連載小説
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親魔物領にてー2
「困ったぞ……」
「困ったぞー!」

宿屋は一切見つからなかった。いや、あっても高級だったりして泊めれそうにない。
同時に仕事も見つからなかった。どうやらいくつかあったようだが一歩遅かったようだ。

「これは……マジで野宿……か?」
「路地で一枚きりの毛布に二人でくるまって眠るんですね、わかります」
「うわぁ、別世界に来て最初の宿が青空宿屋なんて嫌だ……」
「そして、二人はそこで愛を育むのです。フンスフンス」
「ちぃっとは真面目に考えろ」
「いひゃいよいひゃいやふぇへー(痛いよ痛いやめてー)」

ともあれ今、俺たちに必要なのは金だ。最悪野宿になってもニーナの言う通り、毛布が一枚あれば寒さはしのげる。幸い、俺も彼女も胴体部分は甲殻や鱗でおおわれていない。暖めあうなら問題はない……いや、あるけど。

「ほっぺ痛い」
「自業自得だ。それよりものを買いにいくか。毛布とか、食料のついかとか」
「物を買う分には二、三日は足りるよね、このお金」
「本当に、数日間は生き残れるだけしか渡さなかったんだなあの連中」
「反魔物領から来たんでしょ?あそこの人たちは結構自分達にとって有益じゃない人たちには冷たいよ」
「そうなんだ」

本当にひどい連中に召喚されたもんだ。
だけど、とりあえず数日は野宿でも過ごせることがわか……

「ちょっとまて、ニーナは文無しなのか?」
「え?路銀ならそこそこ持ってるけど」
「それを使えば宿とれたんじゃないかな」
「うん。そうだね」
「……」
「?」

数秒後、ニーナの悲鳴が付近に響いたそうな。


                   ●

とりあえず日が暮れるまでに大通りー名前はアウリル通りと言うらしいーで食料を購入することにした。

「おしり痛い。お嫁いけない。ドレイクのばーかばーか」

ニーナが尻を擦りながら俺をにらんでいるが、やったことはシンプルに一回尻をひっぱたいただけだ。それだけで嫁にいけないなんてあるか。

アウリル通りはかなり活気に溢れている。街の外からやって来た行商人や、元々ここに店を構えている人たちが呼び込みやセールストークを繰り広げている。
宝石商、呉服屋、武器屋防具屋……数多くの露天があって、目当ての食料を多く売っているところが見つからない。
そんなときだ。

「ちょいとちょいとそこのお二人さん!もしかして食いもんをお探しかぁい!?」

ひときわ威勢のいい客引きの声が聞こえてきた。見てみると俺たち二人へ手招きをしている男がいた。って、隣の女性さっき街にはいるときに馬車の手綱握ってた刑部狸の人だ。

「いくぞニーナ」
「うん」

食料を探しているとみて呼び掛けたからには当然自分の商品に自信があると言うことなのだろう。それなら行ってみなくては。


「へいらっしゃい。こっち来たってことは、食料がいるってことだね?」
「えぇ、まぁ。何かあんのか?」
「そりゃもちろん!これとかどうだい?」

そういって彼が取り出したのは……ナンダコレ

「あ、やべ。これ違うやつだ」
「ちょ、あんた何魔術道具食料で出しとんねん!ど阿呆!」
「いてっ。わかったからけつ蹴んなよ」

少しの間夫婦漫才を見せつけられた後改めて男の方が取り出したのは魚の干物や、山羊の肉の干物といった干物を中心とした保存食だった。

「へぇ、缶詰もあるんだ」
「おうともさ。どっかの偉い学者さんが別世界の技術を一部電波受信したとかなんとかで、こういう保存食が一部流通してきてんですわ」
「へぇ。なんの缶詰?」
「ニシン」
「絶対それだけは買わん」
「そう?うまいって噂なんだけど……ま、いっか。じゃあ、これとかどうよ」
「これ?」
「そう!こいつぁ、すげぇんですぜ旦那。一口食えば数時間は満腹の状態が持続できるって言う超密度の干し肉ってんで、値がちと張るにも関わらず旅人にとっちゃ必需品ってレベルになりつつあるんでさ」
「へぇ、味は?」
「今んところ売るためにあるものは山羊と鹿肉でさ」
「いくら?」
「ま、普通は金貨二枚ってところを、今回は金貨一枚と銀貨八枚でいかかで?」
「ふむ……」

隣で別の商品をじっと見てたニーナに尋ねる。

(高いのか?)
(んー。ま、普通の食料なら金貨一枚あれば二人で一日分は買えるよ)
(大きさ的には大体他の干し肉より一回りぐらい大きいだけだよな……)
(うん。でも言ってることが本当なら……)

存外、ニーナもただのアホの娘ではないようだ。

「言っとくけど、俺達はお商売で嘘つく気はねえぜ。お客さんの満足を売る。これが俺達、『行商屋狸』のモットーでさ」
「詐欺はしまへんよ」

ひそひそ話をしていると二人が念を押してきた。

「信じられないならお試しで一口食ってみたらどうで?」
「……いただきます」
「ほいさ。楓、ナイフを頼む」
「はいはい。はい、おまちどお。彼女さんもいかが?」
「むひゅひゅ、彼女だって彼女だって。まだえっちもしてないのに早いよぉ……いただきまぁす」

本当に一口分だけいただいて食べる。そしてよく噛んで…………やべぇ、噛んでも噛んでも味が出てくる。
それだけじゃない。肉自体が噛めば噛むほど膨らんでいるような感覚がある。なるほど、これは確かに一口で満足できる……

(これは……)
(買い……だね)

今俺たちにある金貨は三枚。この内二枚を使おう。

「ひとつください」
「毎度ありっ」
「ひとつでエエんですか?がめつく思われるかもしれまへんけど、なかなか手に入りまへんよ、このお肉」
「あー、買えるなら買うんだけど……」
「この通りお金がないんだよね〜」

ニーナが貨幣のはいった皮袋を開いて見せる。残り金貨一枚と銀貨四枚か……

「あちゃー。これはヤバイですね」
「はぁ〜。これは困ったもんやね。お金あてありますのん?」
「仕事もないから毛布で二人暖めあって寝るのさ」
「まあ、とにかく金がないんすわ。とりあえず金を手にいれるまでは必要以上のお金を使いたくねえんです」

そういうと少し狸の奥さんは何事か考えると旦那さんに何事かを耳打ちした。
旦那さんはそれを聞いてしばらく考えると

「なあ、あんたら。腕っぷしに自信はあるか?」
「はい?」
「ちょっとした頼み事なんだが……」
13/11/17 20:59更新 / しんぷとむ
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