読切小説
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節分と同居人
 
 拝啓

 お父さん、お母さん。お久しぶりです。俺です。
 東京の大学に進学してからもう三年経ちますが、いかがお過ごしでしょうか?
 中々連絡をしないでごめんね。いや、こっちも色々と結構忙しくてさ。

 最近はめっきり寒くなったね。そっちは雪はどうだい?
 東京は雪の設備がなってないからすぐに電車が止まって、本当に参っちまうよ。
 そのせいで大学も休講になるし、冬場はほとんど家の中で過ごしていることが多いかもしれない。
 そんなわけで、今も俺は暖かいアパートの中で過ごしています。
 そうだ。最近、俺の部屋に同居人か一人増えたんだ。
 前にも話したかもしれないけど、同じ学部のラミアの娘でね。
 冬場は無理だけど、しばらくして暖かくなったらに二人にも紹介しようかと思う。

 ところで今、俺はとある理由があって。

「げへへ! おらぁフジ君! 大人しく服を脱げぇぇぇ!」
「いやぁぁぁ!」

 ―――そのラミアの彼女にミカンの皮よろしく衣服をはぎ取られています。


(どうして、どうしてこうなった?) 


 

―――――

 三十分前のことだった。


「最近、マンネリです!」
「はぁ、そうですか」

 エアコンが低い音を立てながら、部屋を強烈に暖めている。
 他にも炬燵とカーペットと加湿器が敷き詰めれていて、ここの部屋だけはすでに春が来ているような暖かさだった。
 俺のいる炬燵の向かい側には同い年くらいのラミアの娘が寝転んでいる。淡褐色の鱗を持った蛇のしっぽを、新しく買った大きめの炬燵にヤドカリのようにみっちりと収めている。
 お陰で俺はほとんど炬燵の中に足を入れられていない。
 サイドテールに縛った茶髪を床にデロンと投げ出すように垂らす。これがいつもの彼女のくつろぎスタイルだった。
 そして、頬をカーペットに癒着させたまま、俺が先ほどバイト帰りに買ってきた節分の豆をボリボリと喰い散らかしながら、彼女が発したのがさっきのセリフである。
 
「世の中の魔物娘の皆さん! クリスマスに無事、意中の相手とお付き合いできた皆さん! おめでとうございます爆発しろ! ハンバーグになれ!」
「誰に言ってるんだ」
「年越しを好きな人と過ごせる、ええ大変結構なことで! しかし本当の勝負はこれから! そう、年が明けて一ヶ月半後! 恋人のビッグイベント! そう、バレンタイン!」
「ああそういえば、もう二月になったのか」

 カレンダーを見ながら、そう呟く。
 この時期はまだヒートテックがないとバイトとか辛いんだよなぁ。
 昨日干していたものも風に飛ばされたのか、いつの間にか失くなってしまった。時期的に微妙だけど、また新しく買うしかないか。
 などと、どうでもいいことをぼんやりと考えてみる。

「だがしかし! この一ヶ月半が意外と大変! 普通のカップルなら? 甘酸っぱい青春汁100%を? 長期にわたってチビチビと味わって飲むことができましょう!」
「青春汁って何か健康によさそうだよな」
「しかぁし!我々魔物娘はどうだろう! 小出しにできるのだろうか! 己の中の色欲を! エロスを! 否っ! 普通に無理に決まってんでしょうが!」

 某吸血鬼漫画の少佐のごとく、大げさに腕を振ってわざとらしく首を傾げるラミアがそこに居る。
 彼女の名前はヒカリ。
 この狭い部屋でこの俺、フジと共にルームシェアをしている同居人だ。

「我々はもっと、その日その時をじっくりねっとり味わわないといけない! 謳歌しなくてはいけない! 共にいる時間をもっと大切に扱わねばならない!」
「なんでもいいけどお前のその喋り方なんなの? ストロングゼロでもキメたの?」
「いえ、もう直球で訊ねましょう。クリスマスとバレンタイン……そのおよそ一ヶ月半、もっと何かしらのいちゃつけるイベントがあるべき。そう思わんかね? ドク」
「誰がドクだ」

