読切小説
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生きているだけで褒めてくれる僕の生きたお人形
ふと僕は目を覚ました、どうやら…もう朝のようで陽の光が部屋から差し込んでいた


「あら♪目が覚めたのね、おはよう…ちゃんと起きれてえらい子ね♪よしよし♪」


僕が目を覚ますと、ひょっこりと目の前に現れた小さな女の子がベッドの上の僕の頭をわしゃわしゃと撫でる


「ちゃんと毎日決まった時間に起きるなんて、なかなか出来ることじゃありませんのよ♪すごい子ね、褒めてあげる♪」


頭を撫でる彼女、その彼女は普通の女の子よりも小さくまるで人形のようだった


それもそのはずだ、だって彼女は正真正銘「人形」だから


最も、ただの人形ではなく彼女は生きている…所謂リビングドールと言われる存在だ


「あらあら、朝の挨拶ですの?ちゃんと挨拶まで出来るなんて、素晴らしいですわ♪えらいえらい♪」


僕が何かする毎に、彼女はソレを褒めちぎる…僕はそれを受けて気恥ずかしくなりすぐ側の彼女の身体に顔を埋めるようにして抱きしめた


「きゃんっ♪もぉ、恥ずかしがり屋さんなんですから…ふふっ、でもちゃんと恥ずかしがれてえらいですわ♪ちゃんと私のこと、私の思いが伝わっているってことですものね…よしよし、あなたはなんて可愛らしい子なんでしょう♪」


その恥ずかしがるのでさえ、彼女には褒める要因になってしまう…彼女は僕が生きているだけで褒めてくれるのだ。


僕のことを否定することなんてなく、なんでも優しく受け入れてくれる…そんな彼女との生活がもう何日も、何十日も続いている。


外に出ることもなく、彼女とずっと二人きりで愛でられて愛されて、褒められ続ける生活だ


なんで僕がそんな生活を送るようになったのか…それは僕が彼女と出会ったあの日のことだった。





僕が彼女に出会ったのはもうどれくらい前だっただろう、その頃の僕はまだ人間社会の柵に揉まれながら精神をすり減らしていた


毎日同じような、遅くまで上司の罵詈雑言に心を壊されながら押し付けられた仕事をただこなしていくだけ…いくらこなそうが仕事は雪崩のように流れてきて、会社に泊まらない日が珍しかったものだ


そんなある日、たまたま会社から早く退勤出来た(といっても、0時前で終電ギリギリだったが)ので僕は電車に乗り家に帰ろうと…しなかった


その時にはもう僕の精神は壊れていたのだろう、僕は家に帰ることなく…電車での行き先は全く違う人里離れた山奥の駅だ


決して山奥で自殺をしよう、なんて考えていたわけじゃなかった…と思う、あの時は頭がどうにかしていたのであまり覚えていないけど


そうして駅に降りて僕はもうフラフラと山の中を彷徨い始めた、頼りになる光は何もなくて暗い暗い闇をただひたすらに歩いていた


そこに何があるのか、なんて分からなかったけど…何故かその足に迷いはなくどんどんと深く山の中を進んでいく


そうしてどのくらい歩いたのか…気がついた時には僕の目の前には大きな館があった、廃墟…というわけではないみたいで窓からは明かりが点いているのが分かった


なんで、僕はこんなところに来たのだろう?そんな疑問が頭を過ぎったが、僕の身体はその館へと進んでいく


そしてその館の大きな門は僕が触れる前に音を立てながら、僕をその館へと歓迎するかのように開いた


中に入ると、その中は豪華…というか何というか、洋風な内装の美術館みたいな感じだ、石の彫刻とか高価そうな壺が置いてあったりする


「あら…こんな時間に、お客様ですの?」


僕が周りを見渡していると、鈴の音のような声が僕の耳に届いた…この館の主だろう。僕は今、完全に不法侵入者だが…何故か焦りや戸惑いはなかった


「こんばんわ、こんな神様も眠るような夜更けに何か御用かしら」


僕が声のする方へ目を向けると、僕のいる玄関の広間からすぐ前にある大きな階段の上から女の子が見下ろしていた


ふわりとしたウェーブのかかったブロンドの髪、透き通るガラス玉のような碧眼…そして可愛らしいリボンのついたフリルのロリータファッション、背丈は階段の手すりに届かないような…僕の身体の半分ほどしかない、幼い女の子だ


