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前篇

「そいでサ、その時積荷落っことしちゃってサー」
 俺は甲板にデッキブラシを当てながら、そんな風に自分話に花を咲かせる運び屋ハーピーに付き合っていた。
 飛空艇は空に浮かぶ船。空の魔物、特に人間と共存している運び屋ハーピーの彼女の様な娘達が、羽を休めたり、好奇心で寄ってきたり、はたまた発情期では恋人探し(という名の襲撃)に降り立ってくる事も多い。
 この前なんかドラゴンが巨大化したまま甲板に居座って、船が傾いてしまった事があった。羽を休めるだけなら是非とも変身を解いて御搭乗願いたいものである。

「あ、でさ、でさ。この前言ってた彼、もうすっごくかっこよくてさ! 友達に訊いたら今フリーで、しかも魔物でもオッケーなんだってさっ。もうこれはアタックするしかないよねっ」

 しかし、同業者の身分でありながら当然の様に茶を飲んで居座っている彼女に、誰も何も言わないのだろうか。これだから、この船の人間達は皆お人好しなんだ。
 まぁ、お茶どころか茶菓子まで出そうとして「そこまで気を使わなくてもいいよ〜」と遠慮されたのは俺なんだけども。


「おーい、ブラント」
 そんな折、船室から顔を覗かした船長に呼ばれた。
 その声を聞いて長居が過ぎたと感じたのか、運び屋ハーピーが翼を広げる。
「ん、そんじゃ僕は此処等辺で失礼するね。お茶、美味しかったよんっ」
 そう言い残して、甲板の柵から飛び降りる。
 あっという間に雲の割れ目に姿を消す翼。
 ああいう光景を見ると、ついつい自分にもあんな翼があればいいなと羨ましく思えてしまうものだ。
 俺はもう既に姿を消してしまった彼女に軽く手を振って見送った後、改めて呼び出しに応じる。
「へーい、兄貴」
 返事をすると、またその雲の割れ目に響く怒鳴り声で返される。
「船長と呼べッ」
 思わずノリで船長と呼ぶのを忘れていた。
 船長は、船長と呼ばないと怒るのだ。

 このダダン・ダンダ団を率いる実質のリーダーである、ダダン=D=ダンダ船長。余程海賊……もとい、空賊を気取りたがっているのだろう。髑髏の描かれた二角帽をかぶり、眼帯をした筋肉質な風貌を好んでとる変わり者である。
 しかし、船長の肩書は伊達ではない。空を知りつくし、このダダン・ダンダ団を見事に纏めているその手腕は、将に空の漢と称されるに値するだろう。
 只、人に話して意外に思われるのは、いつも彼の齢についてだった。
 船長のイメージにはそぐわぬ年若さ。髭も生えぬ華の20代であるという事実は顧客のマダム達を喜ばせた。ただ、この賊を気取る悪い病気さえなければ、女性なんて選び放題なのが惜しいものだった。

 ドゲシッ。
   うぷっ!?」
 腹に痛烈な一撃。
「今、失礼な事を考えていただろう」
 船長の突っ込みはいつも苛烈だ。冤罪だったら納得出来ない所だ。
「何考えてた? ん? 素直に言わなかったら、着の身着のまま空の旅を楽しませてやるぞ」
 上半身を落下防止の柵に押し付けられて脅される。
 目の前には雲の霞みと、その遥か先に懐かしの大地。
 着の身着のまま空の旅などして地面に叩きつけられてしまえば、確実にぽっくり天国まで昇り果ててしまう。
「何も考えてないですッ。ホントですぅッ!?」
「なんだ。ならいいんだ」
 そして自棄にあっさりと尋問を終える。腹を蹴った事に何も悪びれる事などしない。何時もの、船長が俺をイジる時のお決まりのパターンだった。
 普通は不満の一つでも漏らせばいいのだろうが、この船長にはそんな事お構いなしだ。

