読切小説
[TOP]
改体疼処

蠍の月 26日 晴れ

陛下の命により、南の塔に巣食う魔物の討伐隊が結成されました。
私もその一員に選抜頂き、衛生兵として同行します。名誉なことです。
早速このことを、故郷の両親へむけて、手紙を書いて知らせました。
その手紙が、父にとって少しもの活力になってくれることを願います。

討伐隊には、幼馴染みのソラも選ばれました。
とても嬉しいです。彼も、一緒に喜んでくれました。

…この任が無事終わった暁には、彼に告白したいと思います。
もしかすれば、彼の方から告白してくれるかもしれません。
その時は、恥ずかしい顔をしてしまわないように頑張りたいです。
ソラ。私は、貴方の方から告白してほしいです。待っています。

今日の夕御飯は、オムライスを作りました。
玉子をふんわりと焼き上げるのは、難しいです…。

明日も良い日でありますように。



蠍の月 29日 晴れ

ミーファさんが、討伐隊結成を祝って、お店でパーティーを開いてくれました。
男性陣は、お酒をがぶがぶ飲んで、みんな酔っぱらってしまいました。
隊長なんて、腹踊りまで始めてしまって…。とても陛下にお見せできません。

女性陣は、明後日に控えた作戦日に向けての話し合いをしました。
偵察隊の報告書によると、塔に生息する魔物は、ローパーというそうです。
それは触手を生やした魔物とのことで、人に寄生することもあるそうです。
魔術師の方々が、くれぐれも自分達から離れないように、と注意を促していました。

ところで、ソラも酔っぱらうと、あんな風になるのだなと驚きました。
騎士の方が、男は誰もお酒を飲めばああなるよ…とおっしゃっていましたが、
そうすると、将来、ソラも腹踊りをするようになってしまうのでしょうか…。
彼にはできるだけ、お酒を控えてもらうようお願いしたいと思います。

今日の夕御飯は、ミーファさん特製の豚の丸焼きでした。
見た目は怖かったですが、ほっぺたがとろけ落ちそうなほど美味しかったです。
いつかミーファさんに、料理の指南を頂きたいです。

明日も良い日でありますように。



蠍の月 30日 晴れ

荷物の準備や部屋の掃除等に追われた一日でした。

掃除について、念入りに行った結果、チリトリいっぱいのゴミが取れました。
毎日掃除しているつもりでも、意外と漏れがあるものだと気付かされました。
これでは、彼に呆れられてしまいます。もっと丁寧な掃除を心掛けようと誓いました。

そういえば、両親へ手紙は届いたでしょうか。
お父さん、どうか病気に負けずに、頑張ってください。
お母さん、私が帰るまで、お父さんを支えてあげてください。
次に帰る時は、子供の顔を見せられるよう、努力します。
そのためにも、今回の作戦、必ず成功させたいと思います。

明日はいよいよ、作戦の決行日です。
大丈夫。きっと良い結果が待っています。
がんばれ、私。がんばろう、みんな。

今日の夕御飯は、サンドイッチで簡単に済ませました。
具はやっぱり、ハムよりも玉子の方が好みです。

明日も良い日でありますように。



蠍の月 31日 曇り

今、私は南の塔前の野営地にいます。
昼頃に塔へ入った先遣隊の報告を待っているのですが、
約束の刻限を過ぎても、誰一人戻ってくる気配がありません。
小隊長の方々が話し合っていますが、まだ結論は出ていません。
ですが、きっと明日には、報告隊を残して突入することになると思います。

不安でいる中、それを察してくれたのか、ソラが衛生隊のテントまで来てくれました。
嬉しかった反面、仲間に囃されてしまい、とても恥ずかしかったです。
それでも彼は、私をそっと抱き寄せて、安心させてくれました。
温かい彼の胸に、恥ずかしさを忘れて、私も甘えてしまいました。
彼がテントを去った後は、みんなに私達の関係や進展を聞かれ、
不安も忘れて、各々の恋愛や夫婦生活の話に、華を咲かせました。

今日の夕御飯は、干しブドウのパンです。
しばらくは寂しい夕御飯ですが、作戦が終わるまでの我慢です。

明日も良い日でありますように。



鯨の月 1日 雨

小隊長同士の話し合いの結果、塔への突入が決まりました。
現在は塔の二階で、私達はベースキャンプを張っています。

騎士隊と魔術師隊は、それぞれ班を三つに分け、探索へ出ました。
その内、各一班ずつは、ベースキャンプの警護に残っています。
ソラは探索の班へと選ばれました。無事を祈るばかりです。

