連載小説
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後編
 きもちいいなにかをかんじた。

 おまたあたりからわきあがる。

 きがつくと、“あたい”はそこにいた。





「んむ、これは珍しい・・・」
「あらあら・・・今回は真っ白な娘ができちゃいましたね♪」

 男女の声が家屋内に響き渡る。

 男性は上下とも白い和服を纏い、黒髪に温厚そうな顔をしている。

 女性は赤い袴と上の白い服は所々に金の刺繍がされている。彼女の長い髪は山吹色に輝き、頭のてっぺんから狐のような獣耳がピンと立っていた。また、彼女のお尻辺りから狐の尻尾が9本も生えていて、髪の色と同じく輝いている。

「この娘は巫女候補の娘に憑けるには惜しいかも♪」
「んむ・・・候補の娘はもうすでに決まった二人だけだからな。今すぐでなくても後で探せばいいだろう」

 二人の目の前にいる存在。それは狐の魔物娘が大量の魔力で生み出した精霊とも言える魔物の一種。


“狐火”


 無論、生み出した本人はこの“九尾の稲荷”である。彼女は溜まりまくった魔力を使い、新たな命を創り上げたのだ。その結果、白色に輝く炎の娘が誕生。幼い体つきに母親譲りの狐耳と9つの尾を形作っている。

「・・・・・・?」

 初めて見る親達の姿に不思議がる炎の少女。そんな彼女の頭を母親が右手で優しく撫でた。

「いい娘ね。私があなたの母親である“神柳 布知菜”(かみやなぎ ふちな)よ」
「こっちは父親の“神柳 蒲公”(かみやなぎ ほこう)だ。お父さんでもいいぞ」
「・・・・・・」

 少女はそれを聞いて、しゃべろうと口を開ける。パクパクと口を開くが、声は全く出なかった。

(でない・・・お父ちゃん・・・)
「大丈夫、生まれたてだから魔力が安定してないだけよ。その内しゃべれるようになるわ。今この娘、お父ちゃんと思い浮かべたわよ」
「んむ? この娘の心が読めるのかい?」
「母である私には読めるわ」
(お母ちゃん・・・)

 少女は母親を呼ぶ言葉を呟く。そのことに母親である稲荷がにっこりと笑う。

「んむ・・・次は名前を決めなければ・・・」
「もう決めてあるわよ。この娘の名は・・・“白花”(びゃっか)よ」
(びゃっか・・・あたいの・・・なまえ・・・)
「真っ白なあなたにピッタリな名前よ」
「そりゃあ、他の娘達に比べたらいい名前だが・・・」

 父親が複雑そうな顔しながら、両手でパンパンと二回叩いた。すると、それに反応するかのように、少女の後ろにある襖がゆっくりと開く。それに気付いた少女の後ろから、白い服に水色の袴を纏った10歳ぐらいの少年が入ってきた。

「んむ、太平(たいへい)」
「はい」
「すでに二人も世話させているところ悪いが、この娘“白花”の世話も頼む」
「分かりました」

 そう返事をした少年は、白火の少女に手招きする。

「おいで・・・お姉さん達にも会わせてあげるよ」
(お姉ちゃん?)





 白火の少女以外に、すでに二人も同じ存在の少女達が居た。こちらの方は青白い炎の身体を持った二人。名前は“東”(とお)と“西”(さい)だ。どちらも活発的な性格で、違いとしては、東は5尾、西は8尾の尻尾を持っている。

「わたしがお姉ちゃんです♪」
「西が二番目のお姉ちゃんです♪」
「尻尾が少ない方が上になるね。稲荷からしてみればおかしいけど・・・生まれた順はそうなるから・・・」

 二人をそう紹介する少年。

 少年の名は“神柳 太平”(かみやなぎ たいへい)

 蒲公と布知菜の養子であり、二人が営むこの神社の後継者として迎え入れられた。現在は見習いであるが、いずれは神社を継ぐ神主になると少女に告げる。

「それじゃあ、僕達がいる神社と町を教えようか」
(じんじゃ?・・・まち・・・)

 少年や姉達に連れられ、少女も屋内から外に出た。

「此処が僕達のお家でもある“神柳神社”だ」
(かみやなぎ・・・じんじゃ・・・おいえ?)
「この神社は狐の神様である稲荷を奉る場所。今は母である布知菜様がその稲荷の役職をしているんだよ」
(お母ちゃんが・・・かみさま?)

 初めて知ることばかりで戸惑う少女。そんな彼女を少年は手を差し伸べた。

「こっちへ」
(?)

