読切小説
[TOP]
迷犬ヘルハウンド
 潔は、薄暗い部屋で本を読んでいた。読んでいる本は、切腹した事で知られる昔の小説家の書いた物だ。潔には難しい文体の小説だが、興味のある題材を描いているために読んでいる。
 静寂が支配していた部屋に、チャイムの音が響いた。すぐ後に、階段を駆け上がる音が聞こえて来る。足音の主は潔の部屋の前まで来ると、ノックもせずにドアを開けた。
「おい、潔、遊びに来たぞ」
 声の主は、全身が黒に見える大柄な女だ。黒革のジャケットにブラックジーンズをはいている。加えて、黒髪にダークグレーの肌をしているために全身が黒に見える。人間だったら黒人でも茶色の肌であり、ダークグレーの肌はしていない。彼女はヘルハウンドと言う犬の様な魔物である為に、ダークグレーの肌をしているのだ。
 彼女の手足と首には黒い獣毛が生え、手足には紫色の爪が生えていた。ジーンズには穴が開いており、黒い獣毛に覆われた尾が出ている。目は炎のように赤く、人間の眼ではないと分かる。
 この様に怪物じみた姿をしていた。だが、彫りの深い整った顔立ちをして、口元にはいたずらっぽい笑みを浮かべている。豊かな胸や筋肉質の体は、官能的な魅力がある。二十代半ばの美女と大型の犬が合わさったような姿だ。
「潔は相変わらずいい匂いだな。舐めてやるよ」
 ヘルハウンドは、潔の顔や髪に鼻を擦り付けながら匂いを嗅ぎ、頬を舐め回した。
「止めろよ、本を読んでいるんだから」
 潔の抗議に耳を貸さず、ヘルハウンドは抱きしめながら顔を舐め回し続ける。
 潔は、溜息をつきながら本を閉じた。

 潔とヘルハウンドは、公園の芝生の上で転がりまわっていた。ヘルハウンドは、無理矢理部屋から引きずり出し、潔を公園に連れて来たのだ。公園に着くと、ヘルハウンドは潔に飛び掛かり、共に芝生の上でじゃれ合う。
 潔は、初めは気が乗らなかった。だが、躍動感あふれるヘルハウンドの筋肉に触れ、女らしい柔らかい肉を感じている内に、自分からヘルハウンドに飛びついていった。獣毛は柔らかく、日に照らされて健康的な匂いを放っている。潔は、大型犬の様な魔物の感触と匂いに包まれた。
 ヘルハウンドは、潔の顔に頭をこすり付けて肩を甘噛みした。ヘルハウンドの髪が、潔の顔をくすぐる。ヘルハウンドは、潔の頬を舐めて耳に舌を這わせる。熱い息が、潔の頬と耳に浴びせられる。
 二人は、共に芝生の上に大の字になった。体中に草を張り付かせた二人の体を、春の日差しが照らす。二人は、草の匂いの混じった互いの匂いを嗅ぎ、暖かい日の光を楽しむ。
「こんないい天気の日は、外で転げ回ったほうがいいのさ」
 ヘルハウンドは、笑いながら言う。
「アレクサンドラが元気すぎるんだよ」
 潔は、ヘルハウンドの名を呼ぶ。
 アレクサンドラは、潔を遊びに誘う事が多い。平日でもこうして遊びに誘う。アレクサンドラが何の仕事をしているのか、潔には分からない。以前は自衛隊で働いていたそうだが、現在は別の仕事をしているそうだ。アレクサンドラの口から民間軍事企業と言う単語が出た事があるが、それが本当かどうかは潔には分からない。
 アレクサンドラと呼ばれたヘルハウンドは、潔を抱き寄せた。潔の顔を、自分の豊かな胸に引き寄せる。潔の顔は、カットソーから見える胸の谷間に包まれる。汗の匂いの混じった甘い体臭が、少年の顔を包む。
「おーおー、お前も元気じゃねえか。さっそく勃っているぞ」
 アレクサンドラは、硬くなっている潔のペニスに体をすり付ける。
「今日は野外プレイだ。たっぷりと搾ってやるからな」
 大型犬の魔物娘は、少年の頬をなめながら笑った。