しかしその女の子は、見た目より遥かに成熟しているような妖艶な雰囲気を醸し出す…どこか浮世離れしたような少女だった


「あらあら…随分と疲れたお顔をしていらっしゃるのね、こんなに窶れて…」


いつの間にか階段の上にいた少女は僕の目の前に現れていた、そしてその小さな手を僕の顔にそっと触れるとじっと僕の顔を見つめてそういった


すぐ目の前にいる少女の顔に僕は目を奪われた、階段の上からでもはっきりと美しく分かった容姿だったが…至近距離で見てみるとその顔はあまりにも整い過ぎている、まるで人の手によって造られたような美術品のような完成された美しさだった


そんな顔をじっと見ていた僕に気付いたのだろう、彼女はくすりと笑うとヒラヒラとしたスカートをなびかせてふわりと僕の足元に着地した…どうやら彼女は僕のすぐ側の手すりに立っていたらしい


「あなた、どうしてここに来たのかしら…?雰囲気で分かるかもしれないけど、ここは普通では来られない場所ですのよ?ここにくる用事も特には無いのでしょう?」


彼女は僕にそう問いかけた、しかし僕だって何故こんな山の中に来たのかなんて分からなかった…何故か身体がこの場所を知っているかのように自然に来てしまっただけなのだ


「自然に…そう、きっと…波長が合ってしまったのかもしれないですわね。…ね、あなたがここに来るまでのこと教えてもらってもいいですの?ここじゃなんですわね、さぁ手をお取りになって。」


彼女はそう言って僕にその小さな手を差し伸べる、僕はその手を取ると視界がぐわんと回り…僕はいつの間にか玄関からテーブルや椅子などが置かれた部屋に座っていた


”ここは普通では来られない場所”…彼女はそう言った、つまりはこの館は普通の建物ではなく…彼女も普通の存在ではないということだろう


「さ…それじゃあお話になって?ここに来るまでに何があったのかを、全部私に聞かせて下さいまし」


すぐ隣にいた彼女の声で僕はハッと意識を戻した、僕の隣にはちょこんと彼女が座っていて、僕がさっき握った手にもう片方の手を重ねてくる


その小さな手の感触に心臓が激しい動悸に襲われる、僕はしどろもどろになりながらもここにくるまでの経緯を話した


「そう…でしたの」


僕の話を聞いた彼女の顔は浮いたようなものじゃなかった、むしろとても沈んだような思いつめているような表情で僕は何かまずいことを話したのではないかと不安になる


「…今までずっと酷いことをされて来たのですわね…心が壊れかかっていますわ。あなた…とても愛情に飢えていますわね、愛されたい、認められたい、褒められたい…私と一緒…」


彼女は僕の手を取るとその手をぎゅっと抱きしめてそういった、女の子特有のやわらかい感触に僕は顔が熱くなるのを感じた


しかしそんな僕とは正反対に今の彼女はとても冷たく感じる、僕のことなのにまるで自分のことのように僕のことを悲しんでくれている


「私もね、ずっと…ずっと…ひとりぼっちでしたのよ、この館と一緒に捨てられて…ずっと…ひとりぼっちでしたの。誰かに愛されたい、その気持ちは私よく分かりますのよ」


ぽたり、と僕の手に何かの雫が落ちた…それは彼女の涙だった、彼女は僕のことを思って涙まで流してくれているのだ


彼女は言った、自分と同じだと…僕の気持ちはよく分かると、あぁ…こんなに誰かに思われたことは今まであっただろうか?社会の荒波に揉まれ、精神まで壊れるような世界の中で…ここまで僕に優しくしてくれたのは彼女が初めてだった


「私たちは同じね…愛されたくて、愛されたくてたまらない寂しがりやさん。ねぇ…私なら、あなたのその心を満たせると思いますの、私なら…あなたを愛してあげられる、認めてあげられる、褒めてあげられる…」


僕はいつの間にか、彼女に抱きしめられていた…彼女のその小さな身体に、胸にぎゅっと抱きしめられて…暖かくてやわらかい感触がずっと孤独に冷え切っていた身体をじんわりと温めていく


ああ、人肌というのはこんなにも暖かくて心地よいものだっただろうか…僕は小さい頃に両親を亡くしてから人肌の暖かさと言うのを忘れてしまっていた


「私だけが、あなたを満足させてあげられる…」


彼女の声が、彼女の行為が、彼女の暖かさが、僕の心を満たしてくれている…ずっと寂しかった心を癒してくれている


「ねぇ…だから、あなたも私のことを愛して…?」


愛する、愛するに決まっている…こんな僕を救ってくれた、まるで母親のような彼女を愛さずにいられようか?


