読切小説
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綺麗な瞳とクリスマス
私はあることを発見した。それは、私に恋人が存在し、一週間後にクリスマスが来ることであった。

クリスマス_それはとある宗教の救世主の誕生日を祝うという文化である。私はこの文化を極端に嫌っていた。それというのもこの日になると町中にカップルが溢れかえるからだ。といっても今の時代では世界中に魔物娘がいるため、いつでも満杯と言えなくもない。

本来ならこの日は喜ぶべきものだろう。確かに私にもこの日を喜んでいた記憶があることは承知している。子供の頃に朝起きると枕元やツリーの下にプレゼントが用意されているというのは子供の頃の自分にとって、とても楽しみなイベントの一つであった。

しかしある時を境に子供は成長する。私は今でも遅くまで起きて正体を暴こうとしたことを後悔している。

数多のむにゃむにゃを経験した私はこのイベントに歓喜を覚えることはなくなった。むしろひたすら恨み言を言って現実逃避することも辞さない。

しかし、このイベントも元は厳かなものだったのだろう。だが、全ては赤い服を着たオヤジが家宅侵入を始めた時分から変わってしまった。そこらじゅうでカップルが絡み合い、睦言を交わす。そしてそれを周りに振りまきニヤつく。

といった具合だが、私がどれだけクリスマスを憎んでいるか。読者の皆様にはわかるだろうか。賛同を求めたいところだが、あえて求めない。賛同を得ることがこの話の筋ではないからだ。

私がクリスマスを嫌っているという話を私の多くはない友人の一人、柴田君(仮名)にしてみたところ、

柴「君にはいま彼女がいるだろう」

と、ごく自然な反応を返されてしまった。

そう、現在私には年下の彼女がおり、つつがない質素な交際をしていた。彼女は非常に美しい瞳を一つだけ持っており、私をその瞳でよく癒してくれる。癒してくれると言っても特に特殊な能力があるわけではない。私は彼女の瞳を眺めているだけで幸せになれるのだ。

これ以上は惚気話なので割愛するが、私が彼女を大事にしているということが伝えたい。

しかし、いくら彼女ができたとはいえ、そう簡単に嫌いだったものを好きになれるかと言われると私の大して立派でもない自尊心が、そうはいかぬと邪魔をした。

彼女は活発な性格ではないからきっと自分と同じでクリスマスなど念頭においていないとタカをくくっていたが、柴田の彼女である珠子さんから忠告を受けた。

珠「友子ちゃん、とっても楽しみにしてたよ。クリスマスぅ〜!」

友子ちゃんというのは私の恋人の名前であり、珠子さんは友子ちゃんと面識があるのをいいことに私に助言という名のイタズラを振りまいた。

このイタズラにより私は一週間後に控えたクリスマスに向けて、多大な精神の疲労をすることになる。

私は今までの人生のうちをあまり活動的に過ごすこともなく、活動的な人物たちを内心でこき下ろし生きてきた。しかしいざ自分が活動的な行動をしなければならない時が来ると、私という生き物は今まで馬鹿にしてきた人物たちを最大限に利用した。