 アレクサンドラは、潔を木陰に引き込んだ。パーカーとシャツをぬがして、潔の上半身をむき出しにする。アレクサンドラは、潔の胸に鼻をすり付ける。
「やっぱり、お前の匂いはそそるよ。嗅いでいるだけで濡れちまう」
 アレクサンドラは、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。鼻だけでなく口も付けて、潔の胸をなめ回す。肉厚の舌が、少年の薄い胸をねぶる。唾液で濡れた舌の感触と熱い吐息の感触に、少年は喘ぎ声を上げる。
 アレクサンドラは、顔を下げて潔の腹をなめ回す。なめ回しながら、潔のジーンズを脱がす。固くなったペニスが、ジーンズから解放される。トランクスは、既に先走り汁で濡れている。アレクサンドラは、トランクス越しに潔のペニスに顔を押し付けた。
「お前のペニスは熱いな。それにパンツにはお前の臭いが染み込んでいる。お前のパンツをくれよ」
 潔は、顔を赤らめて顔をふる。
「いやだよ、そんなの変態じゃないか」
 アレクサンドラは、わざとらしく音を立てて臭いを嗅ぎ続ける。
「それがどうした?あたしが変態なのは、今更わかった事じゃないだろ。もっと、変態な事をしてやるよ」
 アレクサンドラは、ニヤリと笑って潔のトランクスを引き下ろした。皮の被った未成熟なペニスが、トランクスから解放されて天に向かってそり返る。白いペニスの先端から、わずかにのぞいたピンク色の先端が覗いている。
 アレクサンドラは、プラスチックの容器を懐から取り出す。容器の中には、黄色いバターが入っていた。アレクサンドラは潔を抑え込み、少年のペニスにバターを塗り始めた。先端に、さおに、根元に、そして陰嚢に粘っこいバターを塗り付けていく。
「お前は、バター犬を知っているか?あたしは、お前のバター犬になってやるよ」
 アレクサンドラは、バターで滑り光るペニスに舌を這わせ始めた。先走り汁と混ざり合ったバターを、おいしそうになめ取っていく。ペニスと陰嚢の隅々まで舌を這わせて、溶けたバターをなめ取る。
「バターを塗ったお前のチンポはうまいよ。それに、バターの匂いと混ざっているお前のチンポの臭いもいけるぞ。やみ付きになりそうだ」
 アレクサンドラは、夢中になってペニスを味わい、臭いを嗅ぐ。少年のペニスを貪るヘルハウンドは、獣以上に獣じみていた。
 潔は、自分のペニスにバターを塗られてしゃぶられると言う変態行為に、強い羞恥を感じた。同時に、めまいがしそうなほどの興奮を覚える。ヘルハウンドの巧みなフェラチオの与える快楽と共に、変態行為の与える興奮は少年を限界に追い込んでいく。
「もうだめだ、出るよ」
 潔は、顔を赤く染めながらうめく。アレクサンドラは、潔のペニスを口に含んで激しく吸う。その激しい吸引は、少年を決壊させた。
 少年は、雌犬の魔物の口に精液を放った。少年の体は激しく震え、その震えと共に新鮮な精液を放ち続ける。雌犬は、濃厚な精液を口内に貯めていく。雌犬は、喘ぎ声を上げる少年を歓喜の表情で見上げる。
 少年が精液を出し終えると、雌犬はペニスから口を離す。雌犬は、笑いながら口を開いた。そのとたんに、濃厚な精液の臭いが立ち上がる。赤い口の中には、ゼリーのような白濁液が溜まっていた。赤い舌がうごめいて、白いゼリーを転がして見せる。
 雌犬は、口を閉じて精液を含む。そして口からは濁った水音が響き始めた。雌犬の魔物は、少年の精液でうがいをしているのだ。頬をふくらませて、唇に泡を乗せながらうがいをしている。
 執拗にうがいをして見せると、雌犬は口を開けて見せた。そのとたんに、濃厚な精液の臭いが再び立ち上る。口の中では、精液と唾液が混ざり合い、泡立った状態になっている。雌犬は、舌を蠢かして混合液を見せ付けた後、その液を飲み込んだ。雌犬は、喉の動きを見せて音を聞かせながら、唾液交じりの精液を飲んで見せる。
 潔は、荒い息をついていた。目の前の卑猥な光景から目を離せず、体を震わせながら見つめている。
「バター犬は気に入ったようだな。もうチンポが回復しているじゃないか。これですぐにでも出来るな」
 アレクサンドラは、楽しげに笑いながら潔を見上げる。
「でも、その前にやりたいことがあるんだ」
 アレクサンドラは、皮のジャケットとカットソーをぬぐ。ジーンズとショーツも脱ぎ捨てて裸になる。濃い陰毛を指でかき分けて、肉厚のヴァギナをさらけ出す。バターを取り出すと、むき出しになったヴァギナに塗り始めた。絶え間なくあふれ出す愛液にバターを混ぜ合わせ、肉襞に塗りたくる。
「あたしは、お前のバターチンポをなめてやったんだ。お前も、あたしのバターマンコをなめてくれよ」
 アレクサンドラは、潔の顔を手で押さえた。自分のヴァギナの前に潔の顔を固定する。潔の鼻は、バターの匂いが混じった雌の匂いに覆われた。潔はむせ返りそうになる。
「なあ、頼むよ」
 アレクサンドラは、荒い息をつきながら懇願する。その顔はすっかり発情し、雌犬の顔そのものだ。
 潔は、舌を伸ばして陰毛をかき分けた。陰毛は濡れそぼっており、潔の舌と唇を汚す。少年の舌は、バターと愛液で濡れた雌犬のヴァギナを舌で愛撫する。少年の口の中に、愛液とバターの混じった味と匂いが広がる。
 その味は独特だった。ヨーグルトとチーズとバターを混ぜ合わせた様な、甘酸っぱい味とまとわり付くような塩味が混ぜ合わさったような味だ。少年は、鼻と舌を犯されながら雌犬に奉仕をする。
「たまらねえ、たまらねえよ」
 雌犬以下に成り果てたアレクサンドラは、よだれを垂らしながら喘ぎ声を上げ続ける。潔の顔を固定し続け、自分のバターまみれのヴァギナへの奉仕をさせ続ける。
 散々少年に奉仕させた後、雌犬は少年を押し倒してまたがった。少年の反り返ったペニスを、貪欲なヴァギナの中に飲み込む。ペニスを根元まで飲み込むと、円を描くように腰を動かし始めた。
 潔は、草の上に寝かされながら、自分に跨るアレクサンドラを見上げた。黒褐色の肌と黒い獣毛を持つ魔物娘は、筋肉を躍動させながら少年の上で踊っている。肌には汗が浮かび、激しい動きと共に汗の粒をまき散らす。
 潔は、自分の上で踊っている雌獣の生命力にあふれた姿に見惚れた。その力強さと卑猥さの合わさった姿は、ペニスに与えられる快楽と共に少年を登り詰めさせる。
「どいてよ、出るよ!」
 潔は、切羽詰まって言う。だが、アレクサンドラはより激しく腰を、体を動かす。
「中に出しちまえよ。子供が出来ても構わないさ。あたしが、お前と子供を養ってやる」
 潔は耐えきれずに、アレクサンドラの中に精液を放った。少年の濃厚な精液が、雌獣の子宮を打ち抜く。雌獣は、歓喜の声を上げながら痙攣する。少年が放つ精を貪る。二人は、互いに共鳴しているように震え続ける。
 精を放ち終えた少年は、力を失って横たわっていた。胸を上下させながら、喘ぎ声を上げている。
 少年の頬に、濡れた感触がした。雌犬の魔物娘が、柔らかい表情で頬をなめている。雌犬からは、汗で濡れた肉の甘い匂いがする。少年は、ぐったりとしながら雌犬の舌を感じていた。

