、楽しげな顔で腋に顔を寄せて臭いを嗅いでいる。何だかんだ言っても、瑞麗もすでに変態の仲間入りをしていた。
 鉄林は呻き声を上げると、瑞麗の右腋に白濁液をぶちまけた。人間離れした量の精液が、瑞麗の右腋から右胸、右腕を汚す。鉄林は、瑞麗と交わり続けた事により魔物となっている。精力も人間離れしているのだ。刺激臭を放つ子種汁が、瑞麗の体を染めていく。
「腋についた精液を舐め取れ」
 鉄林は、瑞麗に鼻息荒く要求する。瑞麗は鉄林を睨み付けるが、ゆっくりと舌を腋に這わせる。腋を染める白濁液を舐め取っていく。その様を見る鉄林の鼻息は、さらに荒くなっていく。
 鉄林は、地面に仰向けに寝転がった。鉄林の男根は早くも回復し、白濁液で汚れた状態でそり返っている。鉄林は、瑞麗にうつ伏せになって男根を舐め、瑞麗の女陰を舐めさせる事を要求する。瑞麗は、汚れた男根を初めはゆっくりと、次第に激しく舐め回す。そして下腹部を覆う鉄と布の服を脱ぐ。鉄林の顔に女陰を押し付ける。
 瑞麗の女陰からは蜜が絶え間なくあふれ出し、濃い陰毛は濡れそぼっていた。濃密な匂いが鉄林の鼻を犯す。鉄林は舌をねっとりと這わせて、味と感触を楽しむ。鉄林が舌を這わせるたびに、瑞麗は喘ぎ声を上げる。その声を聴くたびに、鉄林の舌使いは力がこもる。
 鉄林は顔を動かし、瑞麗の尻を見上げた。瑞麗の尻を愛撫すると、筋肉で引き締まった感触がする。その尻の上で、黄と黒の縞模様の尾が跳ねるように動いている。尾の下には、薄赤い窄まりがある。鉄林は、その窄まりに舌を這わせ始めた。
 瑞麗は声を漏らし、体を強張らせる。鉄林は、かまわずに窄まりを舐め続ける。そして窄まりに生えている毛を、唇で咥えながら引っ張った。瑞麗は唸り声を上げる。
「この変態め。どこまで私を嬲るつもりだ。私を甘く見るな」
 鉄林の尻穴を快楽が襲った。瑞麗がお返しとばかりに舐めているのだ。鉄林の尻穴の中へ舌を潜り込ませたかと思うと、尻穴の毛を口で引っ張る。陰嚢を口に含んで睾丸を舐めころがし、男根を肉球の付いた手で扱く。鉄林は、負けずに瑞麗の尻穴の中に舌を潜り込ませながら、瑞麗の女陰を指で愛撫する。
 先に果てたのは瑞麗だ。勢いよく透明な潮を吹き、鉄林の顔に浴びせる。濃厚な臭いのする暖かい液で鉄林の顔が覆われる。そのとたんに、鉄林も果てた。鉄林の男根から精液が放たれ、人虎の彫の深い美貌を白く汚す。二人は、快楽の渦の中で痙攣し、欲望の証である液を放ち続ける。
 痙攣は次第に収まっていった。雌虎はゆっくりと起き上がる。その顔は、鼻から口まで白濁液で覆われている。雌虎は舌を伸ばし、口の周りの子種汁を舐め取る。人虎の体は汗で濡れて、官能的な光を放っていた。地面に横たわる男を、獣の目で見つめている。
 男もゆっくりと立ち上がり、人虎と向き合う。そして無言のまま近寄り、人虎の体を抱きしめる。汗で光る胸に顔を埋め、舌を這わせて汗を舐め取る。そのまま顔を上げて人虎の口に吸い付く。精液の臭いや味がするにもかかわらず、雌虎の口を貪る。
 男は人虎と舌を絡み合わせながら、男根を腹筋に擦り付けていた。鍛えられた腹の感触で、大量に精液を放った男根は回復していく。腹筋の感触を堪能すると、今度は太ももに男根を擦り付ける。人虎の太ももは、他の箇所同様に筋肉が発達している。その硬く引き締まった所を男根で楽しむ。人虎は、自分から太ももを押し付けて男に快楽を与える。