 少女には肉体が無いので直に触れないが、引っ張られるような素振りをして少年に案内される。二人は鳥居を潜った途端、その場所から見える町を眺めた。

「解らないことだらけだと思うけど、知ればもっと楽しくなるよ?」
「・・・コクッ」
「ふふ・・・これが僕達の住む町“鼓草”向こうに見える青いのが海・・・それから・・・」










「今日は町を見回りに行くよ」
「「は〜い♪」」
「・・・コクッ」

 少女が生まれてから1ヶ月後。

 彼女はある程度教養を学び、少年や姉の狐火達と過ごす日々を送っていた。少年の提案で町へ歩き回ることとなる。また、母である布知菜からのお使いも頼まれ、その用事を済ませることもあった。



 町を行き交う人や魔物は多く、商店が並ぶ道には露店をする者などもいた。

「色んな物あるね」
「あるね」
「・・・コクッ」
「見るのはいいけど、あまり道草食わないようにね」
「そんなこと言わずに見て行ってくれないか?」

 突然、声を掛けられたことに4人は驚いてしまう。声の主は露店を開いている男。和装ではない服、白い肌、赤毛の髪と此処ではあまり見ない容姿。何より目立ったのは、糸のように細い目で笑う顔だ。

「あの・・・もしかして、大陸の方ですか?」
「おお、その通り。ちょいと船で東方へとやって来た行商人だ。ジパングでは見ない品を売りにな」
「確かに見たことのない品ばかりですね」

 男が地面に敷いた風呂敷の上の品物。見たことのない銀製の食器やアクセサリーなどの小物が置かれている。狐火の少女達も興味津々にそれらを眺めた。白火の少女も品物を見ていたが、あるものに目が釘付けとなる。

(???)

 それはお茶を入れる急須に似たような物。急須と違い、口の部分から本体まで細長くなっていた。取っ手も上から持ち上げる構造ではなく、口とは反対の背中に付いている。また、全体が金色に輝いていて、蓋の真上に赤い宝石が装飾されていた。

 少女がそれに指を差して、無言で男に尋ねた。

「ん? ああ、お嬢ちゃん、それは知り合いから貰ったもので、砂漠の町で使われていたランプだ」
(ランプ?)
「えっ? これ・・・照明道具ですか?」
「らしいな。と言っても、こんな派手なもん使う奴がいるかどうか・・・」
「「へんなの〜」」

 少年は首を傾げてしまい、姉の狐火達は興味がなさそうに目を逸らす。

「まぁ、なかなか売れる気配もないから、そろそろ店仕舞いにしようかな?」
「す、すみません。この子達とお使いがあるもので・・・」
「いいって! いいって! 一応ある店と取引で儲かってるし、その金で大陸に戻るとするわ」
「では、失礼しますね。行くよ」
「「は〜い」」
「・・・コクッ」

 少年に連れられ、少女達はその場を後にした。

「さて、行く準備すっかな?」





 目的の酒屋にやってきた少女達は、少年が買い物を済ませるまで店の外で待つことになる。姉達は近くの野良猫とじゃれていた。一方、白火の少女はその光景を眺めている。

(楽しそう・・・)
ガシャン
「???」

 突如、少女にだけ聞こえた金属のような何かが落ちる音。彼女が辺りを見回すと、少し離れた場所に先程の行商人が大きな荷物を背負って歩いているのが見えた。よく見ると、彼の歩いてきた道に金色の物体が落ちていることに気付く。

(あっ・・・あれ・・・)

 少女は姉達に何も言わず、落ちたそれに近付いて行った。それはついさっき見ていた金色のランプである。もう一度歩いている行商人を見るが、どうやら落し物に気付いていないらしい。

(届けなきゃ・・・)

 少女は親切心でその落し物を拾おうとした。その時、彼女はランプの蓋にある宝石が輝いていることに気付かなかった。



 もう少しで手が触れる瞬間、白火の少女はランプの口へと一瞬にして吸い込まれてしまった。



 まるで何事も無かったかのようにランプはそのまま地面に転がっている。

 それから少し遅れて、その近くの家から黒い着物の男が戸を開け、歩く先に落ちていたランプを発見した。

「おりょ? なんだこれは?」

 彼は辺りを見回し、少し離れた行商人を見つけて走り出す。男は荷物を背負う彼を呼び止めて、落し物じゃないかどうかを尋ねた。

「これ、あんたのじゃないか?」
「ありゃ、いつの間に? すまないねぇ、全然気付かなかったよ」
「こんな高価そうな物を落としなさんな。その内に損してしまうぞ」
「お気遣いどうも・・・それでは」
「ああ、気を付けてな」

 行商人は荷物にランプを押し込めて、その場から立ち去って行った。

 しかし、少女がランプに吸い込まれた光景は誰一人目撃せずにいた。

 無論、誰もランプの中に少女が入っていることを知らず・・・。

「お待たせ・・・・・・あれ? 白花は?」
「えっ?」
「あっ?」










 大陸に戻った行商人は、町から町へと移動し、3年以上の月日を何事もなく過ごす。その間、幸か不幸か“金のランプ”は手元に残ったままだった。

 それからしばらくして・・・。



「おい! 身包み置いてけ!!」
「ひぃ!? 命ばかりは・・・」

 運悪く盗賊の集団に出会ってしまった。行商人は無事に逃れたものの、あのランプごと荷物を奪われてしまう。



 戦利品を持ち歩き続けた盗賊達は、移動と略奪を繰り返していく。溜まった金品を売ってはまた奪うという生計を立てる彼ら。それでもあのランプは彼らの手元から離れることはなかった。

 それから3年後・・・。



「よし、連れて行け」
「「「はっ!」」」

 彼らは久々の獲物に襲い掛かろうとしたが、その相手は教団の兵士だった。しかも勇者と言われる女騎士は異常なほど強く、何もできないまま返り討ちにされる。盗賊達は全員拘束され、少数の兵士達とともに町へと連行された。

 その際、彼らが持っていた盗品は全て押収される。その中にはあの金のランプも入っていた。



「そこの上に置くぞ」
「しっかり持ち上げろ!」
「よいしょっと!」

 多数の兵士達が2メートルぐらいのねじれた角のようなものを持ち上げる。それは先程撃退した魔物“ドラゴン”から叩き折った頭の角だ。彼らはそれを回収し、戦利品として押収した金品の場所へと運ぶ。

「いっせ―の―でっ、それっ!」
「ええい!!」
「ぬああ!!

