連載小説
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それは流れるようにやってきた転機より
「教皇様〜、アナルビーズ開発陣から

 『ヒビクツナガルツナギアウ〜驚きギガンテス級アナル球転がし〜』
 
 の開発資料及び販売申請書類一式でーす」

「はいはいごくろ〜さん」

今日もまた、山羊はいつもと同じようにデスクワークに追われていた

しかし、先月にあったイベントの時期も過ぎたため

今はある程度ゆとりが感じられる

「…うぇ〜、こりゃやべぇよ…

 てかなんなの?直径30p強って、絶対入んないじゃん」

「まぁ、世の中には需要と供給なるものがございまして」

「さいですか…まぁいっか。頑張って売ってほしいな。

 はい、これ」

「ありがとうございます!」

申請書にサインし、それを開発担当陣に渡す

それと交互するように、また新しい書類が届いた

「バフォメット様ー!第28サバト支部からのお手紙でーす」

「はいはーい、見せて見せてー」

何も変わらない日常、いつも通りの業務

慕ってくれている部下たち、望まれて座した地位

これ以上に望むものがあるだろうか

先日、垂れ流した愚痴も所詮はその日の愚痴

これからのことや常の事を考えてみれば誰にでも分かる

(夫や彼氏なんて…私には過ぎた願いなのだろうにね)

そんなことを考えていた、その時であった

「えぇっと、どれどれ〜

 『サバト第28号 ジパング・ウェストノース支部』より…?」

「?どうかしましたか?」

「あ。あぁ…いや何でも」

先日のカキツバタの言葉が頭をよぎる

『旅行してみるのです!』

(そういえば、あの時に話題になったのもジパングだったっけか?)

そんなことを考えるも、山羊はその思いを嘲笑った

(まさか…ただの偶然だよ…)

しかし手紙に綴られていたのは

『薫風の候、アルラウネの甘い愛蜜が香る季節となりました。

 いかがお過ごしでしょうか。

 さて、『サバト第28号 ジパング・ウェストノース支部』は

 今年を持ちまして設立10年目を迎えました。

 これまでの多くのご縁に感謝するとともに、

 更なるサバト発展へ、我々一同全力で取り組んで

 いきたい所存でございます。

 つきましては、4月16日に我らウェストノース支部にて

 『設立10年祭』を開催しようと考えております。

 お忙しいこととは存じますが、

 出席していただけるならば、我らウェストノース支部一同に

 素晴らしき活力になるかと考えております。

 なにとぞご出席いただけますよう

 お願い申し上げます。



 人魔合併歴287年 2月2日 
                サバト第28号 ジパング・ウェストノース支部
                支部長 メリッサ・タケマル          』


手紙の最後には、ジパング行きを誘う一言が添えられていた

(いやぁ…これは…)

