読切小説
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わたしリサちゃん、いま彼方の隣に居るの

 ガサガサと、手に提げた缶ビール入りのビニール袋を鳴らしつつ、俺――入谷真当(いりやまこと)は家路に着いていた。
 中小系会社員であるものの、取り立てて趣味があるわけでもなく、かといって恋人が居るわけでもない。なので気ままな独身貴族を満喫するために、今日も今日とて行う晩酌を楽しみに、少し薄暗い住宅街を歩いている。
 そこでピリピリっと、安い背広の懐から音。明らかに携帯電話の着信。
 お尻のポッケにプライベート用のは入っているので、懐に入れているのは勿論、会社用。
 時間外労働のお誘いかなと、少しゲンナリしながら携帯を取り出してみると、見慣れない数字の列。
 明らかに携帯電話からではなく、恐らくは固定電話からの物と思われる、その見慣れぬ数字列に小首を傾げる。
 まあ覚えていないだけで、名刺を渡した誰かだろうと予測して、その場に立ち止まる。

「もしもし。大変お待たせしました。こちら、株式会社万光製紙、営業の入谷です」

 そして電話の相手が誰だとしても、当たり障りの無い文言を選ぶ。
 しかし数秒間電話の向こうからは、何の声物物音も聞こえず、再度首を傾げてしまう。

「もしもし。営業の入谷ですが……」

 催促するようにこちらの名前を告げてみるものの、電話の向こうからは何の声もしない。
 もしや電話が切れたのかと、耳から離して液晶を見てみる。
 しかしそこは通話中の文字が。
 なんなんだと思いつつ、再度携帯を耳に当ててみる。すると電話の向こうから、女性のものらしき、少し高めの、くすくすという笑い声が。

「もしもし。入谷です」

 会社の誰かが悪戯してきたのだろうと、少し腹立たしさの混じった声で、電話の向こうの相手に尋ねる。
 しかし電話の向こうからはくすくすという笑い声しか漏れてこない。
 悪戯なら切ってしまおうかと、携帯から耳を離そうとしたところで、相手から初めて言葉らしい言葉が出てきた。

『くすくす。わたしリサちゃん、いま彼方の隣に居るの』

 はい、いたずら電話決定。
 今時こんなネタ電話を知っているのは、完璧に同年代おっさんおばさんの類。しかも女性の声となれば、行き遅れの可能性大。
 相手する必要も無いと、携帯電話の電源ボタンを押して通話を終了させる。
 まったく、いい歳こいていたずら電話なんて、そんなんだから――と考えたところで、また手にある携帯電話に着信が。
 文字盤を見ると同じ数字列。
 しつこいなと、携帯の電源自体を落として、背広の内側の胸ポケットに仕舞う。
 これで大丈夫――と思いきや、今度はプライベート用の携帯に着信が。
 まさかと思いつつ、尻ポケットから取り出して液晶を見てみると、そこにはやっぱり同じ文字列が。
 あまり会社の同僚にすら教えていないこっちの番号を、何で知っているんだと、少しだけ気味悪く思ってしまう。

「はいもしもし。いい加減、しつこいんですが」
『もぅ、何で直ぐ切っちゃうかな〜』
「悪戯電話は相手しない事にしてるんですよ。それで、其方はどちら様ですか〜?」
『あら。さっき自己紹介したじゃない。リサちゃんって――待って、切ろうとしないで!』

 また悪戯の続きかと携帯を切ろうとしたところで、焦ったようなそんな声が発せられてきた。
 しかし、よく切ろうとした事が判ったな。もしやどこかで見ているのか。でもそんな声は、受話器越しからしか聞こえなかったし。

