連載小説
[TOP][目次]
前篇
雪のように白い髪をなびかせた女が一人。月夜に照らされて、それは美しく輝いていた
一歩、彼女が俺に近づく。体が凍り付きそうな位寒い。
「ねえ、知っていますか?」
また一歩近づく。寒い。体はピクリとも動かない。
「雪女に見初められた男の人は……」
さらに一歩近づく。寒い。心臓も動くのを止めてしまいそうだ。寒い。
「絶対に逃げられないんですよ……?」
ああ……誰か……助けて……

………

……


窓から差し込む日光だけが照明の店の中、俺は黙々と床にモップをかけていた。
ここはとある国の小さな酒場。名前は〈フロストフラワー〉。夜になるとひっそりと開かれる男達の憩いの場。しかし今は店も開いていない昼時。
一しきり掃除が終わり、俺は椅子に腰かけ少しくつろいでいると、扉のベルがカランと音を立てた。
白い髪に青白い肌、ジパングの装束に身を包んでいた。人づてに聞いたことのある風貌でピンときた。彼女は雪女。ジパングを代表する魔物娘の一人だ。
「あのう、すいません」
鈴の音の様な綺麗な声で、彼女は尋ねてきた。
「ああ、いらっしゃいませ。フロストフラワーにようこそ。ただ、今はまだ店開けてないんですよ」
俺はなるべく丁寧に喋る。普段、男どもばかり相手しているので、紳士的な振る舞いはなんだかぎこちなくなってしまった。
「いえ、そうではなくてですね」
「……?ではなにかご用があるんですか?」
「ええ、真に不躾な話ではあるのですけれども……」
彼女は申し訳なさそうに、でも顔には笑みを浮かべて。
「私をここに泊めてほしいと、そういう事なのです」
どうでしょうか、と俺に問いかけたのだ。

「まあとりあえず腰かけて」
「あら、すいません」
テーブルへ案内し、ひとまず彼女を座らせた。対面するように私も席に着く。
「それで、え〜っと……」
「サクラ」
彼女は言う。
「私はサクラと申します」
「サクラさんね」
さくらという言葉で、昔、両親がジパングに連れて行ってくれたことを思い出した。桃色の花弁が舞い散り、吹雪のように河原を染めていた景色は今でも目に焼き付いている。
「素敵な名前ですね」
「ありがとうございます」
彼女は少し照れたように笑った。
「で、サクラさん。うちに泊まりたいってのは?」
「はい。私、今日初めてこの国に来たのです」
彼女の説明を整理しよう。彼女は来てそうそう泊まる宿屋を探した。しかし、運が悪いことにどこも満室だった。何とかいい場所はないかと探している所でここを見つけたようだ。
「たしかに、うちには空き部屋があるが……」
元々宿屋だったものを改築して作った酒場だったので、上の階には泊まれるような部屋があり、俺もそこで寝泊りしていた。
「あまりおすすめしないよ。夜は酒場だからうるさくなるし、探せばもう少しはいい場所があると思う。折角の旅行なんだ、いいとこに泊まったほうがいい」
「構いません。雨風をしのげれば拘りはありませんし、それに旅行で来たわけでは無いのです」
「旅行じゃない?では何か仕事でも?」
聞くのは失礼かもしれないと思ったが、何故だか気になってしまった。
「……探し物です」
「探し物?」
「運命の、運命の旦那様をさがしているのです」
「……はあ」
なんとも気の抜けた返事が出てしまった。冗談かと思って彼女を見たが、屈託のない笑顔から察するにどうやら本気らしかった。
「あー……因みに。その運命の人がここにいるって根拠は?」
「あります。私の、女の勘がそう言っています」
サクラさんは依然として笑顔。その顔は誇らしげにも見える。
「……成程」
全然納得出来ていないが、詳しく聞くのも野暮だと思った。女という生き物はよく分からない。魔物娘においても、それは当てはまるようだった。
「あんたが構わないってならいいんだ。部屋を使えるようにしておくからちょっと待っててくれ」
「わあ、助かります!ありがとうございます、……え、と……」
彼女が口ごもる。そういえば俺の自己紹介がまだだった。
「俺はミドレって言うんだ。よろしく、サクラさん」
「ありがとうございます、ミドレさん」
ミドレって素敵な響きですね、と彼女は青い頬を淡く桃に染めた。人に名前を褒められたのは、初めてかもしれない。