 兵士達は力を合わせて、その巨大な角を金品の入った複数の木箱の上に乗せた。一段落ついた彼らは倉庫代わりであるテントから出ていく。

ミシッ

 誰一人居なくなったテント内で何かが鳴り響いた。その数秒後、巨大な角が置かれた木箱の内、左端にある木箱がバキリと割れる音を立てる。側面の木の板が壊れ、そこから金貨とともにある物が流れ落ちた。


 それは行商人から盗賊へと手渡ったあの“金のランプ”だった。


 地面へと落ちたそれは、その弾みで蓋の宝石を傷つけてしまう。

 その傷はやがて大きな亀裂へと変わり、宝石自体がパリンと割れ散った。

 宝石が割れた直後、ランプの口から白い炎のようなものが飛び出す。

 それは少女のような姿を・・・。





 一体何が起きたんだろう。気が付いたら真っ暗になって・・・目が開けるようになったら、知らない場所にあたいは居た。此処は何処だろう? 匂いも全然嗅いだことのない。

 たいへい・・・お姉ちゃん達・・・何処?

 布で出来た壁を通り抜けると、布の家が沢山あった。どういうところなんだろう。

 少し遠い場所で鉄の服を着た人達が歩き回ってる。刃物が付いた細長い棒を持っていて怖い。見つかったらどうしよう・・・。

 ひゃっ!?

 布の家に背中をくっつけようとしたら、通り抜けちゃった。さっきの怖い人がいるかも・・・・・・居な・・・?


 そこには女の人が居た。

 お母ちゃんと同じくらい背の高い人。

 長い金色の髪で綺麗な人。

 白い肌を白い鉄板が付いた服を着ている。

 右手に重そうな棒みたいなのを持ってる。

 けれど・・・この人・・・何か変・・・。


 椅子に座るその人のところへゆっくりと近付く。あれ? この人・・・あたいのこと・・・見えてるの? 緑色の瞳が暗い感じがする。どうしたんだろう。

 触ってみようと思い、右手を女の人の顔に近付けた。

 その時、またあたいの身体が何かに引っ張られてしまう。





 ご主人様からお嬢様の身なりを整えるよう指示された。もう何年になるのだろう。わたくしはある枢機卿にお仕えすることになり、内心喜んでいました。けれども・・・その枢機卿から言い渡されたことに愕然とする。

「この人形の世話を手伝え」

 自身の娘をこれほど弄ぶ父親なんて初めて見ました。彼の言うことしか聞かないよう躾けられ、少し動くことすら許可が必要なほど。これはどっちが人だと言えるべきなのか。解らなかった。

 ご主人様の命令でわたくしの言うことも聞けるようになっているが・・・正直、わたくしではこの御方を助けることはできない。何故ならすでに感情というものが感じられない。

 笑うことも・・・。

 怒ることも・・・。

 悲しむことも・・・。

 楽しむことも一切しない。

 ある女騎士にこの相談を持ちかけたことがあったが、あれから連絡はない。いや、助け出したとしても、果たして元に戻すことなどできるのだろうか?

 自問自答しながらお嬢様のいるテントに向かう。

「お嬢様、失礼します」
「ふにゅ?」
「・・・・・・えっ?」





「・・・・・・あ、あれ?」

 声が出る・・・というより、なんだろうこの感じ。いつもの身体が浮く感覚が無い。辺りを見回すと、あの女の人が居ない。何処に行ったんだろう。

「え―と・・・どうしよう?」

 とにかく立ち上がって此処から出なくちゃ。それと誰かにお家が何処か聞かないと・・・。

「お嬢様、失礼します」
「ふにゅ?」
「・・・・・・えっ?」

 布の家の入口から別の女の人が入って来た。黒と白の服を着た人。その人はあたいを見た途端、何故か動かなくなる。

「お、お嬢様? ど、どうかされましたか?」
「・・・・・・お嬢様って・・・誰?」
「・・・あなた様のことでございますが・・・」
「あたい? あたいはお嬢様って名前じゃないよ」

 あたいが笑顔でそう言って歩こうすると、女の人がいきなり後ろを向いて走り出した。あの人、何しに此処へ来たんだろう?

「あっ、お家のこと聞けばよかった・・・」

 せっかく尋ねる人が現れたのに・・・別の人を探そう。

「・・・ん?」

 右手に持った棒を手放そうとしたけど、指すら動かなかった。なんで? 邪魔だけど・・・仕方ない。後でいいや。



 布の家から出て、歩き回る。確か歩き回ってた人が居たよね? 今はなんだか怖くない感じがする。

「見つけた」

 一人居た。お父ちゃんより若い人。その人に近付き、声を掛ける。

「ねぇねぇ、そこのお兄さん」
「ん?・・・こ、これはこれは勇者様!」
「えっ?」
「ど、どうなされましたか!? いつもは枢機卿とご一緒のはずですが・・・」
「え―とね、お家・・・」
「クリネ!!」

