連載小説
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6話 都合のいい事ばかり
飛竜の背に乗り風を切る。もし今立派な鎧を身に纏い、手綱を握っていたらどれほど様になっただろうか。

実際のところはと言うと、今乗っている飛竜は通常より小振り─もちろん全体のバランスは素晴らしく、あと一人は乗れてしまいそう─で今着ているのはなんてことの無い一般人の着る服なのだ。

しかし、今僕を乗せて空を駆けるこの飛竜が愛する人であることはこの国の兵士達と変わらない。

小さく見える家、生命の息吹を感じさせる美しい景色。
僕にも翼があれば良いのになと思ってしまう。インキュバスになればもしかしたらそういう魔法にも耐えられるかもしれない。
あるかどうかは別として。

そこそこ飛んでいるので「そろそろ休むかい?」と聞くが首を横に振って飛び続けている。目的地が近いのではない。原因は──


騎竜「そんなに真っ赤にならなくても良いじゃない?お似合いよ?」

竜騎士「ガタイなんて気にするなって。別に騎竜になる必要はないんだからさ。」

飛び始めて少しすると巡回中らしき騎士の夫婦に声をかけられた。
飛んでは不味い場所だったのかと思いきやそうではなく、乗るための器具無しで飛んでいる僕を気にかけて声をかけてくれただけらしい。

僕を乗せていた彼女はと言うと、顔を真っ赤にして黙ってしまった。横に並走(並飛行?)しながらはやし立てられているのだから仕方の無いことかもしれないけれども。



多少遠回りになってしまうが、あまり人目につかない所を選んで飛んだ時に限って人に会ってしまった。

ワイバーンと言っても大なり小なり身体の大きさの程度はあれど、人を乗せる為の器具は誰でもつけれる。
……私を除いて。

生まれつき身体が小さくて、服も器用な父親が手作りしてくれていた。1度は騎竜に憧れたが、身体の小ささ故上手く合うサイズの器具が無かったのだ。

こうして大事な人を乗せれているのだから気にはならないが、いざ横で立派な装備を着けている人達を見ると、なんだか自分の身体の大きさに切なくなる。
下着だけは他の人と同じぐらいなので尚更身体の小ささが目立ってしまうのだ。
とは言っても、もし──例えばドラゴンの人達のように──大きな身体であれば、寝る時のあの包み込まれる充足感は得られないだろう。その事は自分の身体の小ささを他人に誇れるだろう。

空「おーい。ちょっと休む?」

背中の上から優しい声が聞こえてくる。聞いてるだけでここ数日の事を思い出してしまい「危ない危ない。気を抜いちゃダメ…」と首を振って飛ぶことに集中する。

何がなんでもこの背中の上の宝物を落としてはならない。しっかりと心に刻み直して前を向く。



騎竜「へぇ〜…ジパングから?となると温泉には行ったの?」

「ええ。これから果物狩りにでもと。」

騎竜「となると……レグナ村かしら?彼女さんの実家でもあるの?」

セルカ「え…えっと……農家の…親戚の家が…」

竜騎士「怖がられてるんじゃないのかい?」

そう笑いながら奥さんにちょっかいをかける旦那さん。

騎竜「そういう貴方こそ?」

竜騎士「まさか〜。それにしても…君、よく装備無しで乗れるね?」

そうなのだろうか?確かに鞍等も何も無いが、騎士の人は鎧を着けているのだからこちらよりも疲れそうなのだが。

騎竜「飛ぶペースも安定してるし、貴女達向いてるかもよ?」



という事で、振り払った考えとは別の理由で真っ赤になってしまっていた。

騎竜「レグナ村ねぇ…今ワイバーンはそういう時期だし、それにレグナ村って確か……」

忘れていた。あの村は魔物を快く思わない人達が武装して入ってくることがある。あの村は本当にワイバーンが多い。今の時期はまず間違いなく非戦闘員だろうとウズウズしているだろう。

騎竜「貴女、なかなかやるじゃない?」

セルカ「いや、そういうつもりじゃ…」

騎竜「あそこの果物って結構ドギツイし、あんまりドカ食いしちゃダメよ?ご主人様の方もね❤」

空「あ、はい。…はい?」

確かに上手くいくのならその手のものをしれっと食べさせたかったが、一番の目的は2人で果物狩りをすること。どさくさに紛れて肩車なぞしてもらおうと思っていたが、これではまるで乱交騒ぎに参加する為に連れてきたようなものでは無いか。