「あなたが望むのなら、何にだってなってあげますわ。娘にも、妹にも、奥さんにだって、姉や母親にだって…だから、私のことを愛して…ずっと、ここで二人で暮らしましょう?同じ者同士、二人で仲良く…もう外に出て辛い思いなんてしなくてもいいのよ、ずっとこの館の中で暮らしていきましょう?」


僕は耳元でそう甘く囁く彼女の胸の中で、ただうなづくことだけで彼女に返事をした


この日から、僕と彼女との生活は始まったんだ


今日はもう遅いからと、彼女は僕を浴場まで案内してくれて…身体を綺麗にしたあとで寝室まで行き、二人で大きなベッドの中に入った


時折彼女と話した会話の中で、彼女が自分のことについて話してくれた


「私はね、人間じゃないの…気付いていたかしら?ふふっ、驚かないのね…いい子よ…♪私は昔に造られたお人形なの、今からもう…100年以上前かしらね」


そう、彼女の正体は人形なのだとか…確かに人の手によって造られた美術品のような美しさは、そう言われると納得できる


「昔、私はこの館の人のお人形だったのですけど…その人はこんな山奥の館を捨てて、都会に出て行ってしまったわ…私は連れていってもらえなかった、あの頃の私はただのお人形でしたし…あの人はただのインテリアとしてしか、私を見ていませんでしたから…」


全くありえない話である、わざわざこんな立派な館を捨てて…都会に出て行ったきりだなんて、この館を軽々しく捨てれるような、そんな大金持ち想像つかないけど…


「私は愛されなかった、だから捨てられてしまいましたの…もっと愛されたかった、捨てられたくなかった…そんなことを強く思っていたら、私はいつの間にかこのようになっていましたの。生きた人形、リビングドールという存在ですのよ」


ずっと彼女は捨てられてからひとりぼっちだったんだ、100年以上も…そんなの想像するだけでゾッとする、僕だったらまともな精神じゃいられなさそうだ


「ご、ごめんなさい…寝る前のお話にしては、つまらなかったですわね…もう昔の話ですわ、今はもう私…一人じゃありませんから♪」


そういって微笑む彼女、とても強いなと思った…彼女に比べたら僕なんてとてもちっぽけに感じられて…


「こぉら、今あなた…自分なんて、とかマイナスなこと考えたでしょう?謙虚や身を弁えることは美徳ですけど、自分を追い詰めるのはいけませんことよ」


そんな僕を見透かした彼女に叱られてしまった、今まで理不尽に怒鳴られたりはしたけれど…叱られるなんて、初めてだ


あぁ、自分のために叱られることはこんなにも理不尽な怒りとは違うのか…僕を思ってくれている彼女の気持ちが伝わってきて、あぁなんだか泣きそうだ


「あ、あらあら?な、泣いていますの!?ご、ごめんなさい…強く言いすぎてしまったかしら?よしよし、怒ったわけじゃありませんのよ!」


どうやら本当に泣いていたらしい、彼女が慌てて僕をあやすように撫でる…僕は叱られたことが嬉しかったから、涙が出てしまったと彼女に伝えた


「う、嬉し涙…?よ、よかったですわ…そう、ちゃんと叱ってくれる人もいなかったのですわね…大丈夫、これからは私があなたのすべてを面倒見てあげるから…♪あなたは安心して、ありのままの自分でいていいのよ♪」


ホッとした様子で僕を抱きしめる彼女、どうやら彼女は僕のことをとことんまで面倒見てくれるつもりらしい


「…って、おしゃべりばかりしちゃって全然眠れませんわね…いい加減夜も遅いですし、おねんねしましょうね…」


僕のことを胸にぎゅっと抱きしめて、お腹をポンポンとしてくれる…するととても心が落ち着いてすぐに眠気が襲ってくる


「ふふ…目がとろーんってしてきましたわね、おねむですのね…よしよし、ちゃんとおねんねできてえらいですわね…♪子守唄でも歌って差し上げましょうか…♪」


耳元に優しい声で囁かれて頭の中が蕩けていく、彼女の胸の中で僕のすべてがドロドロに融かされていく


「よしよし…あなたはとてもいい子よ、優しくて…立派で…素敵な子よ…だから安心して眠りなさい…ここにはもう、あなたを否定する存在はいないの…ここにいるのは私だけだから…♪」


あぁ…こんなに安心して眠ることができる日がくるなんて、今までは毎日怯えながら夜を過ごしていたと言うのに…


出会ってたった数時間だというのに…彼女にどれだけ救われたのだろうか?