「それで、そのリサさんが、私に何の御用ですか?」
『ちょっとお願いがあって。あ、でもその前に、二歩ほど下がってくれないかしら』
「二歩ですか?」

 いち、に、と心の中で数えながら後ろ向きに二歩下がる。

『はい。そこで左横を向いて。そこに居るわたしを、彼方のお家に連れて行って欲しいの』
「はぁ?誰も居ませんが……」
『視線が高いわよ。もうちょっと下、下』

 下って言われても誰も居なかったはずなのに。
 しかし視線を下げていくと、全高一メートルほどの大きさの、無地の茶色い紙袋があるのが見えた。

「もしかしてこの中に居るなんて……ヒィ!!」

 麻紐の取っ手を開いてみたら、長い金髪を頂いた後頭部を持つ、ぱっと見で少女と思われる物体が、体育座りで蹲るようにして、その中に入っていた。
 こ、これは警察に電話しないといけないかと、パニックになりながらよくよく紙袋の中を見てみると、その少女の首元には人間ではありえない繋ぎ目が。

「な、なんだよ、人形じゃないか」

 そう、ビスクドールと呼ばれる類の、球体関節を持った人形が入っていた。
 そっと顔を上げさせてみると、目を閉じてはいるが、良くある人形然とした顔つきとは違い、どちらかと言えばオタク向けのフィギュアの様な感じ。
 うん、なかなかに美形。衣服もかなり気合の入った黒白のゴシックドレス。
 秋葉原のレンタルボックスでこんなレベルの物を売ったら、軽く十万単位の値が付く事になるのは想像に難くない。さらに、つい「巻きますか 巻きませんか」と言葉が浮かんでしまうのは、昔にオタクだった名残なのでしょうがない。

「というかさ、なんで俺がこれを持って帰らなけりゃならないわけさ。俺はさっさと家に帰って、ビールとつまみで酔いたいんだけど」
『と言いつつ、素直に運んでいるじゃない。くすくすくす』

 何を言っているのか。俺が手に持っているのは、ビール缶の入ったビニール袋だけ――

「はッ、なんで俺は紙袋を手に持って、家路に着こうとしているんだ!?」

 しかし俺の左手には、ビニール袋と紙袋が握られていた。
 これはちゃうねん。リサってヤツの口車に乗った訳ちゃうねん。
 余りにも人形の出来が良ーて、道端に置いて置くのが我慢ならんかったんや。
 って、何故似非関西弁で誰に弁護しようとしているんだ俺は。


 先ず結論を言おう。
 俺は家の玄関で靴を脱いでいる。右手には通話中のプライベート用の携帯電話が。左手にはビニール袋と紙袋が一つずつ。
 はい。家に持ち帰ってしまいました。

『へ〜……案外片付いているじゃない』
「単純に物が無いって言えよ」

 いそいそと家に上がり、ビニール袋をテーブルの上に置く。ついでに人形入り紙袋を床の上に。
 
「そんで。俺にこの人形で何をさせようっていうのさ。アリスゲームにでも参加しろってのか。製紙会社勤務だが、本屋でアルバイトした事無いぞ俺は」
『う〜んと、何を言っているのか分からないけど。とりあえず、お風呂に入れて欲しいかなって』
「ふろ〜?人形を風呂に〜?」

 いやいや。小さい女の子がままごとするのなら分かるが。大の男の大人が、明らかに少女然とした球体関節人形をお風呂に入れるとなると。
 誰かに見られる心配は皆無だけれど、そのもしもが起きた場合、明らかに『変態だー!!』って、町内に回覧板が駆け巡ること請け合いだろう。

『う〜ん。温かいお湯じゃなくても良いから、お・ね・が・い』
「まぁ、お湯を張るのは別にいいよ。俺も一風呂浴びて、汗流してビールのみたいし」
『じゃあ、一番風呂はわたしね』
「おい。家主で拾ってやった俺が入るのが先だろう?」
『別にどっちでも良いわよ。ただ、わたしの身体を風呂場で洗うとなると、全身汗だくになると思うんだけど』
「……まさか、人形を洗えと?」
『お風呂に入るんなら、身体を洗うのは当然でしょう。それともなぁに、お風呂に沈めればいいと思ってるの?』

 なんか馬鹿にされるような言い方で尋ねられたぞ。
 そもそも何で俺が人形を風呂に入れなければならないのだか。
 このまま窓から放り出してやろうか。
 いやまて。俺が窓からこの人形を放り出すのを誰かに見られた場合、お巡りさんに通報される恐れが……
 くそう。毒を食らわば皿までの精神を、発揮するしかないようだな。

「……色々と言いたいことはあるが、分かった。一番風呂は譲ろう」
『うわーい、やった〜!おっふろ、おっふろ〜♪』

 やけに楽しそうだなと思いながらも、意外と弾んだ声が若々しくて、ちょっとだけドキッとしてしまったことは内緒だ!