 冬場なのにやたらテンション高いな。普通はこの時期のラミアは冬眠休暇中で大人しいはずだろうに。

「そこで私は閃いた。既にある季節行事をどうにかして卑猥にすればいけるんじゃね? と」

 また色んな人に怒られそうなことを思いついたな―――と、口では言わないでおく。
 ヒカリは昔から唐突にしょうもないことを思いつく奴なのだ。

「この時期の行事と言えばそう、節分! 世の中では基本的に、大人と子供たちが季節の変わり目に豆まきを楽しみ、絵師さんたちが可愛い娘のお口に、黒くて太く長い棒状のものをねじ入れる日です!」
「こら! 恵方巻きっていいなさい」
「いやアレなのよ。ほんの一、二か月前にはクリスマスとか正月とか姫始めとか色々あってさー、楽しかったわけじゃない?」
「最後のなんかおかしいけど、まぁそうだな」
 
 冬場はイベントが多いので俺みたいにひねくれていない一般的な人魔カップルにはヤる理由に事欠かない時期ではあるだろう。

「それに比べて節分さんを見て! 2月14日にカップルにとって最強の日が控えている中で、あまりにタイミングが悪すぎるっ! 最近じゃ肝心の豆より恵方巻の方が持ち上げられているじゃない。しかも流行らせそうと大量に作ったあげく売れ残って、夜には半額にされる始末。節分さん可哀想! 卑猥なネタを欲している創作クラスタにばかり需要のある恵方巻さんも可哀想!」
「色んな人に喧嘩売っていくスタイルやめない?」

 あとその言い方だと、創作してる人が一番可哀想だからね?
 まぁしかしだ。天井を見上げながら、今の発言を反芻する。
 言っていることは全体的に残念だが、ヒカリにしては的を射た発言である。

「まぁ豆まきとかは子供がやるって言うイメージがあるもんな。大人はどちらかというと子供の世話をする日って感じだ。俺らみたいなのにはちょっとなぁ……」
「そう! カップルにはどうにも乗りづらいのよ」
「でもいつもカップル重視じゃ取り残されるやつもいるだろ。そうじゃない人も楽しめるイベントも必要さ」
「その通り。でもね! 折角のイベントなのに、盛り上がらないのは何か寂しいのよ。私みたいな魔物でも節分でテンション上げたいというか、ね?」
「別にいいじゃねえか。年末年始騒いだ後に少し休憩の意味合いってことでさ」
「私はとにかくヤる理由が欲しいの!」
「結局それかよ」

 隣に聞こえるからそういうこと大きい声だすのやめてくれ。
 壁ドンされちゃうだろ。

「というよりアレよ。元々がなんか堅苦しい感じあるのよ。節分って」

 確かに、一理が無いわけでもない。
 節分というと、家族が楽しむための伝統的な行事という印象がある。
 同じ理由は七夕やお盆などにも言えるが、ハロウィンやバレンタインと違い、神道などの日本文化として染み込んだ行事は中々固まったイメージを崩しづらい。