 二人は、しばらく抱き合ったまま横たわっていた。辺りには草木の匂い、そしてお互いの体の匂いが混ざり合っている。
 潔は、アレクサンドラの健康的な匂いが好きだ。生命力のある肉体が、日の光を浴びて汗をにじませている。こうしてセックスを楽しんだ後は、生々しい臭いも混ざる。潔は、初めの頃はセックスの臭いに抵抗があった。今では、その臭いを楽しむようになっている。潔は、アレクサンドラの体の弾力と温かさを感じながら、臭いに包まれていた。
 二人は、お互いの体をゆっくりと楽しんでから起き上がった。ボディーシートで、事後の汚れと臭いをふき取る。そうして、お互いの体を見ながら服を着る。ただ潔は、トランクスをはく事は出来なかった。アレクサンドラが取ってしまったからだ。
「これで、いつでもお前の臭いを嗅ぐ事が出来るぞ」
 そう言って、アレクサンドラはトランクスの臭いを嗅いで見せる。潔が取り返そうとすると、懐にしまった。
「まあ、あたしはいつでもお前の臭いを嗅ぎに行くけどな。お前に会うためなら、スコットランドからヨークシャーまで走ってみせるぞ。ピレネー山脈だって越えてやる」
 アレクサンドラは、尾をふりながら言う。
「どこの名犬だよ」
 潔は呆れて言う。
「あたしは、名犬ヘルハウンドだぞ」
 そう言うと、アレクサンドラは潔の頬をなめた。