 カシュっとビール缶のプルタップを開ける。
 そしてごくごくごくと、口に広がるホップの苦味と、口から逃げ出そうとする炭酸の泡を、喉の奥へと押し込んでやる。
 圧倒的。圧倒的、至福の瞬間。
 キュッと冷たさに締まった胃に、少しの痛みが走る。しかして継続して五臓六腑に、苦味とアルコールが染み渡る。

「くうぅぅ〜〜〜」

 これぞ大人の醍醐味。
 満足。大満足。充足した時間が身体に流れる。
 しかしアルコールと炭酸のダブルパンチに刺激された胃が、何かを食べさせろと要求を出す。
 ふふ、待て待て慌てるな。冷蔵庫には、チーカマに始まり、サラミで終わるほどの充実したつまみの数々があるのだ。
 しかし今日の気分を考えれば、手軽に済ませられるナッツ類が、つまみとして最てk――

『ちょっと〜、あんぅ、聞いてるのぉ〜?』
「――聞いてるよ。ちょっと現実逃避したかっただけだ」

 チッ。お風呂から上がっての至福の時間を邪魔された気分だ。
 そもそもなんで現実逃避したかったかを、このリサと言うらしき電話越しの相手はわかっているのだろうか。

『こんな。うんぅ。身体を、火照らされて、放置って、酷い人ね、んうぅ』
「だから、風呂場で人形を洗っているときにも言ったが、電話越しにエロい声を出すな!」

 そう。脱衣所で必死になってゴスロリドレスを脱がして、湯船に叩き込み、電話の指示に従って各球体関節を外しつつ、一つ一つ各部位を手洗いしてやったのだ。
 その時何を思ったのか、電話越しのリサが急に喘ぎ出したのだ。
 スピーカーに設定していて、急に大声でそんな声が流れた物だから、大慌てでスピーカーの音量を下げる。
 そこから始まったのは、小さくあはんうふんと喘ぐ携帯電話を傍らに、手で優しく人形を洗う俺の図式。
 これって一体何プレイになるんだ。テレセックスか。それともオナホドール使用の前準備なのか。
 
『だってぇ、溝。関節の、溝まで、あんなに、丁寧に洗われたらぁんぅ……』
「だから、変な声を出すなと言うのに」
『だったら、さっきも言ったけど、ちんぽハメてよぉ〜』
「いや、だからこっちもさっき言ったが、気が乗らないって言っただろう」

 そう、喘ぎ出して後は頭を洗うだけと言うところ位になって、急に電話の向こうの相手がそう言い出したのだ。
 何の間接を何処に嵌めれば良いのかと聞き返すと、人形の股の部分のある場所にちんこを――つまりは、人形とセックスしろと言い出したわけだ。
 行き成りそんな事を言われても、オナホールも使った事の無い俺にはハードルが高すぎるし、第一ローションなどの用意は無い。
 しかも胸や尻や股間の手触りこそ人間と見まごう程のしっとり感だが、手足は普通にビスクドールのつるりとした感触なのだから、ちんこを入れた瞬間に「掛かったな、アホがァ!」と、破片で十字斬を食らってしまう危険性もあるため、そんな頼みには『絶対にノゥ!』と答えるしか無いのである。
 なので洗い終えたバラバラになった人形は、絶賛そのままタオルの上で乾燥中。
 その合間を利用して、お風呂に使って汗を流し。風呂上りにビールをかっ喰らったわけなのだが。
 しかし相手も諦めが悪い。

