連載小説
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後編
「どうしてこんなことに…」

 橙色の照明に照らされたほの暗いホテルの一室。高級感溢れる広いベッドの端っこに座り、緊張のあまりぷるぷると子犬のように震えていた。
 明りのついたバスルームの向こうから聞こえてくるシャワー音に全意識が集中する。
 あのすりガラスのドアの向こう側で、メグが生まれたままの姿で身を清めている。そう考えるだけでも、いっそう緊張が増してきた。
 ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたセメントのような頭の中を整理し、冷静に現状の把握を試みる。
 とにかく彼女は『言うことを何でも聞く』権利を使い、何らかの『意図』をもって半ば強引に俺とホテルに入った。
 その意図とは、まず一つ目『ホテルの中身を見学してみたかったという単純な好奇心』。
 天然気味な彼女ならそのような奇天烈な思考回路ありえなくもない気もする。しかし、わざわざこのタイミングで、しかも男女で入ろうとする理由が分からない。そもそも俺に無理矢理襲われるというリスクを犯してまでそんなことをするメリットが無い。
 二つ目『美人局』。
 考えたくないが、理由としては割りとしっくり来る。
 とはいえ、売れっ子の彼女がわざわざ自分より所得の低そうな俺を狙って金を巻き上げようとする発想に違和感を憶える。
 三つ目『ドッキリ企画』。
 これも考えたくないが、ホテルに何も知らない男を連れ込んでその気にさせたところでネタばらし。というのはイタズラにしては度が過ぎているし、むしろ彼女自身の評判を貶しかねない悪手だ。
 となると、やはり…。

「メグは、俺と…え、エッチ…なことを…」

 たしかに、ここに至るまで一緒にデートをしてそれなりに意気投合して、彼女を窮地から助けたりして。好感度はある程度稼いだのかもしれない。
 だが今日初めて会ったばかりの人間といきなりセックスしようとするのは、あまりに突拍子のない話だ。
 やはり何か裏があるのではなかろうか。そうやって考えを巡らせていると。

「おまたせ〜」

 陽気な声とともにメグがバスルームから戻ってくる。その格好を見て俺は瞠目した。

「じゃーん!どう?」

 彼女が着ていたのは白いYシャツ一枚。それ以外の衣類は一切見当たらず、牛柄の毛皮に覆われた生足が太腿まで露呈している。

「そ、その格好って、このあいだの写真集の…!」

「当たり!ホテルのサービスで借りたコスプレ衣装を着てみたの」

 メグとのお忍びデートが実現したきっかけである最新作の写真集『渚のホトハル』。その表題通り海辺での水着姿がメインなのだが、中にはベッドの上に裸にYシャツ1枚というあられもない姿のセクシーショットがあるのだ。

「どうかな、そそる?」

 濡れた艶やかな髪をいじくりながら問う彼女に、俺は頭をブンブンと縦に振った。
 今日のメグが着ていたゆとりのあるブラウスは『大きい胸を極力目立たせないコーデ』ということを思い知る。
 男物のYシャツに彼女の爆乳を無理矢理収めてるせいか、胸元がはちきれんばかりに張り詰めている。また前立てのボタンとボタンの間隔がたわんでいて、その隙間から肌色がちらりと覗いた。
 写真集ではおそらくヌーブラか何かをつけて目立たなくしていたのだろうが、女性の象徴たる膨らみの先がうっすら浮かび上がっており、生まれたままの姿を覆い隠しているのはこの頼りないぐらいに薄く白い布のみであるということを物語っていた。
 あのメグの裸Yシャツ姿を見てムラムラとしたことを想起する。
 俺を悶々とさせたものが今こうして目の前にある。
 もしかしたら自分は今、長い夢の中にいるのかもしれない。

「ふふ、じゃあ早速」

 そう言うとメグはしゃがみながら、不慣れな手つきでズボンのベルトをカチャカチャと音を立てて外しはじめる。
 俺の内股にうずくまる彼女を見たとき、これから情事が始まるという夢想じみた現実を頭が受け入れていく。
 もうどうにでもなってしまえ。
 突拍子のない彼女の行動も、その行動に至った意図も。具体的な理由を追求するのはとにかく今は後回しだ。
 据え膳食わぬは男の恥。
 それにきわどい格好をしてまで迫っているのに拒むのは、かえって女性に大恥をかかせることになってしまうだろう。
 そうこうしているうちにベルトが外され、あれよあれよという間に俺は下半身を露出させられてしまう。
 半勃ちの俺の息子がボロンと露呈し、彼女の目の前に晒し上げられる。
 あのメグが俺の恥部をまじまじと見つめている。顔から火が吹き出してしまいそうだ。

「これが…ハッスンくんのおちんちん…」

「あまり、じろじろ見られると、恥ずかしいよ…」

 俺は堪らなくなって恥ずかしさを吐露するが、当のメグは目の前の陰茎に夢中になっていてまるで意に介さない。
 そうして、愛でるように両手を竿にちょこんと添えると、そのまま口元へそっと近付け、先端に舌を伸ばした。

「んっ、れろっ…ぺろ、ちゅっ」

「ああっ!」

 陰茎が生暖かい口内に取り込まれ、うねる舌が絡みつく。
 肉厚なナメクジが分身を這い回り、ジクジクと甘い痺れが下腹部に伝搬した。

「ちゅく…んちゅる…れろ、ちゅぴ…じゅるっ…んちゅっ」

 子供がペロペロキャンディを美味しそうに舐めるように、竿や亀頭やカリ首を満遍なく舐め取っていく。

「れろっ…ちゅっ…」

「はあ…はあ…!」

 息子を存分に舐め終わると、メグはそっと口を離す。
 情けなく萎んでいたソレは凶暴な姿へ豹変し、力強く天を衝いていた。

「ハッスンくんの、すっごくおっきい…」

「そ、そうかな?」

 その存在を誇示するかのように熱り立つ立派な男根に、メグは熱い視線を注いでいた。
 憧れていた異性に己の逸物を認められ、胸が躍る。

「――ところでハッスンくんってさ、私のおっぱい。すきだよね?」

「はえっ!?な、なんでいきなりそんなこと聞くの?」

 彼女のあまりに突拍子のない質問に、俺は虚を突かれた。

「ふふっ…隠さなくていいんだよ。ハッスンくんが今日ずっと私の胸見てたの知ってるんだから。だいたい17回ぐらいかな〜?」

「ぶっ!」

 鋭い指摘が胸に刺さる。
 彼女の言うとおり、はじめは悪いと思いつつも結局はあのたわわの魅力に抗えず、俺は何度も盗み見るようにあの巨乳をこっそり眺めていた。
 彼女が視線を逸らすのを見計らっていたのにも関わらずバレるとは。しかも回数まで事細かに覚えている。女の子恐るべし…。

「女の子ってそういう視線に敏感なんだよ?も〜」

 半ば呆れ気味に言う彼女に、俺は萎縮しながら謝るしかない。

「すみませんでした…。いやらしい目で見てすみませんでした…」

「ま、私のファンってことは、『そういうこと』なんだよね?」

「は、はい…」

「でも。隠れてコソコソ見られるのはちょっとイヤだよ?どうせ見るなら堂々として欲しかったかなぁ」

「面目ないです…」

「…だからぁ」

 メグは両腕で胸を寄せ上げながら上目遣いで誘惑する。

「正直に『メグのおっぱいが大好きです』って言ってくれれば。ハッスンくんのおちんちん、私のおっぱいで挟んであげてもいいんだけどな〜」

「ほ、ほんと!?」

「うん♪」

 何を隠そうこの泉蓮太。三度の飯よりパイズリが好きなのである。
 そんな自分がまさか生きているうちに、メグのあのKカップ爆乳でパイズリする機会が巡ってくるなんて。まさに願ったり叶ったりだ。

「えっと、その…、メグのお、おっぱい…が大好き…です…」

 とはいったものの、やはり本人の前で面と向かって懇願するとなると羞耻心に阻まれてしまい、か細い声を絞り出してしまう。

「声小さいよー?」

 踏ん切りのつかない返事にメグはダメ出しする。
 このまま滞っていても埒が明かない。俺は覚悟を決め、思いの丈をストレートにぶちまけた。

「メグのおっぱいが、大好きです!!」

「そっかぁ、私のおっぱい。大好きなんだねぇ」

 どうにか羞耻心を振り切った俺に、メグは納得した様子でウンウンとうなずく。

「はい!大好きです!もう夢中になるぐらい!ぶっちゃけ、むちゃくちゃパイズリして欲しいっす!」

「素直でよろしい♪それじゃあ約束どおり…」 

 メグはご機嫌な様子で胸元から下のボタンを二つほど外してみせる。白い生地が弾ける勢いで開き、狭苦しくぶつかり合った瑞々しい南半球が露わとなった。

「うおお…。こ、これが…生の下乳…!」

「この中に、ハッスンくんの入れてあげるね♥」

 上半身を後ろ斜めに傾けた姿勢でベッドに腰掛け、今か今かと待機する俺の股ぐらに身を寄せるメグ。
 よいしょ、と重量感あふれる豊満なKカップを持ち上げ、Yシャツに空いた肌色ひしめく縦穴にギラギラと屹立した肉槍をあてがう。

「じゃあ、挿れるよ…?」

「う、うん」

 ただの奉仕のはずなのに、あたかも性交し合う直前のようなやり取り。不思議な緊張感が走る。
 メグは持ち上げた爆乳をそのままゆっくりと落とし込む。その様子を固唾を呑んで見守る。
 やがて乳の隙間へとスルスルと収まってゆく肉棒。真綿で首を絞めるようなやんわりとした圧迫感が包み込んだ。

「あはっ。ハッスンくんのぜんぶ入っちゃったね」

「す、すご…。さすがメグ…」

 あれほど凶悪にそそり立っていた肉棒が、暴力的な体積を誇る乳の中へと姿を消してしまった。
 今までAVやエロ漫画で見かけてきたパイズリを『挟む』と形容するのななら、このスケールの大きさはむしろ『呑み込まれる』といった方がしっくり来る。