「ちょ……なんで俺ばっか?」
 以前そんな不満を漏らすと、屈託のない笑顔と共に帰って来た返答。
「だって、お前見てるとついイジりたくなるもん」

 要するに反応するだけ楽しませてしまう訳だ。
 俺はデッキブラシを片手に腹を抑えるだけだったが、ハッとして去りゆく船長に声を掛ける。
「……そんな事より船長。何か用だったんじゃないですか?」
「えっ?」
 すると、あの野郎は今思い出したとばかりに俺に振り返る。
「ああ、すまん。すっかり忘れてた」
「……で、なんでしょうか」
「ああ   そろそろ乱気流に突っ込むから、中に入れ」


 見ると、船の前方にぐるぐると渦巻く黒い雲の塊が見えていたのだった。


―――――


    ガタンッ。

「うおっ」
 刹那、激しい気流が船体を大きく揺さぶる。広い操舵室で暗雲の中に出口を探している所だった。
「今のはヤバかったな」
 付き合いの長い同僚が声を掛けてくる。
 ヤバい、といっても皆慣れたものだった。乱気流に突っ込む事なんてこの長い空旅の中よくある事だったし、優秀な操舵士も居るので滅多な脅威ではないだろう。
 そういえば、俺達は慣れているからいいものの、今日の積荷の中に珍しく客人を乗せているのだった。
 彼等は大丈夫だろうか。
「……乗客の人、大丈夫かな」
「さぁ、どうだろうな。見てくればいいんじゃないか?」
 それもそうだ、と思いながらその場を離れようとした瞬間、肩を掴んで引き留められる。
「ああ、待て。大丈夫みたいだぜ、ほら」
 同僚が俺の後ろを指し示す。其処にはパイプを咥えた東洋人が、平然と給湯器でコーヒーを注いでいた。
「おいおい、こんな状態で客室から出たら危ないぞ。出来れば何処かに掴まっているとかしていてくれ」
 そう声を掛けると、その東洋人は苦笑いする。
「ああ、はい、お気遣いありがとうございます。ですが、俺もまぁ慣れてるので大丈夫ですから」
「……確か、アルバニアの方まで乗るんだったか?」
「はい。道中お世話になります」
 初めて見た時何処となく不気味な雰囲気がしていて、船長も何処でこんな奴と知り合ったのか疑問ではあったが、話してみれば中々礼儀もしっかりしているようだ。
「まぁ、折角だから茶請けの菓子出してやんよ」
「ああ……ありがとうございます」
 東洋人は俺から菓子を受け取ると、ペコリと頭を下げて客室に戻って行った。
「……旅慣れてる所を見ると、旅人かなんかかな?」
「彼女さん見たか? そりゃないと思うがな。精々、どっかのお嬢様のボディガードとかじゃないか?」
 俺もチラリと見たくらいだったが、確かにあの東洋人が連れていた少女の顔形は何処かのお嬢様と言われても納得出来る程可憐だった。
 只、心なしか顔色が芳しくなかった気がするが……。

「何、無駄口叩いてんだお前等ー」
 船長がじろりと此方を睨み付ける。
「そろそろタービュランスから出るぞ」
 船長の目先。操舵室から見える大窓の向こうに映し出される暗雲。
 だが、その隙間から光が差し込む。ようやくこの嵐から抜け出せる事に安堵した。慣れたとは言っても、幾多のピンチの殆んどがこの乱気流の中で起るのだ。
 雲を突き抜けた先。船体に暗雲が絡み付く。
 しかし飛空艇はそれを引き千切り、太陽の下に姿を曝す。船体の腹が白い雲の海に擦れ、バウンドしながら切り進む。
 やがて船体が安定した所で、船全体が胸を撫で下ろしたのが判った。
「……よし、各員船内に異状がないか確認してこい」
「念の為だ」と最後に付け足す。航行パターンに異状はないが、船長は意外な所で慎重だったりする。無論、異状があればそれは俺達全員、引いては客人の身に危険が及ぶ要因となりえるのだから、慎重でいて過ぎる事はないとは思う。
 が、やっぱりちょっと面倒臭い。
 俺は他の船員達と一緒に頷いたが、その足の向かう先は甲板だった。


