14ページ:河童・ネコマタ・白蛇
「何故こんなことに…」

我輩は今、白蛇殿と共に預かった子の子守をしている。
いくら実年齢は大きく離れているとはいえ、自分と同じくらいの背丈の子供の面倒を見ると言うのは何とも複雑な心境である…

何故こんなことになったのか…話は一時間ほど前のことだった…





「あっはっはっ!何とも情けない男ね。」
「笑わないで下さい!私は真剣に悩んでいるんですよ!」
「まぁまぁ…二人とも落ち着いて…」

我輩が盗み聞き…もとい、立ち聞きした内容を簡単にまとめると、琴葉殿の友人である河童殿の夫が深夜の相撲のし過ぎで腰を痛めたから助けて欲しいと言うことらしい。
そして、もう一人の方はネコマタ殿…家で働いているのとは別の固体であるな。
そっちの方は、夫がかまってくれなくて寂しいらしく、何か良い方法は無いかと相談をしに来たらしい。
男女の関係とは複雑なものであるな…我輩には理解できんである。

…はくしゅんっ!……あー…風邪でも引いたのであろうか…?

「とりあえず、薬を買いに行きましょうか。」
「そうですね…でも子供が…」
「その点は問題ないわ、さっきからそこで聞き耳立ててる子と友人に子守してもらうから。」

…やっぱりばれてたであるか…

「そこで立ってると寒いでしょう?中に入って。」
「……失礼するである。」

部屋の中に入ると、柔らかい暖かさが我輩を包み込んだ。
あぁ…ずっとここにいたい気分になってしまいそうである…

「盗み聞きなんて良い趣味じゃないと思うわよ?」
「我輩は何も盗んでないであるぞ?漏れ出た声を聞いていただけである。」
「こらっ、屁理屈を言う子は女の子にもてないわよ?」
「うわっ!?な、何をするであるか!?」

突然腕を引っ張られ、バランスを崩して琴葉殿の方に倒れこんでしまう。
その先には、琴葉殿の胸が…

「その人って、琴葉さんの旦那さんですか?」
「違うわよ?旦那になる予定の子よ。」
「えっ!?」
「琴葉さん…いくらなんでも、そんな幼い子を襲っちゃダメだと思いますよ?」
「あら、こう見えてこの子私と五歳くらいしか違わないわよ?」

二人の表情が固まる…悪い冗談でも聞いたかのような表情だ。
冗談だと言ってやりたいところであるが…我輩も結構驚いたであるからな…

あ…ちなみに、琴音は我輩より一歳年下らしいである。

「そんな事よりも、早めに行っちゃいましょう?私は面倒ごとが苦手なのよ。」
「ごめんね…迷惑をかけちゃって…」
「いいのいいの、友達なんだからこれくらい当然よ。」

…胸の中にいるのに蚊帳の外である…





以上、回想終了。

「我輩は子守なんてした事がないである…」
「大丈夫ですよ、分からない事があった時は私が手取り足取り教えて差し上げますから…ふふふ…」

多少嫌な予感がするが…まぁ、何とかなるであろう…

「おにーちゃんにしつもんがありますっ!」

河童娘が、勢い良く手を上げて大きな声でそう言った。
うむうむ、元気が良いというのはいい事であるな。

「どうしたであるか?」
「赤ちゃんはどこから来るんですかっ!?」

…………こういう元気さはいらないである…

「今から説明しますね、と言うわけで輝さんちょっとこちらへ…」
「何がと言うわけでであるか、実演は絶対にしないであるぞ。」
「えー、教えてよぉ。」
「おにーちゃんのけちんぼ!」

何で我輩が非難されるのであるか…
幼子の考えというのはどうにも解せぬ…

「学ぶ事も大切だが、子供は元気良く遊ぶのが一番である。」
「お兄ちゃんもいっぱい遊んだの?」
「む…ま、まぁ…そうであるな…」

こっそり家を脱げ出して、鬼と宴会をしていたなんて口が裂けても言えんであるな…教育上よろしくない気がするである…

「それよりも、何をして遊ぶであるか?」
「川でたくさん泳ぎたい!」
「暖かい部屋でゴロゴロしたい!」
「…川へ行くであるか。」
「寒いのは苦手なのですが…」
「むぅ…どうしたものか…」

ネコマタ娘と白蛇殿は寒いのが苦手らしい…
だからと言って我輩一人で河童娘をどうにか出来るかと言われると自信が無い…

「あ、道中に水を撒いてくださればいけるかも知れません。」
「む?どういう事であるか?」
「私の力で水を熱湯に…」
「いやいや…いくら水の魔力とやらを持っていると言っても、流石にそれは無理であろう…」
「出来ますよ?長年にわたる修行の末身に着けました。」

…改めて考えると、人間では魔物に勝てそうも無いであるな…
能力的にも変態性的にも…



「わーい!川だ川だー!」
「先ずは準備体操をしてから…遅かったか…」

川へ到着するなり、準備体操もせずに川へと飛び込む河童娘。
水の冷たさにも慣らした方がいいのであるが…妖怪や魔物は体が丈夫だから大丈夫…だと思いたい。

「うぅー…寒いよぉ…」
「あらあら…こっちへいらっしゃい、私が暖めてあげますよ。」

そう言ってネコマタ娘を抱き寄せ、蛇体を使って自分ごと包み込んだ。
暖かそうであるなぁ…身の安全を考えると、安易に飛び込めないであるが…

「おにーちゃんも一緒に泳ごうよ。」
「むぅ…我輩は…」
「…おにーちゃんが嫌なら仕方がないけど…」
「おぉっ!?何故だか急に泳ぎたくなってきたである!」

足先を川に入れてみるが…予想以上の冷たさである…
河童娘がまだかまだかとこちらを見ているし…えぇい!男らしく豪快にいくである!

