連載小説
[TOP][目次]
前編:キモオタ童貞の俺が天使にデートに誘われて童貞を奪われるはずが無い
 放課後の教室。スマホでエロゲの予約をしながら、俺は何気なく考えていた。
 二次元に比べて、三次元の女はどうしてこうもクソなのだろうか。
 人の事を外見でしか判断しないし、群れを組んで馬鹿にしてくるし、デカい声でわめくし、愚痴を延々と垂れ流すし、感情的だからちょっとの事ですぐ泣くし、悪いのは自分じゃないみたいな態度取って来るし、目が合っただけで嫌な顔をされるし。
 同じ事をしても顔がいい男は許されるのに、不細工は犯罪みたいな嫌がられ方をされる。
 中身が無くたって話が上手い男がやたら褒められてモテるし、しゃべらなきゃそれだけで暗い奴だと思われる。
 それにどこかで、男を財布か何かだと思っているに違いない。
 人間だから毛も生えるし、ウンコもするし、汗かけば臭うし、香水臭い女も居るし。
 それに比べて二次元は最高だ。
 みんな可愛いし、声も(ボイス付なら)可愛いし、泣き顔も可愛いし、優しい子が多いし、優しくすれば好きになってくれるし、目が合ったら微笑んでくれるし。
 金も掛からないし、時間だって三次元程かからない。
 確かに二次元キャラは決まったテキストしかしゃべらないし、触れないし、温もりも無いし、いざという時に助けてもくれない。
 けど、結局三次元の女だって同じ事なら、可愛くて理想的な二次元の方がいいに決まっている。
 エロゲとか、リア充の日記を読んでいるだけではないかという考え方もあるかもしれないが、それは違う。主人公に感情移入できて、可愛いヒロインに恋する事が出来る。物語は時に胸を熱くさせるし、時に涙腺を潤ませてくれる。現実などというクソゲーとは比べるべくも無いのだ。
 ヤリチン男のブログなんて読んでいたら、胸が悪くなって死にたい気分になるだけだ。
 二次元は最高。三次元は最低。比較するまでも無い。魔物娘という異世界の女達がこの世界にやって来たところで、その真理は変わらないのだ。
 魔物娘。人間の身体を基本に、ファンタジーモノのゲームやマンガの女性型モンスターのような、鳥獣や昆虫の手足を持った女性達。ここ最近異世界からやってきたばかりの、新人類。
 彼女達は本来、図鑑世界という異世界の住人だった。本来その存在さえ知り得るはずの無かった我々だが、科学の進歩によって異世界が発見され、更に二つの世界の研究機関が協力し合う事で、通り道まで作り上げることが出来たのだった。そして今では、あちらからこちらへ、こちらからあちらへと、交流が盛んに行われるようになっている。と、先日ニュースでやっていた。
 ニュースでは他にも、双方の文化の違いや倫理観の溝を埋めるための努力がーとか、科学と魔法の積極的な交流がーとか色々言っていたが、結局彼女達も女である以上、この世界の女と何ら変わらないに違いないのだ。
 どうせブサメンよりフツメン、フツメンよりイケメンの方が好きに決まってるし、オタク趣味よりはアウトドア派の方が好まれるに決まっている。
 同じクラスにも魔物娘は居るけれど、キモいオタクの俺は当然のように話し掛けられた事も無かった。
 俺はエロゲの予約を終えたスマホから顔を上げて、クラスメイトの魔物娘のグループの方をちらりと盗み見る。
 まだ女子高生なのに、みんなグラビアアイドルみたいにスタイルがいいし、顔もテレビの(と言ってもテレビ自体そんなにもう見ていないのだが)トップアイドルみたいに可愛い。
 でも、昆虫の手足や爬虫類の身体は見ていてぞっとするし、獣毛が生えているのも獣臭そうだ。
 やっぱり二次元が最強だな。
 そんな事を考えていると、ふとグループの中の一人とばっちり目が合ってしまった。
 確か名前は、天野唯。肌は褐色で、髪はピンクがかった金髪。体つきは小柄で、胸も他の魔物娘に比べれば小さい方だが、それでもブラウス越しでも目に付くくらいには大きい。
 一応魔物娘らしいのだが、目立つような魔物らしい特徴は見当たらない。あるとすれば頭の上にハート形の輪っかっぽい髪飾りが付いているくらいだろうか。
 確か、種族はフーリーとかいう天使の一種だという話だったか。
 あまり笑ったところを見たことは無いが、顔は可愛いタイプで、目が大きくてほっぺたも柔らかそうで、グループの中では一番のタイプだ。
 そんな彼女は、俺と目が合うなり、睨むような険しい表情になる。まさか俺の失礼な考えを読まれたわけでは無いだろうし、ブサイクなオタクと目が合ったのが不快だったんだろう。やっぱり人間の女も魔物の女も変わらないのだ。
 さて、帰ろう。週末の新作発売に向けて、まずは前作のおさらいだ。
 机の上に広げたままだった筆記用具や教科書を片付け、鞄に入れる。ノートを片付けるべく掴もうとした、その時だった。
 バンッ。と勢いよく机に叩きつけるようにして、誰かの手が俺のノートを抑えた。
 びくっと驚きながら顔を上げると、不機嫌そうな顔の天野が俺を睨んでいた。
 とっさに自分が何かやらかしてしまったのか考える。天野にした事と言えば、さっき目が合った事と、たまにちらちらと見てしまう事くらいだ。話し掛けた事だってないのだから、特に何か迷惑をかけた事は無いはずだ。だとすれば、さっきのが不快だったという事だろうか。ブサイクには見られるだけで犯されている気分になるという女性もいると聞く。オカズにされているようで(いや、実際してしまった事もあるのだが)気持ち悪いという事だろうか。
 まぁいいや。そう言うのには慣れている。謝って、もう見る事もしなければ事が収まるならそれでいいだろう。
「あ、あの、すみま」
 けれど、俺の謝罪を押しのけて彼女は予想外の言葉を投げかけてきた。