「どう…かな?」

「あったかくてふわふわしてて、なんだか気持ちいい…かな。このままでもいいかも」

「へぇ、そうなんだ。しばらくこうしてる?」

「…やっぱり、動いて欲しいかな…」

「うん、分かった」

 メグは要望に応えるように二つの肉メロンを両手で脇から抱えると、そのまま肉棒を扱くよう上下に動かしはじめた。

「こんな感じで…いい?」

「ああっ…いいよ…!」

 温かくて弾力に富んだおっぱいがペニスを優しく摩擦する。
 谷間で蒸れて大量に掻いている汗がローションの代わりを果たしているおかげか、意外にもスムーズに剛直が乳肉を往来する。
 また、物理的に与えられる快感に留まらず、はちきれんばかりの豊満な乳房に己の分身を扱かれているという扇情的な光景は、ことさら激しい興奮を煽った。

「ハッスンくん…気持ちよさそうだね…」

「ああ…!気持ちいいよっ!パイズリがこんなにっ、気持ちいいなんて…!思わなかったっ…!」

 余裕のない俺の反応を見て確かな手応えを感じたらしい彼女。頬を鬼灯色に染め、嬉々とした表情を浮かべている。

「そっか、よかった♪…それじゃあ、このままもっと、私のおっぱいで気持ちよくなってね♪」

 メグはそう言うと、動きのテンポを少し早める。
 たぷたぷとした柔らかいたわわの密集地帯を肉棒が何遍も往復する。
 まとわりつくように張り付いたボリューム感満点の生肌に愛撫され続ける、甘美な刺激の波状攻撃。思わず上擦り声をあげてしまう。

「ううっ…ああっ!あ、あっ!」

「男の人でも…そんな可愛い声、出ちゃうんだね…!、それともハッスンくんだけ…なのかな?」

「分からないよ…!別に…意識して出してるわけじゃ…!メグのおっぱい…気持ちよすぎるから…勝手に…!!」

「そっかぁ!そうなんだぁ!」

「ちょ、おわっ!?」

 メグは興奮した様子で身を乗り出し、乳房に息子を挟み込んだまま体重をかけてくる。
 パイズリの快楽にかまけていた俺はその咄嗟の行動に対応できず、体勢を崩して押し倒されてしまう。
 
「ハッスンくんにもっともっっと悦んでもらえるなら、私、張り切っちゃうよ…!!」

 メグは両肘で上半身を支えるようにして下腹部にのしかかる。すると重厚な二つの肉メロンが股間にプレスされ、極上の柔らかさが股間を覆う。
 乳房そのものの質量に任せた大胆な圧力により、愚息が隙間なく乳肉に密閉されてしまう。

「こんなのとか…どう…かな!?」

 すると、はみ出すように押し潰れた巨峰を掌でがっちりとホールドし、そのままを前後左右に身体全体を動かしはじめた。
 彼女の自由気ままな動きに合わせて、複雑に撓(しな)う豊満なKカップ。
 まるで熱を帯びたスライムに分身を揉みしだかれてるような感覚を覚え、至極の悦楽を甘受する。
 
「ああっ!それ…きもちよすぎ…!」

「はぁ…はぁ…!」

 メグは何かに取り憑かれたように一心不乱に動いて、肉棒を責め立て続けている。
 そうして時折り、二人の身体の間に挟まれて柔軟に形を変える爆乳を覗き込む俺の顔を見やっていた。
 目線がかち合うとメグは決まってクスリと微笑み、そのたび俺は胸をきゅっと締め付ける感覚を覚える。

「ハッスンくんの熱くて硬いおちんちん…、私の胸の中で…ビクっ、ビクって…してきたよ…?」
 
「ああっ!ヤバっ…!そろそろ…!!」

 彼女が射精の前兆を感じ取るのと、絶頂一歩手間であることを彼女に伝えるのはほぼ同時だった。

「イきそう…なんだね…!このまま、おっぱいの中に、出しちゃおっか?」

「ああっ!!出し…たい!メグのおっぱいに中出し!したい…!!」

「りょーかい♪よーし!さっさとイッちゃえ〜!ほれほれぇ!」

 メグはここ一番とばかりにウキウキとした様子でラストスパートをかけた。
 すると、さも今までが手を抜いていていたかのように彼女の動きが苛烈を極める。
 大事な商売道具でもある自身のバストが滅茶苦茶に歪むのなんてお構いなしに、縦横無尽に暴れまわり肉棒をいじめ抜く。それに比例して快感のボルテージは一気に跳ね上がり、即座に我慢の限界を迎えたのは言うまでもなかった。

「も、もうっ!!あああっ!イクぅ!!!」
 
 憧れの柔らかいおっぱいに包まれながら、俺は情けない声を上げ絶頂を迎えた。

――どぴゅっ!どぴゅっ!どぴゅるっ!

 刹那、視界が白く染まる。
 脳天を貫くような強烈な快感に身を委ね、下半身から己の全てを解き放つ。
 先端の発射口からびゅるびゅると欲望を吐き出し、大きくのたうち回るように脈打つペニス。
 熱くてドロドロとした白濁液が肉棒と乳房の隙間に満ちてゆき、やがてそれらはシャツに空いた穴の中から漏れ出した。

「あはっ、いっぱい出たね」
 
 メグは谷間に氾濫する白濁液がシャツの布生地に湿った染みをつくるのを眺めながら、奉仕の達成感に浸っているようだった。

「…気持ちよかった?」

 そう言ってメグは伺うように上目遣いで尋ねてくる。

「うん…すごく…。もう死にそうなくらい…ていうか死ぬ…」

「もぉ、死んじゃダメだよ〜?」
 
 俺の素っ頓狂な返事に、彼女は少し困ったような表情を浮かべながらクスクス笑う。
 天国に昇るほどの快感の余韻に浸り、俺は心地よい多幸感に包まれていた。
 あのメグにパイズリで扱かれてイクことができるだなんて、本当に夢のような体験だった。
 けれど、絶頂してもなお元気に屹立する我が分身を包む柔らかい感触が、否定のしようのない甘い夢のような現実を教えてくれる。
 精液の生臭さの残り香が漂う淫靡な祭りのあとを堪能していくうち、非日常的な出来事の連続で右往左往としていた俺の頭は少しずつ冷静さを取り戻していった。
 すると、今まで潜在的に意識していたが、あえてしようとしなかった憶測をハッキリと認識するようになる。

「ね、ねぇ、メグってさ」
 
「ん?なぁに?」

 気付いたら勝手に唇が動いていた。
 好奇心からかあるいは下賤な勘ぐりか。
 いずれにしろ、『それ』を本人に確かめようとしたところでどうにもならないのは明白だった。
 ――やめた方がいい。
 心の声がそう囁きかける。
 それでも俺は俺自身への忠告を振り切りってしまった。喉元まで出しかかっていたその言葉を口から取り出し、形にしてしまった。

「こういうの、慣れてるの?」

 激しい後悔の念が背筋より襲いかかった。
 その言葉の裏にあるもの。
 男に対する無防備さへの疑問の解消。不相応な独占欲。
 いずれにせよ、男としてあるまじき無神経な振る舞いであることは明らかだった。
 Yシャツのボタンをはめ直していた彼女は、俺の言葉を聞きピタリとその動きを止める。

「…そう見えるかな」

「……」

 俺はかける言葉が浮かばず、彼女の問い返しに無言で応えるしかない。
 一体どんな感情が表情に出ているのかが怖くて、彼女の顔を確かめることができない。

「ちょっとお話ししない?」

 服のシワを整えてベッドの端にぴょこんと座るメグ。俺もそれに倣って、隣におそるおそる腰を下ろした。

「もしかしてさ、私が他の男の人とこういうえっちなことしてたらイヤだなぁ。ってことなのかな?」

 普通は言いにくいことも物怖じせず言ってしまえる彼女には正直ドギマギしてしまう。しかし、それは天真爛漫な性格の彼女らしくもあり、その表裏の無さは素直に尊敬できる一面でもあった。
 
「そう…なの…かも。ハハ…、おかしいよね。何様のつもりだよって」

 俺はそう言って、うなだれながら自嘲気味に笑う。 

「おかしくなんてないよ。私も…だから」

「え?」

「私だって、ハッスンくんから他の女の子の匂いがしたらどうしようって、ずっと思ってたから…」

 後ろめたさを隠すように俯いていた俺は、思わずハッとして彼女の方を見る。
 てっきり、男の醜いエゴを押し付けられ苦渋の表情を浮かべているとばかり思い込んでいた。
 ところが、メグは切なげに瞳を熱く潤わせ、何かを訴えかけるようにじっと俺を見つめていた。
 その視線の意味を俺は、氷が融解していくようにじわりじわりと理解してゆく。 

「メグ…?」

「――ねぇ、ハッスンくん。今日駅前広場で待ち合わせした時さ。どうして私はハッスンくんのことが分かったと思う?」

 突然、彼女はそう言って話を切り出した。
 駅前広場で待っていた俺に、メグが何の迷いもなく声をかけてきた正午前の出来事を思い出す。
 当時は本物の白嵜メグに会えたことに興奮するあまり冷静でなかったとはいえ、改めて振り返ると不可解であった。
 普通顔を知らない相手と密会する場合、事前に示し合わせた当人同士でしか通じない目印を付ける等の手段を講じるはず。
 ところが、メグにとって住所と会員番号とハンドルネーム以外何もかもが不透明な相手にも関わらず、人がごった返した休日のあの駅前広場で正確に自分を探し当ててみせた。

