読切小説
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ケセラセラ
1

 アプサラスという魔物がいる。古より愛の女神が生み出した精霊であり、その姿は砂漠都市の踊り子を思わせる官能的な身体つきをしており、アプサラスの踊りを見て理性をかなぐり捨てずに済む者は少ないと実しやかに噂されている。またその特殊な立場から、勇者や聖職者の試練としてアプサラスと向き合い、己が性愛を抑えることに利用される事も度々である。
 事実、この話の主人公たるニヒトもある教団の勇者であり、この試練を乗り越えた猛者である。若さと性欲の強さは比例するものではあるが、しかしてニヒトはその魅惑的な踊りで揺れる母性の象徴の如き乳房や、健康的なニヒトには眩しすぎるほどに輝かしく映る太腿、そしてさぞかしいい子を産めるであろうと下世話な妄想逞しくせざるを得ぬ臀部。
 どうして男に生まれ、このような生殺しに近い試練を受けねばならぬのかと半ば本気で思いながらも、ニヒトは必死にその誘惑の踊りを耐え抜いた――までは良かった。
 教団の誤算があったのはアプサラスに対してだけでなく、魔物娘全般に対してであり、その誤解を何たることかと叱責するのは容易いが、人が簡単に思い込んだ常識を外すことは困難を極めることは、これまで人が歩んだ歴史から見ても瞭然であり、教団を簡単に責めることは難しい。
 いや魔物娘に限らず、色恋沙汰の本質というものを誰もが経験するまでは未知の領域に踏み込む前の準備を怠らぬように何度も入念な確認をするのを、時間と経験が油断を慢心を生み出してしまうように。
 色恋沙汰を甘く見る者は、必ず痛い目を見る。
――嗚呼、なんて素敵な人!
そう思いながら積極的に踊るアプサラスのネーナの瞳が、熱情に染まりきっていたのをニヒトが少しでも見抜く術を会得していたならば、なんとかこれから起こる事件を回避――出来はしなかっただろう。たとえ欲と穢れをその身から十全に隔絶した仙人の如き清らかさと崇高さがあったとしても、逃れられはしないし、逃がしてはくれまい。
恋する乙女ですら男はたじろぐというのに、恋する魔物娘であれば何者がその手から逃れようものか。
――あんなに目をギラつかせながら、必死に耐えて!
しかも、その恋の歩度を速める一因がニヒトにあったとすれば、それはもう擁護のしようのないものである。
魔物娘とて種族でわけられ、その種族によっても大体の性癖や性格を区分できるがもっと根本的な問題として、生き物である以上そこに個性は存在する。
ニヒトの前で誘惑の踊りを踊ったアプサラスはどうやら、必死にそれに耐えるニヒトに対して過保護欲をそそられる性らしく、生唾を飲み込む様だとか、必死にかぶりを振る姿だとかを見ながら己の中に情欲の火が盛るのを自覚していた。ならば遠慮する必要もなく、己の魅力的な肢体を存分に生かし、この場でニヒトを自分のものにしてしまおうと考えつくのは自然極まりないことであり、何一つとして不自然なものはない。
が、常に魔物娘の思惑通りになるかと言えば世の中、人生山もあれば谷もあるのは人も魔物娘も変わりない。アプサラス自身、全力でニヒトを堕落せしめんとかかったが、ニヒトもニヒトで全力で誘惑に耐えんとした結果、軍配はニヒトの方へあがってしまった。
無事試練を乗り越えたニヒトはこれ幸いと、早くこの濃密な淫気の滞留する空間から駆け足で抜け出したのだが、不満たらたらなのはアプサラスのネーナである。
その不満の表現こそ、頬を膨らませるという美麗な容姿からは少々不釣り合いな――しかしながらそれはそれで興を感じさせる――ものではあったが、内心では地団駄を踏み、んもぅ!と声を荒げていた。
――どうしてどうして!あなただって抱きたいと思ったでしょうに!
しかし帰ってくる返事を言うはずのニヒトは既にいなくなり、ネーナの肌には踊りでかいた珠のような汗が伝うのみ。不快ではないが、ニヒトがいなくなったせいかその感覚はどこか歯痒くもどかしいものであり、ネーナの胸中を曇り空にせしめた。
ここでこの話が終わるようなことがあれば、ニヒトは試練を乗り越えた者として教団の掲げる勇者の育成教材の話の一例にでもなり、やれニヒトのような禁欲さを以てアプサラスの誘惑を耐え忍ぶべく云々となっただろうが、そうならないのは無論ここで転んだまま終わるはずもないネーナだからである。
具体的に言えば。