『お願い。おちんぽハメハメしてよぉ。ハメハメ〜、ハメハメハメハメハメハメハメハメ――』
「ええい、五月蝿いわ!何の呪文だそれは。つーか、ハメハメにゲシュタルト崩壊を起こさせる気か!!」
『おちんぽハメてくれたら、黙るから。もう、ホントだめ。我慢出来ない。このままじゃ、彼方を呪っちゃう。呪っちゃう。呪う。呪、呪呪、呪呪呪呪呪呪呪呪祝呪呪ロ兄』
「一つ祝いを入れてから、ろあにって何だ!それより何より、本当に呪われそうで怖いわ!」
『じゃぁちんぽ〜。おちんぽ〜。ちんぽちんぽおちんぽちんぽ〜』
「ええい。男の純情を甘く見るなよ。そんなちんぽちんぽ言われて起つかあ!」
『え、彼方EDだったの……そうとは知らずに、御免なさい』
「EDなわけあるかー!週一でちゃんと作動するか確かめてるわー!」
『じゃあ早く早く、ハメてよぉ。ローション要らないから。スコンと肉棒突き入れるだけで良いから』
「はぁ〜〜……分かったよ。起つかどうかしらんが、押し当ててやるぐらいはしてやるよ」

 相手の根気に負けたのか、それとも風呂上りかつ空きっ腹にビールを叩き込んだからか、普段の俺なら先ずやらない提案を呑んでしまう。
 全くなんでこんな事になってしまったのかと、バラバラにした中から腰周りの部分を手に持つ。
 そこで思わず、風呂場のときは洗う事に集中していたため余り見なかったので、この際だからと股間の部分を持ち上げて目の前に持ってくると、まじまじと見てしまう。

『あぁん、そんな、熱い視線を送られたら。身体の奥から溶けちゃう』
「うっさい黙ってろ。見た目ロリで言動ビッチ――つまりロリビッチは、俺の守備範囲外なんだよ。折角無理矢理上げた気分が萎えるだろうが」
『じゃぁ――お兄ちゃん、そんな場所、じっくり見ちゃダメだよぉ。リサ、恥ずかしい♪』
「……なぁ、本当に止めていいか。なんか無性にビール飲んで、落花生とアーモンドが食べたくなってきたんだが」
『ご、御免なさい。黙ってます。黙ってますから〜〜』

 トーンダウンした俺の声で、漸く俺の内心を悟ったのか、電話の向こうのリサが黙る。
 そうそれでいい。
 全く気乗りしないのだが、とりあえず見た目にはぴっちりと閉じたスジマンに指を這わせる。
 穴が無くては入れる事が出来ないので、それの確認のためである。
 お、本当にちゃんと穴がある。
 しかも尿道と……クリトリスも完備しているとは、なんとも無駄に凝った造りだ。
 完璧にセクサドールじゃねーか。

『ンッ。ふぅ、ふぁん。んぅ……』

 しかも電話口から流れる、押し殺した様な喘ぎ声。これが実にいい。
 何かこちらが悪戯している気にさせてくれる。
 そうそう、最初からその調子で頼むよ。やれば出来るじゃないかリサ。
 しかし、本当にこのスジマンに、ちんこを入れるのはちょこっと人間としてどうかと躊躇ってしまう。
 だって、バラバラにした腰だけだぞ。
 オナホだ、オナホなのだと自己暗示を掛けても、球体関節を入れる窪みは掴み難いし、やけに軽いから腰を振るには扱い辛い気がするのだ。
 このまま、やっぱりダメでしたー――なんて言ったら最後、本当に呪われそうで怖いので、解決策を考える。
 ぽくぽくぽく、ちーん『ぽ』