その時利用した人物は誰あろう、私の友人の中で見事ナンバーワン破廉恥ボーイとなれるであろう私の友人、柴田であった。

柴「なんなんだその鼻持ちならない顔つきは」

私「気にするな。それよりお前に聞きたいことがある」

柴「珍しいこともあるもんだね。君が僕を頼るなんて」

私「実はだな・・・」

その後私はいままでの経緯を大体話した。

柴「手伝ってあげるけど、なんで君は僕に対してそんなに失敬な考えしかないんだ?」

私「いつも部屋で桃色空間を形成しているだろうが」

柴田は「いやぁ、褒めないでよ」と頭をポリポリとかきながら言った。私はこの破廉恥ボーイがじつに憎らしい顔をしているので話を元に戻した。

私「いやそれよりも、クリスマスの過ごし方についてだ」

柴「そういうのは正直苦手なんだがね。まぁ、まずは相手が何処に行きたいかとかそういった話から始めるべきじゃないか?」

私「なるほど」

柴「君は彼女の家庭教師なんだろ?だったらそれとなく話題を振っていろいろ聞き出してみたらいいんじゃないか?」

やはり私のような素人では導き出せそうもない答えをまるで当たり前のように喋る。さすが破廉恥ボーイだ。

私「やはり頭の中が桃色だと発想が違うな」

柴「君だって桃色体験はしたんだろ?なら僕と一緒だよ」

私「俺は一回だけだ!お前らのように毎日乳繰り合ってなどいない!」

柴「話がそれてるよ」

私「うるさい!・・・・・まぁ、聞いてみることにする」

柴「いい報告を期待してるよ」

柴田はそう言って去っていった。




私は現在、家庭教師のアルバイトをしている。何を隠そうその教え子が私の恋人なのだから、最近騒がれている若者の性の乱れも侮れないものである。といっても最近は魔物娘たちの精力的な活動で老いも若きも関係なく乱れていると言える。

しかし、私の恋人は魔物娘にしては珍しくそこまで積極的に私を求めるようなことはしない。以前私が情事に及んだのは全くの事故である。

そのようなとりとめもない考えを巡らせているとどうやら目的地の前についたようである。

彼女の住んでいる家はそこそこのサイズがあり、私のような四畳半に居を構えている者にはいささか刺激が強い。インターホンを押すと基本的に彼女の母親である佳奈美さんが出迎えてくれる。

佳奈美さんはとても美しい女性であるがどこか抜けている。以前私にお茶を出してくれた時にコップには何も入っていなかったりした。

あとなぜかは知らないが、佳奈美さんと友子ちゃんは魔物的な種族が違っている。アラクネ種とサイクロプスである。魔物の子供には別種族が生まれるのか私は知らないが、ふたりの間に確執がないようなので特に問題と思ったことはない。

今日もいつものように佳奈美さんが出迎えてくれた。私は挨拶を済ませ、友子ちゃんのいる部屋に向かおうとした、がしかしその私を佳奈美さんが引き止めた。

佳「あ、ちょっと待ってください」

私「えっ!?」

私はこのときどうやって友子ちゃんに話を切り出そうか必死に考え込んでいる最中で、突然の言葉に心臓を掴まれたような衝撃を覚えた。

佳「紹介します。私の夫です」

そこにヌゥっと現れた男は身長が2メートルほどあり、体のあちこちの筋肉が服をビリビリに引き裂いてしまうのではないかと思うほど筋骨隆々としていて、私などその体に触れただけでボロボロと崩れるのではないかと思われた。

男「お前が友子の彼氏か?」

男はほの暗い洞窟から聞こえる唸りのような声で言った。男の太い腕が肩を掴む。

男「そうなのか?」

私「はいぃっ!」

私は今日ここに来てからおかしな声しか出していない気がする。そんなことを気にする暇もなく男の腕が高く振り上げられた。

もしや殴られるのか、そう思い体がこわばったが拳が飛んでくることはなかった。しかし・・・

男「そうか!そうか!」

そういいながら丸太のような腕で私の肩を叩く。非常に痛い。痛い。

私「痛い!」

男「あぁ、すまない」

そう言って男は飛び退いたが、顔には満面の笑みが張り付いており、どこか妙ちくりんな地蔵を見ているような気分になった。

男「俺は佳奈美の夫で友子の父親の一馬だ。気軽にお父さんと呼んでくれ。」

私「あなたが・・・・」

私がこの家でバイトを始めたのはおよそ半年前である。その間私は玄関、リビング、そして友子ちゃんの部屋を活動場所としていた。それらの場所にはこの男が写った写真はなく、今回が彼との初めての遭遇であった。

一「で、いつが挙式だ?」

私「え!?」

一「結婚式だ!」

私はこの男の発言を理解できなかった。結婚?早すぎる。確かに彼女は魅力的だ。しかし、まだ高校生だ。というか、普通ここはお前なんかに娘はやらんとかのセリフを言うんじゃないのか。

一「おい!いつなんだ?」

私「えーと・・・結婚は・・・まだ・・・」

一「なんだ、そうか・・・」

見る間に縮こまってしまった。悪いことを言ってしまったのか。

佳「橘さん、もうそろそろ娘の所に・・・」

橘というのは私の苗字である。私は佳奈美さんの言葉に従ってその場から逃げた。なんというか悪いことをした気がする。しかしそんなことはどうでもいい。クリスマスのことをどうやって聞くか?