「なあ、俺試練には耐えたよな?無事一兵卒から勇者になれたし、自分の部屋も持てた」

 そう独り言ち、やや狭いと感じながらも部屋の中を見渡すのはニヒトのために設えられたと見える。工業品的な量産物は見えず、机や寝具ですらよくよく目を凝らせば職人の技が活かされているのが見て取れる。常に男の汗の臭いが充満していた集団生活を基本とする部屋から解放されただけでも感無量ではあったし、これから自分が勇者として頼られる事にニヒトも男であれば昂揚を覚えずにはいられない。なのにその顔がどこか浮かないものであるのは一体何故。

「なのになんでいるんだ!?」

 ――さあなぜかしら。
 ニヒト以外の姿はない部屋から帰ってくるのはただただ声のみ。勇者というのは単に物騒な幽霊物件を押し付けるための生贄であったのか。いや、そうではない。
ニヒトの目には確かに見覚えのなる姿があった。高級娼婦顔負けの美しさに身体つきは試練で何度も目にし、生唾を飲み込むに留まった。
 精霊ともなれば色々な魔法やら呪術やらを使えるとはニヒトも耳にしていたし、その精霊と契約し力を行使する者も一度お目にかかったことはある。だがしかしそれは自分には縁のない出来事であり、どこか魔導院だとかそのあたりばかりの関わり事だと思い込んでいた。そのため魔術に関しての勉強というものもからっきしになっていたニヒトにとっては、今起きている出来事は軽い眩暈すら感じてしまうものであり、少々、お頭の許容範囲を超えていた。
 ネーナはやっと一緒になれたと、くにくにと腰をくねらせはしゃぐ様は酒場の看板娘に通ずるものを感じさせなくもないが、それよりもである。
 どうしてここにいると声を荒げたニヒトの声量は思っていたものよりも大きかったらしく、声を聞いた同期の兵たちが慌ただしくニヒトの部屋へ押し寄せた。が、異変の根源たるネーナに気づく素振りなど誰一人としてせずに、訝しげな視線をニヒトに注ぐに留まってしまい、最後には悪態を吐かれて元いた部屋へと戻る始末。
 ここでニヒトは自分以外にネーナの姿が見えていないことを知覚した。

