連載小説
[TOP][目次]
倉前さんと不思議なミルク。
 私には、幼馴染の雪原くんがいる。
 大昔に知り合って、たまに一緒に過ごして、たまにお話をする。
 世間で言う所の、ごく一般的な幼馴染。

 学校でもよく一緒だった。グループ活動があると、大抵一人でいた彼と一緒にいた。
 異性同士でくっつきすぎだったのか、クラスを離されたこともあった。それでも休みの時間になると、雪原くんと会って話をしていた。。
 たまに話して、たまに本を交換して、お互いに授業でわからないことがあると教えあう。
 今日だって、勉強会と言うことで彼の家に行って勉強を少ししたのだ。その後、彼の持っていたゲームを少し遊んだけれど。
 絵に書いたような幼馴染。私と雪原くんはそんな関係だろう。

 だからなのか、たまに「付き合っているのでは」ということを聞かれる。
 クラスメイトのみならず、私の両親にも、雪原くんの両親にも聞かれた。
 実際には、ただの、異性同士の仲のいい友人なのに。

 お互いに友人が極端に少なかったから、余計にそう思われるのかもしれない。
 そんな恋人みたいな事は何一つやっていないのに。普通の友人同士がやりそうなことしかやっていないのに。

 でも、もし雪原くんと付き合えることになるとしたら。正直不思議な気分だ。
 昔から友人として知っている人だから、あまり彼氏という感じが沸かない。
 もし恋人同士になっても、お互いに今まで通りのことをして、少し恋人らしいこともして。
 今までとは対して変わら無いのかなと思う。

 そもそも雪原くんは私なんかと話していて幸せなのだろうか。
 仕方なく私と友人として付き合っているのかもと考えると、少し怖く感じる。
 雪原くんには嫌われたく無いという気持ちは正直あるのだが、それが恋心かと問われると微妙なようにも感じる。
 そもそも、雪原くんにだって彼女を選ぶ権利はある。だから、友人としてこれからも接するべきなんだと思う。そもそも、性格も暗くて、地味で大きな眼鏡をかけている私に魅力があるかと考えると…



「美味しい美味しいミルクですよー」

 人気のいない路地に不意に売り子の声がする。私は咄嗟に幼馴染のことを考えるのをやめて現実に舞い戻る。
 見ると、胸の大きい女性がリヤカーを引いていた。彼女が声の主なのだろう。

 こんな路地で、暗くなってきた時間帯に、ミルクの移動販売。
 不自然なのに、売っている物が物であるからあまり警戒心を抱けなかった。
 興味本位で彼女に近づく。移動販売のミルクというのも新鮮味があったのかもしれない。

「お姉さん、こんばんはー」

 こちらが近づいてきただけで、間延びしつつも警戒感のない声を出して挨拶をするミルク売りの女性。見ると相当美人で驚いた。

「こんばんは、えっと、ミルクの移動販売って中々見ませんし…」

 挨拶をしつつも、近づいた目的を話す。買う気が無いし、あくまでも冷やかしということを示しておかないと。

「えっとですねーこのミルクは特別な牛さん達のミルクなのでしてー美味しいし、どんどん胸も大きくなるし、きれいになるし、美味しいですよー」

 美味しいと二回も言いつつ彼女は説明するが、豊胸効果と美容効果のあるミルクというのはとても胡散臭い。とてつもなく胡散臭い。やはり路地裏の移動販売ならではかは知らないが、とても真っ当な品とは思えなかった。

「お美しいお姉さんも、このミルクを飲めばさらにに美しくなれますよー」

 美しいだなんて、大きな眼鏡をかけて、髪も長くて暗い女のどこが美しいのだろうか。まあ、ここらへんは流石移動販売の売り子という所なのだろうが。彼女は更に、

「このミルクを飲んで恋をして美しく!旦那さんができてますます美しく!そんな幸せの手助けになるミルクですよー。とにかく、一回試していただければ良さがわかりますからー」

 などと言って、ニコニコと此方を伺ってくるが、やはり胡散臭い物は胡散臭い。適当に断ってその場から離れようと思ったのだが、

「よし!信じてくれてなさそうなお姉さんに大判振るまいです!今なら一瓶150円の所なんと1瓶無料でプレゼント!更に瓶を返して50円キャンペーンも適用!明日この場所で昨日飲んだ瓶を返すだけで50円のお得!」

