連載小説
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出会い
とある小高い丘の上に、ポツンと佇む大きな城
その城の最奥、謁見の間にて

「……のぅ、セグリオよ」

ドラゴンの少女が玉座に座って側近に問いかける

「なんでしょう、ピオーネ様」

側近のように横に立つアヌビスが応える

「…最近、遊び相手が来ないのじゃが」
「ピオーネ様、遊び相手でなく討伐隊の方々です」

ドラゴンは、暇を持て余していた。

「まったく……ちょっと前までは毎日のように我に挑んでくる奴らがおったというのに……」
「良いことではありませんか。ピオーネ様が最強だという証拠ですよ」
「…なるほど!我が強すぎるのか!」
「そうですよ、だから何も心配することなんてありませんよ」
「うむうむ、そうじゃのぅ。我は最強なのじゃ。覇王とはいつの時代も孤独なものよのぅ…フハハハハハ‼‼」

そのドラゴンは、単純だった

……………………………………………………

「…ここか」

僕は、とある城の前に来ていた

「………ドラゴンってのは、城より洞窟に住むもんだと思ってたな…」

街で何でも屋をやっている僕、ジャトレー・リベルタは、とある神官からドラゴンの討伐を依頼されたのだ。なんでも、『城に住み着いたドラゴンやその配下の魔物達が、近くで暴れまわっていて困っている』…だそうだ
魔物の討伐は、というか魔物に会うのも初めてだが、まぁ、なんとかなるだろう。

「む?おいそこの者!この城に何か用か⁉」

女性に声を掛けられた。どうやら門番のようだ

(……これが魔物か。初めて見たけど…やっぱりやり辛いな)

話をだけは聞いた事がある、魔物は、美しい女性の姿をしているのだ
門番の女性は2人いて、片方は下半身が甲虫のようになっていて、角と思われるパーツは二本の大きな剣になっている。もう片方は、角が頑丈そうな盾になっている。顔が瓜二つなところを見ると双子だろうか

それにしても、本当に美人だなぁ……

「えー…この城に住むドラゴン討伐の依頼を受けて来た。…無駄な戦いはしたくないから通してくれないか?」

ダメ元で頼んでみる。まぁここで通すような門番がいるわけ…

「何⁉ドラゴン討伐⁉おまえ、本当だな?……スクード、私はセグリオさんにお伝えしてくる!」
「ああ、頼んだ!えー…貴方、名前は?」
「え、あ、ジャトレーです」
「ジャトレー殿、どうぞこちらに」
「あ、はい」

通れた

……………………………………………………

「……おかしい」

僕は客室に通された
豪華な装飾の施された家具の数々、特に目を引くのは僕が4人横並びに寝ても余裕がある程の大きさで、天蓋まで付いているベッド。試しに触ってみたが、かなり上質な素材が使われている
さらに、部屋の奥には大浴場かと見間違うサイズの風呂場がある
また、先程犬耳のメイドさんが、ニコニコとした笑顔で紅茶とお菓子を持ってきてくれた

つまるところ、待遇が良すぎるのだ。
ちなみに僕は基本野宿か安宿のため、何だか気が引けてしまい、椅子にちょこんと座ってジッとしている。

(ん?あれ?僕、ちゃんとドラゴン討伐しに来たって言ったよな?)

そんなことを考えていると

コンコン「ジャトレー様、お待たせいたしました。どうぞこちらへ」

さっきの犬メイドが呼びに来た

僕はメイドの後をついていきながら、気になっていた事を質問してみる

「あの….僕、ドラゴン討伐に来たって言いましたよね?なんでもてなされてるんですか?」

メイドは、ニコニコとした顔で

「それは勿論、貴重なピオーネ様のお相手ですもの。待遇を疎かにする訳にはいきませんわ♪」

…矛盾している。今から戦う相手にこんなに良い待遇を与えるわけがない。
いや、それとも死ぬ前ぐらいは良い気分にさせてやろう、とかそういうことだろうか

……………………………………………………

ちょっと前

「セグリオ様!」

バン!と大きな扉をあける音が王の間に響き、1人のソルジャービードルが飛び込んでくる

「…スパーダ、入る時はノックをしなさい」

セグリオ、と呼ばれたアヌビスが嘆息しながら答える。

「あ、すみません…ってそれより!緊急事態です!ドラゴンを討伐しにきたという者が現れました!」

セグリオは、ピクリと一瞬眉をひそめると、直ぐに無表情になり、

「……本当ですね?」
「ええ、今までの討伐隊達とはオーラが違います。彼、かなり戦闘慣れしてるかと」
「そうですか…わかりました。すぐにここにお通しして。あと、スティカにパーティの準備もお願いしておいて」
「ハッ!」

