連載小説
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01 やっぱゴーストでしょ? お兄ちゃん♪
−−妹が死んだ。

妹が山に薬草を取りに行っている間、家の裏にある畑で農作業をしていた俺に友人が届けたその知らせは、あまりにも急で、あまりにも残酷で。

焦る友人以上に焦り、混乱し、それでいながら友人の後を追っていくと、たどり着いた先に待っていたのは、右腕と右足がなくなっている妹の亡骸。
まるで引きちぎられたかのような跡から、山に住む熊に襲われたのだろうと予想ができた。

魔王が代替わりした昨今、げに恐るべきは魔物ではなく野生の猛獣。
反魔物領の住人ならいざ知らず、親魔物領の住人は知っている。
コミュニケーションが取れ、人間に友好的な魔物より、狼や熊などと言った人間とコミュニケーションをとることができない野生動物の方が数倍恐ろしいということを。

ここまで俺を連れてきた友人の彼女であるグリズリーが涙ながらに俺に謝る。

ごめんなさい。
私がこのあたりの熊にきちんと言い聞かせていれば。

熊の魔物であるグリズリーは、当然熊ともコミュニケーションが取れる……らしい。
故に、そうでありながら熊に妹が殺されることを予め予防できなかったことを悔いて、謝っているのだろう。
それに対し、俺はひどく感情がない様子でこう言った……らしい。

「……君は悪くない。もちろん妹を襲った熊も。仕方なかったんだよ……うん、仕方なかったんだ……」

らしいというのは、妹の亡骸を見てからしばらくの記憶が俺には無く、あとから友人にその時の様子を聞いたからだ。
友人はその時の俺を見て、背筋に寒気が走ったようだ。

−−こいつを放っておいたら、確実に後追い自殺をするのではないか。

……一体どれほどだったんだ、その時の俺。

そして妹が死んでからいろいろあった。
人を襲う熊がいる。
それにより村に緊張感が走り、これ以上の犠牲を出さないようにその熊を必死にさがした。
できるなら、グリズリーによって説得してもらい、できなければ射殺するために。
しかし、村人の必死の捜索も虚しく、妹を襲った熊は見つからず、妹のなくなってしまった腕と足も見つからなかった。


数日後、妹の遺体が棺に収められ、土へ埋められる。
それを俺は黙って見ていた。
顔を俯かせはしない。
兄として、妹の唯一の家族として、俺は妹を最後まで見ていなければならない。
そして、棺が地面に掘られた穴に収められ、そして埋められた。
埋められ、少しこんもりと盛られた土には石を削って作られた簡素な、しかししっかりとした墓標。
その墓標に刻まれているのは、妹の名前。
そしてその隣にも同じような二つの墓。
そこに刻まれているのは、父と母の名前。

……流行病だった。
それにより両親を亡くし、俺と妹は残された家族として、村人の助けを借りながらなんとか生きてきた。

「……一人ぼっちになっちゃったな、俺」

そして、ついに残ったのは俺だけになってしまった。
当然悲しい。
当然辛い。
しかしなぜだろうか?
なぜか後ろ向きにはなれなかった。

それは多分、妹に対して格好つけたいだけなのだろう。
確かに悲しいけど、それに打ちのめされるヤワなお兄ちゃんじゃないぞ。
おそらく、そう意地を張りたいんだろう。
なんとも俺らしい。

「……そうだよ。俺は意地っ張りな奴だから」

みんなの分まで、ちゃんと生きるよ。
俺は妹と、そして両親にそう伝えると、墓地を後にした。

妹が死後の世界で自慢できるような兄として、どうやってこれから暮らそうかと考えながら。


※ ※ ※


……そのはずだったんだ、うん。
しかし、俺のそんな俺の考えは大体一週間あたりで頓挫した。
なぜなら……

「いつもエロエロ、お兄ちゃんにとり憑く霊魂、ゴーストのリアナちゃん、です!☆彡」

家に、なんか、でた。

……OK、落ち着け、KOOLだ、KOOLになるんだ俺。

今日はいつもどおりの一日だったはずだ。
朝起きて朝食をとり、畑で農作業をし、昼食を食べて体の維持のためのトレーニングを軽くやり、それからまたぬ作業を始めた。
ここまではいつもどおりだった、うん間違いない。
そして農作業を終えて、家に帰ってきたんだ。
ここまでもいつもどおり。
で、玄関を開けた途端、目の前にコイツがいた。
そして俺を見つけるやいなや、謎のポーズとともに先ほどのセリフを言い放ったのだった。