 アレクサンドラと別れた後、潔は一人で帰路に着いている。アレクサンドラといた時は、恥ずかしそうな態度を取ってはいたが、潔の表情は喜びにあふれていた。今の潔の表情は、陰惨だ。
「名犬なんていらねえよ、そんな役立たずなんか」
 潔の声は、少年とは思えないほどざらついていた。

 潔は、犬を扱っている物語の一つを思い出していた。貧しい牛乳売りの少年と共に働く犬の話だ。その犬は、最後には少年と共に凍え死ぬ。
 その犬は、犬なりに少年に尽くしたのだろう。だが、少年を救う事は出来なかった。少年と共に死ぬ事しか出来なかった。
 加えてその物語は、舞台となったヨーロッパでは不人気だ。主人公である少年は、自助努力の出来なかった負け犬と見なされている。負け犬の死に同情する必要は無いという訳だ。この考え方に同調する日本人も多い。
 潔は、陰鬱な表情で考える。少年の死を負け犬の死と見なした連中は、安全な所で恵まれた生活をしているのだろう。飢える事も凍える事も無く、「自分の力で人生を切り開け」などと他人にほざいているのだろう。
 潔は低く笑い出す。奴らは、家に火を付けられても少年の事を「負け犬」と笑っていられるのだろうか?奴らを黙らせるためには、人間バーベキューにしてやればいいのだ。
 潔は、その物語の少年と同じ名の暴君の事を思い出す。潔は、ローマ帝国を舞台とした映画を見た事があった。その映画では、暴君が自分の支配する都に火を付けていた。暴君は、燃え上がる炎の美しさに恍惚とし、竪琴を奏でながら詩を吟じていた。暴君は、狂気に満ちた強さがあった。彼こそ、潔にとっての憧れの人だ。
 その暴君には、命令に従う親衛隊長がいた。親衛隊長は暴君の命令に従い、都に火を放ち人々を虐殺した。潔に必要なのは、自分の命令に従って人を殺す臣下だ。共に死ぬ事しか出来ない忠犬では無い。
 だが、潔には臣下はいない。だから、人を殺したければ自分で殺さなければならない。
 潔は、薄く笑いながら決意を固めた。

