連載小説
[TOP][目次]
第二十四話 吹雪と渡河戦
ギズ攻略から二日後、今度の戦場となるエレヴィア河の渡河可能区域近辺に集まった本軍から大分離れたところに、俺とハートと英奈さん、そして黒髪の男ロイドとその妻でありドラゴンのルビーの五人は集まっていた。
「昊の読み通り、馬鹿正直に向こうだけを守ってるなぁ。」
中流域では川を挟んで二つの軍隊がにらみ合っている、王女軍と、マズート領主軍だ。
「マズート領主ガルディンは臆病な気性で自ら前線に出ることは好まない、大体本陣で待機してるって話だね。」
「うちの姫様とは大違いだな、あの人戦闘雑魚なのに前へ前へ行っちまうからな……」
見ていて危なっかしいから本来勘弁願いたい、けど軍の士気があの人のおかげで高まってることもあるしあの人が前線にいないと成立しないのが今回の策だから仕方ないと言えば仕方がない。
「リィレがいるからね、あと、今はキサラギも。」
そう言ったのはロイドだった、そう言えばあのリィレって女の人とは昔からの知り合いだったか、こいつのことはよく知らないが、昊がある程度信用してたから信じてもいいんだろう。
「さっさと行くぞ。」
偉そうに言ったのはルビーという名のドラゴン、赤い髪に赤い瞳、そして赤い鱗と、まさに「ルビー」と言った感じの女だがあくまでこれは通称で本名はもっと長いらしい。
ロイドの妻だと聞かされてるけど、温厚で人のよさそうなロイドとあからさまに上から目線のこの女がどうして結婚したのかはよくわからん。
「はいはい、じゃあ頼むよ?」
「わかっている。」
そう言った瞬間、ルビーの体が光った。
眩しい光はおよそ二秒ほど、実はもっと短かったのかもしれないが誰も計ってないだろう。
光が止むと、ルビーのいたところには一匹のまさに「ドラゴン」と言った感じのするモンスターが四足で立っていた。
蝙蝠のようなしかし爬虫類の硬質さを感じさせる翼、全身を覆う深紅の鱗と女性的な印象を全く感じさせない鋭い瞳。まさにこれが「ドラゴン」というべきモノがそこにいた。
ドラゴンの持つ、かつて魔物が人と全く異なる姿をした化け物であった時代の姿に一時的に戻る変身能力、それによってルビーが変身した姿だと来る前に聞かされていた。
「じゃ、背中に乗って。」
唸り声をあげる「ドラゴン」に催促されたようにロイドが俺たちを順番に背中に乗せる、そのあとでロイドだけは「ドラゴン」が尻尾を巻きつけた。
あまり大きくないから、俺たちが四人ギリギリ乗れる程度。
翼が広がり、風を強引に奪って空を飛ぶ、そして一直線に川を対岸まで移動したと思ったら、着地して九十度方向転換、俺たちを乗せたまま、信じられない速度で走り出す。
地平の彼方に見えていたはずの敵陣が見る見るうちに近づいてくる、それと同時に川半ばで戦闘してる姿も見えてくるんだが、
「おいおい、出来るだけ注意を引くとは言ってたけどやりすぎじゃないか?」
川の三分の二ほど来たところに見えるのは土でできた巨人、腕を振り回して敵兵をまとめてなぎ倒している。五・六人の兵士が宙を舞い、派手な水しぶきを上げて着水する。
「こんな面倒なことしなくも強行突破できたんじゃないのかよ。」
「かもしれないね、けどまぁいまさら言ってもしょうがないし。」
徐々に王女軍は後退を始める、相手からは自分たちが押しているように見える程度の速度を維持しつつ、ゆっくり相手を川半ばまで引き込んでいく。
ここまでは作戦通り、問題はここから。
勢いを殺すことなく、それどころかさらに加速しながら敵陣に突っ込む。
柵を飛び越えて敵陣真っ只中まで侵入すると、ドラゴンルビーは目についた幕舎の一つに向かって炎を吐く。
幕舎はあっという間に燃え上がり、それによって俺たちが侵入したことが相手にも伝わる。
俺たちがすぐにルビーから飛び降りると、彼女も変身を解いて人型に戻る。
「うっし、侵入成功。」
「もはや突入ですね、ここまで乱暴だと。」