ゴンッ!!

私「なんでこんなことばっかり!」

友「あっ、ごめんなさい」

どうやら友子ちゃんがドアを開けた時に私がちょうど当たってしまったらしい

私「友子ちゃんか、こっちこそごめんね」

私「今から始めたいんだけど、何か用事あるの?」

友「いえ、先生を呼びに行こうと思っただけですから・・・」

それから私はクリスマス作戦の情報収集をした。といっても私は根が真面目な人間なのでちゃんと仕事をしてから聞き出すことにした。

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本日のアルバイト内容は予定通り終了。あとはクリスマス作戦のための情報収集だが、私は職務中に不安材料を見つけてしまった。彼女がなんとなく私を避けているようなオーラを放っていたことである。ボッーっとしているのではない。明確な意思を持った避けである。

もしかして、彼女はクリスマスの話題にしたくないのではないか。だが、しかし、私には彼女がいるのにひとりで過ごすということはできない。意を決して聞く。

私「友子ちゃん・・・・あのー・・・なんというか・・・クリスマスの予定って何かある?」

友「・・・・あり・・ません」

私「えー・・あー・・・デートでもどうかな?」

友「!」

あぁ、目を見開いて驚いている。考えたくはないが私では駄目なのか。

私「ごめん、やっぱり・・・」

友「行きます」

私「今のはやめに・・・えっ」

彼女が近づいてくる。その手には古風なメモ帳が握られていた。

私「じゃ、じゃあクリスマス・イブに駅前なんてのは・・・・」

友「時間はいつですか?」

私「友子ちゃんの学校の終業式は・・・」

友「イブです。お昼には終わります」

私「じゃあお昼は一緒に・・・・」

友「はい!」

かなりの速度でメモ帳に何かが書き込まれてゆく。ここまで勢いのある彼女は初めて見た。まるでブルドーザー・・・いや、新幹線!って私は女の子をなんでそんなもんに例えているんだ。それにしても珠子さんの言ったとおりのようだ。避けられているという錯覚も杞憂だといいが・・・・・目的は果たしたしお暇しよう。

私「じゃあ、イブのお昼に駅前で」

友「ハイッ!」

その日は珍しく彼女の見送りはなかった。代わりにいつもいない人物が見送ってくれたが・・・




次の日、私は柴田を呼び出してさらなる作戦を練ることにした。

柴「どうだった?」

私「クリスマスにデートの約束をした!」

柴「おお!君にしては上出来だ!で、場所は?」

私「駅前を中心に据えて行動する。」

それを聞いた柴田は怪訝な表情を浮かべた。

柴「駅前の商店街かぁ、あの子はもっと静かそうなところを選ぶと思ったよ。本屋とかさ」

私「選んだのは俺だ」

柴「えっ、彼女にどこに行きたいか聞いた上でそこにしたのかい?」

私「聞いてないが」

柴「・・・・君はそれを聞きにいったんじゃなかったのか?」

私「忘れていた」

柴「まぁ、今回は君の勇気ある行動で約束自体は取り付けたわけだ」

私「そうだ。もっと褒めろ」

柴「阿呆か君は、そんなことより作戦だろ」

私「そうだな、どうする?」

柴「クリスマスといえば?」

私「にっくき敵」

柴「そうじゃないだろ!クリスマスの象徴的なものは?」

私「・・・・一人で甘いものを食う」

柴「マジメに答えろよ!」

私「・・・・なんだっけ?」

柴「・・・・・・・」

柴田の哀れみをいっぱいに込めた視線が突き刺さる。そんな目で私を見るな!