 男は、雌虎の蜜壺に男根を埋め込んだ。たちまち男根は、濡れた肉の渦に奥へと引き込まれ、締め付けられる。男は蜜壺を楽しみながら、人虎の左腋に舌を這わせる。汗で蒸れた腋を口で、鼻で、顔全体で感じる。腋は男を興奮させ、男根をたぎらせた。男は、凶暴なほど興奮した男根を奥へと突き進ませる。
 男と雌虎の悦楽の時間は、終わりそうにない。

 二人は、里になじんでいった。鉄林は、初めから里を楽しむ気であった。桃源郷であればよいし、桃源郷のまがい物であっても楽しんでやろうと考えていた。瑞麗も、文句を言いながらも里を楽しんでいた。里は、外の世界よりは良い事を認めていた。
 衣食住が保証され、良好な対人関係を結ぶ事が出来る。性の歓楽を思う存分楽しむ事が出来る。外の世界の害悪から守られた美しい桃園で生活出来る。二人が望む世界であり生活だ。
 こうして二人の異邦人は、桃源の里の中に溶け込もうとしていた。

 桃源の里で、祝宴が行われる事となった。新しい里の住人達を迎え入れるためだ。
 新しい住人達は、逃散した農民達だ。彼らがいた地方は豊かな実りを得られるが、地主と役人によって激しい収奪が行われていた。地主は次々と蔵を立て、小作人たちは次々と餓死していく有様だ。この惨状に耐え兼ね、その地方では逃散が起こったのだ。
 人間だけで行われる逃散は、大抵悲惨な結末を迎える。だが、逃散には魔物が関っていた。魔物達は、逃散した農民達を自分たちの隠里に受け入れた。あるいは、共に流民として生きていく事にした。この桃源の里でも、逃散した者の一部を引き受けたのだ。
 祝宴は里を挙げて行い、酒池肉林の宴にするそうだ。魔物は、地主達の蔵に忍び込んで大量に金品を盗みだしている。その金を費用にして祝宴を行うのだ。
 鉄林は祝宴の準備をしながら、この桃源の里に来るまでの事を思い出していた。

 鉄林は、元は国の北部で生まれた農民だ。鉄林の生まれた土地は、大河のおかげで豊かな実りのある土地だ。だが、激しい収奪により大半の者が貧しい生活をしている。餓死者も珍しくは無い。
 鉄林の家は、元は自作農だった。だが、貧困の挙句、鉄林の幼い時に小作人へ転落した。国は、大規模な土地を所有する地主を優遇する政策を進めている。その為に、多くの自作農が小作人へ転落し、鉄林の家も小作人へ落ちたのだ。
 鉄林は、家族と共に地主から収奪され、虐げられてきた。かろうじて生きてきた。だが、鉄林のいる地方では普通の事だ。他の小作人も虐待されている。鉄林は、同じ村の者が餓死する事を見慣れていた。
 役人は、地主の側についている。地主の収奪や虐待を訴えて、無視される事はまだマシな方だ。「犯罪者」と見なされて投獄される事が多い。取り調べの際の拷問で死ぬ者も珍しくないのだ。
 窮状に耐え兼ねた農民達は、反乱を起こした。国は、すぐさま鎮圧に取り掛かる。ただ、国軍の兵を使う事はもったいないと考えた。そこで、貧しい農民や都市の下層民から兵を募集したのだ。少しばかり金を与えれば兵になる困窮者は多いのだ。
 鉄林も、兵の募集に応じた。鉄林は、初歩的な訓練を暴力と共に受けると、さっそく戦場へ投入された。そして最前線へ叩き出された。戦い方のろくに分らない農民と弱兵が殺し合いをするのだ。監視の為にいる国軍の兵達は、悪意を込めて笑っていた。