空「……足りなかった?」

「そっ…そういう訳じゃ……ごめん、完全に忘れてた…」

騙したような形になっても、「ま、仕方ないか」と笑ってくれるのだからいつか詐欺に引っかかるんじゃないかと心配にすらなってくる。

騎竜「それじゃあ、後は楽しんでね?あっちの人達には刺激が強いでしょうから「お手本」、しっかりと見せなくちゃダメよ?」

「別にそんなつもりじゃ……」

騎竜「なるほど、人目につかないところでしっぽりとするのがお好き……と。」




そうこう話しているとレグナ村に到着した。竜騎士の夫婦もレグナ村が目的地だったらしく、村の竜騎士の詰所に向かって行った。

セルカ「知り合い呼んでくるのでちょっと待っててくださいね?」

そう言うと他より大きめな家へと向かう彼女。
自然に囲まれていて、澄んだ空気が身に染みる。肩がこうでなければ童心に帰って走り回りたいのだが、あいにくできそうにもない。
そうして周りを見渡していると………

???「おにーちゃん旅人さん?それともお外の人?」

どこからか声が。周りをキョロキョロして見ると、下から服を引っ張られる。見てみると人間で言えばおおよそ7.8歳だろうか、僕の腰よりちょっと高いぐらいの背丈のワイバーンの女の子が居た。

「旅行に来たんだよ。知り合いに連れて来て貰っててね。君は?」

???「私、ニール。大人の人達のお手伝いしてるの。」

亜麻色の髪の毛に同じ色のクリクリっとした目。薄緑の鱗となんだか彼女をちょっと連想する。

「何か用かい?」

ニール「旅行者さん、もうすぐ果物狩りするの。誰かと一緒ならオススメなの。」

「そっか、今一緒に来た人を待っててね。その人が来たら案内してくれるかな?」

ニール「わかったの。」





「お久しぶりです、麗龍(レイロン)さん。」

異国から引っ越してきた薄い朱の龍の麗龍さんは龍泉に知り合いがいる。
ジパングの事も知っているので彼と会わせてみたかった。

麗龍「久しぶり、セルカちゃん。もしかして……お相手探し?」

「いえ…探しに来たんじゃなくて…むしろ紹介というか……」

麗龍「やったじゃない!それで、その人どこにいるの?」

「外で待っててもらってます。ジパングから来られた方なんですよ。」

麗龍「ジパングから…ということは向こうに住むの?」

「いえ、このままドラゴニアで居を構えようかなと。」

麗龍「それなら早速会わせて欲しいわ。行きましょ?」



麗龍さんと連れ添ってソラの元へ戻ると──

ワイバーン「お兄さ〜ん?待ってても仕方ないんだからさ〜。先に行って待っちゃってもいいんじゃないかしら?」

空「そう言われても……」

何匹かのワイバーンがソラに絡んでいる。ニヤニヤ笑っているのを見ると、私との関係は既に匂いでバレているだろうけども、自分の相手が他の女に集られているのを見るのはあまりいい気分ではない。
思わず翼を広げて突っ込む。