日が落ちて、街路の明かりが灯りだすと、大人の時間が始まる。人々は労働の疲れを癒すため、今日も酒場へ足を運ぶ。
〈フロストフラワー〉はいつもの賑わいを見せていた。
「おう、ミドレ!蜂蜜酒を樽で持って来い!」
カウンターの端で大声を上げたのは、ジェフという初老の太った男。通称〈蜂蜜酒のジェフ〉。理由は言わずもがな。
「家の蜂蜜酒を全部飲み干されちゃあ、かないませんよジェフさん。瓶で勘弁してください」
と、戸棚を開けて瓶を取り出そうとしたが。
「あれ……」
蜂蜜酒がない。奥に行ったかと思って探したが、やっぱりない。
「すいません。ちょっと待ってもらえますか?」
俺は慌てて地下室に行き、酒を探し始めた。とはいうものの、薄暗い倉庫で蜂蜜酒を探り当てるのは時間がかかった。


ようやく蜂蜜酒を見つけて息を切らしながら酒場へ戻ると、何やら酒場の様子がおかしい。
「一体何だ?」
いつもとは違う様子に戸惑い、俺はゆっくりと中に入った。
「あら、お帰りなさい」
見ると、サクラがバーに立って、当たり前のように接客をしていた。ご丁寧なことにジパングのエプロン、割烹着まで身に着けて。
「何をしてるんだ!?」
驚きと怒りが頭の中で混線し、自然と大声が出てしまった。
「下が騒がしかったので、降りてみたらミドレさんが降りませんでしたので……」
お店の番をしていました、とサクラはその笑顔を崩す事無く言った。
「そんな事しなくても……」
「まあまあミドレさん!俺達も頼んだんだよ。サクラさんの料理が食ってみてえってさ!」
そうだそうだと騒ぐ酔いどれ達。すでにお客の心を掴んだらしく、この店に俺の味方はいなかった。
「分かった。それについてはもういい。で、何を作ってたんだ?」
先程から嗅いだ事の無い、けれどもどこか懐かしい匂いが鼻を擽っていた。
「これですね」
サクラは大きな鍋に入った煮物を小皿に盛り付け、俺に差し出した。
「これは……なんだ?」
それは、ごろっとした芋とにんじん、そして薄切りにされた肉が、褐色のスープで煮込んだような物。
コンソメ煮でもビーフシチューでもない。こんな料理は初めて見た。
俺は得体の知れない何かをスプーンですくうと、恐る恐る口へ運んだ。
甘辛い煮汁、それがよくしみ込んだ野菜。何とも優しい味わいだった。俺はゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。
「……うまい」
そんな感想が思わず口からこぼれた。不思議と心が落ち着く味だった。
「あら、よかったぁ」
サクラは胸を撫でおろした様子でそういった。
「これ、肉じゃがというジパングの料理なんです。お口に合わなかったらどうしようかと思いました」
ほっとした彼女の顔と肉じゃがのおかげで、俺の怒る気持ちは引っ込んでしまった。言葉に詰まって何も言えず、もどかしい気持ちで彼女を見つめた。
「サクラちゃーん!肉じゃがお替わりー!!」
客の大声に引き戻されて我に返った。
「はーい、ただいまお持ちしますね」
サクラは肉じゃがをもってお客の元へ小走りで行った。ふと、店番を頼んだジェフを探すが、その姿はどこにも無かった。代わりに小さな袋と、それを重しにするように置手紙があった。俺はサクラにばれない様に静かにそれを懐に隠した。
その日から、サクラは酒場で働くようになった。
彼女が来てから十日ほど経ち。雪女が旨い料理をだす店として話題になり、酒場はいつも以上に繁盛していた。しかし、俺にとってそれは少々好ましくない状況だった。
それでも客が喜ぶのであれば、俺も努力を怠るわけにはいかなかった。
「繁盛してるのは、きっとミドレさんが謙虚で真面目な方だからですね」
サクラはころころと笑いながらそう言ったが、密かにサクラファンクラブが出来ている事は、彼女自身露知らぬ事実だった。