今日の夕御飯は、クルミパンです。
不安が募っているせいか、味をあまり感じられませんでした。

明日は良い日でありますように。



鯨の月 2日 雨

昨夜、哨戒をしていた魔術師の数名が、行方不明になりました。
いずれも女性の方です。魔物に攫われたのだと、皆噂しています。
騎士の方々が、当番制を止め、今日から寝ずの番を行うらしいですが、
身体への負担が心配です。いくら魔術で能力を高めていると言っても…。

ソラ。ソラは無事ですか? 魔物に襲われてはいませんか?
貴方とたった一日離れただけなのに、不安で胸が押し潰されそうです。
弱い私でごめんなさい。帰ってきたら、叱ってください。
貴方が傍に居てくれれば、私は勇者にだって負けません。
だから、ソラ。お願い。早く帰ってきて。早く…。

今日の夕御飯は、ポークジャーキーです。
ミーファさんが作ってくれた、豚の丸焼きの味が懐かしく思えます。
あの日から、まだ四日しか経っていないはずなのに、不思議です。

明日は良い日でありますように。



鯨の月 3日 晴れ

ソラ、助けて。助けに来て。
いないの。騎士の人も、魔術師の人も、誰も。
衛生隊しか残っていない。女性しか残っていないの。
みんな恐がって、泣いているの。お願い、ソラ、早く。

明日は良い日でありますように。



鯨の月 4日 晴れ

大丈夫。まだ、みんないる。
でも、何か、変な音が聞こえる。何かが這うような…。水の音も聞こえる。
もしかしたら、魔物の足音なのかもしれない。ソラ、恐い、恐いよ。
どこにいるの、ソラ。私達、このままじゃ、みんな…。

明日は良い日でありますように。



鯨の月 5日 曇り

ソラ。この日記を見つけて、読んでくれていますか?

こんな形で伝えることになってしまって、ごめんなさい。
字が、汚いですね。本当にごめんなさい。うまく書けないんです。

私は、ずっと貴方のことを愛していました。優しい貴方を。
覚えていますか? 子供の時、私にプレゼントしてくれた綺麗な小石を。
二人で河原で遊んでいる時に、貴方が見つけた、白く平らな小石です。
私がそれを見て、綺麗と言ったら、すぐは貴方はそれを私にくれました。

あれが貴方を恋した瞬間だと、私は思います。
胸が張り裂けそうなくらい、ドキドキしました。翌朝まで、ずっと。
貴方と会うたびに、その高鳴りは甦りました。今も、それは変わりません。

愛しています、ソラ。
先遣隊が戻ってこなかった時、不安でいた私を抱いてくれた貴方。
あの温もりを、一生忘れません。貴方のおかげで、私は幸せでした。

ソラ。最後に、もう一度だけ会いたかった。
貴方の口から聞きたかった。私と、結z.






















鯨の月 7日 雨

また日記を綴れることになるとは思いませんでした。
ですが、私はもう、以前の私ではありません。

身体の中に、魔物の卵を植え付けられました。
恐らく、あの幾本もの触手が、ローパーという魔物なのでしょう。
行方不明になった魔術師の方々の身体に寄生し、魔術をもって、
私達の動きを封じ、一人残らず犯して…卵を植え付けていきました。

私以外の方は、すでに魔物の幼生を発芽しています。
そのままふらふらと、みんなどこかへ行ってしまいました。
私だけ進行が遅いのは、退魔の薬の効果かもしれません。
咄嗟に飲んでいなければ、今頃みんなと同じ様になっていたでしょう。

私は、調査隊の方々が戻るまで、ここで待とうと思います。
報告隊の下まで戻るとしても、恐らく、再び魔物に襲われるのが先でしょう。
薬の効果は、3日ほどで無くなってしまいます。予備もありません。
どのみち魔物になってしまうのなら、私は彼の帰りを待ちます。