「おい、行き成り声出してきたんだよ」
『何となく?』
「良いから黙ってろって」
『んふぃー』

 はーいを口を閉じたまま言ってきやがったし。
 いやそんなことはどうでもいい。とりあえず思いついた事を実行。
 なに。頭から胴体に掛けての部分はパーツ数が少ないので、簡単にパイ○ダーオン出来る事に気が付いただけだ。
 はい。がしーんがしーんと頭と胸とお腹用の球体関節をドッキングし、最後に腰部分をつける。
 うむ。どうやらチェンジ○ッターの方がしっくり来る感じだが、これで手足の無い、見た目少女中身は人形が出来上がった。
 これで心理的なハードルが随分と下がった。
 まあ見た目が少女なので『ロリ系』とか、人形なので『ドール系』とか、手足が無いので『欠損系』とか、反応が無いので『まぐろ系』だとかとか、色々と越えるべきハードルはまだまだ有るが、そこら辺は一括りに『オナホ系』として処理すればいいだけのこと。

「さってっと……」

 するりと短パンと下着を脱いで、まだ勃起の兆候すら見えない肉棒を、スジに当てる。
 一応膨らみかけに作られた胸は柔らかいので、これは女性の貧乳だと暗示を込めながら、指先でくりくりと遊びつつ、肉棒に力が入るのを待つ。

『ん、んぅ、はんッ。んむ!』

 電話越しに口を閉じたまま喘ぐ女性の声を、目の前にあるドールがそうであるように自身で錯覚させながら、乳首をくりくりと遊びつつ、腰を前後に振ってスジマンに擦り付ける。

『んんぅ!!』

 クリトリスにちんこの何かが引っ掛かったのか、電話口の声はくぐもりながらも大きな物を発してきた。
 ふふん。そうか、これがええのんか。ん、ここがええのんか。

『んぅ、んんむぅ!んんぁあ!!』
「ほらほら、黙る黙る」
『んんむ。むッぅぅ……むんああぁ!!』

 少々Sッ気がある俺は、こう必死で口を噤もうとするリサの声を聞き、少し気分が乗ってきた。
 その気分の高ぶりに答える用に、こすり付けていたちんこも半起ちぐらいに硬くなってきている。
 さてじゃあ挿入しますか。リサの要求通りに。

「ほら、くぱ〜〜っと……」

 一旦こすり付けるのを止めて、スジマンを左右に広げる。
 無駄なまでに巧妙に作られたそこは、きっちりと指に受ける質感と眼に入ってくる姿形は女性器そのままだった。
 いや寧ろ、誰に荒らされる事も無かった山奥の雪原を思わせるそこは、踏みつけて蹂躙したくなるというS心を刺激してやまない魅力に満ち溢れていた。

「……じゃあ要求通りにっと」
『ぅんん〜〜〜〜!!!』

 思わず見つめ続けてどういう変化が起きるか知りたい欲求が生まれたが、相手は人形なのだからお汁が出てくるわけ無いしと、人形相手の失望を感じつつ半起ちちんこを小さな穴へと押し入れる。
 律儀に電話口の向こうでは、口を噤みながら嬌声を上げるなんて器用な事をしてくれている。
 しかしだ。濡れても無いしローションも使って無いのだから、少しは挿入するのに抵抗があるのかと思いきや、するりと根元まで入ってしまった。
 だがガバガバなのかと言うと、そうではなく、何だか表現しがたい感触。
 俺が感じたのは上薬の塗られた滑らかな陶器で、ちんこを包まれているかといったものだが、自分で思ってなんだそりゃと突っ込みを入れたくなる。
 だがそんな、肌に感じるのは無機質の様であり、しかし包み込んでくる力は有機質の様な感触で。何だかファンタジーの世界に出てくる、半分機械半分人間な生命体相手なら、こんな感じなのかなと夢想したくなるようなものだ。

「まあそんなことは、どうでも良いか」

 耳に当てていた携帯電話を、スピーカーモードにして、人形の顔の横に置く。
 そして胸部と腰を連結する、大き目の球体関節を両手で持って、腰を前後にと振っていく。

『ん、ん、んぅ、ん、んぅぅ、ん、んぁ!』

 耳元で聞こえていた声が、人形の顔の横から聞こえるようになって、より一層の自分の想像力への補強に成功する。
 今俺が思い描いている情景はこうだ。
 まだ歳若い少女が寝ていたら、悪い大人(俺)に寝込みを襲われた。起きていると知られたら何をされるか判らないから、寝たふりをし続ける少女を、俺は下種な笑みを浮べつつ、何も知らない少女に悪戯をしていく。俺は相手が起きている事など分かっているのに、知らない振りをし続けて、少女にもっと恥辱を与えようとする。
 そんな大人なおままごとに、この人形を使用しているのだと、自己暗示を掛けているわけだ。
 そう想像するとだ。俺のS心に火が付き、ちんこの硬さも上がるってもの。
 現に、小さな穴しか開いてなかった人形の股間は、俺の一物にこじ開けられるようにしてぐっと穴が大きくなっている。