「あんた、週末暇よね。私に付き合いなさい」

「……へぁ?」
 自分でも恥ずかしくなる変な声が出た。
 どうしてクラスの中でもトップクラスに可愛い女子が、いきなり底辺のキモオタ男子に話し掛けて来るんだ? しかも、週末付き合う? 一体どんな文法を使ったらそんな日本語になるんだ? 全くわけが分からない。いや、理解は出来るけど。そうじゃなくて、と、とにかく返事をしなければ。
「しゅ、週末。です、か? いや、いきなり、暇、かと聞かれても」
 話し慣れてないので、どもってしまう。けれど無言で待たせても怒られてしまいそうだったので、必死でしゃべり続けた。
「えっと、週末は、その」
 一番最初に思い浮かんだのは、さっき予約したエロゲの新作だ。是非とも発売日にはじっくりとプレイしたい。前作から考えると、一度ノーマルルートをクリアしなければ解放されないルートがいくつかあるはずだから、出来ればノーマルルートはクリアしたい。
「よ、予定が」
「どうせ家でアニメ見るかゲームしてるだけなんでしょ? 暇よね?」
「と、友達と、遊びに行く約束が」
「嘘ね。あんた友達居ないでしょ」
「ア、ハイ」
 図星だった。嘘を吐くとすぐに顔に出てしまう。
 天野は、ちょっと呆れたような顔になる。そんな顔も可愛いなぁ何て思っている自分が、自分でも気持ち悪いと思った。
「じゃあ土曜日に、駅前に九時に集合。いいわね」
「わ、分かりました」
「何で敬語なのよ。同じクラスメイトでしょ。キモいからやめて。さん付けとかちゃん付けとかもいらないから」
「すみません分かりま……。いや、ご、ごめん。わ、分かったよ。あ、天野」
「やれば出来るじゃない。それでいいのよ。いい、約束よ? 絶対時間通りに来るのよ? すっぽかしたらどうなるか分かってるわよね?」
「時間通りに行くよ。でも、俺なんかが、な、何に付き合えばいいんだ? 買い物とかなら女子同士の方がいいだろうし、お、贈り物とか選ぶのか? でも、それだって」
「うるさい男ね。デートよデート。これで満足?」
 デートヨデートって何だ。新しく出来たデパートか何かか? だから買い物なら女同士の方が色々分かっていいだろうが。俺は洋服とか雑貨とかも興味ないから分からないんだって。
 いや待てよ。デート、なのか? そんな日本語あり得るのか? まさか俺がそんなわけは、いや、でも。
 この至近距離だ。ラノベの主人公よろしく「え? 何だって?」と聞き返すわけにもいかない。
「あの、天野。その、大丈夫か? 相手、間違えてないか?」
「はぁ? バカにしてるわけ?」
「だって、天野が、俺を誘うなんて」
「か、勘違いしないでよね。罰ゲームよ罰ゲーム。さもなきゃ、私があんたみたいなキモオタをデートに誘うわけなんて無いでしょ?」
 天野は視線を逸らす。
 さっきの魔物娘グループの方を見ると、彼女達はこっちを見ながらくすくすと笑っていた。
 あぁ、そういう事。
 グループの中の弱い奴を、キモい奴とカップルみたいな事をやらせて、嫌がらせをして楽しもうって言うわけだ。
 本当は嫌なのに、グループに所属し続ける為に無理矢理我慢してって奴か。いじめみたいなものじゃないか。人間はたまにそんな風にしてコミュニティに対する忠誠心を試すみたいな事をするけど、やっぱり魔物娘もそうなのだろうか。ちょっと、幻滅してしまった。
 みんな、どうしてそこまでして群れるのだろうか。
「で、でも、こんな事でもなきゃあんたなんか女の子と関われないでしょうし、か、感謝しなさいよね」
「そうだね。分かった。楽しみにしておくよ」
 こんな風に言っておけば、きっと彼女のグループの魔物娘達も喜ぶだろう。
 俺は腹の底が冷えていくのを感じながら、笑顔を作ろうとした。ほとんどそんな事をしないし、無理矢理作った顔だったから、きっと歪んでしまった事だろう。


 それから週末まで、天野は特に話し掛けても来なかった。
 俺の方から話し掛けるのも気が引けたし、グループの中に入っていってまで声をかける勇気も無かったし、そもそも話す事も無かったので、結局その日まで一言も言葉は交わさなかった。
 土曜までの数日は、長いようで短かった。
 あの日の放課後は他にも何人かクラスメイトが残っていたので変な噂が流れてしまっていて、普段無視を決め込んでいるようなクラスの男子も敵意のような視線を向けて来て学校にも居づらかったし、家に帰っても土曜何を着ていけばいいのか、何をすればいいのか、何を話せばいいのかと考えてしまってエロゲにも集中できなかった。
 何しろ俺とのデート自体が罰ゲームなのだというのだ。可愛い女の子とデートできると言っても、自分が魔物娘から見ても絶対に付き合いたく無いタイプのキモいオタクなのだと証明されたようで気が滅入って仕方なかった。
 一日一日がいつもより苦痛に満ちているにもかかわらず、けれども時間は見る間に過ぎていって、日付はあっという間にカレンダーの右端の日になってしまった。


 土曜日。朝の八時。約束よりは一時間早かったが、俺は駅前にやってきた。
 服装はいつも通り。特にオシャレでは無い。どちらかというとオタ臭いだろうが、罰ゲームならこれでおあつらえ向きだろう。
 グループの中の誰かは浮かれてやってきた俺をどこかで写真にでも撮っているのだろうか。それとも、結局天野がすっぽかして何時間も待たされる俺を見て笑おうとしているのだろうか。
「……九時半になって来なかったら、ゲーム買って帰ろう」
 誰にともなく呟いていると、ちょうど電車の発着時間だったのだろう、駅の入り口からたくさんの人が流れ出てきた。
 天野はどうやって来るのだろうか。まさかこの人波の中には居ないだろうが。
「あ、あら。早いわね。そんなに楽しみだったの?」
