連載小説
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ランスが語る みんなで肝試し(ギャグ)
おっし、休憩も挟んだことだし次行ってみようか。
これはおよそ七年前の話、まだ子供だった俺たち五人で行った肝試し。
俺と猫姉妹と、そしてネリスとロナルド。
クリムが散歩してた先で偶然見つけた小さな洞窟にその日の夜に入っていった俺たちの、愉快な肝試し風景、これが俺の話せる最後の喜ばれそうな話だ。


集合はその日の夜九時だったから、俺とロナルドは早めに食事を終えると父さんに断わって家を出た、母さんが亡くなってすぐだったし、流行病もまだ収まってない時期だったから、何も言わないと父さんは心配したんだ。
想像できないって? まぁ気持ちは分かる、今は俺たちのことを信頼してくれてるからこそ要職に就かせたり半ば放任の態度をとってるんだよ。
それはさておき、俺たちは家を出るとクルツの外れにある森に向かった、その入り口でみんなと待ち合わせしてたからだ。
待ち合わせの場所に行くと、既に猫姉妹は森の前で俺たちのことを待っていた。
二人とも藍色の長袖シャツと黒いハーフパンツ。そしてその上に白いジャケット。
「よぉ、お前らはさすがに早いな。」
「やぁ二人とも、相変わらず可愛いね。」
こいつらが早いのは当たり前と言えば当たり前、何せ家からは目と鼻の先にある場所が待ち合わせ地点なんだから、これで誰かより遅れたらとっちめてやるところだ。
「予定より七分早い。」
「ランスは真面目だからにゃぁ、ロンはどうせネリスが来るから来たんだよにゃ?」
「そうだけど、悪いかい?」
胸を張ってクリムの言葉に返事をするロン、下心もここまで堂々としてれば立派だと思う。
「いや?」「学習しない。」
猫姉妹はそろって言葉を濁す、ロン相手に真面目に語るのを面倒くさがってるからな、こいつら。双子の兄が嘗められるのは多少不快だったが、幼馴染のこいつらに今更態度を改めさせるのも難しいし本人が気にしてないなら俺も気にするのをやめた方がいいんだろう。
「ネリス遅いにゃぁ。」
「あいつの家は遠いんだから仕方ない。だがまぁ、五分前行動は守るやつだしすぐ来るんじゃないか?」
「そう、来た。」
シェンリが空に向かって爪のうちの一本を向ける、俺たちがそれにつられてその方角を見ると、翼を広げたまだ幼さの残る悪魔が滑るように俺たちの方に向かってくるのが見えた。
ネリスだ、最近ようやく飛行制御ができるようになったことが嬉しいのかそれともただ単に飛んできた方が早いからなのか、どうやら飛んできたらしい。
ネリスは俺たちの前にふわりと着地する、スカートが一瞬翻り中が見えそうになってあわてて抑えるあたりがネリスらしい。
「歩いてくるものだと思ってたな。」
飛んでくるほうが早いとは言っても、まだ飛行制御は本当にできるようになったばかりで下手をすると墜落なんだから、慎重なネリスなら徒歩だと思っていた。
「ともかくこれで全員だな、じゃあさっそく行ってみるか。遅くなると父さんたちも心配するだろ。」
そう言って家から持ってきた松明に火をつける。夜目の利く魔物三人だけならともかく、俺とロンは暗い環境下ではこれがないとまともに物が見えないからだ。
唯一洞窟のある場所を知っているクリムを先頭にして、俺たちは森に入っていく。
がさがさと葉擦れの音がする森の中はあまり明るいとはいえず、俺とロンは松明がなかったら本当に何も見えなかっただろう、しかし魔物三人は普通に見えるらしく歩いていく。
「ここだにゃ、この穴だにゃ。」
そう言って、クリムが指さした先には確かに洞窟がある。
大人一人が通れる程度の小さな穴、あまり深くはないようだが子供だけで肝試しをするには適当な穴なのかもしれない。
「誰が先頭になる?」
「どうぞ」「どうぞ」「ここはランスさんが適任かと」「そうだね、ランスが適任だ。」
みんな揃って俺に先頭を譲ろうとしてきたので多数決で俺に決定。
俺を先頭に、その次をシェンリ、クリム、ロン、ネリスの順に洞窟へと進入していく。
松明を前にかざし、出来るだけ前方の視野を広げようとするが洞窟の闇の中では気休め程度にしかならず、俺たちの視野は相変わらず狭いまま。
「う………うぅう……怖いです……」「にゃぁ…………」
クリムとネリスは声から縮こまっていることがよくわかる、シェンリも俺の服の裾をこっそりとしかし確実に握りしめて俺にすがり、ロンに至ってはさっきから何も言わない。
ぴちゃっ
どうやら地面が濡れていたらしく、俺の足元で水音が立った瞬間、
「ひっ!!?」「うにゃっ!?」
ネリスとクリムが同時に怯えた声を出した、シェンリも俺の服の裾をしっかりと握りしめ、
「うわっ!」
どしゃん
ロンに至っては足を滑らして、その音に怯えたネリスとクリムが
「きゃぁああああああああああっ!!!」「み゙ゃぁああああああああああああっ!!」
と悲鳴、さらにその悲鳴に驚いたシェンリが、
「わぁああああああああああっ!!」
悲鳴が悲鳴を呼ぶ大パニック、さらに反響した悲鳴は
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア゙』『ヴャァアアアアアアアアアアアア』
という恐怖感をあおる不気味な音に変り果て、既にパニックに陥っていたネリスにはこれが止めになったらしく、「もう嫌ぁ! 帰る帰る帰りますぅ!!!!」と暴れ出したのを、ロンがどうにか尻尾をつかんで止める形になっていた。