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。はぁはぁ、はぁはぁ」
『ん、ん、んぃ、んんぅ。むぅぅ!』

 穴の手前を責める様に、小刻みに腰を動かした後で、奥をこねくり回す様に、根元まで入れてから腰を円運動させていく。

「はぁはぁ、ハッ、はぁはぁ、ふッ」
『んぅ〜〜、アッ!むぅ〜〜、アッ!』

 そして円運動させながらも、時折更に奥へと押し付けるように腰を打ち付ける。そしてまた円運動に戻るを繰り返す。
 その後も色々な動作をするが、その度に電話口からは可愛らしい反応が返ってきて、更にそれでS心が刺激を受ける。
 なのでこれなら如何反応するか、こうされたら声が漏れるか、フェイントを掛けたら残念そうな声を出すかを、S心が満足するまで確かめた。

「さてっと、もういいかな」
『ひぁぅ〜、んはぅ〜、あ、あッ!』

 散々虐めまくったからか、もう電話口の声は口を噤んでの嬌声ではなく、度重なる性感でぐったりとしたような声を漏らしつつ、弱点を付かれた時だけ、鋭い声を漏らすようになっていた。

「それじゃあラストスパート!」
『あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あああ、ああああ!!』

 腰を掴んで引き寄せつつ、高速で前後にピストン運動。
 俺の下腹と、人形の繋がった部分がぶつかる度に、拍手のような乾いた音が部屋に響く。
 そして電話口からは、鋭い声が断続的に、やがて継続的に発せられてきた。
 気分良く腰を打ち付けつつ、ちょっとだけ意地悪な意味を込めて、電話の音量を下げてやる。

『ぁ、ぁ、ぁぁぁ、ぁぁぁぁッ!ぁ、ぁぁああんぅ!!』

 小さしたはずの声が、ある場所から先ほどと同じ音量へと変わる。
 どうやら電話口のリサは絶頂した様に、大声を上げているらしい。
 中々芸が細かくて実に満足だ。

『あああんぅああんあおんぅあ!!イッあッ、イって!!』
「俺ももうそろそろ出すから」
『ちが、イって、イってるの、イって!!』
「で、出るぞ!!」

 電話口の向こうの要請に従って、俺はこの行為で溜まっていた精液を、人形の膣の中へとぶちまけた。
 人形を使ったオナニーだというのに、俺は自分の手でするのとは違う、思わず腰が震えるほどの快楽を射精時に味わっていた。
 はぅ。これは、なかなか、病み付きになりそうな感じだ。
 オナホを使用するなんて馬鹿みたいだと思っていた、昨日までの自分を殴り飛ばしてやりたい。
 じっくりタップリと時間を掛けて、盛大にタップリと人形の腹の中へと、尿道の精液すら搾り出す様にして射精し終える。

「ふぅ……さっき風呂に入ったのに、何やってんだろう俺」

 すっきりさっぱりとした賢者タイムで、人形も俺も風呂に入ったばっかりだというのに、人形は膣の洗浄の為に、俺は汗をかいた為にもう一度風呂に入る必要が出たのを悟った。

「さて、じゃあさっさと洗って、ビール飲んでつまみ食って寝るか」
『「だーめ。まだわたし、満足してないもん」』
「おいおい、散々テレセックスに付き合って……あれ?」