「なので! フジ君にはこれから私と共に新しい節分、人魔カップルでも楽しめるニュー節分を考えてもらいます!」
「新しい、節分……」

 思わずゴクリとつばを飲む。
 不覚にもちょっと面白そうだと思ってしまった。

「私たちで新たな伝説、生み出してやろうぜ……!」
「何言っているかよく分かんないけど、まぁいいか。乗ってやろう」



―――――



「でだ、ヒカリ。新しい節分について、何か案はあるのか?」
「まずはそうね。新しいものを生むには既存の固定概念を外さないといけないと思うの」
「ほうほう」

 どうせノープランだと思っていたのだが、今回は結構練り込んできたようだ。

「そのためにも節分の基礎に触れてみましょう。今回は食べ物があるから取っつきやすいわね。キーワードは『豆』と『恵方巻き』。この二つよ」

 ヒカリがグラビアみたいに腰をS字にくねらせ、顔の前で横ピースをする。
 狭いからあまりうねうねしないで欲しい。

「豆まきについては色々と諸説およびマナーがあるらしいわ」
「ああ、そういえば何かルールがあったな」
「まずなぜ豆なのか? 豆は魔滅(まめ)と言って、魔を滅する……つまり悪い邪気を祓うという意味があるの。そして魔の目、鬼の目のことね、それにぶつけることで無病息災を祈るらしいわ。主に炒った大豆を使うけど、地域によっては落花生を使ったりとか、ルールには結構地域性が出るわね」
「確かに、地方から出てきた奴は違うやり方だったな。トランプの大富豪に近いものを感じる」
「他にも鬼は夜に出るから、蒔く時間は基本的に夜がいいとか、元々は飛鳥時代にあった、追儺(ついな)っていう鬼祓いの儀式からきてるだとか、かしらね? 大儺(だいな)とか鬼やらいとか、時代によって色々呼び方は違うみたいだけど」
「あ、そうなんだ……」

 少し引き気味になってしまうけど仕方ない。
 つうか、なんでそんなこと知ってんだろう? どこで学んだの本当に。
 普段アホなことを喋っているヒカリがこういうインテリみたいなことをペラペラと言ってると、なんかその、正直キモい。

「全部PCで調べたに決まってんでしょ? 肋骨折ーるミーするわよ?」
「ごめんなさい」

 顔だけで思考を読み取られた。怖いわぁ。
 
「まぁそんなことね。で、これを何とかこじつけてエロい方向にもっていきたいなって」
「邪気の塊じゃねえか」

 とんだ淫テリだよ。今まで感心していた時間を返せ。
 いや、別にしてないけど。

「うるさいわねぇ! だいたい豆って種子でしょ? 赤ちゃんの元でしょ? そんならいっそ子種を出せって話なのよ」
「どういう話なの……?」

何、急にキレ気味に喋っているんだコイツは。
 
「あっ! これ良いじゃない! 皆が寝静まった夜に、男女が邪気を祓うために協力して子種を蒔く……素晴らしいわ! 愛を感じるわ!」
「恵方に向かって謝れ。今すぐにだ」

 何でそう、すぐ卑猥な方向に持って行きたいんだろうか。
 何かの使命感を帯びているとしか思えんな。

「よし! 豆の方はそれでいいとして……」
「いいのかそれで」
「えー、次は恵方巻きね。……もうチ◯コでよくない?」
「雑すぎるだろ。あぁでも一応、エロ方面のニーズは満たしてるのか」

 一応恵方巻きにも伝統はあるのだろうが、それをペラペラ喋っているヒカリはキモいのであまり聞きたくないなと思った。
 ヒカリも、自分のキャラじゃないことには気づいたのか、知識をひけらかす様子はない。

「んー、でもねぇ。このネタ、実際にやってみると涎で食べてる途中で崩れちゃうし、ラミアだからその気になれば一口で食べられちゃうし。私的にはあんまりそそらないのよねー」
「米粒が飛び散ったら片づけが大変だしな」
「むぅ。いっそコンドームに恵方巻詰めて……」
「それ以上いけない」

 食べ物で遊んじゃいけません。ダメ、ゼッタイ。
 ただでさえ男根のメタファー扱いされている恵方巻くんの気持ちを考えてあげて。

「というか、思ったんだけどさ」
「はいはい」
「―――その恵方巻きの下ネタ、もうだいぶ使い古されていないか?」
「そうなのよねぇ。黒くて太い棒、なんて鉄板のエロネタだけど、そろそろ皆飽きてもいい頃よね」
「大体アレ本当に伝統行事なのかよ? 俺が子供の頃は一度もやったことねぇぞ?」
「関西発祥って話だけど、正確な起源もはっきりしてないらしいわねぇ」
「これも地域によるってことか。難しいな節分って」
「ふふふ……」
「えっ? 何笑いだしてんの? 怖っ」

 突然ヒカリが不気味に微笑みだす。
 一体何がはじまるんです?

「いや、フジ君ならそういうと思ってね……文化の発祥がハッキリしていないのなら、私たちが発祥になればいいのよ!」
「すげぇ、かっこいい!」

 なのにこの拭いきれない不安はなんだろう!