「怖いにゃぁああああああ! ランスゥ! らんしゅぅううううう!!!」
パニックに陥ったネリスに触発されるようにクリムまで泣き出した。
「落ち着け、ただの水だ、お前らの悲鳴が反響しただけだ!」
俺が怒鳴りつけるとクリムは落ち着きを取り戻し、ネリスもシェンリが数回頭を撫でるとちょっとずつだが落ち着いてきた、それにしてもロンもネリスを捕まえるとは良い判断だ。
「この怖がりどもめ………」
「こ、怖いものは仕方ないんです……」「にゃぁ……」
ネリスもクリムも目に涙を浮かべていて、何も言わないがロンも足が震えているのが見て取れる、同じく何も言わないシェンリもシェンリでさっきから俺の服の裾を離さない。
全然怖がってないのはどうやら俺だけのようだ、幽霊なんぞいないと思ってるのと、俺がしっかりしないといけないと思っているからだろう。
魔物のゴーストならいるかもしれないとは思うが人里からはある程度距離があるここにそう言った類のアンデッド魔物が発生するとはどうにも思えない。
とはいえ、獰猛な野生動物がもし生き残っていたら困るのでとりあえず警戒はしておく。
「じゃ、進むぞ。」
「………帰りたいにゃ。」「私もです………」「恥ずかしながら僕も…」
弱気なことを言い出す三人と、やはり何も言わないが俺の服の裾をさっきよりも強く握りしめるシェンリ。本気で怖がってるらしいが、そもそも肝試しをしたいと言い出したのはクリムでそれに賛成したのはネリスとシェンリだ。
「何かあっても俺が守ってやるから安心しろ、俺より強いネリスだけは自分で身を守れ。」
自分より強いやつを守るとか不可能な話だから、俺にネリスは守れない。
他四人が反応を返すより先にさっさと前に進む、洞窟の中は暗いから、松明を持ってる俺と離れれば前が見えなくなるとわかってるから他四人も渋々ついてくる。
「ランスさんって、こういうの怖くないんですか?」
「比類なく怖い人を知ってる。それに全員怖がってたら収拾がつかないだろ、『父さんやルミネさんに発見されて無事帰宅しました。』なんて事態になったら大恥だ。」
「それはそうですけど………」
少なくとも父さんは確実に怒るだろう、それこそ半日説教されてもおかしくはない、何せ大丈夫だと大見得切って夜間の外出許可まで貰った身、怒られない要素がない。
父さんより怖いものなんて俺にとってはこの世に存在しないのも一緒だ。
父さんに比べれば、幽霊もルミネさんもずっと安全だと言い切れる。
「じゃあ、さっさと行ってさっさと帰るぞ。」
数分歩き続けたが、しかしまだまだ先は見えてこない。
しかしこのままじゃつまらんな。
そんな風に俺が思ったのは多分魔が差したからだ、そうに決まってる。
とはいえ、悪戯をしようにも難しいのがネリスの存在だ、魔力探知能力が高く勘も鋭いし俺より強いから、下手に魔術を用いて何かしようにも気づかれる危険が高い。
そんな風に思いながらも、俺たちは俺を先頭に洞窟の奥まで進んでいった。
そして、最奥までたどり着いた。
土の壁でふさがれた行き止まり、風が吹く隙間もなく岩が通路を塞いでいる。
「ここで行き止まりみたいだな、じゃあ帰るか。」
「うん……」「そうですそうです。帰りましょう!」「これで十分だからね。」
後ろの三人が首肯する、死ぬほど怯えてたから当たり前だが。
と思っていると、松明の火が消えた。
燃え尽きたとか、そんなものではなく本当に唐突に火が消えたんだ。
風も吹いてこなかった、本当にいきなり何の前触れもなく火が消えた。
「っ!?」「きゃぁああああああああああ!!!」「みゃぁああああああああ!」
真っ暗な洞窟で唯一の明かりを失い、ネリスとクリムが悲鳴を上げる。
すぐに光の魔術であたりを照らそうと思ったのに、なぜか発動できない。というよりも、まるで光が飲み込まれているかのように光の魔術が発動しているはずなのに俺が消耗するばかりで全然明るくならない。
「シェンリ!? クリム!? ランスさん!!? どこですか!?」「みゃぁぁあああああああああああ!!!」「何も見えない! 痛い痛い引っ掻かないでくれ!!」
シェンリは俺の服の裾につかまってたから俺と離れてはない、それどころか暗くなるとすぐに俺の体に一層強くしがみついてきたから、離れずに済んだ。
「落ち着いて深呼吸! 近くの壁に手を当てろ!!」
俺がそう言っても、パニックに陥った三人には聞こえなかったらしく暗闇の中でガツゴツと音が聞こえる、シェンリはやっぱり動かない、こいつの方がよほど頭がいい。
二分くらいしたところで、火が消えた時と同様に突然、周りが明るくなった。
明るくなったというよりは光を取り戻した感じだった。
わけもわからないまま、何も見えないほどの暗闇に慣れたせいで異常にまぶしく見える松明の明かりが、
「帰りましょう! っていうか帰ります!! 帰らせてください!!」
「らんしゅぅ………ぐすっ……ひっぐ…………」
「痛い、すごく痛い。かなり痛い、嫌になるほど痛い」
まだまだ狂乱状態のネリス、爪に血をつけたまま、嗚咽を漏らして泣きじゃくっているクリム、そして生傷だらけのロンを照らしていた、無性に笑いたくなる光景だ。
「よし帰るか、今度はネリスが松明持ってくれ。あとロン、とりあえずこれ巻いておけ。」
こんな時のためにともってきておいた包帯をロンに、そして松明をネリスに渡してやる。
笑っちまいそうな衝動を必死に抑えながら、俺はほかの連中の後をついていった。
その時、シェンリが要求してきたからあいつと手をつないでやった、クリムが気づいたらたぶん俺の両手はふさがってただろうな。