麗龍「ちょっとセルカちゃん!?」

空「あっ、セル……」

言うが早いか両肩を足でしっかりと捕らえて持ち上げる。そのまま縦回転からの捻り回転で麗龍さんの元へ。

空「えっと……セルカ?」

麗龍「この人がお相手さん?ずいぶん気に入ってるのね。でも、持ち方は気をつけなきゃダメよ?」

「あっ……」




ニールちゃんを筆頭とする何人かのワイバーンと話をしていると彼女が朱色の龍と戻ってきた。手を振って呼びかけると次の瞬間には驚異的な速度で空に連れ去られ、龍の元へ。

そんな高速機動をしたのだからもちろん肩は外れた。

麗龍「うーん…だいぶね。」

セルカ「ソラ、痛みとかは?」

「ああ、大丈夫。」

実際外れ慣れているので気にはならない。

麗龍「そうね…この程度ならジパングの知り合いがどうにかできるでしょうね。」

セルカ「はめ直すってことですか?」

麗龍「いえ、完治よ。昔の交に骨法術の道に精通した河童が居るのよ。彼女なら完治できるわ。」

「癖とかもですか?」

麗龍「昔から河童の妙薬って言うものがあってね、腕が切断されても治せちゃうのよ?まあ、外れた程度なら1分位で完治できるわ。」

「お医者さんなんですか?」

麗龍「ええ。とは言ってもお金は大丈夫でしょうね。まけてもらうから。」

そんなのありなのだろうか。経営的に。

「となると1回ジパングに戻らなくて行けなくなりますね…」

麗龍「何言ってるの?呼べばいいのよ。」

セルカ「いや、いくらなんでもそんな…それに都合のいい船が来るのにもだいぶ時間がかかりますよ?」

麗龍「そんなの私の船を使えば良いじゃない。そこらの船より速いわよ?」

「…だいたい、どのぐらいですか?」

麗龍「一日ね。動力要員として風起こしが得意な人達雇うもの。それぐらい速くないと。」

セルカ「なんでこんな山の麓の村に住んでるのにそんな船持ってるんですか?」

麗龍「そんなの気にしなくて良いのよ。とりあえず、いちいちそこの彼がジパングに戻る必要は無いの。わかった?」

「そういえば、こっちで買ったものも船で送ろうかと思ってたんですけど…」

麗龍「なら「もう1隻」出すわ。」

一体何隻持っているのだろう。

麗龍「そういえば、お金って足りているの?」

「う〜ん…だいぶ色々買いましたからね…」

麗龍「それなら向こうのご家族と話をするべきでしょうね。貴方、椿の知り合いよね?」

確かに知り合いだが遠縁なのだろうか?椿さんは椿の花のような鱗の龍。彼女の知り合いが開いた温泉の開店当初の従業員なのでその歳は想像もつかない。

麗龍「彼女、従妹なのよね。子沢山でしょ?私もだいぶ子沢山なのよね。」

そう言って見せてくれたのは子ども達の似顔絵。その数12枚。

麗龍「さて、椿と知り合いなら話が速いわ。ちょっと待っててね………もしもし?椿?そうそう。ああ、空くんって言うのね。…………そうなのよ〜…」

突然誰かと話し始めた。

セルカ「えっと…確か麗龍さんって知り合いの龍となら遠くても会話出来る技術?魔法?持ってたはず……?」

「それにしても話してる内容が……」

完全に筒抜けだ。




麗龍「という訳で、さっきまでのこと全部クリアよ。」

空「そんな簡単に……」

「それってジパングのお医者さんに来てもらって、こっちで買ったソラさんのご家族のお土産を送って、引越しのお祝い金も送られてくるってことですか?」

麗龍「結婚のお祝い金と住居費とかもよ。式の形式はまた決めましょうって。」

空「それ…僕の両親と?」

麗龍「う〜んどれがお父様かはわからなかったわね。というさお母様も。女性の声が多すぎてわからなかったわ。」

椿さんの娘達やその他の知り合いの魔物娘の顔が次々に浮かんでくる。
何を言っていたのかは考えたくない。

麗龍「さて、この話は終わりにしましょう。ちょっと手出して?」

言われるがまま右手を麗龍さんの方に向けると……

麗龍「そいっ!」

バコッ!

一瞬で肩がハマってしまった。

麗龍「私もある程度医療の心得はあるのよ?」

2人「「なんて都合のいい……」」

麗龍「そうね…お二人さん、果物狩りに行ったらどうかしら?ちょっと人手がね。」

「手が空いてる人他にもいませんか?」

セルカ「あ〜そうじゃなくて…今日こんなに人が集まってるのは多分反魔物勢力の人達が来るからだろうって事なの。ソラに話しかけてたワイバーン達…あ、ニールちゃんは別ね?あの人達、来た人達の中から気に入った人お婿さんにするために準備してたの。なんだろ…今、私もなんだけどそういう時期でしょ?だから結構見境ないと言うか…なんか……」

麗龍「要は、皆相性のいい人に会えるのを楽しみにしてるのよ。セルカちゃんももしかしたら参加してたかもしれないけれど……既にお相手がいるんじゃあねぇ?お相手がいる人達の方を手伝ってもらうわ。」

