連載小説
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バフォメットの授業
 わしが案内した部屋は自分の寝室なのだが、今回はアレックスと『儀式』をする為ではない。ただ、ここなら色々と道具があるからじゃ。

 部屋の倉庫からホワイトボードと箱を出し、ベッドの上に座るアレックスの前まで移動させた。

「これより、バフォメットの特別授業を開始する」

 そう言って、ホワイトボードに『性教育』と書いた。

「性?なんでだ?」

「お主は元は人間じゃが、今は魔物娘じゃ。じゃから、自分の体や生態について色々知っておいてほしいんじゃよ」

 魔物娘は多種多用な種族が存在する様に、それぞれで性教育のやりかたが違う。まだ魔物娘の体に慣れていないアレックスはいつか人間達を襲いに町に行ってしまう。
 
 まだ体が完全ではないので、返り討ちにあって仕舞うかもしれない。今の内に衝動の抑えかたを知っておけば、後の危険も少なくなるじゃろう。

「なるほどね、解った。始めてくれ」

「うむ、ではまずはコレじゃ」

 箱から写真を何枚か取り出し、その中のひとつをボードに貼った。

「アレックス、お主はファミリアに着いて何処まで知っている?」

「え?えっと......」

 予想通り、殆ど知らないらしい。まぁ人間達は皆、魔物は恐ろしい存在として教えているからな。

 ボードに貼った写真は、一匹のファミリアの写真じゃ。カメラ目線でウインクをしていてとても可愛いらしい。

「まず、ファミリアは他の魔物の様に自然に生まれたのではなく、わしが作った人造魔族じゃ」

 ファミリアは皆、幼い少女の姿をしている。アレックスの身長はだいたい130cm程じゃ。ファミリアとしては平均的じゃな。
 あ、ちなみにわしの身長は134cmじゃ。

「ファミリアは普段はその幼い外見に似合わず理知的な性格なんじゃが、たまに本能が体を支配してしまうんじゃよ」

 ファミリアは人間達をサバトに勧誘し交わるのが本能であり、最大の目的じゃ。
 彼等の心を掴む為には、ある程度の話術を知っておかなければならないのじゃが、アレックスには恐らく無理じゃろうし、全ての問題が解決するまではその本能を理性で抑え込んで欲しい。
 
「本能を抑える方法は一つ。その場でゆっくり深呼吸をする事じゃ」

 ありきたりな手段かもしれないが、実は結構効果があったりする。とは言え、絶対に抑えられるという訳ではないが......まぁ気休め程度にはなるじゃろう。

「そんなんで良いんだな......」

 自分の尻尾をいじりながら言うアレックスを見ると、わしはつい気持ち良くしてやりたくなるが、それに行くにはまだ障害が多すぎるので、さっき言った様に深呼吸をして抑えている。
 勿論、この事は彼女には秘密じゃ。