「あれ…そういえば…。なんで…俺のことが…」

「これにはちょっとした理由があってね。話せば長くなるんだけどさ…」

 メグはそう前置きしてから、喫茶店で見せたときのような真摯な面持ちと口調で語り始めた。


*


 魔物娘は男の人の『精』が好物。…っていう話は聞いたことあるかな。
 実は男の人によって精の味に違いがあって、魔物娘の好みもそれぞれあるの。そして、魔物娘にとって自分好みの精の持ち主は同時に理想的な伴侶ともされているの。
 だから魔物娘は理想の旦那さんを効率よく探し出すために、美味しそうな精を持つ男性を匂いで判別できるらしいの。精が美味しそうであればあるほど、遠く離れていても分かるらしいよ。
 それでね、こないだのトークイベントの。あのハッスンくんが会場に居たときのね。
 特設会場に着いた瞬間、すぐ気付いちゃった。
 『この大勢の中にいる』って。
 引き受けたお仕事はキッチリこなさなきゃって、普段通りに振る舞うよう頑張ったけど。集中しようとするほど、会場のどこからか漂ってきてる大好きなバニラアイスパフェよりずっとずっと美味しそうで魅惑的な香りを余計に意識しちゃって。風邪引いたときみたいにぼーっとして、クラクラしちゃって…。相手の人のトークの内容が頭に入ってこないくらい、どうにかなりそうだった。
 そのときの出来事をあーちゃんにそれとなく相談してみたら、「もしかして運命の人が居たのかもよ」って言われて。
 仕事柄、男性とそういう関係になるのは何かとリスクがあるって、最初は踏みとどまったんだ。
 けど私、あーちゃんみたいに素敵な旦那さんと巡り合うことにちょっぴり憧れてた…。
 結局、私は仕事よりも好奇心と煩悩を優先しちゃったみたい。プロ失格だよね。
 とにかく、あの『匂いの持ち主』を探すことになって。トークイベントに来るってことは、私のファンの可能性が高いことが分かってて、こっそりあーちゃんと相談しながら作戦を練った結果。お忍びデートの抽選券を新作の写真集に同封するっていう企画を、いつもお世話になってる雑誌の編集の人とプロデューサーさんに提案してみることにしたの。
 編集の人とプロデューサーさんは「読者の購買意欲をくすぐるし面白い企画だね」って、冗談笑いしながら快く通してくれた。
 それで肝心の方法なんだけど。魔物娘と人間の交流を推奨する大手企業さんが開発した特殊なグッズを使うことになったの。
 それは魔物娘と人間の男性の体液を一緒に付けると、お互いに相性の良い相手同士だった場合、色が付いて反応する。あの理科の実験で使う試験紙みたいなやつね。
 ほら、ハガキをしたためるとき切手を貼るのに裏面を舌で舐めるよね。つまり切手の裏面に唾液が残っていれば、試験紙を使って目当ての人物を割り出せるかもしれないってこと。
 もちろん、切手を貼る時に水を付けることもあるし、そもそも応募しない人もいると思うんだ。だからこれは大きな賭けでもあったの。
 もしも見つからなかったら、その時はちゃんと諦めてさっぱり忘れてしまおうって覚悟した。
 けれど、見つかった。見つけることができた。
 私は奇跡的に君と出逢うことができたの。
 

*


「でもね、約束の日。ハッスンくんに会う前はやっぱり不安になってね。私が探し求めてた理想の相手だって分かってても、顔も素性も知らない男の人だしね…。だから、もしちょっとでもイヤな人だなぁって思ったら会うの止めようかなって思ってたんだけど、実際会ってみると全然そんなこと無くて。むしろ私のことずっと前から支えてくれていた大切なファンで、一緒に居ると楽しくて、嫌な思いをした私のことを庇ってくれるくらい優しくて、私のこと、ちゃんとひとりの女の子として見ててくれてて…」
 
「メグ…」

「あのとき会場で見つけた匂いの人がハッスンくんでよかった。って心の底から思った。けど、ハッスンくんは私のことをグラビアアイドル白嵜メグのファンとして好きなだけで、異性として好きになってくれるかどうか分からなくて。でも、あーちゃんは男の人はえっちなことをしてあげれば女の子として好きになってくれるよ、って…」

 ひとしきり喋り終えると、途絶えるようにメグは口を噤んだ。
 静寂がしんと訪れる。
 彼女から語られた真実。それらを慎重に丁寧に咀嚼しようと努めた。
 その過程で様々な思惑が頭の中で混沌と渦巻き、今かけるべき最善の言葉が上手く導き出せない。
 しかしながら、ひたむきに本心でぶつかってきてくれたその実直さに、すぐにでも応えてやるのが男として付けるべきけじめではなかろうか。
 俺は彼女のように思ったことをただありのままに、包み隠すことなく伝えることにした。
 
「ごめん。俺さ、メグのこと誤解してた。メグって今日知り合ったばかりの俺に対してすごい積極的だったから、誰にでもそういうことしちゃう軽い子なのかなって思いかけてた。でもさっきの話聞いたら喫茶店で俺のことを特別な人って言った意味が理解できて…。メグはただ真っ直ぐにアプローチしていただけだったんだよね。俺、そういうメグの気持ちを察してやれないばかりか、デリカシーの無いことまで言っちゃってさ…」

「ううん、気にしなくていいよ。それによく考えたら、いきなりホテルってのはさすがに先走り過ぎたかな。ってちょっと反省中…かな…」

「ま、まぁ、確かに心臓止まりそうなくらいドキドキしたけど…あはは」

 そうやってぎこちなく苦笑すると、メグも釣られように破顔する。
 雰囲気が少し軟化したところで俺は改まってメグの方へと向き直り、彼女の淡いグリーンの瞳を凛と見据える。
 本心をぶつけられてようやく確信を得ることができた己の気持ちへの答え。彼女に対し抱いていた『あやふやな想い』を確かなものとするために。俺は口を開いた。

「俺、メグのことが好きだ」
 
「…え?」

 俺の言葉を聞いたメグは、鳩が豆鉄砲を食ったように大きく目を見開いた。

「もちろん、『ファンとして』っていう意味じゃないよ。たしかに最初は一ファンの立場で遠くから憧れの感情を抱いているだけだったかもしれない。でも一緒にデートしていくうちに、雑誌のページ越しに眺めているだけじゃ気付かなかった魅力に気付くようになったんだ。嫌なことを忘れさせてくれるような素敵な笑顔をたくさんしてくれるところとか、表情がころころ変わって一緒に居て飽きないところとか…。あと、メグの苦労話を聞いたとき、素直にすごいなって思ったんだ。華やかな芸能界の住人っていうのが俺が知っていた白嵜メグだった。けど本当はそんな輝かしい世界の裏で、苦境に晒されながらもめげず戦い続けてた。優雅に泳いでるように見えて水面下では懸命にもがいている、苦悩を表に出さない強さを持つ美しく清らかな白鳥のような子なんだって思った」

「そ、そんなことないよ…。だって、一時は本当に辞めようとしてたし…」

「でも結局辞めなかったんだよね。もし俺が同じ立場だったらすぐ逃げ出してたよ。そんな俺からしてみれば、すごいって素直に思えるんだ」

「ハッスンくんだってすごいよ。ゲーセンで女の子たちにイヤなことされたとき、勇敢に守ってくれて…。私だったら泣き寝入りすることしかできなかったかも…」

「それはその、多分メグのためだったから…。メグを守らなきゃって必死になったから勇気を奮い立たせられたのかな…」

「私の…ため?」

 そう言ってメグは瞳を潤ませた。静かな夜の湖面のような綺麗な双眸に、自分の顔が映り込んでいる。
 俺は彼女から受け止める溢れんばかりの熱をそのまま返すよう、ずっと見つめ続けた。

「可愛くて、笑顔が癒やしで、頑張り屋で、素直で。その…、おっぱい大きくて、えっちなところも…。と、とにかく!メグの色んなところも含めて好きなんだ!こんな俺とじゃ、釣り合わないかもしれない…けど」

「そんな、私こそ…!」

 メグは感極まったように目元から大粒の涙をぽろぽろと頬に零していく。
 そして、それをひた隠すように俯き、細い指で両目を拭ってから向き直る。

「ねぇ、私たちって両想い…ってことでいいんだよね?」

「…うん」

「そっか…そっか…。ふふ…」

 じんわりと縋るように胸に抱きついてくるメグ。
 俺はそれを愛おしく受け止め、彼女の小さな背中を両手で包んだ。
 言葉では言い表せない気持ちを、高まる胸の鼓動で伝え合う。
 延々と綴られる沈黙。しかし焦燥感はなく、不思議な居心地のよさがあった。

「ねぇ、メグ」

「…なぁに?」

 ふと穏やかに問う。
 胸板に顔を埋めたメグは甘く静かに答える。

「これからもっとお互いのことについて知り合おうよ。俺が魔物娘の性質とかにもっと詳しければ、メグのアプローチに対して変な曲解をせずに済んだりしたのかなって。…だからさ、人間と魔物娘の違うところをたくさん知って、知った上で認め合って、いろいろ折り合いを付けていきたいんだ。長い時間をかけて、少しずつゆっくりでもいいからさ」
 
「ん?それって、私とずっと一緒にいてくれるってこと?」

「えっ?あっ…」

 プロポーズをともとれる発言をほぼ無自覚にしてしまったことに気づき、顔面に熱が集まってゆく。

「い、嫌?」

「全然♥」

 彼女は顔を上げ、清々しいほどの満面の笑みを浮かべた。

「とりあえずハッスンくんの意見には賛成だね。私もハッスンくんのこともっと知りたいし、私のこともっと見て知って欲しいし。それに、いずれ私の旦那さんとして一つ屋根の下で暮らしていくことにもなるしね〜♪」

 そう言ってこの上なく夢見心地そうに語る彼女。
 メグとの結婚。
 想像だにしなかったことだが自分としては満更でもない。むしろ身に余るほどの幸せだ。
 とはいえ、メグの仕事上の都合もあるだろうし、いますぐ婚姻届を持って役場へ直行。というわけには行かないだろう。