「それって、怪我とか大丈夫なんですか?」

???「それに関しては私たちにおまかせを〜。」

後ろから声をかけられると青白い肌が見えた。

???「どうも〜ドラゴンゾンビのフーラで〜す。」

フーラと名乗るドラゴンゾンビは鎧(というか骨?)をきている。
結構ユルっとした印象の人だ。

フーラ「簡単な話だよ〜。私たちドラゴンゾンビが上からブレスを垂れ流す。次に竜騎士達が相手の魔力を片っ端から削る。最後に抑えられない欲望に満ちた娘達が自由に見繕ってお持ち帰り♪」

セルカ「ドラゴンゾンビのブレスは結構キツいの。女性が浴び続けると……後は分かるかな?」

何となく分かる。

麗龍「それじゃ、私と一緒に旦那の所まで行きましょうか。果物狩りのお手伝いよろしくね?」




という訳で一応治ったソラと一緒に果樹園へ。旦那さんのグレイグさんにニールちゃんもいる。

ニール「お兄さんきたの。」

グレイグ「どうも初めまして。グレイグです。」

空「はじめまして。空です。」

グレイグさん自身、見た目は30代前半だがインキュバスなのでかなり歳はいっていてもおかしくない。

ニール「お兄さん達に手伝って貰いたいのはこっちなの。」

案内されたのは比較的媚薬効果の薄い果物のエリア。

ニール「これはシてる途中に食べて貰うものなの。水分補給用なの。」

「ここの果物は生で食べれる種類なんです。向こうのは料理に混ぜたり成分を抽出したりして使う種類なんですよ。」

空「生で食べたらどうなるの?」

麗龍「そうね〜…セルカちゃんの鱗真っ赤になっちゃうんじゃないかしら?」

空「うわぁ……」

麗龍「冗談よ。そもそも貴方達みたいな時期のカップルにはこの辺りの物だけで十分だもの。アレは匂いでも強い効果があるからお持ち帰りしてきた人達の為の料理用ね。」

グレイグ「そもそもかなり身体が強くないとまだ人間の君は身体を痛めてしまうかもしれないね。戦闘訓練を積んだ人間用に強めてあるからね。」

ニール「お兄さん、肩車。」

「ちょっとニールちゃん?お兄さんはねさっきまで肩が外れちゃってたの。肩車はさすがに……」

麗龍「私からもオススメはしないわよニールちゃん。果物狩りに支障をきたさないようにはしたけれど、肩車なんかは想定してないもの。」

ニール「…わかったの。」

空「な、なんか…ごめんね?」

ニール「お兄さんは悪くないの。悪いのは麗龍さんなの。」

麗龍「ニールちゃ〜ん?セルカちゃんのなんだから横から掠めとっちゃダメよ?」

ニール「そのうち正式に認めて貰うの。」

「いや、私は認めないからね?」



時間は日没前、攻めてくる側に見えやすいように火を上げて、料理の準備。

騎竜「それじゃ、行ってくるわね。」

この村に来る途中に会った夫婦も編隊飛行の確認を終えてそれぞれの隊へ加わって行った。

麗龍「ほら、これ使いなさいな。」

「…ジパングの武器?」

麗龍「万が一抜けてくるような敵がいれば一発入れてやりなさいな。もちろん、死ぬことはないから。」

セルカ「麗龍さん、これ、大丈夫ですか?」

騎竜達よりは軽装だが魔界銀の武器に防具一式を着けさせられた。
万が一、錯乱した敵が入り込んだ時のためらしい。

麗龍「よく似合ってるじゃない。彼も良い感じよ?」

ジパングの道場に飾られているものとはかなり違う鎧。ジパングのものよりつけている防具は少ないはずなのに重たい。

麗龍「大丈夫そうね。……始まるわよ。」

麗龍さんが見据える先、騎竜達が飛んで行った方角をつられて見る。

セルカ「きっと大丈夫ですよ。それに、何かあっても私が守りますから!」

「ありがとう。でも、自分の身ぐらいは自分で守るよ。」

もちろん、君も。

21/10/17 23:22更新 / 白黒トラベラー(旧垢)
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