読切小説
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奥様は上級不死者

 親魔物領のとある片田舎。
 魔物の魔力が空気中に濃く漂い、もう半魔界化している場所に、三十台半ばの一組の夫婦が仲良く暮らしている。
 元剣士で夫の名前はリコブ。元魔術師な妻の名前はヒャナ。
 この場所にしては珍しいことに、二人はまだ人間のまま。
 更に珍しいことに、この地で双子の人間の息子を十二歳――精通するまで育て上げたという、一風変わった夫婦だ。
 ちなみにどうでも良いことだが、夫婦の息子達は自ら望んで婿不足に悩む魔界の街へと足を運び。そこで多種多様な嫁を貰って、ハーレム暮らしを楽しんでいるのだと、つい先日夫婦の元に届いた手紙に書いてあった。
 さて、そんな夫婦の間に、いま一つの問題が現れていた。
 そして二人してリビングの机で向かい合い、それについて話し合いを始める所だった。

「なあ。本当にリッチになるのか?」

 そう。唐突に妻のヒャナが、リッチになると表明したのだ。
 別に魔物娘に対して偏見の無いリコブは、別にヒャナが魔物娘になろうと構わない。
 しかし何故、今まで人間で居たのに、唐突に魔物娘になりたいと言い出したのか、それがリコブには分からなかった。

「しょうがないじゃない……」
「さっきもそう言っていたけど、一体どうしたんだい。老いるのが怖くなったのかい?」

 夫婦の顔には薄いながらも皺が刻まれ、確かに魔物娘には関係の無い、老いの兆候が見て取れた。

「違うの。老いる事が怖いんじゃないの。だって、リコブは老いても愛してくれるんでしょ?」
「勿論だよ。君以外の女性に、心移りするわけ無いじゃないか」

 その言葉通りに、この地には美しい魔物娘が溢れているというのに、リコブはヒャナだけに操を立てている。
 
「問題は其処じゃないの。問題は――私の体」
「君の体型は昨日見たけど、見惚れる位に美しいままだったじゃないか」
「違うの。その内側――魔力の殆どが、魔物の魔力に変わって仕舞った事が問題なの」
「それの、何が問題なんだい?」

 言っている意味が分からないと、首を傾げながらリコブはヒャナに続きを促す。

「このままだと。レッサーサキュバスになっちゃうのよ?」
「――ああ、そういうことか!」

 其処まで言われて漸く、リコブは理解した。
 つまり、ヒャナが魔物娘化するのは確定している。だがまだ人間である内に、どの種族の魔物娘に成るのかを選ぼうとしているのだ。

「でも、なんでリッチなんだい?確かに君は、魔術師ではあるけど、知的探求とか不死とかには興味が無かったはずだろう?」
「そうね。でも、今まで培ってきた魔術を生かそうとすると、魔物化の道は三種類しかないの」

 ぴっと人差し指を立てて、リコブに見せるヒャナ。

「まず一つ目は、このままレッサーサキュバスに成った後で、サキュバスの方へと進む道。サキュバスは、魔力を扱うのに長けた種族だから」
「じゃあどうして、その道を選ばないんだい?」
「近くのマナヤさん知ってる?彼女、元は人間の剣士だったんだけど。サキュバスになった今では、剣を握るより夫の股間を握っているのが好きって公言しているのよ」
「……つまり、サキュバスになると、魔術を生かせなくなりそうって事かい?」

 リコブの疑問に、頷きで答えるヒャナ。
 そして人差し指を立てたまま、中指を立てる。

「二つ目は、魔女になる。これは簡単。ただサバトに入信して、子供化薬を服用すればいいだけだし。もしかしたらバフォメットに成れるかもしれないけど、とりあえず方法としては同じよ」
「魔女なら、魔術を生かせるでしょ。なんたって魔女なんだから」
「……私、ロリコンって嫌いなの」
「それって、幼くなった君に、僕が相手するのがダメってことかい?夫婦なのに?」
「それとこれは別よ。やっぱり子供を育てたことのある身としては、大人と子供って言うのは、どうしてもね……」