 突然、後ろの方から男の叫ぶ声がした。誰だろう。今はこの人とお話してるのに・・・振り向くと立派そうな黒服を着たおじさんが立っていた。さっきの女の人もその後ろにいる。

「何をしている!? 一人で動くなと言ったはずだぞ! またお仕置きされたいのか!?」

 おじさんが怒った顔でそう言いながら歩いて来る。この人、何を言ってるんだろう。

「さっさとついて来い! また教育をし直さねば・・・」
「おじちゃん誰?」
「・・・・・・はっ?」

 なんでこの人・・・あたいを連れて行こうとするの? そうだ・・・あたいはたいへいが言ってたことを思い出す。


『知らない人にはついて行かないようにね』


 だったらこの人の言うことは聞かない。

「な、何を言って・・・」
「おじちゃん・・・知らない人・・・」
「わ、私は! お前の父親だぞ!!」

 本当に何を言っているんだろうこの人。あたいのお父ちゃんはこんな白肌で金髪の人じゃない。

「違う・・・おじちゃんは“あたい”のお父ちゃんじゃない」
「!?」
「おじちゃんは知らない人・・・だから付いて行かない」

 もう・・・うるさい人だし、この場所から離れよう。少し歩いてから後ろを向いて、おじちゃんに手を振った。

「ばいばい・・・知らないおじちゃん」

 それにしても、この棒・・・邪魔だな・・・。





 大木が沢山ある場所を歩く。何処を進んでいるか分からない。それでもお家に帰りたい。途中、リンゴの木があったので、右手の棒を使って取った。でも、まだお腹が減ってる。どうしようかな・・・。



 しばらく歩いていると、木で出来た家と茶色っぽい肌の人達がいっぱい集まっていた。また見たことない人達だ。でも、なんかよく見ると女の人達ばかり・・・もう少し近付いてみよう。

「ワタシらを退治しに来たのかい?」

 あたいが立ち止まると、綺麗な羽の冠を被った女の人がしゃべってきた。退治しに来たって、どういうこと? それよりも今聞きたいことは・・・。

「お腹空いたの・・・」
「むぅ?」
「「「「へ?」」」」



「もぐもぐ・・・」
「美味しいかい?」
「うん! とっても美味しいの! 初めて食べるものばかり!」

 なんでか知らないけど此処の族長さんが代表して、あたいに食べ物を恵んでくれた。お家で食べてた物とは違う果物やお肉。どれも美味しかった。

「それで・・・聞くけど、あんたは教団を抜け出したのかい?」
「きょうだん? きょうだんってなに?」
「あ、頭でも打っちまったのかい?」
「ううん、打ってないよ」

 族長さんの質問の意味が分からなかった。きょうだんってなんだろう?

「族長、こいつ嘘をついているのでは・・・」
「そんな目はしていない」
「では、儀式で私達の仲間に・・・」
「それも待て・・・少し気掛かりがある」

 何かを話しているけど、あたいはお腹一杯食べたいから無視した。



 食べ終わった後、また族長さんが聞いてきた。

「それで・・・あんたは何しに此処へ来たんだい?」
「お家」
「えっ?」
「お家に帰りたいの」
「お家って・・・教団の居る町かい?」
「違う。あたいのお家は神社」
「神社? 神社・・・おい、皆の衆、聞いたことあるかい?」

 族長さんは困った顔で仲間の人に尋ねてみた。誰もが知らなさそうな顔をしている・・・お家・・・・・・帰れないの?

「・・・・・・ぐすっ」
「ああっ! 泣くな! 泣くな! 皆の衆! 男共にも聞いて来い!」
「「「「は、はい!」」」」

 族長さんがあたいを宥めてくれた。少し気が楽になるけど・・・これが迷子なのかな?

「大丈夫だ。今知っている奴を探しているから・・・」
「・・・うん」
「族長!」
「どうした?」
「居ました! 神社を知っている方を!」

 女の人が一人の男の人を連れて来る。白い肌に赤毛で髭を伸ばした細い目のお兄さんだ。

「え―と・・・この娘が神社って言ったのか?」
「そうらしい。家に帰りたいと言って、何処だって聞いたら・・・」
「神社ねぇ・・・そいつは確か、ジパングによくある建物らしいけど・・・」
「ジパングって、海を渡った場所じゃないか!」

 お兄さんがこっちへ来て、あたいにしゃべりかけてきた。

「お嬢ちゃん、何処の町に住んでたか覚えているか?」

 町・・・確か町の名前は・・・。

「・・・つづみそう」
「つづみそう・・・・・・って、鼓草!?」
「知ってるの?」
「そりゃあ、一度訪れたことがあるからねぇ」

 それを聞いてあたいは嬉しかった。

「族長、この娘はジパングから来たのかもしれない」
「いや、ここまで聞けば間違いないだろう」
「えっ?」
「この娘は見た目があの忌々しい勇者。けれども教団を知らない、ジパングに帰りたいなんて言う。これは明らかに、この娘の中身があの勇者と別物としか考えられない」
「ということは・・・」

 お兄さんと族長さんがあたいの方を見てくる。

「あんた、名前はなんていうんだい?」
「・・・白花」
「ビャッカか・・・こりゃあ、当たりのようだね」
「当たり?」

 何かに納得した族長さんが別の女の人を呼ぶ。その人が明後日の方へ走っていき、族長さんが笑顔で話してきた。

「安心しな。今、知り合いのゴブリンのところへ使いを出したから、そいつの飼ってる魔界豚に乗って帰りな」
「豚さんに乗って?」
「ジパングへは船に乗らないといけないからね。後はこの男に行き方を聞きな」
「分かった」