スパーダと呼ばれたソルジャービートルは、一礼して部屋を出て行った。

それと同時に玉座に座っていたドラゴンの少女がぴょこんと立ち上がり、

「セグリオ!相手が来たとはまことか⁉」
「ええピオーネ様、久々のお相手です。勇者ではない様ですが…」
「そんなことはどうでも良い!あぁ〜…ひさびさの遊び相手だ!」
「……手加減してあげてくださいね」
「わかっておる!」

……………………………………………………

「着きましたわ♪ピオーネ様のお相手、どうぞよろしくお願いします」

やがて、他の部屋に比べて一層大きな扉の前に着いた。
ここまでの道のりもおかしいと思った
僕は昔から魔術が得意で、魔力の探知をしてみたのだが、この城からは悪意のある魔力を一切感じない。むしろ、賑やかな城下町のような、楽しげな雰囲気のみが漂っているのだ。

(…いや、ここまではただの居住スペースだったのか?)

扉の向こうからは、膨大な量の魔力を感じる。2人…ドラゴンの他にも誰かいる様だ

(まぁ何にせよ、いつも通り倒して帰るだけ)

俺は、余計な考えを追い出し、気持ちを仕事仕様に切りかけて扉を開ける



そこは、どんな城にもあるであろう、謁見の間。そんな感じだった

その玉座に座るのは、

「おぉ、よくぞ参ったな!待ちくたびれたぞ!」

緑の鱗を見に纏う、美しい少女だった

……………………………………………………

「…えーっと……」

何の冗談だこれは
皆が恐れているのはこんな幼気な少女なのか?いくら魔物とはいえ、こんな少女を怖がるとは、少し滑稽に思えてくる

「ふふん、見ろセグリオ!我に怖れをなして声も出ないようだぞ!」

竜の少女はとても無邪気に、嬉しそうに隣の犬耳の側近に話しかけている

「ええ、そうですね」

一方、犬耳の側近はそれを軽くあしらっている

…見れば見るほど凶悪なドラゴンには見えずない。だが、色々な人を見てきた僕にはわかる、彼女ら、恐ろしく強い

(………まぁ相手が誰であろうと、それが仕事なら……)

腰に提げた剣の柄に手をかける

(そこに私情は挟まない…!)

その柄を握りしめ、抜き放つ

「……僕は街の依頼で君を討伐に来た。恨みはないが少し痛い目を見てもらう!」

言い終わる前に僕は駆けだした。狙うはドラゴンただ1人

セグリオと呼ばれた側近は、僕の行動に反応してこちらを見、部屋の後ろにスタスタと下がっていく
ドラゴンの少女は完全に油断していた様で、キョトンとこちらを見ている

(もらった…!)

そう確信して、ドラゴンの少女の胸に剣を向け、突き刺す

しかし、手応えは全く無い

「ほう!いきなり攻撃してくるとはな!今までの奴らは我の気迫にビビってそんな事してこんかったからな!」

上から声が聞こえてくる

(まさか!あの状態で躱すのか⁉)

見上げると、少女は大きな翼で飛んでいる。なるほど、あれも作り物ではないのか

「よーっし!次は我の攻撃じゃ!」

少女は身を翻してドロップキックをしかけてくる

それを軽く身を引いて躱そうとして

瞬間、嫌な予感がして、僕は思い切り後ろに跳んだ

凄まじい勢いで飛んできた少女は、轟音と共に僕のいた場所に着地し、瓦礫を撒き散らす

もうもうと立ち込める砂煙の中、彼女を中心に直径5メートル程の大きなクレーターが出来ているのが見えた

(……馬鹿げてる…どんな力してるんだ)

近くにいたら衝撃で吹っ飛ばされていただろう

「まだまだぁ!」

すぐに体勢を立て直した少女は目にも留まらぬ速さで僕に肉薄し、鋭い爪を振るう

「……っ!………おっと!」

僕に振るわれる爪を紙一重で躱していく。その一発一発が床にヒビを入れる怪力だと思うと、躱すたびに冷や汗が吹き出る

「ふん!ちょこまかと……ならば!」

少女は、急にのけぞって息を吸う

体の防御がなくなり無防備に見える……が

(チャンスか?いや……)

