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淫魔とのボクシングマッチ
やぁ待ちくたびれたよ。さあ、早く着替えて、ボクシングを楽しもう」

ここはボクシング部部室。リングの上、肘をロープに預け、赤コーナーポストにもたれかかって僕を待っているのはボクシング部部長のシルベリア先輩だ。





 中性的な端麗な顔、雪のように白い肌、絹織物のような髪を後頭部で束ねたその姿は両性を惑わす美貌を備えている。それもそのはず、彼女の頭には山羊の角状の漆黒の角、腰からは雪を纏った桜のように淡いピンクがかかった白いコウモリ状の翼とトランプのスペード状の形状を持つ先端の尻尾。彼女は魔王の血筋であるサキュバスの上位種、リリムである。

 ちょっと話を逸してボクシングの話題に。現在では昔とは異なり、男女がボクシングで対決することが全くの非常識ではなくなった。“魔物娘”という存在が現れ、世界が大きく変容した時、ボクシングという競技も大きく変容することを余儀なくされた。
 まず様々な体格を持つ魔物娘のために、従来の体重による階級別区分のみではなく、種属や型(例えば人型部門、獣人型門、サキュバス属部門とか)で分類されて開催されることが多くなった。最も、これは人化の魔法を用いれば何ともなるし、種属や型を超えた戦いが見たいという声も多いことや、種属・型別の競技人口の関係から、そこまで重視されているものではない。
 そしてもう一つは男女混合の試合が数多く行われるようになったことだ。その最大の理由は魔物娘の基礎体力が高いことだ。競技の内容にもよるが、平均して男子と同等、種属によってはそれ以上のことが多くなり、同等の実力があれば男女でも拮抗した勝負ができるようになった。例えば魔物娘が現れて間もない頃、無敗のヘビー級チャンピオンを1RKOで破った元魔王騎士団のサキュバスの逸話がある。TV等で放送されることも多く、毎年熱い勝負が風物詩となった夫婦の選手もいる。そしてこれにはもう一つ理由があるのだがそれは後ほど。

 着替えを済ませ、青に黄色のラインが入ったボクシングトランクス一枚の上裸姿になり、両腕に青のボクシンググローブをはめた僕はリングのある部室へと戻った。先輩は同じ姿勢のまま、赤コーナーで待っていた。

「さぁ早くリングに上がるんだ。試合が待ち遠しくて仕方ない」
「大丈夫ですって逃げたりしませんよ。それに……」
「それに何だ?」
「楽しみなのは僕も同じですから」

 そう言いながら僕はロープをかき分け、リングの上、青コーナーへと上がる。期待で胸を膨らませながら。
 ボクシング、ロープで囲まれたリングの上で二人の選手がグローブを着用した拳で殴り合う競技。いくらスポーツであり公式で認めらているとはいえ、殴り合い、しかも相手は頑丈な魔物娘であっても、異性相手への殴り合いを心待ちにするなど、大多数の人々の感覚では理解されるものではない。

「じゃあ、まずは宣誓のキスからだ。例えこれから殴り合うとしても私達の愛は本物だと確かめるためのな……」
「はい、先輩……」
「んっ……」
「ん……ジュルル……」

 互いにグローブで覆われた手を相手の腰に回し、密着すると、互いに口づけを交わした。柔らかい唇が触れ合うと、シルベリア先輩はすぐさま舌を伸ばし、僕の口内へと侵入させた。上顎前歯を覆うマウスピースを左右の舌使いで舐め回し、マウスピースが口内にある刺激で普段より多く分泌された僕の唾液を舌先で器用に掬い取る。

「んちゅ……ちゅぅ……」
「んぐっ……ずずう……」

 僕も負けじとその舌を追い回すように舌を彼女の口内に伸ばし、硬い彼女のマウスピースを舐め回す。そして彼女の唾液を舌で掬い取り、すすり上げる。二人しかいない部室の中には互いの唾液を啜る淫靡な音が響き渡り、異様な空間を作り出していた。