―――――


「んーっ」
 甲板に出た俺は燦々と降り注ぐ太陽と荒っぽい風に出迎えられながら伸びをした。
 此処は俺が一人で管理を任されている場所であり、この船の中でも一番お気に入りの場所だった。
「……ぷはっ」
 大きく息を吐く。体中の鬱屈した何かが解き放たれた気分がする。
 俺は船の最後尾まで歩いていき、落下防止の柵を乗り越えて、縁に座り込んだ。勿論、足元には何もない。此処から滑り落ちれば、まっさかさまだ。
 それでも……この船の中でも一番のオススメスポットといえば此処以外に思い至らない。飛空艇が通った後に出来る、雲の道。それが、見渡す限り白と青が永遠に続くかのような、この空の海に伸びている。
 俺の知らない遥か遠くで、雲と青空は確かに溶け合っていた。


 俺は今一度伸びをして、倒れ込む。靴を失くさないように足を宙に投げだす。日差しが眩しくて、手で目を覆う。
 ひと眠りしようか。そんな風に考えていた時、耳に誰かの声が届いた。

   あははー」

 なんだか呑気な笑い声だ。少女の声だろう。
 俺は不思議に思った。この船にこんな幼い声の女の子がいただろうか。もしかすると、乗客の誰かの声なのではないか。
 俺は昼寝の予定をキャンセルして、辺りを見回す。
   あははー」
 声が聞こえた方向をがっちりと捕捉する。手すりに沿って縁を歩いて、人の気配を探す。
「おーい、誰か居るのか?」
「わはー」
 ……今のは返事のつもりだろうか。
 兎も角、俺は辺りを見回す。誰もいない。けれど、確かに声はこの辺から聞こえた。
「おーい、何処に居るんだ? 危ないから船内に入ってくれ」
「あはは♪ あーぶなーいよー♪」
 無邪気に笑い続ける子供の声が何処からか響く。
 ん? ていうか、この声、下から聞こえてきてないか……?
 ふとそう思い到り、幾らなんでもそんな筈はないだろうと苦笑しながら下を見降ろす。
    目を疑った。
「え……ちょっ!? おまっ、何やってんだそんなトコで!!」
「あははー♪ なにやってんのー♪」
 また言い返す少女は、なんと飛空艇の側面に引っ掛かっているではないか!
 白い綿の様な変わった服を着る少女。魔物の一種かと思ったが、それでも彼女には翼がない。それなのに、一体何時の間に、どうやって……。
 いや、そんな事より早く助けないと。少女は見るからに軽そうな体を風に揺さぶられ続けていた。
「待ってろ、今助けに行くからな」
「たすけるー♪」
 ……と言っても、航行中に甲板から側壁を下りるなんて事、した経験がない。一応側壁の一部には梯子の様なものは備え付けられていたが、運悪く少女からは遠い。なんとか側壁の溝に足を引っ掛けて近付くしかなかった。
 後ろを向いて、必死に縁にしがみ付きながら、溝に足を引っ掛ける。
 思ったより溝が浅く、引っ掛かり具合が悪い。若しかしたら、この手を離せば滑り落ちるかもしれない。そう思った瞬間、意識が遠のく。でも、全身を宙に投げ出した状態で引っ掛かる少女より恐怖はマシな筈だ。早く助け出して安心させてあげなければ。俺はそう心に決めて、意識を必死に手繰り寄せる。
 一歩、また一歩と溝に沿って下って行く。指の先に力を込め、靴の先に神経を集める。船が動いていない時ならば大した距離じゃない筈なのに、空高く進む今は少女の居る場所が酷く遠く感じられる。
「ん……にゃろ……っ」