 其処の価値観は、やっぱり未だ人間の身では受け入れ難いのだろう。
 ヒャナもそれが人間としての認識だと理解しているようで、言葉を濁した後でだけどと言葉を繋ぐ。
 
「だけど。魔物化して、やっぱりロリに成りたいって思ったら、その時にサバトに入れば子供化薬は貰えるから。どうしても次善策になっちゃうわけ」
「まあロリが如何とかはコメントは差し控えるけど。それで最後の三つ目の道がリッチになるってわけだね?」
「その通りよ。リッチなら、多少若返るかもしれないけど、基本的にはこの体に近いままだし。気性は冷静で知性を保ったままだし、魔術も使えるしと、いい所取りなのよ」
「でもさ……リッチってアンデッドだよね?」
「何よ。アンデッドの妻は愛せないとでも?」
「違うよ。仮の死とはいえ、ヒャナを死なせたくは無いっていう、僕の我が侭さ」

 行き成り『ヒャナ』と名前を呼ばれて意表を付かれたからか、それともリコブの臭い台詞を受けてか、ヒャナの頬に少しだけ朱色が差す。

「も、もう。そんなことより、リッチになって良いの。悪いの?」
「君の中ではもう答えが出ているのに、僕に決定権を渡すのは可笑しくは無いかい?」
「……リコブが嫌なら、別にリッチじゃなくたって良いし」

 言い難そうにそう呟いたヒャナを見て、リコブは何処かの琴線に触れたのか、椅子から腰を浮かせた彼の手が、彼女の頬を包むように添えられる。
 その行為がどういう意味なのか、ヒャナは分かっている様子で、そっと席から腰を浮かす。そして目を閉じて顔をリコブへと近づけていく。
 やがて触れるだけの小さなキスをして、二人は顔が近いままでお互いに笑いあう。

「行き成りキスしたいだなんて、どうしたのよ」
「君が可愛いから我慢できなくなっちゃってね」
「ちょっと、顔を撫でないの。それで――」
「うん。リッチになっていいよ。どんな形でさえ、僕が君を愛する事には変わらないからね」

 そんな愛の告白は、今度はヒャナの方の琴線に触れたようで、ヒャナは少し唇を伸ばしてちゅっとリコブの唇を吸うキスをした。

「これ以上は無しね。もしかしたら、エッチの最中に魔物化が始まっちゃうかもしれないし」
「残念だなあ。こんなに綺麗な奥さんが居るのに、今日は手が出せないなんて」
「もう。そういうのは無し無し」

 キスしてこようとするリコブから、すっと体を離したヒャナは、そのまま寝室へと向かって歩いていってしまう。

「寝室は儀式で使うから、悪いけど、今日はリビングで寝てね。あと、儀式を覗かない様に!」

 少し顔が赤いまま言い放ち、ヒャナは寝室の扉を閉めてしまった。

「はいはい。分かってます」

 まだ日が高いのに寝室に引きこもる宣言をしたヒャナへ、聞こえるわけも無い返事を返す。
 そして勝手に作物が生る畑の収穫に出ようと、リコブは鍬や籠を持ち、玄関の扉に手をかける。

「しかし別に寝るのって、随分と久しぶりだな〜」

 そう呟くリコブの口ぶりには、若干の寂しさが滲んでいた。




 翌日、ゆさゆさと身体を揺すられる感覚で、リコブは目を覚ました。

「うぅ〜ん……」

 ゆっくりと身体を起こしたリコブは、ぼ〜っとリビングを見渡す。どうやら、何故リビングで寝ていたのかを思い出せない様である。
 そしてその目が、彼を起こしてくれた人へと向けられると、そこで昨日何があったのかを思い出したようだ。

「ああ、お早う……顔色悪い以外は、君に変わったところが無さそうで安心したよ」

 寝ぼけ眼のまま、リコブは肩に手を乗せている女性――リッチになったヒャナへと、朝の挨拶を交わす。
 リコブが言ったように、ヒャナは昨日と見た目は同じ感じで、アンデット特有の顔色の悪さが無ければ、昨日リッチになるための儀式を行った事など分らない。

「お早う。ご飯出来たから、食べて」
「……なんか、怒ってる?」
「怒ってないよ。寧ろ、気分は良いよ?」
「それならいいけど……」

 感情の起伏の乏しい口調なので、リコブはヒャナが何かに怒っているのかと勘違いしたようだ。
 しかしリコブは、自分が勘違いしている事に気が付いていないのか、台所へと向かうヒャナの後姿を見つつ、彼女の機嫌を推し量っている様だ。
 そんな視線に気が付いているのかいないのか、ヒャナは台所から朝食を運んでくる。
 つい昨日までは、魔物の魔力に身体が侵される事を畏れて、魔術を極力使用しないようにしていたのに。リッチになってそんな心配もなくなったからか、両手に皿を持った状態で、魔術でパンの入った籠と木の椀を空中に浮かばせて運ぶなどと言う、小器用な事をしている。