「たまげたなぁ」

「ファッ!?バフォ様?!」

同僚から新婚の通達が送られ、カキツバタに愚痴を言うと

旅行しろといわれ、今は旅行先を綴った手紙が目の前にある

上手くいってるような、いってないようなこの頃に困惑が隠せない

しかし

「これは…保留だね。」

「どんな内容でした?」

「ジパングでなんか設立祭するんだってさ。」

「えっ!?いいじゃないですか!行かないのですか?」

だって

「私も仕事あるし…流石にここ空けるのはマズいでしょ?」

『私はバフォメットだから』

その言い訳が頭を木霊する

そう、別に行けれなくても良いのだ

向こうの娘たちには悪いが、こっちも業務がある

そう、仕方ない

「へっ?マズいのですか?」

そう思っていた矢先

手紙を渡した魔女が何食わぬ顔で言った

「えっ!?ま、まずくないか!ふつー」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった

何を当たり前のように言ってのけているのかという驚きが

頭で先行したからだ

しかしそんな私を気にせず、デスクで働く魔女たちからも声が飛んでくる

「えー大丈夫ですよー、多分何とかなりますし」

「ってかバフォ様ずっとデスクにいるじゃないですか」

「そうですよー。たまには休暇でも取ってくださいよ」

たとえ他人事だとしても、やけにワイヤワイヤと盛り上がる彼女たちである

「お、お前ら!簡単にいうがなぁ!」

「ですがバフォメット様?」

すると、先日一人で残っていた魔女が

場を改めるように、話しかけてきた

「業務のピークは先月で過ぎ去りましたし、次のピークまでに

 戻ってくだされば何の問題もありませんよ?」

「う、うぐぐぐ…」

「時期はいつだったのですか?」

「し…4月中旬ぐらい…」

「全然余裕じゃないですか!行きましょうよ祭り!」

「あっ、あなた達は仕事だからね?」

「ウェッ!?」

魔女達が談笑を交わす

自分の意志と違う方向に会話が進んでいくのが

気になるが、それでも魔女たちは続けた

「バフォメット様、仕事をしてくださるのは結構ですが、

 一向に男漁りにも行きませんし、いつになったら休むのか

 と心配していたんですよ。」

「そうですよ!たまには教皇の業務から降りて

 のんびりと過ごしてみたら良いじゃないですか!」

「…!」

勝手に盛り上がってばかりだと思っていたが

彼女らの言葉をかみ砕いている中で、何となく気づいた

彼女らは心配しているのだ

自分らの上司が働きづめで、しかもサバトの教皇でありながら

その性分のままに生きていないことを…

この機会に、一度気ままに過ごしてみてほしいと…

彼女たちは、自分の知らないところで自分のことを

気にかけてくれていたのである

その気遣いがとても嬉しいし、それに乗っかってすぐに

ジパングに行こう!と思いたい

「…ありがとう、みんな」

「!!」

ところだが

「じゃあすぐにでも!」

「いや、少し…少しだけ考えさせてくれ」

別に彼女らを信用していないわけではない

ただ、この状況を整理する時間が欲しいのである

彼女の思いも悟ったか、周囲の魔女達も

この話題に関しては口をふさぐことにした

〜〜〜〜〜

時刻は夜を回り、ほとんどの魔物娘は食事や浴場へ向かうなか

教皇は椅子に座したままであった

「…」

すると、残っていた一人の魔女が

勢いよく話しかけてきた

「バーフォーさーま!」

周りが見えていなかったため、山羊は
 
その声にひどく驚かされた

「っ!ど、どうかしたか?」

「考え事ですか?」

「あ、あぁ…まぁね」

「昼間の件ですか?」

「…まぁ、そうなんだ」

「…どうするんですか?」

ジパングに行くか、行かないか

昼間から今まで業務はこなしていたが

正直、頭はずっとそっちのことしか考えていなかった

そして、結論はもう出しているのである

「私は…


 私は、ジパングに行こうと思っている」

「…そうですか」

「し、しかしだな…」

「?」

しかし決めたのはいいが、いつ頃からジパングに

向かうか、何をもっていくか、色々なことが

頭をよぎって改めて遠くに行くことの大変さを

痛感している最中だった

「ここを離れるのは最小限にしたいし…いや、

 でもそしたらジパングを楽しむ余裕があるのか?

 いや、まずジパングを楽しむって何をだ?…うぅ…」

ぶつぶつと独り言を呟いている子山羊に

魔女は

「ぷっ!」

と吹き出し、そのまま笑い出した

「あっはははは!そんなに考えなきゃならないですか!?」

「そ、そんなにって!だって、海外に出るのは久しぶりだし

 世界が変わってからは…それこそ一度もないし…」

魔王と勇者が和解してから何年か

和解する前から教皇をやっていたから、それこそ何年も

『外の世界』に足を踏み入れていないのである

「まぁ、お気持ちは察しますが…」

魔女は一呼吸入れて、子山羊に言った

「明日にでも…行きましょうよ、ジパング。」

「あ、明日!?な、なんでそんなに早く行く必要がある!?」

「そ、そんなに動揺することですか?