「性教育の続きはまた今度と言う事で、次の授業じゃ」

 アレックスを窓の前まで連れて行き、閉められた窓を開いた。

「飛ぶぞ、アレックス!」

「えっ、無理だよ」

「大丈夫じゃ、それにお主には翼があるじゃろ?」

「いや、でも」と言う彼女に気合いでどうにかなると言ったわしは、先に窓の外に飛び出した。
 続いてアレックスも最初は戸惑ったが、窓の外に出てくれた。

「凄い、本当に飛んでる......」

 あっさり空を飛べてしまったアレックスはそんな自分に驚いていた。

「結構楽しいじゃろ?じゃが、他にも色々あるぞ」

 まだ飛ぶのに慣れていないアレックスを手伝いながら向かったのは、魔物達の町じゃ。

「沢山いるな......」

「大丈夫じゃ。皆良い奴じゃよ」

 まだ、警戒は解いてくれないみたいじゃな。......まぁ、もしもの時はわしが止めれは良いか。

 町は魔物娘達が自由に暮らしており、朝から晩まで交わる者もいれば、店等を開いて働く者もいる。

「お、珍しく売り切れてないな」

 この町の名物であるダークマターお手製の「暗黒リームパフェ」はとても人気で、わしも年に数回しかたべれない。

「いらっしゃいませ!あと2つで売り切れだったんですよ、コレ」

  おお、それは運が良かったな。
 パフェを買って片方をアレックスに渡してベンチで食べ始めた。

「どうじゃ?旨いじゃろ」

「............!」

 どうやら食べるのに夢中になっているらしい。普段の暗い表情も少し明るくなっている。もしかして食べるのが好きなんじゃろうか?ならジオの料理をもっと食べさせてやりたいな。
 ザーメンにぎりは却下じゃが。

 パフェを美味しそうに食べるアレックスは何故か他のファミリアよりもずっと子供っぽい。時々見せる表情も、まるで好奇心旺盛な少女の様だ。
 
 きっと本来はもっと明るい性格じゃから、今の様に暗い表情をしてると胸が苦しくなる。じゃが、彼女の苦しみはわしのとは比べ物にならないじゃろう。

「スライムが実は手作り出来るって知っているか?」

 あのまま悩んでいたら色々と沈んでしまうので、とりあえず他愛も無い話を始める。
 スライム作りの材料を買ったわし達は机のある場所に移動した。

「少し手間は掛かるか、自分で作ったスライムは従順な僕になるんじゃよ」

 スライムの作り方は、まずコップに水とホウ砂を少しずつ入れ溶けるまでかき混ぜる。次に、さっきのホウ砂水をフィルムケースに8文目まで入れる。
 別のフィルムケースを二つ用意し、それぞれに洗濯糊と絵の具を溶かした水をさっきと同じ様に8分目まで入れる。その後、最初のコップの中に洗濯糊と絵の具を全部入れてかき混ぜ、ホウ砂を少しずつ入れて混ぜれば完成じゃ。

「こんな方法で魔物が作れるのか、知らなかったな」

 手のひらサイズのスライムはまだ生まれたばかりなので人を襲う事はなく、大人しくて可愛いらしい。

 そして、そんなスライムを興味深そうに見るアレックスも死ぬほど可愛い。いっそスライムにぐちゃぐちゃにされる姿を見てみたいが、今はこの衝動は心の内にしまっておこう。

「あ、バフォ様だ」

 部下の魔女達が、こっちに近付いてきた。今日は女同士で遊んでいるらしい。

「知ってます?一人の人間が新しい勇者になったんですよ」

「そうなのか?」

 彼女の事に夢中になりすぎて、周りの情報が全く頭に入ってこなかった。
 しかし、人間達は何人勇者を用意するつもりなのじゃろうか?今まで会った中でも一番強いのは旦那さんじゃが。

「本当につい最近勇者になったらしくて、えっと確か名前は___エヴェル」

「え......?」

 魔女がその勇者の名を言った瞬間、アレックスの様子がおかしくなった。
もしかして、その勇者がアレックスに関係しているのか?

「裏切り......俺は......!」

「落ち着け!しっかりしろ!」

 まさかこんな場所で彼女のトラウマに関する情報を得るなんて......今日はもっと楽しく過ごす予定だったのに!

 これではもう、町で遊ぶ事は出来ないじゃろう。仕方なく、アレックスを落ち着かせる為に、わしらは城に戻った。
 空を移動する時、アレックスはずっと壊れた人形の様な表情をしていた。
14/08/07 22:08更新 / 水まんじゅう
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■作者メッセージ
最初の性教育は、性衝動の抑え方でした。
ちなみに前回作者は、性教育をするとは言いましたが、エロになるとは言ってませんので、予告詐欺にはなってないと思います。多分。

さて、もう少し伸ばそうとも考えましたが、基本的に勢いで書いているので、そろそろ物語は決着に近づいています。性的なアレも最後の方にあるので、暫し御待ち下さい。

あ、スライムの作り方は『ガチ』なので興味のあるお方は是非作ってみて下さいね。

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