「えーっと、これってヒャナが作ったんだよね?」
「他に誰か作ってくれる人が居るの?」
「いや、居ないんだけどね」

 テーブルの上に乗せられた料理――厚切りベーコンと目玉焼き、野草入りの澄んだスープ、軽く炙られたパンを目にした、リコブはヒャナが作ったとは思えないと感想を零した。 
 前までのヒャナなら、ベーコンと目玉焼きの端は焼きすぎで焦げ、スープは灰汁を取り忘れて濁り、パンは軽く焦げているのが普通だった。
 しかしいま、彼の目の前にあるのは、どこぞの料理店かと思わせるほど、完璧なまでに調理が成されている。
 ペーコンはカリっと焼かれ、目玉焼きは見事なまでの半熟具合。スープから立ち上る匂いは、空腹を掻き立て。パンの香ばしい匂いに、口から涎が出そうになるほど。
 まさかこういう形で、妻であるヒャナが魔物娘になったのを実感する事になろうとは思っても見なかったのか、リコブは少々複雑そうな表情を少量だけ顔に浮べている。

「どうかしたの。何か気に入らない?」
「いや。昨日までのと違って、つい見惚れちゃってね」
「そう?」
「そうそう。ほら、冷めないうちに食べようよ」

 そうして二人して朝食を食べ始める。
 リコブは料理を美味しそうに食べ、ヒャナは何かを分析するように食べる。
 やがて二人ほぼ同じ時間を掛けて朝食が食べ終わる。

「美味しかったよ」
「如何致しまして」

 にこりともせずにヒャナは、テーブルの上に乗せられている食器を魔術で浮かせると、投げつけるような勢いで洗い場へと運ぶ。
 無論魔術で加減してあり、洗い場の中へと静かに食器は着地する。
 その様子を見ていたリコブは、少しだけ苦笑する。

「魔術で何でもしようとするのは、付き合う以前の君みたいだね」
「駄目だった?」
「駄目では無いけど。君の手作業で作った朝食は、アレはアレで可愛らしいから捨て難いんだよね」
「そういってくれるのは嬉しいけど、これからは魔術で料理するわ。だって――」
「うん?」
「手でやると、どうしても焦げちゃうんだもの」

 事実を淡々と告げるように、ヒャナは自分の料理の腕をそう評価した。

「確かに多少焦げちゃうんだよね。でもそういうのが、愛嬌じゃないかなって、僕は思うんだけど?」
「……つまりリコブは、多少焦げた料理が好きって事?」
「そうじゃないよ。僕も焦げているより、ちゃんと美味しい料理の方が好きは好きなんだよ」

 ヒャナはリコブの言い回しが何を意味しているのかわからない様子で、冷静な目付きのまま小首を傾げている。

「ヒャナが作ってくれるなら、多少の見た目の悪さぐらいは、なんとも無いって話だよ。寧ろ、今までそうだったのを、急に変えられるとコッチが戸惑うって言うのもあるけどね」

 そういうちょっとした察しの悪さは、リッチになっても変わらないと分かって安心したのか、リコブは自然に出てきた笑みを浮べて、ヒャナへと補足説明を行う。
 それでもヒャナは余り納得がいかないのか、少し考えるように眉を寄せる。

「今までと同じ様に再現しろ、と言うわけではないのよね?」
「意図した失敗は、失敗と言えるのかい?」
「……感覚的な事を理解し難くなったのは、リッチになったからかしら?」
「難しく考える事は無いさ。今までの会話は、君が食事を作ってくれるだけで、僕は嬉しいって、ただそれだけの話なんだから」
「そういう話だったの?」
「そういう話だったの。さて、これから如何するの?」

 これで話は終わりとばかりに、リコブは手を打ち合わせて区切りを付けると、ヒャナに曖昧な問いかけをする。

「如何するって、予定は無かったわよね。一体何の話?」
「えーっと、だから……君が魔物娘になったわけだから、そのぉ……」
「性行為をしたくは無いかってこと?」
「……何だか、言動がストレート過ぎないかい?」
「違うの?」
「違わないけどさ」

 何だか調子が狂うと言いたげな、微妙な表情を浮べるリコブ。

「そういうことなら、物凄くしたいわ」
「……なんだかそうは見えないんだけど?」

 一方のヒャナは、リッチらしい相変わらずの無表情。
 そのため、本当にヒャナが身体を合わせたいと思っているのか、それとも会話の流れの冗談なのかは、区別し難いところである。