 既に日が落ちて、あたりは暗くなっている。電燈は灯っているが、場所によっては濃い闇に覆われている。
 潔は、壁と木立の間の濃い闇の中にいた。目の前を通るターゲットを待ち構えているのだ。鞄から包丁を取り出して、じっと息を殺して待ち構えている。
 潔は、学校でいじめられていた。執拗に嫌がらせをされ、暴力を振るわれる事もある。潔を直接いじめるものは四人、他の者は笑いながら見ている。
 担任教師は、いじめの事を知っていた。だが、いじめを隠ぺいしている。
「あいつらはお前をいじっているだけだ。いじめられているなんて被害妄想を持つなよ」
 教師はそう言って、潔に凄んだ。いじめは、秩序の中で行われる。いじめを解決しようとする事は、秩序を乱す結果となる。スクールカーストは、秩序維持に都合が良い。潔の担任教師はそう考える男だ。
 だから、潔は自分で解決する事にした。暴力に対抗するには、暴力で対抗するしかない。それが厳然たる事実だ。潔は、自分をいじめる者を刺殺するために待ち続けた。
 ターゲットは、いじめグループの下っ端だ。強者に媚びへつらい弱者を虐げる事を、少年ながら処世術として学んでいる者だ。学んだ事を潔に実践している者だ。潔は、この犬以下の者を屠殺する事にした
 潔は、ターゲットを尾行して行動パターンを調べた。普段は、強い物に媚びへつらいながら集団で行動している。そうする事で身を守っている。自宅に帰る時にわずかな時間だけ一人になるが、その時は警戒が強くて襲いにくい。
 だがターゲットは、夜の七時から八時の間に近所のコンビニに行く事が多い。兄に使い走りをさせられているのだ。ターゲットは、この兄の支配下で強者に媚びへつらう事を学んだのだ。ターゲットの家からコンビニ道中には、死角となる暗がりがある。潔は、その暗がりに潜んで待ちかまえている。
 潔は、包丁を握り締めながら薄く笑う。人を殺すためには、ミリタリーナイフなんて上等な物は必要無い。良く研いだ包丁が有れば十分だ。包丁の感触は、潔に力を与えてくれる。
 潔は包丁を握りながら、最近読んだ小説の事を思い出していた。その小説は、自衛隊に乱入した事で知られる小説家の書いた物だ。その小説の中では、少年達の殺人が描かれている。少年達のリーダーは刑法41条を読み上げて、13歳である自分達は罰せられないと少年達に教える。その言葉に勇気づけられた少年達は、殺人を犯す。
 潔は笑った。俺は、その小説の中に出てくる少年達とは根本的に違う。第一に、俺は一人で殺人を犯すのだ。俺に仲間などいない。
 第二に、俺は罰せられようが罰せられまいが人を殺すつもりだ。死刑になっても構わない。俺はこれからの人生で、憎む者を殺し続ける。大人になっても殺し続ける。死刑になろうが警察官に射殺されようが、殺し続ける。
 この少年達は、利口ぶってはいるが腰抜けだ。徒党を組まなければ人を殺せない。罰せられると人を殺せない。「死刑執行人の僕達が命を賭けるなんて全然不合理なことだ」と言い、自分が罰せられることを否定する。だが、どんなに気取ってはいても腰抜けである事には変わりない。
 俺は、死を覚悟で人を殺すんだ。何人でも殺してやる。殺されるまで殺し続けてやる。俺を助けてくれる者などいなかった。親も俺を守らない。全ての者が俺の敵だ!
 ふと、潔の中にアレクサンドラの姿が思い浮かんだ。潔は、頭をふってアレクサンドラの姿を振り払った。

 ターゲットの姿が現れた。コンビニの袋を右手に持ちながら、あたりを警戒しながら歩いている。その姿は、油断が無いと言うよりは臆病さを露わにしていた。
 潔は、自分の方へ歩いてくるターゲットを木の影から見つめている。腰に力を入れ、包丁を握る手にも力が入る。動悸が次第に激しくなる。
 敵に完全に勝つためには、敵を殺す事だ。殺す事で敵の存在を抹消し、敵が自分に反撃する事を出来なくする。敵は、反撃出来ないどころか何も出来なくなる。これ以上の勝利は無い。
 潔は、仄暗い笑みを浮かべる。奴は、強者に媚びへつらう事で、自分も強者の側になれたつもりだろう。だが、殺されれば弱者へと転落する。俺に殺される事で、奴は永久に弱者となるのだ。潔は、声を殺して笑い続ける。
 ターゲットは、徐々に近づいて来た。潔は、身を屈めながら包丁を握り締めている。ターゲットの横腹に狙いをつける。包丁で腹を突き破り、臓物を地面にぶちまけるイメージを浮かべる。
 その時、潔の胃がせり上がりそうになった。強い嫌悪感と共に、胃中の物が逆流しそうになる。潔は、必死に抑え込もうとする。全身に鳥肌が立ち、脂汗が流れ始める。体に震えが走る。
 潔は、体を支配下に置き、ターゲットを殺そうとする。だが潔の体は、意志に反逆して激しい拒否反応を起こす。胃はくり返しせり上がりそうになり、体の震えは止まらない。脂汗が目に入り視界が歪む。
 潔は、声を上げないように必死に自分の体を抑え付けた。その為に、ターゲットに気付かれる事は無い。ターゲットは、何事も無いように潔の隠れる木の側を通りすぎていく。
 ターゲットが通り過ぎて見えなくなった時、潔は激しく嘔吐した。こらえていた物が、堰を切って地面にぶちまけられる。吐瀉物と共に、潔は涙を地面に落としていた。潔は、吐きながら嗚咽する。
 俺は、人を殺す事も出来ない弱者なんだ。こうして泣きながら吐く事しか出来ない弱者なんだ。人を殺す事も出来ない俺は、死ぬまで弱者だ。俺は死ぬまで、いや死んでからも馬鹿にされ、虐げられるんだ。
 潔は、吐きながら泣き続ける。俺は、生きる力が無い。死んだ方がいいんじゃないのか?反吐と涙の混合物に汚れながら、潔は自分を呪った。