「ぷはっ……キミ……少しがっつきすぎじゃないかい?」
「先輩こそ、夢中で唾液啜ってたじゃないですか」

 1分程の後互いに唇を離した。互いに口の間には白い糸がかかり、先輩も僕も零れた唾液が滴っていた。

「よし、ならば本番といこうか。構えるがいい」
「はい。いきましょう!」
「フフ……今日はどれほど成長したパンチを味わせてくれるのかな……?楽しみだ」
「何なら今日こそKOいただきますね」
「フフっ……それはもっと楽しみだ……わかってるな。私の合図でスタートだ」

 傍から見ればキスを交わした者同士とは思えぬ物騒な会話をしながら僕らはファイティングポーズをとった。だがこんな恋仲同士の僕らが殴り合うこと。それは魔物娘が定着した現在では当たり前とまではいかないが珍しいことではなくなった。その理由は……

「ボックス!」

 先輩が試合開始の合図を叫んだ。と同時に僕は状態を屈め、先輩へと一直線に突っ込んでいた。
そして間合いを詰めると、起伏の激しい腹筋へと1、2、ボディブローを叩き込んだ。

ドゴッ!
「ぐお……あは……♡」

 部室に重く鈍い音がはっきりと響き渡った。開始直後あまりにもあっさりと先輩の鳩尾へて叩き込まれた僕のボディブローに先輩は悶え苦しむ……ように見えたがその顔は苦痛ではなく歓喜で歪んだ笑みを浮かべていた。

「フフッ……見事な先制パンチだ……ならばこれはどうかな!?」

ドガッ!

「あ゛っ……♡」

 頬左頬を押しつぶす激しい殴打。目の前が一瞬暗くなる。先輩の右フックねじれる勢いで回る首とそれつられて身体が右に吹き飛びそうになった。
 正直かなり痛い、頬が先輩の拳の形に押しつぶされ、激痛が走る。しかしそれだけでない。痛みよりも勝る感覚。殴られた場所を起点に電撃のように前進を駆け巡り、ピリピリさせる。それが股間に届けば逸物を刺激し、屹立させる。脳に届けば自慰など足元にも及ばない性的快感と多幸感を生む。
 そう、魔物娘とのボクシングは相手にダメージを与えるのみではなく、激しい性的快感をもたらすものである。これはとりわけ魔物娘とインキュバス、つまり男女で行われる試合で顕著であり、当然先に絶頂に達した方が負けとなる。これによりボクシング単に相手へのダメージを以て打ち倒すのみでなく、快楽で相手を堕とすスポーツとしての側面を得たのであった。

「ハハッ!威勢がいいのは最初だけかい?ホラ、どうだぁ!」
「ぐぼっ……グェ……なんの!」
「ぐぁっ……」

 普段の冷静な態度から一転、血気盛んになった先輩は立て続けに左アッパー、右フックと連続でコンビネーションパンチを叩き込んできた。だがこのまま成すがままにされるわけにはいかない。痛気持ちいい感触に身を委ねる欲望をぐっとこらえ、左フックのガードの隙をついて右アッパーを叩き込んだ。
 魔物娘とのボクシングでは先にも言ったように、パンチによって痛みと同時に快感をもたらす。それはつまり、パンチ受けることは耐え難い苦痛ではなく、思わず身を委ねてしまう快楽になるということである。そのため、パンチがあまりにも気持ちよく、そのまま相手のなすがままにパンチを叩き込まれ続けるサンドバック状態になったり、一発で絶頂に達し、精液や愛液を漏らしてリングに倒れたりといった光景は珍しくないのである。
 つまり魔物娘とのボクシングは相手の快楽に堕とされたいと思う自分との闘いでもある。今日の僕はリリム故のダメージと快楽両方に長けたシルベリア先輩の卓越したパンチの誘惑に負ける前に、手数を叩き込んで先輩を攻める作戦で行くと決めていた。

「今日は……先輩のサンドバックにはなりませんから!」
「ぶほっ……あがっ……ああん♡……うごっ……はぁん♡」

 ボディ、顔面、顔面、ボディと上下にパンチを叩き込む。シルベリア先輩の腹の固い肉壁の感触は革のグローブ越しに伝わり、自分のパンチでは暖簾に腕押しな気がしないでもなかった。けれども快楽ももたらすこのボクシングでは、純粋なダメージでなくとも相手に快楽を与えて蓄積させることができる。同時に腹に注意を向かわせることで顔のガードが薄くなり、顔への攻撃がヒットしやすくするという戦法だった。この読みは当たった。
 シルベリア先輩の顔は僕のパンチで、汗と唾を散らしながら喘ぎ声を発して激しく揺さぶられていた。だがその表情は苦悶ではなく恍惚に満ちていた。