「じゃあ、確かめてみたら?」

 しかし席を立ち、リコブの横へと移動したヒャナが、身に付けていたスカートを片手でたくし上げ、もう一方の手でリコブの右手を自身の股間へと誘導する。
 リコブの手は、ドロワーズというかぼちゃパンツの隙間からその内側に侵入し。ヒャナの一番敏感なところへ、指先が触れる。
 ドロワーズの布地に遮られて中は見えないものの、彼の指先に感じるそれは、明らかな湿り気を帯びていた。

「何もして無いのに濡れているのにも驚いたけど、少しひんやりしているのにも驚いたよ」

 感触を確かめるように、濡れているそこを指で撫で始める。

「リコブが視界に居るだけでこうなっちゃうの。魔物の身体って、分かって、いたけど、厄介な、の」

 冷静な表情を浮べたままだが、リコブの指がクリトリスに引っ掛かると、その時に言葉が途切れる。
 表情は変わらないのに、ちゃんと性感は得ているのだとリコブは理解したのか。丁寧にクリトリスの甘皮を剥がし、むき出しになったそこを、優しく指先で磨くようにして愛撫する。
 ヒャナの顔は、自分の身に受けている快楽を冷静に分析しているのか無表情だ。しかしその身体の方は撫でられる度に少し硬直し、程なくして膝がカクカクと笑い始める。

「大分、感じ易くなってないかい?」
「魔物娘化、したもの。当たり、前、じゃない」
「なんか、無表情のままなのに、性的な反応を返すのを間近で見ると、これはこれでアリな気がしてくるから不思議だね」
「そんなに執拗、に、そこばっか、り弄られると。直ぐ、にイっちゃ――」

 急にヒャナの静かな瞳のピントがぼけたかと思うと、膝をガクガクと震わせながら、リコブの方へとしな垂れかかってきた。そしてリコブの上着を手でキュッと掴んで、床に倒れこまないようにと、身体を支えている。

「もしかして、イっちゃってるの?」

 リコブが問い掛けるが、ヒャナは無表情のまま、何も口に出すことはしない。
 ただ、撫でられるたびに震えが大きくなる膝と、リコブの服を握る手指に力が篭る事で、言葉に出さずとも性的な絶頂を迎えているのを教えている。
 今までのリコブなら、絶頂しているヒャナに対し、今のように追い詰めるようにしてクリトリスを責めることはしなかった。
 しかし無表情のままで絶頂するという、器用なリッチの身体に興味が出てきたのか、このまま絶頂させ続けても表情の変化が無いのか、確かめるかように、執拗なまでに完全勃起したクリトリスを、愛液で濡れ始めた指で弄り回している。
 ヒャナの方はというと、ピントのずれた瞳で何処かしかを見つめながら、絶頂の為の荒い息を吐き出しつつも、相変わらず表情は無い。

「今までならこんな事した場合、泣いて怒るか、甘い声で懇願していたのに、まだ愛撫して欲しいの?」
「はぁ――!」

 指先でクリトリスを摘みながら捻り上げると、膝の力が完全に抜けたのか、ヒャナは地面に座り込みながら、瞳は失神した様にぐるりと上の方向へ。
 そしてぐったりしながらも、軽く身体を震わせながら、その場に倒れこんでしまった。

「あ、あれ?」

 まさか失神するとは思っては居なかったのだろう。腕から滑り落ちるようにして、床に倒れこんだヒャナを見て、リコブは呆気に取られていた。
 そして股間がしとどに濡れて、ドロワーズもぐっしょりと湿った様子を見て、やりすぎたと漸く理解した様子のリコブ。
 自分がやったこととはいえ、流石にリコブもこれは不味いと思ったのか。少し慌てながらヒャナの衣服を脱がせ、下着類は使用済み衣服の洗濯籠に押し込むと、ヒャナを寝室のベッドへと運んでいく。
 ぐったりとしたヒャナを、ベッドのマットレスの上へと静かに横たえたものの、この後はどうしたら良いのか悩んでしまうリコブ。
 執拗なまでに前戯をしたとはいえ、ヒャナが性行為で失神してしまう事など今まで無かったのだから、リコブが困惑を覚えてしまうのも致し方が無い。

「うーん。流石に失神して居るのを起こすのも――」

 とリコブが途方に暮れた様な呟きを零すと。彼の体は、透明人間に足払いを掛けられたかの様に、その場ですっ転び、何故かベッドの上のヒャナの横の位置へと身体が落ちる。
 そしてその身体の上に、失神していたはずのヒャナが圧し掛かる。