あたりのまだ炎上していない幕舎から敵兵が湧いて出てくる、どいつもこいつも大した実力は持っていなさそうなやつばっかりだ。
「敵襲! 敵襲―――――――――――――っ!!」
大きな声で近くにいた男の一人が叫び、さらに兵士たちを呼び寄せる。
一度屈伸して体の筋を伸ばしておく、それからできるだけ体から無駄な力を除いた独特の構えをとる。習得していた十夜亜流の足捌きと、クロードさんに教えてもらっていたラギオン流の技をできるだけ効率よくミックスした夜音流の構えだ。
「死にたくないなら退け、向かってくる奴を殺さず済ますほど俺はお人好しじゃない。」
殺傷行為も姫様に解禁されてるから、近づくやつから遠慮なく本気で相手ができる。
一番最初に敵に突っ込んだのはハートだった、地面を這うようにして敵の集団に突っ込むと、そのまま巨大な鉈剣を振り回して数人をぶった切る。
さすがにざっくり真っ二つにはならないとはいえ、それでも腹の半分くらいを切り付けられた兵士が息絶えるには十分な威力がある。
英奈さんがハートの背後で小太刀を抜く、朱塗りの鞘から現れた刀身は仄かに黒みを帯びて、炎のような妖艶かつ凶暴なオーラを放っている。英奈さんの母親、七尾の妖狐椎奈様が持っていた妖刀「狐月」だ。
「ハートさん、伏せてください。」
その言葉とともに、英奈さんは小太刀を振りかぶる。
「燃えてください」
英奈さんの小太刀の一振りとともに、刀からは青色の炎が噴き出す、それは扇状に広がりながら伏せたハートの頭上も越えて敵の集団に突っ込んでいき、何かにぶつかり炎上する。
「ぎゃぁああああああああああ」
炎に焼かれて一団がパニックに陥る、さらに炎は周囲のものを燃やし始める。
「すぐに消えます、火傷はしますがよっぽど当たり所が悪くない限り死にはしませんよ。」
「そうは言っても、落ち着いちゃいられないよな体に火なんてつけられたら。」
当たり前だが体に火のついた連中は大パニックだ、中には戦闘真っ最中なのに川の方に向かっていく連中もいる、さらに混乱をあおることだろう。
「ふん。 そら受け取れ!」
俺の背後ではルビーが突っ込んできた男を片手で持ち上げ、そのままボールみたいに敵の一団に投げ込んでいる、その近くでロイドが大きな剣で数人を切り倒す。
俺にも敵が突っ込んできた、危なげなく足運びだけで攻撃をよけると、つけていた鎧の合間を縫うように首に一撃を仕掛ける。
ばぎん
そんな破壊音がして、男の体が力なく崩れ落ちる、首の骨が折れたはずだ。
後ろから仲間の仇を取ろうと鈍器を振り上げて突っ込んできた男の手首を左手で抑え、そのまま膝の裏側から一撃叩き込む。苦痛の声を上げて倒れる男の頭を遠慮なく踏みつけ、止めを刺す。
今度は三人、手近な一人の腕を破壊して戦闘不能にし、次の腹に一撃ぶち込む。
吐瀉物に触れないように刀を滑らせてそのまま最後の一人の頭を砕き、次の相手に向かって今度は俺から突っ込む。
突き出された槍に木刀の峰を当てて軌道を逸らし、懐に潜り込むとそのまま相手の顔面に掌底をぶち込み、槍を取り落した相手の腹に木刀の一撃をぶち込む。
クロードさんから教えてもらった技術の一つ、障害物を貫通して反対側に衝撃を送り込む「貫衝」を俺なりに工夫して木刀の技に取り入れたもの。
分厚い鎧があろうとそれを無視して相手にダメージを与えられる便利な技だ。
向かってくる連中十数人を同じようなリズムで倒して周囲を見ると、他も大体片付いていた。
「英奈さん、ハート、適当にそこらの幕舎と荷物に火をつけて回ってくれ、俺とロイドとルビーで敵将ガルディンを捕まえに行く。」
あちこちでやれ敵軍が攻勢に出て加勢が必要だの消化しろだの重傷人がいるから治療してくれだの大騒ぎ、俺たちに気付いて攻撃してくる奴もいるにはいるが、この大混乱の中ではまともな行動ができる奴の方が少ないだろう。
その混沌とした中を俺たちは敵将がいるであろう本陣の方に向けて走り出す。
