連載小説
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襲来!冥界の雷
「……全く、とんだ横槍が入ったもんだねぇ」
「ああ、だが大して支障は無いだろ?」
「まぁね」


レイピアを構えながらアイーダと向かい合う。
両手にサーベルを持ってるアイーダは、余裕綽々といった態度を見せていた。

「しっかし、驚いたねぇ。まさか、この襲撃の黒幕の正体が、あのキャプテン・キッドだったとは。あんたはあの男の手下って訳か」
「誰も手下になった憶えはない。私は誰にも従う気は無い」
「流石はヴァンパイア。プライドの高さは評判通りだね」

しかし、あそこでキッドと鉢合わせになるとはな。仮にもこの場に残って、二人でアイーダに挑めば多少は楽になるのだろうが……その必要は無い。
シルクの向かった先に何があるか分からないし、寧ろそっちに行かせた方がシルクにとっては大助かりだろう。
人の要望もまともに聞かない男だが、戦闘の実力は高く評価できる。いざと言うときには役に立つだろう。

「……で、その男は放っておいていいのか?」
「ああ、一々構う必要も無いだろう」
「自分の部下なのに、冷たい女だな」
「好きに言いな」

肩を竦めるアイーダ。その後方には、床から上半身を出している男の姿が……。



〜〜〜(数分前)〜〜〜



「何人来ようと同じだぁ!……って、あれ?リシャス?」
「キッド!?」
「あれは……キャプテン・キッド!なんで此処に!?」
「……あれ?お前一人か?シルクは?」
「ここから奥にある地下牢にバルドが居ると聞いて、シルクだけ先に行かせたんだ」
「そうか。で、この褐色の女は?」
「この女がアジトのボスだ」
「え!?マジか!?まさか女だったとは……どうする?手ぇ貸すか?」
「いや、先に行っていい。私よりシルクの方を助けてやってくれ」
「そうか、悪いな」
「ちょっと待ちな!他の奴ならともかく、あんただけは逃がす訳にはいかないね!」
「なんだよ、一人くらいいいじゃねぇか」
「駄目だ。あんたの首を取れば、あたしの名は一気に上がるからねぇ!」
「……しゃーない。ちょっとだけ構ってやるか……」



ドガァン!



「うぁ!?」
「な、なんだ!?床が……人!?」
「……ん?こいつ……まさか、あたしの部下!?」
「……ガク……ガクブルガクブル……」
「お、おい!どうしたんだよ!?何があった!?」
「……キツネ恐い……キツネ恐い……」
「おい!キツネって何の話だよ!?しっかりしろ!」
「……今のうちに行った方がいいのでは?」
「そうだな。じゃあリシャス、ここは任せた。しっかりやれよ!」


ダダダダダダダ!


「あ、しまった!おいこら待て!」
「余所見するな!貴様の相手は私だ!」
「くっ!……しょうがない。キャプテン・キッドの首は後回しだ」


「……キツネ恐い……稲荷恐い……キツネ恐い……稲荷恐い……」



〜〜〜(現在)〜〜〜



……数分前の話をざっくりと纏めると、そう言うことになる。


「……キツネ恐い……稲荷恐い……」


……床を突き破って現れたあの男。
何に怯えているのかさっぱり理解できないが……もういいや。気にしないでおこう。

「さて、始めようかね」
「……ああ」

ゴタゴタがあったが、気を取り直して戦闘体勢に入る私とアイーダ。
そして……!


「すぐに決めてやる!」
「上等!」


戦闘開始の合図であるかのように、互いに武器を手に駆け出した!


キィン!


「良い機会だ。今までヴァンパイアとは戦った事無いからね。じっくり楽しませてもらうよ!」
「ああ、そうした方がいい。その時間もすぐに終わるからな!」


互いに武器をぶつけ合い、鍔迫り合いの状態になる。
至近距離で互いの目を睨み合いながら、挑発的な発言を口から吐いた。

「そぉらっ!」
「甘い!」

アイーダは一歩下がりつつ、空いてる左手のサーベルで斬りかかったが、私はレイピアで左手のサーベルを受け流した。

「はぁぁ!」
「うぉっとっとぉ!」

今度は私の攻撃。レイピアによる素早い突き刺しの雨を降り注がせた。
しかし、相手も易々とやられはしない。両手のサーベルで一つ一つの突き刺しをしなやかに受け流した。
どうやら敵もかなりの腕前のようだ。アジトのボスを務めているだけはある。

「やっぱり速いねぇ!こりゃ私も負けてられない!」
「負けられないのはお互い様だ!」

一通り連撃を受け流したところで、アイーダも反撃に出てきた。
私のレイピアを上手く避けながら、両手のサーベルで舞うように斬りかかる。私も相手の斬撃を防ぎながら、急所への突き刺しを試みる。
剣と剣がぶつかり合う金属音が通路に響き渡る。互いに猛攻の手を緩める事無く、埒の明かない攻防戦が数分間繰り広げられた。

「しぶといねぇ……いよっとぉ!」

すると、アイーダは私がレイピアでサーベルを受け止めた瞬間、右足による回し蹴りを繰り出した。
ここで足技を繰り出してきたか……ならば!