 翌日、潔は家を出た後、再び家に戻った。殺しに失敗した潔に、学校へ行く気力は無い。両親は共稼ぎだから、家に帰ったら一人になれる。
 潔は家に入ると、自分の机の中にあるロープを思い浮かべた。以前自殺に関する本を読み、首つりは比較的楽に自殺出来る事を知った。練炭だの火鉢だのを入手しなくても、死ぬ事は出来る。
 潔は、人を殺す事も出来ない自分に愛想が尽きていた。一生弱者として生きて行くしかない自分に絶望していた。もう、自分と言う存在を抹消したかった。
 居間の前を通りかかると、留守電が入っている事に気が付いた。無視しようとしたが、投げやりな態度で再生する。
 おそらく学校からだろう。両親は、仕事関係の電話を携帯電話で済ませている。固定電話に朝にかかってくるものは、学校からのものだ。両親は、朝は電話を無視して、仕事が終わってから留守電を再生する。潔の両親は、潔の学校の事にあまり興味を持たない。
 再生すると、学年主任の教師の声が聞こえて来た。今日は、臨時に休校にするという内容だ。事務的に話そうとしているようだが、声が上ずっている。
 学校で何か異変が起こったらしい。教師の上ずった声が、潔の好奇心を刺激する。潔は、自殺の事はいったん保留し、学校に行ってみる事にした。

 学校の前には人だかりが出来ていた。警察官が校門を封鎖して、中に入れないようにしている。人だかりの間から、校舎内で警察官達がせわしなく動き回っているのが見えた。
 人だかりは、盛んに話し合っている。潔は、その内容に耳を澄ませた。
 話によると、校舎の屋上から逆さに吊るされている教師と生徒の姿が、朝に発見されたらしい。吊るされた者達は、教師一人に生徒四人らしい。全員裸にされており、体には黒い字で「天誅」と書かれていたそうだ。
 潔は、話の内容に驚愕し、熱心に耳を澄ませる。人だかりの話を聞いている内に、吊るされた者達は、自分の担任教師と自分をいじめた生徒達だと分かった。
 潔は、話の内容をどう受け止めて良いか分からず、ぼんやりと立ち続けていた。

 潔は、家に帰ると床に座り込み続けた。何が起こっているのか分からない。クソどもが逆さ吊りになった事は良かったが、誰が何故やったのか分からない。
 夜になるとチャイムが鳴った。両親は、いちいちチャイムを鳴らさずに入ってくる。近所の人だろうかと、潔は腰を上げる。
 玄関の外には、アレクサンドラが立っていた。
「よお、潔。いっしょに飯を食うぞ」
 そう言うと、遠慮なく上がり込んでくる。台所に来ると、スーパーの袋から食料を取り出し、レンジにかけ始める。潔は、呆れて問いただす。
「お前の両親は、しばらく帰らねえよ。あいつらは、色々と問題があるからな。それまでは、あたしがお前の面倒を見るよ」
 アレクサンドラの話に、潔は喜ぶと共に驚く。話の内容が尋常では無い。
「問題のある親を子供から引き離す制度があるのさ。手続きはもう済んでいるから安心しな」
 アレクサンドラは、レンジにかけた物を皿に移す。フライドチキンに豚の角煮、鶏の腿の煮つけ、そして焼き鳥だ。
「肉を食って体力と精力をつけろよ」
 アレクサンドラは、栄養のバランスというものを考えないらしい。潔の両親といい勝負だ。アレクサンドラは、呆れている潔に構わずに鶏の腿肉を食い、ビールを飲む。仕方なく、潔もフライドチキンを食べ始める。
 潔は、上手く物を考える事は出来ない。次から次へと予想外の事が起こって、頭が付いていかない。
「ほら、どんどん喰え。お前の体は、以前に比べて体力も精力も付いたが、まだまだ足りねえ。もっと付けろ」
 潔は首を傾げた。体力や精力が付いたとは、どういう事なのか?
「お前は気付いてなかったのか?以前は、二発やると限界だっただろ。今は七発、八発と連続で出来るようになったよな。お前は、インキュバスになっているんだよ」
 潔は、頭がまとまらずにインキュバスとオウム返しに言う。
「インキュバスと言うのは、男の淫魔さ。あたし達魔物娘とセックスを続けると、人間の男はインキュバスになるんだ。そのおかげでお前は体力がついたし、精力も人間離れするようになったのさ」
 困惑している潔に、フライドチキンのかすを飛ばしながらアレクサンドラは話し続ける。
「あと、インキュバスになると人を殺す事が嫌になるのさ」
 潔は、弾かれたようにアレクサンドラを見る。
「あたし達魔物娘は、人を殺そうとすると体が震えてめまいがする。終いにはゲーゲー吐いちまう。おっと、飯を食っている時に言う事じゃないな。まあ、あたし達には人を殺す事が難しいのさ。インキュバスも同じようになるんだよ」
 潔の食い入るような視線を涼しげに受け止め、アレクサンドラはうまそうにビールを飲む。
「人を殺せない事は面倒な事さ。生きる価値が無いと思う奴を殺せなくなる」
 アレクサンドラは、ビールをあおり続ける。
「だけど、人を殺す事が平気な奴がウジャウジャしている世の中は、ろくなものじゃねえ。人を殺せない奴が多い世の中の方がマシさ」
 潔は、どう言って良いのか分からない。自分が人を殺せなかった理由は分かった。これからも人を殺せない事は分かった。だが、それは良い事なのか?
「これからは、あたしがお前に生き方を教えてやるさ。その前にエロい事をするぞ。だから、さっさと飯を食え」
 アレクサンドラは、潔の股間を食い入るように見つめた。