向かってくる奴は適当に殴り倒し、すぐに本陣らしき大きな物見と幕舎のあるところまでたどり着く、中央には何やら立派な剣を持った大柄な男と、気の弱そうな痩せぎすの男が座っていた。
男を見た瞬間、ルビーの表情が変わる。
明らかな驚愕をその眼に浮かべた後で、全身から炎のような怒気を発し始めた。
「………おい、ロイド、フブキ。」
地の底から響くような圧力と不気味さを備えた声でルビーが口を開く。
「あの男は私が殺す、絶対に私の手で殺す、邪魔をするなよ。」
そう言った瞬間、剣を持った男は俺たちに向かって突っ込んできた。
空を切り、高速で突っ込んできたが俺たちに躱せない速度じゃなかったから、苦も無く避けた。
「私は誇り高き女帝の娘エルビティステア、お前に決闘を申し込む。」
唯一避けずに剣を白刃取りしていたルビーが、相手を睨みつけてそう言った。
「マズート領主ガルディンの息子ルドン、その決闘受けて立つ。」
その瞬間、ルドンと名乗った男の体は数メートル単位で宙を舞った。
本人の意思で飛んだわけじゃなく、ルビーに剣ごと投げられたからだ。
着地の瞬間に、ルビーはルドンを左足で蹴った、まったく移動の動きを感じさせない動きと察知できても回避できるか怪しい速度で、落下地点に先回りしていた。
ルドンはそのまま数メートルふっとんで近くの幕舎に衝突する、しかしすぐに起き上って剣を構えた、あれだけの威力のある攻撃を受けたら普通は死にそうなもんだが、ルドンは何故かぴんぴんしていた。
「服の下にアーマー、それも母様のコレクションの一つだな。」
ルビーが言った通り、ルドンの服が破れた下には白い鎧が仕込まれていた、急所を覆うように分厚い鎧が仕込まれたうえで関節部分にもできる限り防御のためのプロテクターが組込まれている、かなり手の込んだ鎧だ。
「下等な魔物には無用の長物だろう、この私が使ってやっているんだありがたく思え。」
ブッサイクな面を傲慢にゆがませてルドンは笑う。
「ところで、ルビーのお母様ってのは亡くなってるのか?」
そんな感じの会話だったしクルツにルビーの親はいないみたいだから、たぶんそうなんだろうとは思いながらも一応隣にいたロイドに尋ねてみた。
「うん、十八年か十九年前に王国軍の大部隊に襲われて、すごく有利に戦ってたのに旦那さんを人質に取られたせいで殺されたって聞かされてる……そう言えば故郷はここからそんなに遠くない……」
そんな会話の途中でロイドが言葉を切り、俺も違和感に気付く。
敵の配置が変わっていた、俺たちを取り囲むように大きな円を作っている。
頭に血が上ったルビーは気づいてないようだが、ロイドは既に気づいている、恐らくルドンも気づいているか、あいつの差し金だ。ロイドが今ここで戦おうとしないのは多分「決闘の邪魔をするのはよくない」と思ってるからだろう。
「封印魔法陣、起動!!」
周囲の男たちのうちの一部が、そんな言葉を口にした瞬間だった。
足元が俺たちが初めてこの世界に来たとき使った魔法陣と同様に光り出したと思ったら、全身に鎖を巻きつけられた上で水に落とされたように体が重く呼吸すら苦しくなる。
「なん――!?」
だよこれは。
そう言いたかったが口に出すことすらできない中、敵連中が俺たちに向かって突っ込んでくるのが見えた。身を守るために刀を構えようにも、今まで軽々振り回せた刀が今は鉛よりも重く感じる。
封印魔法陣って言ってたな、それは恐らく俺たちの力を封じ込める魔法人のことなんだろう、最初から決闘に乗ったのも俺たちの注意を決闘の方に集中させその隙にこの魔方陣を起動させる手はずだったんだろう。
そもそも、決闘する気などなかったわけだ。
周囲から十数人の男が俺を取り囲む、ロイドやルビーも同様に囲まれ、そして力を大きく削られているために手も足も出ず鈍器で何度も殴りつけられる。
「きったねぇ……」
戦争なんだからそんなことを言うべきじゃないのかもしれないとはいえ、それ以外に言うこともない。