 鉄林は、同じ部隊にいる者と脱走する事を画策した。だが、国軍の兵が監視している。脱走しようとした者は、全身を切り刻まれた挙句、その死体を腐るまで晒される。鉄林は、その惨状をすでに見ていた。そこで、戦いの最中に脱走する事にした。
 戦いは醜悪を極めた。士気の上がらない反乱鎮圧軍は、反乱軍に押されていた。そして崩れていった。国軍の兵は退却を押しとめようとするが、上手く行かない。ついに国軍の将軍は「督戦隊」を出した。退却する兵達に矢を射て、無理やり敵と戦わせるための部隊だ。味方に矢を射られたために、反乱鎮圧軍は大混乱に陥る。戦場には、自軍の督戦隊に射殺された者、自軍に踏み殺された者が血泥の上に大量に転がっている。
 この混乱の最中に、鉄林達は脱走を決行した。督戦隊の矢を避けながら、脱出路を阻む国軍兵達に忍び寄る。鉄林は、他の兵の陰から槍を突き出す。槍は、国軍兵士の首に刺さる。鉄林はそのまま槍を押し入れ、力を込めて槍をひねる。そして勢いよく抜く。
 鉄林は、初めは戸惑った。人を刺すのはそれが初めてなのだ。初めて味わう感触に、首から勢い良く吹き出す血に戸惑った。
 だが、次の瞬間に歓喜が湧き上がった。全身に快楽の震えをもたらす歓喜だ。自分の手で人を殺すという充実感、憎んでいる者が血みどろになって地面を転がる姿を見る楽しさ。
 鉄林は笑った。腹の底から笑った。生まれてからこれほど本気で笑った事は無かった。
 鉄林は苦労して笑いを収めると、脱出に取り掛かった。邪魔する者は、槍で突き殺す。殺すたびに歓喜の震えが全身を走った。快楽に震えながら、鉄林は戦場から、軍から脱出した。

 鉄林は、軍から脱出した後は共に脱出した者達と盗賊になった。彼らは、いずれも小作人や貧農だった者だ。元の生活に戻りたくなどない。それで盗賊になったのだ。
 鉄林達は戦場から南下し、都市に近い農村地帯に住み着いた。そこで生まれ育った者がおり、彼の土地勘が役に立つ所だ。その地域を移動しながら盗賊を続けた。
 襲撃する相手は、地主や商人達だ。大地主や大商人は、大勢の護衛を付けているから襲撃出来ない。だが、中小の地主や商人ならば襲撃出来る。鉄林達は襲撃を繰り返し、逆らう者は殺して金品を奪った。
 その上で、その地域の小作人や都市の下層民に、奪った金品の一部をばらまいた。そうすると、彼らが地主や商人の動向を教えてくれるのだ。時には、役人の動きを教えてくれた。鉄林達は、彼らの情報を元に襲撃を繰り返した。
 盗賊となって一年たった頃、鉄林達は商人の情報を手に入れた。絹の売買をしている商人がおり、取引の為に絹を運んでくるそうだ。鉄林達は、これを襲う事にした。護衛は五、六人程度だ。鉄林達は十三人おり、相手を圧倒できる。それに、奪った絹を買ってくれる闇商人とも、渡りをつける事が最近出来た。
 鉄林達は、街道沿いにある林に隠れて商人達を待ち構える。手に槍や剣を構えて息をひそめる。いずれも血で濡れてきた槍であり剣だ。興奮に目をぎらつかせながら待ち続けると、標的である商人達がやって来た。
 二台の荷車を運んできており、その周りに八人の者がいる。武器を持った者は五人ほどだ。その五人が護衛らしい。