「くっ……せりゃぁあ!」
「ぐぉっ!」

それに対し、私は左腕で回し蹴りを受け止めた。更に右足でアイーダの腹部を蹴り飛ばそうとしたが、相手も腕で私の蹴りを受け止めた。
だが、どうやら力は私の方が上のようだ。蹴りを真正面から受け止めたアイーダは後方へ退き、ほんの僅かな間だけ表情が歪んだ。

「……っとっと……確かにパワーは尋常じゃないね」
「少なくとも並みの人間よりは上だと自負している」
「だったら……これはどうだい?」


アイーダは両腕で自分の身体を包み込むような構えに入った。
そして……!


「必殺!乱れ旋風!」
「っ!?」


キキキキキキキ!



「うぁっ!くっ!」
「そらそらそらぁ!どうだどうだどうだぁ!」


まるで舞でも舞うかのように、己の身体を旋風に変化させたかのように、激しく身体を回転させて怒涛の斬撃を繰り出す。
あまりの速さに追いつくのが精一杯で、一つ一つの攻撃をレイピアで受け流すしかなかった。

「それそれそれそれそれぇ!」
「おわぁっ!うぉっ!くそっ!」

なんとか反撃を試みるが、激しい猛攻には全く抗えない。
迂闊に手を出したら確実にやられる。
どうすればいい……どうすれば……!

「ははは!どうしたんだぁ?そっちからも来いよ!」
「くっ!おのれ……!」

反撃できない私を嘲笑するアイーダ。その気に障る態度を見せられて、私の中に小さな憤りが生じた。
この女、少しばかり優勢になっただけで……!


「……少々気が進まないが……やるしかない」


本音を言えば、この手はあまり使いたくなかったが……やるしかない。
一度熱くなった頭を冷やし、落ち着いて刃を受け流しながら隙を窺い始めた。

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁ!」
「…………」

激しい猛攻だが、必ず一瞬だけでも隙が生じるはず。その一瞬が勝負の決め手……!

「それそれそれぇ!」

落ち着け……まだ……まだだ……。

「ははははは!」

冷静に……落ち着いて……。


「そぉ〜ら……」


そこだ!


「よっとぉ!」


ヒュン!


「それそれ……って、あれ?」


一瞬の隙を見逃さなかった。
人がその場で回転すれば、必ず一瞬だけ相手に背を向ける状態になる。その瞬間を見切った私は、上手くアイーダの猛攻から逃れる事が出来た。

「あ、あれ?あれれ?あいつ、どこ行きやがった?」

激しい攻撃を止めて、目を丸くしながら周囲を見回すアイーダ。
因みに、私はどこに居るのかというと……。

「どっかに隠れてるのか?いや、この通路に姿を隠せるような物も無いし……」
「あるだろう。一つだけな」
「!?今の声……どこだ!?隠れてないで出て来い!」

そう、私は……。

「お望みどおり……出てきてやるよ!」

シュバッ!

「なっ!?」
「なぁ、あっただろう?姿を隠せる物。それは……貴様の影だ!」

キキキィン!

「うわぁっ!」
「もらった!」

アイーダの影に潜り込んでいた。
お望みどおり、影から飛び出た私は二本のサーベルを弾き飛ばし、アイーダを背後から羽交い絞めにして動きを抑えた。

「くそっ!迂闊だった!まさか、こんな魔術を扱えたなんて!」
「ああ、私も習得しておいてよかったと改めて思ってる」

まさか、この影の術がこんなところで役に立つとはな。良い経験を得た。なんでも学んで得てみるものだ。
これからも有効に活用していくとするか。

「くそっ!離せ!離せよ!このっ!このっ!」
「無駄だ。力比べなら貴様に負けない」

力ずくでも私の腕から逃れようとするアイーダ。だが、ヴァンパイアと人間の女とでは力の差が大きすぎる。強引に逃れるなど不可能だ。

「さて……上手く捕まえたことだし、早く勝負を終わらせるとするか」
「くっ……どうやって私を殺す気だい?」
「早まるな。間違っても命は取らない」
「じゃあ何をする気だ?」

アイーダは殺されるとでも思ったのだろうけど、私は人の命を消す気など毛頭無い。
私が考えている勝負の終わらせ方とは、至って簡単で、至って楽な手段だ。
きっと、アイーダも満足してくれるだろう。

「なに、貴様には色々と変わってもらおうと思ってな」
「……何を言ってるんだい?」
「ほら見ろ。ちょうど近くにあるだろう?貴様を変えるための道具が……」
「え?」

私は目線で一つの扉を差した。アイーダもつられるようにして扉へと視線を移す。

「……これって……」
「貴様がこのアジトのボスなら、これが何の部屋か知ってるだろう?」
「何って、ここは……あ!」

アイーダはようやく、何かを察したような表情を浮かべた。

「……な、なぁ……まさか……」

その表情が恐怖で歪み、顔色も徐々に青ざめていく。
私が何をする気なのか……やっと理解出来たようだ。


そう……今近くにある部屋は……人間の女を魔物化させる道具の倉庫!