「あ、そうそう。まずは俺の本名を教えとかないと。俺、泉蓮太(いずみはすた)っていうんだ。蓮の葉の蓮、太は太郎の太」

「蓮太…、『蓮太くん』でいいかな」

「いいよ」

「じゃあ、お返しとして私の本名も教えなきゃね」

「えっ、えええええ!?し、白嵜メグって芸名なの!?」

「そうだよ〜」

 今日一日だけでも脳がオーバーフローしてしまいそうなほど驚かされてばかりだったが、ある意味一番衝撃的な事実だった。
 ウィキ○ディアにはメグの記事が作られているが、そこには芸名であることは一切記載されておらず、どの雑誌でも「白嵜メグ」としか呼称されていない。

「普通に本名だと思ってた…」

「まあ、本名とそんなに変わらないんだけどね。私、白嵜恵(しらさきめぐみ)。大地の恵の恵だよ」

「白嵜…恵…。ええと、『恵』でいい?」

「あっ…、ちょっと待って、今のすごくいいかも…。もう一回恵って呼んで?」

 どうやら下の名前で呼ばれたことが彼女の琴線に触れたらしく、ねだるように甘えてくる。
 断る理由も特になく、俺は再び彼女の名を呼んだ。 

「恵…?」

「蓮太、くん…」

 見つめ合いながら、今まで知り得なかった互いの真(まこと)の名を呼び合う。
 ただそれだけのことだった。
 だのに、相手の喉笛から発せられる単語は耽美な響きとなって甘く脳髄を蕩けさせてくる。
 心の根底への浸潤を許しながら相手の聖域をも侵すような。背徳的で焦がれるような熱情が湧き上がる。

「恵」

「蓮太くん」

 気分が高まり、抑えきれない。
 恵は瞼を閉じて待ち受けている。
 俺は艶やかな薄桃色へ、ゆっくりと口づけした。
 
「んっ…ちゅっ…ん…」

 甘噛みするように、厚みのあるリップをついばむ。
 AVで男女が致していた光景を必死に頭に思い起こしながらの見よう見まねのキス。
 上手くこなせているかどうか少し不安になりながらも、その柔らかさを存分に味わう。
 愛おしい女性のほのかな温もりがセンシチブな口唇から伝搬する心地よさに、さらに昂ぶりが増してゆく。
 
「れろ…ちゅぷ…ちゅる……ちゅぴっ…」

 労うように丁寧な接吻を続けていると、彼女の舌が大胆にも侵入してくる。
 ぬめりうねる肉が俺の全てを欲するよう口腔内を貪欲に漁り回す。
 その積極さに面食らいながらも、応えるよう舌で彼女のものを捕らえる。
 
「れろっ…じゅる…ちゅっ…」

 瞼を閉じた闇の世界。生温い感触だけを頼りに舌と舌を螺旋状に絡ませる。
 二つの身体が一つに溶け合うことを切望し合うように、混ざりあった唾液に塗れあう。
 長くひたすら長く。時間の感覚もどこかに忘れ置いて。俺と恵は深い口づけに夢中になった。
 
「んっ……」

「っ……」

 ほどなくし、どちらからともなく口の中の拘束を紐解き、顔を離す。
 二人の唇と唇の間に銀のアーチが名残惜しげに紡がれた。

「キス…しちゃったね」

「うん…」

 さなかに伺うことの叶わなかった彼女の顔を今一度確かめてみる。
 キスの余韻に浸り、今まで以上に熱く火照った表情。
 それはあまりにも扇情的で、己の中の理性が瓦解しつつあることを自覚させてしまう。
 
「あのさ…恵」

「うん…?」

「えっと、その、続き…したい…な」

 ありきたりな語句で己の欲求をありのままに告白する。
 裸Yシャツというエロチックな格好をした好きな女の子と、甘い雰囲気に包まれたままラブホテルの一室に二人きり。
 そんな状況に置かれてなお、邪な感情を抱かないまま終わるはずがなかった。

「いいよ…、私もしたい…」

 恵は誘いに一つ返事で頷いてくれると、すぐさまベッドに仰向けになって寝転ぶ。
 
「…挿れて?」

「えっ?」

 シーツの上で無防備に横たわり、両足を大きく広げる。
 毛皮に覆われている股ぐらを晒したあられもない体勢のまま、物欲しそうに見つめる恵。
 それはまるで妄想の世界のように現実離れした光景だった。
 
「早く…欲しいの」
 
 早く、早く、と急かしながら豊満な胸を自分の手でにわかに弄び、白い薄布生地にぴっちりと包まれた肢体をくねらせる。
 幻視してしまいそうな濃厚なフェロモンを身に纏いながら、しきりに自分を誘っている。
 鼓動が早鐘を打ち、熱病に侵されたように健常な思考を蝕む。雄の本能に任せて襲いかかりたくなる衝動に駆られる。
 が、俺はなんとか一歩踏みとどまった。

「…たしかに、俺も今すぐ挿れたい。けど」

「けど…?」

「それより先に、まずは前戯をしたい。というか…」

「ぜんぎ?なにそれ?」

 俺の言葉に恵はきょとんと目を丸くする。
 以前興味本位で読んだセックスのハウツー本には『性交に至る前に女の子の身体を丹念に愛撫して徐々に気分を盛り上げるべし』といったような指南が書かれていたが、それはあくまで人間の中での一般論。
 今までの彼女の話を聞く限りで想像しうる『性に大らかすぎる異文化を持つ魔物娘』には当てはまらない、人間と魔物娘の決定的な感覚のズレなのだろうか。
 たしかにこのまま彼女の誘いに乗って獣のようにまぐわうのも魅力的だが、人間性を失ってしまう前に人間的に愛おしく触れておきたい、という叙情的な欲求があるのもまた事実だった。
 そういった旨のことを説明してみると、一応彼女なりに納得はしてくれたようだ。
 
「ごめんね、俺の我儘を通すようで」

「ふふ、いいよ。蓮太くんのしたいようにして♪」

 ありがとう。と一言添え、上半身に羽織っていた衣類を一切合切脱ぎ捨てる。
 裸一貫で臨戦態勢となった俺は、仰向けのままじっとしている恵に覆いかぶさった。

「私のも脱がせて♥」

「あー、恵はそのままで」

「ん?どうして?」

「ふふふ、それはね…」

 俺はニヤリと口端を釣り上げ、おもむろに彼女が着ているYシャツのボタンを一つ外し、空いた隙間に右手を滑り込ませる。
 そのまま豊満な膨らみの左片方へと伸ばし、掌に収まりきらないソレをやんわりと掴んだ。
 
「あっ…やぁん♪」

 軽く力を加えると、恵は可愛らしい声で鳴いてみせる。
 生まれて初めて触れる女性のふくよかな胸。
 指を食い込ませようとすると、いともたやすく埋没し、それに負けじと反発して張り付いてくる絶妙な弾力。
 パイズリの際イチモツ越しにもその柔らかさを堪能していたが、実際に指で触れて分かるその圧倒的存在感と魅惑的質感に、感嘆すら覚えてしまう。

「あぁ、すっごい…、これが…生のおっぱい…!」

「んっ…蓮太くんったら、触り方えっちいよ…」

「だって俺、嬉しくて…。写真集の裸Yシャツの恵を見てて、こんな風に触りたいなぁ。って毎晩考えてたんだ」

「んんっ♪…も、もう蓮太くんったら、私のこと、そうやって妄想で犯してたんだ…。やらしいな〜」

「やらしくて結構だよ。けど、こういうやらしい気持ちはもう一生恵にしか抱かないと思う。だって、こんなにも可愛くてエロくて愛おしい女の子。世界中で恵しかいないだろうから」

「え〜、ホントかな〜?」

「ホントだよ。白嵜メグ目当てでいろんなグラビア雑誌買ってきたけど、結局メグ以外のグラドルにはまったく興味持たなかったし」

「あはは、なにその謎の根拠」

 恵は少々呆れ気味になりながらも、心なしか嬉しそうにコロコロと笑っている。
 しばらくのあいだKカップ爆乳の感触を堪能していたが、次第にもっと別のアプローチから女体を愛撫してみたいという好奇心が湧き上がってくる。
 ふと頭に浮かんできた洋画でよく見受けられるベッドシーンを想起しながら、彼女の白い首筋へ顔を近づけて唇をそっとあてがい、なぞるように這わせてみた。

「っっ…!」

 恵は短く悲鳴を上げ、身体がピクッとわななく。

「ここ、いいの?」

「……んぅ」

 耳元で囁くように問うと恵は頷きつつも、困り顔を浮かべて恥ずかしそうに首を逸らす。
 今までとは打って変わって、しおらしい表情を浮かべる彼女。
 その新鮮な反応は自分の中の嗜虐心を煽るのに充分だった。
 俺は火が付いたように、ここぞとばかりに等間隔に吸い付いて離れての口づけを繰り返し、責め立てた。

「あっ…!んやぁ…!」

 指で押すと心地の良い音色を奏でてくれる鍵盤楽器のように。思いのままに嬌声を上げる彼女。
 上手く相手を気持ちよくしてあげられているんだ、という実感のこもった手応え。
 パイズリのとき彼女が楽しそうにしていたのが少しだけ理解できた気がする。

「あんっ…んん…!そこぉ…ばっかり…だめ…!」

「ん?だめなの?」

「いいんだけど!だめなのぉ…!このままじゃ…おかしく…なっちゃうからぁ…」

「そっかぁ、じゃあ…」

 そのまま続行させてもよかったが、強引にグイグイと押すようなやり方は自分の性に合わないらしい。
 懇願するような言葉に折れ、首筋と胸への愛撫から一旦身を引く。
 そうしてハァハァと息を乱して力なく横たわっている恵を舐め回すように見下ろしたのち、次のターゲットを定めた。
 
