連載小説
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寮での生活
校門をくぐると、そこは大きな演習場になっていた。
だだっ広いだけの野原のように見えるが、草同士を結んだ簡素なトラップや錆びて投棄されたトラバサミの残骸がそこら中にある。
「テツヤ様。足元にはお気を付けくださいね」
「それはルメリもね」
僕とルメリはその演習場のど真ん中を突っ切るように、学校の施設の中心部へと向かう。危ないから、とルメリは僕の手を握ってくれている。
余計な心配をかけたような気がしたが、何故かルメリは嬉しそうにニコニコと微笑む。
「身長差のせいで親子みたいですよね、私達」
「そうだな。でも子供はもっと小さいからな」
「ふふっ、そうですね、テツヤ様」
 彼女はバイコーンだ。バイコーン族はケンタウロス族やユニコーン族の様に人間の胴体部分と馬の胴体部分が連結したような体つきをしている。そのせいか、どうしても彼女のほうが幾分か背が高くなってしまうのだが、彼女の背はバイコーン族の中でも大柄なほうになるだろう。
 背の大きな魔物であれば、凶暴だと言われるオーガや、高貴な存在と言われるドラゴンなども背が高いと言われるが、ルメリはそれらにも引けを取らないほど背が高い。
 ルメリの正面に立てば、僕の顔の前に彼女の大きな胸がくる。身長差はゆうに30センチ以上はあるだろう。
 僕自身もあまり身長は高くないほうだから、僕よりも背の高い魔物は見慣れていたはずだった。だけど、ここまで背が高いと圧倒されてしまう。
 でも、ルメリはそんな僕の心中を知ってか知らずか、握った手をぶんぶん振り回し、子供のようにまた笑う。
「でも私とテツヤ様の子供だったら、私の血のほうが強いので大きくなると思いますよ。ロロイコ家はみんな背が高いんですからね」

 大きな演習場を抜け、剣戟訓練館と呼ばれる施設の横を抜けると、五階建ての校舎がある。建築技術の粋を集めて作られた立派な校舎だ。
 だがその校舎に今は誰一人としていない。
 いまこのフェリエ王立総合学院に通う全生徒は、巨大な学生寮にいる。
 校舎の脇をぬけた先にある大きな学生寮は、旧学生寮とよばれるものと、新学生寮と呼ばれるものがあり、ルメリが使うのは旧学生寮で、僕が使うのが新学生寮だ。
設備自体にはさほど違いはないがこの学校の男女共学を進める上で重要だとクェイン公家が判断したらしい。
クェイン公家の婿探しの為に王立学院を男女共学にしようとした、という説もあるが、いずれにしても、男女共学なら必要になる設備だ。

まぁ新学生寮はまだ建設中なんだけど。

僕が連れてこられたのは、旧学生寮と呼ばれる建物の少し離れたところにある、森を背にして建てられた、寮母さんたちの為の離れ。
その建物に増築された二階部分が、しばらくの仮の住処になる。

ルメリと別れ、その建物の一階部分の部屋をノックする。
到着後は荷物を部屋まで運ぶ予定だったのだが、ルメリはここまでずっと荷物を運んでくれたので、休むように言ったのである。
それに加えて、二階に上がるように増設されたは貧弱で、ルメリが乗ったら崩壊しそうなのだ。

「は〜い、ちょっとまってください〜」
 部屋から聞こえてきた女性の声に、少しだけテンションが上がる。
 新しい環境になったという気分だ。どんな人なんだろう、という気持ちと、怖い人じゃないといいな、という気持ちが混在する。怖いもの見たさって、こういうことを言うんだろう。
 どたどたと少し慌ただしい音が部屋から聞こえ、しばらくしてからドアが開く。開いたドアからは、ミルクのような甘い匂いと白と黒のコントラスト。それに加えて、柔和な女性には似つかわしくない尖ったツノが覗く。
 そしてもう一つ、とても大きくて溢れそうなほどに大きな胸が目を惹いた。
 現れたのはホルスタウロスの女性だった。
「今日入校予定のテツヤです。よろしくお願いします」
「テツヤさんっていうんですね、よろしくお願いします〜」
 にっこりと微笑み、えへへ、と笑う女性。照れているのか、それとも彼女が初心で、恥ずかしがっているのか。どちらにしてもかわいい事にかわりはなかった。
「とりあえず、あたしのお部屋に……お願いします」
 ドアを開き、促されるまま中に入る。玄関では強引に、それも押し込められるようにして導かれたせいで、靴を脱ぐ暇もなかった。いや、脱がなくていいのか。
「どうぞどうぞ、座ってください。ホットミルクもどうぞ。さっき暖炉に火をいれたばっかなので、ちょっと待っててくださいね」
 ニコニコと笑いながら、彼女は話す。森からの冷気が流れ込んでいるのか、この部屋はよく冷える。
 ホットミルクに加え、暖炉の前の特等席にロッキングチェアを用意してくれるのはありがたい。その寒さに促されるようにマグカップに口をつけると、濃厚で甘い味が舌に纏わりつく。まるでキャラメルの様な甘さだがそれほど甘ったるくなく、癖のない、爽やかな味わいだった。
「おいしいですね」
「ありがとうございます、しぼりたてなので、ちょっとはずかしいです……えへへ」
 彼女はまた微笑みながら、僕の向かいにもう一つのロッキングチェアを用意して座る。そして下腹部の前で手を組んで、もじもじと指を動かす。
「あたしは、ミュリナ・エリンナミルっていうんです。田舎の山奥生まれなので、失礼があったらすみません」
「あ、それはお気遣いなく」
 話しながら、もう一度ホットミルクを口に運ぶ。
「じゃあ、これからの話をします。分からなかったら質問してくださいね」
 そう言うと、ミュリナさんはこの学校の教育方針について語り始める。
 この学校は剣戟科と魔術科に分かれていて、公爵階級及び王族は両方の科の授業が受講できること、それに加えて、実戦形式の演習科目があること。
 そして演習科目では四人以上の班になってチームを組んで行う団体戦演習があり、勝ったチームは相手のチームの一人をチームに組み込み、規模を拡大できること。
 主な説明はその程度だった。
「これで説明は終わりです。これからがんばりましょうね」
 にっこりと笑い、またえへへとミュリナさんは笑う。
 恥ずかしがるのは彼女の性格ゆえなのだろうか。彼女はもじもじと股の上で指を動かし、ふぅ、とため息を吐いた。
「よろしくお願いします」
 僕が握手をしようと手を伸ばすと、彼女は答えるようにその手を握った。
 そして、ぽそりと呟く。
「テツヤさんの手、つめたいですね」
 消え入りそうに小さいミュリナさんの声から、感情は読み取れない。ただ、そう呟いた直後、彼女は今までにない笑顔で笑った。
「私と、心も体も……もっと温まりませんか?」
 彼女は真っ赤に燃える暖炉の炎を見ながらつぶやく。
「え……?」
「…………えいっ♥♥♥」
 意味深な言葉を聞き返す間もなく、彼女が僕をめがけて飛び込んでくる。
 ロッキングチェアが揺れた。
「――あっ」
 そんな声を上げる間もなく、ロッキングチェアは倒れ、手に持っていたマグカップは粉々に砕けて飛散する。
 そしてその衝撃音のあと、ミュリナの唇が僕の唇から声を奪った。
16/12/25 02:21更新 / (処女廚)
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■作者メッセージ
おっぱいおっぱい!!!!
おっぱいおっぱい!!!!

ホルスタウロス、いいですよね。
おっぱい大きくておっとりしてるお姉さんに襲われたいです。
主人公そこかわれ。

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