「先輩が僕のサンドバックになるんですからね!」
「やめ……ごぼぁっ!いっ!やっ♡」

 シルベリア先輩をストレートでコーナーへと突き飛ばし、一気に距離を縮めて左右のフックを叩き込む。逃げ場を失った先輩は上半身を屈めて黒い角の生えた頭をこちらに向け、老腕で顔と腹のガードを固めていた。腕の下、痛みと快楽に耐え忍んでいるであろう顔にパンチを叩き込むべくガードを突き崩さんと、フック、ストレート、ボディブローを機敏に入れ替えてパンチを叩きこんだ。

 いくら試合とはいえ、一方的に殴ることに良心は痛まないのか、そう聞かれたときの答えはノーだ。お互いに同意済みだ。生粋のドMであった僕はむしろ女性に一方的に殴られることが長年の夢だった。一方で異性を殴ることはあまり考えてなかったが試合を重ねるうち普段のシルベリア先輩のクールな表情がパンチで大きく歪み、苦痛と快楽で喘ぐ貴重な姿を見たいという欲望が湧き、気がつくと殴ることに躊躇することは無くなっていた。
 シルベリア先輩はというと、ボクシングに憑かれたきっかけが「グローブという殴り合いのためだけに作られた道具をはめてスポーツという正式なルール上で相手を殴って弄べることが魅力的だったから」という少し歪んだものであった。特に僕を一方的に殴ってるときは加虐心が普段の3倍揺さぶられるとまで言っていた。その一方で僕のパンチが日に日に成長していくことを身体で受け止めることも同じくらい幸せに感じると言っていた。
つまりどっちが殴っても殴られても幸せなので問題ないということだ。

 バシバシと音楽のようにリズミカルにパンチを叩き込む両腕の間をこじ開けるようにアッパーとボディブローにストレートを腕にダメージを与え、両フックを叩き込む。パンチが当たるたびに飛び散った汗が雨のようにぽつぽつとマットを濡らしていった。
20発ほど叩き込んだだろうか。シルベリアの両腕が開き、ストレートを叩き込む絶好のチャンスが訪れた。

「終わりだ!」

 そう言ってストレートを叩き込もうとした瞬間、ガードの下でシルベリア先輩はマウスピースで覆われた歯を見せつけるようにニヤリと笑っていることに気がついた。だが気づいた瞬間既に遅かった。ストレートをウィーピングで躱した先輩はまっすぐ両腕を開き、まっすぐに僕に突っ込むと

「チュッ……」

 僕の唇めがけて自身の唇を重ねてきたのだった。左腕で僕の頭をホールドし、右腕を僕の背中に回してそのまま右手で僕の尻を撫で回してきた。クリンチである。
 これは特別ルールで、「男女の混合の試合中においてはクリンチの時に唇を重ねてもよい」と定められている。キスをすることで相手を魅了・混乱させることで身動きを止めさせ、その隙にパンチを叩き込み、K.O.させるというのが基本的な使い方とされている。その上、観客たちは選手同士の熱い口づけを心待ちにしており、キスが交わされた瞬間には、それはもう凄まじい観客たちの歓喜と熱狂の渦に会場が包まれることは有名である。
 
「んっ……ンーーー!!」
「じゅる……ずずずっ……」

 詰めが甘かった。こんな攻撃(?)を受けて冷静でいられるはずがなかった。先程までのラッシュで勢いに乗っていた身体がピタリと止まってしまった。振りほどこうと腕をジタバタさせようにもシルベリア先輩にがっちりとホールドされて全く動かせない。それどころか、サキュバスの魔力がこもった甘い吐息と唾液、舌で口内をくちゅくちゅと掻き立てる淫らな音に酔った僕の脳はまともに思考を処理ができなくなった。全身の筋肉に込められていた力が吸い上げられるようにすっと抜け、彼女の腕の中で全身の骨を抜かれたようにだらりと脱力してしまった。