今日は休日。丸一日使って酒と食材を仕入れる日だった。この日は一人でいるのが決まりで、今日も質の良い野菜を仕入れるため目を利かせていたのだが……
「いいお天気ですねぇ。絶好の買い物日和です」
隣でサクラが空を見上げていた。真剣なこちらを他所に、およそ因果関係を感じさせないのんびりとした発言だった。
遡る事今日の朝。
「私もご同行させてもらってよろしいですか」
いざ出かけようとした時、サクラに呼び止められたのだ。
「婿探しはもういいのか?」
「市場に行けば見つかるかもと思いまして」
それはどうかと思った。行商人というのは大抵、危険な長旅の途中で魔物に襲われて半ば無理やり夫婦になる者や、護衛で雇った魔物娘と恋に落ちてそのまま結婚する者が多い。要するに既婚者ばかりなのだ。
しかしそれをいう事は無かった。彼女と一緒に行きたかったからでは断じてない。この十日で彼女という人間、いや魔物を、全てと言わずとも半分くらいは理解したつもりだ。
ジパングの女性は大陸の女と比べてか弱くおしとやかと聞くがデタラメもいいとこだ。彼女たちはその強かさを丁寧な言葉づかいの中に隠しているに過ぎないのだ。
加えてサクラは度胸があり、一度決めた事を破らない頑固さも持ち合わせていた。そんな彼女を知っているから、俺は言わなかったのだ。決して怒らせると怖いからではない。

買い込んだのは肉、野菜、魚など。そして勿論酒だが、実は店に出す物は主に配達任せで、市場で買い付けるのは中々出回らないものだけだ。今回買ったのは米で出来たジパングの酒だった。
サクラの作る料理にはどうやら米の酒が合うらしく、それならば店で出すほかあるまいとジパングの店を訪ねて何本か仕入れる事にした。しかしいざ店に入ってその銘柄の多さに驚愕した。たかが島国の酒と侮っていた俺は当惑したが、ジパング酒に詳しいサクラに選んで貰ったお陰で事なきを得た。結局彼女を連れてきたのは正解だったらしい。
市場も一通り見終わって、俺とサクラは店に帰ろうとしていた。ふと、サクラが足を止めた。
「どうしたんだ?」
彼女の視線を探ると、新しめの店があった。短いカーテンのような物に、「瀬戸物屋」という見慣れぬ文字が書いてあった。
「見てみるか」
「え、いいんですか?」
「ああ、構わんさ」
何のお店かは分からないが、彼女は今日は全く収穫が無かったのだ。酒の事もあるし、これくらいはしてやろうと思った。
中を覗いてみると、棚に白い食器が所狭しと積み重ねられていた。どうやら食器を扱う店らしい。
サクラは目を輝かせ、小さな食器をじっと見つめていた。そっとしておいた方がいいと思い、俺は店の前の商品をみていた。
しかし、こういう物にはあまり明るくないので、何に使うかも分からない小さな小物を手に取り眺めているだけだった。
自分のしている事の無益さに気づき、サクラのところへ戻ることにした。どうやら彼女は何か見つけたようだ。
「あ、ミドレさん。見て下さいこれ。可愛いでしょう?」
と、両手で大事そうに持つそれを俺に見せて来た。それは取っ手の無いコップのような物で、白い地に桃色の桜吹雪が描かれていた。
「湯呑っていうんですけどね。私気に入ってしまいました」
サクラは店の人を呼び、お金を支払った。その光景を見てると、俺も何か買いたくなってしまった。
「すいません、それの大きめの奴ってあります?」
別に買うのは何でもよかった。サクラの選んだ食器のデザインが気に入った、という単なる思い付きであった。
「え……?」
何故かサクラは面食らった顔をして顔を紅潮させたが、その時は理由が分からなかった。
「え?ああ、ありますよ。〈メオト〉ですね」
「?まあ、それでおねがいします」
後になって、それはジパングの夫婦がお揃いで使う食器ということを知った時、俺は彼女以上に顔を真っ赤にさせて、しばらくの間は顔を合わせることも出来なかった。
サクラも照れていたが、満更ではないといった様子でお茶を飲むときは決まってその食器を使い、俺の分まで淹れてくれる。
そんな事もあってか、彼女と打ち解けるのにそう時間はかからなかった。