少女の口は微かに笑っており、その口の端から小さな炎が漏れているのが見える、これは攻撃を誘うつもりだ

再び後ろに跳び、距離をとる

案の定、少女は口から炎をはきだしてくる

凄まじい熱量を持つそれは、僕の目の前を埋め尽くしていく

(あんな華奢な体から……よくもまぁこんなもんを………)

正直、魔物を舐めていたかもしれない

「ふん…勘がいいな」
「僕の勘はよく当たるんですよ………っと」

軽口を叩いて焦りを隠しつつ、僕は素早く魔法を詠唱する

魔力を集めた掌を少女にむけて、そこから掌サイズの風の刃を連射する

あの刃は、安い鉄程度なら紙のように切り裂くほどの切れ味を持っている。通用するだろうか

「む!貴様、魔法も使えるのか!」

少女は、その刃を笑顔のまま爪で弾き飛ばす。この程度は効かないか

「小細工は好かんぞ!」

そう言って風を弾きながらこちらに近づいてくる
近づかれたらまたジリ貧だ、ココは勝負に出ようか

「これなら…!」

両手を突き出し、魔力を集中させる
そこには段々と風が集まってきて、やがて身の丈ほどある風の塊が出来上がる

「どうだ!」

こちらに迫ってくる少女に向けて、それを放つ
まるで嵐を凝縮したかのような塊からは暴風が漏れ、部屋の中を荒らしながら少女に迫る

「おお!必殺技ってやつじゃな!よーし、ならば我も…」

全く怖気付いた様子を見せない少女は、体を逸らして大きく息を吸い込み、僕の魔法の倍以上ある大きな火球を放つ
勿論僕の魔法はあっさりと掻き消される
正直、あれだけ簡単に打ち負けるとは思ってもいなかった

だが、まぁ予想通り

火球が僕のいた所を通り過ぎるが、既に、そこに僕の姿はない

「そっちはフェイクだよ!」

彼女が大技に気をとられている間に、テレポートの魔法を使って、彼女の背後側の上空にワープしたのだ

そのまま腕と剣に本当に全ての魔力を込めて、剣を高く掲げる

「……っ!」

これは予想していなかったらしく、驚いた顔でこっちを向く少女

だが、もう遅い

僕の剣は、魔力を纏い、全く手応えのないまま、少女の体を引き裂く

……手応えが…無い?

そこで、違和感に気付き、咄嗟に僕の剣を握りしめている手をみる

そこには、何も握られていなかった

「………え?」

暫くして、カランカランと剣が床に落ちる音が聞こえた。遅れて、僕の手の甲にはジンジンとした痛みが広がる

「……ははっ!流石にヒヤッとしたぞ!魔法も剣も、という奴は貴様が初めてじゃ!」

少女は笑いながら尻尾をブンブン振っている

(……そうか!尻尾…)

彼女の武器は手足やブレスだけではなかった

魔物との戦闘経験の浅さからか、武器の見極めが出来ていないという初歩的なミスを犯してしまった

「くっ……」

大勢を立て直すため、テレポートで剣の所まで移動しようとするが、先ほどの一撃に全ての魔力を使ったため、発動すらできず、無茶に魔法を使おうとしたためか、体勢を崩し、膝をついてしまう

「なんじゃ!もうバテたか!」
「がはっ…!」

弱った僕の腹に、容赦なく拳が叩き込まれる

まるで、高速で鉄球をぶつけられたような、鈍い衝撃が走る

さらに、吹き飛びそうになる僕を尻尾で捕らえられ、もう3発拳をたたき込まれる

「あっ…がっ……」
「ふっ飛べー!」

何度も殴られてフラフラの僕にトドメの回し蹴り

勿論、踏ん張ることもできず、僕の体は勢いよくふっ飛ぶ

(……強すぎる…)

僕は吹っ飛びながら軽い気持ちでドラゴンに挑んだ事を後悔し、やがて壁に大きなヒビを入れ、意識を失った

「はーっはっは!やはり我が最強じゃ!」
「……ピオーネ様、些かやりすぎでは?」
「…………あ……」

意識が途切れる直前、こんな会話を聞いた気がする
15/12/15 18:20更新 / ウェラロア
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■作者メッセージ
うちのドラゴンにカリスマはありません。どうもウェラロアです
前から書きたかった長編ファンタジーについに着手しました。バトルって難しい…

えー、一応シリアスは今の所無いつもりなので、ゆるーい気持ちで楽しんで頂ければ幸いです。
ではでは、また次の話で

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