 鉄林は、彼らが奇妙である事に気が付く。五人とも長衣を着て、体をきちんと覆っている。帽子を深くかぶり、あるいは頭巾で顔を覆っているために顔が良く見えない。鉄林達は、襲撃するか否か迷う。
 鉄林達は襲撃する事に決めた。鉄林達の方は、数が優っているのだ。この好機を逃す気は無い。鉄林達は、荷車が通り過ぎようとした時に突き出て、護衛達の後ろから襲い掛かった。鉄林は、無言のまま槍で突きかかる。
 護衛達が動いた。鉄林は声を漏らす。動きが人間離れしている。護衛達は、瞬時に反撃へ移る。鉄林は、自分に向かってくる大柄な者に槍を突き出す。その者は槍をかわすと、手刀で槍を弾く。よろける鉄林の懐に飛び込み、みぞおちに拳を叩きこむ。
 鉄林は、激しい衝撃と共に息が詰まる。次の瞬間に、胃中の物を口から噴出する。地面にかがみこむ鉄林の頭に衝撃が襲う。
 鉄林の意識は闇に飲まれた。

 気が付くと、鉄林達は捕えられていた。彼らを捕えたのは魔物達だ。鉄林達は、魔物の罠にかかったのだ。
 魔物達は、都市の下層民に自分達の情報を流させた。ただし、魔物ではなく人間だという偽情報と共にだ。そして魔物である事を隠しながら、鉄林達の襲撃を待ち構えた。鉄林達は、まんまと引っかかった訳だ。
 鉄林は、これで自分の人生は終わったと覚悟した。だが魔物達は、鉄林達を役人につき出そうとしない。おかしな事に、盗賊の中で魔物に殺された者もいない。いぶかしがる鉄林の前で、魔物達は戦利品の分配を始めた。
 戦利品は鉄林達だ。魔物達は女であり、盗賊男達を自分のものとして分配したのだ。鉄林は、自分を倒した人虎のものとなった。その人虎は瑞麗だ。
 瑞麗は、鉄林達を捕えると商人達から離れた。鉄林達を捕えるために商人から雇われたのだ。もう契約は終了であり、金と鉄林を報酬として商人の元から去ったのだ。
 この後に鉄林は、瑞麗に大陸中を引きずられていく羽目となった。瑞麗は、大陸中を旅して歩いているのだ。旅先で護衛や盗賊退治を行う事で金を稼ぎ、その金でまた旅を続ける。瑞麗はそのように生きてきた。鉄林は、瑞麗の相棒として協力する事を強要された。
 瑞麗の態度は奇妙なものだ。鉄林を自分の元に拘束し、決して逃がそうとしない。その一方で、虐待するようなまねはしない。まるで、自分の元に絶えず置いておかねばならない愛玩物のような扱いをするのだ。
 鉄林は、瑞麗と旅をする事で自分の国の実態が分かった。異常なまでの豪奢と目を覆う貧困が、国全体で同居している状態なのだ。
 国は、大地主や大商人を優遇し、貧困層を初めとする民衆を虐げる政策を行っていた。競争を盛んにし、弱肉強食を推し進める事で国に活力がある状態にしようとしたのだ。国の狙い通りに経済は盛んになった。富裕層は、莫大な富を手にする事が出来た。同時に、貧困と格差は異常なまでに広がった。国中で、餓死者と餓死寸前の者があふれる事となったのだ。
 その状態では、治安は当然の事として乱れる。治安悪化に対して、国は対策を行った。富裕層の安全のために力を尽くし、民衆には自衛を強要した。要するに、弱者を見殺しにした訳だ。