ある日の事、酒場の客もようやく帰りだし、俺は汚れた店内の後片付けをしていた。突然ぶっきらぼうに扉をたたく音。そして、男が一人入ってきた。小柄でハンチング帽を被り、梨のような大きな鼻をくっつけたコート姿の男。
「蜂蜜酒はおいてあるかい?」
入るなり男は尋ねる。
「品切れだよ。常連が飲み干しちまった」
「そうかい。ならオレンジジュースを貰おうか」
俺は黙って頷くと、厨房へと入った。そして、腕に抱えたそれを男の前に置く。ジュースではなく、黒く重いトランクケース。
男はケースを開け、中身に満足するとそれを掴むと、懐から小袋を取り出してカウンターに抛った。
「何か目新しい情報は?」
小袋をかっさらい、男に言った。
「最近、ジパングからの来客がかなり増えてるらしい。人間じゃなく、魔物だがな。それ以外は特にないね」
「そうか……」
ジパングの魔物娘ときいて、サクラが頭をよぎった。酒場には魔物も良く来るのだが、俺は無意識のうちに彼女を気にかけているのだろうか。
「そういや聞いたぜ旦那。魔物娘を雇ったんだって?どういう了見だい?」
男は意地悪そうに顔を歪めて言った。
「成り行きだよ。こっちだってそのつもりはなかった」
「へえ。まあ、仕事に差し支えないなら何でもいいがね。もし邪魔なようなら俺が……」
「やめろ」
酷く暗く、重い声が、考える前に出ていた。
「あの子は関係ない」
多分これは俺の素直な気持ちなんだろう。怒りの感情が音を立てて溢れ出すようだ。男は完全に縮み上がっていた。
「もし手を出すようなら……」
「キャアアアアアアアアアア!!」
突然、上の階からサクラのけたたましい悲鳴が聞こえた。
「とっとと失せろ!」
そういうが早く、男はケースをもって乱暴にドアを開けて出て行った。俺は急いで階段を駆け上る。
「どうしたんだ!?」
自室の前で固まっていたサクラがこちらを振り向く。まるで全身から血が抜けたようにいつもよりも顔を青くして私に駆け寄る。
「ご、ごごご……!!ごごゴゴご…!!」
何か言いたそうに口を開くが、うまく喋れていない。しかし、その様子を察してどういう状況なのかは把握できた。
「そうか、アレが出たか」
サクラは物言わぬかわり何度も首を縦に振り、肯定を示した。
「結構デカかったろう。ここいらは餌も環境も整ってるし、デビルバグになりかけてる奴なんかもよくいるんだ。まあ、取って食われる訳じゃないし適当に追い払えば……」
と言ってる途中、暗い洞穴のような瞳をしたサクラに気づいた。しまった、怖がらせすぎた。
「……すまん」
どう慰めればいいのかわからず、申し訳ない気持ちが言葉に出た。
「とにかく落ち着け。何か飲むか?」
水か酒でも持って来る為階段を降りようとすると、腕を彼女に掴まれてしまった。
「……一緒に、寝て下さい」
か細い声で、呟くようにサクラは言った。