「フフッ……ダメだなぁ、パンチ以外の攻撃も想定しておかないと」
「ああっ……♡」

 僕が完全に脱力したのを見計らって、唾液の残糸をきらめかせながらシルベリア先輩がゆっくりと唇を離した。彼女の魔力で魅了された僕は、ただ妖艶な笑みを浮かべる彼女が美しい感じる以外何もできなかった。

「じゃあ私の番、とっておきのコンボをキミにあげよう!スッ!シュッ!はあっ!」
「あ……あぶっ……ぶへぇ♡」

 そう言うとシルベリア先輩は上半身を∞の字のようにくねらせ、前傾時に体重を乗せ、ブローを叩きつける連打攻撃、そう、編み出したヘビー級王者の名を冠しのボクシングに疎い人でもとある漫画から聞いたことがあるであろう技、デンプシーロールを1秒間に2,3発の高速で容赦なく叩き込んできた。

「ふっ!はぁ!やあ!ふん!はあ!!」
「あ゛っ♡お゛っ♡ぐぁっ♡や゛め゛っ……ごわ゛♡れぢゃう゛♡」

 何度も言ったことであるが魔物娘とのボクシングの被弾では痛みだけではなく、快感も感じるものである。この状態でのラッシュの連打はどういうものか?マゾ気質の程度にも依るが僕のような異性に殴られただけで興奮してしまう生粋のドMとなるとその快楽はもう凄まじいものだ。頭部への連打となると、最も近い例えば、肉棒の亀頭を高速でしごかれる快感、それを頭で感じてるようなものだ。
 シルベリア先輩のブローで激しく上下左右に赤べこのように揺さぶられる僕の頭。魔力の魅了効果で敏感になっている身体に走る途方も無い快楽。更にパンチがヒットするたび先輩の飛び散る汗の色香と独特な匂いのする革素材のウィニング製ボクシンググローブに染みこんだ先輩の香りが、僕を眩ませ、思考をかき乱していった。これを受けて僕は正常でいられるはずはなかった。

「ハハッ!いいぞ、その苦痛と快楽で涙を滲ませるその顔が堪らない…………シュッ!フン!」
「ダメ゛……イ゛ぎぞ……♡」

 先程まで僕がシルベリア先輩を釘付けにしていたコーナへと僕を釘付けし、絶え間なくパンチを叩き込んでいく。パンチがヒットする度、目の前が暗くなり、星が弾けて見えた。同時にむずむずとむず痒さにも似た快楽が下半身からせり上がってくるのも感じる。前立腺が収縮してひくつき、尿道をせりあがるものを感じる。殴られた痛みなど屁でもない。それを何倍も上回る全身を駆け巡る快楽に正気でいられなくなった。

「そうかもうイキそうか……」
「あっ……?」

 ピタリと止んだ先輩の攻撃。魅了がある程度解け、身体を動かせることに気がついた僕は斜め右上を向いていた視線を先輩に向ける。絶頂に達するのをなんとかこらえ先輩の様子を伺った。が、肝心の先輩が目の前にいない。だがその刹那――

「シュッッ!!!!」

 グシャッと鈍く酷い音が部室中に響き渡る。同時に腹が熱を帯び、ひしゃげるような衝撃が走る。腹部がコーナーマットに押し付けられ、その反動で上体が自転車で急ブレーキを掛けた時のように大きく前に飛ばされ、僕の身体は「く」の字状に折れ曲がった。胃の奥底から酸味の液体がせり上がるのがわかった。一瞬戸惑ったが、何が起きたのかはすぐわかった。僕の懐に潜り込んだ先輩が全体重を乗せた強烈なフィニッシュボディーブローを叩き込んだのだと。

「――ぐぇええええええええ♡♡♡」

 苦悶と悦楽両者が入り混じった濁った喘ぎ声と共に酸味の濃い唾液を吐きながら僕はマウスピースを吐き出した。マウスピースは僕の顎のすぐ下、先輩の上体から背中を伝ってころころと転がり、リング上に落ちていく。とめどなくあふれる唾液と涙が先輩の背中を伝い、マットを濡らしていった。