「勝てば官軍だ、覚えておけ平民。」
「そうかい、ご立派なことで。」
周囲の連中がまた俺を殴ってくる、わざと死なないように痛めつける目的で殴ってくるあたり何と言うべきなのか徹底している。
「さて、ドラゴンよ、取引がある。」
殴られる俺とロイドを無視して、押さえつけられて地に這いつくばらされたルビーに向かってルドンが声をかける、にやにやと下卑た笑みを浮かべているあたり、下衆なことを考えてるのは容易に予想できる。
「お前としてやる取引はない。」
あっさり何の躊躇もなくルビーが答えたが、ロイドの首筋に剣を突きつけられると表情が変わる。夫の首に少しでも傷をつけられようものなら、迷わずルドンをひねり殺しそうなほどの殺気だ。
「夫を殺されたくなければ、私のモノになれ。」
恥知らずにも、ルドンはそう言った。
「私に服従し、私のモノを舐めて精一杯媚びろ、そうすれば夫は生かしておいてやろう。」
「女性に対する口説き文句としては、最低ですよ。」
いつの間にか俺たちの集まっていた地域の一角に立っていた英奈さんが、そんなことを言った。相変わらずいきなり現れる人だ。
「夢の時間は終了です。」
英奈さんがそう言った瞬間、俺たちの周囲で爆発が起こった。
瞬間体が軽くなり、いやもとの調子に戻り息苦しさがなくなった、どうやら今の英奈さんが起こしたと思しき爆発で俺たちの力を制限していた魔法が効力を失ったようだ。
あわてて逃げ出そうとする雑魚どもを一人ずつ順番に叩きのめす、散々いたぶってくれたんだからお返し代わりに思いっきりぶん殴って遠慮なくぶち殺す。
ロイドも反撃に転じて周囲の連中をザクザク切り捨てている、そしてそれ以上に凶悪なのが、ルビーだった。
魔法陣の効果が消えたことに気付いたルドンは部下に足止めを命じて自分はさっさと逃げようと画策したようでルビーには特に大勢の敵が群がっていたんだが、彼女はそれをハエ叩きで叩き落とすようにどけて、一直線にルドンとの距離を詰めていく。
後ろをチラチラ確認しながら逃げていたからだろう、ルドンはついに転ぶ、しかしそれでも必死に這いずって逃げようとするが、
ズン
足を踏まれて抑え込まれた。
「ひっひっひぃ―――――――――――――――――――――ッ!!!!」
先ほどまでの図に乗りまくった態度は一変して、ルビーを見る目には怯えが見て取れる。
応戦しようという気力も全くうかがえない当たり、どれだけ封印魔法陣に全部をかけていたのかがよくわかる、いや単に背中から憤怒の炎を上げながら寄ってくるルビーが想定していたよりはるかに怖いだけかもしれないが。
頑丈な鎧も強い剣も、結局はただの飾りでしかなかったようだ。
「さて、貴様に対する罪状は大きく分けて三つある。」
心臓の弱い方なら目線だけで殺せそうなすさまじい目でルビーがルドンを見ながら言う。
「まず、私を自分に隷属させようなど愚かな考えを抱いたこと。」
そう言いながら、ルビーはルドンの腹を蹴る、頑丈そうな鎧にひびが入った。
「たっ助けてくれぇ! 誰か、誰かこの化け物をとめろぉ!!!!」
必死に助かろうとするルドンだが、誰も助けには入れないし入らない。
ルビーはルビーでその抵抗を全く見ていないらしく、あくまで怒気は収まらない。
「次に、偉大な私の母を侮辱し、その高貴な遺品を盗み自分の身に着けるという恥知らずの盗賊じみた行為をしてさらに泥を上塗りしたこと。」
そう言いながら、ルビーは今度は力いっぱいルドンの両足を順番に踏みつけた、腹に比べて厚みに乏しい鎧は簡単に砕け、足の骨も砕いた。
「助けっ! やめてくださいどうか慈悲を! お慈悲をぉ――――――――――っ!」
耳障りな命乞いの声を上げながら、ルドンは必死に生き残ろうとする。
「最後に、私がこの世で最も愛する人に、私だけの大切なロイドに傷をつけたこと。」
今度は両腕、しゃがみこんだかと思ったら、二の腕あたりをつかみ、そのまま握りつぶす。