「リコブ。クリばっかり弄ったら、イっちゃうって言ったよね?」
「いや、表情が無いから、本当にイっているのか判らなくてね」
「問答無用。お返しするからね」

 口調にも表情にも怒った様子の無いヒャナだったが、リコブは長年の付き合いで彼女が怒っているのだと悟ったのか、瞳に謝罪の色を浮べつつヒャナの顔色を伺う。
 しかしヒャナは相変わらずの、アンデッドの青白い無表情顔のままで、リコブの唇を強引なまでな力強さで奪う。

「んぅ〜、ちゅちゅぅ〜。れれっれるぅ〜〜……」

 更にはリコブの口の中へと舌を突き入れて、その口内を蹂躙し始める。その積極的な舌使いに、リコブは少々面食らったように目を見開く。
 そんなリコブの様子を冷静な眼で見つめながら、ヒャナは舌の動かし方を微妙に変化させて、より一層リコブが悦びそうな舌使いを探っていく。
 やがて十分ほども蹂躙して、リコブの口の中の気持ちの良い場所を探り当てたヒャナは、その後五分も掛けてそこを重点的に責め続けた。
 リコブもお返しにと、舌を使ってヒャナの口内へと攻撃を仕掛ける物の、魔物娘化したヒャナのテクニックの前には、彼の今まで培ってきた技術は塵芥に等しい物になってしまっていた。

「んう〜、ちゅれれぅ〜……もうパンパンね」

 口を唇から離しつつ告げたヒャナは、ズボンの下で隆起し、今にも奥底の物を吐き出しそうになっているリコブの陰茎を、爆発物を扱うような慎重さで、下から上へと布地越しに手でなで上げる。
 ビクリと反応を返す陰茎を掌で確かめつつ、リコブの我慢するような表情を目で見たヒャナは、ズボンの中へと手を差し入れた。

「おつゆが凄いわね。口でしなくてもヌルヌル」

 その言葉が本当なのか、布地越しには見る事が出来ないものの、彼女の手が滑らかに動く度に、にちゃにちゃと粘り気の強い音がそこから漏れ出ている。
 ヒャナの手指が、リコブの陰茎の亀頭に巻きついて弄んでいるのだろう、彼女の腕が捻りを加えたり軽く上下に動く度に、リコブの腰がビクビクと反応を返している。

「ま、待ってくれ、ないかな。もう、限界なんだ」
「駄目。このままズボンの中で出させて上げる。射精して気持ちの良い顔を、私に見せて」

 じっと冷静に分析するような瞳で間近に見られながら、リコブはヒャナの手つきに導かれるようにして、ズボンの中へと射精する。
 射精感による快楽を感じている表情を浮べるリコブを見つつ、ヒャナは射精時にリコブの陰茎の何処を刺激すれば、もっと彼が気持ちよくなるのかを、手を動かしつつ反応を返すその表情から読み取っていく。
 陰茎の射精の脈動が終わったのを皮切りに、ヒャナはズボンの中から手を引き抜く。
 べっとりと掌に付いた精液を舐め取りながら、もう片方の手でそのズボンを脱がしていく。

「ずず、ぺちゃ。んッ。ちゅぱちゅぱ、ちゅちゅ」

 次にズボンに付いた精液を舐め啜って綺麗にしてから、今度はべっとりと精液で濡れた、リコブの下腹へと舌を這わせていく。

「れろれろ〜〜……んッ、お毛々に絡み付いて、ちゅもぐもぐ、ちゅれろ〜〜」
「そ、そこまでしなくても……」

 毛に絡みついた精液すらも、舌で舐めて歯でこそぎつつ口の中に回収する。
 そんなに熱心に舐め取らなくてもと言いつつも、リコブは冷静な瞳と表情なのに、娼婦顔負けな舌使いと熱心さというギャップを目の当たりにしたせいか、彼の陰茎は次弾が装填し終わったと知らせるように、徐々に硬く大きくなっていく。

「手が終わったから、次は口よね。れろ〜〜〜、あむッ」

 陰茎の根元から亀頭に掛けて、まだ残っていた精液を舌で舐め取り、最後に亀頭部分を口に含むヒャナ。
 そして先ずは尿道に残っている精液を吸いだそうとしているように、亀頭部分を吸いながら唇全体で包むようにしながら前後に首を動かす。