 振り返ると、モデルみたいなきらきらした女の子がそこに居た。フリルのたくさんついた白いブラウスに、サーモンピンクのフレアスカート、白のニーソックス。
 可愛らしい顔立ちには、不機嫌そうな表情が貼り付けられていた。天野だった。
 正直、驚きだった。天野は何かもっとこう、露出の多いギャルっぽい格好で来るかと思っていた。
 時計はまだ八時半にもなっていない。なぜ彼女がこんな早い時間に居るのだろう。電車の時間だって、この後のものもあるはずなのに。
「お、おはよう。天野も早いんだな」
「べ、別に楽しみにしてたわけじゃ無いから。駅前の本屋にも用があったのよ」
「そ、そうか。ええっと」
 八時半って、本屋開いてたっけ? いやそうじゃない。何か気の利いたことを言わなくては。デートの時に集合したら、何を言えばいいんだろう。
「何?」
「その。天野って、休みの日そういう格好してるんだな」
「……おかしい?」
 天野は表情を曇らせる。気に障ったのかもしれない。
「べ、別におかしく無くて、その、か、か、可愛いなって」
「あっそ。あんたは、予想通り、オタク丸出しね」
「ご、ごめん」
「別にいいわよ。そういうの期待なんてしてなかったし。さ、行くわよ」
「行くって、どこに」
「まずは映画。見たい映画があるのよ。それからご飯食べて、午後は適当に買い物とかでいいんじゃない? ……何?」
「いや、デートってそういうもんなんだなって。俺、初めてだから」
「キモ……。やめてよねそういう事言うの。さぁ行くわよ。折角早く来たんだから、いい席取らないと」
 天野は俺の手を取って早足に歩き始める。
 その自然な手の繋ぎ方に、彼女の手の小ささや柔らかさに、俺は心臓が止まりそうになるほど驚いた。
 手汗をかいていないか心配だった。本当は嫌だろうに、必要以上に不快な思いはさせたく無かった。
 けれど考えている余裕もすぐに無くなった。背は小さい割に天野の足取りは早くて、俺は彼女に付いて行くので精一杯になってしまった。


 天野が見たがっていた映画は、世間でも話題になっていた海外のアニメ映画だった。
 彼女は見ている間中もあまり笑いも泣きもせず、見終わった後の感想も「まあまあだったわね」という無感動なものではあったが、感想としては俺もおおむね同意だった。
 映画を観終わった後はファミレスに行って飯を食った。本当は洒落たお店なんかに行けたらいいのかもしれないけど、学生のデートならファミレスでも上等だろう。
 アビスなんとか、という最近出来たチェーン店だったが、味がいい割には値段が安くて、自分としては正解だった。天野は変わらず仏頂面だったが。
 午後は天野の言っていた通り、適当に色んな店を回った。
 天野が入りたいと言った洋服屋、雑貨屋、他色々。センスが無い俺には何が可愛くて可愛くないのかよく分からなかった。天野が身に付けると、全部可愛く見えた。
 色んな店に入ったが、結局天野は何も買わなかった。ただ、ちょっと楽しそうな顔をしていたのが見れたのは収穫だった。
 店を出るふとした瞬間に、本当は今頃エロゲ買ってプレイしてたはずなんだよなぁ。なんてことを思い出した。あんなに楽しみにしていたというのに、忘れていたのが自分でも不思議だった。
「さぁ、次はあんたの買い物に行くわよ」
「え?」
「ゲームかなんか買う気だったんでしょ。無理矢理付き合せちゃったんだし、私もそのくらい付き合うわよ」
 意外だった。驚きだった。最近驚いてばかりだった。
「で、でも、アニメショップだよ」
「キモ……いけど、いいわ。私は外で待っててもいい?」
「いい。いいよ。というか、本当にいいのか?」
「いいって言ってるでしょ。早く行くわよ」
 いや、やっぱり止めようか。とも思ったが、途中で止めても「キモい変な気を使うな」と怒られそうだったので、俺はそのままゲームを予約していた店に向かった。
 天野を店の近くに待たせ、無事にゲームを購入し(もちろん見えないようにカバンの奥に突っ込み)、急いで合流する。
 天野はやっぱり不機嫌そうな顔だったが、朝から比べて更に険しくなっているというわけでも無いので、特に怒っているというわけでも無いようだ。多分。
「もういいの?」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、次に行くわよ」
「次?」
「またお腹空いちゃったから、何か食べたい」
「あぁ、うん」
 つかつか歩き出す彼女に、俺は慌てて付いて行く。


 まだ夕方でも無かったが、天野が夕食を軽く済ませておきたいと言うので移動販売のクレープを買った。
 二人で公園に行って、ベンチに並んで座って食べた。
 天野はキャラメルチョコバナナクリームという、生クリームたっぷりのクレープを頼んでいた。甘いクレープのはずなのだが、その表情はなぜかちょっと苦そうだった。
 俺はハムやチーズや野菜の入った、軽食に出来そうなボリュームもそこそこあるクレープを頼んだのだが、特に会話も無かったのであっという間に平らげてしまった。
「あの、さ、天野」
「何?」
「嫌なら、もうこの辺でおしまいにしないか」
 なぜだか、物凄い眼で睨まれた。
「いや、俺は楽しかったよ。欲しかったゲームも買えたし。いや、それはいいんだけど。
 いい一日だった。多分一生忘れないと思う。今日以上に幸せな日は、もう無いと思う。その、天野みたいな可愛い子と、こんな風にデートするなんて、多分もう一生無い、だろうし。
 けど、天野は嫌だったろ。こんな俺と丸一日一緒だったなんてさ。だって罰ゲームだもんな。
 もう日も暮れるし、これを食べ終わったら」
「キモい。あんた、サイッテー!」
 怒られた。目つきも更に険しくなって、目じりに光っているのは……え?