「さぁ……生まれ変わりに行こうか」


私はアイーダを羽交い絞めにしたまま、道具の倉庫へと足を進めた。

「や、やめろ!私は人間をやめる気なんて無いよ!」
「そう怯えるな。終われば気が楽になる。それに全然痛くないから心配するな」
「痛いとかそういう問題じゃない!やめろ!私は人間のままでいいんだ!」
「ふっ……懐かしいな。私も魔物化する直前は同じことを言ってたな」
「え?あんた、元人間……って、そんなのどうでもいい!頼む!勘弁してくれぇ!」

ギャーギャー喚くアイーダに構わず、私は倉庫の中へと入った。
首輪に鎧にイヤリング。魔物の魔力が宿っている装備品が、『私を身に付けてくれ』と言わんばかりに艶かしく光り輝いている。
どれも中々良い品だ。どれを付けさせるべきか迷ってしまう。


「やめろぉ!離せ!離せ!」
「さて……どうしてくれようか……」


ガタンッ!
ガチャッ!


扉の鍵をしっかり閉めて、アイーダに相応しい装備品選びを始めた……。



〜〜〜(シルク視点)〜〜〜



「やめてくれ!バルド!」
「この女……まだ戦う気が無いのか!」


アジトの地下牢にて……ファルシオンを振り回し、執拗に私を殺しに掛かるバルド。
私はライトニング・セイバーで応戦するが、やはりバルドと戦う気にはなれなかった。

「剣を抜いたからには堂々と戦え!」
「駄目だバルド……お前にだけは、剣を振れない!」

予想だにしてなかった……バルドに会えれば一件落着だと思っていたのに、まさかこんな事になるなんて。
記憶を失ってしまったバルド……私との思い出すら忘れてしまい、躊躇い無く剣を振るなんて。

なんてことだ……私にはバルドを斬るなんて……絶対に出来ない。
どうすればいいんだ……どうすれば……!


キィン!


「くっ!」
「何故だ!何故本気で戦わない!馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


鍔迫り合いの状態になり、私に対して怒号を上げたバルド。何度も呼びかけても、全く私を思い出す様子も無い。

「……そっちこそ……」

その態度に苛立ちが募り、震えた声を発しながらバルドの両目を睨みつけた。

「そっちこそ、いい加減にしろ!」

力任せにバルドを押し出し、三歩ほど退いてバルドとの距離を置いた。

「いい加減に思い出せ!私たちは……苦楽を共にしてきたじゃないか!幼い頃からずっと顔を合わせてきたじゃないか!早く思い出さないと怒るぞ!」

思い出してくれないでいると、寧ろ怒りを覚えてしまう。
今まで過ごしてきた時間は一体なんだったと言うのだ……。
私たちは今まで……何をしてきたと言うのだ……。

徐々に募る虚しさと憤りを胸に大声を上げると、バルドは半ば呆れたような表情を浮かべた。

「さっきから訳の分からんことを……俺はな……」

バルドはファルシオンの切っ先を私に向けながら堂々と言い放った。


「俺はベリアル様の部下だ。お前なんか知るかよ」
「っ!?」


ベリアル……だと!?
今、確かにそう聞こえたが!?


「今、ベリアルと言ったか!?」
「んん?なんだ、知ってるのか?ベリアル様は偉大なる海賊だ」


やはり聞き間違いではなかった。
バルドが言うベリアルは……私も知ってる男だ!


「お前、正気なのか!?あの男が私たちに何をやらかしたか忘れたのか!?」
「……何の話だ?」
「分かってないのか!?十日前……ベリアルは私たちを襲い、お前自身を生け捕りにした張本人だぞ!」

そう……ベリアルはあの時、バルドの身柄を捕らえた海賊だ。
当時は私も掴まりそうになったが、バルドが助けてくれたお陰で私だけは難を逃れた。
それから私はバルド救出に尽力を注いだが……。

まさか……バルドがベリアルの部下だと言い出すなんて……。

「さっきからお前の言ってる事が理解できないな。俺は元からベリアル様のために戦う僕なんだよ」
「違う!お前は僕なんかじゃない!お前は……私を守る剣士だろ!ずっと前に自分の口から、そう言ってくれたじゃないか!目を覚ましてくれ!バルド!」
「……ったく、訳の分からない女だな。こりゃもう二度と変な事を言わないように、始末するしかないようだな」
「そんな……」

もう……何を言っても無駄だと言うのか……?
バルドは……本当にどうしたと言うのだ……。
本当に……私が分からないのか……。
なんで……なんで私の言う事を信じてくれないんだ……。
自分はベリアルの部下だなんて……なんで急にそのような事を言い出すんだ……。
これではまるで……記憶を書き換えられたみたいではないか……。
まさに……誰かに操られてるみたいだ……。


……ん?
操られてる……?