 なんか二重音声で聞こえた気がして、視線を人形の顔の横に置いた電話に向けると、その携帯電話の横で人形が笑っていた。

「え、ま、まさか!」

 慌ててちんこを引き抜いて逃げようとするが、俺の如何にがっしりと脚が回される。

『「如何したのかしら、もっと遊びましょう?」』

 人形が口を動かすと、異口同音の台詞がその口と電話から流れる。
 まさかそんなはずが無いと混乱する俺の目には、人形が独りでに動いて、携帯電話の通話を終了させて、更には電源ボタンで電源を落としたのが見えた。
 いや待て、足も手もつけていなかった筈。何時の間に手や足が生えた。
 視線を人形の手足があったはずの床の上に向けるが、そこには何も無い。唯一濡れたタオルが、そこに人形の手足があった事を物語っているだけだ。

「ねえ、わたしリサちゃん。いま彼方の前に居るの」

 くすくすと笑いながらそう告げる人形。いや、リサ。
 その俺のうろたえっぷりを笑うようなその声に、少々カチンと来た。
 ちょっと異常事態に驚いたが、電話口の相手が目の前に居るのだと考えれば、ただの色ぼけの女がドッキリを仕掛けたようなものだと強引に納得できる。というかする。

「そんで、リサちゃんさんよ。前に居るから何だってんだ?」
「ふふふっ。じゃあねぇ、おままごとしましょう。気持ち良よくて、幸せになれる。そんな、お・ま・ま・ご・と♪」

 挑発するようにして、俺の腰に回している足をぐっと引き寄せて催促してくる。
 そうかそういうのがお望みか。
 おーけー。良いだろう。Sッ気を持つ相手にそういう事すると、どういう事になるのかを教えてやろう。
 まだ夜は始まったばっかりだ、まだまだタップリ時間はある。

「お望みどおり、新婚さんごっこに付き合ってやるよ!」
「いやーん、そんな、後ろからだなんて。鬼畜〜♪」

 それからはもう夜が開けて朝日が顔を出すまでヤリ続け、更には会社に有給を取ってもう一日ヤルなんて事をしてのけてしまった。
 いや、本当は途中で止めようとしたのだが、何故だか何時まで経っても萎えないし、どれだけ射精しても射精できるので調子に乗ってしまったのだ。
 さてそんな二日間のデスマーチを潜り抜けた、俺とリサはというと。

「ごめ〜ん、マコちゃん。目玉焼き失敗しちゃって、なんちゃってスクランブルエッグになっちゃった」
「おいおいリサ。そんなんじゃ立派な若奥様にはなれないぞ」
「じゃあ、若奥様になれるように。またおままごとしましょ」
「だーめ。これから会社なんだから、キスで我慢して」
「むぅ。帰ってきたら、一杯ベッドの上で遊んでくれないと、呪っちゃうからね」
「それは困ったな。ちゅ、ちゅちゅ、ちゅあ」
「あむちゅ、はぁ、ちゅ。マコちゃんのお口美味しい♪」

 なんて会話とキスをするぐらいの間柄になってしまったのだ。
 どうだうらやましかろう。

 ……ああん。人形とイチャイチャするなんて頭可笑しいんじゃないか、だと?
 うっせ。
 第一、呪いの人形に迫られて、ただの人間が逃れられると思っているのかよ。
 それによ。
 ほら。あんたも、見知らぬ番号の電話に出た覚えがあるんじゃないか。
 ない。それともある?
 ない。って言うんだったら、呪いの人形に会いたくなけりゃでるなよ。俺みたいになるからな。


 仮にだ。もしあるって言うんだったらよ。



 

 あんた、後ろを見てみろよ。
 そこに呪いの人形が居ないかい?
13/07/06 16:29更新 / 中文字

■作者メッセージ
こんちゃっす。中文字で御座います。
長らく執筆を止めておりましたが、またちょくちょく再開させるつもりであります。
しかし、投稿してみれば『リ○ちゃん電話』ネタの二番煎じです。

神は言っている。もっとネタを練りこめと。

と言うわけで、次回はネタに走るのか、それとも真面目かは分かりません。
なので皆様お楽しみに。

それではまた次回お会いしましょう ノシ

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