ソラにまた会えることを考えれば、辛くなんてありません。
例えこの身が魔物へ堕ちようとも、貴方のことは忘れません。

今日の夕御飯は、ありません。
どれも魔物やみんなの体液で汚れてしまい、食べられそうにありません。
お腹は空いていないので、今のところ問題ではありません。

明日は良い日でありますように。



鯨の月 8日 曇り

近くから、誰かの嬌声が聞こえてきます。
魔物に寄生された誰かが、仲間の男性を襲っているのでしょうか。

…あの魔物に襲われた時のことを、楽観視して捉えるのならば、
それはローパーという魔物が、思いの外、優しさがあったことです。
私達を犯した相手に、優しさを感じるというのもおかしな話ですが、
触手達は、私達の不快感を拭い去る様に努めていたように思えます。

仲間の中には、まだ経験のない子もいました。
ローパー達は女性器の中へ卵を植え付けるので、
当然その子は、破瓜の痛みを味わうことになります。
あの、身を引き裂かれるような、苦しい痛みをです。

ですが、彼女は泣くことも、喚くこともありませんでした。
ローパーが、入念な前戯と、彼女を慰撫するような動作をとっていたからです。
桃色の触手で彼女の頭や背中を撫でる様は、子供をあやすそれでした。

最後には、彼女の方からローパーへ身を任せ、愛撫を受け入れていました。
触手を握り締め、僅かに顔を歪めた後…その表情は、すぐに蕩け落ちました。
彼女だけではありません。魔物がもたらした快感に酔ってしまったのは、
みんなも…そして、私も同じです。彼が与えてくれる快楽に近いものを感じました。
ローパーが誘淫の能力を持っていたのかどうか…、それは定かではありません。

もうひとつ、優しさを感じたという点で、思い出す出来事があります。
私を襲うローパーが、その触手を秘部へと挿入しようとした時、
恐さのあまりから、私は無意識に、小さく彼の名前を呼びました。
すると、魔物は今にも挿れようとしていた触手の動きを止め、
私の目の前にその先端を移動させ、見つめるように止まったのです。

その動きに、私は魔物の意思を感じ取り、自分には思い人がいることを告げました。
すると、触手は再び愛撫に戻り…挿入したのは、最後に卵を産み付ける一瞬だけでした。

魔物が、私達を犯したことに間違いはありません。
ですが…それは彼らの生殖に伴う最低限の行為であり、
私達を凌辱することが目的ではなかったものと思えます。

…私は、魔物に毒されてしまったのでしょうか…。

今日の夕御飯は、ありません。
どうしても耐えられない時は、汚れていようとあれらの食糧を食べようと思います。
口を愛撫された時、味はひどいものではなかったので、大丈夫なのではないでしょうか。

明日も良い日でありますように。



鯨の月 9日 晴れ

薬の効果が切れ、私の身体にも魔物の幼生が発芽しました。
孵化したローパーの幼生は、膣内を通して体外へ出、産声をあげました。
私は、そのおぞましさに、忘れかけていた恐怖が再び湧き上がりましたが、
あの優しかったローパーのことを思い出し、怯える心を振り払いました。
この子もきっと、あのローパーのように、優しい子のはずです。

少なくとも私は、ひとりぼっちでいるよりも、救われているように思えます。
私の身に宿ったこのローパーも、人間の言葉が理解できるのか、
話し掛けると、その先端をこちらに向け、熱心に聞いているようでした。

ですが、やはり魔物としての片鱗も垣間見えます。
暇さえあれば、ローパーは私の身体を這い回り、刺激を与えてきます。
まるで私の性感を探る様に、身体中へ触手を滑らせるのです。

私はなんとかそれを抑えようと、その細い身体に手を添え、
彼のモノを扱うように…擦ったり、舌を這わせたりしました。
しかし、ローパー自身には感覚がないらしく、怯む様子がありません。
それでも、僅かにも抑えられればと、私は愛撫を繰り返しました。

今後、どうすればこの子へ、私の意思を伝えられるかが課題になりそうです。
とはいえ、思っていたよりも大人しいことに、安心しています。
これならば、彼が帰ってくるまで、耐えることができるかもしれません。
そのことを希望に、今の状況を耐え続けていきたいと思います。

今日の夕御飯は、ありません。
ですが、さすがにお腹が空いてきました…。

明日も良い日でありますように。



鯨の月 10日 晴れ

今日はひとつ、発見がありました。
この子が私の身体を愛撫するきっかけです。

私が不安な気持ちに駆られた時、あるいは、誰かの嬌声を聞いて、
淫らな欲望が僅かにでも刺激された時、ローパーは動き出すのです。
後者は恐らく、魔物としての本能でしょう。私の性欲に反応して…。