「お前、俺以外に見えないのか!?」

 そう訊けば、お前じゃなくてネーナって呼んで、と可愛らしくウインクされて渋々ネーナと馬鹿正直に言い直してしまうあたり、ニヒト自身の困惑ぶりが窺えた。
 暫くは静謐な室内で一人勇者になったことに対して感慨に耽ろうか、なんて思っていたニヒトだったが、早速その静謐を瑕する存在が待ち構えていたとは考えが回らなかったらしい。ネーナ曰く、魔力を使えばこのくらいなら朝飯前で赤子の手を捻るようなものだというのだからニヒトは心底恐怖した。そもそもアプサラスは教団によって傷つけることを禁じられており、おまけに自分についてきたとなってはその扱いは慎重に慎重を極める、なのに目の上のたん瘤がわいやわいやと酒盛りを始めるようなものなので両手を上げて降服の意を示したくなってきたニヒトの心中も、多少は察することができる。
 ――ふふふ。ニヒトと一緒、嬉しいな〜。
 困惑の根源たるネーナと言えば、余程嬉しいのか上機嫌に鼻歌を歌ったりしているが、一方でニヒトと言えば顔に困惑の色を浮かべるばかりでその対極ぶりたるや火と水である。
 だがそうこうしている間にも、ミルクのような濃厚な匂いは部屋を満たし、じわじわと確実にニヒトの精神を蝕みつつある。
 その変化はしっとりと汗が首筋に浮くところから始まり、心臓の動悸がやけに煩く鼓膜を震わせ、血流が下半身へと季節が進むようなスピードで集まるところまでがいわばデフォルメされた身体反応であり、嫌でも自身が勇者云々という存在よりも真っ先に男であることをニヒトに思い知らす。
 事実先程試練を終えたばかりで女日照りに近い状態を強制的に味わされたニヒトにとって、それは毒にも近いものだった。一度でも意識を集中させてしまえば一挙に本能が押し寄せて、呑み込まれてしまうのは想像に容易い。
 ――我慢しちゃって。
 そしてその耐える姿を見、早くも頬を朱に染めているネーナの声は喜悦一色になっていた。
 叫べばいい。大声で騒ぎ立てればなんとかこの難を逃れることは可能だろう。冷静さが残った脳裏の隅ではそんな声が上がってはいたが、なぜかニヒトの咽喉は呼気を荒げるばかりで、脳の命令から背いていた。頭だけが冷静であれども、身体が求めてしまっている。そう気づくのに大した時間は必要では無く、ニヒトは苦虫を噛み潰したような顔になった。それを見てさらに嬉しそうな声をあげるネーナとニヒトの図は、宗教画にある誘惑をする魔物と主神の様そのものであり、どこかこれも試練の延長戦であるとすら思えてしまう。
 が、現実は単にネーナが性的にニヒトを頂いてしまいに来ただけであり、そこまで高尚な意味など介在しない。限界があと一歩で崩れると睨んだネーナは堂々とニヒトの傍まで歩み寄り、警戒するニヒトを他所に自分の背を向けた。
 一体全体何を企んでいるのかと、戸惑うニヒトに向け、ゆっくりとネーナは自身の尻を突き出し、左右に振って見せる。それだけでネーナの耳には生唾を飲み込み、吐息を荒くする気配が感じ取れ、これから犯し犯される宴が始まるのだという期待に、自身も媚薬を盛られたような興奮に襲われる。
 褐色肌で安産型のぷっくりした尻が、目の前で悩ましげに揺れる光景に理性を失い襲い掛からなかっただけでもニヒトは大したものと褒められるべきであろう。そもそも試練を乗り越えた手前、このような誘惑など児戯にも等しいと吐き捨てたいところではあったが、何分時合というものが悪すぎた。誰しもその場その場の困難に立ち向かえるのは、その困難に終わりを見越しているからであり、例えば仙人の修行であり、天竺への旅であり、火影への道である。だがその困難がもう一度とくれば、誰もが辟易し身を投げる。それが死ぬような想いで耐えきったものであれば、猶更。
 だがニヒトに残酷な事実を突き付けるならば、このような行為はまだネーナにとっては遊びに等しいものであり、先程耐えきった舞をもう一度舞われた暁には獣の如き雄叫びを上げ、問答無用でネーナをベッドに運ぶ暇なく押し倒すであろう。
 さらに一番アプサラスが美しくなるのは、まぐわっている時なのだからもうニヒトになす術などない。
 ネーナの意地が悪いのはそれをわかっていながら、少しずつ焦らしていることである。ゆっくり身体を起こしては曲線美をニヒトの眸に焼き付け、息が頬を撫でる距離にまで接近しておきながら触れること自体を許しはしない。
 気づけばニヒトの下半身は一部が見事に膨張しており、傍から見れば痛々しく目を背けたくなる生き地獄そのもので。
 ――ふふふ。
 妖婦の如き艶めかしさで人を破滅させかねない妖気をまき散らし、どこか退廃の風情を匂わせながらネーナはゆっくりとニヒトの胸板を指でなぞる。たかがそれだけで柔媚な快感が微かに胸元から込み上げてくるのを自覚したニヒトは慌てて距離を取ろうとするが、肝心の足は敵は本能寺にありと言葉を残した東洋の武将の如く主であるニヒトに謀反を起こし、その場から一寸たりとも動こうとはしない。
 どれもこれも、このアプサラスのせいだと嘆くのは幼子でも出来る事、肝心なのはどう窮地から脱するかということだと、いつになく真剣に思案するニヒトだったが、蜘蛛の巣のように巡らせたところでもはや頂かれてしまう数秒前であることに変わりはないことが、嫌な汗を浮かび上がらせる。
 それと同時に、心の奥では早くこの肢体を貪りたい、あの誘惑する秘部に腰を打ち付けて欲望を根こそぎ吐き出し、染め上げたいと思い始めている時点でニヒトの精神もそろそろ限界だった。確かにあの褐色の肌に、白はよく映えるだろう。背徳的な興奮を得られることは想像せずとも本能的に察してしまうし、何より向こうはもう抱かれることを予想しているのだ。
 次第に強くなる心の声に、いかんいかんと頭を振り前を向いた瞬間に、しかし固めたばかりの理性は、日向に晒された雪だるまのようにあっさりと融解してしまった。