「じゃあ、ここ…とか?」

 下半身の方へ移動し、彼女の下半身に位置取る。
 そしてふさふさとした牛の毛皮に覆われた内腿へ手を伸ばし、サワっと軽く撫でてみた。

「ひぅっ!?」

 彼女はひときわ強い悲鳴を上げ、ガクンと肢体が大きく揺れる。
 
「あれ…もしかして、ここもっと弱い――」

「そ、そんなところ誰にも触られたこと無くて…。それに、私の足なんて触ったって…面白く、ないよ…?」

「え?どうして?」

「だって…、私の足って…人間の女の子みたいにツルツルでモチモチじゃないから…。そ、それより、ほら!蓮太くんもっと私のおっぱい触ってみたくない?」

 そう言って恵はしきりに胸を強調するように手でまさぐる。
 どうも彼女は足を触らせることに関して遠慮がちになっているのが見受けられる。
 魔物娘であるというだけで、一時期撮影の仕事を貰うのに苦心していた時期があった。と彼女は語っていた。
 もしかしたらその経験がきっかけで、他のグラビアイドルとホルスタウロス族特有の人間のソレとはかけ離れた足を比較するようになってしまい、本人も無意識のうちにコンプレックスを抱いてしまっているのかもしれない。
 もしそうだとしたら、俺が取るべき行動は自ずと決まっていた。
 
「そんなことないよ。俺、もっと足触ってみたい」

「えっ、でも…!」

「俺さ、恵の足ってけっこう好きなんだ。乳白色と銀色の斑点模様が綺麗で。なんというか、俺が他のグラビアイドルにあまり惹かれなかったのも、今にして思えばこういう恵にしか無い魅力があったからなのかなって思えて」

「蓮太くん…」

「それに、ほら」

 俺は再び彼女に被さり耳元で囁く。左太腿の内側に掌をあて、逆撫でしないよう生え揃った方向に沿って丹念に滑らせた。

「毛並みがツヤツヤしてて、すごく触り心地いいよ。癖になっちゃいそうだ…」

「んっ――!ひゃぁぅっ!」

 太腿の付け根を始点にして優しく触れ、光り輝くなめらかな繊毛の束の柔らかさを味わいながら膝下まで進め、始点に戻ってまた同じように撫でる。
 往来するたび愛おしい女の子があられもなく喘ぐ。俺の中の情感がすこぶる高ぶっていく。
 恵は先ほどとは打って変わって拒絶の意思や遠慮も見られず、俺の愛撫をありのままに受諾し快楽に身を震わせて恍惚とした表情を浮かべていた。
 
「あっ…んんっ!はぁっ!あっ!声…でちゃう…!んんっ!!」

「声、出してもいいよ。もっと…恵の可愛い声聞きたい…!」

「は、蓮太…くぅんっ…!ああああんっ!ああああっ!」

 俺がそう言うと、恵はその可憐な声色で淫猥に騒ぎ始める。
 際限なく。たがを外し。親を呼び止めようと必死に泣く赤子のように。
 胸の前で手を組んで震えながら健気に堪える彼女が、どうしようもなく愛らしくてエロティックで。
 俺はますます興奮して責め手を激しくし、それに伴って彼女はさらに乱れてゆく。そんな好循環に二人で陥ってゆく

「はぁっ!あっ!き、きちゃ…きちゃう…っ!んっ!!だめぇっ!!――んッ〜〜〜〜〜♥♥♥」

 迫りくる膨大な快楽にとうとう耐えられなくなったのか、彼女は涙を流しながら唇を固く結び、絶叫した。
 大きく仰け反った背筋がガクガクと揺れ、ベッドを断続的に軋ませる。
 俺は初めてこの目で見る女性がオーガズムを迎える瞬間を見守りながら、何かの間違いでその小さな体が壊れてしまわないよう、包み込むように抱きとめてあげた。

「はぁ…はぁ…はぁ…っ」

「――だ、大丈夫?」

 焦点の合わない虚ろな目で息も切らしている恵が少し心配になり、そっと声をかけてみる。
 彼女は俺の言葉にしっかり反応し、こくりと頷いてみせた。

「はぁはぁ…だい、じょうぶ…。んっ…す、すごい気持ちよかった…よ…♥」

 不規則に乱れていた呼吸が徐々に落ち着きつつあった彼女は、これ以上ないくらい至福に満ち満ちた顔つきを浮かべた。
 初めての性交渉で相手をイかせられたという深い充足感に浸りつつ、愛撫に夢中になって意識が逸れていた股間部の凶暴な存在をふと思い出す。
 本来の最大サイズの限界以上に腫れ上がったかにも思えるほど怒張しており、まるで『いいから早く女を食らわさせろ』という野蛮な意思を持っているかのよう。
 それは恵と交わり一つになりたいという気持ちが強まっている、なによりの証だった。

「恵…俺、そろそろ…!」 

「うん…いいよ。きて?」

 俺がそう言うと彼女は待ちわびたとばかりに開脚して、二本指を股の局部に押し当てる。そして、そのまま横に広げてみせた。
 毛皮がパックリと開張し、充血した秘肉の穴が現れる。
 男性器を中に取り込んで精を搾り取る、子作りのための淫靡な器官。いつか無修正画像
で見た人間のそれと寸分違わない。
 しかし、実際にこの目で見るそれは想像以上に艶かしく、両目が釘付けになってしまうほど虜になる。

「ねぇ〜はやくぅ…♥」

 尻尾をゆったりとくねらせ、ねだるように誘いの甘言を繰り返す恵。開け放たれた女体の口は、お腹を空かせて涎を垂らす小童のように愛液を滴らせていた。 
 俺は堪らず彼女に襲いかかる。
 正常位の体勢になるよう勢いよく組み敷く。そのはずみでぷるんと豊かな乳房が揺れた。
 俺ははちきれんばかりに勃起した肉槍を掴み、位置を調整しつつ割れ目にあてがう。
 
「挿れる…よ?」

 了承を取ろうとすると、彼女は深く頷いた。
 ――俺、これから恵とセックスするんだ…。
 そう意識し始めると途端に緊張してしまい、心臓がバクバクと鳴り止まなくなる。
 ここまで来てしまったのだから、と自分に言い聞かせるが。上手くやれるだろうかという不安に苛まれ、なかなか踏み切れない。
 
「え、えとぉ。てか、恵って結局初めて…なんだっけ?」

「うん」

「そ、そっか…、じゃあ痛かったらちゃんと言ってね…すぐ止めるから…」

「ふふ、蓮太くんも初めて…だよね?」

「まぁ、そうだね…」

「じゃあ私たち、お互いに初めて同士になれるんだね」

「…うん。そう、だね」
 
 肝心な時にブレーキがかかり、男として情けない姿を晒してしまう。それでも恵は責めるそぶりもなく、ただふわりと微笑みかけてくれる。
 そんな彼女の優しさに緊張が解け、右往左往していた意思に一本の筋が通ったかのような気がした。
 
「それじゃあ、いくよ」

「うん…」

 俺は改めて挿入の準備を整える。
 入射角度が合っていることを念入りに確認したのち、剛直の先端を肉洞の入り口へと突き立て、おずおずと腰を前に押し出した。
 
「ぐっ…!」

「っ…あっ♥」

 狭苦しい肉の壁を掻き分けるように剛直したペニスで押し広げながら彼女の中へと侵入する。
 すると、複雑な構造のヌルヌルとした襞が吸い付くようにして愚息にまとわりついてきた。
 まるで熱い肉の泥濘に分身を埋めるような、今だかつて味わったことのない悦楽が腰の奥に伝搬した。
 
「だ、大丈夫…?痛くない?」

「うん、平気だよ♪むしろ気持ちいいくらい…。蓮太くんの熱いので私の中が一杯に満たされて…すごくすごく…幸せ♥」

 西洋人形のように整った顔立ちを、淫猥に蕩けさせる彼女。
 己の分身を熱烈に受け入れてくれてるのかと思うと、ゾクゾクと得も知れない充足感が駆け巡る。

「動く…よ」

 その言葉を合図に、正常位の体勢のまま腰を前後に動かし始める。
 熱を帯びた肉洞に咥えられた息子を引き抜くと、隙間なく纏わりついていた襞々が肉棒を惜しんで引き止めるよう吸着してくる。
 そして肉棒の半ばぐらいを目安に折り返し、再び膣内へじゅぷぷといやらしい水音を立てて埋めてゆく。すると侵入を歓迎するかのように積極的に纏わりついて、今度は逃さないとばかりにキツく締めあげてくる。

「あっ……はぅっ…♥」

 一回のピストンのたびに、熱を帯びた溜息を漏らす恵。しかし、それとは裏腹に下の口は本気で搾取してくるように絶え間ない吸着感を肉棒に与える。責めているはずなのに、責められているかのよう。
 まるで自我を持つ生き物のように蠢く魔性の名器に翻弄され、歓楽に身を震わせる。
 
「やば…すご…!気持ちいい…!」

「んっ…、わたしのナカ、そんなに、いいの?」

「うん、やばい…、さっきパイズリで出してなかったら、あっという間に終わってたかも…」

「ふふ、蓮太くんのだって、太くて硬くて、熱いのが…んっ♥私のナカかき混ぜて…!気持ちいい…よ♥」

「そうなの…?」

「うん♪蓮太くんが他の女の子に取られなくて安心、しちゃったくらい…!だって、蓮太くんのアソコのすごさ、知っちゃったら、誰だって忘れられなくなっちゃうもん…♥」

 女性との経験が皆無であるからして、ペニスの具合の良し悪しなど考えたこともなかった。
 もっとも、単純に相性というものもあるのだろう。その点、恵とは相性抜群だったことも素直に嬉しい。

「ねぇ…蓮太くん…遠慮しなくても…いいんだよ。もっと、激しくしても…いいんだよ?」

 そう言って恵は例のごとく甘ったるい語調でねだってくる。
 俺は彼女のリクエスト通りにピストンのスピードを何段階も上げた。
 すると、粘膜同士を擦り合わせる粘っこい音に、衝突音が加わり始める。
 
――ぱつんっぱつんっぱつんっ!

