読切小説
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蝙蝠傘○00円
ここは都内でも有数の雨が多い地区。
夕方になんと言いましたか、アマチュアの予報師さん(?)が発見した雲の名前――え〜っと……忘れました!!――が出てたから降ると思ってました。

やた!
今日は出番です!
私の雨せんさぁも反応しています!!
しかも小降りッ!
最高のシチュですッ!!
旦那様は雨が降ると、朝一自転車で通勤されてても帰りは歩いてくださるので大好きです。
自転車なら十分でも歩くと二十五分。
たった十五分とは言え、私には貴重な時間です。
十五分あればイロんなコトができちゃいます!
具体的には……あぁ!もぉ!!止めてくださいよ!

と。思ってましたが……まさか。

おまわりさん!誘拐です!誘拐事件です!!

……と叫べたらどんなに………!!

今、私は旦那様の上司の手の中にあります。
しかも雨は強くなる一方。
テンション駄々下がりです。
ただでさえ、最近の旦那様は雨に避けられている、と言いますか。
良く「おぉ〜い…もう降るなよぉ〜〜止んでくれよぉ〜〜」とか「あとちょっとだけ!30分だけ!な?な?」とか「俺が家着いたら好きなだけ泣いてイイからさぁ〜…」などと口にだしていらっしゃるんですよ!?
しかもそれで一時とは言え雨がやむという……。
なんですか?それ?
私へのあてつけですか!?
『竜神様、遠慮は要りません!じゃんじゃん殿方と交わってください!!』
って私が念じているのが全く無駄じゃあぁないですか。

はぁ。
こんなこと考えても仕方ないです。
こんな時は好いことを考えましょう。
例えば、そうですね。

私が晴れて魔物娘として旦那様に正体が明かせるときが来たら。


まずは傘の舌で旦那様を絡めとります。
で。次に腕を組んで旦那様の肩に顔をあずけて、時期がよければ紫陽花寺を散歩したいですね。
何度か、ここまでハッキリとした意識を持つ前に行った事がありますが、アレはのーかんです。
で、紫陽花の下で愛し合うおおなめくじさんのカップルを見つけ私たちもすいっちがはいっちゃって♥

はわわわ♥


…嗚呼そんなコトを考えていたら今私を使ってくだすっているのが旦那様じゃないのが無性に悲しいです。
もしかしたらこの方のご自宅で埃を被る余生…いえ。こんな梅雨も開けきってない今日に傘を持っていないこの御仁の事です。
最悪、電車やタクシー、バスに置き忘れて、保管庫に連れて行かれ、もう二度と旦那様にお会いできなく………


泣きたくなってきました。
こんな時は…いえ。こんな時こそ、旦那様のコトを考えるのです。
希望を亡くしてはイカンのです。
やまない雨はないのです。
って唐傘おばけ的にそれど〜なのっていうか困るんですけど。

私の旦那様は私を大事にしてくださいます。
それはもうホントに。
さっきも申しましたが旦那様は雨が降ると自転車をお使いになられません。
ばいくに乗っておられたからでしょうか。
「濡れた路面で二輪に乗るヤツの気が知れネェ」とのコトです。
「だってスリップして俺が怪我するだけならまだしも。単車がオシャカになるのは単車に申し訳ネェ」


……あら?
ちょっと嫉妬。

「だからチャリにも乗らネェし、ましてや傘をさすなんて正気の沙汰じゃねえな。その傘で他人を傷つけたらど〜する?」
流石旦那様。
その言葉の裏に
「それに傘の骨が風圧で傷むだろ〜が」
なんてやさしいお気持ちが含まれている事に相手の方は気づかれておりませんでしたが私には伝わってまいりましたよ♥
まったくコレがツンデレというヤツなのでしょうか?


素敵です。大好物です!!


まぁ私がついている以上、怪我なんてさせません。
相手にも旦那様にも。

コンビニで○00円で買った傘なのにもう何年も。
雨で「単車に乗れねぇ!」とぼやきながら学び舎に向かわれる時も。
酔いつぶれて電車を寝過ごした時も。
喫茶店で雨やどりしてていつの間にか太陽が顔をだした時も。
旦那様の大切なお爺さまのお葬式の時も。
必死に営業周りされている時も。

いつも何時も。
私というコンビニで○00円の蝙蝠傘を大切に使ってくださって。
ゴロツキに絡まれた時も。
旦那様は剣道の有段者です。
私を竹刀代わりに使って身を守れば良いのに。
そりゃ、私は魔物娘ですからニンゲンが傷つくのは厭です。
でもでも旦那様が傷つくのはもっと厭です。
ソレなのに旦那様は
「お前らに俺の剣は勿体無い」
などと言い、逃げの一手。
でもホントはわかっているのです。
えぇ。
ホントは私を壊したくないのでしょう?
そりゃ私は魔物娘であり、付喪神ですもの。
そ〜いうのは伝わってくるんですよ?

あぁ。こうして使われるのは良いですが、やはり旦那様でないと。
子供が使っている傘が羨ましいですわ。
柄の部分に持ち主の名前が書いてあって。

なんかホント、旦那様(持ち主)のもの、って感じでツクモゴコロにずっきゅぅぅぅん!とくるモノがありますわ!
コレはなんとしても魔物娘になった際には刻んで戴かなくては♥
あら……?アレは……

駅!?
た、タイヘンです!!
このままではホンキで暗くてじめぇ〜〜っとした保管室で身体にカビがはえるのに耐えながら、いついらっしゃるかわからない旦那様を一人で寂しく待ち続けて怨念で唐傘お化けになって……

厭です。
そんなの厭です!
魔物娘になるのであれば
同じ魔物娘になるのであれば
祟りは厭ッ!
旦那様に最初に掛ける言葉が“うらめしや〜”なんてッ!!

でもコレは最悪の事態を覚悟……



「お疲れ様です」
え?だ…
「お。妙なトコで会ったな」
「雨も丁度止んだし駅に着いたしな。コレ持っていっていいよ」
「やっぱり――サンが持ってましたか。」
旦那様ぁぁぁぁぁ!!
「あ。お前のだったの?」
奇跡は起こるものなのですね。
もう最高です。
言葉に表せない嬉しさとはこういうものなのでしょうか?
まだ携帯電話が普及していない頃、お祭りで迷子になった子供が小一時間ぶりに交番で親に再会したときの様なと言いますか。
嗚呼涙が……って雨粒に紛れてわかりませんが。
というより実体化してませんけど。

「えぇ。ありがとうございます。」
そのありがとうは……きゃ♥
だから伝わってくるんですってば♥
私は旦那様に使って戴ければ…
いいえ。旦那様以外に使われたくないのに。
それなのに旦那様ったら。
ヒトが好いのですから。
でも、そんな旦那様だからこそ私が産まれたのですけれどね♥

雨はやんでしまいました。
これでは今宵の私の出番はもう無いでしょう。
普段ならちょこっと竜神様をお恨みもうしあげるトコですが。
旦那様の手に戻れたのですから感謝です♥

『次のお誕生日が楽しみですね♥旦那様♥』


おしまい
14/07/05 23:46更新 / ぼーはん

■作者メッセージ
連休中に居なくなくなった蝙蝠傘はきっと唐傘お化けになって帰ってくる

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