 しかも国は、富裕層を守るためには手段を選ばなかった。富裕層の者が犯罪の被害にあうと、民衆を容疑者として大量に狩り立てた。捕える最中に殺される者がほとんどであり、実質的に大虐殺を行っている。生きて捕えられた者も、取り調べの拷問でほとんどの者が死ぬ。何とか受刑者となるまで生き残れた者も、強制労働と虐待で容易く死ぬ事となる。
 鉄林と瑞麗は、この惨状を嫌と言うほど見てきた。何処へ行っても悲惨を目の当たりにした。ある時、酒を飲んだ瑞麗がつぶやいた。
「盗賊は、本来悪のはずだ。だが、この有様を見ると、盗賊になる奴の方がまともに見える」
 二人は旅を続けた。鉄林は、旅に意味を見出せない。鉄林を導いている瑞麗すら、旅の意味を見失いつつある。
 そんな時に、桃源郷の噂を耳にした。桃源に囲まれた里が有り、人と魔物が苦しみのない生活をしていると。
 二人とも、噂をまともに相手にしなかった。しょせんは、苦しむ弱者が作った夢物語だ。根拠なんて何処にも無い戯言だ。神や仏と同じだ。救いを求めて、無いものを信じているだけだ。
 だが、悲惨の広がる世界を見続けるうちに、二人は信じたくなってきた。もしかしたらと言う思いが、心の中を占めてきた。その挙句、桃源郷の噂がある地に来て、川登りをしたのだ。
 鉄林も瑞麗も、まさか本当に桃源郷があるとは思わなかった。

 鉄林は、桃源を見渡しながら自分の今の状況を笑う。俺は、夢の世界にいるようなものだ。この夢はいつ覚めるか分からない。だったら、楽しめるうちに楽しもう。鉄林は、声を立てずに笑う。
 鉄林は、宴の準備を再開する。これから楽しい饗宴が始まるのだ。楽しまなくては損だ。鉄林は、笑みを浮かべたまま作業を続けた。

 酒池肉林の宴が始まった。桃源の中に宴席が設けられている。浴槽ほどのある水盤に酒が入れられ、桃の木に焼肉や煮つけた肉が吊るしてある。水盤は百近くあり、肉を吊るしている木は数えきれない。
 桃源の宴席には魔物娘達が待っている。光沢のある赤い服をまとい、金色の尾を振りかざす妖狐。薄青い服をまとい、黒と白の柔らかそうな獣毛で覆われた手足を振るレンシュンマオ。白毛と赤布で出来た服を身に付け、むき出しになった赤い尻を振るカク猿。真紅の服を身に着け、手足に炎をまとい付かせる火鼠。そして、金と緑の防具兼服で体を守り、黄と黒の獣毛に覆われた手足をさらけ出す人虎。彼女達は、薄赤い桃の花の中で男達を待っている。
 この里に来た人間女は、全て魔物娘となった。この里の魔力が人を魔に変えるのだ。いち早く魔物となった女達は、男を魔物に変えようと待ち構えている。
 鉄林は、さっそく木に吊るされている肉を食べた。豚の肉だが、やけに旨い。調理法が凝っているのかと、鉄林は首を傾げる。
「その肉は、ホルスタウロスの乳の飲ませて育てた豚の肉だ。人の乳を飲ませて育てた豚の肉は、格別に旨いと言われている。それでホルスタウロスの乳を飲ませたのだよ」
 五柳先生は、面白そうに説明する。ホルスタウロスとは、西の大陸から来た牛の魔物娘だ。この桃源の里にも何人かいる。
 五柳先生の話を聞いて、鉄林は身を引いてしまう。だが、肉の旨さには勝てずに、再びかぶりつく。
 喉が渇いた鉄林は、水盤の酒を飲もうとする。酒には、桃の花びらが浮かんでいる。
「まあ、待ちなさい。人肌で温めた酒の方が旨い」