「天野?」
「ちょっと待って」
 天野は残っていたクレープを一気に食べ終え、立ち上がって俺の前に仁王立ちになる。
「まだ終わりじゃないから。こんなんじゃ、まだ罰ゲームって言えないんだから」
「いや、もう充分だろ? こんな俺を連れ歩いて、十分恥ずかしかっただろ?」
「ッ! そうかもしれないわねッ! でも私はまだ、行きたいところがあるの。ついて来なさい」
 俺は手を引っ張られて無理矢理立ち上がらされ、引きずられるように歩き始める。
 これってついて来るって言うか、連れて行かれているのでは? とは、流石に言えなかった。


 十数分後。俺達は家具や壁紙などが全体的に薄いピンク色でまとめられた、大きなベッドの置いてある部屋に居た。
 ここがどこだか、正直自信が無い。彼女の動きが早くて強引過ぎたせいでわけのわからないうちにここまで来てしまったからだ。はっきりと言えることがあるとすれば、ここは天野の部屋では無いという事くらいだ。
 路地裏を色々と入っていって、まだ電気も付いていない小さなネオンの看板が並ぶ通りの、どこかの入り口に入った。
 ベッドもあるし、多分ホテルだと思う。恐らく男女のカップルがそういう事の為に利用する、つまりはラブホテル。
 天野は俺の隣で、相変わらずの表情で、けれど頬は赤く染めていた。
「なぁ、天野?」
 天野は何も言わず、俺をベッドに座らせた。
「目、瞑って」
 有無を言わさぬその口調に、俺は黙って言われるままにする。
 すると、目元に何か細い布を巻きつけられた。
「あ、おい」
 外そうとするが、あっという間に両手を取られて、同じような布で縛られてしまった。
 引っ張られて、どこかに縛り付けられた。多分、ベッドの枕側のパイプだ。
「な、何すんだよ。天野」
「うるさい。黙ってて」
 カチャカチャ音がする。腰元に手の感触がある。ベルトを外されている!?
 混乱している間に腹が楽になり、脚全体が涼しくなる。続いて、股まで外気にさらされる。パンツを脱がされた!
 恐ろしい考えが頭をよぎる。このまま写真を取られたり、悪戯されている姿を動画に取られたら……どうしよう。
「おい! あま、むぐっ」
 何かで口を無理矢理塞がれた。
 手や指では無い。それにしては柔らかすぎるし、湿っている。
 何だ、これ。まさか唇? キス、された? クラス一の美少女の天野に?
 感触が離れてゆく。口が解放されるが、俺は何も言えなくなってしまう。身体が熱いような、寒いような、妙な感覚で、ただ心臓の音だけがばくばくうるさかった。
「どう? ファーストキスの味は」
「あ、天野、もういいって。もう充分だろ」
「駄目。こんなんじゃ罰ゲームにならない。あの子達は納得しないもん」
 衣擦れの音がし始める。もしかして、服を脱ぎ始めたんじゃないだろうか。そんな風に思い始めると、駄目だと思っても興奮が止まらなくなってしまった。
 天野の裸。褐色で滑らかな肌は、きっととても綺麗だろう。どこを触ってもすべすべで、おっぱいも柔らかいに違いない。
 いや、待て待て待て。駄目だろう。俺達はまだ学生だし、別に付き合っているわけでも無いし、相手の事だって、別に、別に……。
 それとも、本当にこのまま天野はセックスするつもりなのか。十人が見れば十人とも間違いなく美少女だと言うような彼女が、望めばどんなイケメンとだって付き合えそうな彼女が、こんなクズみたいなブサメンのキモオタと、ただのゲームでセックスするって言うのか。
 そんなの、駄目だろ。セックスって言うのは、もっとこう……。
「ねぇ、なんか大きくなってきてるんだけど。何も見えてないのに、興奮してんの? どうせ私の裸でも想像してたんでしょ。ほんと、あんたってキモいわね」
「う、うるさいな」
「私でヌいた事、あるんでしょ? 頭の中で私に何したのか、言ってみなさいよ」
「バっ。そんな事言えるわけ」
「言わなきゃこのまま写真でも撮ってネットに流しちゃおっかなぁ」
「わ、分かった、言うよ。……こ、恋人同士、みたいに、抱き締めあって、イチャイチャするような、妄想だよ」
 流石に引いたのか。返事はなかなか返ってこなかった。
「へ、へぇ? それだけなのかしら。キモオタのあんたの事だから、レイプとか輪姦とか奴隷調教とか、そう言う鬼畜な奴かと思ったわ」
「え、嫌だよ他の男に触らせるなんて。絶対嫌だ。妄想の中でくらい俺だけのもので居て欲しい……って、いや、あの」
 正直言って俺は凌辱系とか寝取り寝取られ系は苦手なのだ。見ていると気分が悪くなってくる。下手すると二三日気持ちの悪さを引きずる事さえあるくらいだ。
 一番好きなのは純愛系。シリアス物やバトル物も嫌いではないが、日常系が好みなのだ。
 だからそういう時に思い浮かべるのも、単純にお互いが好きで好きでたまらない恋人同士というシチュエーションが多い、のだが、……ここまで口走るのは流石に恥ずかしかった。
「き、キモい! キモい! あ、あんたって、ほんっとにキモいのね! わ、私とあんたが恋人同士? 私があんただけのものになる? か、考えただけでも鳥肌が立っちゃうわよ。
 あんたみたいなキモいオタクは、きっと一生童貞でしょうね。ほんっとにかわいそうな奴!」
 分かり切っていた事ではあるが、流石にそこまで言われるとちょっと傷つく。泣きたくなってくる。
 だが、言葉とは裏腹に、天野は驚くべき行動に出た。俺のペニスに、しっとりとした指が絡み付いて来たのだ。優しく握りしめて、上下に扱き始める。
「しょ、しょうがないから。私が童貞卒業させてあげるわよ。か、感謝しなさいよね? ま、まぁ、罰ゲームだから仕方なく、なんだけど」
「ウッ。おい天野、やめろ。やめろって。お願いしますからもうやめてください」
「何で嫌がるのよ。……意味分かんない。私が嫌だって言うの?」
「嫌なわけ無いけど。だって申し訳ないじゃないか。俺なんかに……」
「遠慮してるの? 変にかっこつけちゃって、キモ。いいから黙って気持ち良くなってればいいのよ」
 指より更に柔らかく、ぬるりとした感触に亀頭を包み込まれた。更にねっとりとした感触の物が、鈴口を、かりのあたりを動き回る。
 唇と、舌? フェラチオされているのか?