 ゴォォ   

 そして、とうとう少女に手が届くか届かないかの距離まで近付いた。
 俺の体を風が叩く。もし此処で俺が片手を外したら、バランスを崩してしまうかもしれない。
「あははー♪ たすけるー?」
 少女は相変わらず楽しそうに笑っていたが、引っ掛かった綿の部分はもう限界だろう。
 兎も角安心させようと……いや、自分で自分を落ち着かせる為に、こう声を掛ける。
「よ、よぅお譲ちゃん。みょ、妙に楽しそうだな……怖くないのか?」
「こわくないよー? なんでー?」
 ……まぁ、自分の置かれた状況がよく判らないのだろう。
 俺はゆっくりと片手を離す。支えがかなり心許無くなったが、なんとか少女に手を差し伸べるくらいは出来そうだ。
「さ、俺の手を掴め。船の中に入ろう」
 俺の伸ばした手を不思議そうに眺める少女。
 クリクリした目をキョトンとさせていた。
「……どうした? ほら、お母さんやお父さんが中で待ってるぞ」
「んー……おかーさん? おとーさん?」
 よく判らない、といった顔をしている。その間にも、風は容赦なく俺の体を叩く。せめて、俺が遮蔽物になって彼女に当たる風が弱まるのを願うばかりだ。
「ほら、早く掴まれっ。飛ばされて行っちまうぞ」
「とばされる? ……とばされてふ〜わふわ〜♪ あははー♪」
 拙い、そろそろ俺の支えも限界だ。
「つべこべ言わず早く掴め! ……飛ばされて、もう誰とも会えなくなるのはヤだろ? さ、中に入ろう」

    すると少女は俺の手ではなく、俺の目をじっと見詰め始めた。

「あ? どした?」
「……とばされると、誰とも会えないの?」
「そうだ。お父さんやお母さんにも会えなくなるぞ」
   おにーさんにも……?」
 不思議な事を聞くもんだ。こういうのが子供らしさって事なのかもしれない。
「ああ、俺とも会えなくなるな。……それがどうなのかは知らないが……取り敢えず、中に入ろう! 皆心配してるだろうからさ」
 少女はにっこりと笑った。
「はいる〜いれる〜いれて出す〜♪ わはー♪」
 ……何となく卑猥な連想を思い浮かべてしまった。悲しいかな、これが二十歳彼女なしの童貞の性なのだ。
 しかし、少女は俺に手を差し伸べた。
 俺はそれを掴もうと、手を差し伸べ返す。

    ゴォッ。

 突風が俺の体を強く叩き、バランスを崩し掛ける。お陰で少女の手を掴み損ねた。
 もう一度、今度はしっかりと手を伸ばす。
 何があっても離さない。決意を込めて、少女を力強く掴んで、引き寄せた。
 ぽふん、と間抜けな音を立てて俺の胸に飛び込む少女は驚く程軽かったが、さっきまでの窮地を何でもなかったかのようにニコニコと笑っている。

 俺は一先ず安心しながら、より一層気を引き締める。何せ、俺は少女の命も背負っているのだ。此処で俺が間抜けに落ちる訳にはいかない。
「しっかり掴んでいてくれよな」
 俺は少女の腕を首に巻き付ける。彼女が俺にしがみ付いてくれていないと、俺は両手を使えないからだ。
 しかし   不意に近付いた少女の髪の匂い。
 何故だろう。一瞬力が抜けてしまいそうになった。
 なんだ、この香り。窮地に立たされている状況の筈なのに、決意が一気に揺らぐ。気持ちが落ち着いて、凄く気が安らいでしまう。
 そして、自分の頭の中が安らぎ過ぎてしまっている事に気付いた時には、もうどうする術も残されていなかった。
「……なん、だ……? 何が……」
 もう何もかもがどうでもよくなってきてしまう。どうでもよくなってきて、気分が高揚し始める。
 何故か俺まで、こんな状況下で笑みが零れて来てしまう。
 なんだか、不思議な気分になってしまっていた。


