連載小説
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後日譚:アンの故郷
月が照らす夜の、辺り一面に広がった青い海。その海面に一隻の船が浮かんでいた。一家族がそのまま住めるほど生活環境の整った大きな船。
その船の一室で俺とアンは行為に及んでいた。



「……んぁ、あッはああぁあ!」
「……ク、っ…!」
どうしようもないほど甘美な感覚が俺らを襲い、喘がせる。だがそれでも俺の上に跨ったアンは俺のそれに腰を打ち付け、快楽を感じさせる。
「レイ、ジィ……、キスッ、…あんっ…して……!」
アンの吐息混じりの声が耳に張り付く。
「……っ、あぁ」
俺は上体を起し、アンの淫靡に蕩けた表情に顔を近付け、キスをする。するとアンは俺の頭と首にを回し、唇を押し付け舌を絡ませて来た。
「ん、む……、ちゅ…んふ……」
彼女の舌が俺の口内の至る所を刺激し、荒くなったお互いの息が混じり合う。
アンは夢中でキスに興じるが、それでも上下する腰を動かし続けていた。
そんな状態の所為か、俺はそろそろ限界に近づいていた。
「アン、そろそろ……!」
「うん、ぼくもっ……ぁふ、イク!」
直後、俺らは揃って絶頂を迎えた。

「ん、ぁあああああああああああああああああああああああ!」
「……っく、はぁ!」

俺とアンは力尽きて倒れ込む。上に重なったアンの、唇から淫らに垂れ下がった唾液が艶かしい吐息と共に俺の胸に零れる。
数分間そのままの状態だったが、俺は惚けきったアンの顔を覗き、口を開いた。
「ハァ、ハァ……、今更だけどさ、……良いのかよ、こんな所で?」
この船に乗っているのは俺達二人だけではない。俺達はアンの故郷に向かうためにこの船の元々の持ち主である夫婦に頼み、同乗しているのだ。
つまり俺らは他人の船で情事を行っていたのである。もしばれたら最悪怒られるじゃ済まない。
だが、俺の不安を余所にアンは微笑んでいた。
「大丈夫だよ。あの二人も魔物の夫婦だしこれくらいは容認してるさ、それに……聞こえるでしょ?」
「?」
何が聞こえるのか、と耳を澄ませてみる。
すると、遠くから何やら女性の喘ぎ声が聞こえた。
「……なるほど。向こうもか」
この世界、特に魔物達は性行為やら何やらにはかなり前向きだった。アンが前に説明した魔物の話は真実だったのだ。話を聞いた時は信じられず、アンだけが淫乱なのかと思っていたのだがそれは甘かった。酷い者は人目を気にせず平気でしていた奴らも居たのだ。さすがに呆れるしかない。
「と言う訳で続きを――」
「これ以上は体力が持たん。寝る」
「えー!もっとしようよ!」
「物事には限度ってものがある。もう四回もしてんだぞ」
「四回はまだまだ少ない方だよ。向こうは絶対十回以上はやるって!」
「だとしても俺は限界だ」
さすがにもう眠い。
きっぱりと言い張ると、アンは不満そうに顔をしかめ、俺の腹から横に転がり移動する。
……仕方ない。
「……ん」
俺はアンの唇に自分の唇を重ねた。
「今日はそれで我慢な。それに、これからは何時だってできるだろ?」
「…………」
アンはポカーンと俺の顔を眺めた。
「……仕方ないな。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
俺達は互いに向き合ったまま、微睡に浸るのだった。