 五柳先生は鉄林を止め、魔物娘達を示す。魔物娘達は服を脱ぎ、肌を露わにしていた。そして水盤の酒を汲み、自分の胸や腹にかける。魔物娘達は、自分の肌で温めた酒を飲むように男を誘う。
 ブリュームヒェンも服を脱ぎ、子供の様な自分の体に酒をかける。五柳先生は、ブリュームヒェンの小さな胸に口をつけ、酒を舐め取っていく。ブリュームヒェンは恥ずかしそうに身をよじりながらも、うれしそうな表情をしている。
 鉄林は、かたわらの瑞麗の方を見る。瑞麗はため息を付き、胸を守る防具兼服を外す。豊かな胸をさらけ出すと、水盤から汲んだ酒をかけた。張りのある胸の上で酒が弾ける。酒に浮いていた桃の花びらが、瑞麗の胸に張り付く。
 鉄林は、瑞麗の肌で温めた酒を舐め始めた。何度も鉄林を楽しませてきた胸の上で光っている酒を、犬の様に音を立てながら舐め取っていく。瑞麗の味の混ざった酒は、鉄林には極上の味に思える。酒の香りと瑞麗の匂いが混ざり合い、鼻からも鉄林を酔わせる。
 右の乳首に桃の花びらが引っ掛かっていた。鉄林は乳首ごと桃の花びらを舐め、口の中に収める。桃の花びらを噛みしめながら、硬くなっている乳首を舌で弾く。瑞麗は、弾かれるたびに喘ぎ声を上げる。
 鉄林は立ち上がり、服を脱ぎ捨てた。さらけ出した男根は、すでに天に向かってそり返っている。もう我慢は出来ない。
 瑞麗は、舌なめずりをしながら男根を見つめていた。

 鉄林は、瑞麗を飛びつくように抱きしめた。豊かな獣毛とたくましい筋肉に覆われた腕を愛撫する。何度愛撫しても飽きない柔らかさと弾力のある腕だ。鉄林は、さらに瑞麗の足を撫で回す。足もまた虎の獣毛に覆われ、滑らかな感触がある。そして獣毛の下には武闘家の優れた筋肉がある。鉄林は、毛並と筋肉の感触を執拗に堪能する。
 鉄林は愛撫だけでは満足出来ず、瑞麗の右腕に頬を擦り付けた。獣毛を頬で感じ、筋肉の弾力を顔で楽しむ。黄と黒の獣毛から立ち上る匂いを、深呼吸しながら吸い込む。
 瑞麗は、初めの内は平然とした顔をしていたが、愛撫と頬ずりを繰り返されるうちに顔が赤くなっていった。鉄林に太ももを撫でられていると、瑞麗の息が荒くなっていく。
 鉄林は顔を上げ、瑞麗の頬に自分の頬を擦り付ける。そして黄と白の獣毛の生えた耳を食む。そのとたんに、瑞麗の体に震えが走る。鉄林は、瑞麗の耳の内側に舌を這わせていく。同時に首筋を撫でる。瑞麗の震えは激しくなる。
 鉄林は瑞麗の腰に手を伸ばし、下腹部を覆う防具兼服を脱がす。むき出しになった瑞麗の尻に手を這わせ、その引き締まった感触を楽しむ。さらに尾をつかみ、上下にゆっくりと撫でる。尾は逃げようともがくが、鉄林は逃がさずに愛撫し続ける。尾の根元を繰り返し撫で回す。
 鉄林は立ち上がり、男根を振りかざした。男根からは透明な液がふりまかれる。鉄林は、その怒張した男根を瑞麗の右腕に擦り付ける。なめらかな獣毛の感触と筋肉の弾力を、欲望の肉塊で味わう。
「お前は、私の体の隅々まで男根で汚したいらしいな」
 瑞麗は呆れたように言う。だが、鉄林は答えずに男根を擦り付け、荒い息を吐き続ける。瑞麗は苦笑しながら、自分から腕を男根に擦り付けてやる。瑞麗の獣毛は、男根からあふれる液で汚されていく。
 鉄林は、瑞麗の胸をつかんだ。その張りのある胸を強く揉み解す。
「胸で俺の男根を挟んでくれ。扱いてくれ」