   わはー、落ちてるー♪」

 少女の言葉で気付いた。

 ああ、俺、落ちてしまったのか。

 何時の間にか突風が吹いて、俺を払い落したんだな。

 もうあんなに船が遠い。さっきまで自分がいた場所が、遠い。

 終わった、か。

「あははー♪」

 そんな少女の笑い声に釣られて、俺も笑ってしまった。

 こんな絶望の中でも、何故かこの子の笑顔は笑えてしまうのだ。

 俺は、恐怖でおかしくなったのだろうか。

 どの道、俺は   





――――――――――





「……よう」
 聞き慣れた、野太い声。
「おーい、起きろー」
 ぺしぺし。
 頬を軽くはたかれる。
 その感触が煩わしくて、顔を逸らす。
「お、生きてた」
 ふと、この声が天使でも悪魔でもなく、船長の声だと気付いた時、俺はこの男を心底煩わしく思いつつも薄目を開ける。
 その先には、俺を弄る時のにやけ顔を浮かべる船長   は、居なかった。
 代わりに、心配そうな表情で俺の顔を覗き込む兄貴が其処に居た。
「……甲板から落ちるなんてお前らしくねぇな。何があった」
 静かで、落ち着いたトーンで喋る船長はなんだか斬新だった。
「……えと」
 何と言っていいか判らない。女の子を助けようとして、それで落ちて……
「あれ、女の子……」
「あ?」
「女の子、居ただろ!? 俺、抱き締めて……」

 え、ていうか俺、なんで生きてるんだ?
 女の子を助けようとして、俺は落ちた筈だ。落ちて、地面に叩きつけられて……いや、その前に気を失ったのか……。
 そういえば、此処は俺の部屋か……という事は、俺は助かった訳だ……。
    いや、そんな事より!

 俺が動揺しているのを目の当たりにした船長は溜息交じりに言う。
「成程。女の子を助けようとしてテメェも落ちたって訳か……」
「え、あ、ああ……」
   馬鹿野郎っ」
 ゴスッ。
 まさかのタイミングで船長の鉄拳が頬に炸裂する。
 頭を揺らす衝撃。何故殴られたのかも判らず、またもう一度ベッドに沈みこむ。
「丁度郵便屋ハーピーが通り掛ってテメェを見付けてなかったら、どうなっていたと思ってやがるッ」
「兄貴……」
   船長と呼べッ」
 もう一発頬を殴られた。
「いいか、よく聞け。確かに人助けは悪くねぇ。人に良くすれば、何れ自分に返ってくるからな。でもな、自分の身を危険に曝してまで人を助けろなんて、俺は言ってねぇんだよ」
 船長は俺の方を掴み、気迫の籠った表情で俺に語り掛ける。
「いいか、テメェの命はこの世で一つだけだ。そして俺の弟、ブラント=D=ダンダもこの世に一人しかいねぇ。俺の後を継げるのもテメェだけなんだ。其処んトコ、よく考えやがれ、このドアホがッ」
 最期に頭の天辺を軽く殴られた。
「いっ……殴り過ぎだろ、船長」
「うっせぇ。船長には部下を自由に殴って良い権利があるんだよ」
 横暴過ぎる。
「……所で、俺が助けた子は!?」
 慌てて話を戻すと、船長は軽く眩暈がしたかのように首を振る。
「人の話聞いてたのか此奴は……」
「関係ねぇだろ、俺は自分がやれた事を確かめたいんだ」
 船長は舌打ちする。
「口答えかよ……まぁ、いいケドよ」
 船長が歩いて行った先には、俺の部屋にはなかった筈のカーテンがあった。
 それが開かれると、其処にあったベッドに彼女は寝ていた。白くて真ん丸としたふわふわとしたものを腰元に纏う、年の頃8も行かない少女の体は、その未発達の胸を無防備に曝していた。
「テメェが助けようとしたのは此奴だろ」
   わはー……わはー……」
 船長は俺と彼女に視線を配らせ、堪らず胸の奥から溜息を吐いた。
「此奴はケサランパサランっつって、空でたま〜に浮いてる魔物だ。多分、あの雲の中に突っ込んだ時に引っ掛かったんだろうな。……でもなぁ、助けてやらなくても此奴等は適当に其処等辺を漂う性分なんだ。態々助けてやったりするのは逆に余計なお世話なんだよ、馬鹿が」
 船長はそう俺を諭す。
 なんだ、やっぱり魔物だったのか。そりゃあ、服とか着てないもんな。今更になってからそう合点がいく。
「わはー……わはー……」