 もう止めろ。と言いかけるも、俺は途中で言葉を飲み込んでしまった。自分でも嫌すぎる考えに思い当ってしまったのだ。そして一度思い始めると、もうそうだとしか思えなくなってしまった。
 結局、天野も大人しそうな顔をしていて、色んな男を相手に遊んでいる女だった。つまりそう言う事なのではないか。
 デートしたり、ラブホに入ったりするのも、別にどんな男ともしてるんじゃないのか。
 それこそ、金の為に中年のおっさんに股を開いたり、気持ち良くなりたいと言うだけでイケメンと寝たりしてるんじゃないのか。
 だからこんな俺とも、ただの罰ゲームでもこんな事が出来るんだ。顔は可愛いけど、中身は腐れヤリマンビッチだったんだ。
 そりゃ、これだけ可愛い女の子だし、少しくらい男と付き合ったりはしているだろうとは思っていたさ。けど、ここまで貞操観念の壊れた股の緩い女だとは思わなかった。
 なんだか馬鹿馬鹿しくなってきてしまう。虚しくて、悲しくて、悔しくて。それなのにフェラチオは凄く気持ち良くて、あそこがギンギンになっているのが情けなくて。
 身体の奥から、それがせり上がり始める。もうちょっとで絶頂を迎えられる、というところで、急にペニスが涼しくなってしまった。
「意外に綺麗にしてるのね。もっと汚れてるかと思った」
 もっと汚れたちんぽも喜んでしゃぶっていたという事なのだろうか。
「やっと素直になったのね。それじゃ、その、い、入れちゃうから」
 ペニスのさきっちょに、唇とも舌とも違う濡れた肉の感触が押し付けられる。
 やがてその感触は亀頭を包み込み、竿の部分をもゆっくりと飲み込んでゆく。
 途中で抵抗があった気がしたが、きっと気のせいだ。だって天野みたいな可愛い子が、俺が初めてなんてことありえないんだから。
「う、あ、あぁんっ。はい、はいってくぅ」
 吐息交じりのエロい声だった。脳が痺れるようで、聞いているだけで勃起してしまうような声。当然、天野のこんな声は初めて聴く。
 でも、天野は多分他のたくさんの男にこの声を聞かせているんだろうな。他のたくさんの男を悦ばせて、悦ばされて……。
 天野の膣は細かいひだひだでいっぱいで、奥に進むたび、ペニス全体に細やかに絡み付き、締め上げてくる。
 そして、ついに亀頭の先端がざらりとした部分に触れた。
「全部、あ、入っ、ちゃっ、た」
 天野が俺のまたぐらに腰を下ろすような形になり、俺の腰元にその体重が預けられる。間違いなく、天野の膣内に入ってしまったんだと悟った。繋がってる部分から、お尻や太腿までしっかりと密着してしまっては、もうオナホールで悪戯されてるという可能性も無い。
 ベッドが揺れ始める。天野が腰を使い始めたのだ。
 上下に、前後に、左右に。
 その度に天野の中の柔らかい部分に俺の敏感な部分が擦れて、頭がおかしくなりそうな程の快感に襲われる。同時に、その経験豊富でしか成しえないいやらしい腰使いに、気が狂いそうな程の感情に囚われる。
 他愛も無く天野とセックスしてきた男達への嫉妬と、いっちょまえにそんな感情を抱いている自分への自己嫌悪と、誰とでもこんな事をする天野への不快感と、それでも俺なんかとこんな事をさせてしまっている申し訳無さと、このまま好き放題に犯されていたいという甘えと、どうせなら好き勝手に犯したいという欲望と、とにかく色んな感情が入り混じり、頭の中がぐちゃぐちゃに掻き回される。
 けれども気持ちは滅茶苦茶でも、身体から出て来るものはシンプルに一つだけだった。
「あ、天野。もう出ちゃいそうだよ。流石に、膣内は、まずいだろ」
「今更、何、言ってんの、よ。生で、入れちゃったら、もう、関係、無いわよ」
 息を弾ませ、天野は言う。
「このまま、出しちゃい、なさいよ。生、あっあっ、生、膣内出し、気持ち、いいわよ?」
 膣内射精でさえ、天野にとっては当たり前の事なのだろうか。
 別に天野には天野の考え方があるし、天野の人生は俺には関係ないのだからどうしようもない。
 なのに、何だか泣きたくなるくらいに悲しくなり、吐き気がするくらいの怒りに苛まれた。
 ただ、最悪な気持ちに相反して、天野の身体は最高に気持ち良くて、俺はろくに我慢する事も出来なかった。心ではこんなにも天野の事を考えていても、体は単純に天野の身体を愉しんでいただけだった。俺は、俺自身が嫌悪する男達と何も変わらないんだ。
「うっ、天野、もう、限界だ……。出る」
 決壊する。自分で扱いている時とは比較にならない解放感と共に、尿道を熱の塊が駆け上がってゆく。
「あっ。奥に、いっぱいかかってる……」
 汚している。
 天使を膣内から、俺の薄汚い精液で……。
「まだ出てる……。いっぱいになっちゃいそう」
 でも、俺が初めてじゃないんだもんな。天野はもう他の知らない誰かに汚されていて。俺はその中の何番目かで。天野に好きで求められたわけでも無くて、ただ仲間内のゲームの一つとして、からかいついでに、ちょっと気持ち良くなれればそれでいいってくらいの……。
 射精が少しずつ落ち着いてくる。興奮が収まってくると、急に思考も冷えてゆくようだった。
 ……だったら、もう。いいじゃないか。なにも遠慮する事なんかないじゃないか。
 汚れきった天使を更に汚して犯すのに、何を躊躇う事がある。
 俺は、無理矢理に両腕を引っ張った。手首が痛かったが、構わず暴れ続けた。
「ちょっと、何して」
 鈍い音がして、手首を拘束していた布が千切れる。俺は急いで目隠しも剥ぎ取って、天野の腰を、身体をがっちりと掴む。
「や、やだ。見ないでって。恥ずかしい……」
 両手で顔を隠そうとするので、俺は急いで彼女の腕を掴み直して顔を拝んでやった。
 快楽で蕩けきった雌がそこに居た。目は上気したようにとろんとしていて、口元もだらしなく緩んで、よだれが垂れていた。
 あぁ、やっぱり誰でもいいんだ。天野はセックス出来れば、気持ち良くなれれば、相手がどんな男だって……。
 何だか凄く悔しくなって、気付けば俺は力付くで、彼女を逆にベッドに組伏していた。
「や、やだ。やめてよ……。あんた、そう言うキャラじゃないじゃん。ちょっと、何でそんな顔で、私の事……」
 さっきまでとは一転し、怯えたような表情になる天野。普通の女の子のような態度に少し胸が痛んだが、今更もう遅かった。