ありがとう、なんていくら言っても足りない…彼女も僕と同じだと言ってた、だったら僕のできることは…彼女を精一杯愛するだけ、全てを彼女に捧げよう…


「…寝ちゃいましたね、ふふ…こんなに安心しきっちゃって…♪よしよし…愛おしい子、私がずっと側にいてあげるからね…」





目が醒めるとそこには目を細めてにこーっと満面の笑みで肘をつきこちらを見つめている彼女の顔がすぐ側にあった


「あらあら、ちゃんと自分で起きれましたのね…えらいですわ♪」


そして起きてすぐに僕は彼女に褒められたのだった


「でも、ちょっと残念ですわ…せっかく可愛らしい寝顔を眺めていたのですけど…」


彼女はそういってベッドに腰掛けると僕のことを優しく撫でる、ちょっと恥ずかしくなって僕は顔を隠すように彼女の身体に顔をうずめた


とても人形とは思えない柔らかな人肌の感触と、ふんわりと花のようないい匂いが鼻腔をくすぐる…心地よくてこのまま寝てしまいそうになる


「あらあら…あまえんぼさん♪いいのですわよ、私にたくさん甘えて…♪よしよし、いーっぱい甘えられていい子ですわね♪」


そんな僕の羞恥を知ってか知らないか、彼女は僕のことをたくさん褒めちぎるのだ…こんなに褒められることは初めてで、どんな反応をしていいか分からなくなる


「まぁまぁ♪お顔真っ赤にしちゃって、照れちゃってますの?ほぉら、隠してないでその可愛らしいお顔を見せて?」





彼女は僕の顔を両手で持ち上げて、お互いに見つめ合う…彼女のガラス玉のような碧眼に吸い込まれてしまいそうだ


「本当に可愛らしい子…ちゅっ♪」


急に僕の唇をやわらかい何かに吸われる感触がした、それが彼女の唇だと言うのに気付いたのは僕の口から空気が無くなり息苦しくなってからだった


「んちゅっ…♪じゅる…ふふっ、あなたの唇…つい奪っちゃいましたわ♪だってこんなに愛おしいのですもの…♪」


彼女が僕の口から唇を離す、ツー…っと唾液が糸を引き彼女の口元を濡らした


唾液で濡れた彼女の唇に僕は街灯に誘われる虫のように、今度は僕の方から彼女の唇を奪った


「んんっ♪ちぅ…っ、じゅぅっ♪ふふ、いい子ね…ちゃんと私にちゅ〜っ♪ってできましたわね♪えらいですわ、ほら…もっと、も〜っと私を求めてくださいまし♪」


彼女の言われるがままに、僕は彼女のことを強く求めようと彼女をベッドの中へと押し倒すように引き込んだ


「あらあら…♪こんな小さな私を組み敷いて、これから一体何をされちゃうのかしら♪ふふっ、いいのですわよ…私には何をしても、あなたの求めることを何でも受け入れてあげますわ…♪」


2倍ほどある体格差の僕に押し倒されているというのに、彼女は余裕の表情で僕が何をしようとしても受け入れようとしてくれる


そんな彼女に僕は我慢出来ずに…その彼女の幼い身体を貪ろうとして…


ぐぅ〜っと、僕のお腹が空腹の知らせを鳴らした。


「…あらあら、そういえばまだご飯も食べていませんでしたわね。続きはご飯食べてからにしましょうか♪」


確かに、僕は昨日の夜も何も食べていなかった…一度分かってしまうと物凄い空腹感に見舞われて、さっきの獣のような性欲は掻き消されてしまった


「では少しご飯作ってきますから、それまでいい子にここで待っていてくださいね…ご飯が出来たらこちらに迎えに来ますから」


そういってベッドからスルリと抜け出した彼女は、僕の頭をそっと撫でて子供に言い聞かせるようにそういうと部屋の扉から出ていった


彼女が居なくなった部屋の中は静寂に包まれた、僕はその部屋をぐるりと見渡してみる…しかしこれといって興味を唆るものはなくて、ゴロンとベッドに寝転ぶ


ベッドからは仄かに彼女の残り香があり、それに顔を埋めて感じていると…無性に彼女が側にいないことが気になってしまい、気持ちが落ち着かない


別に少し席を外しているだけなのに、何故だか物凄く心細くて…彼女の声、顔…存在が恋しくなってきて…


あぁ、彼女に会いたい…彼女の側にいたい、あの暖かさをずっと感じていたい…そんな気持ちが僕の中で溢れ出して、僕はフラフラと彼女が出ていった扉から彼女を探しに出て行く