さて、こんなところだな、本当は他にも出ていくまでに一悶着あったんだが、それはあんまり語っても喜ばれなさそう……っていうかネリスに怒られそうだから止しておく。
火が消えた原因? ああ。
後からルミネさんに聞いてみたら、あの洞窟はクルツに充満した魔物の魔力をどこかに放散してる場所らしい、俺たち五人が入り込んだからシステムに悪影響が出て、よどんだ魔力が一時的に黒色の霧状に変質したんだそうだ。
そう言えば、イリヤが隠れてたのもあの洞窟だって話だな、もしかするとあいつはあそこで生まれたのかもしれない。
次は誰のところに行くんだ? ネリス?
ネリスとルミネさんでこの企画も終わり? 少しもったいない気もするがね。
まぁいいや、セックス現場に出くわさないよう気をつけろよ。

11/12/02 23:28更新 / なるつき
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■作者メッセージ
ロナルド・ラギオン  プロフィール
ローディアナ王国クルツ自治領出身 人間 職業:領主秘書
人間の領主二代目クロードの二男、ランスの双子の兄。一応領主クロードの秘書だが、実際には彼の仕事はお茶くみと雑用である。幼いころからネリスに惚れていた。
妄想がきつめ、しかし本人は優しく正直で素直。
恋愛経験あり・非童貞

イリヤーナ  プロフィール
出身地不明  魔物・ドッペルゲンガー  職業:主婦?
ロナルドの恋人であり「現影」ヒロイン、ネリスに振られ失意にあったロナルドを慰めようとして割と簡単に正体を暴かれ、そのあといろいろあって恋人になる。
臆病で人見知り、ネガティブ思考。
恋愛経験あり・非処女

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