 ゴブリンの少女が騎乗する巨大な豚に乗り、女騎士はアマゾネスの村から去っていく。それを見送るアマゾネスの一同。そんな中、帰り方を教えた細目の男は考え込んでいた。その姿に気になった彼の妻であるアマゾネスが声を掛ける。

「どうしたの?」
「いや・・・あの娘・・・どっかで会った気がするなって思ったんだ」
「浮気?」
「違うって! 君と出会う以前のことだよ!」
「そうなの?」
「ああ・・・でも、盗賊に身包み剥されて、商売道具を取られたのは辛かったな」
「そこで私と出会ったからいいでしょ?」
「まぁ、確かにそうだけど・・・」
「じゃあ、今日も張り切ってやりましょう!」
「ちょ、まだ夜じゃないって・・・あああああ!」










 お船がある町・・・ダンデライオン? だったっけ? そこまでやってきたあたいは、つづみそう行きのお船を探した。イカのお姉さんに聞いて、そのお船に乗ろうとしたら男の人に止められた。

 乗って帰りたいだけなのに、また“きょうだん”って言葉を使ってきた。知らないのになんで止められるの?

 でも、後からやって来たサキュバスの巫女さんが乗せてくれるようお願いしてくれた。

「某の名は、安佐伊 夢乃(あさい ゆめの)夢乃と呼んでも構いませぬ」
「さっきはありがとう、夢乃お姉ちゃん。あたいは白花」

 この人もつづみそうに用事があって、船に乗りに来たそうだ。巫女さんの服だけど自分は侍だと言っている。世の中って色んな人がいるんだなぁ・・・。

「そうだ、夢乃お姉ちゃん」
「なんでしょうか?」
「さっきあたいに手を当てたのは何なの?」
「あれですか。あれは魔力であなたが何者かを探っただけです」
「あたいのことを?」

 あれであたいが狐火だってことが分かったんだ。

「ええ、知り合いにちょうど同じ娘が居ましたから」
「他の狐火? どんな子?」
「え―とですね・・・」





 お船の中で夢乃お姉ちゃんのお話を聞かせてもらい、海を渡る最中は退屈しなかった。

 それから3日が過ぎ、寝ていたあたいの鼻に懐かしい匂いが漂った。

 その匂いでゆっくりと起き上がり、外していた鉄の服を着て、部屋から出ていく。

 お船から外が見える場所に行き、進んでいる方向へ覗き見た。

「あっ・・・見えた・・・」

 帰ってきた・・・あたいの住む町・・・あたいのお家・・・。

 お母ちゃん、お父ちゃん、お姉ちゃん達・・・・・・たいへい・・・。

 お船が足場の届く場所まで行くのを待ってから飛び降りた。





「えへへ♪」

 久々に嗅いだ“たいへい”の匂い。たいへいの身体が大きくなってるけど、あたいより小さい気がする。でも、抱き締められるから気にしない。

「本当に・・・白花・・・なのか?」
「そうだよ」
「今まで何処に?・・・それに・・・その身体は?」
「え―とね、ランプ触ろうとしたら、真っ暗になっちゃって・・・気が付いたら布のお家の中で・・・女の人に触ろうとして、それからお家まで帰ってきたんだよ」
「・・・」

 たいへいが倒れたまま、右手の指で頬を掻いている。もしかして、困らせるようなことを言っちゃったのかな?

「・・・取り敢えず・・・おかえり、白花」
「ただいま、たいへい♪」
「お家に入ろうか。二人にも知らせないといけないし・・・」
「うん」





 青年に案内されて、少女が入っている女性は神社の本殿へと入っていく。両親と再会した彼女は、これまでの経緯をなんとか解るように説明した。しばらくして、母の稲荷がサキュバスの少女と同じように、女騎士の胸に手を当てる。

「・・・」
「・・・」
「・・・間違いないわ」
「「!?」」
「・・・・・・よく此処まで無事に戻って来られたわね、白花」
「お母ちゃん・・・」
「おかえり・・・会いたかったわ・・・我が娘よ」

 喜びのあまり、二人は互いに抱き締め合った。見た目は親子とは思えない二人だが、その魂は惹かれ合うほど絆が結び付いている。その光景に父親と青年もこの女性が娘である狐火だと確信した。

「さて・・・随分といい体型の娘に乗り移ったわね」
「うん、触ったらこうなっちゃったみたい・・・」
「布知菜様、これはもしや・・・」
「“狐憑き”ね」

 それは狐火が人間の女性に取り憑いた魔物の姿。見た目は人の姿とは変わらないが、男があることをすれば、その者だけに狐火の姿が見えるらしい。

「んむ、妙だな・・・」
「蒲公様?」
「東や西も狐憑きとなったが、狐火の意識より、女の意志が強かったはずだ」
「確かに・・・多少、二人とも狐火の影響はありましたが・・・それが?」
「白花を見ろ。あの娘が取り憑いた女の意志は?」
「っ!?」