 アレクサンドラは、潔の部屋に潔を引き込んだ。潔は、体を洗ってからにしようと言った。だが、アレクサンドラは洗わずにやると言い張る。
「体の匂いと味を楽しみたいんだよ」
 アレクサンドラは潔の部屋に着くと、潔のベッドに飛び込んで転げ回る。
「たまらねえ匂いだ、潔の匂いでいっぱいだ」
 アレクサンドラは、呆れて見ている潔の手を引いてベッドに引き込む。手早く潔の服を脱がし、股間に顔を寄せる。
「潔のチンポを、口と舌でたっぷりとかわいがってやるよ。マンコとケツの穴は、今日は使えないからな」
 アレクサンドラの言葉に、潔は訝しげに理由を尋ねる。
「お偉いさんにお仕置きされちまったんだよ。逆さ吊りにされて、マンコとケツの穴にロウソクを突っ込まれ、火を付けられたんだ。『お前のやった事は犯罪だ』だと?ふざけやがって、手前らのやっているお仕置きも犯罪だろうが」
 アレクサンドラは、悔しげに吐き捨てる。
「それで少しの間、あたしのマンコとケツの穴は休業さ。だから口でかわいがってやるよ」
 潔は、ヴァギナとアヌスを舌でなめても大丈夫か尋ねる。
「それは大丈夫だけれど、潔がなめてくれるのか?」
 そうだと、潔は恥ずかしそうに言う。
 その瞬間に、アレクサンドラは満面に笑みを浮かべる。目にもとまらぬ速さで服を脱ぎ捨てると、潔に飛びついてシックスナインの体勢を取る。
「よっしゃー!潔の金玉が空になるまで、チンポとケツの穴を舐めてやる!お前もあたしのマンコとケツの穴をなめろ!」
 そう叫ぶと、アレクサンドラは潔のペニスにむしゃぶりついた。潔も、アレクサンドラのヴァギナにゆっくりと舌を這わせ始めた。

 潔とアレクサンドラは、共にベッドに横たわっていた。二人はくり返し相手を登り詰めさせて、今は疲れ切っている。潔は、寝息を立てている。潔の寝顔は、生渇きの愛液まみれだ。それを見つめているアレクサンドラの顔も、生渇きの精液で覆われている。
 アレクサンドラは、穏やかな微笑みを浮かべて潔の寝顔を見つめていた。犬の特徴を持つ女は、自分の主人というよりはパートナーと言うべき少年を見守っている。
「あたしは、名犬と言う柄じゃない。だけど、お前とずっと一緒にいるよ」
 魔物娘である犬は、眠りにつく少年の頬をなめた。
15/05/24 18:00更新 / 鬼畜軍曹

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33