「罰ゲームなんだろ。いいよ。目いっぱい罰ゲームにしてやるよ」
 俺の真意を悟ったのか、天野は目を見開き信じられないと言った顔になる。手足をばたつかせ暴れはじめるが、もう遅い。
 いくら俺が引きこもってばかりのオタクとは言え、天野は小柄な女の子、本気で掛かれば天野の抵抗など無力だった。
 両腕を掴んだまま、俺は目の前に並べられた天野の乳房にむしゃぶりつく。
「やだ、ちょ、いきなり何すんの。やめ、そんな強く吸わないで。……ア、ダメ、噛むのダメェ」
 口で含んで音を立てて舐め回し、赤ん坊のように吸い上げる。舌先でちろちろと転がし、少し強めに歯を立てる。
 天野の身体がびくんと跳ねた。
 この俺の、童貞丸出しの下手くそな愛撫にも関わらず感じているんだ。どれだけの男に開発されたら、ここまで淫らな女になるのだろう。
 腋の下もくまなく舐めて、唾液を塗り付けてやった。首にも舌を這わせて、玉のように浮かんだ汗を味わい尽くしてやった。
 三次元の女にも関わらず、天野の肌はいい匂いがしていた。その汗もほのかに甘く、これならまんこでも尻の穴でも舐められそうなくらいだった。
 けれど、天野の魅力を知れば知る程、俺は激情の渦の中に飲み込まれてゆくような気分になった。
 もっと汚してやる。一番最初に汚せなかったのなら、一番汚く汚してやればいい。そうすれば、ただの遊びだった俺の事でも、天野の身体に、記憶に刻み付けてやれる。
 膣内出しして精液でいっぱいになっている膣の中を掻き回すように、俺は腰を動かし始める。
 とろんとしていた天野の表情が、その肌が、紅潮し始める。
「あっ、だめ、イったばかりで、びんかんだから……。ダメ、あ、あ、あああっ」
 亀頭で膣内の隅々に精液を塗りたくってやるように、俺はぐりぐりと腰を動かし続けた。膣壁をなぞるように、上側も、下側も、右も左も一番奥も。とにかく膣内全てに俺の精液を染み込ませてやりたかった。
「また、いっ、いっちゃうよぉ……」
 天野は呟き、びくびくとその小さな身体を震わせる。天野はどこか遠くを見ながら、けれど俺の顔をずっと見続けていた。瞳の奥がハートみたいになっていた。こんな俺を相手に、完全に雌の顔だった。
「い、いいよ。気持ちいい。ねぇ、遠慮しないで、もっといっぱいしていいよ? あんたの、好きなようにしていいよ? ……でも、優しくしてくれたら、ちょっとうれしいかな」
 何だよ。ヤリマンビッチの癖に何言ってんだよ急に。まるで初めてし合う恋人同士みたいなセリフじゃないか。
 ちくしょう。ちくしょう。
 もう、色々と限界だった。
 俺は天野の小さな身体を抱き締める。胸元で天野のおっぱいが潰れた。おっぱいだけじゃなくて、天野は全身が柔らかくて、温かかった。
 天野は俺を抱き締め返してくれた。背に腕を回して、脚まで腰に絡めて来た。
 一際奥までぐぅっと突きこむと、天野は小さく喘いで俺の背に爪を立てた。
「いいよ。出して」
 耳元で甘く囁かれ、俺は再び天野の奥で果てた。
 二度目だというのに、脈動はなかなか止まらなかった。見えてはいないかったが、尿道を駆け巡る熱い感触から、精液が勢いよく迸っているのが分かった。
「あ、ああぁ……。熱いの、出てる……。おかしく、なっちゃうよぉ」
 オナニーとは比べ物にならない気持ち良さだった。相手が居るからこそ、相手が天野だったからこそ、二連続でこんなに射精できたのかもしれなかった。
 天野もまた絶頂の余韻に酔いしれているのか、だらしない表情を浮かべたまま、時折びくんと身体を跳ねさせた。
 汗が流れ落ち、乳房が揺れる。
 俺は彼女の汗を舐め上げ、乳房を啜った。
 天野の指が、優しく俺の髪を掻き回す。見上げれば、天野は驚いてしまうくらいに優しい眼で俺の方を見ていた。
「キス、して?」
「う、うん」
 唇を重ねる。柔らかく震える唇の間から、熱く濡れそぼった舌が入って来て、ねっとりと絡み付いてくる。
「んっ。んっ。……はぁ」
 糸を引きながら、唇が離れた。
 身体を離すと、ペニスも抜けた。抜けた途端に、中に閉じ込められていた精液が溢れ出てきた。
「あんた、どんだけ溜めてたのよ、ほんとにもう」
 天野は流れ出た精液を掬い取り、指先でもてあそぶ。そしてじっくり眺めた後、何と指をしゃぶり始めた。
「あ、天野。そんな事までしなくていいって」
「うるさいわね。私の勝手でしょ? ほら、ちんぽ出しなさい。綺麗にしてあげる」
 強引に腰にまとわりつかれて、ペニスを掴まれる。
 おっぱいを舐めたりキスしたりしていたせいで、あそこはまだギンギンに堅かった。
 天野はちょっと驚いたようだったが、俺の亀頭を優しく撫でて、くすりと笑った。
「元気な子ね。まだやり足りないんだ。そりゃそうよね、初めて私の中で、女の身体の良さを知っちゃったんだから」
 天野は俺の亀頭にキスした。それから何の躊躇も無く、精液と愛液にまみれたペニスを口の中に頬張る。
 最初にしてもらっていたとはいえ、実際にこの目に見ると全然刺激が違った。可愛い天野が表情を崩してまで、自分の醜いモノに夢中になっている姿は、嗜虐心にも似た愉悦があった。
 けど、俺はやっぱり天野の遍歴が気になって仕方が無かった。こんな事、普通に恋愛してきた女の子がする事じゃ無いだろう。
「なぁ、天野。フェラされながら言ったって何の説得力も無いって分かってるけどさ、やっぱりこんな事、誰にだってしてるようじゃ駄目だよ。もっと自分を大事にした方がいいよ」
「んちゅぅっ。ふぇ。何よ」
「だから、相手は選べって、そういう事だよ。確かにセックスは気持ちいいかもしれないけど、誰とでもやってたら天野の為にも良くないよ。病気になるかもしれないし、精神面でだって、良く無い」
 天野の顔が、みるみる不機嫌になっていく。普段と同じ、いや、それ以上に……。
 それだけで人を殺せそうな目で睨み上げられ、俺は背筋がぞっとしてしまう。
「何。私が、誰とでもこんな事する股の緩い女だって、そう言いたいの?」
「いや、あの、そういう、わけじゃ、無いんだけど」
「そう言う意味にしか聞こえなかったけど! ふざけないでよ! こんな事、なんとも思ってない相手になんてするわけ無いでしょ!