 父である神主の指摘で、青年は女性に目を向けた。見た目は成熟した女性そのもの。けれども中身は無邪気な幼子のような少女である。どう見ても元となった女性の意志が全く見られないのだ。

「これは・・・どういうことでしょうか?」
「んむ・・・分からんのぉ・・・」
「そんなことはどうでもいいじゃないですか。6年以上も行方不明だった娘が帰ってきたのよ」
「6年?」

 少女からしてみれば、ランプの中に居た時間は極僅かであった。しかし、彼女が行方不明になったあの日から、すでに6年の歳月が過ぎていたのだ。

 一方、町では多くの住人達が少女の行方を探し続けていた。だが、誰も知らずに大陸まで行った少女を見つけることは出来なかった。結局、2年程で捜索は打ち切られてしまう。それでも遠方へと探しに行ってくれた人も居たが、嫁を連れ帰った者がほとんどだった。

「さぁ、ちょっと早いけど太平はお祝いのお昼御飯を作ってね。私はこの娘とお風呂に入って来るわ」
「あ、・・・は、はい。わかりました」
「んむ、それじゃあ、少し町の方へ行ってくる。白花が見つかったことを知り合いに知らせないとな」
「あなた、御飯までには帰ってね」
「んむ」





 母と一緒にお風呂場へ来た白花はあることに悩まされてしまう。

「・・・・・・取れない」
「どうしてかしらねぇ・・・」

 それは白花が乗り移った女性が持っていた物。右手の手甲で強く握り持つ斧槍。彼女自身、意識しなくてもその手が緩むことすらなかった。そのため、手甲すら脱げず、斧槍を持ったまま入ることになる。

「ねぇ、白花」
「ふにゅ?」
「この人と初めて会ったとき、あなたは何を見たの?」
「え―と・・・こっちを見てない目でずっと座ってた。お人形さんみたいに・・・」
「お人形・・・」

 娘が言ったことに稲荷の母は悲しげな表情をする。

 実は先程娘を抱き締めている際、その身体の記憶を術で覗き見たのだ。


 生まれたときから母親はおらず・・・。

 厳格な父親に育てられていた・・・。

 その教育はあまりに過酷で・・・。

 人として見られていない扱い・・・。

 そして、成長した彼女は・・・。

 父親無しでは生きられない身体となり・・・。

 感情が全くない人へと育ってしまった。


 子育ての経験をした母にとって、これほど酷い育て方をする親は見たことが無かった。

(そこへ運よく私の娘が入り込んだのね・・・)
「お母ちゃん?」
「なんでもないわ。さぁ、綺麗にしてあげる」
「うん」





 昼御飯が出来上がり、父親の神主がある人物と一緒に戻ってきた。それは白花を乗せてくれたサキュバスの少女“夢乃”だ。彼女は神柳神社の稲荷“布知菜”に手紙を届けるため、この鼓草へとやって来たのだ。

「あらあら、ご苦労様。“あの娘”も頑張っているようね。よろしければ今日は家へ泊まりなさいな」
「娘を連れて来てくれた礼もしたい」
「喜んで承ります」
「夢乃お姉ちゃん! またお話聞かせてね♪」
「承知」

 それからしばらくして、町の方から住人達がお祝いの品を届けにやって来る。娘の帰還を祝う騒ぎは晩御飯まで続き、その日の神社は夜中まで賑わっていた。



 騒いだ住人達が帰り、青年は御飯の後片付けをしていると、少し顔を赤くした稲荷の母がやってくる。

「あらあら、まだ片付けているの?」
「一応はしておかないといけませんから・・・」
「明日に回してもいいのよ♪」
「それだと明日が大変になります・・・酔ってますね?」
「酔ってま・・・ひっく!」

 しゃっくりをする稲荷の姿に呆れる青年。そんな彼の片手を彼女が右手で掴む。

「ちょっと来てくれる?」
「えっ? 何処へ?」
「いいからこっち♪」
「ちょ、ちょっと・・・」

 青年は掴まれた手を振り切れず、引きずるように連れて行かれた。



 少し長い廊下を歩く二人。青年が不思議に思っていると、手を引く稲荷の母が話し掛けてくる。

「太平・・・あの娘が帰ってきて嬉しかった?」
「えっ? そ、それは確かに嬉しかったです・・・」
「じゃあ、あの娘が狐火の意志を持ったまま帰ってきたのは?」
「そ、それは・・・・・・正直解りません」
「そう・・・」

 彼にとって、狐火が狐憑きになる光景は経験済みだった。本当なら喜ぶべきことなのだろうが、彼にとって複雑な気分である。あの頃と変わらない狐火との再会。けれども、狐憑きとなった女性の意志がないことが頭を悩ませる原因だ。

「でも・・・思い悩んでいても仕方ないわ」
「・・・」

 動いていた足が止まり、二人はある部屋の襖の前に立っていた。

「此処は?」
「太平」
「はい」
「あの娘が好き?」
「えっ、あの・・・」
「あなた、白花のことが好き?」
「それは・・・勿論です!」
「そう・・・」

 青年の答えに、彼女はにこやかに微笑む。

「肉体の方の娘は空っぽのまま育てられているの」
「へ?」
「そんな空っぽの中に私の娘が収まった。でも、肉体の方の娘は感情が乏し過ぎるだけで死んでいないわ」
「ど、どういうことですか?」
「難しく考えなくてもいいわ。ただ、肉体と精神に分かれた娘が元に戻ったと思えばいいのよ」
「は、はぁ・・・」
「そんなわけ、で!」