「そう! 実は私、すでに準備をしていたのです! 新しい恵方巻きのあり方ってやつをねっ!」
「予想外の方面に力を入れてきた……!」
「むしろ本日のメインはこちらよ! ずばり私の考えた最強のニュー恵方巻き!」

 そういうとヒカリはコタツの中に両手を突っ込む。

 そして、意気揚々に何かを引っ張り出すと、広げて俺に見せつけてくる。
 それはオセロのように、黒と白が半分ずつ縫い付けられた、長い布だった。
 所々に見受けられる不規則なミシン目が手作り感を醸し出している。

「……なにそれ?」
「ニュー恵方巻きッ!」
「いやだから……んっ?」

 俺はその布生地に既視感を覚える。
 これって……まさか。

「これ、全部、ヒートテック?」
「そうです! 名付けて『〜私たち自身が、恵方巻きになる事だ〜 ラミア御用達! 恵方巻きコスプレ』!」
「なん……だと?」

 謎のガッツポーズで舞い上がるヒカリ。
 こういうどうでも良いことで本気出すの、本当に馬鹿だと思う。

「最近、何かコソコソとしているなと思ったら……」
「夜なべをしてチクチク作ったのよ!」
「アホすぎる……」

 俺はため息を盛大に吐く。
 またしてもヒカリのろくでもない発想が実現してしまった。
 引っ張り出された白黒の布は実に6mはあるであろう。
 一体何枚のヒートテックを繋ぎ合わせれば、こんなサイズになるのか?

 何枚……。

 俺はそこで、全てを悟った。

「なぁ、ヒカリ」
「ん?」
「これ、ヒートテック何枚使った?」
「ん〜失敗したのもあるから、十五枚は使ったわね」
「捨ててあったユ◯クロのゴミ、そこのゴミ箱に何枚分ある?」
「……十三枚分ね」
「もう一つ聞いて良いか? 俺が昨日干しといたヒートテック、どこにいった?」
「……君のような勘の良い同居人は、嫌いだよ」






「ハイクを詠め……‼‼」
「ごめーん! もう少しで完成しそうだったの。でも足りなかったのー! お詫びと言っちゃ何だけど、新しいの買ってきたから!」

 そう言うとヒカリは、またコタツの中から袋を取り出す。
 そのコタツからいろんなもの出過ぎじゃない?

「はいこれ」
「あ、ああ。新しいの買ってきたなら別に良いけどよ」
「流石に私も人の物を切り刻んだままにするほど落ちぶれちゃいないわ。じゃあ、早速着てみてね」
「早速? えっ、今?」
「うん!」

 背筋に寒気がする。
 何か、猛烈に嫌な予感がするぞぅ。


―――――


「フジ君。着れた?」
「……」
「おーい!フジくーん!まだぁー?」

 ヒカリの呼びかけに答えたくなくて、しばらく迷った。
 無理矢理渡された問題のソレを手に持ったまま、トイレの中で佇む。
 分かった。百歩譲って着てやろう。
 でもこれは、一度言ってやらねえと気が済まねぇ。



「おっ出てきたね」
「……おい、ヒカリ」

 ただ静かに、それでいて海底のように低い声で呟く。

「はい……ンフ」

 対してヒカリは、全身を震わせながら俺の声を聞いている。
 だけどそれは決して、ヒートテックを無駄遣いしたことを反省しているわけでも、俺の態度におびえているわけでもない。
 
「あえてだ、あえて言うぞ? なんだこれは?」
「み、見ての通りよ……ンボフッ!」

 とうとう吹き出してしまうヒカリ。
 こいつ、本当に一発ぶっとばしてやろうか?