「ちゅ、ちゅぅ〜〜、んぅ、ちゅ〜〜」

 陰茎が暴れないようにと、根元部分を優しくてで押さえながら、ヒャナはベッドの上で寝ながら快楽に耐えるリコブの表情を見つめながら、今までの夫婦生活で知っていた弱点を責めつつ、巧みになった舌使いで持って、彼の性感帯の新規開拓に励む。
 そして一番反応の良かった、鈴口部分を舌先で舐めながら、唇の裏側でくびれの部分を捻るようにして愛撫するのを、重点的に繰り返し始める。

「待って、もう、でちゃうから」
「ちゅ〜ぱ。れろれろ、いいよ、出して」

 一端口から陰茎を離した無表情のヒャナは、舌の中ほどで亀頭全体を磨くように愛撫しながら、手に伝わる陰茎の動きに集中しているようだった。
 やがて射精の前段階である震えを察知したヒャナは、ゆっくりと陰茎を喉の奥まで押し込んで、根元まで咥えていく。

「くぅあぁぁあああぅーーー!!!」

 アンデッドとは思えない喉の熱さと、陰茎全体を優しく包みながらも絞り上げるその動きに、リコブは堪らないように叫びながら射精した。
 ビクビクと動く陰茎を、優しくしたと喉で包みつつ、適度に刺激して写生を手助けするヒャナ。無論、吐き出される精液は飲み下しつつ、時折喉奥を使って亀頭を刺激することも忘れない。
 しばしして、陰茎の奥に溜まっている精液を吐き出そうとするかのように、リコブがヒャナの頭を押さえつける。彼女はそれに呼応して、陰茎を喉に入れたまま強く吸い始める。

「じゅるぅううぅぅ〜〜〜〜〜」
「うはッ、う゛ぅうぅーーーー!」

 本当に陰茎の置くに精液が溜まっていたのか、それとも新しく射精したのかは分からないが、どぷりとヒャナの喉の奥に、精液の塊が吐き出された。
 
「なに満足そうな顔をしているのかな?」

 射精の疲れからか、荒く息を吐き出しているリコブへ、股間から口を離したヒャナは、不思議そうな目付きでそう問い掛けた。その手は半萎えの陰茎を握って刺激し、力を取り戻させようとしている。

「な、何だか、イヤに上手になっていないかい?」
「リッチになったからかしら。次々にやり方が浮かぶのよ」

 会話を交わしながら、必要十分なまでに硬さを取り戻した陰茎を握ったまま、ヒャナは仰向けに寝ているリコブの下腹の上に跨る。

「だから今日は、私が主導権を握るからね?」
「はははッ。お手柔らかにお願いいたします」

 にこりともせずにそう言われるて、少し怖いものを感じている様子のリコブ。
 別にヒャナは脅す積もりで言っているのではなく、感情の乏しい種族に変わっただけで、彼女にしてみれば普通に言った積もりだろう。その証拠に、何をそんなに怯えているのかと、興味深そうにリコブの事を見ている。
 そして見たままで、掴んだままの陰茎を、腰を落として膣内へと挿入し、亀頭まで入れると、そのまま一気に膣の奥へと押し込む。

「うわぉ……なんか、昨日までのとは、別物だね」
「…………」

 陰茎から感じる感触をそう評したリコブに対し、ヒャナは押し黙ったまま。
 そんな様子を見て心配したように、リコブはヒャナの様子を見ようと上体を起こそうとするも、伸びてきたヒャナの両手に胸元を押さえられて、敢え無くベッドの上へと舞い戻ってしまう。

「ね、ねえどうしたんだい?」
「……動かないで」
「……それはまた、どうして?」
「……イってるの」
「え?」
「イってる最中だから、動かないで」

 冷静な表情でそう言うのだから、何かの冗談かと判断した様子のリコブ。
 しかしリコブが半信半疑に手をヒャナの下腹へと押し当てると、その絶頂してビクビクと動き回る様子が感じ取れる。
 そして遅ればせながら、陰茎を締め付ける膣圧も、早く早くと射精を強請るようにグネグネと動いているのも感じただろう。

「えッ。本当に挿れただけで?」
「そんなに、可笑しい事かしら。人間の状態のまま、十数年も馴染ませたものを、魔物娘化して受け入れたら、どんな風に成るか、想像してみなさい」

 顔はあくまで冷静に。しかし首から下は、魔物娘の体質に見合った敏感さを見せているヒャナ。
 そんなヒャナを見て、悪戯心が刺激されたのか。リコブは、ヒャナの下腹に乗せていた片手を彼女の腰に回すと、ぐっと自分の腹へ押し付けるようにして押し込む。

「イってるから、待ってって――」
「何処に当たっているか、ちゃんと分かる?」
「子宮の口に、ぴったりとくっ付いてる」
「僕の方も、チュッチュって吸い付いているのが判るよ」