 稲荷の母が勢いよく襖を開けて、部屋の奥へと青年を投げ入れた。

「うわあああ!?」
「うちの娘をよろしく頼むわよ!」

 投げ飛ばされた青年は、部屋の中にあった布団へと座り落ちた。

「じゃあ、ごゆっくりね♪」

 襖を閉められ、青年は打ち付けた尻を擦る。

「いててて・・・な、なんで・・・」
「たいへい?」
「!?」

 彼が声のした方向を見ると、暗闇の中から人影が現れる。

「びゃ、白花?」

 それは白い着物だけを羽織る狐憑きとなったあの女騎士だった。





 お母ちゃんに、この部屋で待っているように言われた。何でも右手の棒を外すための儀式をするって・・・そしたら、たいへいが飛んできた。

「白花、なんで此処に?」
「お母ちゃんに言われたの。此処で待ってなさいって」
「はぁ・・・布知菜様・・・もう・・・」

 疲れた顔をするたいへい。あっ、そういえば・・・。

「あとね、あとね・・・たいへいと気持ちいい抱っこしてもらいなさいって・・・」
「へぶっ!?」

 あっち向いて変な声を出した。何かまずいことを言っちゃったのかな?

「あの方はもう・・・・・・白花、それがどんなことをするか解るかい?」
「わかんない♪」
「だよね・・・はぁ・・・」

 ため息を吐くたいへいがこっちへ手招きした。棒が邪魔にならないよう這って近付く。

「此処に寝転がって」
「うん」

 掛布団を捲り、白い敷布団に両手を拡げてから寝転んだ。たいへいはあたいの右手近くで座って、こっちを見つめてた。

「どんなことするの?」
「それはね・・・君が生まれたように・・・子作りをすることだよ」
「あたいが生まれたように? 子作りって?」
「ん―・・・それなんだけど・・・」

 また説明が止まっちゃった。なんでだろう?

「こ、子作りってさ・・・好きな人同士でないとやっちゃいけないことだから・・・」
「好きな人同士・・・」
「だからさ・・・白花に好きな人がいれば、その人と・・・」
「たいへいが好きな人だよ」

 あたいの好きな人。それは生まれたばかりのあたいに色々教えてくれた。お家のことや町のことを教えてもらわなければ、帰ってくることすらできなかった。だからこそ、心を許せる人は一人しかいない。

「たいへいとなら・・・子作り・・・していいよ」
「白花・・・」

 ゆっくりとたいへいの顔が迫ってくる。たいへいのお口があたいのお口に当たった。

「むぅ・・・ん・・・」

 あったかい・・・思わず舌を出したら、たいへいが舐め返してくれた。

「ん・・・ちゅ・・・んん・・・」
「ちゅぶ・・・・・・はぁ・・・んむ・・・」

 お口同士で舐め回してると、身体が少しずつ温かくなっていく。たいへいも熱くなってるみたい・・・。

「ぷはっ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 突然、たいへいが口を離して、あたいの着物を捲るように脱がしてきた。

「この服はどうやって?」
「あっ・・・これね、お母ちゃんが術で作ってくれたの・・・だから乱暴に破いても大丈夫って・・・」
「用意周到だね・・・」

 右手の棒が外せないから、『面倒くさいわね』って言いながら着せてくれた。腰の帯が解かれて、袖は通したまま裸になった。

「・・・」
「たいへい?」
「・・・綺麗だね」
「あたいのこと? それとも・・・“女の人”?」

 いじわるみたいに尋ねてみた。すると、たいへいは笑った顔で答えてくれた。

「どっちもだよ」
「・・・・・・・・・えへへ♪」

 うれしい。“あたいたち”が綺麗だなんて・・・たち? なんだっけ・・・まぁいいや。

「・・・触るよ?」
「ふにゅ? 触るって、ど・・・はやっ!?」

 たいへいがお股のおしっこするところを右手で撫でてきた。びっくりして変な声が出たけど・・・。

「んんっ・・・ん・・・うあぁ・・・ああっ!」

 触られるたびにお股が痺れてしまう。でも、なんだか気持ちいい。

「うっ、あっ・・・あうっ・・・あっ・・・」

 お股からくちゅくちゅと水音がした。あまりの気持ちよさにやっちゃった?