「俺は床に寝る。ベッドは好きに使ってくれ。」
アレに怯える彼女の頼みを断り切れず、部屋に招き入れてしまった。とはいえ、ベッドは一つ、代用できそうなソファも俺の部屋には無かった。
「本当に申し訳ありません……」
ようやくおちついた彼女は先程からおずおずもじもじとした様子でベッドに腰掛けている。
「しょうがないさ。ジパングじゃあれほど大きいのはお目にかかれないだろうからな」
「あら、そういえばミドレさんはジパングにいらしたことがあるのですか?」
「ああ、子供の頃にな。親が旅商人でさ、1年程暮らしてたんだ。」
「そうだったんですかぁ。南の方ですか?」
「いや、北東の村だったな。確か……すずめ谷、とかいったっけ。自然に囲まれた綺麗な場所だった」
詰まる所田舎だったんだがね、と笑うと、サクラは驚いたように目を見開いていた。
「どうかしたのか?」
「あの、ミドレさん。その時に雪童に出会いませんでしたか?」
「雪童?」
聞いたことがある。たしか、雪女の子供は雪童とよばれ、村で子供に交じって遊んでいるのだとか。
「そういえば……」
思い当たる節は、あることはある。村の子供と上手く溶け込めて、鬼ごっこをしていた時の事。俺は鬼の役だった。
ひたすらに走り回って、息を切らして足を止めたとき、木の陰からこちらを見つめる何かに気づいた。
雪でもないのに、雪帽子を被っていたのが印象的だった。駆け寄って話しかけても、顔を俯けるばかりで少女は何も言わなかった。
それをじれったく思った俺は、無理やり彼女の腕を引いて遊びに誘ったのだ。今思うと少々強引だが、そこは子供にのみ許された特権なのかもしれない。
他の連中ともすぐに打ち解けて、にっこり微笑んだ少女に胸がときめいたのも、思い出した。
それから間もなくして俺の家族は別の国へ旅立ち、挨拶もろくに出来ずに村を離れる事になったのだが、今思えばあの少女は雪童だったのかもしれない。
そんな思い出話をサクラに聞かせていると、彼女の驚いた顔は、徐々にどこか悟ったような、納得したような表情へと変わっていった。
「サクラさん。俺の思い出話が一体何だって言うんだ?」
俺はサクラに問いかける。彼女はそれを静かに笑顔で返す。その笑顔は、あの時の雪童の思い出と被った。
「ようやく、会えましたぁ……」
そう言うと、サクラは私の胸に飛び込んで、そして
「んっ……」
唇を、そっと重ねた。


いつの間にか俺とサクラはベッドに倒れこみ、服を着崩していた。
頭に薄雲がかかったように、思考がはっきりとしない。
ただ感じるのは、寒さ。心臓にぽっかり空いた洞から風が通り抜けて行くような、空虚な気持ち。
「あっ……」
サクラを後ろから包むように抱きしめる。意外にもサクラの体は温かく、服越しにその温もりを感じ取る。彼女と体を触れ合わせていると、不思議と寒さは消え失せて行く。ずっと彼女と触れ合いたい。それ以外に今の俺は考える事が出来なかった。
おもむろにサクラの胸元を開く。可愛らしい形をした乳房が顔をのぞかせる。その乳房を包み込むように、優しく揉む。
「んんっ……!!」
彼女の甘い吐息が漏れ出す。心臓の方へ手を添えると、鼓動が手の平越しに伝わってくる。
「もっとぉ……もっと強くぅ……んぅっ……!!」
サクラに言われるがまま、俺は乳房を揉みしだく。親指と人差し指で薄桃色の突起を挟み込み、転がすようにして弄ぶ。
「ああっ…!!乳首ぃ……だめぇ…!!そこはぁ……よわい、からぁ……!!」
言葉で嫌がってもサクラは腕を振りほどこうとはしなかった。俺は執拗に乳首を攻めた。
人差し指でなぞるように乳輪を刺激した。
「あ……はぁ……あんっ……」
サクラは切なそうに声を零す。今度は指で乳首を軽く弾く。
「ひぁあんっ!!」
今度は甲高い声を上げ、ビクリと背を反り返る。どうやら強めの刺激が好みのようだ。
それならば。
俺は彼女の胸へ顔を近づけると、唇で乳首を甘噛みした。
「ふゃぁ!あ、ん!いい!!」
彼女が身を震わせ、油断している隙をつくように下腹部へと右手を伸ばす。着物をずらし、下着のその下のモノへと指を滑り込ませる。そして、激しく動かす。
「あ、は!ひあああ!?」
サクラは目を見開き、俺の服を力強く引っ張る。指で中をかき混ぜる様に、強く、激しく、大きく動かし続ける。
「あ、あ、ああっ!くふううううううんっ…………!」
足をピンと伸ばし、大きな嬌声をあげたサクラは、しばらく快感に酔いしれると、くたり寝ころぶように俺に身を預けた。俺はその身をずらす様に、彼女をベッドへ寝かせる。
「はぁ……ふう……っ……」
時々、ぴくんと体を跳ねさせる無防備なサクラを、のしかかる様にして真正面に向き合う。
「ミドレさん……」
サクラはその細い指を自らの蜜壺にやり、中をを俺に見せびらかす様に開いて見せた。
「どうぞ、いらしてください」
俺は何も言わず、己の張りつめたそれを、サクラの入り口に添えると、一息に奥まで突き刺した。
「あ、はああああぁあああん!!」
入る瞬間、ほんの僅かに顔を歪めたサクラだったが、その表情は蕩けたものへとすぐに変わっていく。
サクラの温度をペニスで直接感じ取る。律動的に蠢く彼女の内部は、口では形容できない温かさで俺をきつく締め付けていた。
「み、ミドレさん。私……幸せですぅ。ずっと想っていた人と……こうして結ばれるなんてぇ……!!」
奥まで入ったペニスを引き戻す。中のヒダヒダが抵抗するように動きを阻害して、自然とゆっくりとした動きになる。
「ふああああぁぁ……」
亀頭部分が顔を出すと、また力強く奥へと打ち込む。
「ひんっ!!」
緩急をつけたピストンを何度も繰り返すうち、サクラの肉壺からはどろりと汁が溢れて、中はヌルヌルとした愛液によって動きやすくなった。
ピストンの動きが早くなり、リズミカルにサクラの最奥へ、コツン、コツンと何度もノックする。ペニスから感じる快楽にただ夢中になっていた。
「あ、あ!あ!はっ!い、い、ん!んぅ!」
サクラも目に涙を浮かべ、口元から涎を垂らしながら、甘美な愉悦に浸っていた。
やがて蓄積された快感が膨れ上がり、俺は焦るように打ち付ける速度を上げる。
「み、ミドレ、さん……!なか……!膣に、出して、くださ……っ!!」
サクラはその脚を俺の腰に回し、十字に組むようにがっしりと固定した。
「っ……!!」
一際力を込め、サクラの子宮にめがけてすべてを放った。
ビュクンッ……と音を立てる様にペニスが白濁した液体を吐き出す。
「ミドレさん、ミドレさああああぁぁぁん……!!」
同時にサクラも達し、中でペニスが握るつぶされるかと思うくらい圧迫された。
その後、多幸感が疲労に変わり、強い睡魔に襲われた。サクラは既に小さな寝息を立てていたので、俺はそれを抱きかかえるようにして眠った。