 鉄林は喘ぎながら言う。やれやれと言いながら、瑞麗は胸を手でつかんで男根を挟み込む。赤黒い肉の棒が、白い胸の中に飲み込まれていく。瑞麗は体を上下に動かしながら、鉄林の肉棒を両胸で愛撫していく。
「酒と男根の臭いが混ざり合って、立ち上って来るぞ。臭いだけで酔ってしまいそうだ」
 瑞麗はつぶやくと、白い胸の谷間から顔を出す赤い亀頭に舌を這わせる。男根の先端からあふれる液を舐め取り、唾液を男根に塗り付けていく。酒と腺液、汗と唾液が混ざり合って胸と男根の滑りを良くする。
 出そうだと、鉄林は荒い息を吐きながら言う。瑞麗は胸の動きを激しくし、舌で裏筋を責めたてる。
 男根の先端から白濁液が吹き上がった。瑞麗の彫りの深い美貌に激しくぶつかる。白濁液は顔じゅうに飛び散り、広がっていく。鉄林の欲望の液は次々と放出され、瑞麗の髪と顔、胸を汚していく。刺激臭が辺りに立ち上り、肌に染み込んでいく。瑞麗と交わり魔物となった鉄林は、人間では不可能なほど濃い精液を大量に放つ事が出来る。
 精液の放出がやっと収まると、瑞麗は顔を上げた。瑞麗の額は白濁液で汚れ、右の瞼も覆われている。鼻の全体が精液で覆われ、重たげな液がゆっくりと唇に垂れ下っていく。口はすでに白く汚れており、鼻から垂れてくる白濁液が塗り重なっていく。瑞麗は白く染まった舌を伸ばし、口の周りの精液を舐め取る。
「凄い臭いと味だ。何度浴びても頭がおかしくなりそうになる」
 瑞麗は陶然とした様につぶやいた後、気が付いたように辺りを見回す。
「相変わらず性に狂った連中だ」
 鉄林は、自分の精液で汚れた瑞麗を食い入るように見つめていた。瑞麗の言葉に、目を覚ましたように辺りを見回す。
 辺りは、性の饗宴の最中だ。男に持ち上げられながら交わる妖狐の姿が見える。地面を男と転がりながら交わるレンシュンマオの姿もある。男と共に炎に包まれながら跳ねるように交わる火鼠の姿もある。カク猿の中には、桃の木の上で男と交わる者もいる。彼らは酒を飲み、肉を食いながら交わっている。まさに酒池肉林の宴だ。
 五柳先生も、ブリュームヒェンと性の交わりをしている最中だ。ブリュームヒェンに抱き付き、体中に顔を擦り付けながら匂いを嗅いでいる。
「ああ、私はお前の服の襟となって、首の匂いを嗅ぎたい。お前の服の帯となって、腰を締めたい。ああ、お前の履となって、お前が歩くたびにお前を感じたい」
 五柳先生はうわ言のように口走りながら、ブリュームヒェンの子供の様な体の匂いを嗅ぎ、そして舐め回す。
「なって下さい。僕の体を味わって下さい」
 ブリュームヒェンは、喘ぎながら答える。
 辺りを見る事に気を取られていた鉄林は、股間を襲う快楽で瑞麗に意識を戻した。瑞麗は、再び胸で男根を愛撫し、口で亀頭を責めたてている。精液で濡れた胸の谷間は、男根を心地よく滑らせる。木から舞い落ちた桃の花びらが、精液で滑る胸に張り付いている。鉄林の男根は、すぐさま回復して硬く突き上がる。
 鉄林は、瑞麗の胸から男根を離す。瑞麗を地面に押し倒し、右足に男根を擦り付ける。腕同様になめらかな足の獣毛を男根で楽しみ、筋肉の弾力を味わう。瑞麗は、右足を巧みに擦り付けて男根を愛撫する。
