連載小説
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第一部:運び屋と荷の重い仕事6
「じゃあ、行ってくるぜ」
そう言って俺は魔王軍の陣地を後にする。
あの後、司令官殿(未だに名前が思い出せねぇんだがどうしたもんかな)と依頼品のやりとりをして、
あの野郎、また受領書と納品書と領収書の下にサバト入信願と魔王軍入隊志願書を紛れ込ませてやがった、それもカーボン紙で。

その後、部隊の連中と騎士団の連中に事情を説明し、一つ不思議に思ったのは赤龍の騎士団って奴がここの部隊の傘下じゃねぇってとこだ。何でも、魔王の娘直属の自由行動権を与えられた騎士団らしい。

んで、その途中にだ、人が話付けてる途中でだぞ?領主の野郎“ずぶ濡れになるけどすぐに綺麗になる魔法”を掛けてきやがった。
あいつは「同時に済ませてしまったほうがいいだろう?私だってこう見えて結構忙しいんだ。」とか言ってたが、間違いねぇ、ありゃぁ絶対楽しんでやがる。
こっちとしてはとんでもねぇ迷惑だ、いいか、お前?人と話してる最中にいきなり滝に打たれてみろ?滝のような雨じゃねぇぞ?ジパングにあるような正真正銘の滝だよ、ったく、ふざけんなってんだ。

その割にはだいぶ乾いてるじゃねぇかって?
そりゃあ、おめぇ、こちとら身体の動かし方なんかは大方叩き込まれてるんだ。水の飛ばし方なんてのも朝飯前さ。

さて、向こうの方に陣営が見えてきたな。
出来れば今夜のうちにシメときたいもんだ。
今日は月もねぇ、元・暗殺者の俺にはこれ以上の好機はねぇしな。

「んで、おめぇさん達、いつまで隠れて付いて来るつもりだよ。」
暗殺者相手に尾行を仕掛けようなんざ、頭ん中花咲いてるに違いねぇ。
姿も見えねぇし、音もしねぇから問題ねぇとは思うけど、このまま行って後で面倒事を背負い込むのも御免だからな、このへんで決着付けとかねぇと。
振り返った先に出現する影三つ、
見た目幼女な覇王で司令官と、
銀髪赤目の魔界騎士:シルヴィアと、
緑蜥蜴な軍団長:イライザ、
魔法で隠れてた訳か、通りで音がしない割には気配が駄々漏れだった訳だ。

「どうしてばれたのじゃ?光も音も完全に遮断していたはずなのじゃ。」
心底不思議そうな表情を浮かべる司令官殿、ちょいとからかってやるか。
「山張ってみただけだ。」
「しまった、これは孔明の罠じゃ。」
「いや、少なくとも軍の指揮権持ってる奴がその言葉を発するのは不吉だと思うぜ。山張ったてのは嘘だけど。」
「して、本当の所はどうして気づいたのじゃ?」
「気配だよ、気配。お前さん以外のお二方は分かってると思うがな。」
「どうして誰も進言せぬのじゃー!おかげでワシの高みの見物を決め込む計画が失敗してしまったのじゃー!」
若干涙目になりながら部下を責める司令官殿、計画名に才覚を感じられないのは…今は勘弁しといてやろう。

「司令官殿が『大丈夫だ、問題ない。』とおっしゃったので進言は控えておりました。」
と、軍団長のイライザ。司令官の言葉に一抹の不安しか感じないのは俺だけか?
「私は気配を消していたから気づかれていなかったと思うぞ、そうだろう、ナギ殿?」
騎士の割には見事な気配の消し方だったが、気配を“消す”ってのと“隠す”ってのは違うんだよな。

「そんな、二人してワシを嵌めたというのか。ところで、気配ってなんじゃ?」
そこからかよ、まあ軍の指揮をしてたり、後衛で魔法を放つお前さんには無縁かもしれないな。

「難しいな、アイツ風に言うと生命及び意識を基としたエネルギーの一種とか言うのかもしれないが、まあ、何て言うか“気”だ。」
「いまいちよく解らない答えじゃな。」
「そもそも言葉で説明するようなものじゃねぇんだ、解んなくって当然だ。」
本当は実際にやってみせるのが早いんだが、場所が場所だしな向こうに気付かれると後が面倒だ。