 普通なら柔肉を打ちつける乾いた音が聞こえるのであろうが、彼女の内股は深い毛皮で覆われている。
 それらがクッションとなり、まるで布団を叩くような派手すぎず控えめな衝突音を鳴らした。
  
「くぅぅっ♥…んんっ♥ああっ♥いい、いいよお♥」

 腰を高速で抜き差しして蜜壺にペニスを打ち込むたび、悩ましい声を上げながら快楽のままに乱れる愛しの魔物娘。
 多量の汗で濡れたYシャツの生地が透け、にわかに露顕している乳房が、ピストンのリズムに合わせてぷるぷると小刻みに揺れている。
 そのあられもない痴態と打てば響く手応えに、俺の興奮のボルテージは加速度的に増していった。

「はぁっはぁっ!も、もっと速くして…いい…?」

「いいよ!もっと…もっと…!蓮太くんので激しく突いてぇっ♥♥」

 俺は自分でも分かるくらいに息を荒らげながら、内から這い出てくる獣欲に任せてピストンのテンポを上げる。
 衝突音の間隔がどんどん短くなり、腰の動きに連動するようにベッドが軋む。
 その淫らな饗宴はセックスがエスカレートしていることを否が応でも実感させる。
 AVで遠目に眺めていた性行為の当事者になり初めて理解できる、愛の営みによって醸される瘴気にあてられ、酔いしれてゆく。

「ぐっ…!ううっ!ああっ!」

「んっ!あっ…ああっ♥ああああっ♥♥」

 欲しい。もっと欲しい!
 求められ、求める喜び。
 もっと、もっと、とろけて一つになりたい。
 無我夢中に性の欲望を貪るうち、絶頂感が迫りくる感覚を憶えるに至った。

「…もう…っ!で、出そうっ!!」

 ――このままではマズい
 雄の本能に押し潰されそうになりながらも、かろうじて機能していた理性が警鐘を鳴らす。
 まだ形式的に将来を誓い合っていない仲、しかも相手は国民的人気グラビアアイドル白嵜メグ。
 万が一でも妊娠させてしまったときのリスクは計り知れない。自分程度の人間一人が責任を取ろうとしたところで済む問題ではないのだ。
 名残惜しさが無いといえば嘘になるが、俺は欲望の塊を外に排出するべく、腰を引いて抜こうとした。
 ――が、肉棒を抜き出すことを目敏く察知した彼女はそれを阻止せんとばかりに、牛の両足で背中をガッチリと挟み込んできた。

「ちょっ!?め、恵っ!?」

「だめぇっ!外にぃ…出しちゃぁ!」

「で、でも中はマズイよ!ゴムもしてないんだし、恵の身体に、もしものことがあったら…!」

「――お願い…お願いだからぁ!ねぇっ!ちゃんと、私の中に出してよぉ…!!蓮太くんの精子、欲しいのぉ!ねぇ、私の中に出してぇ…!!おねがいだからぁっ…!!」

 恵はまるでこの世の終わりとばかりに泣きじゃくるように懇願してきた。
 涙で濡れたその双眸は男の種付けを熱望する発情した雌そのもの。

「ッ――!!!」

 彼女の有り様が己の理性を貫き、引き千切るのがわかった。
 『女の涙』の魔力に抗えるほど、自分は強靭な精神力を持ち併せていなかったのだ。
 そこから先の記憶は曖昧だった。
 ただなんとなく覚えているのは、俺が腰を打ちつけるたびに、おびただしいぬめりを帯びた毛皮を叩きつけるぬちゃっぬちゃっとした独特な音をデタラメな速度で鳴らしていたこと。そして、それによってこれ以上ない悦びの表情を浮かべながら、切なげにさえずる恵。
 組み伏せた魔物娘の体に自らの遺伝子を植え付けたいという原始欲求に支配され、必死になって男根をめった刺しにした。
 絶頂の予兆が肉棒の芯まで染み広がってきても、腰の動きを止めなかった。むしろ、より激しく、より深く奥を突いた。
 突いて突いて突いて。快感が有頂天に達するその瞬間まで突きまくった。

「め、恵っ!!で、出るううっっ!!」

 ビリビリとした甘い痺れが下腹部に集中する。俺は雄叫びあげながら、こみ上げる射精感に身を委ねた。
 刹那。衝動的に彼女の腰を鷲掴み、二つの身体の境界が曖昧になるぐらい下半身を接合させる。
 深々と穿たれたペニスの先端から伝わる、子宮頸を貫くグニグニとした感触を認めたのを最後に、思考が真っ白に焼き切れた。

――ドピュッ!ドピュッ!ビュルルルーーーーーっ!!

 鈴口から白い欲望が勢いよく噴出し、子宮の中にどぷどぷと注ぎ込まれる。
 背筋に駆け巡るゾクゾクとした強烈な解放感。
 自慰では決して味わえないであろう究極の愉悦。
 愛する女性に膣内射精を遂げたという、男として最高の達成感に浸りながら快感によがり悶えた。 

「ああっ♥で、でてるぅ…♥はすた…くん、の…しゅ、しゅごぃ♥おいひぃよぉぉ…♥♥」

 ドクドクと絶え間なく精を送り込まれながら、彼女はとろんとした表情で惚けていた。
 先の話どおり、彼女にとって自分の精液が最高のご馳走ならば、食欲と性欲が同時に満たされる快楽は人間のそれを遥かに凌駕するのであろう。

「くっ!…はぁ…はぁ…あああ…」
 
 射精が鎮まり正常な意識が戻るやいなや、ひどい倦怠感が襲った。
 頭がハイになっていたせいで誤魔化していた肉体的疲労のツケが回ってきたのだ。
 俺は否応なしに彼女の上に倒れてしまう。

「蓮太くんの精、とっても…美味しかった…よ…♥」

 そう言って無邪気そうに微笑む彼女。
 それに対して俺は罪悪感を感じていた。

「避妊できなくて…ごめん…。俺、無責任なことしちゃって…」

「もぉ〜、私が出してって頼んだんだよ?…それに、魔物娘の妊娠率って人間よりずっと低いらしいから、多分大丈夫だって」

「…へ?そうなの?」

「うん。一回のエッチで妊娠するのは宝くじで一等を当てるより難しいんじゃないかな、ってあーちゃん言ってた」

 彼女の言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜けてしまう。
 もし本当に妊娠が天文学的確率ならば、妊娠率が決して0%にはならない避妊具付きのセックスとそう大して変わらないのではなかろうか。

「ご、ごめん…。先に言っておけばよかった?」

「…ううん、いいんだ。でも絶対に妊娠しないってわけじゃなさそうだし。やっぱり避妊はするべきじゃないかな」

 俺は一抹の不安を残しつつ、行為を終わらせんと未だ硬いままの男根を膣内から抜き取ろうとした。
 ――しようとしたのだが…。

「……ん?んん??」

 離してくれなかった。
 彼女は両足を背中でクロスさせたまま俺を拘束しているのだ。

「蓮太くん…まさかさぁ、もう終わらせる気じゃない…よね?」

「い、一応そのつもりなのですが…、あの…恵…さん?」

 おそるおそる彼女の顔を見やる。
 全てを出し切って完全燃焼な自分とは裏腹に、その目には欲望の火がいまだ燻っていた。
 
「ダメだよ、もっとしよ?まだまだ、蓮太くんの精液呑み足りないよ」

「そう言われても…」

 彼女は組み伏せられた体勢のまま、下から突き上げるように腰を揺らめかせた。
 しかしながら、男性優位の体位で男が積極的に動かなければ、激しい刺激を得るには及ばない。

「あ、そっか。蓮太くん、疲れちゃったんだよね?」

「そ、そうそう!別にしたくないわけじゃないんだ。ただ、もう少し休憩を――」

「そ・れ・な・ら♪」

 一瞬の出来事だった。
 両肩に彼女の手が伸びたかと思えば凄まじい力が襲い、身体が半回転させられる。
 視界がガラリと切り替わる。気がつけば彼女は俺の上に跨っていて、捕らえた獲物を値踏みする肉食動物のように見下ろしていた。
 
「め、恵…?」

「私が動いてあげる…。蓮太くんはじっとしてるだけでいいよ?」

「そ、そういう問題じゃ」

「むぅ…元はと言えば蓮太くんが悪いんだよ?私にこんな、蓮太くんの精の美味しさと、エッチする気持ちよさを教えちゃったんだから…。だからもう、疼いて疼いてしょうがないんだよ?もっともっと蓮太くんのが欲しいの…、止まらなくなっちゃたんだよ…?」
 
 そう不安げに語る彼女の表情を見た。そこには自分が自分でなくなる戸惑い、そして魔物娘の本能に目覚めた狂喜を感じた。
 初めて味わった精の味があまりに美味だったがゆえに、彼女は狂ってしまったのかもしれなかった。
 一口で足りなければ、満たされるまで渇望するのが摂理。
 強欲の性に人も魔物娘も関係ない。

「恵…」

「私ね、実はね。ずっと『こうしたい』って思ってたんだ…。ホテルに入る前からずっと…ね。…だからもう我慢できない。もう止められない…!」
 
 彼女は人の肉の味を知った熊になってしまった。
 熊はもともと臆病な性格で、人を見かけても一目散に逃げてしまう。しかしながら、飢えなどの経緯で人を食らいその肉の味を知ってしまった時。熊は積極的に人を襲い始めるようになるという。
 彼女は、自分という『肉の味』をしめてしまったのだ
 
「あははっ…!それじゃあ動いちゃうよ〜?蓮太くんっ♥」

 その言葉を皮切りに、恵は剛直を秘肉に咥え込んだまま腰を振りはじめた。

「ああんっ♥いいっ♥いいよぉぉ♥蓮太くんのぉ、おちんちん♥美味しいよおぉっ♥♥」

 今までの彼女からは想像もつかないような淫蕩な言の葉を紡ぎながら、豊満な肢体を揺らす。
 結合部からは先の行為の残滓たる白と透明の愛のカクテルをかき混ぜる、ジュポジュポという派手な音が鳴り響く。下半身と下半身が激突するたびにそれらが辺りに飛沫し、ベッドのシーツに灰色の染みを点々と付けていった。