 なんと、無料でプレゼントしてくれるらしい。怪しさ満点であるが、そう言われてしまうと気になってくる。

「さあさあ、遠慮しないで遠慮しないで、美味しくなかったら明日は無視して大丈夫ですからー」

 そうこうしているうちに、私は瓶を強引に渡される。瓶にはラベルすら貼ってなかったが、中には白いミルクがしっかりと入っていた。

「では私はこれでー」

 彼女はそう言い残してそそくさとどこかに行ってしまった。



 家に帰った後、私はこの怪しいミルクの対処に困っていた。もし何か悪いものが入っていたら、大変なことになってしまう。
 でも、あの売り子の女性にはあまり怪しげな雰囲気を感じなかった。最も、それが狙いなのかもしれないが。

「うーん」

 しばらく迷った後、ちょっとだけペロっと舐めてみることにした。
 瓶の蓋を開けて、一舐め。

「なにこれ…?」

 まろやかで濃厚でとても美味しい。とてつもなく美味しい。彼女の売り文句は正しかったのだろうか。
 一舐めとは言わず、一口。一口とは言わず、ゴクゴク。

 あっという間に瓶は空になった。明日も、明後日もこのミルクを飲みたくなってしまうほどに美味しかった。

 実質一瓶100円という破格の安さ。今まで飲んだことの無いくらいの美味しいミルクが、こんな値段で手に入るとは。
 正直、そう言う意味合いでの胡散臭さは残っている。中に悪いものが入っているかもしれない。だから、こんなに美味しく感じるのかもしれない。

 でも、正直また飲んでみたかった。胡散臭いけれど、こんなにも美味しいミルクを飲まないという選択肢は無いように思えた。
 何か悪いことが起きそうなら飲むのをやめようとだけ誓い、明日もミルクを買うことを決心した。



――



 あの日の翌日、ミルク売りの女性に感想を尋ねられたので、正直に、美味しかったことを話した。彼女はますます喜んで瓶を一本追加してくれた。果たして採算は取れるのだろうか。こちらが不安になる。
 それからというもの毎日、帰り際にミルクを買うようになった。いつ飲んでも物凄く美味しかったし、何より価格が実質100円だというのが良かった。
 今日だって、ミルクを買って意気揚々と家に帰ってきたのである。


 でも、安いものには裏があるのか、あの日言われたミルクの特徴は本当にそうだったのか。ミルクを飲みだしてから、私の身体に2つの大きな変化が起きてしまった。

 一つは、私が可愛くなってきたらしいこと。両親にも少しばかり聞かれたし、クラスメイトの女の子(その子の方が私の100倍可愛いのに!)にも聞かれた。あの子は、同時に「恋をすると人は変わるからねえ」と、雪原くんとの関係を茶化してきたけれど。
 実際、自分自身でも可愛くなってきたように感じた。前まで私がよく言われた暗い影。そんな影がが消えて、穏やかな顔に変わりつつあった。

 そして、もう一つ。

「ああ、また大きくなってる…」

 自分の部屋に入り、上半身裸になって確認してみたら、今日もまた胸が大きくなっていた。
 最初は「あれ?少し大きくなっているような」というような感じで対して気にしていなかったのだが、ブラジャーがきつくて着れなくなった時にはますます大きくなり、今も尚大きくなっている。
 新しいブラジャーを買おうにも、成長が未だに止まっていないのだから落ち着くまで待つべきでは無いかということで、ひとまずはノーブラで過ごすようにしている。

 確かに彼女は「豊胸効果がある」と言っていたが、これほどまでにあるとは聞いていない。今や、平均くらいだった私の胸は、クラスの胸が凄い大きな人とも平気で渡り合えるほど。

 ノーブラのまま椅子に座って、再び自分の胸を目視してみる。

「うーん、やっぱり大きいなあ…」

 いくらなんでも大きすぎる。幸いというか何故かというか肩こり等の症状は出ていないが、それでもやっぱり大きい。

「うーん」

 まじまじと自分の胸を見る。たわわに実りだしていて、垂れていない胸。
 大きくなったこの胸。私自身でも気になってくる。
 こんなに大きく変貌を遂げてしまったその胸を、少し触ってみる事にした、