柴「プレ・・・・」

私「わかった。プレゼントだろ」

柴「なんというか・・・すまんかったね」

私「みなまで言うな。当日までにプレゼントを用意するんだろ?」

柴「そうだ。でもこれが少々難しい問題でね。相手に悟らせてはいけない」

私「それだと何が欲しいかわからんではないか」

柴「そこは相手の仕草なんかで判断するんだよ」

うーむ、なかなか難しいことを言う。だいいち彼女の家でのアルバイトは昨日が今年で最後だ。彼女と外で会うのはかなり確率的に言えば低いし、さらに言えば、明後日がイブだ。明日はサークル活動がある。彼女の仕草を思い出すことで一つ手を打とう。

私「わかった。何とかしてみよう」

柴「その意気だ。応援してるよ。それと当日に僕に連絡しないでくれよ。僕もデートだから」

そういって立ち上がり携帯を耳に当てどこかへ行ってしまった。



12月23日、私は所属するサークルの雑用と忘年会の幹事を押し付けられ一日行動ができなかった。しかし、頭の中では私の脳細胞が激しい討論をして、一体どうすれば彼女にふさわしいプレゼントを選択できるか悩んでいた。だが私の脳はシワが足りなかったようで的確な回答は得られず、私には焦りが募っていった。









そして決戦の日、私はいつもより早い時間に目が覚め、半ば困惑したまま午前中を過ごした。

私の住処は小さな町に存在し、その町は学生たちの間では交通の便が悪いことで有名である。例を挙げると汽車が二時間に一本というレベルだと言えばわかってもらえるだろう。

しかし逆に言えば、汽車がいつに来るかが特定しやすいということである。つまり彼女は汽車で高校に通っているからその汽車が来る時間に駅で待っていれば良い、ということになる。

高校というものは大体昼まで授業をして、その後に終業式をやるはずだ。私の高校時代がそうだっただけでほかでは違うかもしれない。しかし彼女もそうだと思う。それは彼女が昼に待ち合わせすることを了承したからだ。

といった具合にひたすら考えを巡らせていると10時を知らせるアラームが鳴った。

私は身支度を整え鏡の前に立った。顎に手を当てる。いくら私が身だしなみに疎いとはいえ、さすがにヒゲを剃らずに決戦に臨む程の非常識はない。

私は鏡の中に景色をみた。

くもりであった。




〜駅前〜

外の気温は低い。私は手をこすり合わせ汽車の到着を待った。時刻は12時である。イブだからか知らないが駅は賑わっている。商店街の方をちらりと見てみるとクリスマスの飾りつけが施されていて、いつもとは違った一面を見せてくれた。

腕時計をみると汽車の到着まで一時間ほどの時間があった。どうやらはやる気持ちを抑えられなかったらしい。どうやって時間を潰すか考えていると私はまだプレゼントを買っていないことを思い出した。

丁度いい機会なので普段はあまり行くことのない商店街を探索し、デートの下見とまだ見ぬプレゼントの発掘を行うことにした。

商店街には多くの店があった。飲食店や衣服及びアクセサリーの店、土産物、などの店舗が道の両脇にあって、カップルなどを狙って客引きが様々な商品の名を声高に叫んでいた。

その中でも私の興味を引いたのはGYOUBUという名の店であった。この店はテントであり、アクセサリー類を取り扱っているようだった。私が物珍しげに遠くから眺めていると客引きに捕まった。

?「お客さん、どうぞ見ていってください。いいものありますよ!」

私は何故だかこの言葉に逆らおうとせず、すんなりとテントの中に入ってしまった。きっと普段の私ならなにか理由を見繕って拒むだろう。だがそうはしなかった。プレゼントを買わなければならないという焦りがそうしたのかそれともほかのことが原因だったかはわからない。

テントの中には私の他にも数人がいた。その多くがカップルであったことが私をさらに焦らせた。

テントの中は思った以上の空間が広がっていて様々なアクセサリーがきらびやかに光っていた。

?「なにをお探しで?」

眼鏡をかけて前掛けをした人物が私に話しかけてきた。私は間に合っている。と言ってその人物を退けた。

私は頭の中にいる友子ちゃんの姿をひたすら観察した。

友子ちゃん。少し引っ込み思案なサイクロプスの女の子。私の大切なヒト。たまに私のことを避けるような仕草をする。そういう時に私は悲しくなる。この前は初めて勢いのいい彼女を見た。嬉しかった。付き合う前には自分の目について悩んでいた。あれは思い出したくない。

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しばらく頭の中で思案していたが考えはやはりまとまらなかった。しょうがないので腕時計に目をやる。13時7分だ。10分には汽車が来るだろう。諦めるか・・・・・