「め、恵…はぁっはぁっ!」

「蓮太くんっ♥ねぇ、蓮太くんもっ、気持ちいい?ふふ、気持ちいいんだよね♥…私も、気持ちいいよぉっ♥蓮太くんのカチカチのおちんちんにっ、おまんこ掻き回されてっ、もうっ、どうにかなっちゃいそうっ♥♥」

 恵は一方的にまくし立てながら小気味よいテンポで跳ね続け、粘っこい水音を鳴らしながら肉棒を断続的に蜜壺へと抽送させる。
 彼女のピストンの動きに合わせ、汗で濡れたYシャツ生地がピッタリと張り付いた二つの肉メロンがぷるんぷるんと上下に揺れる。
 その激しい腰使いとダイナミックなKカップの乳揺れにひたすら圧倒され、まな板の上の鯉の如く情けなくベッドに伏したまま美味しく頂かれるばかりだった。
 こちらから攻めに転じようにも、抵抗は許さないとばかりに魔物娘はその凶暴な力で瞬時に俺の動きを封じ、一分の隙すら与えさせてくれない。

「ふふっ、出したくなったらっ、んんっ…いつでも出してもいいんだよ…。蓮太くんのザーメン…、びゅるびゅるって…していいんだよっ♥あああんっ♥だからぁっ、ねぇっ、ちょうだいっ♥蓮太くんのおちんぽみるくっ、もっとちょうだいっ♥♥」

 悦に入ったように乱れる彼女。食らいつくように吸い付いてはこき下ろしてくる肉壁の感触が分身を伝って脳を快感で蝕み、着実に射精へと追い込んでゆく。
 このままではマズイ。また彼女の体を自分の欲望で犯してしまう。
 不安を回避しなければと理性が働く一方。自分の意思や力ではどうしようもない『一方的に理不尽に与えられる不可逆の快楽』に、倒錯的な興奮を覚えてしまっているのもまた事実だった。
 そういう風に捉えてしまう自分はおそらく、本質的に被虐的な性分なのだろう。
 
「め、恵っ…また…出ちゃいそう…っ」

 せめてもの抵抗とばかりに、俺は二度目の絶頂を訴えた。
 もしかしたら、我に立ち返って妊娠のリスクを改めて認識してくれるかもしれない。

「へぇっ♪もう出ちゃいそうなんだっ!ふふっ♥やった♥二発目ぇ〜♪」

 とはいえ、やはり徒労に終わり、ただ彼女を喜ばせただけに過ぎなかった。

「んっ♥はやくぅっ欲しいなぁっ♥はやくっ♥はやくっ♥はやくぅっ♥きてっ♥きてっ♥きてっ♥きてえぇ♥♥」

 射精が近づいてきていることを知った彼女は嬉々として、ただでさえ激しい腰使いをさらに苛烈なものにする。
 直立していた上半身を前倒させ、両手を俺の胸板に置いて重心を支える。
 そして腰の動きを単純なピストン上下運動から、ベリーダンスのごとく波状を描くように下半身をクネクネと躍らせる、技巧的な動きへと変化させてみせた。
 その妖艶な舞いに連動するかのように、肉棒をみっちりと覆う肉襞が波打つように複雑にしなり、しつこく絡みつくようにヌチャヌチャと愚息を舐めしゃぶりつくす。
 自分が実践したような直線的な腰使いでは到底及ばない、男を愛欲の泥沼へと誘う魔性のテクニックだった。

「あああっ!め、恵っ!んっ!そ、それ…やばっ…い…!!」

「んっ!んっ!あっあっ!んんっ♥♥やぁんっ♥はやくぅっ♥出してぇっ♥」

 だらしなく口を開き広げ、何かに取り憑かれたかのように腰を振りまくる恵。
 このまま彼女の熱烈な奉仕に晒され続ければ、達するまでそう時間はかからない。
 ところが、少しでも速く精を味わいたいとばかりに早まった彼女は、突然膣内をきゅうっと窄ませ、万力のように肉棒を締めあげてきた。

「出してっ♥出してっ♥出してっ♥出してぇっ♥♥出してええっっ♥♥」

「っ!?…ぐぅぅっ!!――あああっっ!!!」

 ただでさえ暴発一歩手前であったのに、その強烈なトドメの一撃に耐えられるはずがなかった。俺は彼女の体(なか)に深く根を下ろしたまま吐精を果たした。

――ドピュルッ!ブピュッ!ビュククーーーっ!

「〜〜〜〜〜んんんっっ♥♥♥きたあぁぁぁっ♥♥♥特濃おちんぽみるく♥♥…私の…ナカにっ…ドピュドピュ!たくさん出てるよおぉぉぉ♥♥♥」

 思考を焚きつけるほどの鮮烈な絶頂感とともに頭頂部から放たれる白濁液。
 恵は背をピンと張り詰め、頭上を仰ぎ見る。
 怒濤のように噴き出す精をその一身に受けているという事実にありのままに歓喜し、恍惚とした笑みを浮かべながら身を震わせた。
 強烈な快楽に意識が呑まれるさなか『さらなる禁忌を破ってしまった』と嘆く理性を嘲笑うかのように。とても三発目とは思えないほど濃密で多量な欲望の塊が、ドクドクと容赦なく胎内に注がれる。
 しかし、いくら心が憂いたとしても。身体は生殖行為を果たした歓びを受け入れてしまってるという、理性と本能の二律背反に悩まされてしまう。
 
「っ…はあああ…♥んん〜っ!やっぱ蓮太くんの精、美味しいなぁ…♥んふふ、こんなのを味わえるなんてほんと幸せぇ…♥」

 色香をたっぷり含んだ息を漏らし、今日一番の幸福に満ち満ちた表情で呟く恵。
 無闇に妊娠のリスクが高めたという後顧の憂いがあり、素直に喜べないとはいえ。明るく無邪気に喜んでいる彼女を見ていると、自分も釣られて多幸感に包まれようだった。
 しかしながら、文化が大きく異なる魔物娘との向き合い方をこの期に及んで人間の尺度で考えてしまっている自分が間違っているのかもしれない。
 お互いを知り合い、認め合ってゆく。自分から言い出した矢先、相手への尊重を損ねた自分の愚かしさをただ反省するばかりだ。

「んふふー♪それにしても私ってば、ホルスタウロス(乳牛)でミルクを搾られる側なのに、さっきからミルクを搾ってばっかりだね!…なーんて♪」

「あ…あはは…」

 幸せ過ぎてなにやらテンションがおかしくなっている彼女の小ボケに苦笑いしてしまう。

「ん?私が、ミルクを…搾られる」

 ふと、恵はさりげなく言った自分の台詞から何かを見出したのか。妙案を閃いたといわんばかりに頭上に感嘆符を浮かべた。

「…いいこと思いついた!」

「え?」

「むふふ♪ちょっと腰を思いっきり上に持ち上げてもらっていいかな?」

 俺は疑問を抱きつつも、言われたとおりに下半身を限界まで押し上げ、彼女の肢体をわずかに浮かせる。
 
「そしたらこうやって足を下に挟んで、と。…もう楽にして大丈夫」

 彼女はそう言って牛の両足を尻の下に滑り込ませる。
 すると腰が上にまくられるように持ち上げられ、まるでふかふかの高級な毛布にくるまった丸太に尻を乗せているかのようだった。

「それで、こうすれば…。おっ届いた届いた♪」

 そうして俺の上にひっつくように倒れ込んだかと思えば、ひとりで合点を得たように頷いて、すぐに離れる。
 
「ちょうど汗でびしょびしょだし。そろそろコレ、脱いじゃうね」

 彼女はそう言ってYシャツのボタンに手をかける。
 それらを一つ一つを外していくたび、シャツ生地から上半身が解き放たれてゆく。
 そして全てのボタンを外されると、彼女は煩わしさを払うようにYシャツをベッドの外へ投げ捨てる。水分を吸って重くなったそれがベシャっと床でひしゃげた。
 恵は生まれたままの姿の解放感に浸る表情を浮かべながら、妖艶に微笑んだ。

「じゃ〜ん!泉蓮太様限定特別サービス♪私のヌードショット初解禁で〜す♥」

 彼女はそう楽しげに言いながら左手を太ももに添え、もう片手を後頭部に置いて腰を捻りウインクするという、ありきたりなグラビアポーズを取ってみせた。
 初めて肉眼に映る、そのありのままの女体を前に。思考の流れが一瞬止まってしまった。
 まずひときわ強い存在感を放っていたのは、焦がれに焦がれた魅惑のKカップ爆乳。片乳でさえ両手に収まらないほどの途方もない巨大さを誇るそれに、図らずとも視線を集めてしまう。
 しかしながら、そんな大質量にも関わらず、ブラの支えに頼らないでお椀型の綺麗な形を保っていた。さらに乳輪は大きすぎず控えめで、淡い桃色の乳首は小ぶり愛らしい。ただいたずらに大きいだけではない、『美巨乳』という概念を体現している。
 なによりも、胸の豊かさと比例してキュッと引き締まった見事なくびれ。その奇跡のメリハリボディこそ、グラビアアイドルが彼女の天職であるという何よりの証左であった。
 また、毛や尾を生やした獣人の神秘的な美しさを内包する半身との調和。もはや『神話世界の女神が降臨した』という仰々しい考えが脳内をよぎってしまうほど、あまりに完成されすぎている女体美だった。
 彼女の言うように、白嵜メグは肌の露出はセミヌードまでというスタンスであるため、赤裸々なヌードショットはこの世に存在しない。
 きわどい水着姿を始め、彼女の着エロにはある程度見慣れていただけに。衣装から解放された御姿は想像以上の刺激の強さだった。
 また彼女の一ファンでありながら、こうしてセックスを経験しヌードも拝められたという、ある種の独占欲じみた優越感が興奮をさらに煽るのだった。