 でも、俺には一つだけはっきりさせておきたい事があった。

「なぁ、船長……」
「なんだよ」
   あれは、寝息なのか?」
「……」
 俺達の目も構わず、ケサランパサランの少女は「わはー」という鳴き声(?)を発しながらすやすやと眠っていた。


―――――


「ん……」
 何時の間にやら眠ってしまっていたらしい。
 部屋の窓から覗く外には暗澹とした闇が広がり、眼下には幽かに輝く雲の流れが見える。それはまるで、この日に死んだ全ての生き物たちの魂が漂い、彷徨っているかのような霧のようにも見えた。
 夜に見る空は昼と違って幻想的な一面を見せる。眺めていると、このまま魂の海に吸い込まれてしまいそうになる。
「……」
 俺は空が好きだ。
 昼の空も、夜の空も、夕焼けの空も。時には優しく慰めてくれて、時には残酷に襲っても来る。此処はまるで生き物の様に色んな表情を見せてくれる場所だ。

 それにこんな、まともに人が居ない場所でも、へんてこな出会いがあるのだ。

「わはー」
   ん?」
 彼女の寝息が近くに聞こえ出す。確か彼女は向こうのベッドで寝ていた筈だが、居ない。
「……わっ」
 彼女は俺の体の上に乗っていた。
 綿毛の様な姿をしているだけあって、彼女はとても軽い。
「むにゃむにゃ……あははー……♪」
 夢の中でも何か楽しい事が起こっているのだろうか。ふにふにとした頬をだらしなく垂れ下げて笑う少女。一緒に垂れた涎が俺のシャツに染みを作っていた。
「お前……これ、俺の一張羅なんだぞ」
「うにゅ〜……わはー」
 言っても無駄らしい。口をもごもごさせた後、まただらしなく笑顔になる。
 一張羅を涎でずるずるにされても、俺は何故だかこの子の笑顔を見ると、満たされた気分になってしまっているのを感じた。
「……可愛いな、此奴」
 口に出しながら、緑の髪を指先で撫でる。小さな頭は俺の手の平にすっぽりと収まる程だ。頭をわしわしと撫でてやっても「わはー」と鳴くだけで起きようとはしない。
 よっぽど俺の上が落ち着くのだろうか。
 しかし、一つだけ気になる事。
「いい匂いだな」
 此方に向けられている彼女の髪から、この世のものとは思えない程良い香りが漂い、鼻を満たす。
 この感じ、彼女を抱き締めた時にも感じた。心が満たされて、落ち着いて、眠くなってしまうようで……。
「はぁ、はぁ   
 体が焙られるように熱くなる。
 自分の中の劣情が肥大化していくのが判る。
 どうして。俺が、こんな少女に欲情するなんて。俺は変態なんかじゃない。抗う気持ちとは裏腹に俺の男の部分は怒張していき、寝ている少女の股を擦る。
「ん……むにゃむにゃ」
 ぴくりと身動ぐケサランパサランの少女。
 彼女は全裸も同然だ。腰の部分に綿の様なものがあるからといっても、それは大した壁でもない。将に無防備とはこの事だ。
 こんな少女を手篭めにしてしまおうかと考える背徳感。俺は必死で抗うが、手が勝手にズボンのホックを外す。怒張が勢いよく飛び出し、彼女の股間をペチンと打った。
   んゅ」
 少女が眉を顰める。
 しかし、直ぐに笑顔に戻り、何時も通りの寝息を立て始める。
「……」
 危なかった。
 しかし、此処最近忙しくて自分で慰めたりなんてしてなかった所為で、今夜は特別溜まってる。
 抜きたい。どうしようもなく、抜きたい。
 けれどこんな、寝ている子供を欲望の捌け口にするのは良心が痛む。
 痛む、というのに……自制が止まろうとしない。
 皮を引っ張り、中身を露出する。怒張の矛先は丁度少女の小さなアソコに向いていた。このまま腰を突き上げれば、彼女の割れ目に入り込む事になる。
 少し腰を持ち上げる。ぴとっと、彼女の割れ目に陰茎の先端が当たる。
 このまま奥へ、ぶち抜いてしまいたい、衝動に駆られる。それをなんとか抑えつつも、俺は劣情を持て余す。
 そうとも知らない彼女の脇に手を入れ、起こさない様にゆっくりと俺の体の上から降ろす。これで俺はなんとか自由になれた訳だ。
「……」
 それで……どうすればいい?
 俺の劣情が収まる訳でもない。兎に角これを抑えなければならない。先程から俺の理性は吹き飛んで行きそうだ。
「すぴー……わはー……」
 相変わらず、幸せそうに寝息を立てているケサランパサラン。
 ……もしかして、ちょっとやそっとでは起きないのではないだろうか。
 さっき俺の体から降ろした時も全然起きる気配はなかった。
 其処で俺は完全に魔が差したのだろう。