私は諦めてテントを出ようとした。が、そのときあるものが目に映った。私は再び時計を見た。8分だ。私は足早に目に映ったものをレジ員に渡した。

レ「はい、こちら1500円になります。」







駅前に戻ると汽車に乗っていたであろう学生がそこらぢゅうにいた。おそらく汽車の到着から三分ほど経ってしまっている。近くに友子ちゃんの姿は見当たらない。駅からはまだぞろぞろと学生らしき人影が湧き出してくる。私は人波に揉まれながらひたすら彼女の姿を探した。

彼女は駅前の広場の中心の大木の周りにあるベンチに体を預け俯いていた。

私「ごめん!混雑していて君がどこにいるかわからなかった」

友「・・・・・・」

私の声に対する応答はなかった。彼女は気だるそうに顔を上げ私の顔を見据えた。彼女の大きい目は少し潤んでいた。体をゆっくりと動かして会釈する。

友「・・・こん・・・にちわ」

彼女の声は少し掠れていた。冬の乾燥した空気にやられたのか。

私「こんにちわ、そこでお昼にしよう」

彼女は無言で頷く。その動きはとても緩慢で、スロウ映像でも見ているようだった。彼女はなかなか立ち上がらない。私は急に不安になった。

彼女に駆け寄る。彼女は驚いて後ずさりした。しかし、彼女は後ずさりできずそのままベンチに倒れ込んでしまった。

私「!」

彼女の額に手を当てる。熱い。

私「熱があるじゃないか!」

私は携帯の地図機能を使って近くにある病院を探そうとした、が彼女の手はそれを遮った。

私「なにするんだ!」

友「やめて・・・せんせい」

私「なんで!」

友「だって・・・・これから・・デート・・なの」

彼女はそう言うと力無く腕を下ろす。私は彼女を背負って近くにある病院を探した。

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医「風邪でしょう。精液不足による免疫力の低下が原因ですね。どうします?ここで一発ヤっていけば明日には元気ですよ」

私「遠慮します」

ここは小さな診療所である。サキュバスの医者がねっとりと診察することで有名らしい。私は駅前から歩いて5分程の場所にあるここに友子ちゃんを連れてきた。彼女は私に背負われている間も不毛な抵抗を続け、私に対し下ろしてと懇願していた。


                 
                 

診療所を出て私は彼女を背負って歩いた。目的地は彼女の自宅。駅前から一時間の長距離を私は歩いた。私は普段あまり運動していないことを悔いた。

彼女は眠っていた。それでも私にしがみついてくれた。彼女が荒い息を吐くたび、私は苦しさを覚えた。




彼女の家のインターフォンを押す。誰もいないようである。試しにドアノブを回す。・・・・・開いた。無用心極まりない。

私は彼女を部屋のベッドに寝かせ、とりあえず水を汲むために部屋を離れた。

              
              
              
              

私が水を持って戻ると彼女は泣いていた。

私「ほら、水もってきたよ」

友「・・・・ごめんなさい」

私「なんで謝るんだい?」

友「私なんかのために・・・・・デートを・・・」

私「・・・気にすることじゃないよ」

友「でも・・・私は・・・」

私「・・・・・・」

友「私は・・・・先生が好きです。でも私は・・・・怖いんです。先生に捨てられるんじゃないかって。先生はそんなことしないと思っても・・・・心のどこかで、私のことを気味悪がってるんじゃないかと思ってしまうんです」

