読切小説
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働かない系新婚メイドさん
聞いてください、私のご主人様は控えめに言ってワーカーホリックなんですよ。


どうも毎度おなじみパーフェクトなメイドさんことエリザさんです。
ただいまご主人様に見初められてラブラブな新婚生活中ということになります。
でもすでに私とご主人様の間柄は長年連れ添った老夫婦のような穏やかな空気が流れています。
出会って一か月くらいでスピード結婚だったんですけどね。運命の出会いでしたね。
まだ半年もたっていないのですがご主人様の性質を大体把握してしまいました。
面白いことが好きなわりに変化を求めず、動きたくないくせに仕事していないと落ち着かない。
だいたいご主人様はこんな人です。なかなか面白い性格をしていると思います。
そんな矛盾したような性格になぜなってしまったのかは、ご主人様のお話から察しました。
次男だとか姉がだとか貴族だからだとか、様々な単語をくっ付ければなんとなく理解できます。
なかなか辟易して疎遠気味らしいので、深くお聞きすることはしません。


「なんたって私はパーフェクトなメイドさんですからね!」
「エリザさん、誰に向かって言っているの?」


領地に関する執務中のご主人様から的確な突っ込みを頂きました。
さて、ご主人様は都会から離れたこの地に似合わないほどのお仕事を常に抱えています。
領主様から文官として雇われているご主人様が多忙なのはわかります。
でも常にお仕事があるというほどではないのです。無能でもありませんし。
ですが自分からお仕事を作るのでどうしようもないです。
何もない日は家事を全てやろうとしますからねご主人様は。
お仕事を奪ってしまうと寂しそうな顔をするものですから困ったものなのです。

だから私の最大のお仕事にてご奉仕はご主人様を甘やかしたり休ませることなのです。

決して、さぼったり、何かに熱中したり、周りが見えなくなっているわけではありませんよ。
ありませんよ?


* * *


ご主人様の朝は相変わらず早いのです。

ご一緒にベッドに入ってぐっすりおねむしたのにご主人様のほうが先に起きてしまうのです。
お互いベッドの中でぎゅーぎゅーハグしていたのに腕の中にいないんです。
私もご主人様もスキンシップが好きでお互いの身体を触れ合うことが多いのです。
頭を撫でてもらったり、ハグをしたり、最近は胸やおしりも触ってくるようになりました。
えっちな気分になるというより、いたずら交じりの愛情表現のようなものです。
私もご主人様の胸の中ですりすりしたりにおいを嗅がして貰ったりするのが大好きです。

ご主人様は私とハグをして、私の匂いを嗅いでいたりすると眠くなってしまうらしいのです。
安心するのか落ち着くのかわかりませんが、私の胸に顔をうずめさせたりするといちころです。
最近、夜が遅いときはそれで寝かしています。まるで身体が大きいだけで子供のようです。
そのまま私はご主人様を抱きしめながら一緒にベッドで寝させてもらうのです。役得です。
むふー。

そして朝になっているとご主人様は大体起きていて、朝食を作っているのです。
私はだいたいご主人様が抜け出していることに気づかず朝食が完成するまで起きません。
エリザさんがダメなわけではありません。ベッドがいけないのですベッドが。ふかふかなんです。
朝食を作って私を起こすご主人様は嬉しそうで私みたいに尻尾を振っているように見えます。
ご主人様は私をペット扱いしますが、私からしてみればご主人様のほうがペットみたいです。
間違いなく忠犬ですね。ほめてほめてって言っている大きいわんこのようです。
まったく私のご主人様は愛しくてしかたがないです。萌えキャラです。

「ひゃっはー!朝ご飯!ふふふ、私のおなかはぺこぺこです!たっぷり頂きますよ!」
「エリザさんなら食べると思ったから今日のスープにベーコンをたっぷり入れたよ」
「おお!朝から豪勢ですね!いきますよご主人様!スープの貯蔵は十分か!」

焼きたてパンにたっぷりサラダにスープとソーセージ。
産地直送どころでは無い食材が多くてご飯が美味しくてなによりです。
ご主人様にあーんをしてあげたりしながら美味しく朝ごはんを頂きました。


* * *


さてパーフェクトなメイドたる私はメイドですのでご主人様にご奉仕するためお仕事をします。
私が何もしないほうが喜ぶんじゃないか説までありますが、さすがにメイドとして無いです。
さて、ハウスキーパーとしてのメイドのお仕事は、ご主人様が瞬時に終えてました。早業です。
実はご主人様がメイドなのではないか説を私は主張します。
メイド姿のご主人様……

「メイド服を着たご主人様を想像しましたが、全然アリですねバッチコイです!」
「何がどうしてそんな発想に至ってそんな結論に至ったのかわからないけど着ないよ?」
「若々しく中性的な風体のご主人様は女装適性があると思うのです!褒めてますよ!」
「まったく褒められている気分にならないね、それ」