 今までのヒャナならば、絶頂の最中は何がなにやら分からない様子だったのに。リッチと成ってからは、聞けば冷静な判断が返って来るのが、少々不思議だ。

「イってるのに受け答え出来るだなんて、随分と余裕がありそうだけど?」
「そう、見えるだけよ。リッチになったら、ずーっとリコブに愛を叫び続ける私と、それを冷静に見ている私に分かれるの。そして表面には、冷静な方の私しか現れない」
「それはそれで寂しい気もするんだけど」
「大丈夫。冷静な私も、リコブの事が大好きだから」

 言葉の最中に、ほんの少しだけ唇と頬を上げるような笑みを漏らす。
 リッチと成ってからは、始めて見る妻の微笑みに、リコブは心を打ち抜かれたようで。しばし見惚れる様にしてその笑顔を見ていたかと思えば、次の瞬間には両手をヒャナの腰に回して支えると、激しく腰を突き出し始めた。

「待、待って。本当に、イってる。イってる、の」
「あんな可愛らしい告白と、笑顔を見せられたら、止まる訳無いじゃないか」

 快楽でヒャナの無表情を壊そうとするかの様に、下から腰を激しく突き上げる。
 その余りの激しさに、ヒャナの身体が付いていかない様で。カクンと腰が抜けた様に、リコブの上に覆いかぶさってしまう。

「待って、んっ、ちゅちゅぅ。待って、んぅ。このままだと、気絶、しちゃう」
「んぅ、ちゅれろ。大丈夫。安心して、気絶して」

 近くなった唇にキスをし、ギュッと抱き締めながら、リコブは体勢を騎乗位から正常位へと変える。
 そして力が入り難そうなヒャナの両方の膝裏に手を当て、彼女の脇の下に膝が来る様に押し上げた。

「何で、この体勢なの?」
「これで一番奥を突かれるのが、大好きだったじゃないか。ヒャナ」

 耳元でヒャナの名前を呟きながら、腰をやや引き抜くと、一気に陰茎を奥へと押し込む。
 行き止まりの膣壁――子宮口を突きつつ、更に奥へと押し込むようにして、亀頭がぐりっと抉る。

「ふ――うぅ……」

 膣内から内蔵を持ち上げられてか、無表情のままで、ヒャナの口から空気が漏れ出る様な音が発せられた。

「ほら。さっきより、一層ギュウギュウ締め付けてくるじゃないか」
「確かに、一番良い場所に、リコブのおちんちんが当たってるわね」
「まだ余裕?」
「余裕は無いわ。ただ、冷静に分析出来るだけ」

 本当かどうか確かめるように、リコブが腰を一往復させると、ヒャナの股間が潮を吹いた。続いて腰がカクカクと細かく震え出す。
 
「余裕が無いって、言ったでしょ」
「……御免。けどなんか、イってるのに無表情だと、逆にそそられる」

 非難するような口調を表情無しに言われて、リコブの何かに火が付いたようだ。
 そこからリコブは、一言も発する事無く、腰を降り始める。

「はーはーはーはー……」

 腰を前後に激しく振り、荒く息を吐き出しながら、顔と身体から汗を滲ませるリコブ。
 その腰使いに合わせるようにして、ヒャナは膣の陰茎が当たる位置を調整するかのように、無表情で口を結んだまま腰を軽く捻って受け入れる。
 お互いの腰が打ち合わされる音と、間から発せられる粘つく音。汗と愛液が落ちるシーツの滲みは、時間が経つ度に大きくなっていく。
 このままお互いが、性欲を貪る猛獣――否、快楽を生み出す一組の機械の様になるかと錯覚するほど、二人の行為は激しさを増していく。
 しかしリコブは、ヒャナの良い意味で豹変した膣内の気持ち良さに。ヒャナは、魔物娘化して間もない為、受け入れられる快楽の許容が狭いために。
 お互いに限界は直ぐに訪れてしまった。

「うぐぁぅーーー!!」
「…………」

 生物本来の獣性を取り戻したかのように、リコブが唸り声を上げつつ、奥の奥へと射精をする。対してヒャナは、冷静な瞳を保ったまま、しかし何処か焦点の可笑しい眼で、静かに体に襲い来る快楽と、身体の奥に吐き出された精の熱さを、黙って受け入れる。
 陰茎は身体に残っている全ての精を吐き出そうとするかのように、脈動しては次々と白い液体を放ち。膣壁はそれを手助けしながらも、更にもっとと強請る様に収縮と弛緩を繰り返す。
 やがてその運動も下火になろうかと言うところで、リコブは全ての力を使い果たしたかのように、ヒャナの上――彼女の豊かな胸の谷間に顔を埋める。
 ヒャナはそれを黙って受け入れ。無表情に似つかわしく無く、リコブの働きを労うかのように、優しく頭を撫でる。