 俺は改めて自分の姿を見下ろす。
 そこには全身を茶色い布地で覆われた、中肉中背の男のボディが見える。
 いわゆる全身タイツと言う代物が、俺の頭の部分まですっぽりと覆っている。
 うむ、どっからどう見ても、ド変態である。

「ねぇフジ君」
「……なんだよ?」
「一言だけ言って良い?」
「下らねぇこと言ったら一発食らわすけど、いいぞ」
「モジモ◯くんみたい」

 パシィンッ!
 ヒカリのおでこを指ではじく。

「あいたぁ!」
「本当に下らねぇこと言うな」

 ネタがいちいちマニアックすぎるんだよ。細かすぎて伝わんねぇよ。

「つーかマジでこれなんだよ?」

 そのままだと寒いので炬燵に入りながらヒカリに訊ねる。
 すると、彼女はなぜかまたよく分からない得意げな顔をする。

「これはいわゆるアレですね。中身です」
「中身?」
 
 無駄に謎めいた言いぶりに、少しいらっとする。

「そう。強いて言うならば、コスプレの一つです」
「コスプレって、これが?」

 何のコスプレなのか見当もつかない。
 節分で、茶色のもの? 豆、ではないよな?

「全然分からん、なんだこれ」
「ふふ! 分からないでしょう! クオリティ低すぎて私も言われないとわかんない」
「このアホラミア、本当に何がしたいんだ……」

 訝しい目でヒカリを見る。
 この娘、たまに病名があるんじゃないかってくらいアタマの出来上がりぶりを披露するから心配である。

「で? 答えは?」

 考えるのも面倒なので、両手を挙げて、さっさとギブアップすることにした。
 ヒカリは勝ち誇ったような顔を浮かべると、その一言を呟く。



「かんぴょう」
「……」
「正解は、かんぴょうです」
「さ、脱ぐか……」

 俺がやおら脱ぎ出そうとした瞬間だった。

「甘いわ! ただで脱がせるものか! こちとら冬眠期間中で動かないからいつも以上にムラムラしてんのよ! 大人しく具になって!」
「クソッ!そういうことかよ!」

 急いでトイレに引き返そうとするも、それより早くヒカリの両腕で腰にしがみついてきた。ちくしょう、またしてもヒカリにはめられたか。

「ええい離せ! かんぴょうだけじゃ恵方巻にならんわ!」
「いいじゃない細かいところは! フジ君はバイトで外歩いてるんでしょ! 私は冬の間はずっとこの部屋で缶詰なのよ! 暇なのっ!」
「そのためにPC貸してやってんだろ! 大体ラミアなんだから冬眠しろよっ!」
「あーひどい! そういうの魔物ハラスメントっていうのよ! マモハラ! これはもう、だし巻き玉子のコスプレって名目で全裸ロールミーの刑ね!」
「やること変わんねぇし、俺の肌はそんなに黄色くねぇ!」
「世の中グローバルよ! 肌の色の差だって恵方巻き愛で超えられるわ!」
「なんでそこまで頑なに恵方巻きを信頼してんだ!」
「いえ! もうこの際何がなんでも恵方巻きコスプレイ完遂してやるわ! このネタ、もう3年も暖めていたんだからねっ! 早く処理したいの!」
「そのまま腐ってろやっ!」

 必死の抵抗も繰り返したものの、彼女はこれでも魔物娘だ。
 人間の俺よりも力は強い。当然、俺の限界の方が早い。
 膝を床についた瞬間を逃がさず、猫もびっくりなその早さでヒカリの下半身が滑り込み、俺の両足を絡め取ってくる。

「どゎあ……!」

 そのまま空中に持ち上げられて回転させられたかと思うと、次の瞬間にはもう、俺は隣のベッドに寝かされていた。

「ふふふ、捕まえた……じゃあ、第一回ニュー節分、始めましょうかー?」

 ヒカリの口からはすでに涎が滝のように漏れ出していた。
 俺の背中にもヒカリの身体がびっちりと巻き付いていて。
 その巻き付いた彼女の下半身にはいつの間にか、例の白黒の恵方巻きヒートテックが装備されていた。


(ああ、これはもう。逃げられんな。)

 実家のお父さん、お母さん。
 俺はこれから恵方巻になります。
 今年の恵方は『南南東』だそうですね。二人も米や具を喉に詰まらせないように気をつけてください。

 どうかお体に気を付けてお過ごしください、ハッピーニュー節分。
 
「さぁ、恵方巻の時間よ♡」

 
 サヨナラーッ!


18/02/04 22:04更新 / とげまる

■作者メッセージ
本当に3年間、温めていました。
久しぶりに書いたSSがこれとか……
遅れてしまいましたが、皆様よい節分を。
 

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