部屋から出ると、長い廊下が続いていて…いくつも扉があり、彼女がどこにいるのか分からない


しかし僕はフラフラと彼女を探し求めこの館の中を徘徊する、この館の間取りについて全く知らない僕が迷うのはある意味必然だった


気がつけば僕は同じような廊下をぐるぐると回っていた、もともと同じような内装の廊下で目印も特になくどの扉に入ろうとしても何もない空き部屋だったり鍵が掛かっていたりして…元の部屋にすら戻ることが出来なくなっていた


あぁ…なぜ僕は彼女の言いつけ通りに待っていられなかったのだろう、きっと彼女は僕が勝手に出歩くと迷うだろうと思ってちゃんと待つように言ってくれたのだろうに…


まったく見知らぬ館の中、僕はすっかり恐怖に呑まれてしまっていた…その場で蹲り頭を抱えて僕は情けなく彼女の名を呼んだ


「はぁい♪お呼びになりまして?」


すると蹲った僕のすぐ側から待ち焦がれた彼女の声がした、僕はハッと顔を上げるとそこには僕のことを優しい微笑みで見下ろす彼女の姿があった


僕は彼女を見るなり、その彼女の小さな身体に縋り付くように抱きついた


「まったく、ようやく見つけましたわよ…お部屋に戻ったら居ないんですもの。…よかった、心配したんですのよ」


ごめんなさい、ごめんなさいと僕は彼女の服を涙で濡らし嗚咽を漏らしながら謝る…彼女の言いつけを守らなかった罪の意識と彼女に会えた安心感で僕は情けなくも号泣してしまう


「あらあら…そんなに謝らなくても大丈夫ですのよ、怒っているわけじゃありませんからね…ともかく無事でよかったですわ」


そういって彼女は僕を優しく抱きしめてくれる、言いつけを守らなかった僕を彼女は怒ってないのだろうか?


「あら、怒るだなんてとんでもないですわ!…私に会いたくて会いたくて、つい私を探しに行ってしまった…それほどまでに私を求める気持ちを、どうして怒れましょうか?」


彼女はにっこりを微笑むと僕の目尻をハンカチで拭いてくれる、泣き止むようにと背中をさすって落ち着かせてくれる


「それに…自分から行動に移せるなんて、とてもえらいことですのよ♪ちゃんと一人で物事を考えられる、立派な証拠ですわ♪今回はたまたま、悪い方向に行ってしまっただけですの。だから、ほら…泣き止んで下さいまし♪せっかくのカッコいいお顔が台無しですわ♪」


こんなことになっても、彼女は僕のことを褒めてくれるのか…彼女のその底なしの優しさはいくら僕が失敗しようとも、全部受け入れてくれるのだろう


「それに…謝るのは私ですわね、見知らぬ部屋に一人きりだなんて寂しいに決まっていますわよね。一人きりの寂しさはよく分かっていたつもりなのですけど…こうなってしまったのは、私のせいですわ」


それどころか、彼女は自分が悪いと謝罪までしてくる…どこからどう見ても僕が悪いというのに


「これからはちゃんと、どこに行く時も一緒にいましょう?ほら、離れないように手を繋いで…ご飯の準備、もう出来ていましてよ♪」


僕は彼女の差し出した手を握る、すると最初部屋に来た時のようにぐわんと視界が回り…目の前には料理が乗せられた大きなテーブルのある部屋に来ていた


「そういえば説明していませんでしたわね、この館は私のように永い時の中で普通とは違うものに変わっていますの。ですから、私が行きたいと思った部屋へと連れて行ってくれるのですわ」


僕が惚けていると彼女が説明をしてくれる、この館は彼女の意思通りの部屋へと瞬時に移動してくれるらしい


「さぁさ、せっかくですし暖かいうちにいただきましょう?腕によりをかけましたのよ♪」


そういって彼女は椅子を引いて僕を座らせてくれる、そしてその隣にちょこんと彼女も座った


テーブルの上には豪華な食事が並んでいる、出ていってからそんなに時間が経って無かったというのにこれほどまでの料理を作ってくれたらしい


「さ、あ〜ん♪ってして下さいまし♪私が食べさせて差し上げますわ♪」


彼女はスプーンで料理を掬うと僕の口元に寄せた、彼女の前にしかフォークなどの食器が無いところをみると僕は彼女の給仕を受けるしか無いらしい


あーん、と口を開けて彼女が差し出す料理を口に含む…今まで食べたことない、味わい深く舌が踊り出すような美味しさでびっくりした


そもそも人の手料理どころか、まともな食事というの自体が久しぶりで…今までは栄養だけ取れるゼリーなどでしかしていなかったから、あまりの美味しさにすぐに次の料理を催促する