「あ……」

 思わず言葉が洩れるほど、美しい舞がそこにはあった。さてアプサラスに関する記述は魔物のものばかりだが、とある文献には神々の接待のために踊りを披露するという真興味深く本当ならば神々でさえ人間と大差ないと思えてしまう記述がちらほらと見受けられる。
 ともあればその妖艶な美貌によって披露される踊りを今見てしまったニヒトに心情を表すならば、まさに天にも昇る気持ちというのが言い得て妙ではあろう。
 乳白色の液体がアプサラスの身体の周囲に浮き、踊りと一体となって甘美な芳香を漂わせ、また汗と一緒に健康的な輝きを見せるのが憎らしい。しなやかな動きを見せる手足はまさに天女のそれと謳うことも大袈裟ではなく、ニヒトの視線はその魅力を少しでも見過ごすまいと、あちらこちらへと忙しなく動く。
 視線の誘導はアプサラスの得意とする力ではあったが、そのようなことをニヒトは知らなかったしたとえ知っていたとしても今、この場では野暮ったい足枷のように厭わしいものと思い、無理矢理にでも記憶から抹消していただろう。
 基より愛欲を受けるべくそうなった身体が魅力的なことは言わずもがなであり、よくもここまで持ち堪えたとニヒト自身、どこか納得するべき妥協点を見つけてしまっていた。
 この踊りを中断させるのは無粋と思いつつも我慢の出来ないニヒトは気づけばネーナの豊満な身体を抱きしめていた。
 ――あらあら。どうしたの?
 意地の悪い笑みを浮かべるネーナに、もう苛めないでくれと懇願する声をあげると、また年相応に見受けられる顔から可愛らしい満面の笑みがすぐに浮かぶあたりで、ニヒトはもう勝てないと悟ってしまった。
 二人してベッドへと縺れ込むとまず動いたのはネーナで、意表をつく接吻。経験がないわけではなかったが、何分急な出来事にニヒトが目を白黒させている間にも、ネーナの舌は娼妓のそれによく似て唇を割って入り、歯の舌触りいい並びだとか歯茎の心地いい感触だとかを存分に味わう。それだけで耽美かつ甘美な行為に思え、軽い眩暈を感じながらもニヒトも負けじとネーナの口内を貪る。果たしてキスとはここまで興奮を覚えるものだったかと、ニヒトの経験が僅かに邪魔をしたのも一瞬のことで、気づけば手は自然と豊かなネーナの乳房に伸び、中身にはさぞ香しい乳液が詰まっているのだろうと思わせる果実を、見た目にも愉しく形を変えていた。艶冶な臀も遠慮なく揉みしだくと、小さく声をあげるネーナが愛らしく、興奮をますます催すものとなる。
 男の夢がここにはあるのだと、ニヒトは本気でそう思った。
 砂漠都市の踊り子を抱いたなどという話はあくまでアラビアンナイトのみ。ああいう踊り子には厳しい決まり事があり、肉体関係など以ての外にあり常に男どもは涎を垂らしながら下品な笑みを浮かべるにとどまるし、もしうっかり手を出そうものならその末路は路地裏に砂埃と一体化して瓦礫の様に蹲るが必定となっている。
 それを今の自分はどうだ。
 互いに貪り合い、愛撫の手もそこそこに官能ひたすら高めるこの情事はどうだ。気分がいいどころの話ではない。目が、口が、性器が、心が満たされる。