「それで?どうしてお前さんたちは付いてきたんだ?」
くだらねぇこと話している間に機を逃すわけにはいかねぇんだ。

「ワシは領主殿に手紙を渡すように頼まれての『事が済んだ後に読むように』とのことじゃ、それと兄上のカッコ良い姿を一目見たくて付いてきたのじゃ。」
「手紙は預かる、ありがとな。ただ、今から見るものを格好良いとか思うんなら、てめぇは俺とおんなじ外道の沼に腰までどっぷり浸かってるよ。」
そして俺は受け取った手紙を懐にしまう。

「私は司令官殿の護衛と、ええと…その…ま、まだ独身ですので強い戦士をひと目見ようと付いてきた次第で…って何を言わせるんですか恥ずかしい!」
いきなり赤面して逆上するイライザ、なにも俺はそこまで言えといった覚えはねぇぞ。
「私も独身だからな、強い男には興味がある。それにナギ殿、貴殿はサムライというものなのだろう?サムライは珍しいからな、見れる機会があるならそれを逃す真似はしたくない。」
何か、この二人俺のこと勘違いしてねぇか?要らねぇ誤解は解いておくに限る。
「おめぇさん達何か勘違いしてるようだから言っておくが、俺は侍じゃねぇぞ、誇りなんてものは何一つ持たねぇ、そうだな、どちらかと言えば忍者って言ったほうが正しいだろうな。」
本当の所は仕事人なんだが、言っても解らねぇだろうしな。
そんな俺の言葉に目を輝かせる三人、何だ、俺なにかまずい事でも口にしたか?

「そうだったのか、兄上はニンジャだったのじゃな!あとでサインをくれんかのう?」
「ニンジャ!?あのジパングにいるという幻の戦闘部族ニンジャなのか!後で手合わせがしたいのだが駄目だろうか?」
「それは本当かナギ殿!シュリケーン!シッショー!で有名なあの忍者なのか?私も是非手合わせがしたいぞ!」
お前ら、忍者についての知識が根本から間違ってるんだが、その知識は一体どこで手に入れた。
こいつらと話をしてると本気で機を逃しかねない、早く行こう。

「サインだの手合わせだのは後でやってやるから、お前等はさっきみたいに姿消して見てろ。それとシルヴィア!てめぇ得物も持たずに戦場に来るとはどういう魂胆だ?確かにてめぇの剣をたたき切ったのは俺だが、今回はこいつを貸してやるから何かあったらこいつでどうにかしろ!」
そう言って俺は腰の居合刀を投げつける、騎士が居合刀の使い方を知ってるはずもねぇが振り回すぐらいはできるだろ。
「ありがたい、恩に着る。」
「礼言う暇があったらとっとと自分の得物見つけてこい!じゃあな、行ってくるぜ!」
我ながら酷い会話の切り方だと思う、これでも師匠よりは饒舌な方だ、師匠よりは。

悠然と歩き出す、
敵陣に向かって、
気配は消さず、
こいつは脅しだ、
民に手ぇ出すことがどういう事か思い知れ。
思考を巡らす、
“人”を滅さず相手を負かす方法を、
命一つでことを成し遂げる方法を、
目標は一つ、
手段は一つ、
なら、やるしかねぇだろう。

「鎌居 凪!参る!」
そうだ、この時だけ、俺は凪だ。
11/06/04 23:57更新 / おいちゃん
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■作者メッセージ
まずは謝罪を、前回、次回で第一部終了を予告しましたが、あと二回ほど続く予定です、楽しみに待っていただいた方、申し訳ございませんでした。

今回ネタとしてカーボン紙を利用しましたが、今の人はカーボン紙と言ってすぐに頭に浮かぶのだろうか?なんて思った平成生まれの昭和育ちなおいちゃんです。
それでは、ご意見、ご感想、ご指導の方お待ちしています。

師匠「私…の、出番…まだ…?」

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