「バルド……お前、まさか……!」

急に私の胸の奥がざわついた。
ふとした思案から至った、嫌な想像。
少々度が過ぎてるかもしれないが……今のバルドの状態から考えると、ある意味、一理あるような気がする。
私との記憶が無い。代わりに残っているのは、ベリアルの部下という偽の記憶。
これらから考えると、バルドは……もしかしたら……!


「まさか……洗脳されてるのか!?」


かなり飛んだ結論かもしれないけど、その可能性も十分ある。
バルドは確かに強い。ベリアルはその腕を見込んで自分の配下に加えた……ありうる話だ。
だとしたら厄介だな。洗脳したのはベリアルか、あるいは他の輩か……。


「余所見してる暇は無いぞ!」


バルドの大声と共に、私の頭上からファルシオンが……!

「しまった!」

迂闊だった……うっかり目を離したのが間違いだった。
なんとか……回避を……!



「おぅらっ!」



ドガッ!


「うぐっ!?」
「!?」

何かを蹴り飛ばす音と共に、バルドの身体が右側に飛び退いた。
なんだ……一体誰が……?


「ひゅう、危なかったな」
「キッド!?」


そこには……不敵な笑みを浮かべているキッドが居た。



〜〜〜(サフィア視点)〜〜〜



アジトが建っている島の海岸にて、私はブラック・モンスターの甲板で船員の方々が頑張る姿を眺めていた。


「どんどん先へ進め!縛り上げた敵は逃がさないようにしっかりと見ているんだ!」


敵のアジトの入り口付近ではヘルムさんが船員の方々に指示を出している。
私たちが島に着いた時には、アジトの敵はほぼ全員倒したようで、あまり加勢する必要も無くなってたようだ。
いつもなら船の中で待機してなければいけないけど、今回は外に出ても安全だと判断したため、ここでキッドの帰りを待つことにした。

「いや〜、それにしても……船長さんたち、派手にやってくれたわね。これじゃ加勢の意味が無いじゃない」

シャローナさんが半ば呆れ気味に言いながら、私の隣まで歩み寄った。
シャローナさんも船医として、これから次々と出てくるであろう負傷者の治療に備えていたのだろうけど、思っていたより仲間たちが怪我を負っていないため、すっかり手持ち無沙汰となってしまったようだ。
お陰で私たちは高みの見物状態。本音を言うと、ちょっと退屈してきたところでもある。

「そうですね。でもまぁ、キッドが強いのですから仕方ないですよ」
「ふふ、よく言うわ。いつも戦闘の時は心配してるくせに」
「あはは……分かります?」
「顔に分かりやすく書いてあるわよ」

シャローナさんには何でもお見通し……と思ったけど、私の方も分かりやすい性質のようだ。
キッドは強い。それは十分分かっているけど……それでも夫が戦場に出るとなると心配せずにはいられない。
大怪我でもして帰ってきたら、それこそ卒倒してしまうだろう。
勿論、キッドの事は心から信じているけど……。

「……そう言えば、ちょっと雲行きが怪しくなってきてるわね」
「え?あ……そうですね。もしかしたら雨が降るかもしれませんね……」

シャローナさんが徐に空を見上げながらポツリと呟いた。私もつられて空を見上げてみると、確かに大きな雲が空全体を覆っていた。
どんよりとした黒色の雲で、今すぐにでも大雨が降りそうな様子だ。さっきまではそんなに悪い天気ではなかったのに……。

「う〜ん……これは早く船の中へ避難した方がいいかもね。サフィアちゃん、一緒に行きましょう」
「すいません。私、キッドを待っていたくて……」
「こんな所で雨に濡れたら風引いちゃうわ。それに、ずぶ濡れで立っていたら船長さんが申し訳なく思うわよ」
「う……分かりました」

出来ればここでキッドを出迎えたかったけど……シャローナさんの言う事も間違ってない。
キッドに悲しい顔をされるのも嫌ですし……ここは大人しく部屋でピュラと一緒に……。


ピカッ!


「え!?な、なに!?」
「あら、今光ったわね。これって……」


ゴロゴロゴロゴロ……!


「や、やだ!雷!?」
「そうみたいね……ってサフィアちゃん、もしかして、雷が苦手?」
「は、はい……少し……」


部屋に戻ろうとした瞬間、黒雲から雷が放たれて驚いてしまった。
はぁ……子供の頃からどうも雷だけは慣れない。
あの光とか音とか、もう恐くて恐くて……。

「でも雷まで降ってくるなんて……ちょっとヤバいかもね。こんな悪天候になるなんて……」
「あの……サンダーバードの群れではないでしょうか?さっきの雷、サンダーバードが降らせたのでは?」
「ああ、それも考えられるわね」

サンダーバード……強力な雷の力を持つ魔物の一種。彼女たちなら雷を放出するくらい簡単だろうし、さっきの雷もサンダーバードの仕業だと考えてもおかしくない。
そうだとしても、あまり頻繁に雷を降らせるのは少し控えて欲しい。彼女たちの雷は大した害が無いのは分かってるけど、やっぱり雷は……。

「まぁとにかく、早く部屋に戻って……」


ピカッ!