    ちょっとくらいなら……。

 俺は頭がボーッとするのを感じながら、彼女にのしかかった。こんなに息が近いというのに、この少女は安心しきった顔で眠っている。
 俺は髪を撫でながら頬にキスをした。
 続いて下がり、彼女の小さな胸を間近で拝む。未熟な胸の可愛らしい突起を隠す綿を取り払い、手を滑らせる。突起の周りに指で円を描き、軽く摘んでみても、彼女は起きる気配をみせなかった。
 ならばと、舌を這わせる。甘い香りで頭がくらくらする。彼女のつるつるとした肌に浮かぶ突起はなんだか甘かった。
 勢いに乗る俺は続いて彼女の足を開く。女の子の中心には綺麗なすじが一本通っていた。
 この時点で俺は触りもしていないのにイってしまいそうだったが、興奮のままにそれに指を添わせる。皮を摘み広げて見ると、中は綺麗なピンク色だった。
 俺はそれにむしゃぶりつくと共に、怒張を思い切り扱く。
 彼女の中から溢れだす汁は甘く濃厚で、まるで蜂蜜を舐めているようだった。
「ん……あぅん……あ、あはは、ぁ……♪」
 少女も夢の中で楽しんでいるらしい。
 しかし随分と久し振りの刺激だっただろう俺の怒張はすぐに限界に達し、ビクビクと先走りを垂らしながら躍動し始めた。
「イく、ぞ……ッ!」
 何を思ったのか、俺は怒張の先を、さっきまで舌で弄んでいた少女の割れ目に向けた。そして指で開き、中のピンク色の部分に容赦なく欲望を吐き出した。

(ビュルッ、ビュルルルッ、トプッ)