 でもバフォ様の性格的には、後から後からって

 言ってるとギリギリまで行きそうにないですし」

「うぐっ…まぁ…そうだなぁ…」

そんなに自分は分かりやすい性格をしているだろうか

言われてみれば妙に心当たりがある気がする

「ふふっ。考えていたってなにも始まらないですし。

 それに別に用事がなくっても

 ぷら〜んってしているだけで、何か見つかるかもしれませんよ?」

「な、何かって?」

「それは『何か』ですよ、私にもわかりません」

何をおっしゃるか、ときょとんとした顔のまま、魔女は話を進める

「でも、ここにいてもその『何か』は見つかるわけじゃないです。

 つまるところ、『善は急げ』です」

「…」

あいまいな発言をしているが、どことなく言いたいことは

分かるのは、これが彼女なりの本心だからだろう

そうなのだ、ここにいても何かが見つかるわけではない

だから、私がやることは決まっている

「…そうだな…うん、ありがとう

 何とか踏ん切りがついたよ」

「そうですか」

「明日すぐ…とまではいかないが、友人たちにあいさつ

 して、教皇の代役を誰かにやってもらう準備をして…
 
 3日後には出発しようと思う」

バフォメットがそう言うと、魔女はゆっくりと頷いた

「さて!これから3日間はいそがしくなるぞ〜」

忙しくなる。だが、自分の中のもやっとした部分が晴れたおかげで

不思議と3日間が楽しみだ。

「そうですね。ところで気になったのですが」

「うん?どうしたの?」

すると魔女はにっこりと笑いかけた

「『教皇の代役』はどなたがやられるのですか?」

「あぁ、それは」

代役を挙げようとした瞬間、扉が大きな音をたてて開けられた

「私が教皇したいでーす!!」

扉を開けたのは一人の魔女、しかしその後ろにはぞろぞろと

大勢の魔女がいる

「えぇ!わたしもしたいよう!」

「いや!バフォ様なら私を選ぶね!間違いない」

「はやくバフォネキ決めるンゴ!」

誰もが教皇をしたいと騒いでいる、しかし

「お、おい!ちょっと落ち着け!」

バフォメットの言葉に場が静まり返る

そして、バフォメットは続けた

「教皇というのは、『バフォメット』しか選べないんだ

 だから魔女ではなることが出来なくてだな」

するとぽつぽつと魔女たちが口を開き始める

「え、なれないの?」

「なぁんだ残念、期待しただけ損した」

「ワイ氏大爆死不可避」

「ちょっ、まさかお前ら…教皇になりたいがために

 私を…?」

「「「ギクッ」」」」

山羊の指摘に、露骨に身をビビらせる魔女達

「…お」

「?」

「お前らあああああぁぁああぁぁぁああ!!」

「!?」

「「『…に、逃げろおおおおおおぉおぉぉおおぉお!!!」」」

バフォメットの大地を震わす咆哮を受け

散り散りに逃げ出す魔女達

だが、山羊の咆哮も魔女の叫んだ言葉も

それは喜びと楽しみと…もろもろを含んだ歓声にもなっていた


吠えた後、山羊は彼女らの逃げていった方を見て小さく言う

「ありがとね、みんな…本当に」

逃げていった魔女達もまた

それに応えるように、山羊の方を向いて口々に言った

「いえいえ」

「こちらこそありがとうございます」

「頑張ってくださいね」




この日から3日後、シャレムは旅立ちの礼を挙げた
16/05/05 20:00更新 / てんぷらやさん
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■作者メッセージ
お久しぶりです、てんぷらやさんです

気付けば3か月も経ってしまいました

のんびり構成考えたり、他の人のやつ見たり

していたらいつの間にやら…

時間は残酷なものだと感じてしまいますね

さて、彼女の話はまだまだ続きます

あげるテンポは遅いですが、どんどん上げていきたいと思いますので

見ていただけると幸いかな、と思います

また、感想を頂いた方々、投票して頂いた方々

本当にありがとうございます

そうですね、バッフォイバッフォイです(ノリ)

これからどういう方向に向かっていくかは

どうぞ楽しみにしてください

コメントや投票は非常に励みになりますので

ジャンジャン送っていただけると嬉しいです!

それでは(@^^)/~

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