「あ、また来る」


ゴロゴロゴロゴロ!


「きゃあ!」
「……今の結構大きかったわね。しかも近い……」

さっきよりも強力な雷が降り注いだ。
……もう!勘弁して欲しいです!

「うぅ〜!キッド〜!早く帰ってきてくださ〜い!」



ゴロゴロ!バリバリバリバリ!


「いやぁぁぁぁぁ!!」


大規模な轟音に驚いてしまい、思わずシャローナさんにしがみ付いてしまった。

「ほら、サフィアちゃん。大丈夫だから、落ち着いて」
「うぅ……」
「……残念だったわね。船長さんじゃなくて」
「へ!?いえ、あの……」

今抱きついてるのがキッドだったら良かったのに……。
そんな思案もシャローナさんにはお見通しだったようだ。



バリバリバリバリバリバリバリ!!



「ひゃぁぁぁ!!」


またしても凄まじい雷鳴。しかもさっきよりも遥かに大きくて強大。
うぅ……もうヤダ〜!助けて、キッド〜!

「……ねぇ、サフィアちゃん」
「……はい?」
「サフィアちゃんは、キチンと見てなかったから分かってないだろうけど……」
「?」

私の背中を優しくさすってるシャローナさんが、なんだか怪訝な表情を浮かべながら空を見つめている。
空に何か変な物でも浮かんでいたのだろうか?でも、何も見当たらない……。


「雷って……黒色だったかしら?」
「……ふぇ?」


雷が……黒色?
突拍子も無い発言に戸惑ってしまった。
私自身、雷なんてあまり見てないですけど……記憶が正しければ、黒色なんて……。



バリバリバリバリバリバリバリ!!


「!!」

……今度はちゃんとこの目で見た。
確かに……シャローナさんが言った通り、黒色の雷だ。
でもまさか、黒い雷なんてこの世にあるわけ……。


「……ねぇ、サフィアちゃん。私さぁ……一つ気付いたんだけど……」
「は、はい?」

そう言い出したシャローナさんの表情は明らかに引き攣っていた。顔色は青ざめていて、額からは冷や汗が出ている。
まるで、これから起こるであろう出来事を予測しているような……。

「今の黒い雷……ちゃんと見たでしょ?」
「は、はい、見ました」
「あのね、私の目が正しかったらの話なんだけど……」

シャローナさんは、私の目をジッと見ながら静かに言った。


「あの雷……どんどんアジトの方に近付いてる気がするの」
「……え?」


雷が……近付いてる?
あ、でも言われてみれば、確かに雷鳴が大きくなってるし……。


……でもまさか……アジトに直撃なんて事は無い……と思う。
仮にもそんな事が起こったら、アジトに居るキッドたちが……。





ピシャァァァァァン!!ゴロゴロゴロゴロゴロ!!





「!!」
「!!」


……一瞬だけ目を疑ってしまった。
まさかと思っていた事が実際に起きてしまった。


「……嘘でしょ……そんな……!」
「……アジトに……雷が……!」


そう……黒い雷がアジトに直撃した……。
アジトの中には、まだキッドが……!



「キッド!?キッド!キッドォォォ!!」



〜〜〜(キッド視点)〜〜〜



間一髪だった。
あと一歩間に合わなければシルクが真っ二つにやられてたところだった。こんな男が待ち構えていたとはなぁ……てっきりあの褐色肌の女が最後の敵だと思ってたが、そう都合よくいかないらしい。

「正面の敵は倒したのか?」
「ああ、大体片付いた。流れでここまで来たんだが……最後の最後で残りが居たようだな」
「……くそっ!新手が来たか!」

そう言いながら首を鳴らしてバルドへと視線を移した。対するバルドも、体勢を立て直して俺を睨んできた。
さぁて……とっとと片付けるとするか。もうすぐヘルムたちが到着するだろうけど、念のためにここで抑えておこう。

「さてと……アンタ、戦う気が無いんだったら下がってな。あいつは俺が仕留めておく」
「待ってくれ!あいつは敵じゃない!あいつはバルド。私が探していた仲間なんだ!」
「……は?」

……あれがバルド?シルクが探していた仲間って……あの男のことか?

「ほう……そっちの女より手強そうだな。やる気も十分あるようだし、標的を変えるとするか」

……だが、バルドの方は明らかに戦う気満々だ。殺気がダダ漏れだし、俺を睨んでる目からは敵意が込められている。
こいつ、本当にシルクの仲間なのかよ……?