「まぁまぁ!お口に合ったようでなによりですわ、いっぱい作りましたからたくさん食べて下さいまし♪はい、あ〜ん♪」


そんな僕を見て彼女は輝く笑顔を浮かべて嬉しそうに給仕してくれる、テーブルいっぱいにあった料理はあっという間に僕の胃袋に収まってしまった


「はい♪お粗末様でしたわ♪全部食べちゃうなんて凄いですわ、好き嫌いしないで全部食べるなんて中々できることじゃありませんのよ♪よしよし、えらいえらいですわ♪」


完食したことで彼女は僕をまた褒めちぎってくれる、食事の時に気付いたけど…彼女はあまり食事を取っていなかった、僕の合間に二口くらいしか食べていなかったはずだ


「え、私はあまり食べないのか…ですか?私はリビングドール、魔物は本来こういった食事はしなくても大丈夫ですのよ♪それに、美味しそうに食べるあなたの姿を見て私はお腹いっぱいですの♪」


僕が聞くと、彼女はそういって微笑んだ…魔物は食事を摂らなくても大丈夫らしい、自分は必要無いのにあれだけの料理を作れるなんてすごいと思った


「さぁさ、ご飯も食べて元気いっぱいですか?お腹いっぱいでまた一休みなさってもよろしくてよ♪」


彼女は食べ終えた食器を片付けると僕にそう聞いた、食欲が満たされた僕は元気に溢れていて…先ほど掻き消えたはずの性欲が、また湧き出してくる


「ふふ、そうですわね…次は私が食べられちゃいますのね…♪じゃあ、また寝室に行きましょうか…♪」


妖艶な笑みを浮かべてそういう彼女の手を取って僕はまた彼女と寝室へと戻った…そうして、今度は彼女が僕のことをベッドへと押し倒した


「あら、これじゃ食べるのは私でしょうか?ふふ、まぁ細かいことは気にしないで…まぁまぁ貴方のココはもう準備万端ですわね♪」


そうして僕は…彼女の小さな身体に溺れた、心を満たすかのように、寂しさを埋め合うようにその身体に何度も何度も溺れた


彼女のその小さな身体から溢れ出る包容力に、母性に、僕はただ彼女に甘え溺れることしか出来なかった


僕が体力の限界を迎えて、事が済んだ時にはもう辺りは日が傾いていた…僕と彼女はそのままベッドの中で倦怠感に身を任せて横になっていた


彼女は行為中もどこか余裕のある感じで、今もヘトヘトな僕に合わせてくれているのだろう…いくら人じゃないと言っても驚きだ


「い〜っぱい頑張れましたわね…疲れたでしょう?無理しちゃいけませんわ、ほら…ちゃんと休んで下さいね…♪」


今はベッドの中で、彼女に抱かれるように身を寄せて彼女の身体の暖かさを感じながらウトウトをしている


「あらあら…眠いですか?ふふ…あんなにいっぱい頑張りましたからね…♪私の中にいっぱい出してくれて…♪えらいえらい、ですわ…♪」


彼女は僕を抱きしめながら、えらいえらいと褒めて毛づくろいするように頭を撫でて僕の疲れを癒してくれる


彼女に褒められると…彼女に触れられると、僕の心が満ちていく…これからずっと、そんな生活が待っているのだ


彼女に愛され、褒められ続ける…甘えて…甘やかされていくそんな日々がずっと…


昔の嫌なことなんて、もう心には何も残っていなかった…そうしていつの間にか僕は彼女の胸の中で眠っていた。


「寝ちゃいましたね…ふふ、こんなに私を愛してくれるなんて…なんて私は幸せなのかしら…♪貴方のこと、絶対に離したりしませんから…これからずっと、貴方のことを愛してあげますから…♪おやすみなさい…私の愛おしい子…♪」










17/07/03 02:00更新 / ミドリマメ

■作者メッセージ
ドーモ、ミドリマメです。こんなリビングドールちゃんに甘やかされたいですね…
今回は普通のリビングドールちゃんを書きました(大嘘)
やっぱりどうしてもリビングドールちゃんはこんな感じになるんだよなぁ…

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