「惜しかったな。キミがあそこでクリンチを躱してたら私が苦痛と快楽で悶える無様な姿が見れたかもしれなかったのに……♡」
「あ゛ッ゛……お゛っ゛……♡」
「この様子だと本当にイッたようだな……ほら、どうかな?」

 シルベリア先輩は僕の腹で左拳をぐりぐりと押し付けながら耳元で妖艶に囁いた。そして、スペード上の尻尾を操り、その先端を僕のトランクスへと潜り込ませる。尻尾はトランクスのしたファウルカップの更に下、スパッツの下へと侵入し、僕の股間を弄った。

「フフフ……すごく粘ついている……ほら、こんなにも出したんだ。私のパンチでこんなにも感じてくれたなんて、嬉しいなぁ……」
「あ゛あ゛っ……♡」

 耳元で蕩かす声で囁きながら、僕の股間から引き抜いた、精液が滴る尻尾の先端を僕の眼前で見せびらかしてきた。あのフィニッシュブローでオーガズムに達し、トランクスの舌で黒いスパッツを白濁で塗りつぶしていた。

「キミのKO負け。この後はどうなるか、わかってるな?」
「う゛っ゛……♡」

 快楽の余韻が抜けきれず、呂律が回らない僕を他所に再びその尻尾を僕のトランクスへと突っ込んだ。くねくねと腕のように器用に動かすと僕のトランクス、ファウルカップ、そしてザーメンの染み込んだスパッツを脱がせた。ボロンとまだ萎えていない剛直が押さえつけられたスパッツから飛びだした。先輩の尻尾にぺっとりこべりつく程出したにもかかわらず、僕の興奮はまだ冷めていなかった。
そして今度は自分のスカートへと自らの尻尾を突っ込ませると、スカート、ローブローガード、スパッツを同じ要領で丁寧に脱がせ、股間を顕にした。

「さっ、第二試合、始めようか」
「……うん♡」

 激しい打ち合いと絶え間ない攻撃のダメージで披露し、打撃痛と快楽で骨抜きにされた僕に抵抗できる余力などなかった。第二試合の開始を告げたシルベリア先輩は僕の腹を抉っていた拳を静かに離し右腕で抱きとめてリングの真ん中へと移動した。
 男女混合試合のもう一つの特別ルール。そしてこれが他のルールとも大きく一線を画すものそれは……

「試合終了後、リング上における対戦した選手同士の性行為を認める。この時、両者の意思が相反した場合は勝者の意思が優先される」

 ルール規約文なので堅苦しく書かれてるが要するにこうだ。
「試合後すぐセックスしてもオッケー!」「敗者は晒しプレイを受け入れよ」「衆人環視の刺激を味わいつくせ!」
 古来より魔物娘たちが住んでいた世界では、競技・実戦問わず、闘いの熱に当てられた者が異性の対戦相手を熱と興奮が冷めぬうちに交わることは常識的なことであった。更にはアマゾネスに代表されるように、闘いで打ち負かした相手を人前で犯すことで力を誇示し、夫婦関係を主張することもごく当たり前の事であった。禁欲的だったこちらの世界に現れた後も彼女たちは自重することはなかった。最初の方はトラブルもあったものの、抑止するすべはなく、それどころかこのハプニングは観客に大いに歓迎され、いつしか殆どのスポーツでこうした行為が公式に認められてしまっていた。
 とりわけ格闘技は闘争本能に刺激されて興奮すること、互いの本気を包み隠さずに実力をぶつけ合うこと、互いの肉体が激しく衝突し合うことが多いこと。それらがセックスと共通しており、多くの選手が同一視している。そのため、選手たちは試合の興奮が冷めぬうちに互いの身体を貪り合い、互いの愛情を確かめ合い、さらなる快楽の高みを求めようと脇目も振らず性交に励むのである。また、先程のアマゾネスの儀式同様、敗者に対し、観客の前で無様に犯される羞恥を以て、強弱関係を叩き込んだり、大勢にアピールしたりする意義も大きい。