「なぁ、何かの間違いじゃないのか?あいつの方は見るからに敵意剥き出しだぞ」
「ああ、今でこそ様子がおかしいが……あれは間違いなくバルドだ」
「だったら何でアンタに襲い掛かったんだよ?」
「それは私にもさっぱり……」

シルクに訊いてみたら、あいつはバルドだとか。
まぁ、シルクがそこまで言い張るなら本人で間違いないんだろうが……だったら何で刃を向けてんだよ。

「おい、何時まで話してるんだ?やるんだったら相手してやるよ」

バルドの方も剣を構えて何時でも戦える姿勢に入っている。
事情はさっぱり呑み込めないが……どうやら戦うしかないようだな。

「ああ、待たせて悪いな。すぐ始めようぜ」
「待ってくれキッド!あいつは……!」
「分かってる!アンタの仲間なんだろ?だが、今はどうしても戦わなきゃならない状況だ。こっちが抵抗しなきゃやられるだろ?」
「しかし……!」
「案ずるな。殺したりはしない。ただちょっと大人しくなってもらうだけだ。それでいいだろ?」
「うぅ……」

仕方なく了承してくれたのか、シルクは渋々と後ろに下がった。
シルクの気持ちも分からなくはないが……相手が戦う気になってる以上、抵抗しない訳にはいかない。なんでこんな状況になったのかは知らないが、とりあえず抑えておけば後は何とかなるだろう。

「それじゃ……やるか」
「……来な」

武器を構えて対峙する。緊迫した空気が張り詰められ、静かに息を呑む。
そして……!


「うぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁ!」


キィン!


叫び声を合図に、激しい剣戟が始まった!

「うぉらっ!はっ!しゃぁっ!」
「ふんっ!せぁっ!ほぁっ!」

長剣とファルシオンが何度もぶつかり合い、部屋中に金属の冷たい音が響き渡る。一つ打ち合う度に右手から肩にかけて強い衝撃が走ってきた。
どうやら、力はそこそこ持ってるようだな。だが、それだけじゃ勝負に勝てない。

「はぁっ!」
「隙あり!」
「ぐほぁっ!?」

俺は一瞬の隙を突いて、バルドの腹部に蹴りを入れた。いきなりの打撃にバルドは後方へよろめき、大きな隙が生まれる。

「今だ!」
「甘い!」

追い討ちをかけるようにショットガンで撃ったが、バルドはファルシオンの腹の部分を盾代わりにして銃弾を防いだ。
デカい武器を持ってるから動きは遅めかと思ったが、意外と対応が早いな……。

「今度は俺の番だ!」

バルドはファルシオンを垂直に振る構えに入った。
見たところ両腕にかなり力を入れてるように見えるが……。


「まずい!斬撃が飛んで来るぞ!」
「は?」


遠くで戦いを見守ってるシルクが慌てて大声を上げた。
斬撃が……飛ぶ?
……なんか、デジャヴを感じるような……。


「必殺!斬光刃!」
「!?」


と思ってたのも束の間!
バルドがファルシオンを振り下ろした瞬間、白光の斬撃が俺に向かって一直線に飛んできた。
なるほど、飛ぶ斬撃ってこういうことか。


……でもまぁ……。


「そんなもん……」
「?」
「恐くねぇよ!」


カキィン!

ズバッ!


「なに!?」
「へへっ!どうよ!」

飛んできた斬撃を長剣で弾き飛ばしてやった。軌道が逸れた斬撃は牢屋に当たり、鉄格子を容易く切り裂いた。

「あの斬撃を……弾き飛ばした!?」
「嘘だろ……今まで剣で返されたことなんて一度も無かったのに……」

シルクもバルドも、俺が飛ぶ斬撃を弾き飛ばした事にひどく驚いてるようだ。そこまで驚愕されると、かえって清清しく感じる。

だがまぁ、これも経験の勝利って奴かもしれない。
俺は一度、斬撃を飛ばす敵と戦った事がある。あの時以来、飛んでくる斬撃を弾く技が身体に染み付いちまったようだ。
そう考えたらある意味、あいつには……バランドラには少しくらい感謝しないとな。

「ほらほら、驚いてないで早く来いよ。それとも、今更腰が引けたか?」
「くっ……図に乗るなぁ!」

ファルシオンを構えなおして、俺に向かって突進してくるバルド。
ああいった大き目の武器は、振った後に大きい隙が生じてしまうものだ。いくら所有者の対応が早いとしても、僅かに生まれる無防備な姿だけはどうしても見せなければならない。
だとしたら……そこを的確に突くまで!

「ふっ……」

俺は左手のショットガンをホルダーに戻して、バルドが来るのを冷静に待った。
そしてバルドが、斜めに俺をぶった斬る構えに入る。

「……しゃぁっ!」

バルドがファルシオンを振り下ろす瞬間を的確に見切った。
俺はその場で高く飛び上がって刃を避けた。

……ほら見ろ。やっぱり無防備になる。

「もらったぁ!」

攻撃の最中こそ、相手に隙を見せてしまう時。
攻撃と防御を同時に行うなんて……まず不可能だ!

「うらぁっ!」
「ぐほぁっ!」

飛び上がると同時に、バルドの顎を力いっぱい蹴り上げた。

「いよっとぉ!」
「うっ!いでででででで!」

そして地面に着地した瞬間に、俺は空いてる左手で怯んでるバルドの片手首を掴んで捻り、バルドの動きを止めた。
相手が動き辛い状態にいる今が好機!今のうちに連続攻撃を決める!