「あっ、た、たいへい・・・」
「大丈夫。これはおしっこじゃないよ」
「本当?」
「これはね・・・気持ちいいときに出る汁だよ」
「お汁?」

 気持ちいいときに出てくるお汁。どんどん溢れるようにお股の割れた部分から出てくる。たいへいが弄るのをやめて、お汁で濡れた手をぺろりと舐めた。

「き、汚くないの?」
「少ししょっぱいけど・・・美味しいよ」
「たいへい、なんか変態さんに見える」
「うっ、た、確かに・・・ごめん。ちょっと調子乗りすぎた」

 そう言ったたいへいが袴を脱ぎ始めた。何をするのか聞いてみる。

「たいへい、何してるの?」
「もうそろそろかなって・・・」
「?・・・・・・!?」

 たいへいのお股にあるおちんちんが・・・お風呂へ一緒に入ったときより大きくなってた。

「これを・・・白花のここに入れるよ」
「あたいの・・・お股に?」

 あんなに大きいの・・・入ったらどうなるのだろう。なんだか怖い。

「大丈夫。さっきので十分に濡らしたから・・・」
「い、痛くないの?」
「初めてだから痛みはあるけど、かなり和らぐはず・・・」

 そう言われても・・・。

「やっぱり・・・止めようか?」

 たいへいが心配してそう尋ねてきた。でも、お母ちゃんの言った気持ちいい抱っこはこれからだと思う。此処で止めたらできなくなる。

「た、たいへい・・・」
「うん?」
「が、我慢するから・・・続けて・・・お願い・・・」
「白花・・・」

 足をカエルさんみたいに拡げた。たいへいもそれに合わせて、あたいのお股に先っちょの部分を当てる。

「っ・・・」
「いくよ」

 あたいの中にたいへいのものが入ってきた。全部入る途中で、何かが弾ける感じと一緒に針で刺されたような小さな痛みが襲った。

「あうっ!?」
「びゃ、白花!?」
「あ・・・あ、あ・・・へい・・・き・・・」

 一瞬だけ痛みが走った。その後、すぐに気持ちいいのが来た。

「白花?」
「・・・きて・・・」
「えっ?」
「もっとやって・・・気持ちいいの・・・」

 たいへいにそうお願いすると、ゆっくりと腰を動かし始めた。熱いのがあたいの中で行ったり来たりする。

「うん・・・あっ・・・あっ・・・あっ・・・」

 凄い・・・これが子作りの仕方。お母ちゃんの言った通り、凄く気持ちいい。何も持っていない左手にたいへいの右手が握ってきた。

「くっ・・・」
「あっ! あぅ、あっ、あっ、あっ・・・」

 たいへいの動きが早くなる。それと一緒にあたいの中の何かが高まっていく。

「たい、へい、きちゃ、うっ! 何か、弾け、そう!」
「それ、いくって言うんだよ。僕ももうすぐ・・・」
「いく? たいへい、もいく、の?」
「白花の中に、精を出すよ!」

 精・・・精って・・・あっ・・・それ欲しい。たいへいの精。何が何でも欲しい!

「ちょうだい! たいへい! あたいの! 中に! 精! を!」
「ぐぅぅぅぅ!」
「いくぅぅぅ!」

 あたいの頭が弾けたとき、あたいの中にあるたいへいのも弾けた。

「うっ、あっ、あっ、あっ、あぁ・・・」

 たいへいの熱い精が注がれていく。あたいの中に溜まるほど、力が湧いてくる。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ふぅ・・・・・・やっと、見えたね。白花」
「えっ?」

 たいへいがあたいの何かを見つけた。何を見つけたのだろう。

「白花の狐耳と尻尾・・・白く光って見えるよ」
「あたいの・・・耳と尻尾が?」
「狐憑きは普通の人には見えない。僕が見るには白花を抱かないといけないからね」
「そうなんだ・・・」

 どうやらあたいの身体から耳と尻尾が出ているらしい。尻尾は布団を突き抜けてる感じがする。

ゴトッ
「えっ?」
「ふにゅ?」

 あたいの右手が軽くなったと思ったら、何か重いものが落ちた音がした。

「あっ、白花・・・槍が・・・」

 女の人に入ってからずっと握り持っていた棒が・・・やっとあたいの手から離れた。凄い解放感で嬉しかった。

「たいへい・・・ありがとう・・・」
「白花?」
「もっと・・・もっと精を注いで・・・あたいを熱くさせて・・・」





「あらあら、すっかり虜になっちゃって♪」
「んむ、期待通りの娘と息子になったな」
「白花も大人になったことだし・・・あなた、次の子を作りましょうか」
「んむ? またかい?」
「だって、紺や他の狐憑き達はなかなか顔を見せないんですもの。もっと沢山の子どもの顔が見たいわ」
「白花が生むとさらに増えるが・・・んむ、それもいいだろう」










 数年後、神柳神社では新しい神主と神様である稲荷が住んでいた。

 神主は、養子であった“神柳 太平”が務めることとなり、立派な神主の服を纏っていた。

 新しい神様の稲荷は、あの狐憑きだった“白花”である。

 彼女はあれから太平と交わり続け、半年も経たずに稲荷へと変化したのだ。

 今では、金色だった髪の毛は純白となり、稲荷の耳や尻尾も白く輝いている。

「えへへ♪ たいへい♪」
「ん? 白花、どうした?」
「あたいね、子ども、できちゃった♪」
「えっ!? ど、どっちの!?」
「こっちだよ♪」

 白き稲荷の手が青年の手を掴み、自らのお腹に撫でさせる。

 そこには次なる乙女の種が宿っていた。
13/08/24 21:28更新 / 『エックス』
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■作者メッセージ
予定より一週間遅れたことをお詫び申し上げます。
前編でお気付きの方もおられると思いますが、今回の主役の魔物は狐火でした。
彼女達が女性に取り憑く習性を題材に、それじゃあ空っぽな人に取り憑いたら? というのを思い付き、このような物語を創りました。
また、たんぽぽをイメージした部分もあり、主人公や町などもそれ関係が含まれています。
余談ですが、シロバナタンポポの花言葉は『私を探して、そして見つめて』らしいです。
ちなみに一週間後の感想返信とともに、魔物タグを狐火に変更予定です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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