私「お腹がすいているからそんなこと考えるんだよ」

友「話をそらさないで!・・・ゴホッゴホッ」

私「すまない。調子に乗った」

友「私は・・・・私は・・・・わだじばぁ・・・ぜんぜいがすぎなのにぃ・・・」

大きな瞳からボタボタと涙が流れ落ちる。

友「どごがでぜんぜいをうだがうじぶんがギライ!キライ!キラィ・・・う・・うう・・・うああああああああ!」

彼女は泣いた。寂しくて泣いたのか、悲しくて泣いたのか、私にはわからなかった。

私は彼女を布団に寝かせた。そして隣に入った。彼女は最初私を押しのけようとした。しかしそれは最初だけであとは私にしがみついて泣いた。

私「大丈夫?落ち着いた?」

彼女は頷きもせず私にしがみついた。

私「・・・・君に言っておくことがある」

更に強くしがみつかれる。

私「僕は君にひとつだけ不満がある」

友「!」

私「離さない!」

彼女を強く抱きしめた。私はこの時ほど彼女が弱々しいと感じたことはない。

私「大丈夫、大丈夫だから。僕の話を聞いてくれ」





私「君は自分を卑下しすぎなんだ。君はとても魅力的なのに自分でそれを全部否定している。僕は君を不気味だと思ったことはない。君はその大きくて綺麗な目がひとつだけだから君なんだ。僕はそんな君に惚れたんだ」

友「・・・・・・・」

私「僕は辛いんだよ。君が自分を否定しているのが」

私「これ以上はうまく言い表せないけど、僕は君を好きになれて幸せだった」

私「僕は君の答えが聞きたい。僕と過ごせて幸せだったか、そうではなかったか・・・」

友「私も幸せでした。先生に会えてよかった。先生がいなかったら・・・・いなかったら・・・私は・・・きっと」

彼女と見つめ合う。彼女の大きくて綺麗な瞳が私の心を見据えている。その瞳は青い海のようだ。

「改めて言うよ。僕は君が好きだ」

「君のすべてを愛している。その大きな瞳も何もかも」

「だから・・・・自分を大切にして欲しい」

彼女の頭に鼻を押し付ける、するととてもいい香りが広がる。スンスンと音を立てながら額、瞼、鼻、唇という具合にどんどん匂いを嗅ぐ。戯れに首筋を舐めてみた。甘い。

「・・・・・ありがとう」

「え?」

「先生は私を見てくれたから」

「ずっと見てたよ」

彼女が私に体を絡ませる。

「ダメだよ。君は病気だろ」

「・・・先生は忘れん坊、私は魔物娘です。だから・・・・」

彼女と私は深い、深いキスを交わす。互いに絶対に離れないように。

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?「むぅ〜、彼はもっと変態的な趣味かと思ったのに・・・」

?「健全でいいじゃない。アブノーマルも好みだけどたまにはあんな甘々なのも憧れるわ。ねぇ、柴田君」

柴「そうだね、珠子さん」

?「二人共静かに」

柴、珠「「はぁ〜い(小声)」」

?「それにしても良かったなぁ、佳奈美」

佳「そうね、カズ君」

一「あの子が魔界から来た時はどうなるかと思ったが・・・」

佳「長かったね」

柴「彼・・・・結構もってるな。もっと早いとおもったのに」

一「・・・・・そろそろ、退散するか」

佳「そうだね」

柴「え〜」

珠「馬に蹴られるわよ。帰って二人きりでヤリましょ」

一「俺たちもするか?」

佳「今夜は眠れないね、カズ君」

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12月25日

彼女の風邪は医者の言ったようにすると翌日には治った。昨日みた彼女とは打って変わって顔色も良く、実に健康的。喜ばしいことだ。

だが、一方で

私は風邪がうつってしまったらしい。朝起きたときから頭の中でガンガンという音が絶えず鳴っている。鼻水も濁流のように流れ出る。体はブルブルと震えていてまるで携帯のマナーモードだ。

ガチャリッ

友子ちゃんが何か持って入ってきた。珍しくメガネをかけている。

友「起きたんですか、寝てなきゃダメですよ」

私「あぁ、おはよう。迷惑かけてすまんね」

友「私こそ、風邪をうつしてしまって・・・」

私「いいよいいよ、君のならむしろ歓迎だ」

友子ちゃんは顔を俯かせた。照れているらしい。可愛らしくて良い。実に良い。

友「あ、そうだ。お粥を持って来ました。食べてください」

どうやら持っているのはお粥らしい。お粥から湯気が上がっていて、メガネは白く、その瞳を見ることはできない。

彼女が私の隣に腰掛け、私は起き上がる。背中からボキボキという音が響く。フゥ〜フゥ〜とスプーンの上のものが吹かれている。

友「・・・・・あ、あ〜ん」

あんぐりと開けた口の中に熱いお粥が突っ込まれる。トロトロとした舌触りで程よい塩の味がする。温度は熱すぎもせず冷たくもないもので言うなれば適温。私はスプーンの上のものをよく確認しなかったが、シャキシャキという食感があるから野菜も入っているようだ。お粥全体の塩味もこの野菜が大元らしい。実にうまい。