「死んでもいい」

 ふと自然に洩れた言葉に、くすりとネーナは笑みを零すと、既に天を衝くほど屹立した男性器を手で扱き始めた。
 ――死んだら楽しめないじゃない。
 それもそうかと、強すぎず弱すぎず、丁度よい快楽が下半身を襲うのに身動ぎしながらニヒトはふと納得した。許されることなら、ずっと味わっていたいのだ。ならば死ぬなど勿体無い。
 ――それでいいの。
 どこか嬉しげに言いながら、ネーナは扱く手を緩めることなく、そこから更に快楽の園へと導かんとするように、躊躇いなく己が口でニヒトの肉棒を咥えこんだ。
 辛うじて声が漏れるのを我慢したものの、突然の感触にニヒトの脳内はさながら清須会議のようなてんやわんや。肉棒全体が温かい粘膜に触れ、喜悦で腰が震えたのも暫時、目を細めてネーナが顔を上下させると実に情けない声が口端から零れ始める。ぴったりと肉棒に吸いつき、上下に動くだけだというのにその唇はカリ首を絶妙な刺激で以て迎え、先走りの腺液を亀頭から滲ませるのは容易いことだった。
 それだけに留まらず、舌は敏感な裏筋を、先端を用いてつつ……となぞり、かと思えば亀頭全体を舐めまわし変化に富む。いずれにせよつたう温もりは快感へと姿を変え、ニヒトの神経に焼き付いていた。淫らな水音もわざとネーナが立てているのだろう。事実それは効果のほどは覿面であり、名状し難い昂揚感で二人を包んでいた。息の音が止まりそうな快楽と、ただ鼓膜に心地よく浸透していく息遣いに水音、ここまで淫蕩一色の交わりなど知る由もなかったニヒトの理性は既にどろどろに溶けてしまい、ただ肉槍の快感を求めて喘ぎを漏らすのみとなる。
 そうしている間にも快感は積もり、絶頂への階段を一歩、また一歩と着実にニヒトに踏ませている。己が精を吐き出す限界も近づいたことを感じたニヒトは、せめてもの良心、このまま口中にぶちまけるのは不味いと、腰を引こうとしたが、それすら叶うことはなかった。思惟を感じ取ったネーナはすぐに両手でニヒトの腰を固定すると、男根の根本まで深く深く咥えこむ。苦しそうな素振りすら見せないその様子に戸惑いながらも、ニヒトは呆気なく射精した。
 一度、二度、性器が脈動を繰り返し、尿道から迸る精液を一滴残らずネーナの口中に叩きこむと、収まりきらなかった白濁がネーナの口の端から零れるのが見えた。
 その淫靡さといったら思わず息を呑むほどであり、ついさきほどしていたニヒトの妄想は正しいと言わざるを得ず、成程確かに褐色の肌に白濁した体液はぞっとするほどよく映えた。
 しかしたった一度の吐精で性欲盛んな年頃のニヒトの肉棒が主張をやめることはなく、まだ次なる快楽を求めてひくひくと浅ましくも動くのを止めてはいなかった。
 それを見、嬉しげに笑窪を見せながらネーナは舌なめずりをする、その様は魔物娘然としていて艶めかしい。
 ――嬉しい♪もっともっと頑張るからね。
 男にとってこれほど魅力的な宣言は古今東西どこを探し巡っても皆無であろう。実際ニヒトも内心喜悦で飛び跳ねていたし、もうとっくの昔にネーナの虜になっていた。