「すいません」
日の光の眩しさに目覚めると、すでに起きていたサクラが頭を下げていた。
「あれは私のせいなんです」
眠たい頭をたたき起こして彼女の話を理解した。
彼女、いや、彼女たち雪女には男性を誘惑し、魅了する能力をもっているのだとか。昨日俺がサクラを襲ってしまったのも、その力によって理性のタガを外されたかららしい。
「正確には魅了とは違うんですけどね。相手の心を凍てつかせ、目の前の女で温もりを得ようとさせるよう仕向ける能力なんです」
付け加える様にサクラは言った。
「でも、誰彼構わずにこの力を使うわけでは無いんです。少なくとも私は、運命の人と巡り合った時に、その為にだけ使おうと」
そう心に決めて生きてきたんです、とサクラは訴える様に俺を見つめた。
「あの日、山を下りた頃の私は、酷く引っ込み思案だったんです。みんなと遊びたくて、でも恥ずかしくて……。そんな私を、貴方が手を引いてくれたんです」
「嬉しかった……」
彼女は胸に両手をあて、追憶に思いをはせるような、幸せそうな笑みをしていた。
「その時に、私は貴方の虜になってしまったんです。でも、いつの間にか貴方はいなくなっていて……。それから10年経ち、私は貴方を探して故郷を出たんです」
サクラは俺の手をそっと掴んで、引き寄せた。
「10年、ずっとお慕いしておりました。どうか私を、愛していただけませんか……?」
「………………」
彼女の気持ちは嬉しい。その気持ちには正直な気持ちで答えたかった。
「あんたに言わなきゃならないことがある。……言いづらいんだが」
しかし俺は言った。それ故、俺は言うしかなかった。
「俺はお前の初恋相手じゃない。本物はとっくに死んだ」
14/05/21 20:13更新 / 牛みかん
戻る 次へ

■作者メッセージ
後篇もお楽しみに。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33