「あっ…ん//」

 その瞬間、自分の口から漏れ出る情けない声。確かに私の胸は脂肪の塊でありとてもふよふよしていた。脂肪の塊のはずなのに、なぜか身体が気持ちよくなってしまう。

「あれ…?おかしいな…?」

 もう一度触ってみる。恐る恐る、そっと。

「あっ…」

 やはり漏れ出てしまう声。やっぱり自分の胸で私は感じてしまっている。
 正直とても怖い。本来気持ちよくないはずのもので、私は気持ちがよくなってしまっている。
 自分が自分でない何かに変貌を遂げつつあるのではないか。私は美人になりつつあり、胸も大きくなって、本来地味だった私は男子にも注目されだしているという。
 私はそんな人間ではなかったのに。根暗眼鏡の女子だったのに。あろうことかおっぱいで感じる変態女になっているだなんて。

 でも、心のどこかで快楽を求めている自分がいたのだ。この気持ちよさは自分にとって良いことで、ずっと快楽に浸っていれば幸せになれるのでは無いかと、そう思ってしまう。
 それに、気持ち良いのだから、続けてしまいたくなってしまう。これがどんなに非現実的な事で感じているのであっても、気持ち良いものは気持ち良い。

「少しだけ…少しだけ…」

 まるで何かを我慢しようとする人間のように私は胸を触る。ふにふにとしていて我ながら揉み心地は良いと思う。

「ああっっ…//」

 大きな嬌声、小さな嬌声、色々な声が漏れ出て、私は段々といやらしい気持ちになる。
 耐えようとしても漏れ出てしまう声。一回動き出したら止まらない私の手。
 全てが性的、いやらしい女。今の私はいやらしく、ただ快楽を貪っている。

 不意に、乳首の存在を思い出す。そう言えば触っていなかった。乳首はどんな快楽をもたらすだろうか。胸を揉みしだくだけで気持ちが良いのに、どうなってしまうのか。
 もはや私には自制心など存在しなかった。さらなる快楽を求めて、乳首を触るしかないのだ。

「あはあっ!!///」

 変な声が出てしまう。快楽が弾け飛ぶ。未だに絶頂に達していないのに、とてつもなく幸せだと感じてしまう。絶頂したら、どのような快楽と幸せが襲うのだろうか。

「ああっ!!//はあんっ!!///ふいぃっ//はぁぁ//」

 乳首を捏ねたり、胸を揉んだり。様々なテクニックを用いて、自分を絶頂させようとしている自分。
 未知の快楽を目の当たりにして、それを追い求める自分。

 そんな自分自身がとても不思議なようにも思える。今まで私はこんなにはしたなくなかったのに、どうして今は、単純に快楽を追い求めているのだろうか。
 その事がとても不思議なのに、快楽の波に押しつぶされようとしている。いや、おっぱいを揉んで感じているこの非現実的な風景だからこそ、そのような不思議な自分が頭の片隅で危険を叫んでいるのかもしれない。

「ううっ///!!ひぃっ!!//」

 段々と気持ちよさが膨らんでくる。膨らんで、また気持ちよくなる。その繰り返し。
 こんな姿を誰かに見られたら、どう思われるのだろう。家族が見たらどうなるのだろう。見なかったことにしてくれるかな、でも、怒られてしまうかも、こんな大きな声をだして、はしたなくて、近所迷惑で。
 雪原くんはどう思うのだろう。雪原くんが見たら…

 ――雪原くんが見たら――

「ああああああっっっっっっ/////!!!!!!!!」

 なにかに気づいたとも、嬌声とも取れる声を私は上げてしまった。雪原くんに見られたらと思ってしまっただけで、身体中が歓び、一気に気持ちよさの質が増す。
 私のはしたない姿を雪原くんが見ている。私がおっぱいと乳首で感じる変態だと雪原くんが知る。雪原くんは私の醜態を見る。雪原くんは興奮して何かをしてくる可能性だってある。
 雪原くんがこういう事をしている私を見た事によって生じる様々な可能性。その一つ一つを考えるだけで余計に気持ちが良くなる。