 ネーナは豊かな胸でニヒトの男性器を挟むと、最初から激しく上下に揺すり始める。おそらく一度は夢見たであろう紅葉合わせの技巧に感動を覚える暇もなく、ただ暴力的なまでの快感の波にニヒトは酔い痴れる。乳房が両の手で目まぐるしく形を変える光景も淫靡ではあったが、それよりもその胸の量感。
 決して控えめなものではないし、寧ろ大きく美しいものでありながら、作り物めいた雰囲気を一切臭わせないその胸が、こうして自身の生殖器を挟んで射精を促しているという事実そのものに、言葉に出来ない興奮があった。
 無論それに快楽が劣っているわけはなく、柔肌で包まれた肉棒は悦びに震え、時折悪戯をするようにびくんと大きく跳ねて魅力的な谷間から逃げ出す。それを咎めながらも嬉しそうに胸で上下に扱きあげるネーナに対し、一度精を吐き出して幾分か冷静さを取り戻したニヒトの頭にふと魔が差した。
 舐るような視線でネーナの胸を注視すると、その先端はぴんと勃起し、ネーナ自身も感じていることを如実に表していた。やはり受けてばかりでは芸がないし、喜ぶネーナの顔というものも拝んでみたい。好々爺と言うよりは悪代官の顔をしながらニヒトは予告もなしに、ネーナの両乳首をきゅっと摘んだ。
 ――!?
 驚きと快楽で声にならない声をあげながら、ネーナはぱっと視線を性器からニヒトへと移す。その眸に移ったのは善いではないか善いではないかと着物の帯を独楽の如く回しかねない悪代官の顔をしたニヒトであり、ネーナの対抗心に微かに火を点けた。
 胸だけでなく、谷間から顔を覗かせる亀頭へ唾を垂らすと、潤滑油としてより滑らかに奉仕を行うに留まらず、そのきかん坊の先端を舌先でつんつんと突いた。
 これにたまらないと反応を返したのはニヒトで、先程の悪戯の手の勢いはどこへ消えたのか、また熟練娼婦に弄ばれる小姓の図のような滑稽さが生まれる。
 次第に上下運動の速度も苛烈を極め、水音が間断なく耳に届くようになった頃にはすっかり攻守は元通りになっており、低くニヒトが呻いた瞬間、胸の谷間から顔を出した鈴口から勢いよく精液が噴き出した。
 その勢いにたまらず小さく鳴いたネーナだったが、自分の胸にべったりとこびりついた子種を見るや、その表情はゆるゆると緩み、今にも蕩けてしまいそうな幸せそうな表情になった。
 二度目の射精ともなれば、若干の休息が必要かと思われたが、しかし不思議なことにニヒトは萎える気配を一向に見せず、次弾を速やかに装填したと見えた。
 ――ねえ。
 言葉にはっと我に返ると、とろりと甘い香りの蜜を垂らし、しとどに濡れた秘部を晒しながらニヒトの滾りを待ち構えるネーナの姿があった。ここまで来れば尻すぼみすることもなく、ただ暗黙の了解だけが二人の間にあるのみで、ニヒトは気のせいか先程よりも肥大化したと見える自身をゆっくりとネーナに挿入した。
 ――んん、くぅううぅっ♪
 気持ちよくてたまらないと言外に告げるネーナだったが、それはニヒトも同じだった。挿入してすぐに果てることこそ回避したものの、ネーナの膣内は熱くうねり、無数の襞がさらに奥地へと勝手に誘ってくる。既に肌から幾度か精を吸い取って艶美な妖しさを帯び、情炎の穴倉からもたらされる快感もさることながら、ネーナの美しさ。