「ふーふー……ねえ、ヒャナ」

 頭に感じるヒャナの手と、頬に感じる乳房の柔らかさを堪能していたリコブの口から、息が漏れるようにして言葉が出てきた。

「どうかしたの、リコブ」

 頭を撫でるのは続けたまま、冷静ながらも疑問含みな声色で、リコブに問い掛け返す。

「ヒャナは、もうずっと無表情のままなのかい?」
「……無表情は嫌?」
「嫌って程じゃないけど……」

 そこで一端言葉をきったリコブは、顔を谷間から上げつつ、両手でヒャナの乳房をこね始める。
 ぐにぐにと無遠慮に乳房を弄られても、ヒャナの顔は無表情のままだ。

「嫌がってくれたり、恥ずかしがってくれる方が、僕としては盛り上がるんだけど」
「……一応、演技としては出来るわよ?」
「それはそれで、知っていると、男としてはへこむよ」
「……まあ『箱』を壊せば、感情は元に戻るんだけど」
「それじゃあ――」
「壊したら、きっとサキュバスよりもっと知性を無くして、リコブを求めると思うわよ?アンデッドとはいえ、一応は上位種族なんだし」
「……本当にかい?」
「だって、愛を叫ぶ私の声。はっきり言って、狂気に近いほどなのよ。解き放ったら、恐ろしい事になるのなんて、予想する価値も無いわね」

 それでも良いなら、試してみると良いと、言外にリコブに告げている。
 無表情で冷静なままだけど、今まで通りの日常を送れる今の状態か。
 箱を壊して表情は取り戻しながらも、サキュバス以上に正気を失って性欲を求める状態か。
 一度選んでしまったら、引き返す事の出来ない取捨選択。
 そのどちらが良いのかと、あれこれ考えている様子のリコブ。
 そんな苦悩の果てに、何か良い事を思いついたかのような表情を浮べた。

「その『箱』っていうのは、壊すか壊さないかしかないの?」
「リッチになる為の魔法書と、なった時に得た知識では、そうなっているわ」
「じゃあさ。宝箱の様に、開閉可能な様に成ったりしないかな。エッチの時は開けて、日常では閉めるみたいにすれば……って、そう上手く行く分け無いよね」

 あははと誤魔化すように笑うリコブだが、ヒャナの瞳は天恵を受けたかのように揺れた。

「……いえ、面白そうな研究テーマよ。もしそうなったら、リッチの種族的な幅が広がるわ」
「そ、そうかな?」
「ええ。普段は無表情でクールなリッチが、ベッドの上では感情を振り撒いて喘いで悶えるなんて、最高じゃないかしら」

 世の中には無表情のままが良いとか、冷たい目で罵って欲しいという、奇特な輩はいるものの。普通の感性の人間男子ならば、自分の前だけでは淫乱になる女性というのは、広く受け入れられる物だと思える。

「じゃあ、早速リッチとしての私の研究テーマが見つかった所で……」

 リコブの腰に何時の間にか巻きつけた足を引き寄せ、膣内をきゅっきゅっと締めて咥えたままの陰茎をし始める。

「箱を開閉可能にする魔術開発には、まだまだ魔力が必要だと思うの。だから、たっぷりとお願いね」
「え、ええ!?」

 知的欲求を満たそうとするリッチの性なのか、それとも愛しい人の精を受け入れて、急速にリッチの身体が馴染み始めたのか。
 まだ日が開けて間もないというのに、ヒャナの魔力補給は、翌日の同じ時間に、彼女が料理を作るまで続く事となったのだった。



13/07/27 21:16更新 / 中文字

■作者メッセージ


というわけで、リッチでした〜。
いやー、アンデット系は苦手なんですけど、リッチは別枠として好きですね。
無表情ってのが良い。そして『箱』を壊せばエロエロに成るのも良い。
あれですよ『俺のマグナムで、お前の箱を打ち壊してやるぜ!』ってやつです。
(そういう人のアレは大抵デリンジャーだったりするのが、オチですがねw)

はてさて、SSを楽しんでもらえた事を祈りつつ。
また次の作品でお会いしましょう。

中文字でしたー ノシ

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