そして、目的の大陸に上陸し、馬やら何やらで走り続けて約一週間。
長い旅路の末、俺達はやっとアンの故郷にたどり着いた。
そして、彼女の実家の前で、俺は目を見開いた。
「……これ、お前の家なのか?」
「そうだよ。びっくりした?」
それは家、と言うよりも邸宅だった。まぁ家には変わりないか。
でも、流石に放浪娘のアンからは想像が着かないほど立派な建物だった。母がヴァンパイアだと言っていたがそのイメージに反しない建物だ。
アンは門を開いて庭を進む。俺もその後に続く。
巨大な扉の前に着くと、アンはコンコンとノックした。
すると、数秒もしない内に扉の向こうから女性の声がする。
「はい、どちら様でしょうか?」
「リリィ?僕だよ〜!」
「お嬢様!?」
女性が驚愕の声と共に扉を開けた。
……初めて見た。生のメイドだ。しかもそこらのメイドカフェで見るメイドよりも様になっていてコスプレ感が全然ない。さらに、言うまでもないが美人だ。
「久しぶり〜でただいま〜!」
「お、お帰りなさいませ!お嬢様!……そちらの方は?」
慌ててかしこまり、お辞儀をするメイド。頭を上げると、彼女の視線は俺に向いた。まあ気になるよな。
「ああ、うん。紹介するね。とうとう見つけました!彼氏のレイジで〜す!あ、レイジ、メイドのリリィね。種族はキキーモラだよ」
高いテンションで俺の腕に抱きつくアン。俺はぎこちなく頭を下げる。
「あ、どうも」
「…………」
メイドのリリィは固まっていた。まるで石になったかのように動かない。
しかし、数秒後、

「お嬢様が彼氏を連れてきたああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

リリィの叫び声が屋敷中に響き渡った。



「すみません、メイドが急に叫びだして」
「い、いえ。気持ちは何となくわかりますから」
「……レイジ、それどう言う事?」
俺は屋敷内に案内され、アンを交えて彼女の両親と対談していた。
「それにしてもアンが本当に婿を連れて来るなんて、私も嬉しいわ」
「いえ、まだ結婚していませんけど」
「これからだよ!」
「そう、なら式を挙げないと!」
「……そうですね」
「…………」
俺とアンと母親で話が盛り上がっている中、一人だけ沈黙を守っている人がいた。見た目は父親と言うにはかなり若く、顔も美形だ。だが、眉間にしわを寄せているせいでかなり威圧的な空気を放っている。
それを見かねた母親、カイラさんが彼に声をかけた。
「ほら、いつまで黙ってるの。可愛い娘にとうとうお婿さんが出来たのよ?」
「仕方ないだろう」
アンの父親、ギルムさんはしかめっ面のまま答える。
そりゃ、娘に彼氏が出来たとあっては父親として納得はしな――

「娘には一生婿なんか来ないと思っていたんだ。こんなに嬉しい事なんかあるか!!」

ギルムさんは号泣した。あのしかめっ面は涙をこらえてただけだったのか。
「パパそれ酷い!」
しかし「一生婿なんか来ない」と思われていた娘は不満そうだった。
それにしても親にも言われるって余程彼氏ができなかったんだな。アンは。最初に会った時の俺の指摘はあながち間違ってはいなかったらしい。
涙を拭いたギルムさんは真剣な眼差しで俺の方を真っ直ぐに向いてきた。
「レイジ君と言ったか。どうか娘を幸せにしてやってくれ!」
「あ、はい。もちろんです」
頭を下げたギルムさんに、俺は二つ返事で答える。まぁ、答えは決まっていたからな。
「ところで式はいつ上げようかしら?披露宴もやるでしょう?式場はここで良いとして、招待とか食材とかいろいろ準備もあるし、あぁ娘のウェディングドレスを見る日がついに来るなんて!」

……何だか、眩しいな。
一瞬、そんな風に思った。
俺にとって、家族は他人と同じ様な感覚だった。感情が希薄だったのもそうだけど、何より家族に何の思い入れが無かったからだ。
他人が見れば立派な思い出でも、俺にとってはそうでもない記憶がほとんどで、思い返してみれば良い記憶も悪い記憶もない。どれも普通だ。
俺は、自分の家族が好きだったのだろうか?それとも嫌いだったのか?
……考えてみても分からない。今更どうとも思わない。
でも……。

「よし、子供服も買っておかないとな!」
「あなた、まだ早いわよ」
「でももう何回もしてるし、出来てる可能性もあるんじゃないかな?」
「何!?」

……………………。


「……はは」

これから出来る家族は、きっと、今までで一番好きになれる気がした。
15/02/05 01:42更新 / アスク
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■作者メッセージ
いや〜、やっと終わりました一作目。
この作品はかなり土壇場の即興で作った物なので自分で読み返してみてレイジ君の感情希薄設定が急に出てきた時は「あれ?」って思いました。
これからもちょくちょく書いていこうかなーと思っているのですが、春からかなり忙しくなるのでちょっと不安感が……。
まぁ都合が合う時にやっていきます。

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