私「美味しいよ。君が作ったの?」

友「手伝ってもらいました」

私「へぇ、誰に・・・ブファ!」

口にアツアツのお粥を突っ込まれた。

友「あ!すいません。うっかりしてました」

私「もしかして・・・昨日のこと怒ってる?」

友「そんな!昨日は・・・とても素敵でした」

私「昨日は恥ずかしいことをいっぱい言った気がするよ」

私は咳払いをして続けた。

私「君が回復して、僕も元気だったら昨日のデートをやり直すつもりだったんだけど・・・この体たらくだ。ほんとにごめんね」

友「大丈夫です。先生といられればどこでも私には・・・・」

私「・・・・なんだか恥ずかしいな」

友「・・・・私もです」

二人でそんなことを言いながら私はお粥を完食した。

私「ごちそうさま。おいしかったよ」

友「お粗末さまです」

私「そうだ、君に渡したいものがある」

私はだるい体を動かしてベットを出る。フラフラとした足取りで歩く。自分の荷物をガサガサとあさってあるものを取り出した。そこで私の体力は尽きペタリとお尻を床につけたが、彼女にあるものを差し出す。

私「メリークリスマス。受け取ってくれ」

友「これは・・・・ヘアバンドですか?」

私「うん、実はラッピングもしようかと思っていたんだが、なにぶん時間がなかったものだから。見栄えが悪くてすまんね」

友「嬉しいです。ちょっと待ってください。・・・・・似合いますか?」

私「ちょっと・・・立つから待って」

私が立ち上がると、彼女は頭にヘアバンドをつけてクルリと一回転した。

私「似合ってるよ。でもちょっと待って」

私は大きな瞳がもっと見えるように位置を調整した。

私「こっちのほうが可愛いよ」

友「私も・・・プレゼントがあります」

そういうと彼女は私が使っていた枕の横にある紙袋を持った。赤い紙でキレイにラッピングされている。

私「気づかなかった」

友「開けられますか?」

私は出来るだけキレイに包を剥がそうとしたが指に力が入らない。

私「ムリだ。情けないなぁ。・・・はぁ〜」

友子ちゃんに手渡すと彼女は、ペリペリとテープを外し、中身を手渡してくれた。

私「でかいマフラーだね」

友「・・・・嫌でしたか?」

私「そんなわけないよ。でも、これだけ大きかったら一人で巻くには寂しいものがあるね。ぜひ、誰かと一緒に巻きたい。君も一緒に巻かれてくれないかな?」

彼女が顔を赤くして寄り添ってくれた。

私「でも今はやめておくよ。鼻水がつくといけないから」

友「先生のイヂワル・・・」

彼女の膨れた顔を見るのは初めてだ。眼福、眼福と呟きながら私はヨロヨロと歩き、ベッドに倒れ込んだ。

私「あぁ・・・クラクラする」

友「大丈夫ですか」

私「あとで病院に行くよ。あと少しだけ君のベットで寝かせて欲しい。良いだろうか?」

友「私を隣に入れてください。それならいいですよ」

私「またぶり返すかもしれないよ」

友「先生と一緒なら・・・」









私はこのあとしっかり病院に行ったが、ただの風邪であった。結局私たちのクリスマスは風邪で終わってしまったが、それでもあの笑顔が見れただけで私は満足だった。これで私が初めて体験した恋人とのクリスマスの話は終わりである。

13/12/25 18:44更新 / アカマさ

■作者メッセージ
<一番気に入ってるのは・・・
                  なんです?>
<単眼DA!

というわけでここまで読んでくださりありがとうございます。
楽しんで読んでいただいていれば幸いです。
実はこの話、単眼娘の頭をスンスンしたいという不埒な欲望が生み出した産物であります。
なので、スンスンするところ以外はおまけだと作者は思っています。
今後また不埒な欲望が沸いたら何かにつけて書くかもしれません。
そのときは「またお前か」という生暖かい声援をまっています。
それではしばらくの間アディオスアミーゴ!!

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