…流石に後悔している、冷たさで体が上手く動かせなく、泳ぐことが出来ん…
そこへ河童娘が来て、我輩の体を支えてくれた。

「大丈夫?」
「…冷たさに慣れるまで待ってもらえるか?」
「うん、わかった。」

彼女に支えてもらってる為、沈む心配は無いが…
支えるだけにしては、やけに密着しているような…?

「おにーちゃん…凄く良い匂い…」
「あー…もう慣れたから放して欲しいである…」
「やだ〜♪」

そう言ってさらに密着してくる河童娘。
可愛さは抜群だが…我輩は何か嫌な予感がするである…

「おにーちゃん……」
「か、顔が近いであるぞ…」

河童娘の様子がおかしい…頬が紅く染まり、目が潤んでいる…
身の危険を感じて河童娘から離れようとするが、子供とは思えない力で抱きしめられてしまって身動きが取れない。
そうこうしているうちに彼女の顔は目の前まで迫っており、あと少しで唇が触れそうである…

…が。

「っ!?痛たたた!つった!足がつった!!」

突然河童娘の表情が苦痛で歪み、我輩から離れて川に流され始めた。
なるほど、これが河童の川流れであるか…って、そんな悠長なことを言っていられる場合ではないであるな。
河童娘の元へと泳いで行き、何とか保護できたが、その時恐ろしいことに気がついた。

目の前に結構大きい滝があるである…

「くっ!!」
「きゃあぁ!?」

気がついた時には既に流れが速くなっており、戻ることは不可能になってしまっていた。
我輩は咄嗟に、左右にあった岩に足を引っ掛けて踏み止まったが、河童娘はその様な事を出来る状態ではなく、そのまま流されて行きそうになる。
それに気づき、河童娘の手を強く握って流されるのを防いだが、冷え切った体では思うように力を入れれずあまり長くは持ちそうにない…

「ぐぅ…白蛇殿!後は任せた!」
「輝さん!?いったい何を…」

白蛇殿が言い終わる前に、渾身の力を籠めて河童娘を放り投げる。
そんなに飛距離は出なかったが、比較的流れの緩やかな所まで投げることが出来たようだ…

安心した瞬間、我輩を支えていた足が滑り、滝から放り出された。
強く目を閉じ、全身に酷い痛みを感じた瞬間、我輩の意識が闇の中へと吸い込まれていった…





「………ん…?」

目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。
…あ、琴葉殿の家の天井だったである。

「あっ!おにーちゃん目が覚めた!」
「お兄ちゃん…起きてくれてよかったです…」

目が覚めた途端、河童娘とネコマタ娘が我輩に抱きついてきた。
河童娘は無事だったようであるな…良かったである。

「二人ともずっと心配していたんですよ?もちろん私も。」

不意に後ろから声が聞こえてくる。
そう言えば体が自由に動かせないであるな…もしかして…いや、もしかしなくてもこれは…

「白蛇殿…何故我輩に巻き付いているのであるか…」
「こうした方が早く温まると思いまして…私の体温かいでしょう?」
「白蛇殿の中暖かい也…じゃなくて!もう大丈夫であるから放し…ぐっ!」

もがこうとした瞬間、体に痛みが走る。
滝から落ちた時に体を打ったのだろうか…酷い痛みがしたのは覚えているが…

「あまり無理をしてはいけませんよ、襲ったりはしませんのでゆっくりと休んでください。」
「おにーちゃん、私達がんばってお粥作ったんだよ。」
「お兄ちゃんに食べさせてあげるね、あーんして?」
「むぅ…まいったであるな…」

結局、琴葉殿達が帰ってくるまでの間、お粥を食べさせられたり甘えられたりしてしまったである。
男としては嬉しいのであろうが…凄く恥ずかしい思いをしたである…

……本当に偶になら悪くは無い…である…



〜今日の観察記録〜

種族:河童
水掻きの付いた手足と背中の甲羅、そして頭にある皿の様な物が特徴的なジパング固有のサハギン属の妖怪である。
子供の河童は人間の子供に混じって遊ぶことがあるが、この時にも将来の夫を探していると言うらしい。
また、彼女達は体が湿っていると身体能力や性欲が上昇するらしく、乾燥すると力が出せなくなってしまうようである。

種族:ネコマタ
彼女達の手足の肉球はとても触り心地が良く、一度触れてしまえばその感触の虜になってしまうであろう。
しかし、極上の感触を堪能するためには彼女達に認めてもらい、懐いて貰う事が重要である。
まぁ、普段から動物に優しくしている人間なら彼女達も懐いてくれるであろうが…

種族:白蛇
他のラミア属の魔物同様彼女達もとても嫉妬深く、一度目をつけられたら逃げ延びることは不可能に近い。
浮気でもしようものなら彼女に魔力の塊を体内に流し込まれ、白蛇無しでは生きていけない体にされてしまうであろう。
その時の彼女達の魔力は、水の性質を持っているにもかかわらず、強い嫉妬により炎の様な見た目と激しさを持っているという…
11/12/15 19:38 up
急展開とgdgdに定評のある(ry

次回は従軍記を更新…出来るといいな…
白い黒猫
DL