しかし、前者は、明らかに私のことを気遣っての行動です。
やはりこの子にも、他人を理解する心…優しさがあったのです。
不安に私が屈服してしまわないよう、誤魔化してくれているのです。

私は、自分の身体に寄生する魔物を、愛しく感じ始めていました。
このような状況に陥ったのは、他でもない、ローパーの仕業だというのに。
誰かがこの日記を読めば、私を、堕ちた人間の末路と嘲るでしょうか。
それでも、この想いは確かなのです。目を背けることはできません。

…もしかすれば、これらは全て、私の都合の良い妄想かもしれません。
この子は、私の意思に構わず、宿主を貪っているのかもしれません。

例え、そうだとしても。私が、そう感じている限りは…。

今日の夕御飯は、濡れてしまったパンです。
ですが、いくら食べても、一向にお腹が膨れません。
私の身体に、この子の影響による何かが起こっているのでしょうか…。

明日も良い日でありますように。



鯨の月 11日 曇り

この子の昂りが鎮まりませzん。
もう何度も達しているのに、一向に止めてくれません。

原因は不明zです。
私の空腹と、関係があるのでしょうか。
頭がぼうっとしてきて、考えがz纏まりません。

そういzえば、先程から向こうで騒がしい声が聞こえます。
何人もの、大勢の声です。男性と女z性の声が混じって、響いています。

誰かがこちらzへ向かってきます。
あれは誰でしょう。あれzは。あzzれはz



鯨の月 25日 晴れ

やっと気分が鎮まりました。
彼がもう精液を出せないほど疲労しているので、
休憩の合間をみて、久しぶりに日記を綴ります。

何から記録すればよいでしょうか…。
大切なことを後に残しておくのならば、まずは、作戦についてです。

結果的に、討伐隊は全滅です。
報告隊を除き、女性は全てローパーに、男性はその番いになりました。
みんな、毎日幸せそうに身体と触手を絡め合い、愛し合っています。
一気に膨れ上がった魔物の数を前に、国はもう、この塔を捨て置くことでしょう。
私達も、何よりも大切な恋人を放ってまで、愛の巣から出ようとは思いません。
お互いに、その存在を不可侵のものとして、二度と関わることはないと思います。

次に記すことは、今日までのことについてです。

あの日、私の下へ近付いてきたのは、彼…ソラでした。
彼を見た瞬間、私の頭は真っ白になり、何が起きたかは覚えていません。
ふと、小石が落ちたような音が耳に届いて…気が付いた時には、
彼の身体に跨って…お腹の奥深くに、熱い子種を受けていました。

すると、ローパーは急に暴れ出し、私の身体の中へ戻りました。
そして…次の瞬間、私の下半身が、スライムのように溶け出したのです。

私は一瞬困惑しましたが、すぐに自分が、ローパーと一体化したことを悟りました。
幾本もの触手に、自身の感覚や意思が宿ったことを、自然と受け入れました。
恐怖も、絶望もありません。むしろ、一体化したことによって、
より彼を感じられること…感じさせられることに、喜びを覚えました。
完全にローパーとなった私は、今の今まで、彼とのセックスを愉しみました。

最後に記すのは、現在の私と彼です。

私は今、身篭っています。
ローパーの卵を、ではありません。彼との子供を、です。
これは彼の愛によるものか、ローパーの能力なのかは、分かりません。
もしかしたら、優しいこの子が、気遣ってくれたのかもしれません。
お腹の子も、きっとこの子のように、優しい子へ育ってくれるでしょう。
歩けるようになった頃には、故郷で待つ両親の下へ、顔を見せに行きたいと思います。

恐らく、今後日記を付けることは稀になります。
彼とのセックスが忙しく、とても暇がないからです。
子供を産んだ後は、余計にでしょう。きっと、今日が最後です。

今の私は、幸せに満ち溢れています。
彼がずっと、ずっと傍に居てくれるからです。
待ち続けた私に、報いてくれているかのように…ずっと。

私も、もう二度と彼のことを離しません。
誰にだろうと、私達を離すことはできません。

どんな困難や窮地に陥ろうとも。力ずくであろうとも。

彼と私は、無数の赤い糸で結ばれているのですから。



明日も良い日でありますように。
12/06/25 19:42更新 / コジコジ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33