 確かに見た目麗しく官能的な身体つきは性欲お盛んな歳には燐光眩しく映り、一時の夢を男に抱かせるが、しかしこの美しさはまた違う。今までのネーナが飾りであったかのように、今こうして自分に貫かれて嬌声を憚らずあげているこの姿はなんだ。
 美しいとしか言えない己の語彙の乏しさをこれほどまでに憎んだのはニヒトは初めてであり、しかし何と言おうとも口にしてしまえば陳腐な言葉となって飛び出す、それ自体が酷く罪深いものに思えて。
 腰は勝手に動き、接合部からぐちゅぐちゅと盛んに淫水の音が耳朶をうち淫靡にかき鳴らされる。狭隘の天井を小突かれると髪を振り乱して悶えるその様は、やはり口に出すのは憚られ、ただ律動を繰り返すに留まった。
 快楽に濁った嬌声は動物的な欲求を掻き乱すには十二分なものであり、もっと奥へとニヒトが腰を打ち付けると、抉られたような感覚と共にネーナの視界は明滅し、刺すような快感が刻み込まれる。ぴくぴくと痙攣し、無我夢中で膣内をうねらせるネーナに心奪われたニヒトは同じく夢中で出鱈目な抽挿を繰り返した。
 ごつごつと子宮口をつつく度に軽い啄みをし、子種をねだる膣に完全に呑み込まれたニヒトは一番奥まで届くようにと、腰を密着させてせり上がってきた欲望の塊を吐き出した。
 ――あっ。ひゃぁっ。
 はっきりと理解できる原始の感覚に歓喜の声をあげながら、最後の一滴まで搾り取ろうと子宮口は先端を咥え、何度も蠢き、尿道に残っている精の残滓すら吸い上げた。
 射精が終わり、残るのは甘やかな吐息がニヒトの頬を撫でる。それだけでこの世の幸福を独り占めしたような気分になり、胸中でまた新たな予感が走った。
 瞼に焼き付いてしまった悶え狂うネーナの残像は未だ脳裏にまで及び、愚息も萎える気配を一向に見せない。
 ネーナに視線を配ると、まだ出来るの?と無言を返事としている風に窺えて、ニヒトは再び抜かずの二発目に入った。一度射精された膣内は最初とはまた違った粘つきがあり、カリ首に肉襞が万遍なく絡みつき、無償の愛撫を捧げてくる。
 幻想に囚われた心地になりながら、ニヒトはネーナの名を何度も読んだ。ネーナも何度となく答え、果て、突かれ、果ての繰り返し。甘ったるい匂いに噎せ返りそうになりながらも、ニヒトはじっと視線をネーナへと注いでいた。
 さてはて後日、勇者の一人が失踪するという怪事件が教団を騒がせたがそれも間もなく誰も騒がなくなってしまった。それには魔王軍の侵攻が激化した、被害の増加に対しての民の不満が爆発しつつあるなど様々な理由があるがどれも定かではない。
 ただ、行方を晦ませた勇者によく似た人物の情報はちらほらと飛び交っており、その情報には決まって傍らに美しい女性の姿があるのだという。
 尤も、真偽のほどなど定かでは無く、いわゆるこれも千夜物語と同じ御伽噺の部類と笑うも自由、夢想するも自由である。
 しかしニヒトという人物の足跡は確実に証拠を残しており、実在する人物だと知ることができるが……。
 はて。
15/11/11 21:55更新 /

■作者メッセージ
そんなお話でした。楽しんでいただければ幸いです。
乳白色!

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