「あっ、おちんちん私のナカでビクビクって動いた♪三回も出してるのにまだコーフンしちゃうんだ♥」

「そりゃ、しないはずがないよ…。だってもう、恵があまりにエロ過ぎて…、言葉が出てこないくらい…」

「ふふ、ありがと♪なんか、蓮太くんに私の姿を褒めてもらうのって、褒め上手のカメラマンさんにかけられる言葉よりずーっと嬉しくなっちゃうね…♥」

 そう言うと恵は嬉しそうに照れ笑いながら、忙しなさそうに尻尾を振りたくった。
 
「それで、結局この体勢でどうするの?」

「ふっふっふ〜♪それはねぇ」

 俺が率直な疑問をぶつけると、彼女は満面の笑みで答えた。
 するとさっきのように俺の上半身に倒れ、向かい合わせに裸体で密着し合う形となる。
 本来なら大人同士が密に抱き合った体勢では、顔面におっぱいが近づくのは物理的に不可能。だが俺の身体が曲がっているおかげで顔と彼女の胸までの距離が縮まり、肉棒が秘所に深々と挿入されたままでも、彼女の圧倒的存在感を誇る爆乳が目と鼻の先に迫っていた。

「…ふおおぉっ」

「ふふ、私のおっぱいが大好きな蓮太くんのために。これから私のミルクをたーっぷり、飲ませてあげる…♥」

「私の、ミルク…?えっ?そ、それってまさか」

「むふふ。人間の女の人は妊娠しないと出ないみたいだけど。私たちホルスタウロスはエッチな気分になってればいつでも母乳が出せるんだ♪」

 その話を聞いたとき、ドクンと鼓動が強く鳴った。
 女は騎乗位で責め、男はおっぱいにしゃぶりつく。至れり尽くせりの夢のシチュエーション『授乳騎乗位』。これこそが彼女の狙いだったのだ。
 男の浪漫に溢れた魅惑のプラン。俺は思わず生唾を飲み込んだ。

「さ、どうぞ♥」

 彼女はそう言って、右片方の乳房を提供してくる。
 目の前にあるのは、生乳という果汁がたっぷり詰まった瑞々しい魅惑のフルーツ。
 俺は堪らず、その先端にある健康的なピンクの突起に口をつけた。

「んっ…ふふ、私のミルク、たっぷりと味わってね♥」

 チューペットを食べるときのように、モチモチとしたツヤ肌に吸い付いてみる。すると口内に温かい液体が細々と流れ込んできた。
 疑っていたわけではないが、本当に母乳が出て来たことに仰天してしまう。

「――っ!」

 びっくりした拍子に一瞬むせそうになりながらもどうにか平静さを保ち、流動する母乳を飲み干した。
 コクの深い芳醇な甘みの生暖かいそれが、舌を包容しながら口内を通過してゆく。
 ――美味しすぎる。
 大雑把な風味は馴染みのある普通の牛乳のそれに近いが、今までの人生で飲んできたどの牛乳よりも格別に美味しかった。
 そんな極上の代物が、あのグラビアアイドル白嵜メグの爆乳からとめどなく湧いてくる。
 夢中にならないはずがなかった。

「ぁんっっ♥蓮太くんたら…おっぱいに夢中になってしゃぶりついて…ふふ、赤ちゃんみたい…♥」

 懸命に母乳を啜る俺に、彼女は柔らかい口調で愛おしげにそう語りかけてくる。
 セックスの際、女は男が乳を吸う様を見て母性に目覚めるような感覚を憶えるという。それは魔物娘であっても決して例外ではないのだろう。

「さーて、私もおちんぽみるくの方を搾っちゃおっかな」

 恵は乳を執拗に吸う俺に負けじとばかりに、両足で俺の下半身を抱え込んだまま尻だけを器用に浮かし、縦に振り下ろしはじめた。

「んっ…んっ…♥あんっ♥あああっ♥」

 彼女があられもない声をあげながらピストンするたび。肉厚でありながらふさふさとした下腹部が、上から断続的に落ちてくる衝撃を全身で受け止め続ける。
 しっとり濡れそぼった体毛をペチャペチャと叩く衝突音と並行し、ベッド全体をギシギシ軋ませる悩ましい音が部屋中に木霊する。
 だが今は、彼女のミルクを味わうことに夢中になるあまり、そんな性交の体感や淫猥なメロディが全く頭に入ってこなかった。 
 本当はもっと一度にたくさん飲みたい。だが熱を帯びた生乳は、出し惜しみするかのごとく控えめな量を延々と放出するばかり。
 俺はそれがもどかしくて。少しでも早く、そのとろけるような甘美を味わおうと気持ちがはやり、ぷくりと膨らんだ乳首に舌を伸ばした。

「…ひゃぁんっ♥」

 狼狽するように悲鳴を上げる恵。その反応のよさも相俟って調子づいた俺は、執拗にペロペロと舐め回した。

「はぁんっ♥す、ご…!はげ…しっ!蓮太…くんっ♥だめぇっ♥それ、おかひく…なっちゃうぅっ♥♥」

 目をとろけさせて舌をだらしなく垂らし、呂律が回らない様子の恵。全身がピクピクとヒクつき、腰の動きを中止してしまう。
 
「らめ♥もうっ、とまらにゃくっ♥なっひゃうううっ♥♥♥」

 そう彼女が淫らに叫んだかとおもえば、突然全身で固定するかのように俺の身体を力強く抱きしめてくる。そして今までにないくらいの凄まじいスピードで腰を打ち込みはじめた。
 蜜壺にガッチリ深々と嵌めながら、浅いストロークで亀頭を子宮頸にノックさせる。
 責めのペースアップに合わせ、熱くヌルヌルとした肉襞の締め付けも一層強まる。あたかも俺が彼女の乳首をしゃぶるのに熱中するのと同じように。彼女の膣もまた、俺のペニスから出る精液を吸い尽くさんと食らいついているかのようだった。

「ああっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あああっ♥♥」

 俺は恵に極限まで密接され、はちきれんばかりに豊満で柔らかい球体が顔面に押しつけられるという夢心地を味わいながら。肉棒から与えられる熾烈な快楽に圧されてしまう。
 それでもなお、母乳の味を追求することを止められず、懸命に飲み続ける。
 男は乳を欲し、子種を与える。女は子種を欲し、乳を与える。互いが互いの求めるものを貪欲に求め合う、官能的な循環が為されてゆく。

「あああっ♥だめっ♥だめっ♥だめぇっ♥♥だめぇっ♥♥イクっ♥ああっ♥イクぅっ♥♥いっちゃうっ♥いっちゃうっ♥いっちゃうぅっっ♥♥」

「っ!んっ!!んぅっ〜〜!!」

 彼女は遮二無二に肉棒を貪り食らいながら、襲いくる絶頂の波を切なげに訴える。俺もまた射精感を間近に迎えた。

「ッッッ〜〜〜〜〜♥♥♥♥♥」

――ビュルルルルル!!ビュルルルッ!ビュルルルーーーーっ!

 激しい絶頂とともに、声のない叫びをあげる恵。その身を貫くあまりにも強すぎる快楽に堪えるよう、俺の身体に縋りついてくる。その一方で俺は四度目となる、欲望の塊を吐き出す解放感にひたすら溺れていた。
 膣内に深く穿たれた剛直がドクンドクンと大きく脈打つ。抜かずの3発目とは思えないほどに量が多くドロドロで濃厚な白濁液が鈴口からビュルビュル迸り、子宮の中をとぷりとぷりと満たしてゆく。
 すると、さっきまで少量しか出てこなかった母乳が、男根の莫大な吐精に連動するかのように大量に吹き出しはじめた。
 口内にたくさん流れ込んでくるそれを、俺は胡乱げな意識のさなか、本能的にそれを欲する赤子のごとく飲み干していった。

「はぁ…はぁ…はぁ…。また…いっぱい…出たね…♥」

 十数秒ほども続いた射精もようやく収まりを見せる。それと同時に母乳の噴出も止まり、俺は力なく乳房から口を離した。
 度重なる絶頂によって朦朧とする俺に語りかけてくる恵。全身におびただしい汗を掻き、息を荒く乱している。しかしながら、その双眸は喜びのままに輝いていた。

「ねぇ、もっと…しない…?まだまだ…私、足りないんだ。もっと蓮太くんの…欲しいの…」

「ちょっと…まって…。さすがにそれは…」

 無理。と言いかけたその時。俺の中で熱い衝動が初声を上げた。
 それは至ってシンプルなもの。
 目の前の愛する異性、『白嵜恵』ともっとセックスしたい。という飽くなき性的欲求が体の根底から湧いてくるのを感じる。
 情欲を抱くというより、まるで媚薬によって強引に淫猥な気分にさせられているかのような。
 もしかしたら、ホルスタウロス族の母乳には、精力を高める何らかの効能があるのかもしれない。

「俺も、もっと恵と…したい」

「ほんと?やったぁ♥♥…それじゃ今度はもう片方のおっぱいを吸わせてあげるね♪」

 そう言って彼女は、母乳の残滓がこびりついたそれの隣にある、艷やかで瑞々しいもう一つの果実を差し出してきた。
 俺は問答無用でそれにしゃぶりついた。彼女は短い嬌声を上げ、再び腰を揺らめかしはじめる。
 性の渇望を原動力として、互いの肉体を延々と貪り合う。この胸を焦がすほどの激しい情動が鎮まるのが先か。体力の限界を迎えるのが先か。
 途方もなく終わりの見えない快楽の饗宴に、ただその身をやつしていくばかりだった
17/08/09 22:17更新 / ヨルテ(元たけかんむり)
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