連載小説
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ゆきおんな【雪月花】
いらっしゃ〜い。耳かき処『あやかし屋』へようこそ。
今日お客さんの耳かきをさせてもらう。ゆきおんなの雪月花(せつか)よ。よろしくね。
それにしても今日は一段としばれるね〜。ここに来る時大丈夫だった?

でしょうね。冬なのに着物に羽織を一枚じゃ、しばれて当然よ。
ほらこんなに肌もしゃっこくなっちゃてるじゃない。
もうしょうがない人ね…
一回離れるわよ。ちょっと待ってて。

ススゥ…トンッ
トトト…



トトト…
ススゥ…トンッ

お待たせ〜。毛布持って来たからこれをかけて温まりながら耳かきをしましょう。

私のためにしばれる思いをしたんだから、その思いに答えたいと思うのが人情ってものよ。
したら、まず私の膝に頭を乗せて寝かさってもらえる?

ん?モジモジしてなしたの?
まさか今更恥ずかしくなってきたの?
いいじゃない、私のためにしばれる思いまでして来たんだから恥ずかしがることないわよ。
ほら遠慮しなくていいから寝かさって、ね。

はいありがとう。したら毛布をかけてっと…それじゃ耳かきを始めるからじっとしててね。
まず手前からちょっとずつ、かっちゃいていくよ。

カリッ…カリッ……コリコリ……

お客さん…もし病むようだったらちゃんと言うんだよ。
私もそうならないようかっちゃくけど、万が一ってこともあるかもだから。

むしろ気持ちいい?
ふふ…ありがとう。

カリッ…カリッ……コリコリ……

お客さんの耳、けっこう綺麗ね。
見た感じ手前の方は定期的に掃除をしているわね。

もちろん。冬の間だけとはいえ、私もこの仕事について長いもの。
掃除をしているかどうかくらいわかるわ。
さて…手前に汚れはそんなに無いから、奥の方を掃除していくわよ。
さすがに奥の方は鼓膜もあるからうまく掃除ができないでしょ?

でしょ?奥の方にちらほらと塊が見えるもの。
今から奥にある塊を丁寧にかっちゃいて、取ってあげるからね。
さあ…奥に入っていくわよ。わかるかしら?

こちょばしい?
でも動いたら怪我するから、じっとしててね。
それじゃかっちゃいていくわよ。

まず、軽く引っぺがして。

カリッ…カリッ……コリコリ……

引っぺがした所から病まないようにゆっくりとこすり。

ゾリッ…ゾリッ……ゾリゾリ……

徐々にスピードを上げて。

ゾリゾリゾリゾリ……

剥がすっと!

ベリッ!

後はまかさないようにゆっくりと引き上げてっと。

スス……スス……スー

はい取れた。

さあ、後は無いかしら?
う〜ん。もう大きいのはなさそうね。
したら、この綿のほうでこまいのを取り除いてこっちは終わりね。
それじゃ入れていくわよ。
壁に引っ付いた残りカスを取り除くようにこすりつけて、ゆっくり回転をさせてっと。

コスコス…コスコス……
シュル…シュルルルル……

あれ。気持ち良さそうな顔をして。
そんなに良いの?

ふふ…したら、仕上げに特別サービスよ。

スゥー………
フゥー………

ふふ、ビクってした。
どう?ゆきおんなの吐息は?
ひやってきたっしょ?
普通の人の吐息と違ってしゃっこいのに気持ちよかったでしょ?
それが私達の特性よ。
本来なら旦那様を獲得する時に使うものだけど、すこし応用すればこんな風に…

フゥー………

気持ちよくなれるのよ。
さあ、次は反対側よ。
体の向きをとっかえて…
あれ。ずいぶんと火照った顔をしてるわね。

毛布の所為ね…
まあ、そういうことにしておきましょう。
したら毛布はいらないわね。

いるの?
まあいいわ。それじゃ始めましょう。
こっちも手前には汚れがそんなに無いわね。

カリッ…カリッ……コリコリ……

お客さん…つかぬことを聞くけど、冬って好き?

ええ冬よ。
私はゆきおんなだからという理由もあるけど冬が好きなの。
しんしんと静かに降る雪、辺り一面が白で覆われた世界。
その景色を目にしただけで、嬉しくなるの。
お客さんはどうかしら?

カリッ…カリッ……コリコリ……

そう、好きなのね♪
なんだか嬉しいわ。
お客さんは冬のどういうところが好きなのかしら?

“こたつでぬくんでる時が大好き”?
まあ確かにそれも冬の醍醐味の一つね。
他にはないの?

“私に会えたからもっと好きになった”………
えっ?
お、お客さん…女をからかうものじゃないわよ。

さ、さあそろそろ奥の方の塊も取るわよ。

カリッ…カリッ……コリコリ……
ゾリッ…ゾリッ……ゾリゾリ……
ゾリゾリゾリゾリ……ベリッ!

引き上げるからじっとしててね。

スス……スス……スー

よし取れた。
また綿の方でこまいカスを取ってあげるからね。
はい。入っていくわよ。

コスコス…コスコス……
シュル…シュルルルル……

気持ち良さそうね…
したら、コレで最後。私の吐息で…
もっと感じさせてあげる。

スゥー………
フゥー………

ふふ…どうかしら?
もう一度、いくわよ。

スゥー………
フゥー………

はい。おしまい。
これで耳かきはおしまいよ。

どうかしたのかしら?
なんだか、少し寒そうだけれど…
今日は早く帰った方がいいんじゃないかしら?

あれ…大変だわ。外は吹雪になっているわね。
これは当分止みそうもないわね。
お客さん…吹雪が止むまでの間、ここでくつろいでいきなさいな。
ウチの店主も吹雪の中、帰れと言うような鬼畜ではないから安心してくつろいでいきなさい。
そう…身も心も暖かくなるまで、ゆっくりと…ね。
14/12/07 00:56更新 / ミズチェチェ
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■作者メッセージ
耳かき小説第三弾は道産子の方言を使うゆきおんなの雪月花でした。
今回は方言を使う女性を書きたいな〜と思っていろいろ考えた結果、自分が使っている北海道弁をチョイスしてみようと思い立ち、北海道弁ならゆきおんなっしょ。と思いこんな風に書かせていただきましたがどうでしたでしょうか?感想、ご意見がありましたらよろしくお願いします。

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