毎日お買い物に行くわけにもいきませんし、大規模なお掃除は昨日しました。
なので今日はお屋敷の修繕を行おうかと思います。得意ですよ。大工仕事。

「パーフェクトなメイドさんたるもの、大工仕事の一つや二つできなくてはなりません!」
「メイドさんが大工仕事するのは初耳だなぁ」
「妙に器用だなと私を鍛えてくれた師匠に言われましたからね、得意なんです!」
「やたら器用だよねエリザさん」

私を撫でてほめてくれるご主人様。
ご主人様が撫でてくれるだけで嬉しくなってしまうし気持ちよくなってしまう。
尻尾をぱたぱたさせて全力で喜ぶちょろい私。ちょろいのは自覚してる。

「むふー……!もっと撫でていいんですよ髪とか耳とかおしりとかおっぱいとか!」
「あとでね?」
「おお?ご主人様えろえろモードですか!?うけて立ちますよ!」
「髪や尻尾の毛を梳いてあげようと思ったんだけどな」
「相変わらず草食系ですね!もっとえろえろになってもバチはあたらないですよ!」

でも梳いてくれるということなのでうれしくて尻尾をぱたぱたするちょろい私。
ご主人様は別に性欲が薄いわけじゃないのですが、あっさりしていますね。
愛情表現を重視するというか、精神的な繋がりの方を求める傾向が強いのです。
だからえっちするよりもハグのほうが好きな気がするんですよねご主人様。
あ、でも一回本気でえっちな気分になった時には一日がかりでした。
あのときはすごいきもちよかったにゃあ……

「危うく猫みたいになるところでした!お仕事してきます!」
「さっぱり意味がわからないけどお仕事頑張ってね」
「ふふふ、ただの日曜大工の範疇にとどまらない熟練の技を見せて差し上げますよ!」

そういって私は屋敷で気になっていた箇所の修繕を行います。
若干建付けが悪い扉を直したり、階段の手すりとか椅子とか屋根とか直しまくりました。
メイドの仕事かと言われると流石に自信がありませんけどね。


* * *


ご主人様は執務をさっさと片付けつつお昼ご飯を用意したりお茶を用意したりします。
今日はそこまでお仕事をしなくてよい日らしいので、家事をいっぱいしています。
ゆっくりできる日ですので、ティータイムを終えたあと私はご主人様といちゃいちゃします。
宣言通りにご主人様に髪を梳いてもらったり尻尾のブラッシングをしてもらったりします。

「むはー……!」

気が抜けるというか、放心状態にすらたどり着く圧倒的ブラッシング力。
今の私ならご主人様に何されても無抵抗ですよ。全部脱がされても抵抗できないと思います。
魔物娘で自らの夫相手に抵抗する人がいるかどうかは知りませんが……
ご主人様にキスされたり、私からキスを返したり、スキンシップ程度に胸を触れられたりします。
そしていちゃいちゃしてハグをして、ご主人さまの顔を私の胸にうずめさせたりします。
計画通り。

「ふふふ、ひっかかりましたねご主人様……!今日は強制お昼寝イベントですよ……!」
「あー……うん……」

むにむに胸の中で弱弱しく動くご主人様。ちょろい。
とはいえどもベッドまで行くわけではなく、ソファーで一緒に座りながら眠る形になります。
肌掛けはすでに用意してあります。働きすぎなご主人様でも寝かせてしまえばこっちのものです。
そのまま崩れおちたご主人様を身体をずらしてふとももで受け止める。私の膝枕をくらえ!
私の膝の上にはご主人様の髪を撫でて、たっぷり愛でてあげます。
ほんと、私のご主人様は愛情に飢えていらっしゃる。

「あなたのエリザさんがたっぷり愛情注いであげますからね」

そのままご主人様が起きるまで私はご主人様を撫で続けました。
お昼寝は起きるまでがお昼寝です。


* * *


この日は特にイベントごともない普通の日でした。
お昼寝から起きたご主人様は、慌てたように残していたお仕事を片付けようと執務に戻りました。
私はそれを手伝ってそのあと一緒にお夕飯を作ったりしました。
そのあと一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで眠ることになりました。

ただそれだけの日でした。

次の日からご主人様が少しだけ、働かなくなっただけの、普通の日でした。




「私を愛でる時間を増やしていいと思うんですよ!」
「そうだね、いっぱい撫でてあげるね」
「やっぱりペット扱いですか!仕方がないですねご主人様は!むふー!」
16/01/27 22:50更新 / うぃすきー

■作者メッセージ
テンションそのものは高いですけどエリザさんの内面はとても穏やかなのです。

書けば書くほど良妻すぎてびびる。

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