 当然、シルベリア先輩も例外ではない。僕をリング中央へ横たえた先輩は敗北の射精をしてもなお熱り立つ股間の白旗へとゆっくりと腰を下ろしていく。

「ああ……たまらない……」
 
 蕩けた表情で見つめながらゆっくり腰を下ろす先輩。途中、先輩の蜜がとろりと垂れ、僕の肉棒を濡らしていく。先輩の花ヒダがカリの先端を捉えた刹那、その腰を一気に叩き込み、僕の男根を全て飲み込んだ。

「――ッッッッ!ああああああっ!!!!!!♡♡♡♡♡」

 部室を揺らす程の愉悦の声を発し、シルベリア先輩は大きく上体を反す。先輩の声に連動したかのように感電時の高圧電流のように強烈な快楽が全身へと走った。

「ああっ!いいぞ!……いいぞ♡闘いの興奮が冷めぬ間にキミと交わるのは!」
「あっ♡あっ♡あっ♡――」

 みちみちと魔性の膣を蠕動させることで、腰を振らずして僕の海綿体を刺激する。その断続的な刺激にただ惨めに喘ぐことしかできなかった。
試合の熱と興奮が倍加されたセックスは普通のものの数倍の快楽を伴う。普段の姿と、闘いに挑む本気の姿とのギャップ、グローブやスポーツブラなどのフェチを想起させる装具や大量の汗や装具に染み付いた体臭、そして何よりも殴り合うという行為の非日常性が大きな刺激を生み、それがセックスの興奮に上乗せされるからだ。

「フフフ……まだ動いてないのにこのこの有様とは……動くとどうなるかな……ッ!♡アアッ♡イイ……敗北ちんぽが……私の膣内で悶てるぞ!」
「あっ♡やめっ♡あああああああああッ♡」

 まるでセックスで傷を癒やされているかのように(魔力が注がれているので実際そうなのだが)快楽が打撃の痛みを塗りつぶし、上書きしていく。何度も同じような感覚を味わっているが、未だに不思議な気分だった。

「さらにキミの大好きなボクシンググローブで乳首を……どうだ?」
「ムリ♡……刺激つよすぎて……感じちゃう♡」

 腰を激しく揺らしながら、両手のグローブの親指とナックル部分で僕の乳首を弄り倒す。グローブの皮の弾力は、勃った乳首にはあまりにも凶悪すぎた。身体の上下を激しく責められる刺激は先程のデンプシーロールに勝るとも劣らない激しい快楽をもたらし、立て続けにくらって正気を保てるはずがなかった。

「さぁイけ♡イくんだ♡今度は私の膣内に敗北ザーメンを注ぐがいい♡」
「うっ♡うっ♡うっ♡……」

 僕の体内では大量に注がれた彼女の魔力の効果で普段の数倍の速さで精子が生成され、既に大量の精液が再装填されていた。2回戦目にもかかわらず、1週間相当の禁欲時のような性欲が湧き上がる中での彼女の殺人的とまで言える腰つきと乳首責めを前に僕は1ラウンド相当も耐えていられるはずもなかった。

「あっ♡うぁああああああああああああああ!!!」
「あっ――――来てる♡」

 情けない叫び声僕の喉から飛び出す。試合の興奮と熱により倍加された極上の快楽を以てシルベリア先輩の最奥壁に降参の証を何発も叩きつける。

「ああ……出てるぞ……いい顔だ……♡」

一方的に二度も負かされる屈辱的な試合だった。僕は射精の快楽で先輩の腰の下でガクガクと身体を震わせ涙と涎でぐしょぐしょになった情けない姿を晒していた。僕を先輩は愉悦に溢れた笑みで見下ろしていた。

「フフ……次こそは私を打ち負かせるよう精進することだ……♡楽しみにしているぞ♡」
「は……はい……♡」
「チュッ♡」

 シルベリア先輩がグローブをはめた手で僕の両頬を取り、優しく唇を重ねた。先輩の艶めかしい仕草と甘い香りは屈辱感を快楽の奥底へと溶かしていった。最早敗北したことなどどうでもよく、僕は快楽の余韻に浸りながら尿道に残った残液を吐き出していた。


§


 闘いを終えた僕らは片付けを済ませ、着替えていた。部室にシャワーがないため、汗はタオルで吹いてそのままだったが、シルベリア先輩から柑橘系果物のような甘い香りが漂ってくる。少なくとも彼女にシャワーは不要そうだ。