「1!」
「ぐわ!」
「2!」
「ぬぉっ!」
「3!」
「ぼがっ!」
「4!」
「ごはぁっ!」

バルドの手首を捻ったまま、怒号のキックラッシュをお見舞いする。

「くそぉ!舐めるなぁ!」

バルドが片手でファルシオンを振り下ろそうとしたが、大振りの攻撃を避けるのは容易い。

「舐めてんのはそっちだろ?」
「あっ!しまっ……」

身体を捻ってファルシオンを避ける。
その最中に長剣を鞘に戻して……。

「でもって……5!」
「うわぁぁぁ!」

バルドの鎧を掴んで、石造りの壁に向かって投げ飛ばした。バルドの身体は壁に衝突し、ドゴンと痛ましい音が響き渡る。
だが……俺の攻撃はまだ終わってない!

「もう一つ……」

俺は壁に張っているバルドに駆け寄り……!

「オマケだぁ!」
「ごはぁっ!」

がら空きになった身体にドロップキックをお見舞いした。バルドの身体が壁に圧され、小さな悲鳴が上がった。

「おっとっと……ちったぁ効いたか?」

無防備になった姿勢を立て直し、少しバルドとの距離を置いた。
これだけやれば少しは効いたか?ただまぁ、何時もよりちょっと熱くなりすぎたかもしれないが。

「……強い……あのバルドが敵わないなんて……」
「……へへっ!どうだ、ちったぁ見直したか?」

戦いを傍観していたシルクは、目を丸くして呆然としていた。

「……って!ちょっと待てキッド!いくらなんでもやり過ぎだぞ!私の仲間だって事を忘れるな!」
「あぁ……すまん。いや、ついな……」
「何がついだ!容赦なく蹴りまくって!」
「だから悪かったって……」

だが、すぐさま険しい表情に変えて俺に食い下がった。そりゃあ、目の前で仲間を痛みつけられたら怒るのも無理ないか。ちょっと反省……。
でもまぁ……こんなにまで怒るって事は、相当バルドを大切に想っているんだろうな。

「げほっ!げほっ!くっそぉ……くっそぉ!畜生め!」

だが、当のバルドはどういう訳か敵に回っている。
よろよろと体勢を立て直し、怒りに満ち溢れた目で俺を睨んできた。

「俺はもう怒った……散々コケにしやがって!倍返しにしてやる!」
「そうこなくっちゃな。いいぜ、もっと本気出して来いよ」
「上等だ!」

ファルシオンを構えなおし、俺を睨みながら戦闘体勢に入るバルド。
対する俺も長剣とショットガンを抜き取り、何時でも戦える姿勢に入った。

「…………」
「…………」

互いに何も言わぬまま睨み合う。
下手に動いたら負ける……俺の中の本能がそう呼びかけた。

さて……どう出る?
中々出来る男だが……。



ゴロゴロゴロゴロ……!



「!?」
「な、なんだ!?」


重い空気の中、突然天井から何かの轟音が聞こえた。
これは……雷?外は悪天候なのか?さっきはそんな兆しは感じなかったが……。



ピシャァァァァァン!!ゴロゴロゴロゴロゴロ!!



「うぉわぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「のわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


凄まじい衝撃が天井を突き破って降り注がれた。石の破片と砂煙が巻き上がり、たちまち部屋中に充満する。
あまりの威力にその場に居た人は全員悲鳴を上げながら吹き飛ばされてしまった。

なんだ……何が起きた!?
何か、光り輝くようなのが落ちてきたような……!?
これは……雷か?


「いてて……なんだよ一体……!?」
「くっ!今のは……雷か……!?」


俺とシルクはゆっくりと立ち上がり、雷が落ちてきたであろう地点へと視線を移した。
砂煙の所為であたり一面よく見えないが、その中にぼんやりと二つの人影だけは確認できた。
……あれ?二つ?一つはバルドだとしても、なんか一つ多いような気がするが?

「なぁ、今ここに居るのって、俺とアンタとバルドだよな?」
「あ、ああ……そうだな」
「じゃあ……あれは誰だ?」
「さぁ……?」

一応シルクにも確認してみたが、やっぱり誰かいる。
しかも……雷が落ちた地点に……。



「100万ボルト・放電(エレヴァージ)!」
「!?」



ゴロゴロゴロゴロ!


「うぉっと!」
「きゃぁ!」

何者かの声と同時に、いきなり強力な電撃が俺たちを襲った!
俺もシルクも間一髪のところで避けて事なきを得たが……。

「くそっ!今のは一体……!?」

今の電撃……俺の耳が正しければ、確かに雷鳴を唸らせていた。今のは間違いなく、空から降り注がれる雷の音だ。つまり、今放たれたのは雷って事か。
だが……何かおかしい。