「そのほかの行為はこれに比べればあまりに軽微だから見逃してやる、だがこの三つは何があっても許さん、よって貴様は、死ぬ方がマシと思えるような刑に処す。」
そう言ったルビーは、ルドンの両腕を持ったまま腕を左右に広げるように動かした。
ごぎん ぶちぶぢみぢめきみぢみぢみぢみぢみぢ ぶづん
骨の折れる音と、筋肉繊維がちぎれる音、そして人の腕が強引に捥がれる音が連続でして、
「いぎゃぁあああ゙ああああ゙あああああああああぁあ゙あああああぁああああああああああああ゙あああぁぁああ゙あぁあああああああああああああ゙!!!!!」
絶望と苦痛と恐怖と、いろんな負の感情がごちゃ混ぜになった絶叫が周囲にこだました。
「一生ダルマで過ごせ、格下の人間に助けられて一人前の生活をしてきた貴様のようなボンボンからすれば、今までの生活と取り立てて大きな違いもあるまい?」
もぎ取った腕をごみのように放り捨てながら、ルビーは冷たく言い放った。
そしてもうルドンには興味もなくなったらしく、振り返るとロイドに向かって駆け寄った。
「ロイド、怪我は大丈夫か? こんなに痣だらけになって……こんな怪我では次の戦いは危険だろう、私から王女に申し立てるから少し休もう。」
そんなことを言いながら、ルビーはロイドに寄り添って彼の体を抱きしめる。
「吹雪さんも、お怪我の加減はいかがです?」
英奈さんが俺の隣に腰かけて言う、この人のおかげで助かったと言えなくもない。
「どうにか、あちこち殴られてますけど、骨は折れてないですし。」
俺も地面に腰を下ろして言う、もう少し殴られてたら危なかったかもしれないが、一応そんなに大怪我はしてない、ロイドの方も多分そうだろう。
「そう言えば、本軍はどうなったんです?」
「既に渡河を果たしました、それで私とハートさんが先行して皆さんの助けに来たのですが、ハートさんは敵将を追ってどこかに行ってしまいまして……」
あの単細胞……次するときは確実に激しめにしてやる。
「ただいまただいま、悪い悪い逃げ足が異様に早くって追い付くのに手間取っちまった。」
ハートが痩せぎすの男を担いで戻ってきた、男は頭から血を流しているがそこまで大きな怪我でもないし致命傷を負わせた気配もないから、殴って気絶させたんだろう。
「おかえりなさい、吹雪さんの危機によくそっちに気を取られていましたね。」
「お前が『自分が助けるから大丈夫だからこいつ捕まえろ』って言ったんだろ、『その方がフブキが喜ぶ』って。」
英奈さんの嫌味にハートが反論する、ハートは馬鹿だし単細胞だけどその分あまり嘘はつかない、ついてもすぐにばれる。つまりこれは真実である可能性が高い。
「英奈さん?」
睨むように彼女の方を見ると、躊躇なく目を逸らされた。
ため息をつくと、姫様たちが俺たちの方に来るのが見えた。
「皆さんご無事ですか?」
「ええ、ちょっと怪我はしてますが問題ありません。」
迷わず無事であることを伝えた俺たちとは違い、ルビーは姫様相手に説得を成立させて次の戦闘は休ませてもらう確約を得ていた。
「フブキさん達のおかげで快勝です、とはいえ逃走兵が逃げた先の城も一気に落とす必要がありますので、急ぎ物資を徴収、それが済み次第進軍しましょう。」
そんな風に、あわただしい進軍が再び始まった。


11/11/15 23:46更新 / なるつき
戻る 次へ

■作者メッセージ
というわけで渡河クリア、順調に進軍を続ける王女軍ですが果たしてこの先も快調なペースを維持して進むことができるんでしょうか。
急ぐ理由はいったい何なんでしょうか。

ちなみにルドンがルビーを欲しがったのは今までにドラゴンを奴隷に出来た貴族が他にいないから、「力ある魔物」の代名詞であるドラゴンを従えたれたら大きなステータスに為りえますからね。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33