 鉄林は瑞麗の腰をつかみ、瑞麗を四つん這いにさせる。唸り声を上げる瑞麗の尻に、滾り立った男根を擦り付ける。瑞麗の尻は、滑らかな肌の感触と筋肉で張りつめた弾力が同居している。汗で濡れている瑞麗の尻の表面に、鉄林は男根からあふれる腺液を塗り付ける。濡れて光を放っていく尻の感触を男根で堪能する。
 瑞麗の尾が、鉄林の男根を叩いた。嬲るように、刺激するように男根を叩く。鉄林の男根は、負けずに尾を繰り返し突く。官能的な尻の上で、尾と男根が戦いを繰り広げる。
 鉄林は、腰を引いて男根を尻から離した。右手で瑞麗の女陰を愛撫する。女陰は十分すぎるほど濡れている。鉄林は手についた愛液を舐めて味わった。そして瑞麗のたくましい腰をつかむと、蜜をあふれさせる壺の中へ男根を押し入れていく。
 瑞麗は、弓なりになりながら声を上げた。それは雌獣の声だ。声を上げながら性の快楽を貪る雌獣の奥に、雄獣は男根を繰り返し突き入れる。雌の尻と雄の腰がぶつかり合い、高らかな音が響き渡る。
 雄は、雌の中へと突き進む。それは、雌を孕ませようとする雄の動きだ。人から魔へと変わった雄は、雌虎を孕ませようと激しく体をゆする。髪を振り乱しながら吠えるように声を上げ、雌を突き上げる。
 酒池肉林の宴は、まだ始まったばかりだ。

 鉄林は、桃源を見渡していた。農作業を終えて桃源を散策しているのだ。かたわらには、見回りと鍛錬を終えた瑞麗がいる。
 二人が桃源の里に来て、二年が過ぎていた。二人とも里の生活になじんできた。二人は仕事をしながら、性の交わりを繰り返してきた。新たな技の探求に励んできた。それは、この桃源の里の者にふさわしい生活だ。
 鉄林は、この里で快楽を味わい続けている。そして、心の安らぎを得たような気がしている。それは幸福と言うものなのではないかと、鉄林は思う事がある。
 鉄林は、国の状況について思い浮かべた。魔物には伝手が有り、この閉ざされた里にも外の情報は入って来る。その情報によると、国は亡びへ向かって進んでいた。
 国の全土で、農民反乱と逃散が繰り返し勃発している。都市では暴動が起こっている。国中にいる盗賊達は結集し始め、国を揺るがすような大勢力に育っている。各地で怪しげな宗教が乱立し、人心を乱している。
 国にとって宿敵である北の遊牧民族は、この状況を注意深く観察していた。そして大規模な侵略の準備を進めているそうだ。
 この危機に対して、国の支配者達はまともな対策を取っていない。国費を湯水のように使い、優雅な生活を楽しんでいる。皇帝は、自己の芸術の探求に血道を挙げている。廷臣達は、皇帝を一流の芸術家と称えながら、自己の権益を追及している。最早、国の滅亡は時間の問題だ。
 人生、幻化に似たり、終に当に空無に帰すべし。鉄林は、五柳先生の詩を心の中でつぶやく。
 それは真実なのだろう。俺の人生は、空無に帰す。国もまた空無に帰す。鉄林は、苦く笑う。
 だったら、せいぜい終わりの時まで楽しんでやろう。この里は、楽しむ事が出来る場所だ。それに、
 鉄林は瑞麗を見る。美しい虎の魔物は、髪をなびかせながら桃源を見渡している。その体には生命力があふれている。
 こいつと一緒にいれば、楽しむ事が出来そうだ。鉄林は、声を出さずに笑った。
15/08/30 22:30更新 / 鬼畜軍曹

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