「どうだい?今度は観客に囲まれて試合をしないかい?」
「えっ……学生の男女混合試合はできないはずじゃ?」

 汗だくのウェアから制服に着替えながら先輩が試合を申し込む。けれども試合時間の関係で学生やアマ試合での男女混合試合はほとんど行われないのである。

「これを見てくれ」

 そう言って先輩は鞄の中から一枚のチラシを取り出して僕に突き出してきた。着替えの最中だったため、先輩は制服のスカートに上半身はフリル付きの黒いブラ一枚の姿だ。渓谷のように割れた腹筋に思わず目を引かれそうになる。

「デオノーラ記念杯……ユースミックスボクシング選手権……?」
「そう。かの世界の一大竜皇国、ドラゴニア女王であられるデオノーラ女王様の出資で開催される大会だそうだ。学生にもプロと同じルールを適用するそうだ。無論、あのルールも含めて……」

 何でも、ドラゴニアでは毎年、皇都内大競技場で闘技大会が開催されている。その中で単騎部門と呼ばれる区分があるのだが、ここで剣や槍、拳を交えた男女選手からカップル・夫婦となるものが排出されることが恒例らしい。それを是非ともボクシングで開催して欲しいとのデオノーラ女王の要望で開かれることになったそうだ。また彼女の要望でまだ初々しさの残る若き男女で開催して欲しいとの要望が追加されて、この名前と参加条件になったそうだ。

「嫌です!いつもは誰もいない部室だから良かったですけど、観客に惨めな姿を晒すのだけは嫌です!」
「どうかな?ボクシングフェチなんて特殊性癖もってるキミのことだ。晒しプレイという新しい性癖に目覚める可能性も十分ありえるのではないかい?」
「ないです!」

 確かにボクシングで殴り合った直後のセックスは何にも代えがたい気持ちよさがある。しかし、人前で局部を晒すのなんて、いくら魔物娘たちによって倫理観が緩くなった世界でも気恥ずかしいものだ。

「嫌なら勝てばいいだろう。そうすればあとはキミの自由さ。今のキミなら十分勝算はあるさ」
「本当ですか……」

 反らしていた顔を先輩へと向ける。いつもの爽やかな笑みを浮かべた先輩に偽りの色はなかった。

「本当だとも。私はただキミを虐げてグロッキーになったキミの姿にだけ欲情するのではない。成長したキミにのパンチが刻む痛みもまた私を大いに悦ばせてくれる。正直あのラッシュは危なかった……気持ちよかったしな……」

そう言ながら先輩は僕の顎を手にとって、顔を向けてきた。僕の顎の下の大理石の彫刻のように白くしなやかな手は、ボクシンググローブで覆い隠すにはもったいない美しさだ。

「本当に私のことを愛してるなら、『コーナへと追い込まれ、躍動する筋肉から放たれるラッシュを見つめながら朦朧とした意識の中で反撃も叶わず全身で受け止めてしまい、力なく膝から崩れ落ちて敗北したい』という私の夢を叶えさせてくれ。あの時のラッシュよりも強烈なパンチでな」
「じゃあ手加減してくれれば」
「それはダメだ。本気の勝負の最中でないと興が薄れる」

 よくわからない人だ、と思いつつも、先輩を打ち倒したい、先輩に徹底的に殴られたいという相反する欲望を抱えながら、先輩との殴り合いを楽しみにしている僕が言えたことではなかった。

「さて、今日は十分殴り合ったことだし次はベッドの上で楽しむとしようか」
「いや、でも、もう2回も出したし……」
「キミに魔力を大量に流し込んだから、家に着く頃には元通りさ。さあ行こう」

 観客の前で辱めを受けないためにも、恋人としてシルベリア先輩の夢を叶えるためにも今日からどんなトレーニングを始めようか。そんなことを考えながら、まだグローブの温もりが残っている手を先輩と繋ぎながら部室を後にした。