 あんただってどうなのよ! 何とも思ってなくても女の子に休みの日に出て来いって言われればどこにでも来るわけ? 予定があった日を一日潰されても笑っていられるの? 誘われればほいほいホテルに入って、誰とでもセックスできるの?
 そうよね! 男なんてみんなそう。えっち出来れば、それで良かったんでしょ!」
「別に誰とでもなんてわけ無いだろ。天野だったから、俺だって……。いや、そうじゃなくて。天野が言ってたんじゃないか、その、罰ゲーム、だって」
 天野の、吊り上った目尻に涙が滲み始めていた。涙は徐々に溢れていき、やがてはぽろぽろと零れ落ち始める。
 言い返そうとしていた俺の言葉尻は、どうしても萎んてしまう。
「罰ゲームよ。そうよ、罰ゲームじゃない、こんなの。こんな気持ちになるなんて……。何よ、ちんちんこんなにおっ勃たせたままの癖に、説教するなんて。やっぱあんたキモいのよ。最低よ。これ以上ないクズ男よ!」
「俺は別に……。いや、確かにこんな格好でいう事じゃないな。ごめん」
「何で謝るのよ、ばっかじゃないの。……分かったわ、謝ろうって言う気があるなら、私をいい気分にさせて見なさいよ」
「え?」
 天野は涙でぐしゃぐしゃになった怒り顔のまま、俺に背を向けて四つん這いになる。誘うように、その可愛らしいお尻を左右に振って見せた。
「気持ち良くしてこの最悪な気持ちを忘れさせてって言ってるの。そうしたら許してあげる。勃起したままなんだし、あんただってやり足りないんでしょ。ちょうどいいじゃない」
 なぜ自分が悪いのか分からなかったし、なぜ気持ち良くすることが謝罪になるかも理解出来なかった。けど、俺はもういっぱいいっぱいで、勢いにも飲まれてしまって、言う通りにするしか出来なかった。
「わ、分かったよ」
 俺は天野の腰に手を回した。ウエストは本当にほっそりとしていて、けれどもお尻には程よくお肉が乗っていて、女性らしい曲線が描かれている。
 お尻まで撫でるように愛撫し、優しく揉みしだく。
「あ、うあぁ……。だ、駄目ね、そんなんじゃ、ぜ、全然駄目よ」
 俺は天野のお尻を見つめたまま、動けなくなってしまう。経験が無い俺には、どうしたら女の子を気持ち良くさせられるのか、よく分からなかった。
 目の前では、アナルが物欲しそうにひくひくと動いている。
 ええいままよ! 俺はお尻の割れ目に顔を突っ込み、天野のお尻の穴に舌を押し付けた。
「ひゃぁんっ。ちょ、あんた、どこ舐め、あ、ああああっ」
 相当な臭いを覚悟していたが、彼女のお尻は全く臭く無かった。むしろ不思議な事に、ほのかに甘い良い匂いに感じた。
 これだったら深呼吸でさえ出来そうだ。……俺は変態になったのかもしれない。
 けど、既にブサメンキモオタの俺だ。これ以上属性が一つや二つ増えたとしたって、それが何だというのだ。
 こうなったら徹底的に舐めてやる。皺の一本一本まで丁寧に舐め上げて、穴の中まで味わってやる。
「やめ、なさいって、あ、ダメェ……」
 天野はシーツを握りしめて堪えているようだ。アナルがぎゅっと引き締まり、舌が締め付けられる。
 それでも構わず、俺は限界まで舌を押し込み、中で蠢かせた。
 この味は何なのだろう。どうして俺は、女の子の尻の穴に舌を突っ込んで、気持ちがいいと感じているのだろう。舌に広がる味でさえ、清らかで爽やかだと感じているのだろう。
 もう頭がおかしくなっているのかもしれない。けどそれでもいい。とにかく天野の機嫌がよくなってくれるなら、それでいい。だから、ありったけをと、俺はひたすら舌を動かした。
 やがてびくんと天野の身体が跳ねて、力が抜けていった。ちょうど俺の顎も限界だったので、口での愛撫はこの辺で止めておいた。
「ま、まだ、許さない、んだからね。誰とでも寝る、セックス中毒の、公衆便所女って言われて、私傷ついたんだから」
「そこまで言ってないだろ」
「言ったも同然よ」
「悪かったよ。忘れさせればいいんだよな」
 今度は、アナルに指を突っ込んだ。
 同時にヴァギナにももう片方の手の指を忍び込ませて、両手を使ってぐちゅぐちゅと二つの穴を掻き回してやる。
「ちょ、こんなの、ずるい、あ、あああ、あああーっ」
 天野は身体を痙攣させ、背を仰け反らせ、めちゃくちゃに感じていた。
 肌は汗ばみ、朱に染まり。演技をしているようには見えなかった。だが……。
「まだ、まだよ。こんなんじゃ、足りないんだから」
「じゃあ、こうしてやる」
 俺は二穴への愛撫を止め、彼女の尻をぎゅっと握りしめ、左右に広げる。
 そして緩んで濡れそぼった尻の穴に、自分のペニスの先端を押し当てた。
「ちょっと、そっちは違う穴……。ダメ、ダメダメダメぇー」
 膣よりは抵抗は大きかったが、少しずつ捻じ込んでゆくと、天野の尻の穴はゆっくりと、しかし確実に俺のペニスを受け入れてくれた。
「ゆっくり動かすよ。痛かったら、そう言ってくれよ」
「ば、ばか。やめ、あ、これ、すごい。クセに、なっちゃう……」
 俺は天野に覆い被さる。
 そして、乳房を揉んだり、乳首をつまんだり、まんこやクリトリスをいじくりながら、ゆっくりゆっくりお尻の中を抽挿し続けた……。


 女の子がベッドの上で洋服を身に付けて身支度をしてゆく様というのは、なかなか魅力的な光景だった。
 下着を身に付け、ニーソを穿き、スカートやブラウスを着て、髪をかきあげて、最後に鏡を見ながら洋服と髪を整える。