 俺の白い欲望を一身にその膣内に浴びせ掛けられた少女。指を離して閉じても、割れ目からは泡立った白濁液が漏れ出す。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
 俺は荒い息を弾ませながら、自分がやった事を再認識する。
 俺は、寝ている少女の未熟な蜜壺を舐めながら自慰し、果てる瞬間に少女の中に向かって放ったのだ。
「……あ……」
 なんて事をしてしまったのだろうか、俺は。それに気付いた瞬間、俺は酷い後悔に苛まれる。
「わはー……むにゃむにゃ」
 静寂。少女の寝息だけが耳に届く僅かな間。
 けれど、俺の怒張は萎える所かますます勢いを増す。後悔も一瞬の事、俺はまた、彼女の中から溢れだす自分の子種の姿を見て欲情に心を囚われる。
「……流石に寝た振りじゃねぇのか。自分がされてるコト、判ってんだろ?」
 少女に小さく語り掛けても返事は来ない。
 判っている。俺はそう思い込もうとしているだけなんだ。自分のこの罪悪感を別の所へ転嫁しようとしているだけ。その事実から目を背け、俺はまた動き出す。
 少女の上に跨り、彼女の顔に怒張を宛がう。射精したばかりの所為でまだ精が垂れ出て、少女の頬や額を汚す。
 彼女の笑顔と寝顔を見下ろした瞬間、「わはー」と大口を開けて鳴く少女の口に突っ込んでやりたくなったが、それは抑える。
 赤く燃えたぎる様に熱くなっている怒張を少女の鼻や唇にぺたぺたと付ける行為に興奮しながら、俺は扱き始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ   
「むにゃむにゃ……わはー」
「はぁ、はぁ、はぁ……ぁ……うっ」

(ビュルルルッ、ビュルッ……ビュルル)

 背筋を駆けあがる快感。頭が真っ白になると共に、怒張の先から生温かい欲望の塊が吐きだされる。
 そして少女の、無垢な寝顔を白く穢す。少女の口に僅かに精液が入ってしまったが、彼女は無意識の内にそれを飲み込んでしまった。
「はぁ……はぁ……」
 また、辺りが静かになる。静かな寝息。行為の前と変わらぬ静寂。
 俺は理性が少しばかり戻ったのを感じながら、自分がもう戻れない所まで来てしまった事を自覚した。
「……それなら」
 俺は静かに彼女の腕を上げさせ、脇を露出させる。
「今夜は徹底的に……」
 俺は収まる所を知らない怒張を、少女の脇に宛がう。
「穢して、やる……!」


 その後、俺は例えようがない幸福感に取り付かれながら、彼女の脇を白く染め上げたのだった。

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【メモ-用語】
“飛空艇”

ファンタジーとかには欠かせない空飛ぶ船。普通飛空船とか飛行船とかと呼ぶべきなんだろうけど、敢えて一発変換しにくい飛空艇。
何故なら其処に空があるから。
(またwiki的には飛空艇とは特にファイナルファンタジーにおける空の乗り物を指すらしい……が、言葉の起源かどうかは定かではない)

飛空艇に乗っているとよくハーピーなどの空の魔物が羽を休めに来たり、発情期には襲撃を掛けて来たりする。だが決して彼女たちが空の脅威となる事はなく、多くの場合は必要な獲物を掻っ攫って行くそのまま船に居着く。
また、船員が甲板から誤って落ちたとしても多くは地面に叩き付けられる前に空の魔物達が発見、救出してくれる場合が多い。
但しその際にお礼と称して体を要求される事例が数多くある。(またその事例において“つがい”となる者も大変多い。)

童貞である事を思い詰められた方がいらっしゃる場合是非勇気を出して船から飛び降りられる事をオススメしたい。

また場所や環境など、運による要素は大変大きいが、風が集まる地点ではケサランパサランが集団を作り飛んでいるのを見られる事もあり、近年では旅慣れたカップルなどが幸せを願いに“ケサランパサランウォッチング”をするなども盛んである。
但しこの集団に船が突っ込むと「わはー」「あははー」などと大変五月蠅い事が多く、多幸感を味わうまま気付いたら船が墜落している事も予想されるので、一般的にケサランパサランの集団に飛空艇で近付く行為は問題視されている。(但し遠くから見ていたとしても一度粉が飛んできたら一瞬で甲板がカップル達の盛り場になる事例も多い。)



……え? 動力源はなんだって?
そりゃぁ……アレですよ。言わせんな恥ずかしい(笑)


10/09/16 23:59 Vutur

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