……うん、わけわかんない。

「……ってあれ? お兄ちゃん? ちょっとは反応してくれるとリアナちゃんうれしいなぁ……とか思っちゃったり?」
「……いや、あまりに急な出来事だったんで唖然としてただけだ」

眉間によってしまたシワを伸ばすために眉間を揉み、そして再び目の前に視線を戻す。

そこにいるのは、血の気がなくなってしまった肌や目が痛くなるほど白いワンピースを文字通り透けさせ、無効の景色が見えるようになっている……死んだ筈の妹だった。

そんな姿が劇的に変わってしまった妹をみやり、俺はこう言い放った。

「……随分半透明になったな。向こうが透けて見えるぜ」
「せっかく帰って来た妹にむかっての第一声がそれ!?」
「それ以外に何を言えと?」

なんだかよくわからないが、なんだか妹が帰ってきたらしい。

※ ※ ※


「死んじゃったあとも、ずっとお兄ちゃんのことが心配だったんだ。泣いてないかなぁとか、私を追って自殺しちゃわないかなぁとか」

死んだ妹にまで俺は心配されていたという衝撃の事実。
実際自殺仕掛けるほどに憔悴していたことはそっと心の奥にしまっておこう。

「でね、そこで私はふときがついたんだ……死んでるのになんで自分はだれかの心配ができるのだろうかと!!」

それは言えてる。
死んだら普通そこでおしまい。
考えるとかそんなことはまずないはずだ。

「で、不思議に思って自分の体を見てみたら、今みたいな状況に」
「よし、把握した。そしてわかった。何が起きたかさっぱりわからんということが」
「ですよねー」

とまぁ、こんなやり取りをしているが、俺たちもだてに親魔物領に住んでない。
妹に一体何が起こったのかは大体わかっている。
おそらく妹はゴーストになったのだろう。
死んだ人間の魂が魔力と結びついてたまになるらしい。
この村には魔物もかなり住んでるし、他の場所よりゴーストになりやすい条件が揃っていたんだろう。

「じゃあなんでこんなやり取りしたの?」
「ん? いや、お約束かなと思って」
「お約束なら仕方ないね」

分かってくれてお兄ちゃん、嬉しいよ。

「……きっと何もしない神じゃなくて、魔王が私のお願い叶えてくれたんだと思うの」
「お願い?」
「うん。私ね、熊に襲われた時に思ったの。お兄ちゃんに会いたいって……だから嬉しいんだ、こうしてお兄ちゃんにまた会えるなんて。またお話できるなんて」
「……俺もだよ」

なんだかんだ言って、俺も妹がなくなったという事実を振り切れていなかったんだろう。
こうして妹と再びあえて、なんというか、うん、凄く嬉しい。

俺たちは感動の再会を喜び、互いに抱きつ……こうとして透けてしまった。

「……あ、私ゴーストとしては生まれたばかりだからまだ物に触ったりできないんだった」
「あー、まぁ、お化けだしね」

触れられないのは仕方ないが、まぁ妹がいてくれるだけでよしとしよう。

「まぁ、大体一週間ぐらいで実体化できる方法とすぐさま実体化できる方法の二つがあるんだけどね」
「あるんかい!」
「うん。最初のはお兄ちゃんにとり憑いて、こう、エロエロな妄想を見せてって感じ。もう一つはお兄ちゃんが『セルフバーニング』してくれたらそれを摂取して」
「純真だったはずの妹の口から『ハイドロカノン』という単語が飛び出してきた件」
「いやぁ、今の私、エロエロな魔物ですし。というか今までもお兄ちゃんに姿を見せれるほどまで魔力回復してなかっただけでずっとそばにいて『角(指)でつく』をずっとやってたし」
「妹が俺のそばでずっと『角(指)ドリル』をしていた件」

……まぁ、魔物だし、仕方ないよね!!
……なんかさっきから俺の思考が若干おかしい気がする。
なんで?

「それで、お兄ちゃん……どっちにする?」

妹が、上目遣いで俺を見てくる。

「そりゃお前……」


※ ※ ※


……あの時の俺、バカん……

「あ、お兄ちゃん。雑貨屋のおじさんからこれもらってきたよ〜」

現在、妹が帰ってきて二日目。
しっかりとかごを抱えた妹が帰って来た。
……ええ、やっちまいましたよ。
目の前の妹をオカズに『時空戦士0721』を。

やってから冷静になり、あの時の自分がおかしいことに気がついた。
なんであんな平然として妹の前でナニを出せたのやら。

そして、妹が実体化できるようになってから、妹の様子も生前と変わってきている。
それは……

「これね、精がつく果物なんだって。だからお兄ちゃん……」

かごに入った果物を手に取り、それを妖艶な仕草で舐める。
その様子に、思わず生唾を飲み込んでしまう。

「……ね?」

このように、なぜか俺を誘惑するような仕草をするようになったのだ。
……いや、でもそれは俺の妄想かもしれない。
なにせこの二日間、はっきりと妹からそういうことをしたいという言葉が出てきたわけじゃない。
だからこれはすけべな俺の勘違いなのかもしれないのだ。