 やっぱり、天野は可愛い。
 それに彼女の言葉を信じるとすれば、俺が思っていたようなビッチでも無かったし、経験人数も多くないようだった。……まぁ、付き合ったことが無い、という事も無いだろうけど。
 けど、それなのになぜこんなにクソエロくて、テクニックも凄いかったんだろう。最初の相手が凄かったのかな。それはそれで、そいつに嫉妬してしまう。
「何よ、人の事じろじろ見てないで、あんたもとっとと準備しなさいよね」
「あ、そうか時間か。ごめん。すぐ準備する」
「まぁ、焦んなくてもいいけどね。ここは魔物娘がエッチの為に利用する分には、ただみたいなもんだし」
「タダなのか? でも、どうして」
「私達魔物娘がエッチするときには、魔力が溢れ出るの。ここはそれをエネルギー源として活用しているから、お金の方は特にいらないって言う仕組みなのよ」
「魔力……。やっぱり天野って、魔物娘なんだな」
「何よ今更。嫌いなの?」
「そんな事無いよ。けど、なんか普通の女の子みたいにしか見えないし。悪い意味じゃないんだけど」
「羽はいつも邪魔になるから消してるしね。……気持ち良く、無かった?」
「気持ち良かった。とにかく凄く気持ち良かったんだけど、初めてだからさ、比べられなくて」
「童貞丸出しね。キモ」
「もう童貞じゃないよ」
「そうね。私も処女じゃないし」
 天野は経験豊富そうだしな。と言いかけて、やめた。そんな事を言ったらまた怒らせてしまいそうだ。
 まぁ、考えてみればそんな事を言われたら怒るのも当たり前か。
 代わりに、俺はさっきからずっと言おうとしていた事を口にした。
「さっきはごめんな、手荒に扱って。怖い思いさせちゃったかな」
「別に私から誘った事だし、怖いとも思わなかったわ。だって相手はオタクのあんただしね。ちょっとびっくりはしたけど」
 俺はちょっとほっとした。冷静になって思い返せば、俺に無理矢理されてトラウマになんてなってしまったら、いくら謝っても償いきれない傷をつけてしまうところだった。
「なら良かった。……でも、もし子供が出来たら、俺ちゃんと責任取るから」
「キッモ。やめてよねそう言う事言うの」
「やっぱキモいかな……」
「……い、言うだけなら簡単って事よ。ふん、そうなった時にあんたがどんな情けない顔になるか、見ものだわ」
 確かに、真っ青になるだろうなぁ。
 まぁ、もし本当に天野に子供が出来たとしても、天野はきっと俺のところになんて来ないだろう。他の男との子供という可能性があるなら、きっと俺よりそっちの男を選ぶだろうから。
 それでももし俺のところに来てくれたとしたら、その時俺は嬉しいだろうか。例え俺自身の子か分からないとしても、天野が俺を頼りにしてくれるなら……。駄目だ。これは明らかに騙される男の思考パターンだ。
「着替え、終わったよ」
「じゃあ出るわよ。忘れ物は無いわね? 大事なゲームは持った?」
「持ったよ。……ここを出たら、罰ゲームも終わりだな」
 その時の天野の表情は、何とも言えない複雑なものだった。


 駅まで一緒に帰り、そこで天野とは分かれた。
 そのあとはまっすぐに家に帰り、待ちに待っていたエロゲの続編をプレイした。
 流石にクリアまでには至らなかったが、それでも半分ほどのストーリーは消化できた。
 ……けれど、なぜだろう。
 ずっと楽しみにしていたのに、集中してプレイしたはずなのに、次の日にはシナリオの中身をほとんど覚えていなかった。
 確かにヒロインは可愛いと思うのに、エロシーンに入っても何かをする気にはなれなかった。
 頭に浮かぶのは、天野の事だけだった。
 日曜日も一日そんな感じだった。
 結局俺は三次元の女であるはずの天野の事が忘れられず、土曜に一回、日曜には三回も天野をオカズに抜いてしまった。
 二次元キャラより三次元の女にうつつを抜かしてしまうなんて、俺はもう駄目かもしれなかった。
15/06/21 23:11更新 / 玉虫色
戻る 次へ

■作者メッセージ
まず最初に、フーリーのSSという事でほんわかした内容を期待した方、すみません。
あとは主人公の後ろ向きさ加減やら、その他もろもろ、不快に思われた方は申し訳ありません。

まぁ、下手の横好きの投稿SSという事なので大目に見てください。
一応、ヒロインがこんな感じなのにも理由はあるんですが、それは後編で触れます。


今回に関しては、女の子の『理屈が通じなくて男には理解不能な部分があって、なんか色々面倒臭い。けどやたらと魅力的』な感じを表現出来たらと思って、色々書いてみました。上手く書けてるかは不明です。
主人公についても、魔物娘の事を良く知らない一般的な倫理観の男の子からしてみたら、こんな風に思うかな、という感じです。
決して女性目線のSSに挑戦したものの、思ったより難しくて、スランプに陥って、息抜きに書いたわけでは……あるんですが……。

というわけで、図鑑世界が現実化すれば三次元の価値もきっと見直されると思うのです。なので図鑑世界の現実化を、一日でも早く……!


こんなところまでお読みいただき、ありがとうございました。
後半も近日中に挙げる予定です。そちらもお読みいただけると、嬉しいです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33