§


――それから数日後、某アリーナにて

「9……10!!KO!!カウンターでからの容赦ないラッシュで逆転K.Oを打ち取りました!記念すべき今試合発の男性の勝利です!」
「お見事ですね。クリンチするとみせかけて、容赦なく叩き込みましたね、リリムの魔性の力を振り切る意思の強さも凄かったです」
「彼も喜びを噛み締めて……?んっ?グローブを外しながら倒れたシルベリア選手の方へと向かっていきます。おっとこれは……!?」
「やっぱり!トランクスも脱ぎましたね〜」
「完全に脱ぎました!ばっちり写っています!まるで勝利を誇示しているかのように屹立してます!立派です!」
「観客の『犯せ』コールも止みませんね!」
「今倒れてる彼女のスカートに手をかけ……一気に引き剥がしました!」
「まるで発情期のオオカミですね!」
「そのまま鋼鉄のように固まった男の象徴を彼女の入り口へと充てがっています」
「KOの衝撃で濡れてるからすんなり挿いると思いますね」
「そしてそのまま……挿ったあああああああ!!今二人がリングの中央で合体しました!」
「すごい盛り上がりですね!会場の熱気がここまでありありと伝わってきます!」
「流石学生同士、エネルギッシュながらもどこか初々しくて爽やかです!」
「ねぇこんな堅苦しい実況はお安もにして私達もシちゃいましょ♡」
「ということで一旦実況を中断します……」
「きてぇ……あん♡あん♡」
「おっとマイク切り忘れ……」

シルベリア先輩との試合に勝った僕が、リングの上に倒れた先輩を見て欲情し、ケダモノの如き衝動に襲われ、会場の熱気と歓声に押され、衆人環視の中先輩を犯して大喝采を浴びたのはまた別のお話。

20/06/08 12:47更新 / 茶ック・海苔ス

■作者メッセージ
皆さんお久しぶりです、名を改めまして、茶ック・海苔スです。
この一年間、いろいろなことがありました。

夏コミで直接クロス先生から『コートアルフ』買ったり、ボクシング始めたり(ジムが潰れたので辞めちゃったけど)、本棚自作して漸く部屋がキレイになったりなによりも、同人誌に自作小説を寄稿したり……

話を戻して今回は自分のアイデンティティともいえる特殊性癖、
『ボクシング』を題材にしたSSにしました。

ボクシンググローブの色や形、弾力や匂いは底しれぬ魅力があります。
そしてそれを可憐な女の子が身につけるだけで一気に魅力度が上がります。自分にとってメイド服や眼鏡とおんなじ類のアイテムです。
更にその可憐な女の子がアグレッシブに殴り合うという行為を見るだけでとても興奮します。
何よりボクシンググローブを着用した以上、拳で殴ることしかできないのがたまらないのです。
そして殴り愛という思想。自分は愛し合ってる者同士、傷つけ合わないのではなく(実力が拮抗して尚且同意の上なら)殴り合い、生傷をつけ合いながらお互い高めあっていく関係がいいと思っています。
どれくらい好きかというと約1年でウイニング製(日本製高級品質)のボクシング用品一式そろえてジムに通ったり、ボクシング創作オンリーイベントの同人誌にSS1作寄稿したりするくらいには好きです。

そんなボクシングと魔物娘を絡ませたら最高だなーと思ってヨシツネ様にSkebでイラスト依頼したところ、頂いた作品が想像以上にそそられるものでしたので、それをイメージしたSSを書こうと思ったところです。
本当はもっと真剣勝負な内容の予定でしたが、ちょっと魔物娘図鑑らしくないと思い、パンチで快楽が走る等それらしい設定を多数入れ直しました。
とは言え、あまりにもマイナー過ぎる性癖に変わりありません。ですが、もし楽しんでいただければ幸いです。

因みに僕の夢はヴァンキリー様に特訓と称してリングに上げられて、グローブをはめた手で一方的に殴られることです。この挿絵も最初はヴァルキリーさんで依頼しようとしたものの、魔物娘らしい特徴が少ないなと思い、リリム様にしました。

そろそろ、ずっと構成した連載小説を始めたいとも思います。
しかし他にやりたいことが多くて辛い……絵がかけるようになりたい。



と長くなったのでこの辺りで。
最後に改めまして、イラストを描いてくださり、掲載も快く承諾してくださったヨシツネ様(Twitter:@Yositsune167)、本当にありがとうございました。

いやぁ、魔物娘図鑑っていいものですね。
また次回作でお会いしましょう、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

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