「黒い雷なんて……この世にあるのか?」

そう、俺が見た雷は間違いなく黒色だった。禍々しいくらいの、漆黒の雷。
ガキの頃から雷なんて何度も見てきたが、黒い雷なんて……。

「この世に無いのは当たり前だ。漆黒の雷は、冥界にのみ降り注がれる。俺は、死後の世界にのみ存在する雷を操れるのさ」
「!?」

突然、砂煙の中から何者かの声が聞こえた。
とても低く、相手を威圧するような声。姿が見えないのにも関わらず、声だけでとてつもなく強大な存在を感じる。

……だが、なんなんだ……この感じは?
俺は……何故かこの声に聞き覚えがある。

「しかしまぁ……緊急連絡があって、気まぐれで俺自ら赴いてやったら……こいつは驚いた。知ってるツラばかりじゃないか」
「……誰だ!?そこに居るのか!?」

やっぱり聞き覚えがある!誰かは分からないが、ずっと前に……ガキの頃に聞いた声だ!
俺は思わず身構えながら、砂煙の中に居るであろう人物に呼びかけた。

「おぉ……そうか……あの時の小僧か。懐かしいな……暫く見ないうちにデカくなりやがって……」
「?」

なんだ……俺を知ってるのか?
そう思ってる最中に、部屋中に漂っている砂煙が徐々に晴れていく。さっきまで声しか確認できなかった人物の姿が少しずつ見えてきた。

「!……キッド!あいつだ!」
「ん?なんだよ、あいつって……?」
「あの男だ!あいつがバルドを攫った張本人だ!」
「なに!?」

シルクが敵愾心をむき出しにしながら、砂煙の中にいる人物を指差した。
あいつがバルドを攫ったのか?まさか、バルドが敵になったのも、あいつの所為?

「あの時の姫騎士か……まぁいい。とりあえず今は休息がてら話でもしようじゃねぇか……」

余裕を含めた発言が吐かれた。それが皮切りのように、部屋の砂煙が見事に晴れた。
そして、ようやく姿の分からない男の正体を見ることができた。


「!!」


……その姿を見た瞬間、俺の背筋が一気に凍った。


「よう、キッド。久しぶりだな」
「……テメェ……!」


身を包んでいる漆黒のマント。その中で光り輝く黒い鎧。目元から頭頂部を覆い隠す仮面。その隙間から靡く、赤黒い長髪。
そして何よりも、一番特徴的なのは……!

「……あの時と同じだな……その異形の右腕!」
「ほう……憶えていたか。嬉しいじゃねぇか」

そう……思わず目を疑ってしまうような、歪な形をしたゴツゴツの右腕だ。
顔の皮膚とは明らかに違う、茶褐色の醜い皮膚。異常なまでに肥大化していて、指の先からは鋭い爪が生えている。
その怪物染みた右腕を見ただけで……あの時の記憶が蘇ってしまう。

まさか……こんな所で……こんな時期に再会するなんてな!

「な、なんだ?キッド、あの男を知ってるのか?」
「ああ……ちょいと、ガキの頃に色々あってな……」

シルクが少々戸惑いながら俺に話しかけてきた。
それにしても、シルクが以前話してた海賊が、こいつだったなんて思わなかった。
偶然なのか、それとも必然なのか……。

「ガキって……子供の頃から!?」
「ああ……今でもハッキリ憶えているぜ。あの時の出会いは……!」

カリバルナ……今は海賊の国とも呼ばれている俺の故郷。現在こそ親魔物国家として有名だが、元は魔物に対して容赦の無い反魔物国家だった。
ガキの頃に起きたカリバルナの革命……国のトップに立つ有権者たちの恐怖政治に耐え切れなくなり、叔父さんたちが起こした反乱は今でも憶えている。あの時からカリバルナは新しい国に生まれ変わった。
そして当然ながら、反魔物国家だったカリバルナを牛耳ってた有権者たちは国から追い出された。


「キッド……この男は何者なんだ?」


そして今、俺の目の前にいる男こそ、その有権者の一人……!


「こいつは……元はと言えば教団に所属していた……!」


しかも……そのトップに立つ有権者の中でも、格別な力を持っていた男。


「この男は……恐怖と武力で国民を苦しめていた……!」



そう……こいつはあの男の……バランドラの同胞だった!




「こいつはベリアル!俺の故郷の……カリバルナの元公爵だ!!」



「な、なんだと!?」
「……ふっははははは!」


ベリアルの高笑いが部屋中に響き渡った…………。
13/07/28 13:22更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
と言うわけで今回はリシャスとアイーダの戦いに決着。そしてベリアルの襲来と言った感じでしたが……いかがでしょうか?
物語の終盤に出てきたベリアル……実はこの物語において非常に重要なキャラとなっています。最後の方でキッドが言った通り、キッドの故郷の元公爵で、好き勝手に悪行を働いていた人物です。ベリアルが今後どのようにキッドと絡んでくるのかは後ほどと言う事で……。

そして次回から戦闘が終わって一段落……と言うのも、本格的なバトルは一旦ここで終わりとなります。これからは、今後のフラグを立てたり、ちょっとしたほのぼの展開を入れていきたいと思います。
次の話は、ベリアルが出てきて色々と一悶着があり、キッドたちはどうするのか?そしてあのキャラが再登場?って感じの予定です。

では、読んでくださってありがとうございました!

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