「ゆきはらっくぅぅんっ///!!!」

 私の幼馴染の名前を叫ぶ。気持ちが良いから。雪原くんで気持ちよくなる。そうだ、もしかしたらおっぱいも揉んでくれるかも。雪原くんのあの細くてしなやかな手が、ゲームのコントローラーを華麗に操るあの手が、私のおっぱいを華麗に操ってくれるのかもしれない。
 私の手がもしも雪原くんの手だったら。そう考えただけで、

「きちゃったああああああああああああっっっっっ!!!!!!!/////////」

 声が出てくる、腰が浮く、身体がはねる。絶え間ない絶頂。人生で初めての絶頂。自分のおまんこを弄ってもイケなかった私が、胸と乳首だけでイく。
 雪原くんの手、雪原くんの視線、それらが存在すると思うだけで気持ちよくなる私。
 人生で一番幸せだったかもしれない。幼馴染の事を思いながら、でもその幼馴染である雪原くんに無許可で私はこんな事をしていた。そんな事なのに、やってはいけない事なのに、何故かこの行為は人生で一番嬉しいようにも思えた。

「はあ…はあ…」

 しばらくただひたすらに余韻が浮かび、消えていく。

「はあ………ふう……」

 絶頂が落ち着いて、所謂「賢者タイム」の時間に入ると、先程の事は本当に人生で一番うれしかったのか、疑問に感じてきた。
 絶対にこんな痴態では無い。人生で嬉しかった事は、他にあったはずだ。あったはずなのに、忘れていた事。
 そのような引っ掛かりが唐突に取れる。絶頂から立ち直りかけの深いまどろみの中で、不意に一つの光景が記憶の奥深くより蘇ってきていた。


――
「えっと、倉前さん、おはよう」
「あのっ、雪原くん…だっけ。おはよう」
――


 私と雪原くんがした初めての会話。二人ともおどおどしていて、とても会話とも呼べない、独り言に近い会話。
 でも、あの時の私は話しかけられた事がとてもとても嬉しかったのだ。誰も話しかけてくれなかったし、誰かと話そうにも失敗する私に話しかけてくれた。
 あの日から、私は雪原くん相手には積極的になれた。
 なんとなく友人関係になり、一緒にいるようになった。二人とも暗かったか事もあってか、たまにからかわれる事もあったけど、いつも二人でいた。

 幼馴染同士、なんだかんだお互いにくっついて、いつも楽しいことをして、嫌な事があっても支え合う。
 私にとっては、雪原くんは家族とほぼ同然の、大切な人だったのだ。
 そんな人と毎日顔を合わせるという、こんな緩やかな幸せがずっと続いていたから、感覚が麻痺して、人生で嬉しかった事があまり無いように感じていたのかもしれない。
 私にとっては雪原くんと過ごす毎日が素敵で、幸せで、平凡でありながら手放してはいけない毎日だったのだ。

 それだからこそ、そんな大切な人で勝手にこんな事をやってしまった私が嫌になってくる。
 あの時は盛り上がっていたが、冷静に考えれば私のこういう姿を見て引かれてしまう可能性だってあったのに。

 雪原くんに嫌われてしまう。考えただけでも恐ろしく、今までの私の人生が全て否定されたかのようにすら思ってしまう。
 そんな事は絶対に嫌なのに。雪原くんに嫌われたくないのに。
 さっきまであんなに幸せだったのに。今はただ悲しくなる。

 そう考えている中、ふと自分の胸を見る。

「あれ…?」

 自分の胸、乳首の先に、乳白色の液。それこそミルクみたい。
 ますます怖くなり、反射的に指先ですくって舐める。

 いつも飲んでいるミルクみたいに美味しかった。

 ますます怖くなる。人生で一度も出たことの無いミルクが出るなんて。妊娠もするはずがないのに、ミルクが出るなんて。私はやはり人間ではなくなっているのだろうか。
 少しずつ変化を遂げている私が、今はひたすらに怖かった。
20/01/16 02:46更新 / 千年間熱愛
戻る 次へ

■作者メッセージ
私が初めて載っけた、ホル馴染さんネタでもう一つ何か書いてみたくなってどうしようもなくなり、ここは一つ連載しようと思いました。
ホルスタウロスさんの愛情たっぷりミルク飲んでみたいなあ…

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33