(……俺ってこんな性的にがっつくやつだったかなぁ……)

この時、俺は知らなかった。
妹は非常に狡猾だったということを。


そして夜。
やけに目が冴えて眠れない。
そんな夜だった。

「……それもこれも、こいつのせい、か」

俺はしばらく寝返りをうち、それでも寝れないと察すると、掛け布団をとっぱらい、それを見下ろした。
そいつは、俺は休もうとしているにもかかわらず、俺は休みたくねぇ! と言わんばかりにそそり立っている。
……ありたいていに言えば勃起してた。
今までにないくらいの硬度で。

「あぁくそっ、なんだってこんな……」
「おぉいい塩梅いい塩梅」
「ぶっ!?」

今まで見たことがない息子の様子に戦慄していると、いつの間にか俺のそばに妹がいて、俺の息子を潤んだ瞳で見つめていた。
……ついでによだれもたらしてやがる。

じゃなくて!!

「リアナ、おまっ、なんっ!?」
「え? なんでここにいるかって? いや、そろそろお兄ちゃんの精がいい塩梅になってるかなぁと思って」
「いい塩梅って、どういう……」
「おかしいと思わなかった? 最近、やけにムラムラしてるの」
「っ!?」

な、なんでそれを!?
妹にはバレないように必死に隠していたっていうのに!

「なんでわかったの? って顔してるね。答えは簡単。お兄ちゃんのそのムラムラは私のせいでした! 魔物の魔力をすこぉしずつお兄ちゃんに浸透させていったのです」
「な、なんでそんなこと……」
「だって、お兄ちゃん普通にしてたら私に手を出してくれないじゃない」

当たり前だろうが!
確かに妹は可愛い。
だが兄として手を出すというラインを超えてしまってはいけない。

「お兄ちゃんが私のことを思ってその考えだっていうのはわかるの。でも私は魔物。大好きな人にずっとお預けされちゃうなんて、想像しただけでも嫌なの。だから、こうしてどうしようもないくらいにしちゃったの」
「な、ななな、な?」

妹の言葉に、思わず顔を赤らめる。
大好きという言葉は、妹が生前から俺に言っていた、ごくありふれた言葉。
しかし、今リアナが言った大好きは今までの大好きとは込められている意味合いが違う。
それぐらいは俺にもわかる。
今の大好きに込められているのは……。

「ほら、お兄ちゃん、触って?」

そう言うと、リアナは俺の手を取り、自身の胸へと導く。
ふにゅん、と柔らかい感触が感じられる。

「ほら、私の胸、こんなにドキドキしてるの。お兄ちゃんのそばにいるだけで」

既に死んでおり、霊魂となっているはずの妹。
しかし、その胸に触ると、心臓の鼓動のような、どくん、どくんという動きが感じられた。

「……これは?」
「あ、もちろん心臓じゃないよ? これは魔力の流れ。お兄ちゃんのそばにいて、すごく興奮しちゃってるから、魔力の流れが早くなっちゃって、制御できなくて、だから心臓の鼓動みたいになっちゃってるの」

そう言うと、妹はより強く自身の胸に俺の手を押し付ける。
それどころか、それでも満足できないのか、服をはだけるとささやかな、だけどちゃんと柔らかく膨らんでいる胸に直接俺の手を押し付けた。

「あ……っ、お兄ちゃんの手、あったかくて気持ちいい……触ってもらってるだけで、勃っちゃうぅ……!」

その言葉通り、手のひらのある一点に硬さを感じる。
しかし、ただ硬いだけではなく、その硬さの中に柔らかさと暖かさも感じる。

そこまで感じた俺は、脳の神経が束でちぎれる音を聞いた……気がした。
13/10/05 13:05更新 / 日鞠朔莉
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■作者メッセージ
シリアスかと思った?
残念、朔莉のギャグテイスト小説でした!!

えぇ、シリアスも大好きです。
読むのは。
でも自分で書くとなるとどうしても胃が痛くなって長続きしないんです。

だったら、ギャグを書くしかないじゃない!!

エロ?
そんなの書けないよ?
だから本番はないんだ。

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